重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
雄英高校にマスコミが侵入してから少し経ち、午後の授業でレスキュー訓練をすることになった。
本当ならオールマイトが参加するのだが、あいにく到着が遅れているらしい。
平和の象徴は弱体化しているとはいえ、ヴィランに後れを取ることはない。
今のところは無理をしている様子もないので、その点については心配はしていないが教師として遅刻は色々駄目だと思った。
それはもとかく、コスチュームの着用は任意とのことだ。
正直に言えば、ニチアサ魔法少女のコスプレはしたくない。
だが特例制度ではヒーロー科の授業は補助金が出て、もし服が破れても無料で修繕してくれるのだ。
実家の負担を減らせるし、制服やジャージよりも丈夫である。
それらを天秤にかけて羞恥心と比べると、小っ恥ずかしいが選択の余地はないのだった。
そんな個人の感情はともかくとして、訓練場は校舎から離れている。
全員バスに乗っての移動とのことだ。
ちなみに緑谷君のコスチュームは、この間の戦闘訓練で破損してしまったのでジャージ姿である。
私は幸いなことに目立った傷はなく、オールマイトも屋内戦闘で力を抑えていたようだ。
衣服のダメージも開発者の想定の範囲内に収まったようで、見た目や趣味全開なのはともかく材質はしっかりしてるなと思った。
それはそれとして、私は長い席が縦一列になって互いに向かい合うタイプのバスに乗る。
訓練所を目指して移動するが、飯田君は座席が予定と違ってショックを受けているようだ。
けれど全体の雰囲気は明るいので、問題はない。
「私、思ったことは何でも言っちゃうの」
暇なので窓から流れる景色を見ていると、
「緑谷ちゃん」
「はっ、はいっ!
「
私は会話には混ざらないが、興味を惹かれて緑谷君に視線を向ける。
しかし、あんなに緊張していてちゃんと喋れるのだろうかと不安になる。
「貴方の個性、オールマイトに似てる」
「えっ!? あっ、そっ、そうかなぁ!? いやでもぉ、僕は、そのぉ!?」
私の知る限り、緑谷君はオールマイトに筋トレ指導を受けていた。
個性が増強系なのは似ているし、確かにと静かに頷く。
(他にも何かありそうだけど)
けれど、友人の秘密を探るつもりはない。
そもそもあまり興味もないし、私は外から眺めるだけの静観に徹する。
「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねーぞ。似て非なるアレだぜ」
「しっかし、増強型のシンプルな個性はいいよな!
派手で、できることが多い! 俺の硬化は対人じゃ強いけど、いかんせん地味なんだよなぁ」
彼は左腕を伸ばして、実際に硬化させて見せてくれた。
少し形状が変わっているので、個性の発動がわかりやすい。
「僕は、凄い格好良いと思うよ! プロにも十分通用する個性だよ!」
緑谷君に褒められて、切島君は嬉しそうだ。
「プロな。しかしヒーローもやっぱり、人気商売みたいなところあるぜ!」
目立つヒーローは良くテレビに出るので、彼の言うことも間違ってはいない。
「僕のネビルレーザーは、派手さも強さもプロ並み」
「でも、お腹壊しちゃうのは良くないね」
私も昔は疲労困憊で倒れることが多かったし、やはり皆も色々と大変なんだと思った。
「まあ、派手で強えって言ったら、やっぱっ!
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから、人気でなさそう」
今度は
爆豪君はキレ散らかしているものの、実際に行動に移したはしない。
その光景を外から眺めていた私と緑谷君は、珍しいものを見たとばかりに驚く。
爆豪君は小中学校ではクラスのボス的な存在で、皆が彼の顔色を伺うことはあってもイジられることはなかった。
正面から意見できるのは自分ぐらいだが、わざわざ話しかける気が起きないので基本的にはスルーである。
そんなことを考えていると、私に声がかかった。
「
「えっ? 何?」
爆豪君の話題沸騰中だったのに、
咄嗟に返事をすると、何故か皆は急に口を閉じて静かになる。
視線も一斉にこちらを向けられて、何が何だかわからない。
「派手さも強さもプロ以上ね」
確かに私は強いが、やれることには限度がある。
なのですぐに、否定の言葉を口に出す。
「そんなことない。プロヒーローには、私以上の人は大勢いる」
プロヒーローには自分以上に多芸な人は普通に居るし、取りあえず頭で考えながら皆にわかりやすく説明する。
「私は
爆豪君のように爆破もできないし、轟君のように凍らせられない。
だから、皆のほうがずっと凄い」
いくら重力を操れるとはいえ、万能ではない。
それに派手で強い者だけがヒーローでもない。
やる気や向上心に溢れた皆のほうが、自分よりも遥かに凄いヒーローなのだ。
そのことを口下手な私が一生懸命伝えると、
「斥流ちゃんって、根っからのヒーローね」
「やっぱ斥流は、昔から変わらねえなぁ!」
「なんと素晴らしい心がけですの!」
皆がそれぞれの意見を口にするが、今のは私なりの理想のヒーロー像を語っただけだ。
自分がなりたいわけではないし、一年A組の生徒を褒めたのに、何故か私が持ち上げられている。
どうにも変な方向にいってしまって頭を抱えていると、
「もう着くぞ。その辺にしとけ」
先生の一言により、バス内の空気が引き締まる。
内心ではナイスタイミングと思いつつ、私はこれから行うレスキュー訓練に向けて気持ちを切り替えるのだった。
停車したバスを降りると、スペースヒーローの13号先生が出迎えてくれた。
緑谷君が言うには、災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーローらしい。
さらに
そのまま彼か彼女かは良くわからないが、とにかく案内されて巨大なドーム型の施設に入る。
内部は外とは違った世界で、とても広々としていた。
何でも水難事故、土砂災害、火災、暴風等などとあらゆる事故や災害を想定して、13号先生が作った演習場とのことだ。
ただし略名がUSJなことから、ギリギリを攻めてる感が凄い。
そして私は耳が良いからか、相澤先生と13号先生の会話が聞こえてしまった。
オールマイトは通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったようで、今は仮眠室で休んでいる。
授業終了間際に顔を見せに来るらしく、体調は問題ないらしい。
取りあえず無理はしていないようで、私は静かに安堵の息を吐いた。
その後は13号先生から、自分たちの個性が簡単に人を殺せる力で、それを規制することで今の社会が成り立っている。
過去に行った試験や訓練からも理解できただろうし、今回の授業では各々の個性をどう使って人々を救出するのかを学んでいく。
私たちの力は人を傷つけるのではなく、助けるためにあるのだと簡単に説明された。
やがて、いよいよ授業が始まろうとしたその瞬間に、USJの照明が突然不安定になる。
さらに施設中央の噴水付近に突然黒い靄が立ち込め、そこから何かが溢れ出てきた。
「一塊になって動くな! 13号! 生徒を守れ!」
相澤先生は黒い靄に警戒し、皆も異常に気づいたのかそちらに顔を向ける。
私は視力が良いのではっきり見えたが、靄の向こうから多くの人々が湧き出していた。
「また入試ん時みたいに、もう始まってるぞパターン?」
切島君が目を凝らして、それを見つめて率直な気持ちを口にする。
皆も興味があるのか中心部に近づこう足を踏み出すと、相澤先生が戦闘用のゴーグルを装着して再度警告を発した。
「動くな! ……あれは! ヴィランだ!」
黒い靄から出てきた者の中には、私が過去に捕縛したヴィランも混ざっていた。
罪を償って刑務所から出てきたのか、それとも脱獄したのかは知らない。
だが雄英高校に不法侵入してきたので、相澤先生の言う通りで相手はヴィランなのだと納得する。
「はぁ、また捕まえないと」
あの程度なら、数を揃えても私の敵ではない。
しかし授業が妨害されると、単位修得に悪影響が出るので普通に困る。
さらに質はともかく数だけは多いので、面倒に感じた私は大きな溜息を吐いた。
「
「あの程度なら、問題はない」
相澤先生が緊張気味に声をかけてきたので、彼らを観察して率直な感想を口にする。
だがわざわざ雄英高校を襲撃したのだ。
向こうに奥の手や強敵が控えている可能性はあるのだが、自分の感覚が麻痺してるのか別に恐怖は感じなかった。
そして私たちだけでなく、向こうも色々と話しているようだ。
「13号に、イレイザーヘッドですか。
先日いただいた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここに居るはずなんですが」
常人よりも五感に優れた私は、彼らの会話を普通に聞き取れている。
黒い靄を纏ったヴィランの発声器官が何処にあるのかは謎だが、今気にすることではない。
「やはり先日のは、クソどもの仕業だったか」
相澤先生は、この間のセキュリティシステムを突破されたことを思い出したようだ。
犯人と思われる彼らに向けて、悪態をつく。
「何処だよ。せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ。
オールマイト、平和の象徴。いないなんてな。……子供を殺せば来るのかな?」
体のあちこちに手を付けたヴィランが、とんでもない発言をする。
相澤先生は気配が変わったのを感じ取ったのか、操縛布を展開して戦闘状態に入った。
「はぁ! ヴィラン! 馬鹿だろ!
ヒーローの学校に入り込んでくるなんて! アホすぎるぞ!」
脳筋の切島君にしては、真っ当な正論を口にする。
そして
「先生! 侵入者用センサーは!?」
「もちろんありますが」
けれど作動している様子はないので、明らかに妙である。
「現れたのはここだけか、学校全体か。
何にせよセンサーが反応しねえなら、向こうにそういう事ができる奴がいるってことだ」
私も轟君の分析が正しいと思うし、この場の皆も同意しているようだった。
「校舎と離れた隔離空間。そこにクラスが入る時間割。
馬鹿だがアホじゃねえ。これは何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」
轟君の発言を聞いた私は、彼らの会話をからヴィランの目的について推測する。
そして思ったことを、そのまま口に出す。
「ヴィランの目的はオールマイト。平和の象徴を殺すこと」
全員の注目されるが、気にせずにマイペースに続きを話していく。
「どういうことだ。斥流」
「ヴィランは、オールマイトがここに居ると知って襲撃してきた」
彼らの会話が聞こえたとは言わない。
相澤先生ならそれぐらいわかっているだろうし、現時点の推測を伝える。
「恐らく奴らの中に、オールマイトに対抗可能なヴィランがいる」
オールマイトを倒すのは、一筋縄ではいかない。
無策で突っ込んでくるとは思えず、何らかの隠し玉があるのは明らかだ。
なので私は噴水付近に集まっているヴィランを雑に指差して、警告を発する。
「一番ヤバそうなのは、脳みそ丸出しの大男。
次が体に手をいっぱいつけた奴で、最後は黒い霧のヴィラン。
あとは数合わせで、一年A組の皆でも勝てる」
「確かか?」
相澤先生の質問に、どう答えたものかと考えた。
しかし、これといった結論が出てこない。
「悠長に説明している時間もない。
敵戦力に関しては、私の直感」
現在の状況を自分なりに分析して、過去の経験や直感によって組み立てた予想だ。
外れる可能性もあるが、オールマイトがいるとわかって襲撃してきた。
なので自暴自棄でなければ、切り札を用意するのは当然と言える。
やがて相澤先生は結論を出し、大きな声で叫ぶ。
「……13号! 避難開始だ!」
13号先生や
けれど妨害している個性持ちが居る可能性が高く、そっちに望みは薄そうだ。
そして相澤先生は、迫ってくるヴィランの集団に体を向ける。
「先生は! 一人で戦うんですか!?
あの数じゃ! いくら個性を消すと言っても!
イレイザーヘッドの戦闘スタイルは、敵の個性を消してからの捕縛だ! 正面戦闘は!」
緑谷君が心配するのも、もっともだ。
相澤先生は正面から戦うタイプではなく、他のヒーローのサポートが主な役目である。
味方の数が多いほど真価を発揮するのだ。
しかし彼はゴーグル越しでもわかるほど、真面目な顔で私を見つめてくる。
「一芸だけじゃ、ヒーローは務まらん。
……任せたぞ。13号、斥流」
「ええ~!?」
そう言って相澤先生はヴィランの集団を迎え撃つために、勢い良く階段から飛び降りた。
ちなみに私はヒーローではなく、ただの一生徒だ。
担任もわかっているだろうが、思わず変な声が出てしまった。
(まあ言われなくても、皆の護衛ぐらいはするけど)
クラスメイトをヴィランから守るのに異論はない。
そして緑谷君の心配はともかく、イレイザーヘッドは奮闘していた。
次から次へと襲いかかってくる敵を、バッタバッタとなぎ倒している。
個性を消せない異形系との戦いも想定していたようで、華麗な立ち回りは流石はプロヒーローだ。
「緑谷君! 斥流さん! キミも早く避難を!」
その間に13号先生のあとを付いて、一年A組の生徒たちは出口に向かって走る。
途中で動きが止まっている私たちに気づき、飯田君が振り向いて大声で呼びかけた。
状況を分析していた緑谷君は、思い出したように慌てて追いかける。
けれど自分はその場に留まり、これからどう動くかと迷っていた。
(生徒がヴィランと戦う必要はないけど、相澤先生だけで勝てるとは思えない)
プロのヒーローが居るなら一般人が前に出る必要はないし、今までそうしてきた。
だが後方支援役のイレイザーヘッドが一人だけでは、いつまでも保つはずがない。
(むう、やむを得ない)
私は大きな溜息を吐くが、これから行うことも慣れたものである。
何にせよ、この期に及んでは迷っている暇はない。
だが相澤先生の元に駆けつけようと一歩踏み出した瞬間、USJの入口を塞ぐように突如として黒い靄が湧き出した。
それはやがて人の形を取り、私たちに向けて流暢に話しかけてくる。
「初めまして、我々はヴィラン連合。
僭越ながら、この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは。
平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
まさか本当に、オールマイトを殺す気だったとは思わなかった。
予想が的中した私だけでなく、黒い靄を前にして一年A組の生徒たちは驚き固まっていた。
「本来なら、ここにオールマイトがいらっしゃるはず。
ですが、何か変更があったのでしょう。
もっとも、それはと関係なく、私の役目は──」
13号先生が、ヴィランが話している間に攻撃を仕掛けようとした。
けれどその直前に爆豪君と切島君が飛び出し、黒い靄の男に襲いかかる。
凄まじい爆発と衝撃音、そして煙が辺りを覆って何も見えなくなってしまう。
「危ない危ない。そう、生徒といえど優秀な金の卵!」
「駄目だ! 退きなさい! 二人共!」
二人の生徒が射線上にいるため、13号先生が攻撃できないのだ。
それだけではなく、私も他の生徒に視界を遮られてしまう。
一番ヴィランに近く危険な場所に居る彼らを、緊急避難させることができなくなる。
「私の役目は! 貴方たちを散らして! なぶり殺す!」
ヴィランの姿さえ認識できれば、重力操作できる。
だが残念ながら、遮蔽物が多すぎた。
「さて、どうしよう」
突如として黒い霧が広範囲を覆うが、私は咄嗟に背後に落ちて難を逃れる。
一連の行動を冷静に観察し、流動体のヴィランと戦ったことを思い出す。
奴は攻撃を当ててもすぐに元通りになっていたが、オールマイトはペットボトルに詰めて封印していた。
同じ手が通用すれば良いけれど、あいにく今は奴を閉じ込められる容器は持っていない。
それに黒い霧は円形に広がっており、他の生徒を閉じ込めている。
迂闊に手を出せば自分も巻き込まれるし、中がどうなっているかもわからない。
飯田君が数人抱えて逃げられたことだけが救いだが、あまり考えている時間はなさそうだ。
そしてこの絶望的な状況を何とかできるのは、現時点では自分しかいない。
ならば四の五の言わずにやるしかないと気合を入れ、一段階の抑制を解除して急成長する。
黒霧のドームに捕らわれた生徒を急ぎ救出すべく、姿勢を正して呼吸を整えるのだった。