重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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雄英体育祭
雄英体育祭


 ヴィラン連合に雄英高校が襲撃されたことは、世間を揺るがすニュースとして大きく報道された。

 幸いなことに怪我人は多いが犯人以外はほぼ無傷だし、被害者は全員無事である。

 

 おかげで学校が閉鎖されることもなく、次の日も普通に登校することができた。

 

 だが一年A組の教室は、昨日の事件で大盛りあがりだ。

 いつものように自分の席についた私は真面目に授業の予習をしているが、クラスの皆は全国ニュースに映ったことが嬉しいようだった。

 

「しかし、どのチャンネルも結構でっかく扱ってたよな!」

「びっくりしたぜ!」

 

 上鳴電気(かみなりでんき)君や切島鋭児郎(きりしまえいじろう)君が嬉しそうに話している。

 その横で耳郎響香(じろうきょうか)さんが、息を吐いて口を開く。

 

「無理ないよ。プロヒーローを輩出するヒーロー科が襲われたんだから」

 

 続いて瀬呂範太(せろはんた)君が机に身を預け、溜息を吐いていた。

 

「あの時、先生たちが来なかったらどうなっていたか」

 

 確かにオールマイトや他の先生たちが助けに来なかったら、私と相澤先生はともかく一年A組の皆と13号先生は危険だった。

 自分は大勢を守れるほど強くはないし、やはり何人かが怪我をしていただろう。

 

「止めろよ! 瀬呂(せろ)ぉ! 考えただけでもちびっちまうだろぉ!」

 

 峰田実(みねだみのる)君が絶叫している。

 彼にとって、昨日の事件は余程恐ろしかったらしい。

 

「うっせえぞ! もっと静かにできねえのか!」

 

 勉強中だったのか、爆豪勝己(ばくごうかつき)君が峰田(みねだ)君に叱責する。

 

 今の発言で静かにはなったが、その後もオールマイトや私が凄かっただの何だのと盛り上がっていた。

 

 やがて飯田天哉(いいだてんや)君が朝のホームルームが始まるので席に着くようにと、委員長らしく指示を出す。

 するとタイミング良く教室の扉が開いて、相澤先生が姿を見せる。

 

「おはよう」

 

 寝袋状態でない普通の相澤先生だ。

 これまた普段通りに歩いて、教卓の前に立った。

 

「先生! 無事だったのですね!」

 

 飯田君が手を上げて、心配そうに声をかける。

 彼は私と先生が戦っているのを見ていないし、ヴィランを捕縛したあとは速やかに解散となった。

 様子がわからなかったし担任なので、彼が心配するのも当然と言える。

 

「俺の無事はどうでもいい。何よりまだ。戦いは終わってねえ」

 

 相澤先生の発言を受けて、教室内の空気が重くなる。

 私も、またヴィランが襲撃でも仕掛けてくるのかと身構えてしまう。

 

「雄英体育祭が迫ってる」

「「「クソ学校っぽいの来たーっ!!!」」」

 

 良い意味での肩透かしを食った。

 しかし、相変わらず一年A組のノリにはついて行けない。

 

 あまり喋らない私は、取りあえず何事もないようなので、一人静かに安堵するだった。

 

 

 

 ヴィランの襲撃を受けたばかりだが、体育祭を開催するらしい。

 雄英高校の危機管理体制は盤石だと、広く知らしめるのだ。

 

 警備は例年の五倍に強化するし、何より雄英高校の体育祭は最大のチャンスだ。

 ヴィラン程度で中止して良い行事ではない。

 

 ちなみに私は全く興味はなく、テレビで行われるヒーロー関係の番組は全然見ていなかった。

 

 なお説明された内容を簡単にまとめると、かつてはオリンピックというスポーツの祭典があった。

 規模が縮小して形骸化してしまい、その代わりに雄英体育祭が日本のビッグイベントになった。

 

 有名なプロヒーローもスカウト目的で見に来るので、卒業後はプロ事務所にサイドキックとして雇用されるのがセオリーだ。

 年に一回、計三回だけの大きなチャンスで、ヒーローを目指すなら絶対に外せないイベントなのだった。

 

 

 

 そんなこんなで午前の授業を終えて昼休みになり、皆は早くも気合十分であれこれ話していた。

 けれど私は、一人でのんびりと窓の外の景色を眺めながら考える。

 

(私はヒーローにならないし、体育祭は欠席しようかな)

 

 ヒーロー免許の修得を目指してはいるが、実際に就職するわけではない。

 履歴書に記載する資格の一つでしかなく、採用の足がかりになれば十分だ。

 

 あとは偶然事件や事故に遭遇した際に、個性を堂々と使えれば良い。

 けれど普通はヴィランの襲撃に巻き込まれることはないし、そっちは気にしなくてもいいだろう。

 

 しかし、麗日(うららか)さんはいつもと様子が違う。

 気合を入れすぎて、表情も色々とアレな状態になっている。

 

 理由を聞くと実家が経営の苦しい建設会社で、将来はヒーロー免許を取ってお金を稼ぎ、家族に楽をさせてあげたいらしい。

 素晴らしい心がけだとわかり、私も陰ながら応援することを伝えた。

 彼女はとても喜んでくれたので、こっちまで嬉しくなったのだった。

 

 

 

 ヴィランが雄英高校を襲撃から時間が過ぎて、いよいよ日本を代表するビッグイベントである体育祭が目前に迫ってくる。

 

 けれど私にとっては、進学に必要な単位修得とは関係ない。

 ヒーロー事務所のスカウトにも興味が無いため、モチベは低かった。

 

 なので今日もいつものように授業を終え、下校時間になったので席から立ち上がって下宿先に帰ろうとする。

 すると何故か、一年A組と繋がる廊下が生徒ごった返していた。

 

「なっ、なっ、何事だあああ!?

 

 麗日(うららか)さんが動転し過ぎて、変な叫び声をあげる。

 すぐに飯田(いいだ)君も反応するが、私は取りあえず人混みが引くまでは自分の席で待機だ。

 

「君たち! A組に何か用が──」

 

 状況がわからない以上は迂闊には動けないし、取りあえずはいつものように我関せずを貫く。

 

「何だぁ。出れねえじゃん! 何しに来たんだよぉ!」

 

 峰田君の発言が委員長のあとに続く。

 しかし爆豪君は、気にせずに彼の横を平然と通り抜けていった。

 

「敵情視察だよ。

 ヴィランの襲撃を、耐え抜いた連中だもんな」

 

 相変わらずツンツンしている爆豪君は、教室の前に集まっている大勢の生徒を見据えて足を止めた。

 

「そんなことしても意味ねーから。退けよ」

 

 下校時間なので帰りたいのだろうが、残念ながら人混みが引く気配はなかい。

 

 今の爆豪君は別に怒っているわけではなく、理性的である。

 けれど彼はあまり我慢強くないので、いつ爆発するかはわからない。

 

「噂のA組。どんなものかと見に来たが、随分と偉そうだな」

 

 彼の発言に反応したのか、廊下の人混みをかき分けて一人の生徒が前に進み出てきた。

 

「ヒーロー科に在籍する奴は、斥流(せきりゅう)さん以外、皆こんななのか?」

 

 何故そこで自分の名前が出てくるのが、良くわからない。

 しかし多分、いい意味で言ってくれるのだろう。

 

 爆豪君のストレスが一方的に溜まりそうであるが、彼は構わずに言葉を続ける。

 

「こういうのを見ちゃうと、幻滅するなぁ」

 

 そう言って彼は、一瞬だけこちらに視線を向ける。

 私は何処かで見た顔だなと思いつつ、何とか思い出そうを頭を悩ます。

 

「普通科とか他の科って、ヒーロー科を落ちたから入ったって奴、結構いるんだ。……知ってた?」

 

 私が小声でウンウン唸っている間にも、彼は話を続けていた。

 

「そんな俺らにも、学校はチャンスを残してくれている。

 体育祭のリザルトによっちゃぁ、ヒーロー科への編入も検討してくれるんだって」

 

 話半分に聞いていたが、そんな制度もあるのかと驚く。

 だが今のところは、自分とは縁がなさそうだと思った。

 

「その逆もまた、然りらしいよ」

 

 何にせよ体育祭の結果次第で、一年A組と普通科の入れ替えもある。

 クラスメイトは現実を直視させられ、否応なしに緊張感が高まった。

 

「少なくとも俺は、調子に乗ってると足元ごっそりすくっちゃうぞという。宣戦布告しに来たつもりだ」

 

 爆豪君とは違うが挑発的で、大胆不敵な生徒が現れたものだ。

 しかし、そこで私は彼のことをようやく思い出す。

 

「もしかして、入試で会った心操人使(しんそうひとし)君?」

「斥流さん、覚えていてくれたのか!」

 

 思い出したのはたった今なのだが、それでも彼は笑顔を浮かべている。

 

 どうやら残念ながらヒーロー科の試験に落ちてしまい、普通科に編入したらしい。

 今、再会を喜ぶのも違うような気がする。

 

 けれど基本的にマイペースで行動する私は、率直な言葉を口にする。

 

心操(しんそう)君、体育祭頑張って。応援してる」

「ありがとう。斥流さん。

 あの日の誓いを忘れずに、俺は必ずヒーローになるよ」

 

 あの日の誓いとは何ぞやと、思わず首を傾げた。

 けれど忘れているのを認めるのは恥ずかしいし、当人が聞いてこないなら別にいいかとスルーする。

 

 とにかく私も普通科に編入の可能性があり、油断して足をすくわれないよう気をつけたほうが良さそうだ。

 一年A組の中では飛び抜けているが、万が一もあるので最低限の活躍はしないといけない。

 

 そんなことを考えていると、またもや新しい挑戦者が現れた。

 

おうおう! 隣のB組の者だけどよぉ!

 ヴィランと戦ったって言うから、話聞こうと思ったんだがよぉ!

 えらく調子づいちゃってんな! おいっ!

 

 普通科の心操君も挑発的だが、新しく現れたB組の生徒も大胆不敵だった。

 

「あんまり吠えすぎてっと! 本番で恥ずかしいことになっぞ!」

 

 けれど声はでかいが、発言自体は割りとまともな部類だ。

 色々教えてくれるので、心操(しんそう)君と同じで彼も良い人なのだろう。

 

「無視か! てめえっ!」

 

 しかし爆豪君は彼の話を聞かずに、無視して帰ろうとしていた。

 それを切島君が慌てて止める。

 

「待てコラ爆豪! どうしてくれんだ!

 おめえのせいで、ヘイト集まりまくってんじゃねえか!」

 

 すると彼は足を止めて、私たちの方を振り向いた。

 

「関係ねえよ」

「はぁ!?」

「上にあがりゃ、関係ねえ!」

 

 爆豪君は真っ直ぐこっちを見つめてくる。

 けれど、その視線は友好的ではない。

 中学の頃に毎朝やっていた戦闘訓練と同じで、絶対にぶっ飛ばすと言わんばかりに睨みつけている。

 

 けれど、私は彼より強いので怖くはないものの、答えに少しだけ困った。

 

「ええとぉ」

 

 爆豪君に堂々と挑戦された以上、私も何か返事をしたほうが良いのかと思った。

 しかし彼はすぐに背を向けて、人混みをかき分けて遠ざかっていく。

 

「正々堂々! 勝負!」

 

 取りあえず彼の挑戦を受けて立つことを、私にしては大きな声で伝える。

 一年A組も同じで、上を目指すのも一理ありだと考えているようだ。

 

 何にせよこの発言から廊下の人集りは少しずつ数が減っていき、嵐は過ぎたようである。

 

 私はマイペースに帰宅の準備をして、家に帰ったらいつもの自主トレーニングに勤しむのだった。

 

 

 

 時は流れて、やがて雄英体育祭当日になった。

 頻繁ではないがたまに孤児院に連絡すると、子供たちからお姉ちゃんの活躍を絶対録画するなどと嬉しそうな報告を受ける。

 まさか止めてくれとは言えないため、羞恥心に耐えつつにスルーさせてもらう。

 

 それと今年は、特に注目されているようだ。

 原因はビルボードチャートJPで、第二位のヒーローであるエンデヴァーの息子がいるからである。

 

 さらに二代目オールマイトと呼ばれる私が参加しているのもあるが、そっちは気にせずに空気のように扱ってくれると大変嬉しく思う。

 マスコミの取材を受けるつもりは一切ないし、早く本物の平和の象徴の後継者がデビューしてくれることを心底願っていた。

 

 何にせよ警備のために全国からプロヒーローを呼んだので、今回はヴィランの襲撃はないだろう。

 

 

 

 大会のルールだが、公平な競技のためヒーローコスチュームの着用は不可だ。

 選手は全員、学校指定のジャージを着用する。

 

 急成長を想定してサイズを大きめにしているのは良いが、あまり激しい運動をすると破損するため気をつけないといけない。

 そんなことを考えながら控室の椅子に座ってのんびりしていると、刻一刻と入場の時間が迫ってきた。

 

緑谷(みどりや)

(とどろき)君、何?」

 

 私が声が聞こえた方に視線を向けると、轟君が緑谷君に話しかけていた。

 彼も自分と同じで、あまり口数が多い方ではない。

 

 その珍しい光景に、自然と注目が集まる。

 

「客観的に見て、実力は俺のほうが上だと思う」

「えっ! ……うん」

 

 はっきりと実力不足を指摘されて戸惑ったものの、緑谷君の自己評価も轟君と同じだった。

 体を壊さずに個性を使えるようになったとはいえ、持続時間は短いし集中力が途切れれば即解除される。

 

 けれど(とどろき)君の氷は完全に制御されているし、大技を連発して息切れしない限りは、長時間戦い続けられる。

 

「けどお前、オールマイトと斥流に目をかけられてるだろ。

 別にそこ詮索するつもりはねえが、お前には勝つぞ」

 

 何故そこで自分の名前が出てくるのかは置いておいて、この場の全員が息を呑む。

 そして、まだ終わらずに轟君は私にも声をかけてくる。

 

「それと斥流(せきりゅう)。俺はお前にも勝ちたい」

「えっ!? あっ、うん。頑張って?」

「おう、頑張る」

 

 エンデヴァーとは縁があり、彼の家に行ったことはあった。

 豪華な食事を一家団欒でいただいたり、戦闘訓練に付き合ったこともある。

 

 だがそれでも頻繁に交流があるわけではないし、彼が何を考えているのか良くわからない。

 

(とは言ったけど、私は別に負けてもいい)

 

 ヒーロー科に残れるぐらいの順位さえ取れれば、勝ちを譲っても構わない。

 けれど普通科に落ちるラインは不明だ。

 念のために、上位をキープしておくべきだろう。

 

 あとは轟君の前で、それっぽくやーらーれーたーをすれば万事解決でハッピーエンドである。

 

 私が頭の中で色々考えていると、普段とは違う様子を疑問に思った切島(きりしま)君が轟君に近づいて声をかけた。

 

「おいおいおい! 急に喧嘩腰でどうした! 直前に止めろって!」

 

 確かに私との会話はともかく、緑谷君への態度は少し棘があったように思う。

 しかし切島(きりしま)君が轟君を止めるために肩に置いた手は、乱雑に払われる。

 

「仲良しごっこじゃねえんだ。何だって良いだろ」

 

 そのまま緑谷君に背を向けて去っていく。

 そんな彼に、私の数少ない友人は緊張しながら喋りかける。

 

「轟君が、何を思って僕に勝つって言ってるのかは、わかんないけど」

 

 顔を伏せながらも、緑谷君は自らの思いを口に出していく。

 

「そりゃ、キミのほうが上だよ。実力だって、大半の人に敵わないと思う。

 客観的に見ても

「緑谷も、そういうネガティブなこと言わないほうが──」

 

 切島君が慌てて慰めるが、あまり効果はないようだ。

 

「でも、皆! 他の科の人も! 本気でトップを狙ってるんだ!

 遅れをとるわけには! いかないんだ!」

 

 緑谷君が顔を上げると、何かに吹っ切れたような表情に変わっていた。

 正直私は、程々の成績を残せれば良いかなと考えて参加している。

 

 口には出していないし、皆も薄々気づいているだろうが若干肩身が狭い。

 どうにも居た堪れなくなったので、こっそり視線をそらした。

 

「僕も本気で取りにいく!」

「おう」

 

 轟君は、そんな緑谷君に何かを感じたようだ。

 相変わらず表情筋が仕事をしていないが、微かに熱のこもった返事を口にするのだった。

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