重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
いよいよ雄英体育祭が始まった。
プレゼントマイクが熱心に解説する中、私たちは堂々とした歩みで入場する。
何となく周りを見ると、一体どれだけ人が集まっているのかわからない程にごった返していて、止むことのない歓声を浴びていると凄まじい熱気で体験する。
やがて雄英高校の一年生の全生徒が、競技場の中央に集まった。
規則正しく整列すると、正面の舞台の上に十八禁ヒーローのミッドナイトが立つ。
彼女は大きな声で呼びかけてくる。
「選手! 宣誓!」
一部の人には好評ではあるが、何とも際どい格好だ。
私も抑制解除すると胸やお尻が少し窮屈だし、ヒーローコスチュームは高校生にもなって魔法少女のコスプレ衣装だ。
それでもミッドナイト先生よりはマシだし、羞恥心を捨てる気もない。
そして雄英高校体育祭がジャージ姿で良かったと、静かに息を吐く。
「選手代表! 一年A組!
本来ならば実技試験トップの爆豪君が、代表になるはずだった。
しかし総合すれば、特例で編入した私のほうが高かった。
さらに先生たちで話し合った結果、彼は本番で何を口走るかわからない。
ならばと、のんびりマイペースでも、爆豪君と比べれば言動が比較的まともな私が消去法で選ばれた。
まあそれはともかくとして、呼ばれたので前に出て舞台の階段を登る。
置かれているマイクの前で足を止めると、ミッドナイトが高さを調整してくれた。
小学生低学年の自分に合わせてくれたところで、深呼吸をしてから大きな声を出す。
「宣誓! 私たちは日頃の練習の成果を存分に発揮し、諦めずに最後まで戦い抜くことを誓います!」
普通科やサポート科なども一緒に競技を行うのだ。
ヒーローには興味がないこともあって、無難にまとめた。
誰からも文句は出ないことに安堵の息を吐き、大人数に見られたり全国放送に流れるといくら私でも緊張はする。
いつまでもこの場に留まっていると恥ずかしくて顔が赤くなってしまうため、ややぎこちないが元の場所に歩いて戻るのだった。
選手宣誓のあとは、ミッドナイトが説明を行う。
第一種目は障害物競走で、一年生の合計十一クラスの全員参加だ。
競技場の周囲四キロを走り、コースアウトしなければ何をしても構わない。
流石は雄英高校だけあって、何とも自由な競技である。
なので私を含めた全員がスタートの位置につく。
続いて三つ点灯しているランプが、一つずつ順番に消えていく。
「スタート!」
ミッドナイトの合図を受けて、全選手が一斉に走り出した。
競技場からの唯一の出口は狭い通路なので、大人数では渋滞してしまう。
「落ちろ!」
私は地面を蹴り、空に向かって落ちた。
そのまま軌道を修正して、横は狭いが縦には広く取られている通路に飛び込んだ。
「おおっと!
「
解説役は、プレゼントマイクと相澤先生のようだ。
私が通路に飛び込んだときに、彼らの声が聞こえてきた。
しかし、そう簡単にはいかないらしい。
「行かせねえ!」
個性を発動して、通路を丸ごと氷で封鎖した。
けれど私のほうが速く、間一髪で外に飛び出す。
「やはり、そう簡単には捕らえられねえか」
実はギリギリの回避であったが、今は轟君に伝える余裕がない。
彼を追い越して第一走者になった私は、落下の速度を上げすぎると圧縮された大気で燃え始めるので、頃合いを見て解除する。
そして地面に危なげなく両足をつけて、いつものようにマイペースで走り出す。
「燃えるのは困る」
今はヴィラン襲撃のように非常時ではないし、全国放送で孤児院の家族も見ている。
衣服が破損することは避けたいし、抑制を解除するにしても一段階までにしておきたかった。
しばらくは普通に走りながら、何となく後ろを振り向く。
すると狭い通路を他の生徒が続々と抜けてきており、第一走者である私を目指して追い上げてきている。
けれど、先程はかなり引き離したのだ。
簡単には追いつけない。
だが決して油断は禁物だと考えていると、再びプレゼントマイクの大音量が辺りに響き渡る。
「さあ! いきなり障害物だぁ! まずは手始めぇ!
第一関門! ロボインフェルノォ!」
前方の広場には入学試験で登場した巨大ロボットが、所狭しとひしめいていた。
今回は、倒しても別に点数が加算されるわけではない。
うかうかしていると、後続に追いつかれてしまう。
ここは無視して進むのが得策である。
周囲には私の他に誰も居らず、ターゲットは自分に集中していた。
簡単には通らせてくれそうになさそうだ。
「コインがあれば楽だった」
雄英体育祭は平等をきすため、コスチュームやサポートアイテムは持ち込めない。
丸腰で何とかするしかなく、後続が追いつく前に何とかしたい。
悩んでいる時間はあまりなさそうなので、頭に思い浮かんだ作戦を実行に移す。
「仕方ない」
周囲に被害が出るので、できればあまり使いたくはなかった。
けれど石を拾って投げるよりはマシだと判断し、巨大ロボが集まっている広場の重力を倍増させる。
途端に敵の動きが鈍くなり、いくつかは転倒したまま起き上がれなくなった。
効果範囲内に入ると自分も影響を受けるため、自分が走る箇所だけを消しながら一直線に駆け抜ける。
そして私の個性は、視界から外れたり認識できなくなれば強制的に解除される。
自分が通り過ぎたあとの巨大ロボットは、再起動したり転倒から起き上がった。
今度は追いついてきた後続組を標的に、行動を開始する。
「一年A組、斥流! 巨大ロボットの動きを封じて、悠々と通過ぁ!」
「重力操作は応用が利く個性だ。
状況に適した使用ができるかは、経験と素質によるが」
私はヒーローになる気はなくても、訓練や経験はそれなりに積んできた。
このぐらいの危機で狼狽えることなく、ロボット地帯を殆ど一直線に走り抜けた。
「流石は次期ナンバーワンヒーローに、もっとも近い生徒だぁ!」
私は足を止めずに走りながらプレゼントマイクと相澤先生の解説を聞いて、また変な噂が流れてると微妙な表情になる。
自分はビルボードチャートJPに参加してないし、プロヒーローでもない。
それにマスコミの取材は断固拒否で積極的な活動もしない自分が、市民の支持を得られるとは思えない。
絶対にないがもしデビューしても人気は出ないだろうから、ナンバーワンヒーローどころかランク外は確定だ。
私が心の中でツッコミを入れていると、ふと背後に気配を感じたので振り向く。
すると
「その個性、強すぎない!?」
「斥流が言っても説得力ねえぞ!」
轟君は私の声が聞こえたようで、ツッコミを入れながら凄い速さで駆けてくる。
小学校低学年の体格でも、プロのアスリート程のパワーは出せる。
しかし、個性持ちを相手にしたら勝てる気がしない。
「だったら、もう一度落ちる!」
私は再び跳躍と同時に個性を発動して、低空を移動したり地面に足をつけて走るのを繰り返す。
コースから離れすぎると失格になるし、服が燃えないように定期的に速度調整を行うのだ。
「第二関門は! 落ちればアウト! それが嫌なら這いずりな! ザッ! フォール!」
やがて第一走者である私の前に現れたのは、断崖絶壁の無数の島と、それを繋ぐ長いロープだった。
プレゼントマイクの解説を聞く限りでは、綱渡りで移動して、穴に落ちずに先に進めということだ。
ならば自分の個性と相性が良いので、何の問題もなかった。
「だが斥流! 空を飛んで、あっさり第二関門を突破あああぁ!!!」
「斥流にとって、地上の障害の殆どは意味がないからな」
落とし穴を回避した私は、再び地上に降りて走り出した。
そしてしばらく進んでから、後続が気になったので、後ろを振り返る。
かなり差が開いているが、皆は諦めずにちゃんと付いてきているようだ。
「緑谷君、頑張ってる」
ある程度は制御できるようになった増強系の個性を使って、島から島へと跳躍していた。
ロープを這いずっている選手を追い越している。
ちなみにサポート科は自分で作ったアイテムなら持ち込めるらしく、ベイビーがどうとか言いつつ、ひたすら目立って豪快に崖を飛び越えていた。
他の選手も続々と障害を越えているため、雄英体育祭に対する自分とは違う意気込みを感じる。
「さあ! 早くも最終関門! かくしてその実体はぁ! 一面地雷原!
地雷の位置はよく見ればわかるようになっているぜ! 目と足酷使しろぉ!」
私はプレゼントマイクの解説を聞きながら、個性を発動して空に向かって落ちる。
「ちなみに地雷は競技用で威力は大したことねえが!
って! やっぱり斥流には障害物の意味がねえ!!!」
地雷原の低空を滑るように落ちていき、通り抜けたらすぐに着地する。
これが最後らしいので、あとはゴールに向かってひた走るだけだ。
少しだけ後ろを振り向くと、緑谷君と轟君と爆豪君が殆ど団子になって私を追いかけてきていた。
「追いつかれる?」
スタート地点の競技場に通じるトンネルまで、あと少しだ。
けれど三人は足の引っ張り合いではなく、自分に勝つことを前提に動いている。
別に協力関係ではないが、互いに妨害し合ってもいない。
走りながら爆豪君が緑谷君と轟君に暴言を浴びせているものの、それでも争いにはなっていなかった。
「別に抜かれてもいいけど」
彼らの様子を確認した私は、目の前のゴールを再び視界に収める。
自分は全ての障害物を突破して、現状トップを独走している。
たとえ追い抜かれても、第二種目への参加権は手に入るだろう。
ヒーロー科から普通科に落とされると特例制度がなくなるので、それさえ回避できれば良い。
安全圏に入っているのは確実で、何も焦ることはない。
けれど今は、純粋に負けたくないと思ってしまった。
「変! 身!」
抑制を一段階解除した私は急成長し、サイズ大きめでダボダボだったジャージが少しだけ引き締まる。
輝く粒子を放出しながら地に足をしっかりつけて、最短距離を一直線に疾走する。
先程までは後続組が怒涛の追い上げで縮まっていた距離が、みるみる開いていく。
しかしまさか向上心や対抗心が、ここに来て表に出てくるとは思わなかった。
「皆に引っ張られた?」
雄英体育祭に挑む人たちは、私と違って一生懸命だ。
彼らに影響を受けたのかも知れないと考えながら、暗い通路を抜けて勢い良くドーム型の競技場に飛び込む。
さらに速度を上げて、ゴールのラインを越えた。
「堂々の一位は、やはりこの少女ォ!
一年A組!
ゴールラインを越えた私は、勢いが良すぎてなかなか止まれずに靴に少し負担をかけてしまった。
しかし大したダメージではないので、問題なしだ。
プレゼントマイクの解説と、溢れんばかりの歓声で迎えられる。
何にせよ突発的に芽生えた、負けたくないという思いは叶えられた。
第一種目を上位で突破できたので、普通科落ちを回避できて一安心である。
そして封印をかけ直し、元の小学生低学年の体格に戻った。
続いて飛び込んできた緑谷君、轟君、爆豪君に声をかける。
「お疲れ様」
「はぁ! はぁ! 追いつけなかったか!」
「速すぎだろ! 斥流!」
「やっぱり! 斥流さんは凄い!」
三者三様の答えを聞きながら、私は轟君をじっと見つめる。
「最初の凍結は危なかった。発動速度次第で、私も巻き込まれていた」
「そっ、そうか!」
ただし動きが大幅に制限される場所限定ではあるが、それは言わなくても良いだろう。
少しだけ嬉しそうな表情を浮かべる彼に、水を差す気はない。
なので私は言いたいことは口にしたので、次々とゴールしてくる生徒たちをのんびりと眺めていたのだった。