重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
第二種目の騎馬戦の相方だが、普通科の
彼は良い人なので、快く受けてくれて良かった。
障害物競走は普通に走ってゴールすれば良いだけだったが、今回は集団戦で周りの全てが敵で私を狙ってくる。
それに個人で戦うなら負けても構わないけれど、相方は勝利を望んでいる。
ならば返り討ちにするしかなく、やり過ぎると急遽ルール変更が行われそうだ。
何しろ年に一度のスカウトされる機会を、私がワンサイドゲームで潰すわけにはいかないのである。
そこで目標は、初期の一千万ポイントと彼の分を持ったままで、最後まで逃げ切ることだ。
足切りラインは抜けたと見ているので自分の心配はいらないが、とにかく勝つための作戦は既に考えてある。
あとは競技開始と同時に、実行に移すだけだ。
しかしここで、解説役の
「
「何故!?」
ちなみに私が考えた作戦は、競技終了まで空中に留まることだった。
そこなら他の選手の様子が良くわかるし、こちらのハチマキを奪う手段も大きく制限される。
相手の行動に対処しやすく、生存率も上がるのだ。
それに地上では私たちは関係なく、普通に騎馬戦が行われる。
きっと各選手の見せ場もあることだろう。
「今回の雄英体育祭で、一番注目されているのが斥流だ。
他の選手を同じ目線で競技してこそ、大いに盛り上がる」
「うう~!」
ようは観客やスカウトのニーズをガン無視するなである。
さらに私に挑戦しようと意気込んでいる選手たちも、同じ土俵に立つことさえできなければ、悔いを残してしまう。
相澤先生の言っていることもわからなくはない。
しかし、開始直前になって必勝の策を封じられたのは痛い。
「それと重力を操作して、相手を落馬させるのもな禁止な」
「はぁ、……了解」
もしもの場合に考えてた第二の策まで、ついでとばかりに封じられてしまった。
けれど一千万ポイントや突然のルール変更は、別にそこまで理不尽には感じなかった。
何しろ私とそれ以外の生徒の実力差はとても大きく、この二つの作戦のどちらかを行えばほぼ完封できてしまうのだ。
そして雄英体育祭は生徒に活躍の場を用意し、ヒーロー事務所へのスカウトや適性試験が行われる重要なイベントである。
ワンサイドゲームで盛り上がりに欠けたり、呆気なく勝負がついては審査にならない。
ならばここは、私が皆のために一肌脱ぐのも致し方なしだ。
そんなことを考えつつ、何故か動揺せずに落ち着いている
「ごめん。勝てるかどうか、わからない」
「でも、斥流さんは勝つ気なんだろ?」
「もちろん」
私も相方のために勝ちたいし、騎馬戦はわざと負けるつもりはない。
それに皆にも越えるべき壁になると発言した以上、情けない姿は見せられなかった。
「俺は斥流さんを信じるだけだ」
「ありがとう。
彼も勝利を諦めていない以上、私が敗北を受け入れるわけにはいかない。
呼吸を落ち着かせて気持ちを切り替え、一段階だけ抑制を解除しておく。
「変身!」
声を出したほうが、個性の制御やイメージがしっかりするのだ。
一時的に成長して煌めく粒子を放出する私に変わり、力加減に失敗しないように軽く柔軟体操を行う。
すると隣で同じように体をほぐしている
「しかし、
「私は重い」
私は見た目こそ小柄な女子だが、実際には百キロ以上ある。
超重力を完全に解除する気はないので、心操君が背負うのは無理だろう。
「わかってはいるが、何か悪い」
「平気。それに
体力には自信があるので、彼を背負って競技場を走り回っても問題なしだ。
「そう言う問題じゃないんだが。……っと、そろそろ時間だな」
心操君の言ったように、チーム決めは終了になった。
マイクで拡張された審判役のミッドナイトの声が、周囲に響き渡る。
「それじゃ、いよいよ始めるわよ!」
続いてイレイザーヘッドとプレゼントマイクが解説を引き継ぎ、私たちは騎馬戦の準備を行うのだった。
観客のテンションも、天井知らずに高まっている。
私はそんな中でものんびりマイペースに、よっこいしょと心操君を背負う。
「注目のチームイベ系! 作戦タイムを経て! フィールドに十三組の騎馬が並びだったぁ!」
「なかなか面白え組み合わせだな」
他のチームは皆、やる気十分なようだ。
向けられる視線から、こっちの一千万点を奪おうとしているのは間違いない。
「なるべく、負担がかからないように立ち回る。でも、あまり期待はしないで」
「全員に狙われてるんだ。仕方ないさ。
それに俺も鍛えているし、心配無用だ」
心操君がどのぐらい耐えられるのかは不明だが、要救助者を担いでいるよりはマシだ。
いざという時には、彼の個性を頼りたい。
だが手の内がバレたら弱いタイプなため、自分のために切り札を使わせるのは申し訳ない。
なるべくなら、次の種目まで温存させてあげたかった。
そんなことを考えていると、プレゼントマイクの大声が競技会場に響き渡る。
「さあ! 行くぜ! 残虐バトルロイヤル! カウントダウン!」
私は開始前に呼吸を整える。
十中八九で全ての選手が、心操君の額に巻かれている一千万点のハチマキを狙ってくるだろう。
「スタート!」
カウントがゼロになり、ミッドナイトが競技開始の合図を出した。
そして予想通り、選手全員が一斉に私たちを目指して殺到してくる。
「ポイント一千万の争奪戦だぁ!」
「斥流ちゃん! いただくよー!」
全ての騎馬が、口々に叫びながら突進してくる。
だがこのぐらいは、想定の範囲内である。
「逃げの一手!」
好き放題に暴れて、自分以外のチームを叩きのめすわけにはいかない。
彼らにも見せ場を与えなければいけないし、最後まで生き残ってもらうのがベストである。
なので私は両足に力を込めて、地面を勢い良く蹴った。
彼らの頭上を軽々と飛び越え、さらに心操君に負担をかけないように重力を操作してゆっくりと着地する。
だがここで何故か、両足が地面に沈み始めた。
「これは!」
「地面が泥に!?」
周囲を慌てて見回すと、一年B組の騎馬が一直線にこちらに走ってくる。
状況を見る限り、彼らの個性なのは間違いなさそうだ。
とにかく私は急ぎ脱出するために、自身の重力を逆転させて空を飛ぶ。
これは一時的な回避手段で、空中に留まるわけではない。
相澤先生は何も言わないので、きっとセーフである。
けれど人を背負ったままでは両手は使えないし、浮いていると踏ん張れない。
負担をかけずに空中を移動する以上は、どうしても動きが直線的になってしまう。
なのでその隙を狙い、
さらに緑谷君チームの
ハチマキを奪おうとしているのは間違いなく、私は彼らの個性を狙ってピンポイントで加重をかける。
目的は相手の落馬ではなく、攻撃の軌道を変えることだ。
かなり危なかったが回避して地面に向けて降下する。
審判は何も言わないので、どうやらセーフ判定のようだ。
「このまま逃げる!」
「おう! わかった!」
着地の直前に重力を逆転させて負荷を減らし、心操君の心身を労るのを忘れない。
そして先程のB組メンバーから遠ざかったからか、今度は足元は泥にならなかった。
けれど、まだ騎馬戦は始まったばかりだ。
決して油断はできない。
ちなみに戦況を見ると。最初は自分に殺到していたが、漁夫の利狙いでハチマキを取り合っているチームもあるようだ。
色々な戦略があるようで、どうにも一筋縄ではいきそうにない。
「さあっ! まだ開始から二分と経ってねえが! 早くも、混戦! 混戦ーっ!
一千万を狙わず! 二位から四位狙いってのも悪くねえ!」
プレゼントマイクが解説している間にもお構いなしに、私たちは複数の騎馬に囲まれていた。
やはり一千万ポイントは魅力的らしく、大勢が群がってくるのだ。
「
「問題ない!」
心操君が咄嗟に上半身を捻って回避する。
しかし、相手の攻撃が一回で済むわけがない。
他のグループも続々と集まってきているし、この場に留まるのは不味い。
ならばと私は再び両足に力を入れて跳躍し、長距離移動を試みる。
「爆豪君!?」
だが私たちが空中に飛び出した瞬間、待っていましたとばかりに爆発の反動を利用して爆豪君が突っ込んできた。
「斥流! ハチマキをいただくぜ!」
実際に付けているのは心操君なのだが、一千万は私のイメージが強いようだ。
だがそれはそれとして、彼に渡す予定はない。
お引取り願いたいが、私との戦闘経験は豊富である。
死角から接近されたことで、気づいたときには迎撃も回避も困難になってしまう。
「……ならば!」
自身の重力を操作することで、強引に姿勢を変える。
そして爆豪くんをめがけて、牽制の蹴りを放つ。
「くそがっ!」
しかし彼も、ただではやられない。
至近距離での爆破によって視界を塞ぐだけでなく、高速の蹴りによる衝撃波を軽減し、緊急回避を行った。
ちなみに選手を攻撃する目的での個性の使用は、今回の競技ではルール違反だ。
けれど双方が火力は抑えているし、こっちも爆風を受けて距離が遠のいた。
何の問題もないのだ。
おかげで右足には何の異常もなく、服も破れていない。
今回は引き分けということで、両者は離れた地面に向かって落ちて行く。
「ああー! 騎馬から離れたぞ! いいのか! アレっ!」
「テクニカルだからOKよ! 地面についてたら駄目だったけど!」
解説が抗議したが、審判が許可を出した。
流石は雄英体育祭だ。色んな意味で普通の騎馬戦とは違っている。
だが地上との距離が近くなって重力操作で落下の衝撃を緩和しようとしたとき、今度は緑谷君チームがジェットパックを使って急速接近してきた。
「ここしかない!」
手を伸ばしてきた彼らを叩き落とすことは簡単だ。
しかし、競技のルールに引っかかったら困る。
「
「わかった!」
こちらを掴む手に力が入ったことを確認したあと、急いで個性を発動する。
先程と同じ要領で自身の重力を操り、強引に軌道を変更したのだ。
「重力加速! 二倍!」
ただし、普通に重力を制御しただけでは避けきれない。
なので二倍の負荷をかける必要があったのだが、今は
加速は短時間に留め、緑谷君たちから逃れたらすぐに解除する。
「くっ! 追いつけない!」
何とか緑谷君たちのチームを振り切った私は、地上に降り立つ前に重力を逆転させて衝撃を緩和する。
危機一髪だったが、両足を地面につけて一息つく。
そして、思わぬ負担をかけてしまった
「大丈夫?」
「だっ、大丈夫だ! 問題ない!」
直接顔を見上げてないので表情はわからないが、すぐに返事を聞けたので問題はないと判断した。
しかし、またもや他の騎馬が集まってくる。
私は彼らから逃げるために、競技場を駆け回る。
一段階の制限解除をしているとはいえ、普通科の生徒を担いでいるので速度はあまり出せない。
時間が経過するごとに、解説だけでなく観客や報道陣も熱狂が高まっていく。
中心人物は、言わずと知れた私と心操君だ。
そして他の選手の攻めも苛烈になってきたことから、決着は近そうだと本能的に察するのだった。