重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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騎馬戦の決着

 競技場を逃げ回りながら周囲を観察するとB組がA組を挑発し、互いの点数の奪い合いが勃発していた。

 

 私としてはタゲが変わって逃げやすくなるので良いが、そう上手くいくはずもない。

 今は目の前に轟君チームが立ち塞がり、さらに残り時間が半分を切ったとプレゼントマイクが宣言する。

 

「いよいよ騎馬戦は後半戦に突入! 予想だにしないB組優勢のなかぁ!

 果たして、一千万ポイントは! 誰のものになるのかぁ!」

 

 正面に立つ轟君の表情を見る限り、本気で取りに来ていた。

 重力制御でバランスを崩して落馬させたり、空中に逃れて時間切れまで下りてこないのは禁止されている。

 

 ならばやはり、正面から迎え撃つのが得策だ。

 こうすれば私以外の生徒がスカウトの目に留まる可能性が高まるし、彼らも絶好の機会を逃したくないだろう。

 

「そろそろ、取るぞ!」

 

 堂々と宣言する轟君である。

 そして騎馬役のメンバーも、一歩も引く気はなさそうだ。

 

 私も相方の心操君を勝たせてあげたいし、覚悟を決めて呼吸を整えて心を落ち着かせる。

 

(空には逃げられないし、私から攻撃するのも駄目)

 

 私だけが縛りプレイを強要されている。

 しかし現実に実力差があるので、良い勝負を演出するには手加減も致し方なしだ。

 

「斥流さん! 残り時間が半分を切った!」

「了解! このまま逃げ切る!」

 

 心操(しんそう)君の言葉を聞いた私は、轟君たちの騎馬を回れ右して走り出す。

 一千万ポイントのハチマキは魅力的で常に狙われるし、誰が立ち塞がったとしてもやることは変わらない。

 

「しっかり防げよぉ! 無差別放電! 百三十万ボルトォッ!!!

 

 だがここで轟君の騎馬をしている上鳴電気(かみなりでんき)君が、大声で叫んだ。

 

「不味い!」

 

 私は咄嗟に、自身の重力を逆転させる。

 同時に上鳴電気(かみなりでんき)君の放電が、周囲一帯に広がった。

 

 地面に足をつけているチームが無差別に痺れ、動きが止まる。

 自分は咄嗟に体を浮かせて回避したので無事だが、まともに受ければ少しビリっとしただろう。

 

 ちなみに背負っている心操君は酷いことになっただろうけど、何とかなったので良しである。

 

「残り六分弱! あとには引かねえ! 悪いが我慢しろ!」

 

 大勢の足が止まったのを見計らった轟君が広範囲攻撃を行い、周囲のチームをまとめて氷漬けにした。

 一対一がお望みなのか、邪魔が入るのを嫌ったのかはわからない。

 

 だがついでに、他のチームのハチマキをちゃっかり奪っていく。

 

「関係ない! 逃げる!」

 

 あまり速度を出すと、背負っている心操君に負担がかかる。

 けれどモタモタしていては、飯田君を振り切れない。

 

 跳躍して距離を稼ぐことも考えたが、轟君たちは当然予想しているだろう。

 他チームの動きを封じて安全を確保した今、私の一挙手一投足に集中しているのがわかった。

 

(空中で無理な軌道修正はできない。氷漬けにされたら困る)

 

 今は心操君を背負っているので、あまり負荷をかけるわけにはいかない。

 なので彼らに追いつかれないよう、懸命に逃げ続ける。

 

 たまに履いている靴を蹴り飛ばし、ゲゲゲの妖怪のように自在に操って牽制して時間を稼ぐ。

 八百万(やおよろず)さんが創造した盾で弾かれても、一瞬でも動きを止められれば御の字だ。

 

「ああーっと! 斥流チーム! もうあとがなーい!」

 

 けれどプレゼントマイクの解説通りに、とうとう競技場の端まで追い詰められてしまう。

 

 しかも周りは、分厚い氷の壁で囲まれている。

 私なら問題なく飛び越えられるが、その隙に攻撃されるだろう。

 

「どうしたものか」

 

 蹴り壊せば通れるが、やはり隙ができてしまう。

 それに外に出れば、また多くのチームをやり合わなくてはいけない。

 一対一のほうが気楽といえば気楽であり、私が迷っているうちに飯田君が仲間に何かを喋りかけた。

 

「皆! 残り一分弱! このあと俺は使えなくなる! 頼んだぞ!」

「飯田!」

 

 飯田君の発言は、轟君も予想外だったようで驚いていた。

 何にせよ、いよいよ仕掛けてくるらしい。

 

「しっかり掴まっていろ! 取れよ! 轟君!」

 

 彼のマフラーから出る炎が、青色に変化する。

 外から見るだけで、明らかに個性の出力が上がった。

 

「トルクオーバー! レシプロバースト!

 

 今までよりも遥かに速く突っ込んできたが、私にはしっかり見えている。

 だが無理に回避した場合、心操君の負担がとんでもないことになってしまう。

 

 ならば、急ぎ別に手を打たないといけない。

 私は咄嗟に、すぐ近くの氷の壁を蹴り砕いた。

 

「借りるよ!」

 

 当然のように破壊され、無数の氷の欠片が辺りに散らばった。

 私はそれを重力操作で一つにまとめあげ、真四角の壁に姿を変える。

 

「これは! 氷の壁だと!?」

 

 目の前に勢い良く突き立てることで、私は飯田君たちから姿を隠す。

 たとえ轟君が氷をすぐに消しても、逃げる時間を稼ぐことはできる。

 

「読まれていたかっ! だが! まだだっ!

 

 結局大した足止めにならずに、氷の壁を迂回して轟君チームが突っ込んでくる。

 けれどほんの少しだけ動きを止めている間に、距離を稼ぐことができた。

 

 おかげで追いつかれる寸前に、レシプロバーストの効果時間が切れたようだ。

 

「こっ、これでも駄目か!」

「駄目ではない。惜しかった」

 

 黒い煙を出して足が止まった飯田君の健闘を、私は顔だけ向けて軽快に走りながら素直に称える。

 実際にあと少しで追いつかれていたし、ハチマキに触りかけていた。

 

「そろそろ時間だぁ! カウントダウン! スタート!」

 

 やがてプレゼントマイクが、騎馬戦の終了時間を告げる。

 

 だがその瞬間に氷の壁を突き破り、爆豪君と緑谷君のチームが乱入してきた。

 一瞬そちらに注意が向き、轟君たちも諦めずにやる気十分なので、私は再び身構える。

 

 しかし、無慈悲にそこで時間切れとなった。

 

タイムアーップ! 第二種目! 騎馬戦終了!」

 

 競技が終了し、爆豪君は肩透かしを食ったように地面に落下する。

 緑谷君も必死な表情で乱入してきたのに、無慈悲な時間切れで呆然としていた。

 

「斥流さん、地面におろしてくれ」

「うん」

 

 騎馬戦は終わったので、もう心操君を背負っている意味はない。

 私は言われるままに彼を下ろしたあと、いつものように超重力をかけ直してロリ体型に戻った。

 

 試合中は彼の表情を気にする余裕はなかったが、今は真っ青な顔をしていた。

 

「ええと、大丈夫?」

「すまん。……無理そうだ」

 

 外傷はないがとても苦しそうで、両手で口元を手で押さえている。

 それを見た私はすぐに察し、慌てて八百万(やおよろず)さんに向けて叫んだ。

 

八百万(やおよろず)さん! エチケット袋を出して!」

「えっ!? あっ、はい!」

 

 八百万さんは最初は私の顔を見て、次に隣の心操君に視線を向けてギョッとした。

 けれど、おかげですぐにエチケット袋を創造してくれた。

 

「できましたわ!」

「ありがとう!」

 

 取りに行く時間が惜しいので、重力操作で手元に引き寄せる。

 心操君に手渡すと、お礼を言ったり自分で使う余裕もないらしい。

 

 私はすぐに口の下で袋を広げた。

 

「心操君。無理をさせて、ごめん

「きっ、気にしないでくれ! 斥流さんのせいじゃ! うっぷ! おろろろっ!!!

 

 結果だけを見れば、一千万ポイントを守りきった堂々の一位である。

 けれど周囲の視線は嫉妬や妬みなどではなく、心操君への憐れみが大多数だった。

 

 しかし手加減したとはいえ、普通科の生徒がここまで付いてこれるのは素直に凄い。

 後半は流石に酔ってしまったが、試合終了まで脱落せずに耐え抜いたのだ。

 

 彼の気合と根性は、大したものである。

 やがて少しだけ落ち着いたようなので、心操君をリカバリーガールの元に連れて行くのだった。

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