重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
一千万ポイントを所持したまま騎馬戦を勝ち抜いた私は、上位十六名に選ばれて第三種目に進んだ。
一位は当然私だが、二位は轟君、三位は爆豪君、四位は緑谷君といった各チームが順次選ばれる仕組みである。
ちなみに心操君の三半規管が壊滅的なダメージを受けて嘔吐した以外は、他の人たちは大きな怪我もなかったのは良いことだろう。
このあとは一時間の昼休憩を挟んで、雄英体育祭は午後の部に続く。
私がいつもの食堂にいくと、非常に混雑していたが食事をするだけなら特に問題はなかった。
なお、午後は応援合戦のイベントがあると、
何処に需要があるかはわからないが
意外と好評だったが、少し悲しい。
ロリコンが多いのかなと思いはしたものの、気にせず第三種目へと進む。
次は十六名からなるトーナメント戦で、くじ引きによって組み合わせが決められていく。
私は第五試合に、
しばらく正面モニターを眺めていたが、客席に
様子を見る限り、昼休憩を経てすっかり体調が回復したようだ。
けれど念のために、一声かけておく。
「
「ああ、もう問題ない。心配をかけたな」
「そう、良かった」
彼をおぶって第二種目の騎馬戦を戦い抜いたのだ。
負担をかけすぎたせいで第三種目に参加できなかったらどうしようと、内心では少し不安だった。
けれど外から見ても問題はないようで、ホッと息を吐いた。
そのあとのことだが、選手たちが各々の対戦相手の情報を調べつつ、交流を持ったりと色々する。
さらに、レクリエーションの借り物競争を行っていた。
私も参加して普通に走ってゴールしたので、特筆すべきことは別にない。
それよりもヒーローのセメントスが即席の試合会場を作り終えた。
いよいよ第一試合が始まるのだ。
すっかりおなじみになった解説役のプレゼントマイクが席について、大声を張り上げる。
「オーディエンスども! 待ちに待った最終種目が、ついに始まるぜぇ!」
彼の告知に合わせるように、緑谷君と心操君が両側の通路から出て舞台に上がる。
「ルールは簡単! 相手を場外に落とすか! 行動不能にする!
あとは、まいったとか言わせても勝ちの、ガチンコだぁ!」
何とも単純明快でわかりやすいルールだ。
リカバリーガールが待機しているので、怪我をさせてもOKらしい。
しかしヒーローはヴィランを捕まえるのが役目なため、審判から見て命を奪いかねない行為はストップがかかる。
私は一年A組の選手が集まっている見学席から、のんびり様子を見ていた。
すると心操君が試合の前に、緑谷君に向けて何かを語りかける。
「まいった、か。これは心の強さを問われる戦い
強く思う将来があるなら、なりふり構ってちゃ駄目なんだ」
私は耳が良いので、集中すれば普通に聞こえる。
そして彼の個性を考えれば、戦いはもう始まっていると言っても過言ではなかった。
やがてプレゼントマイクが試合の開始を告げて、緑谷君はすぐに仕掛けずに様子見の構えを取る。
慎重なのは良いが、心操君にとってはそれは悪手だと思った。
「
たった一人の少女に守られておいて、ヒーロー科の生徒として恥ずかしくないのか?」
「……っ! 僕だって! 斥流さん──」
私が何なのかが気になるけれど、緑谷君に喋れたのはそこまでだった。
心操君の個性の発動条件を満たしたことで、彼はその場から一歩も動けずに棒立ちになる。
「俺の勝ちだ!」
心操君の勝利を確信した呟きのあとに、プレゼントマイクの解説が続く。
「緑谷! 開始早々! 完全停止!」
心操君の個性は洗脳で、一般的なヒーローのように見た目が派手で戦闘向きなものとは違う。
けれど、とても強力だ。
何しろ彼の発言に答えて効果が発動すれば、命令されるまでは棒立ちになってしまう。
つまり現時点で、心操君の勝利は確定したと言っても過言ではない。
緑谷君は指一本動かせなくなくなり、一年A組の皆や競技場に集まった観客も戸惑っている。
プレゼントマイクの適当な解説には、お前本当に教師かとツッコみを入れたくなる。
しかし彼のおかげで、洗脳の個性や弱点がバレずに済んで良かった。
「お前は、恵まれてていいよな。
もはや勝ちが決まったからか、心操君は余裕の態度だ。
そして棒立ちの緑谷君に、続けて命令を出す。
「振り向いて、そのまま場外まで歩いて行け」
命令を受けた緑谷君は、その通りの行動を取る。
見学席に集まっている一年A組の皆は、とても混乱しているようだ。
特に
「デク君! どうして!」
「このまま場外に出たら! 試合に負けてしまうぞ!」
私も試合の様子を見ていて、質問答えて良いものかどうか迷った。
だが彼らには事実を教えることに決め、おもむろに口を開く。
「心操君の個性は洗脳。今の緑谷君は、彼に操られている」
「そっ、そうなの? 斥流ちゃん」
「斥流君! 何故そのことを、緑谷に教えてあげなかったんだ!」
「教えたら、公平じゃなくなる」
飯田君の発言には、若干の苛立ちが込められていた。
けれど私は何処吹く風で、素直な気持ちを言葉にする。
「私は緑谷君と親しいけど、心操君も応援してる」
第二種目では心操君と一緒に戦ったし、緑谷君も数少ない友人だ。
両方嫌いではないので、片方を贔屓しないために何も情報を教えなかった。
私の発言を受けて、飯田君と麗日さんは黙りこむ。
他の一年A組の生徒も、こっちを見たまま口をつぐんでいる。
「それにヒーローとは、常にピンチをぶち壊していくもの」
今の言葉を聞いた周りの皆は、何も語らない。
しかし真面目な表情に変わり、試合の成り行きを見守っている。
私も緑谷君と心操君がどうなるかが気になるので、そっちに視線を向けた。
彼がかけられた洗脳を解けるかはわからないが、決着はすぐにつくだろう。
「わかんないだろうけど、こんな個性でも夢見ちゃうんだよ」
試合中の心操君が、場外に向かって歩いて行く緑谷君に向けて話しかけていた。
「少なくとも斥流さんは、俺がヒーローになれると本気で信じてくれてるんだ」
確かに入学試験で、そのような発言をした覚えはある。
しかし自分は彼にとって、そこまで大きな存在だったのかと驚く。
聞こえてしまったのは仕方無いが、何だか無性に恥ずかしくなる。
(このことは黙っておこう)
心操君も、誰かに聞かせたいわけではないだろう。ここは、何も知らないフリをしたほうが良さそうだ。
やがて緑谷君は、試合場の端まで追い詰められる。
誰もがこのまま決着かとそう思ったが、何故か操られて自由が利かないはずの右手が微かに動いた。
「緑谷君! 駄目!」
いつものんびりしている私にしては珍しく、慌てて立ち上がる。
そして真剣な表情で大声で叫ぶと、周りの人たちの視線が一斉に集中した。
しかし、今は気にしている余裕はない。
「その力は! 今の貴方では、制御できない!」
自分の声は今の緑谷君に聞こえていないだろう。それでも、叫ばずにはいられなかった。
常人よりも優れた五感と今まで積み重ねてきた経験により、彼が個性を発動させようとしていることを感じ取る。
だがそれは今まで緑谷君が見せたモノではなく、明らかに異質だった。
増強系の個性の扱いにようやく慣れてきたのに、急に新しい力を使いこなせるわけがない。
「これはどうしたことかぁ!
突風が巻き起こっただけでなく! 緑谷の右手から黒い鞭が現れたぁ!」
結果は、プレゼントマイクの解説の通りだった。
彼は指を弾いて突風を起こして洗脳を解いたのは良いが、直後に右手から無数の鞭が現れたのだ。
制御は全くできておらず、辺り構わず振るわれて周囲を破壊し始める。
どう見ても暴走しているのが、目に見えていた。
「世話が焼ける!」
幸い、まだ試合中止や失格の声は出ていない。
けれど放置して良い問題ではなく、このまま暴走しっぱなしでは被害が広がる一方だ。
対戦相手の
「変! 身!」
予想もしていなかった危機的状況に対して、私は一段階だけ抑制を制解した。
そして勢いよく跳躍し、緑谷君に向かって高速で落下する。
途中で黒い鞭が数本飛来して、中には心操君を狙っていたものもあった。
なので全てを落ちながら弾き飛ばし、すぐに緑谷君の目の前に着地する。
衝撃で試合上に足先がめり込んでしまったが、服が燃えなかったので私にとっては些細な問題だ。
「斥流さん! どうして!?
くっ! 駄目だ! にっ、逃げて!?」
緑谷君は何とか抑え込もうとしているようだが、状況は芳しくはない。
なので彼を安心させるために、オールマイトの決め台詞をいつものように堂々と言ってのける。
「もう大丈夫! 何故なら! 私が来た!」
すると焦っていた緑谷君は、ほんの少しだが落ち着きを取り戻す。
取りあえずこっちに飛んできた鞭は弾いているが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
「とにかく早く、個性を消して」
「それが! さっきから、消そうとしてるんだけど!」
どうやら緑谷君の個性は完全に暴走して、制御不可能のようだ。
ならばと、発想を変えて彼に尋ねる。
「緑谷君は個性を使う前に、何をしようとしたの?」
急には答えられないのか、少しだけ間があった。
黒い鞭の一本が心操君を狙っていたので、瓦礫を飛ばして軌道を変えておく。
「試合に勝つことに、必死だった!
洗脳を解いて、
私は緑谷君の発言から、個性の発動条件を推測する。
洗脳を解くために自らに扱える限界以上に、引き出したのは間違いない。
その証拠に、指が折れていた。
(でも、彼の個性は増強系だったはず)
心操君を場外に出すにせよ、肉体を強化して押し出せばいい。
(近寄るのは危険だと判断した?)
緑谷君にとっては、心操君は全く未知の個性を持っている。
発動条件を完全に絞り込めていないとすれば、まずは安全のために相手の身動きを封じるか、近づかずに何とかしようとするはずだ。
あくまでも私の予想だが、取りあえずは考えはまとまった。
「緑谷君! 今は止めようとは考えないで!
黒い鞭に、別の命令を与えるの!」
緑谷君からの返事はないが、多分聞いてくれているはずだ。
審判には止められていないが時間の問題だろう。
早めになんとかしたいとこだ。
「鞭を使って私を捕らえて! 今はそれだけを考えるの!」
「えっ!? わっ、わかった! 斥流さん! ごめん!」
試合場を壊すほどの鞭でも、当たったところで私は痛くも痒くもない。
ウニョウニョ動く黒い触手っぽいものが、緑谷君の命令に従って私をめがけて殺到する。
「さあ、来い!」
暴走している無数の鞭を何とか操ろうとしているからか、動きが全体的にぎこちない。
まだ目覚めたばかりの個性なのもあるだろうが、余裕を持って避けられる。
そうしているうちに、気づけば少しずつ本数が減っていった。
けれど、逆に速度と精密さは上がっていく。
(もうコツを掴み始めた? ……やはり天才か)
だが、緑谷君の健闘もそこまでだった。
やがて汗だくで息も絶え絶えになり、気絶はしなかったが試合場で倒れてしまう。
それと同時に、黒い鞭も完全に消失する。
「余計なお世話をごめん」
「そっ、そんなことないよ。ありがとう。斥流さん」
倒れた緑谷君の前にしゃがみ込むと、疲れ切った声でお礼を言われた。
彼はもはや、一歩も動けそうにない。
しかし審判が止めていないので、一応試合はまだ続いているようだ。
私は立ち上がり、
「心操君、どうする?」
「本来なら、黒い鞭で俺は負けていた。
だから今回は、緑谷の勝ちでいいさ」
心操君は苦笑気味に呟き、自分の負けを認めた。
確かに緑谷君の鞭を弾かなければ、その時点で戦闘不能になっていた。
私としてどっちが勝っても別に良いので、揉めなくて良かったとホッと息を吐く。
「心操君! 降参により、緑谷君! 二回戦進出!」
審判も異議はないのか、緑谷君の勝利を宣言する。
客席からも大歓声が聞こえてきて、取りあえず丸く収まったようだ。
「試合を引っ掻き回しちゃった」
「気にするな。斥流さんは、助けてくれたんだ。ありがとう」
咄嗟の判断で飛び込んだことを感謝されて、何だか恥ずかしい。
けれど納得してるなら良いので、どう致しましてと返しておく。
「緑谷君は、医務室まで歩ける?」
「ちょっと、無理かも」
確かに倒れたまま起き上がれていない。
指も折れているし、疲労困憊のようだ。
ならばここは、数少ない友人として肩を貸すべきだろう。
「仕方ない。私が──」
「俺が緑谷を医務室に運ぶよ」
私が名乗り出ようとすると、
緑谷君は、少しだけ驚いていた。
けれど医務室に行く前に、あることを思い出した私はコホンと咳払いをする。
そして、真面目な顔で彼に告げる。
「
今日、試合を見ている人の多くが、キミに可能性を感じた」
「ははっ、そいつはありがたいな」
彼の個性が強力でヒーロー活動に役立つと、そんな話をしている人たちの声が聞こえてくる。
なので、そのことを心操君に伝えた。
彼は少しだけだが、顔をほころばせていた。
「最終種目! 真っ先に二回戦に進出したのは! A組!
プレゼントマイクの宣言のあとに、再び大歓声が両者に向けられる。
さらには同じ普通科の仲間に暖かく迎えられ、心操君の精神的な負担が軽くなった。
彼なら緑谷君を任せて問題ないだろう。
私は行きと違って、普通に通路を通り自分の席に戻ることにした。
だがその前に、審判役のミッドナイトに呼び止められて注意される。
もし次に何かやるようなら、その前に一声かけるようにとのことだ。
止める気はないのかと疑問に思ったが、絶対に駄目と言われたりお説教を受けるよりはマシだし、素直に頷いておくのだった。