重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
一回戦は色々あって、緑谷君の勝利になった。
私も審判に注意された以外は、特にこれといったペナルティはなかった。
いくら自由な校風が売りな雄英高校だとしても、私に対する信頼度が高すぎる。
深く考えずに勢いで飛び出した自分が悪いのは明らかだし、ここは寛大な措置に感謝しておく。
自分は基本的にマイペースなので、確約はできないのだ。
それはともかく、負傷した緑谷君は
私は一年A組の見学席に戻るために、ドーム型の競技場内の通路を歩いていた。
すると途中でナンバーツーヒーローであるエンデヴァーと、ばったり遭遇する。
「エンデヴァー。こんにちは」
「おう、斥流か」
彼とは何度か会ったことはあるし、昔は全力で挑んだことがある。
それでも別に親しくはなく、ただの顔見知りに話すことは何もない。
向こうもあまり多くは語らない人なので、私は簡単な挨拶だけして横を通り抜けようとする。
「
けれど目の前の彼が、突然呼び止めてきた。
足を止めて厳つい顔を見上げると、何故か腕組をして燃える顎髭を弄っていた。
「
「轟君は口数は少ないけど、クラスメイトと上手く付き合えてる」
ただし轟君も自分のことは全然話さないので、人付き合いは苦手なのかも知れない。
それでもクラスの雰囲気は決して悪くはなかった。
「ふっ、
そして、いずれはオールマイトを越えるヒーローになる。心配無用だったか」
結局何が言いたいのか良くわからない私は、答えに困って静観する。
だが強面の顔を崩さないエンデヴァーであるが、今は少しだけ嬉しそうに見えた。
「ああ、それと、また家で食事でもどうだ」
私は全国ニュースに出てから、エンデヴァーの実家に招待されたことがある。
彼の家族とも幼い頃に顔合わせは済んでいるが、あまり頻繁ではない。
強く印象に残っているのは、料理は美味しかったが食卓の空気が重かったことだ。
自分はあまり喋るほうではないし会話が苦手なのに、何故かエンデヴァー家での口数が多いように思えるほどだ。
昔はあんなことがあったので、轟家と自分の関係は結構複雑なのだ。
そんなことを思い出しながら、目の前のナンバーツーヒーローに質問する。
「それで、家族関係の修復は?」
「……まだだ」
前々から忠告はしていたが、家族関係が相変わらずよろしくないのは如何なものかだ。
「ヒーローは、いつ死んでもおかしくない。
家族の幸せを願っているなら、最後には笑ってお別れできるように、家では良い父親でいるべき」
「返す言葉もない」
気づけば何故か、エンデヴァーの家庭環境に対して話をしていた。
向こうは私が相手だと比較的話しやすいようだが、こっちは別に人生相談に乗る気はないのだ。
(
ずっと昔に、重力操作で長距離移動の訓練をしていた。
たまたま人気のない場所で休もうと山中に降下したら、轟家の長男である
彼が言うには、父親に個性を見せる約束をしたが、残念ながら時間になっても来てくれなかったらしい。
その頃の私は思いつきで行動し、彼の実家にお邪魔させてもらった。
そこで壮絶な家庭環境を目の当たりにして、このままだと不味いと本能的に理解したのだ。
何しろ
当然ながら家族関係は修復不可能なほどにズタボロで、キンキンに冷え切っていた。
なので、子供の私は足りない頭で一生懸命考えた。
そしてエンデヴァーに決闘を挑むことを思いつき、もし自分が勝ったら虐待を止めて家族と仲良くするようにと主張する。
当たり前だが全く聞く耳を持たずに、馬鹿にされる有様であった。
けれど私は諦めずに、多少強引にでもエンデヴァーに戦いを挑む。
だがその頃はまだ弱かったので、全解放状態でも普通に負けた。
諦めずに何度挑戦しても、そのたびにボコボコにされた。
それでも自分がここで折れたら、轟家はそれこそ完全に終わってしまう。
寝覚めが悪いにも程があり、どうしても諦めるわけにはいかなかった。
幸いなのは体は比較的頑丈だったことと、エンデヴァーも子供が相手なので手加減してくれたことだ。
日が暮れる前に孤児院に戻り、次の日には再戦をして、またボコボコにされる。
そんな日々がしばらく続き、相変わらずエンデヴァーには勝てなくても何か思うところがあったのか、少しずつ家族に歩み寄っていく。
相変わらず近寄り難くて多くを語らないが、きっと何かが変わったのだ。
いちいち孤児院に帰るのも面倒になり、昼食は轟家で食べることも多かった。
だが食卓を囲む仲になっても、本名は決して名乗らなかった。
やがてそろそろ自分がいなくても家庭崩壊はないだろうと判断した私は、何も言わずに彼らの前から姿を消したのだった。
次にエンデヴァーと顔を合わせたのは、私が凶悪なヴィランを倒したニュースが全国で放送された数日後だ。
あの頃から自分の容姿があまり変わっていないのもあって、すぐに気づいたらしい。
事務所に所属する多くのヒーローが孤児院を訪れただけでなく、轟家への養子縁組や個性婚とか変なこと言い出すので、内心はドン引きであった。
だが、その場でぶん殴ってお帰りいただくことはしなかった。
轟家があのあとにどうなったかが気になったので、食事にお呼ばれするぐらいは許可したのだった。
そんな昔の思い出はともかく、エンデヴァーは口下手で我が道を行くヒーローだ。
あれから長い時間が経っても、家族関係は決して良好とは言えなかった。
だからと言って自分が何とかできるとは思えないし、そこまで肩入れして世話を焼く気も起きない。
彼の頑張り次第で何とでもなるしと考えていると、外から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「邪魔だ」
今頃になって、通路の真ん中で長話をしていることを思い出した。
私はすぐに壁際に寄る。
「醜態ばかりだな。
先程までのエンデヴァーは柔らかな表情だったのに、すぐに厳しい顔に変わる。
そのまま
「左の力を使えば圧倒とは言わんが、善戦はできたはずだ。
いい加減、子供じみた反抗は止めろ」
ちらりとこっちに視線を向けるエンデヴァーに、全力を出しても自分には勝てないと言いたいのだとと察する。
しかし相変わらず変わってないなこの人と思いつつ、私は大きな溜息を吐く。
「お前には、オールマイトを越えるという義務がある」
そんな義務はないとツッコミを入れたいところだ。
だがこれは他人の家庭の問題で、死人が出たり精神が崩壊しそうな昔とは違う。
少しは落ち着いたはずだ。
「母さんの力だけで勝ちあがる! 戦いでテメエの力は使わねえ!」
「今は通用したとしても! すぐ限界が来るぞ!」
どうやら私が世話焼きを止めた頃から、あまり変わっていないようだ。
しかし、生半可な助言は聞く耳を持たないだろう。
ならば、こうなったら仕方ないと奥の手を使うことに決める。
「このことは、
「斥流! 母さんに伝えるのは止めてくれ!」
「待て!
轟親子が思いっきり取り乱している。
二人にとっては、それだけ
今は自宅療養中で、実家の離れに籠もってエンデヴァーとはあまり顔を合わせていない。
食事に誘われたときには一家団欒していたが、空気は重かった。
いつものんびりマイペースな私でなければ、きっと喉に通らず味も良くわからない。
ろくな会話もできなかっただろう。
けれど二人が
「仲良くしろとは言わないけど、喧嘩はしないで。
「……わかった」
「仕方あるまい」
感情的には納得できなくても、渋々ながら矛を収めてくれたようだ。
私も院長先生には頭が上がらないし、母は偉大ということだろう。
取りあえず気を取り直して、これから試合をする彼を真っ直ぐに見つめて声をかける。
「轟君のお母さんは、お父さんを愛している」
突然何を言い出すのか理解できないようだ。
二人揃って困惑しているが、構うことなく続きを口にする。
「
好き放題に発言した私は、そこで一息つく。
彼らに背を向けて、通路を歩いて行く。
「あとは
家庭の問題に首を突っ込んで、一歩も引かずに仲を取り持ったのが大きかったようだ。
向こうは完全に気を許して、今では親しい友人として接している。
自分としては歳が離れすぎているので、知り合いのお姉さん的な立ち位置である。
ともかくエンデヴァーと轟君が戸惑っていたが、気にせずにこれ以上話すこともないので去っていくのだった。
ちなみに雄英体育祭だが、ここからは自分とあまり関係ないのでダイジェストで進行する。
轟君と
あまりにも圧倒的な実力差だったからか、競技場は自然とドンマイコールが響き渡った程だ。
本人はイライラしてやってしまったらしいが、相変わらずとんでもない範囲と威力であった。
B組の
その直後に地下から忍び寄った蔦で、グルグル巻きにされて勝負ありだ。
サポート会社に見せるために様々なアイテムを相手選手に貸し出し、自己アピールを欠かさない。
十分間逃げ続けて全てのサポートアイテムの紹介が終わったら、自ら場外に出て試合終了である。
私は散々振り回された飯田君が、少しだけ可哀想に見えたのだった。