重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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斥流陰子vs芦戸三奈

 雄英高校体育祭の第三種目は、第五試合が開始された。

 一段階の抑制解除をした私が、試合の舞台に向かって真っ直ぐ歩いていく。

 

 所定の位置につくと、プレゼントマイクの解説が競技場に響き渡る。

 

「第五試合! あの角から何か出んの!? ヒーロー科! 芦戸三奈(あしどみな)!」

 

 芦戸(あしど)さんと戦うのは初めてだが、向こうはやる気十分なようだ。

 

「能力と実績は既にプロレベル! ヒーロー科! 斥流陰子(せきりゅういんこ)!」

 

 私はヒーロー免許だけ修得できればいいので、職業にするつもりはない。

 しかし長年の修行や実戦で鍛えられたし、実績も無駄に積み重なっている。

 

「さあー! いってみようか! 第五試合! スタート!」

 

 プレゼントマイクが試合開始を告げると、芦戸(あしど)さんが大きな声で私に話しかけてきた。

 

「斥流ちゃん! 本気で挑ませてもらうよ!」

「ええ? その、……困る

 

 私的には勝敗はどうでも良かった。

 最終種目まで来れば、ヒーロー科の足切りはないと思っているからだ。

 

 けれど芦戸(あしど)さんは、本気で挑んでくるらしい。

 ここでもしわざと負けたら、彼女は私の実力を知っているので、あとで色々言われそうだ。

 

(バレたら彼女の誇りを傷つける。できれば降参したかった)

 

 酸の上を滑るように移動して接近してくる芦戸(あしど)さんを前にして、どう対処するのが正解なのかと迷う。

 取りあえず殴りかかってきた彼女の腕を取って、豪快に投げ飛ばす。

 

「えいっ」

きゃっ!?

 

 まさか投げられるとは思わなかったのか、軽々と宙を舞っている芦戸さんは驚きのあまり固まっていた。

 このままでは受け身を取れずに、地面に叩きつけられてしまう。

 

 なので私は硬いコンクリートと接触する前に重力を逆転させ、落下による衝撃を和らげた。

 

「斥流ちゃん、何で助けるの?」

 

 ふわりと地面に接触した芦戸さんが、仰向けに倒れながら声をかけてくる。

 

「助けないと、芦戸(あしど)さんが大怪我する」

 

 率直な気持ちを告げると、芦戸さんはムスッとした顔になる。

 けれど本当に加減しなければ、怪我をしてしまうのだ。

 

(さて、どう戦ったものか)

 

 場外まで放り投げればその時点で勝負ありだが、不完全燃焼で終わるのは良しとしないだろう。

 やはり勝ち負けはともかく、彼女が悔いを残さないのがベストである。

 

 やがて傷一つない芦戸さんが起き上がる。

 そして、今度は手が届かない位置から酸を飛ばしてしくる。

 

 私は軽やかに避けるだけでなく、今度はこっちから彼女に接近し、後ろに回り込んで足払いを仕掛けた。

 

わっ!?

 

 頭をぶつける瞬間に個性を発動し、怪我なく倒れられるようにする。

 すると、またもや不満そうな表情を浮かべた。

 

「もうっ! 斥流ちゃん! 真面目にやってよ!」

「私は真面目にやっている」

 

 二回目ともなれば戸惑うことなく起き上がり、今度は近接格闘術を仕掛けてきた。

 酸が分泌されているので手足には迂闊に触れないが、見てから避けるのは造作もない。

 

 芦戸さんはクラスメイトで良い人だし、なるべくなら彼女の望みを叶えてあげたかった。

 

「斥流ちゃんに勝てないのは! わかってるけど!」

「なら、諦める?」

絶対に嫌!

 

 これは長い戦いになりそうだと溜息を吐く。

 しかし芦戸(あしど)さんは増強系の個性ではないし、常に全力で挑んでくるので、スタミナ切れになるのは案外早いかも知れない。

 

 私はしばらく芦戸さんを投げたり転ばせたり、様々な手段で転倒させ続けていた。

 すると、やがて少しずつ息切れし始める。

 

「そろそろ諦める?」

「まっ、まだ!」

 

 何とも諦めが悪いが、うちのクラスは大体そんな人ばかりだ。

 粘り強さがヒーローの秘訣かどうかは知らない。

 だが自分のようにやる気がないよりは、断然マシだろう。

 

 けれどこのまま続けても、私が負けることはない。

 かと言ってわざと負けたり降参し、クラスメイトを傷つけるような真似はしたくもなかった。

 

「わかった。次で終わらせる」

「えっ!?」

 

 芦戸(あしど)さんはとても頑張っていた。スタミナ切れも間近だし、きっと悔いは残らないだろう。

 私は呼吸を整えて意識を集中させると、天に向かって勢い良く拳を振り上げた。

 

「はぁっ!」

「きゃああっ!!!」

 

 瞬間、競技場に凄まじい暴風が吹き荒れた。

 至近距離で風圧を受けた芦戸さんは、木の葉のように宙を舞う。

 ついでに、空を漂っていた雲まで吹き飛んでいく。

 

 このままでは彼女は場外どころか、地面に叩きつけられると誰もが思った。

 けれど私が煌めく粒子を放出して重力操作で飛行し、空中で危なげなく捕まえる。

 

 そのままゆっくりと試合場の端っこに着地して、彼女だけを場外に優しく下ろす。

 

「私の勝ち」

 

 驚いて固まっている芦戸(あしど)さんに、勝利宣言を行う。

 

芦戸(あしど)さんは頑張った。勝負ありでいい?」

「あっ、うん、そうだね。

 あははっ! まだまだ斥流ちゃんには敵わないや!」

 

 困った顔で笑いながら負けを認めた芦戸さんだが、とても満足そうだ。

 怪我も擦り傷や打撲ぐらいで酷くないし、彼女にとっても悔いが残らない戦いだったと思う。

 

 自分はこのまま二回戦に進むことになるが、降参するのは次の試合でもできるので良しとする。

 

「斥流ちゃん、また戦ってくれる?」

「……気が向けば

 

 クラスメイトの頼みを嫌とは言わないが、体育祭のように大勢の前でやるのは断固拒否したいところだ。

 そこで審判のミッドナイトが宣言を行う。

 

「芦戸さん! 場外! よって、斥流陰子(せきりゅういんこ)さん! 二回戦進出!」

 

 試合が終わったので、解放状態でいる意味はなくなった。

 すぐにまた加重をかけて、元の幼女へと戻る。

 

「さっきの斥流ちゃん、可愛かったのにー」

「嫌。あまり長く解放状態で居たくない」

 

 可愛さよりも個性と体力を伸ばすのを優先したいし、私にはそういうのは縁がない気がする。

 それよりも今は、芦戸(あしど)さんの手を引いて医務室に向かうのだった。

 

 

 

 次の試合は常闇踏陰(とこやみふみかげ)君と八百万百(やおよろずもも)さんだ。

 連続攻撃によって防戦一方になってしまい、八百万(やおよろず)さんはあっという間に場外に押し出された。

 とにかくダークシャドウは強く、個性創造も弱くはないが、作り出すのに時間がかかる弱点を突かれた。

 

 

 

 そしてB組の鉄哲徹鐵(てつてつてつてつ)とA組の切島鋭児郎(きりしまえいじろう)の試合だが、両者の個性はかなり近い。

 接近戦の殴り合いは引き分けに終わり、腕相撲で勝敗を決めることになった。

 結果は、切島鋭児郎(きりしまえいじろう)君が僅差で勝利した。

 

 

 

 次の麗日(うららか)さんと爆豪(ばくごう)君の試合がどうなったかと言うと、まさに一方的な展開だった。

 彼は女性が相手でも容赦しないのは良くわかっているし、ヒーローになるために常に全力である。

 

 麗日さんも無重力の個性で罠を張り、頑張っていた。

 しかし空から降り注ぐ無数の瓦礫は、一撃で吹き飛ばされてしまう。

 それにでも諦めなかったが、最終的には爆豪君の勝ちが確定した。

 

 ちなみに爆豪君は、実力差がどうとか、女の子を痛めつけてどうとか外野から言われていた。

 自分は芦戸(あしど)さんに怪我をさせないように気をつけたが、結果的にワンサイドゲームをしてしまったので少し肩身が狭かったのだった。

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