重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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緑谷出久とエンデヴァー

<緑谷出久(みどりやいずく)>

 一回戦の全ての組み合わせが終わり、小休憩を挟んで二回戦が行われる。

 次は轟(とどろき)君と僕の試合だが、その前に麗日(うららか)さんを励ましに行った。

 けれど結果は、逆に応援されてしまった。

 

 ちなみに斥流(せきりゅう)さんから、くれぐれも全力で戦わないようにと釘を差された。

 暴走するたびに止めに入るのが面倒だからだ。

 それに試合中に棒立ちはとても不味いし、いつ失格になってもおかしくない。

 

 心操(しんそう)君との戦いは、勝ちを譲ってもらったようなものなのだった。

 

 

 

 それはともかく僕は控室から出て、試合場に向けて通路を歩きながら気合を入れ直す。

 

「今は試合に集中しないと!」

 

 オールマイトからも個性の暴走に関する情報を得て、黒鞭やかつての継承者のことが少しだけわかった。

 

 だが今は雄英体育祭に集中するほうが大切だと思い直したが、やはり注意力散漫になっていたようだ。

 こちらに近づいてくる気配に、直前になるまで気づけなかった。

 

「エンデヴァー!?」

「おう、いたいた」

 

 通路の曲がり角から突然姿を見せたナンバーツーヒーローに、驚いて立ち止まる。

 

 思わず大声を出してしまったが、彼は驚かれるのに慣れているようだ。

 全く動じずに、僕の前に立つ。

 

「エンデヴァー! 何でこんなところに!?」

 

 あまりにも予想外だったのと高圧的な雰囲気に、少しだけ後ずさってしまう。

 

「キミの活躍、見せてもらった。素晴らしい個性だね。

 指を弾くだけで、あれ程の風圧。

 パワーだけで言えば、オールマイトや斥流陰子(せきりゅういんこ)に匹敵する力だ」

 

 斥流さんはともかく、オールマイトとの関係をこの人に知られるのは不味い気がする。

 僕は嫌な汗をかきながら、エンデヴァーをじっと見つめる。

 

「そのあとの鞭の個性は制御が甘いが、成長の余地ありだな。

 しかし焦凍(しょうと)のような複数の個性ではなく、斥流陰子(せきりゅういんこ)と同じ発展型か?」

 

 轟君は生まれつき、炎と氷の両方が扱える。

 斥流さんは個性を鍛えて伸ばし、複数の特性を持たせるまで成長させた。

 

 そしてオールマイトが増強系に近い性能だ。

 まだどうして黒鞭が扱えるかはわからないが、ワンフォーオールは発展しているのかも知れない。

 

 しかし彼が何を考えているにせよ、これ以上詮索されるのは不味い。

 

「何を、何を言いたいんですか? 僕はもう、行かないと!」

 

 重圧を受け続けるのも辛いし、ワンフォーオールとオールマイトの関係を探られる可能性もゼロではない。

 けれどエンデヴァーは、僕に淡々と話しかけてきた。

 

「うちの焦凍(しょうと)には、オールマイトを越える義務がある。

 キミとの試合は、テストベッドとして、とても有益なものとなる。

 くれぐれも、みっともない試合はしないでくれたまえ」

 

 その言葉を聞いた僕は、思わず身を固くする。

 轟君は、父親から受け継いだ炎を使わずに一番になり、エンデヴァーを完全否定と言っていた。

 

「言いたいのはそれだけだ。直前に失礼したな」

 

 エンデヴァーが立ち去ろうとする前に、僕は決意を込めて話しかける。

 

「僕は、オールマイトじゃありません!

 当たり前のことですよね! 轟君も! 貴方じゃない!」

 

 その時点で僕は、色んな感情がごちゃ混ぜになっていた。

 だがとにかく、それだけは言わなければいけないと感じたのだ。

 

 しかしこの時、予想もしていなかった声が別の方向から聞こえてきた。

 

「エンデヴァー、何してるの?」

「「斥流さん!?」」

 

 通路の向こうからひょっこり顔を覗かせて声をかけてきた彼女に、僕たちは殆ど同時に驚きの声をあげてしまった。

 彼女は相変わらずマイペースで落ち着いていており、のんびりこちらに向かって歩いてくる。

 

「休憩中に、偶然話し声が聞こえた。

 エンデヴァーのことは冷(れい)さんから、気にかけておいて欲しいと頼まれてる」

「冷(れい)からだと?」

 

 僕には何のことかわからない。

 しかし、斥流さんは静かに頷いて続きを話す。

 

「あとは冷(れい)さんから聞いて」

「斥流、俺にそれができると思っているのか?」

「互いに歩み寄る、良い機会」

「……むう」

 

 二人とも、完全に僕を置いてけぼりにしている。

 けれどエンデヴァーは何か思うところがあるようだ。

 燃える顎髭を弄って、深く考え込んでいた。

 

 しばらくナンバーツーヒーローと話していた斥流さんは、やがてこちらに顔を向けて口を開く。

 

「緑谷君」

「えっ?」

「貴方は自分が思い描く、最高のヒーローを目指せばいい」

 

 真っ直ぐに僕を見つめる斥流さんの言葉を聞いて、何故か肩が軽くなって安心を覚えた。

 

「焦らず一歩ずつ進んでいけば、いつかは必ず辿り着く」

「……斥流さん」

 

 僕にとっての彼女は、やはりオールマイトと同じで尊敬すべき師匠だった。

 困っている時に、進むべき道を指し示してくれる。

 危険な状態に陥って、助けられたこともあった。

 

 ただしヒーロー扱いすると露骨に嫌な顔をされるので、そこだけは気をつけなければいけない。

 

「エンデヴァーは、ビルボードチャートJPのトップヒーローだから、重圧に抗えないのはわかる。

 でも緑谷君なら、いつかは彼に負けないヒーローになれる」

 

 エンデヴァーはナンバーツーのプロヒーローだ。

 斥流さんは僕がこのまま成長を続ければ、最高のヒーローになれると言ってくれた。

 

「俺を前にそんな発言ができるのは、斥流ぐらいだぞ」

 

 当の本人は呆れた顔で斥流さんを見ているが、それに関しては別に怒りはしないようだ。

 

「将来的には、轟君と緑谷君がワンツーになるかも」

「もちろん焦凍(しょうと)が一位に決まっている!」

 

 すると斥流さんは首を傾げて、エンデヴァーにじっと見つめる。

 

「どうだろう? エンデヴァーは家庭の問題が」

「斥流ぅ! 家庭の問題はヒーローランキングに関係ないだろうがぁ!」

 

 大きな声が辺りに響き渡るが、斥流さんは全く動じていない。

 

「大いに関係ある。轟君が炎を使いたがらないのは、エンデヴァーのせい」

「ぐっ!? 悔しいが反論できん!」

 

 彼女とエンデヴァーのやり取りを見ていると、何だか僕の想像していたナンバーツーヒーローのイメージが、音を立てて崩れていく。

 けれど別に不快ではなく、厳格でストイックな炎熱系のヒーローも家では父親をしているのだと、新しい視点で見ることができた。

 

「とにかく緑谷君は私たちのことは気にせずに、試合に集中して」

「えっ? あっ、うん」

「あまり長く立ち話をしてると、最悪不戦敗になる」

「そうだった! 急がないと!」

 

 斥流さんに言われて思い出したが、今は試合に向かっている途中だった。

 まだ放送で呼び出されてはいないものの、選手や観客を待たせるわけにはいかない。

 

 なので取りあえず考えるのは後回しにして、今は師匠の言った通りに目の前の試合に集中するのだった。

 

 

 

 

 

 

<斥流陰子(せきりゅういんこ)>

 お手洗いに行ってから、自分の席に戻る途中で緑谷君とエンデヴァーが話している内容を偶然聞いた。

 そこでふと、冷(れい)さんに言われていたことを思い出す。

 

 色々と不器用な人なので、もし余裕があればそれとなくフォローをして欲しいということだ。

 それ以外にも色々言われているが、多すぎて全部は覚えていない。

 

 とにかく自分も人と話すのは苦手なので、正直上手く手助けできる気がしない。

 どう考えても場を引っ掻き回すことしかできないだろう。

 

 けれど、少し怒っていた緑谷君を落ち着かせられたので良しなのだった。

 

 

 

 彼を試合場に向かわせたあとは、エンデヴァーに自販機のオレンジジュースを奢ってもらった。

 だがそこで相談があると切り出されたので、取りあえず人の居ない雨除けドームの天井部分に移動し、並んで座る。

 

 私は緑谷君と轟君の試合を観戦しながら少しだけ話をする。

。

「とにかくエンデヴァーは、良い父親になって家族の尊敬を集めること」

「むう、やはりそれしかないか」

 

 半分ほどに減ったオレンジジュースの缶を、雨除けドームの天井に静かに置く。

 そして隣に座るエンデヴァーと、他愛もない話を続ける。

 

 今さら過去の過ちを認めて謝罪したところで、解決する問題ではない。

 下手をすれば、精神的に楽になりたいからだと責められかねない。

 

「家族関係の修復は一朝一夕にはいかない」

「だろうな。気長にやるしかあるまい」

 

 積み木を崩すのは一瞬だが、組み立てるのは長い時間がかかるのと同じだ。

 けれど私が轟家にお邪魔しなくなってから、かなりの年数が経っているのにあまり変わっていない。

 何処かのバスケ漫画のように、何も成長していないと言いたくなる。

 

「しかし、斥流はやけに慣れているな」

 

 一息ついたエンデヴァーが、緑茶のペットボトルを傾けながら尋ねてくる。

 何が慣れているのかは良くわからず、少しだけ考えた。

 

「孤児院には、色んな人が居るから」

「……そうか」

 

 轟君ではないが、複雑な家庭環境を体験した子供たちを多く見てきた。

 私は昔から多忙で、親に反抗する暇もなく、人よりも早く自我が構築されて大人になった。

 

 そんなことを考えていると、試合はいつの間にか終わっていた。

 最終的に、氷だけでなく炎を出した轟君の勝利だ。

 

 緑谷君は個性に目覚めたばかりで持続時間が短く、しかも衝撃を受けると解除されてしまう。

 最後の熱風を吹き飛ばしたのは良いが、個性が解除されて踏ん張れなかった。

 場外に飛ばされて負けてしまったのだ。

 

 最初から本気で戦えば勝っていたのに、相変わらず他人の世話を焼くのが好きな人だと思った。

 

「あの少年はキミに似ているな」

「何処が?」

 

 隣のエンデヴァーに顔を向けて尋ねると、強面だが嬉しそうに笑っていた。

 

「余計なお世話は、ヒーローの本質だ」

「私は緑谷君ほど、余計なお世話は焼いてない」

 

 通りかかった時に困っていて、他に助けられる人がいなければ世話を焼くぐらいだ。

 それに勝利を捨ててまで、他人のために身を捧げる自己犠牲精神も持ち合わせてない。

 

「だがキミは燈矢(とうや)だけでなく、俺たち家族を救ってくれた」

 

 あれも成り行きでやっただけで、私としても仕方なく首を突っ込んだのだ。

 喜々として危険に飛び込むような、酔狂な性格ではない。

 

 最初にエンデヴァーと戦ったときはボロ負けだったが、あの時はきっと若気の至りだったのだろう。

 

 

 

 何にせよ話題が途切れたし、オレンジジュースも飲み終わった。

 私はその場からゆっくり立ち上がる。

 

「そろそろ次の試合」

「ああ、相談に乗ってくれて助かった」

「構わない。ジュース奢ってくれてありがとう」

 

 基本的に麗日(うららか)さんから毎月のお小遣いを受け取って、やりくりしている。

 しかし、飲み食いしたり実際にお金を使うことは殆どない。

 

 今回はエンデヴァーに奢ってもらえてラッキーだったと思いつつ、自分の席に戻るのだった。

 

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