重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
エンデヴァーの相談に乗っている間に、緑谷君と轟君の試合が終わった。
次は
前の試合でステージが壊れたので修復に時間がかかったが、彼らの試合自体はすぐに決着がついた。
レシプロバーストによって蔦の攻撃を避けて、そのまま人並み外れた馬力で場外まで押し出すことで勝利したのだ。
そして次に進み、私こと
一段階の抑制解除を行い、互いに位置につく。
すると審判から開始の合図が告げられ、先手必勝とばかりに向こうから攻めてくる。
「ダークシャドウ!」
予想通りに。彼の個性が突っ込んできた。
しかし見えているので危なげなく。右へ左へと華麗なステップを踏んで避けていく。
それどころか。戦いながら話しかける余裕まであった。
「
「どうした!」
「私は降参する」
「「「はぁ!?」」」
常闇君だけでなく審判や解説までもが、思いっきり驚かれた。
さらには他に聞こえていた人たちも唖然としている。
ダークシャドウまで驚いて攻撃を止めた。
しかしすぐに彼は、動揺しつつも尋ねてくる。
「どういうことだ!?」
「雄英体育祭で、これ以上勝ち進む理由がない」
第三種目まで進めば、ヒーロー科からの足切りはほぼない。
だが今は沈着冷静な常闇君が相手なので、きっとすんなり降参させてくれると信じて声をかけたのだ。
「断る! 俺は実力で斥流に勝つ!」
「
審判も横を向いて口笛を吹いて、先程の降参は聞こえてないフリをしている。
他の試合のように、常闇君の勝利を宣言してくれない。
何とも理不尽を感じながら、再び動き出したダークシャドウの攻撃を躱していく。
ヒーロー科や雄英高校は戦闘狂の集まりかと勘違いしそうだが、彼らは基本的に良い人である。
(それに実力差があるから、勝つのは容易)
常闇君も諦める気はなさそうなので、私は避けたあとに空に向かって跳躍する。
そして、飛び蹴りの構えを取った。
「来るか! 戻れ! ダークシャドウ!」
私の行動を予測してダークシャドウを呼び戻して守りを固めた。
相手の準備が整ったことを確認した私は、個性を発動して狙いを定めて落下を開始する。
「重力加速! 二倍!」
飛び蹴りの軌道は適時修正できるので、一度ロックオンすれば避けるのはほぼ不可能だ。
下手に回避しても余波に巻き込まれ、受け止めるか迎え撃つのが一番被害を軽減できる。
赤熱するほどの加速は出していないが輝く粒子が放出され、流星のように降り注ぐ高速の蹴りと、常闇君のダークシャドウが空中で激しくぶつかり合う。
その瞬間、凄まじい衝撃波が発生した。
「くうっ! コイツは!?」
「吹き飛べ!」
少しだけ拮抗したが、高速で繰り出された蹴りがダークシャドウを大きく弾いた。
狙うは無防備になった本体だが、直撃させる気はない。
軌道を修正して
そんな私に驚きつつも彼はまだ諦めておらず、ダークシャドウを急ぎ呼び戻そうとする。
だが私は
そしてめり込んだ足を引き抜いて、急いで起き上がろうとしている彼の前に立つ。
「私の勝ちでいい?」
「ああ、……俺の完敗だ」
もし不審な動きをしたら、特に思いつかないが酷いことをするつもりだ。
私はボロが出る前に降参してくれて良かったと、内心でホッと息を吐いた。
審判も私の勝ちだと宣言する。
取りあえずは常闇君に手を伸ばして起き上がってもらい、転倒させたときに怪我はしてないかと気遣うのだった。
次の試合は爆豪君と切島君だが、長々と語るようなこともない。
持久戦で先に息切れした切島君を爆豪君が追い詰め、そのまま爆破で押し切っての勝利だ。
続いて準決勝の第一試合は、どちらもプロヒーローの息子である轟君と飯田君である。
初手レシプロバーストで速攻を仕掛けたが、小技でマフラーを凍らせることで個性を強制的に妨害して隙を作り出された。
続けて顔以外を凍らせることで、行動不能に追い込んだ。
そして次は、私と爆豪君が戦うことになる。
彼とは毎日のように訓練していたので、お互いの手は知り尽くしていると言って良い。
いつも通りに一段階の抑制解除を行い、爆豪君の爆破ラッシュを避け続ける。
「かすりもしねえ! いい加減! くらいやがれ!」
互いの個性を知っているとは言っても、対処できるかは別である。
私が爆豪君の爆破を避けるのは容易ではあるが、彼がこちらの攻撃を防ぐのは難しい。
なので自分は戦いながら会話ができるほど余裕があり、今回も降参して良いかと尋ねたのだが、予想はしていたが逆ギレされてしまった。
「ジャージを燃やしたくない。当然避ける」
「ちくしょうが!」
彼が悔しそうに舌打ちするが、いくら柔肌は燃えないとはいえまともに受けるつもりはない。
社会的な死は避けたいし、ジャージの修繕費用もタダではないのだ。
「そろそろ終わらせるけど、いい?」
「良いわけねえだろ! クソが!」
彼はまだ試合の続行を望んでいるようだが、今回は戦闘訓練ではない。
爆豪君のスタミナが切れるまで付き合っていたら、何気にガッツがあるので日が暮れてしまいそうだ。
ここで私はどうしたものかと悩みつつ、審判のミッドナイトに視線を向ける。
すると彼女は少しだけ困った顔をして、小さく頷いた。
「爆豪君、今度は私の番。耐えて」
「ちいっ! 仕方ねえ! 来いやぁ!」
ヒーローは攻撃だけではなく、防御も重要なのは言うまでもない。
爆豪君は素早く距離を取って、こちらの様子を油断なく伺う。
私は呼吸を整えて、しっかり両足で踏ん張る。
そして右手を引き、正面の彼を見据えて全力の一撃を放った。
「くそったれええええ!!!」
予想は可能でも、回避は不可能なとんでもない風圧が襲いかかる。
爆豪君は過去最高レベルの爆破で迎撃した。
しかし、それでも抗いきれずに少しずつ押し流される。
結果的に彼は必死に耐えながらもズルズルと後退していき、やがて場外のラインを越えて敗北したのだった。
爆豪君との試合が終わり、審判のミッドナイトが疲労の回復のために時間まで休むようにと言われたが、私は別に疲れていない。
しかし試合会場が破壊されていたので修復する必要があり、少しだけお手洗いに行ってすぐに戻ってくる。
競技場に入ると、向かい側から轟君がやって歩いて来た。
口を開くことなく互いに試合上の内側に入って、配置につく。
「雄英高体育祭も、いよいよラストバトル!」
解説役のプレゼントマイクだけでなく、見物に来た観客も大盛りあがりだ。
「ヒーロー科!
そして審判からスタートの合図が出た瞬間、轟君がいきなり問答無用で大技をブッパしてくる。
それは試合場の殆どを氷漬けにするほど強力なので、普通なら逃げる隙もなくやられてしまう。
しかし私は事前に攻撃を察知して、空中に逃れていた。
一段階解除しているので光り輝く粒子を放出しつつ、リング内に出現した巨大な氷柱に、私は妖精のようにふわりと舞い降りる。
「一応聞くけど、降参していい?」
「負けるのは嫌だが、勝ちを譲られても嬉しくねえよ」
予想はしていたが、やっぱり正々堂々と勝負しないと駄目らしい。前の試合の爆豪君もそうだった。
何にせよ仕方ないので溜息を吐きながら、氷柱の真上から拳を打ち込んで木端微塵に打ち砕き、そのまま下のリングに舞い戻る。
「手加減されるのが嫌なら、
「……それは」
緑谷君の説得で炎の個性を出していたが、まだ躊躇っているようだ。
できれば家庭の問題に首を突っ込みたくないけれど、全力を出さずに負けて後悔して欲しくもない。
「エンデヴァーも反省していた」
「斥流、親父と話したのか?」
「少しだけ」
プライベートなので、詳しい内容までは口にしない。
けれどエンデヴァーなりに、これからは家族との時間を大切にするらしい。
良い方向に行くとは約束できなくても、少なくとも悪い結果にはならないはずだ。
「苦労をかけて悪いな」
「構わない」
ジュース一本を奢ってもらう代わりに愚痴を聞かされ、無難なアドバイスをした。
私にとっては殆どプラマイゼロで、礼を言われることは何もしていない。
「とにかく、全力を出して」
「ああ、そうさせてもらう!」
その瞬間、彼の左腕から炎が吹き出して私に向かって放たれた。
ジャージを燃やされるわけにはいかないので、基本的には逃げの一手だ。
しかし今度は、進行ルートに氷の壁が立ち塞がる。
背後から迫る炎のことを考える避ける時間はなさそうなので、正面から蹴り砕いて強引に突破した。
「ははっ! 物ともしないか!」
彼もエンデヴァーに似て、あまり自分の感情を表に出さない。
けれど今は息を切らしながらも、楽しそうに笑っていた。
「やっぱり斥流は! 最高のヒーローだな!」
「何それ!?」
轟君から最高のヒーローと言われたのは初めてだった。
「俺がヒーローを志した原点だ!」
「意味わかんない!」
回り込まれたので、迫りくる炎を拳を振るって風圧でかき消す。
戦いの最中に、全く意味がわからない発言に困惑する。
しかし轟君は話している間にも慣れない個性を使い続け、さらには連戦の疲労により少しずつ動きが鈍ってきた。
回避に専念して様子を見ていたが、そろそろ終りが近いことを察する。
頃合いだと動きを止めた私は、大きな声で叫んだ。
「轟君! 全力で打ち込んできて! 負けても後悔しないように!」
すると轟君は再び気合を入れて、両腕に炎と氷を収束させていく。
「悪いな斥流! 胸を借りるぞ!」
私は念のためにもう一段階の抑制解除を行い、彼の攻撃に備える。
「
右の氷結が私めがけて放出され、続いて左の炎熱も解き放たれた。
冷やされた空気が膨張することによって、桁違いな爆風を引き起こされる。
だがこれは、
まだ慣れていないので、威力の調節や溜め時間などの問題もあるが、破壊力だけなら既にプロヒーローレベルだ。
そして、格好良い技名までつけられている。
私はネーミングセンスがないのか、特に良いものが思いつかない。
けれど向こうが必殺技を叫んだのだから、こっちも何か名付けるべきだろう。
「ええと! 全力パンチ!」
腰の入った正拳突きが、激しく荒れ狂う暴風を生み出した。
目前まで迫った
何とも情けない技名だが、工夫や技術も何もないゴリ押しパンチだ。
なので、これで良いのだと納得させた。
試合場は突風が吹き荒れ、それもすぐに止んだ。
あとに残ったのは無傷で堂々と立つ私と、力を出し尽くしてうつ伏せに倒れて起き上がれなくなった轟君だった。
「轟君! 行動不能! よって! 斥流さんの勝利!」
十八禁ヒーローのミッドナイトが、新版らしく私の勝利を宣言する。
競技会場から、割れんばかりの大歓声があがった。
「以上で全ての競技が終了! 今年度一年体育祭の優勝は!
A組! 斥流陰子おおお!!!」
解説のプレゼントマイクが大声で伝えて、より一層の盛り上がりを見せる。
何となく流れで優勝してしまった身としては、真面目に競技している生徒に少し申し訳なく思った。
けれど対戦相手は全力を出せて悔いなしだったし、とにかくヨシとするのだった。
その後の表彰式が行われたが、一位は若干居心地が悪い私で、二位は無表情に戻った轟君、三位は何処かムスッとした顔の爆豪君、同じく三位には心ここにあらずの飯田君だった。
そして取材陣からは、眩しいばかりのフラッシュが焚かれている。
自分は明らかに場違いではあるが、一位になってしまった以上は仕方ない。
しかしメダル授与でオールマイトが登場したおかげで、主役が交代してくれて本当に助かった
三位から順番に首にかけていき、やがて彼は私の前に立つ。
「斥流少女、優勝おめでとう! 見事な戦いぶりだった!
ここまで個性を使いこなせる生徒は、そうはいない!」
「頑張った」
私に気の利いた言葉は無理だ。
なので、無難に短く終わらせる。
「さあ! 今回の勝者は彼らだった!
しかし皆さん! この場の誰にも、ここに立つ可能性はあった!」
オールマイトが私たちではなく、他の生徒や客席に向けて話し出す。
「ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い!
さらに先へと登っていく! その姿!
次代のヒーローは確実に! その芽を伸ばしている!」
確かに次代のヒーローは、日々成長している。
今回は私が勝ったが、来年には追い越されることを期待したい。
ひょっとしたら、この中から新しい平和の象徴が生まれるかも知れない。
そう思うと、今から少しだけ楽しみになったのだった。