重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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闇を祓う流星
ヒーローネーム


 色々あったが、雄英体育祭は無事に終わった。

 だがまあ、それに関しては別にどうでもいい。

 

 重要なのは、その間に起きたか知ったことだ。

 まず飯田天哉(いいだてんや)君のお兄さんがヒーロー殺しに敗北し、救援要請を受けて駆けつけたジェントル・クリミナルが危機一髪で助け出した。

 

 インゲニウムは大怪我はしたが、ヒーロー活動ができなくなる程ではない。

 今は病院で治療を受けており、ステインには残念ながら逃げられてしまったようだ。

 守りながら戦うのは大変なので、頑張ったと思った。

 

 それに悪いニュースはまだある。

 雄英高校を襲撃してきたヴィラン連合、そのリーダーである死柄木弔(しがらきとむら)と幹部の黒霧(くろぎり)が行方不明になったことだ。

 彼らは護送中に口から黒い液体を吐き出し、二人ともそれに飲み込まれて忽然と消え去ったらしい。

 

 現在、警察が全力で捜索中とのことだ。

 自分はテレビのニュースには興味がなかったし、世間は雄英体育祭一色になっていた。

 

 普段からのんびりマイペースな性格なので、もしかしたら耳に入っていても直ちに影響があるわけではないため、知らずにスルーしていたのかも知れない。

 

 だが、ヴィランのことはヒーローに任せれば良い。

 自分のような一般人が、わざわざ危険に首を突っ込む必要はないのだ。

 

 それよりも麗日(うららか)さんの両親が突然下宿先に来て、私も一緒に大歓迎されたほうが重要である。

 彼女と同じで良い人なのは別にいいが、二人にも名前を知られていて恥ずかしかった。

 

 

 

 ちなみに雄英高校の体育祭は、日本を代表するビッグイベントだ。

 当然のように全国放送され、リアルタイムで視聴していた人も大勢いる。

 大会が終わったあともテレビでバンバン報道されて、全国的に大盛りあがりであった。

 

 早朝のジョギングや個性の訓練でも、頻繁に声をかけられる。

 別に珍しくはないが、麗日(うららか)さんまで話題に入ってくるのは珍しい。

 

 良し悪しはともかくとして、自分の周囲の状況が少しずつ変化しているのを感じたのだった。

 

 

 

 多少賑やかになっても、私は基本的にマイペースだ。

 時間に余裕を持っていつも通りに登校して、一年A組の教室に入って自分の席に着く。

 

 教科書を開いて予習をしていると、クラスメイトの話題が耳に入ってくる。

 どうやら全員が一躍有名人になったようで、通学途中で色んな人に声をかけられたらしい。

 

 教室中がその話題で持ちきりで、雰囲気はとても明るい。

 

(私は面倒に思ってるけど)

 

 他人と関わるのは面倒だが、嫌いではない。

 しかし、訓練の時間が減るのは困る。

 それに別に、称賛されたくてヒーロー科に通っているわけではない。

 

 今の社会と価値観が違うのは、今に始まったことではないし、クラスメイトもそのことを知っている。

 私もわざわざ水を差したりはせずに、机の上に教科書を広げて真面目に予習を行っていた。

 

 すると教室の扉が開いて、相澤(あいざわ)先生が入ってきた。

 彼は教卓の前に立ちって簡単な挨拶をしてから、授業内容について説明する。

 

「今日のヒーロー情報学、ちょっと特別だぞ」

 

 私以外の生徒も一斉に身構える。

 自分は予習復習はきっちりしているが、そこまで自信があるわけではない。

 それでも抜き打ちテストが来ても、赤点は回避できるだろう。

 

 けれど担任の先生から告げられた内容は、私の予想外でだった。

 

「コードネーム。ヒーロー名の考案だ」

 

 この発言を受けて、一年A組の教室は大盛りあがりだ。

 しかし、すぐに静まり返る。

 

「と言うのも、先日話したプロヒーローからのドラフト指名に関係している」

 

 担任との付き合いも長くなってきた。

 大声で騒いていると、怒られることを学習したようだ。

 

「指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される二、三年から。

 つまり、今回一年のお前らに来た指名は、将来性に対する興味に近い」

 

 私のように成り行きでヴィランと戦って、ニュースに出ることは滅多にない。

 

 なので、雄英体育祭での活躍で初めて目にするスカウトも多い。

 一目見ただけで未来のヒーローが務まるかどうかを見極めるのは、なかなか難しいだろう。

 

「卒業までに、その興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんということは良くある」

 

 その発言を聞いた峰田実(みねだみのる)君が、震えながら机を叩く。

 

「大人は勝手だ!」

「いただいた指名が、そのまま自身へのハードルになるんですね!」

 

 続いて声を出した葉隠(はがくれ)さんは、上昇志向が強いのか元気いっぱいであった。

 

「そう、でっ、その集計結果がこうだ」

 

 相澤先生がリモコンのボタンを押して、黒板に映像を映し出した。

 

 パッと見た感じ私の指名がとても多く、一万件を越えている。

 轟君と爆豪君が数千であとに続いているのだが、その二人も大きく引き離していた。

 

「例年はもっとバラけるんだが、斥流……いや、三人に注目が偏った」

 

 どういう基準で選ばれたのかは、各々の順位を見れば何となく理解できる。

 

 しかしヒーローの志を持たない私を高く評価するのは、如何なものかだ。

 指名がないよりはあったほうが良いが、将来就職する気はないので少し困る。

 

「この結果を踏まえ、指名の有無に関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

 

 相澤先生の説明を聞き、中学校の頃に新聞配達のバイトをした経験がある私は何となくだが想像ができた。

 

「お前らはUSJのとき、一足先にヴィランとの戦闘を経験してしまったが。

 プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練にしようってこった」

 

 その際にヒーロー名も決めるようで、私を含めたクラスの皆は、なるほどと頷く。

 

「まあ、そのヒーロー名はまだ仮ではあるが、適当なもんは──」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!」

 

 ここで教室の扉を勢いよく開けて、十八禁ヒーローであるミッドナイトが入室してきた。

 

「学生時代に付けたヒーロー名が世に認知されて、そのままプロ名になってる人は多いからね」

 

 確かに学生の頃に名前が売れすぎて、そっちの名でしか認知されなくなる人もいるだろう。

 

 私の活動期間は卒業までで、今回のように体験で終わるだろうがネタに走るつもりもない。

 恥ずかしい思いもしたくないので、足りない頭を捻って頑張って考える。

 

 

 

 やがて皆が順番に教卓の前に立って、ヒーロー名を発表していく。

 そのたびに審査を行うミッドナイトやクラスメイトが、一喜一憂したりと大変賑やかだ。

 

 一年A組は相変わらずノリが良いし、この独特な雰囲気は嫌いではない。

 だた私は一緒に混ざったり話すのが苦手なので、基本的には外から眺めているだけだ。

 

 それでも楽しめてはいるし皆は目指すヒーロー像が明確で、自分のように捻り出すのに苦労することはないだろう。

 

 ちなみに中には自身の名前をつける人も居たりと、色々あるんだなと思っていると、とうとう私の番が来た。

 なので教卓の前まで歩いて行き、記入用紙を立てて皆に見せる。

 

「流星ヒーロー。シューティングスター?」

 

 今までは即、何らかの評価を口にしていたミッドナイトが発言に困っていた。

 そして、どういう理由でヒーロー名を付けたのか尋ねてくる。

 

「変身すれば光る粒子を放出する。

 それに大抵が短期戦で終わるから、流星のように一瞬だけの輝き」

 

 あとは重力加速による必殺の蹴りは、流れ星のようにも見える。

 個性の仕様で目立ちたがり屋の青山(あおやま)君ではないが、煌めく粒子は夜空の星々を彷彿とさせる。

 

 それを聞いたミッドナイトは、とても良い笑顔を浮かべた。

 

「いいわね! 光り輝く斥流さんには、とても似合っているわ!」

 

 取りあえず二代目オールマイトから脱却できたので、良しとしておく。

 

 

 

 そのあとは職場体験の用紙が配られたが、私には一万件以上の指名が入っている。

 特に行きたいヒーロー事務所もないし、この中から選ぶのは大変だ。

 

 自分だけでは判断が難しいため、下校前に職員室に向かう。

 幸いなことに、目的の人物はすぐに見つかった。

 

 なので扉を開けて失礼しますと中に入り、彼の元に真っ直ぐに歩いて行く。

 

「相澤先生、どの事務所を選べばいい?」

 

 生徒が困った時は、担任に相談するものだ。

 なので私は相澤先生に頼ることにし、彼の事務机の上に多数の指名用紙を置いた。

 

「斥流は、行きたい事務所か、成りたいヒーローはないのか」

「ない」

「そうか」

 

 本当に行きたい事務所も、成りたいヒーローも私にはなかった。

 やがて担任は頭を軽くかいて、事務机の上に置かれた一万件以上もの指名リストを手に取る。

 

 そして手早く順番に目を通し、適時にこちらに確認を取る。

 

「斥流の個性と相性が良い、大手の事務所が合理的か」

 

 生徒の相談に真面目に乗ってくれるのが相澤先生だ。

 良い担任だと思いつつ、私も指名リストを閲覧する。

 

「しかし、斥流の個性は幅が広すぎる。

 事務所を選ぶのも一苦労だぞ」

「……ううん

 

 私は近接も遠距離も対処できて、ヴィランの捕縛や高速移動も可能だ。

 やれることが多く、これといった希望もないので選択を絞り込むのも一苦労である。

 

 しばらく二人で悩んでいると、何故か他の先生たちが集まってきた。

 

「斥流さんのことでお悩みですか?」

「大変そうですね。イレイザーヘッド」

 

 相澤先生が彼らにも指名リストを見せると、他の教師は揃って顔を見合わる。

 そのまま、ああでもないこうでもないと相談が始まり、少しずつ人数が増えていく。

 

 そのうち話題が専門的すぎて、どうにもついて行けなくなる。

 私は職場体験先を相談したのに大事になってしまったと、何とも申し訳なく思うのだった。

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