重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
時々だが、何やら思い詰めたような顔つきに変わるのだ。
口下手な自分が声をかけても、慰めにはならないのはわかっている。
しかし彼は私の数少ない友人で、できれば何とかしてあげたい。
なので職場体験が始まるその日に、相澤先生の話が終わった直後、別れる前の飯田君を呼び止めた。
「飯田君、待って」
他人と関わることがない私が、珍しく自分から声をかけた。
驚いて振り向いた飯田君以外にも、他のクラスメイトや相澤先生の視線も集まる。
けれど、そんなのはお構いなしにマイペースで話しかける。
「飯田君は、ヒーロー殺しを探すつもりでしょう?」
「斥流さん、俺は別にインゲニウムの敵討ちなんて──」
私はヒーロー殺しを探すしか言っていない。
だが彼は動揺からか、兄の敵討ちを考えていることを口走ってしまった。
ここで慌てて否定しても、飯田君が例のヴィランを気にしているのは事実は変わらない。
「ヒーロー殺しを探すのは、構わない」
「いいのか!?」
飯田君が驚いて尋ねてくるが、私は気にせずに頷いて続きを話す。
「今の飯田君は、何を言っても止まらない。
それに、パトロール中に偶然遭遇する可能性もある」
ヒーロー殺しが潜伏している可能性が高い地域を、パトロールするのだ。
本人が意図せず遭遇したり、襲撃されることもあるだろう。
なので私は、ポケットからスマートフォンを取り出した。
殆ど使ったことがないので若干操作が怪しいが、慎重にタッチしていく。
「ええと、ここを……こうかな?」
少し時間はかかったが、飯田君の番号が電話帳に登録してあることを確認する。
他には実家の孤児院と緑谷君と麗日さんなので少ないが、元々人付き合いは苦手で交友関係が狭いので仕方ない。
だが今はそのような事情は置いておいて、飯田君の顔をじっと見つめる。
「もしヒーロー殺しを発見したら、すぐ連絡して。
マップにピンを刺して、私でないA組の誰かでもいいから」
後ろで話を聞いているクラスメイトに視線を向けると、私の意図に気づいたらしい。
皆が任せておけとばかりに、力強く頷いてくれた。
「飯田君には酷なことを言うけど、インゲニウムはヒーロー殺しに負けた。
正直、キミが勝てるとは思えない」
ステインは多くのヒーローを殺害、もしくは再起不能に追い込んでいる。
それでも捕まらずに、これまで逃げ延びているのだ。
少なくとも戦闘能力が、かなり高いのは間違いない。
「相手の個性も掴めていない今、単独で戦えるのはトップヒーローぐらい」
プロヒーローでも普通に負ける相手で、しかも個性も不明なのだ。
下手をすれば、トップレベルでも負ける可能性があった。
「絶対に一人で戦ったら駄目。仲間を頼って」
飯田君を真っ直ぐに見つめる。
とにかく彼に伝えるべきことは全て言い終わったので、私は大きく息を吐いた。
「わかった。ヒーロー殺しを見つけたら、すぐに連絡する」
「お願い」
ヒーロー殺しを探すのは止めないが、もし見つけたら誰かに連絡が入るようになった。
それが私か他のクラスメイトかはわからなくても、すぐに警察やヒーロー事務所に伝えられるだろう。
とにかくこれで数少ない友人が大怪我したり、殺される事態は避けられるはずだ。
(ステインは他のヒーローに捕まるか、飯田君とは出会わないのが理想)
だが未来は誰にもわからない以上、今は飯田君の無事を心の中で祈るのだった。
少々不穏な気配があったものの、一年A組の職場体験が始まった。
正直かなり悩んだが、ナンバーツーヒーローのエンデヴァーの事務所に行くことになる。
それに関しては、別に深い意味はない。
業界最大手で個性の幅も広いので、合理的だという理由で選ばれたのだ。
私の個性は使い勝手が良く、様々な局面への対処が可能である。
そして大手の事務所なら活躍の機会だけでなく、学ぶことも多い。
普通に良い選択だったのではないかと思う。
それはともかく、事務所の受け付けを殆ど顔パスで通り抜ける。
久しぶりに再会したプロヒーローのバーニンさんに軽く挨拶して、そのまま奥に案内された。
ちなみに職場体験は私だけではなく、轟君も一緒だ。
案内役を含めて三人で廊下を歩いて、執務室に移動する。
特に問題なくエンデヴァーと面会できたのは何よりだ。
しかし、相変わらずの強面顔であった。
「待っていたぞ!
ようやく覇道を進む気になったか!」
立派な父親やヒーローとして、家族に尊敬される目標を定めたはずだ。
あの日の相談は一体何だったのかと言わんばかりの、色々駄目なお父さんに思える。
「アンタが作った道を進む気はねえ。俺は俺の道を進む」
案の定、轟君は炎熱系の個性持ちなのに、家族関係はキンキンに冷えきっている。
私にとっては見慣れた光景で、バーニンさんは慣れているらしい。
今は職場体験中だし他所の家なので珍しく空気を読んで黙っているが、ナンバーツーヒーローは突然大声をあげた。
「ふん! まあいい! お前たちも準備しろ! 出かけるぞ!」
「何処へ?」
「ヒーローというものを見せてやる!」
ここで私は、エンデヴァーがこれから何をするのかを何となく理解する。
彼は息子に、自分がどれから優れたヒーローかを見せようとしているのだ。
父親は背中で語ると聞いたことがあるが、それは現代よりも昔の考え方のはずである。
しかし家族を思っての行動なのは明らかで、たとえ小さな一歩でも前に進んでいくつもりだ。
二人のやり取りを外から眺めている私は口を出さずに、だけど空回りしてる感が否めないと思ったのだった。
職場体験が始まってから、毎日のようにパトロールに出ている。
そして市内に起きた事件や事故を、迅速に解決していく。
エンデヴァーは轟君に良いところを見せたいようだが、互いの温度差ゆえに全く伝わっていないような気がする。
「やっぱり斥流は凄えな」
少し遅れて現場に駆けつけた轟君は、コンビニを襲ったヴィランたちを重くして動けなくしている私を見つける。
「そんなことない。エンデヴァーが協力してくれたおかげ」
視界から外れると、ヴィランにかけた個性が強制的に解除される。
エンデヴァーが上手く立ち回ってくれたおかげで、周囲の人にも怪我がなく速やかに捕獲できたのだ。
「見たか!
しかし背後のエンデヴァーが息子を前に得意気にドヤっているのが、馬鹿でかい声からヒシヒシと伝わってくる。
今までの轟君は、父親のヒーロー活動を殆ど見たことがない。
この機会に、立派で尊敬できる父親だと思ってもらいたいのだろう。
けれど元々彼はあまり感情を表に出さないし、私も何を考えているのか良くわからない。
なので、父に対する好感度は不明である。
何にせよ今は決して高いとは言えないため、どうしたものかと考える。
「私は重力を操作するから、この場から動けない。
轟君は視界を塞がないように、ヴィランの捕縛をお願い」
「おう、任せておけ」
事務所には連絡したので、増援や警察がそのうち到着する。
だが迅速に犯人を確保できて轟君の到着も早かったので、少し時間がかかりそうだ。
続けて私は、強面の表情には出さないが内心で困っているであろうエンデヴァーに声をかける。
「エンデヴァー、轟君に捕縛のお手本を」
「うむ! ヴィランの捕縛は、ヒーローの基本だ!」
エンデヴァーは、すぐに私の意図に気づいたようだ。
息子である轟君に近づき、真面目に指導を始めた。
だがその光景は父子ではなく、まるで会社の先輩と後輩である。
相変わらずコミュニケーションの取り方が不器用ではあるが、それでも少しずつ歩み寄っているのは間違いない。
いつか仲直りできたら良いなと思いつつ、ヴィランを逃さないために重力操作を続ける。
しかしそれから間もなく、管理区域内で他のヴィランが暴れていると報告が入ってくる。
私はその場から動けないので、指導中だったエンデヴァーが向かうことになり、渋い顔をしながら一時的に轟君と別れるのだった。