重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
だがその際に、エンデヴァーと私が協力して捕らえたことになる。
実際には轟君と緑谷君と飯田君の三人のおかげだが、警察関係者と相談して伏せることになったのだ。
なお、何故か自分が関わっているのかと言うと、ヒーロー殺しの演説中にぶん殴ったせいである。
誰かがカメラで撮影していたようで、それがネットにアップロードして世界中に拡散された。
もはや自分が関わってないとは言い逃れができないほどに、決定的な状況証拠なのだ。
ついでに現場のプロヒーローたちは、彼の気迫に飲まれて動けなかった。
しかしただ一人空気を読まずに、ヴィランをぶっ飛ばしたのが私である。
ヒーロー免許を持っていない学生でも、名前だけは広く知られている。
無駄に実績がある一般人である程度は大目に見てもらっているため、ステインを捕らえても問題なしだ。
それに今さら功績が一つ二つ増えたぐらいで、日常生活が激変したりはしない。
雄英高校を卒業するまでは、ヒーロー(仮)として授業の一環でちょこちょこ活動はするだろうが、それだけだ。
免許を修得して卒業したあとは、野となれ山となれなので気楽なものなのだった。
ちなみに現在はアップロードと削除のイタチごっこで、隠れていた悪意はステインに感化されて一斉に動き出すとか言われているが、その辺りは公安警察やプロヒーローが頑張って何とかするだろう。
学生の身である私には、基本的に関係も影響もないので我関せずを貫くのであった。
少しだけ時が流れて、私は職場体験を終えて雄英高校に戻ってきた。
いつも通りに登校して一年A組の教室に入ると、皆が各々のヒーロー事務所でどんなことをしたかを語り合っており、自然とヒーロー殺しの話題になる。
轟君と緑谷君と飯田君が中心ではあるが、やはり私にも声がかかった。
エンデヴァーと共闘して倒したことになっているものの、自分は最後に一発ぶん殴っただけだ。
なので自分の席に座って教科書を開きながら、私はどう答えたものかと頭を悩ませる。
「殆どエンデヴァーがやって、私はサポートしただけ」
そんな感じに無難に答えておいた。
脳無と戦ったり増援のヒーローを呼んだのは彼だ。
それに自分がサポートに徹していたのは本当なので、嘘は言っていないのだった。
夏休みには合宿がある。
しかし、その前に期末テストを受ける必要があった。
予習復習は毎日きちんとやっているが、筆記と演習の二種類あるし気は抜けない。
ルームメイトである麗日さんと一緒に、勉強を頑張って決して油断せずに試験に望む。
同居人はあまり勉強が得意ではないようなので、私が少し教えることになった。
こっちも見直しになるので構わないし、数少ない友人とコミュニケーションを取るのも悪くはない。
そんなこんなで三日間に及ぶ筆記試験を終えて、次は演習をすることになった。
話を聞く限り、前年度まではロボット相手の戦闘だった。
しかし今年は、二人一組と教師一人で対決する実戦に近い形式に変わったらしい。
ちなみにA組は特別枠の生徒が一人居て、二十一人だ。
どうしても割り切れずに、余りが出てしまう。
結果、また私だけ別枠で行うことになったが、基本的に相性が悪い教師との組み合わせだ。
試験に挑む前から、先行き不安なのだった。
なお、私の番が来るまではカットさせてもらう。
皆は凄く頑張っていて、色んなドラマがあったという結果だけが残る。
それはともかく、時は流れて最終戦になった。
私は一段階だけ抑制を解除して、試験会場である市街地演習場に移動する。
視界が開けていないビル街なため、この時点で自分の個性とは相性が悪い。
私が冷静に状況を分析していると、周囲に大きな声が響き渡る。
「斥流チーム! 演習試験! レディーゴー!」
チームと言いつつ、実際には一人っきりの孤独な戦いが今始まった。
「手加減なしのプロヒーロー二人と戦う! 酷い苛め!」
他の生徒の試験を見た限りでは、教師に体重の半分の重りをつけていた。
しかし私にはプロの中でも上位のヒーローを呼んで、全力で戦わせるのだ。
静かに耳を澄ませれば誰が相手かと、おおよその位置はわかる。
なので比較的冷静ではあるが、やりにくいヒーローには違いないので、つい溜息が出てしまう。
すると目の前の地面に影が差して、私はそれを確かめるために顔をあげる。
「やあ、斥流ちゃん。久しぶり。
あっ、それとも流星ヒーロー、シューティングスターって呼んだほうがいいかな?」
ランキング三位のプロヒーロー、ホークスである。
彼は市街地演習所の上空を飛び、私を発見したようだ。
飄々とした態度でも決して油断せずに、こちらに話しかけてくる。
相変わらず何を考えているのか、良くわからない。
だが、すんなり合格させてもらえないのは理解している。
「お好きにどうぞ!」
何にせよ、今の彼は敵だ。
私は懐からコインを取り出して、高速で射出した。
「おおっと! 怖い怖い!」
彼も背中の羽を自在に操り、すぐに迎撃に移った。
空中でぶつかり合って火花を散らすが、私はすぐに背を向けて走り出す。
(私は視界が遮られると解除される。でも、ホークスは違う)
どういう理屈か不明だが、ホークスの羽は見えてなくても自在に操れるのだ。
ビル街では私のほうが不利なため、彼を撃ち合いで倒すのは諦めたほうが良いだろう。
「逃げるの? 判断が早いね」
当然のように後を追ってきたので、駄目で元々でホークスに加重をかけようと試みる。
だがすぐに彼はビル陰に隠れ、個性の範囲外に逃れてしまう。
「けれど、ピンチはチャンス」
いくら私を捉えているとしても、切り離された羽は本体よりも動きが遅い。
一段階の抑制解除には追いつけないため、逃げるチャンスでもある。
今のうちにゴールに駆け込めば、演習試験は合格だ。
ここは逃げるが勝ちで、私は全力で走り出す。
雄英高校の市街地演習場はかなり広いが、今の自分ならすぐにゴールに辿り着けるはずだ。
けれど、わかってはいたが世の中はそんなに甘くない。
「待っていたぞ! 流星ヒーロー! シューティングスター!」
「うわぁ」
建物の影から飛び出してゴールが視界に入った瞬間、プロヒーローのエンデヴァーが仁王立ちして待ち構えていた。
予想はしていたが、取りあえずは慌てて急停止する。
「悪いね。シューティングスター」
最初からゴール前で戦うつもりだったようだ。
後ろから悠々と追いついたホークスがゆっくりと降下して、そのまま私の背後に着地する。
(一人ずつ倒すべきだった?)
だがあのままホークスと戦っても、向こうはまともに相手はしなかっただろう。
真正面からの戦闘は私が有利だが、時間制限がなくなるまで逃げ回れば相手の勝利なのだ。
しかも今の自分は、ヒーローを演じている。
市街地への被害は可能な限り抑え、ヴィラン役と戦わなければいけない。
なので私は怯まずに気合を入れるために、現状できることを大きな声で口に出した。
「戦闘を行いつつ、チャンスがあればゴールに向かう!」
他にも色々な作戦があるだろうが、私にとってはこれが現状の最適解だと判断する。
試験を突破する条件、は最初から提示されていた。
向こうも私がどのように行動するかは、予想できていただろう。
「ならば! 乗り越えてみろ!」
エンデヴァーが両腕を十字にクロスさせて、両手両足を大の字に開いた。
「受けろ! プロミネンスバーン!」
熱線を極限まで圧縮して放射する必殺技だ。
彼は市街地への被害など、お構いなしで攻撃してきた。
まともに受けたら、常人は間違いなく灰になってしまう。
そして私の柔肌はともかく、耐熱性に優れたヒーローコスチュームも燃えてしまうかも知れない。
一瞬、空中に逃れることを考えたが、背後のホークスにここぞとばかりに狙い撃ちにされそうだ。
ならばと、抑制を二段階まで解除して地面をしっかり踏みしめる。
「吹き飛ばす!」
私は全力で拳を振るうことで、凄まじい突風を発生させる。
エンデヴァーの奥義と真っ向勝負であり、互いの一撃が衝突した。
しばらく拮抗したのちに、相殺に成功する。
だが衝突の中心地は、周辺への被害が酷いことになっていた。
かつては市街地演習所だったが、今は瓦礫の山である。
しかしおかげで巻き込まれることを恐れて空に飛び上がったホークスが、激しく乱れる気流に翻弄されていた。
ほんの少しであっても自由に動けなくなった今が、絶好の機会である。
「好機!」
「行かせん!」
技を放ったあとに体制を立て直したエンデヴァーが、今度は拳から炎を放射する。
横を抜けるためにゴールを目指して走る私を、カウンターのように直接殴りつけてきた。
ここで少しでも時間をかけると、ホークスが参戦してくるのは確実だ。
時間も限られているし、また二対一の戦闘に戻るのは避けたいところである。
だが私を迎え撃つエンデヴァーだが、身体能力を増強する個性ではない。
肉弾戦なら、こっちのほうが有利だ。
少なくとも抑制解除を二段階まで行えば、本気のオールマイトと真正面から殴り合えるのは確認済みである。
彼の攻撃を寸前で見切って避けた私は、背後のホークスを視界に収めた。
そして彼に加重をかけて、真っ逆さまに地面に落とす。
「ちょっ! エンデヴァーさん!? 避けてください!」
「おい! こっちに来るな!?」
いくらホークスでも、超重力からは逃れられない。
このまま地面に激突すれば、いくら手加減しても大怪我は確実だろう。
なので咄嗟にエンデヴァーがカバーに入り、間一髪で受け止める。
しかし、私の攻撃はまだ終わっていない。
「シューティングスターちゃん!?」
「どうも」
ホークスは私がエンデヴァーを追い抜いて、ゴールを目指すと考えていたのだろう。
だが実際には炎を纏った大男の影からひょっこり顔を覗かせたので、ナンバーツーヒーローも揃って驚愕の表情を浮かべていた。
おかげでほんの一瞬とはいえ二人は硬直し、その隙に悠々と手錠をかけられた。
「私の勝ち」
今の私はオールマイト並の速さで動ける上に、殆どゼロ距離まで接近を許した。
さらには二人揃って無防備な体勢なため、諦めてお縄につくしかないのだ。
「斥流チーム! 勝利条件達成!」
審判の勝利宣言も周囲に響き渡り、私の合格が告げられる。
負けたエンデヴァーは炎熱を吹かして、満足そうに笑う。
「良い動きだったぞ! シューティングスター!」
「はぁ、死ぬかと思ったわ」
そしてホークスは、超重力での落下が恐ろしかったようだ。若干青い顔をしている。
確かに必死に逃げようとしてもびくともせず、あのまま地面に叩きつけられたら大怪我確定だった。
怖がられても当然である。
「オールマイトに迫るパワー! この目でしかと見せてもらった!」
「本当に。流石は新世代の平和の象徴ですわ」
シューティングスターに名称が変わってそちらを呼んでくれたが、世間の評価は二代目オールマイトのようだ。
何とも渋い表情になってしまったものの、演習試験は突破できた。
今は二人の言うことは気にせず、赤点を取って補修を受けずに済んだことを、素直に喜んでおくのだった。