重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
少しだけ時が流れて、期末テストが終わった。
そのあとに
一人の欠員もなくA組の皆で行けるので、一安心である。
ちなみに次の休みに、全員でショッピングモールで行くことになった。
けれど、私は欠席させてもらった。
休日の大型店舗はとても混雑するのだ。
昔ならともかく今の私は有名人で、きっと皆に迷惑をかけてしまう。
それに、お金は節約するに越したことはない。
なので孤児院からの仕送りを管理している
お出かけを見送った私は一人で学習机に向かって、真面目に勉強をしていた。
やがて一段落したのでお茶を飲んで一休みし、椅子にもたれて息を吐く。
「……そろそろ行こうかな」
椅子から私はクローゼットの前に移動して、あまり袖を通していない私服を取り出す。
フォッションセンスにはあまり自信はないため、目についたものを適当に選んでいく。
「変装すれば、大丈夫なはず」
芸能人が変装して出歩いているのは、良くある話だ。
なので私も顔を隠せば、人混みでも目立たないかも知れない。
流石に大人数で行動すればバレるだろうが、遠くから見ているだけなら大丈夫だ。
何だかんだで一年A組の皆のことは気に入っているし、たまには外出するのも悪くない。
着替え終わった私は戸締まりをして、しっかり顔を隠してから、麗日さんたちが居るショッピングモールに向かうのだった。
公共交通機関を乗り継いで大型ショッピングモールにやって来た私は、超感覚を頼りにクラスメイトを探す。
顔を隠して移動してきたので見た目通りの小さな子供として扱われ、目立たないのは良いことである。
とにかく正面入口を抜けて店内に入ると、疲れたのかベンチに座って休んでいる緑谷君を見つけた。
「……あれは?」
私は声をかけてびっくりさせようと一歩踏み出したが、彼は一人ではなかった。
フードを被った誰かと、何かを話しているようだ。
最初はわからなかったが、じっと観察すると何処かで見た覚えがある。
「
雄英高校を襲撃したヴィラン連合の一人が、
護送中に脱走して行方を眩ませていたのに、それが何でこんな場所に居るのだろうかと首を傾げる。
だがそんな彼は、緑谷君の首に手をかけていた。
個性を発動させて、いつでも殺せる状況である。
「彼に私の正体がバレると不味い」
相手はヴィランなので正体がバレたり警察が来たら、緑谷君を人質にするか殺しそうだ。
ショッピングモールで遭遇したのは偶然ではあるが、今は隠れて様子を窺うしかないと判断する。
やがて麗日さんが現れて緑谷君に話しかけたときには、どうなるかと緊張した。
けれど幸い何も起きずに、無事に解放された。
少し咳き込んで顔色も悪いが、怪我もせずに生きているので良しだ。
「待て! 死柄木弔!」
余程苦しかったのか、緑谷君は汗をかき喉を押さえている。
そして、去りゆくヴィランを必死に呼び止めた。
「オールフォーワンは! 何が目的なんだ!」
「……知らないよ」
至極あっさりとした答えを返す。
死柄木はそのまま歩いて行く。
「それより気をつけとけよ。次会うときは、殺すと決め──」
だが、彼がまともに喋れたのはそこまでだ。
今まで隠れていた私は、抑制を一段階解除して勢い良く飛び出す。
そのままヴィランの横っ面をぶん殴って、吹き飛ばして壁に激突させる。
「がはっ!? てっ、てめえは!」
「流星ヒーロー。シューティングスター! 別に覚えなくてもいい!」
ショッピングモールの壁に叩きつけた
これで彼は、指一本満足に動かせなくなる。
「斥流さん!?」
「斥流ちゃん!?」
緑谷君と麗日さんが、同時に驚きの声をあげる。
今はヴィランから視線をそらすわけにはいかないので、顔を向けずに素早く指示を出す。
「二人は通報と、避難誘導をお願い!
コイツは触れたモノを崩壊させるから、迂闊に近寄るのは危険で拘束も難しい!」
「わっ、わかった!」
「う、うん!」
すぐに二人が率先して動き、周りの人たちも次第に状況を把握していく。
だが平穏な日常にヴィランが潜んでいたことを知らされ、動揺や混乱が大波のように広がっていく。
「おっ、オールマイトを殺したあとは、てめえの番だ!」
「オールマイトも私も、お前に殺されるほど弱くない」
その気になれば、
だがここには未だに避難が完了していない大勢の人が居るし、周辺被害をあまり広げるのはよろしくない。
なので凶悪なヴィランを捕らえるだけで、良しとしておく。
「ちっ! そのようだな! ここは退くしかねえか! ……黒霧ィ!」
指一本満足に動かせないのに根性で喋り続けるのは凄いと思っていると、私の背後に何者かの気配を感じた。
それと同時に、大勢の悲鳴が響き渡る。
「さあ! どうする! ヒーロー様よォ!」
「お前は、見下げ果てたクズ」
「ありがとう! ヒーロー! 最高の褒め言葉だぜ!」
視線はそらせないので気配で判断する限り、きっと脳無だろう。
緑谷君たちがヒーローと警察に通報しているし、避難も始まっている。
しかしこの状況は非常に不味く、下手をすれば大勢の犠牲者が出てしまう。
私には放置することはできず、覚悟を決めて大きな声を出す。
「やるしかない! ……変! 身!」
さらにもう一段階解放することで、本気のオールマイトレベルにまで身体能力を高める。
目の前のヴィランは、ここで捕らえておきたいが仕方ない。
視線をそらして黒霧のワープゲートで呼び出され、今まさに破壊活動を始めようとしている一体の脳無に狙いを定める。
「させない!」
混乱して逃げ惑っている人々の頭上を飛び越え、巨大な脳無の目の前まで一瞬で移動する。
そして下顎を勢い良く蹴り上げて、頑丈で重い体を上空に吹き飛ばす。
「重力加速! 三倍!」
跳躍と同時に重力を逆転させて、高速の蹴りを無防備な脳無に叩き込む。
久しぶりに私の服が圧縮された大気の熱で燃えたが、そこは非常時なので諦めるしかないのだった。
やがて煌めく流星になった私は地上にふわりと舞い降り、ボロ雑巾のようなった瀕死の脳無が、ショッピングモールから少し離れた駐車場に落下する。
もはや動き出す力も残ってないようで、死んではないが痙攣を繰り返すのだった。
戦闘が終わったので、封印をかけ直して幼女体型に戻る。
「……逃げられた」
怪我人や死傷者を出さずに、ショッピングモールの被害も殆ど出ていない。
けれど首謀者であるヴィランは逃げてしまった。
私は一般人だし、一人では手が回らないので仕方がない。
なので、あとは警察やヒーローに任せるしかないだろう。
だが、それよりも今は他にやることがある。
麗日さんを見つけて、真っ直ぐ駆け寄った。
「麗日さん!」
「どうしたの! 斥流ちゃん!」
今は避難誘導の真っ最中で、大忙しの彼女の元まで走って行く。
そして、大きな声で呼びかけた。
「服を貸して!」
「えっ!? あっ、うん! ちょっと待ってて!」
ショッピングモールで、服を色々買い込んでいるのを期待する。
サイズが合わなくて良いので、急ぎ替えの衣服に着替えたかった。
彼女も殆ど下着姿の私を見てすぐに気づいたようで、買い物袋の中身を慌てて確認するのだった。