重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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林間合宿

 ショッピングモールの事件のその後だが、警察とヒーローが懸命な捜索をしても死柄木弔(しがらきとむら)の足取りは掴めなかった。

 

 残念ではあるが、それは私の役目ではない。

 結果的に被害も抑えられたし、服が燃えても全裸にならなかった。

 損害賠償も請求されなかったので、良しとしておいたのだった。

 

 

 

 それはそれとして、雄英高校の一学期の全課程が終わる。

 夏休みに入ったのだ。

 

 本来なら、実家の孤児院に帰るところである。

 しかし今年は麗日(うららか)さんの下宿先に引き籠もり、長期休みの課題を黙々と進めていた。

 

 その途中で逃したヴィランのことを考える。

 

「うーん、捕まえても逃げられちゃなぁ」

 

 死柄木弔(しがらきとむら)黒霧(くろぎり)は捕まえるのに苦労するうえ、護送中に逃走したことがある。

 つまり裏で手引したヴィランが居るのは確実で、そいつを何とかしない限りはイタチごっこは終わらない。

 

「いっそ心が折るまでボコる?」

 

 ヴィランの心が折れるまで殴り倒せば、犯罪行為を止めて大人しく刑務所生活を送る気になるかも知れない。

 

「でもまあ、私が気にすることでもない」

 

 死柄木弔(しがらきとむら)黒霧(くろぎり)は全国指名手配されている。

 警察やヒーローも頑張っているし、一般市民である私と彼らが遭遇する確率は殆どない。

 

 だがショッピングモールでの事件は偶然だとしても、オールマイトと同じで私も標的にしている。

 やはり日夜個性と肉体を鍛え続け、万が一に備えておいほうが良いと結論を出したのだった。

 

 

 

 長期休みの合間に、雄英高校の林間合宿が始まる。

 現地まではバスに乗って移動するのだが、出発してから一時間後に突然停車した。

 

 全員が降ろされて外に出ると、辺りには何もない山岳地帯である。

 けれどそこには既に、関係者一同が待機していた。

 

「よう! イレイザー!」

 

 先に停まっていた黒い乗用車から、プッシーキャッツのマンダレイとピクシーボブが降りてくる。

 そして一連の流れでポーズを取りつつ、彼女たちは簡単な自己紹介を行う。

 

「今回お世話になる。プッシーキャッツの皆さんだ」

 

 相澤先生がそう言ったあとに、ヒーローマニアの緑谷(みどりや)君が大興奮する。

 

 しかし活動日数の話になった途端、ピクシーボブに取り押さえられた。

 

(でも、あの子は一体?)

 

 マンダレイの隣りにいる少年は、始終ムスッとした顔で私をチラチラ見てくる。

 何となく気になったので、言いたいことでもあるのかと声をかけようとした。

 

 けれどその前に林間合宿の説明が始まり、そっちはお預けにして黙って聞く流れになる。

 

「ここら一帯は、私たちの所有地なんだけどね。

 あんたらの宿泊施設は、あの山の麓ね」

「「「遠い!!!」」」

 

 一直線に落ちていけばすぐに着くが、入り組んだ山道を走れば時間がかかりそうだ。

 しかし、この時点で皆も何となく察したらしい。ちらほらとバスに戻ろうとしている。

 

「今は午前九時三十分。

 早ければ、十二時前後かしら?」

 

 この程度ならトップヒーロー二人とガチンコ勝負するより優しいし、面倒になったら飛んでいけばすぐに着く。

 相変わらずマイペースな自分は特に動揺もせずに、その場から一歩も動かない。

 

「十二時半までかかったキティは、お昼抜きねー!」

 

 皆は一斉に走り出してバスに戻ろうとするが、相澤先生から無慈悲な言葉をかけられる。

 

「悪いね諸君。合宿はもう、始まっちまってる

 

 続いてピクシーボブが両手を地面に置くと、足元の土が急激に盛り上がる。

 それはまるで洪水のように低いところに向かい、一斉に流れ出した。

 

 私は服を汚したくないので、重力操作で難を逃れて空中に留まる。

 その様子を相澤(あいざわ)先生が、微妙な表情で見ながら口を開く。

 

斥流(せきりゅう)、やり過ぎない程度に皆をサポートしてやってくれ」

「わかった」

 

 林間学校は成り行きで参加しているだけだが、雄英高校の教師やプロヒーローがわざわざスケジュールを組んでくれたのだ。

 マンダレイとA組の皆とのやり取りを聞きながら、ならば邪魔をしないように程々に空気を読んで動くべきだと思った。

 

 取りあえず重力操作によって、崖下まで一直線に落ちていく。

 そして皆の目の前で逆転させ、足音もなく静かに着地するのだった。

 

 

 

 十二時までに突破しないと、昼飯は抜きになる。

 そのためには土の塊の魔物を倒しつつ、魔獣の森を抜ける必要があった。

 私は相澤先生の指示通りにサポートに徹して、危ないときだけクラスメイトを助ける。

 

 彼らは未来のヒーローで、この程度の危機を切り抜けなければ凶悪なヴィランとは戦えない。

 なので林間学校を行い、過酷な環境で皆の個性を伸ばすのだ。

 

 取りあえず私は基本的に何もせずに、皆のあとをトコトコ付いていく。

 一年A組は決して弱くはなく、チームワークも取れているので魔物の殲滅力も高い。

 

 自分が手を貸す機会もあったが、殆どは彼らだけで何とかしてしてくれた。

 

 やがて日が暮れてきた頃に、ようやく林間合宿の目的地に到着する。

 

「何が三時間ですかぁ!」

「それ、私たちならって意味! 悪いね!」

 

 ピクシーボブはあらかじめ合宿地で待っていたようだ。

 一年A組の皆が空腹と疲れだけでなく、あちこち傷だらけで地面にへたり込む。

 

「でも正直、もっとかかると思ってた。

 私の土魔獣が、思ったより簡単に攻略されちゃった。

 いいよ君ら、特に! そこの四人!」

 

 そう言ってピクシーボブは緑谷君、爆豪君、轟君、飯田君を指差す。

 さらに若いツバメにツバをつけ始めたり、結婚適齢期がどうとかという話まで出る。

 

 私は完全に置いてけぼりなので気にしないが、緑谷君は謎の少年が気になっているらしい。

 相変わらず不機嫌そうな表情でこっちをチラチラ見ている子供のことを、率直にプッシーキャッツに尋ねる。

 

「ああ、この子は私の従兄弟の子供だよ」

 

 マンダレイの紹介を聞く。

 すると従兄弟から預かっているだけで、彼女たちの子供ではないらしい。

 

「ほら、挨拶しな。一週間一緒に過ごすんだから」

 

 しかし、少年はそれでも動こうとはしない。

 そこで優しい緑谷君が、ゆっくり近づいていく。

 

「えと、僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」

 

 子供に手を差し伸べる姿を見て、相変わらずの世話焼きだと思った。

 だが彼は私たちに背を向け、捨て台詞を口にしながら去っていく。

 

「ヒーローになりたいなんて連中と、つるむ気はねえよ!」

 

 その様子を見たマンダレイは、何とも困った顔をする。

 そして次に私を、じっと見つめた。

 

「……何?」

「いえ、別に。ただ、洸汰(こうた)君も大変だなと」

 

 どうやら子供の名前は、洸汰(こうた)君と言うらしい。

 今までの感じから、十中八九で私が関係している。

 

 けれど、正直心当たりは全くない。

 A組の皆にも注目されているけれど、本当に知らないのだ。

 

「私は何も知らない」

 

 他に言いようがなかった。

 始終マイペースで、嘘をつく性格でないことは良く知られている。

 なので、私の発言が事実なのを理解してくれた。

 

 疑問は残ったものの、私たちは本来の林間合宿に戻ったのだった。

 

 

 

 怪我や汚れはなくても、昼を抜いたのでお腹は空いていた。

 晩御飯は普段よりも量を増やし、美味しくいただく。

 

 次は温泉に入って汗と疲れを洗い流すのだが、その前にプッシーキャッツのメンバーから少し話があると呼び出された。

 

 しかし指定の部屋に到着した私が見たものは、腰にタオルを巻いた緑谷君が気を失った洸汰(こうた)君に寄り添っている光景だった。

 それにヒーローコスチュームを一部脱いだマンダレイの姿もある。

 

「どういう状況?」

 

 たった今到着した私としては、困惑しかない。

 事情を尋ねると温泉で峰田(みねだ)君が覗きを行い、それを洸汰(こうた)君が仕切り板の上に待ち伏せして阻止したらしい。

 

 けれどうっかり女湯を見てしまい、興奮のあまり足を踏み外して落下する。

 緑谷(みどりや)君が咄嗟に空中でキャッチして、事なきを得たということだ。

 

 説明を聞いた私は、とにかく何事もなくて良かったと静かに息を吐く。

 

「斥流ちゃんを呼んだのは、この子のことでね」

 

 私も気になっていたので、ちょうど良かった。

 そして、何となく緑谷君に視線を向ける。

 

「あの、僕は席を外したほうが良くないですか?」

「あまり大勢に言いふらすことではないけど。キミなら構わないよ」

 

 どういう判断基準なのかは、不明ではある。

 しかし私は、人と会話するのは苦手だ。

 緑谷君が居てくれたほうが心強い。

 

 そのことを伝えると、彼も付き合ってくれるようだ。

 ちょうどピクシーボブも、飲み物を持って部屋に入ってきた。

 

「この子の親はヒーローなんだけど。昔、斥流ちゃんに助けられてね」

「「えっ?」」

 

 私と緑谷君は同時に驚いた。

 次に飲み物を渡してくれたピクシーボブに、視線を向ける。

 

「全国指名手配中の凶悪ヴィラン、マスキュラーって覚えてない?」

「ええと、……多分」

 

 ヴィランとの戦闘はいつも短時間で終わるし、刑務所送りになるので二度と会うこともない。

 そもそもあまり興味がないことを覚えていられるほど、私はそこまで賢くはなかった。

 

「とにかくそこで斥流ちゃんは、洸汰(こうた)君の両親を助けたの」

 

 話している内容について、何となくは理解はできた。

 

「でっ、それ以来、洸汰(こうた)君は斥流ちゃんに憧れててね。

 わざとヒーローを毛嫌いしたりと、色々拗らせちゃったの」

 

 子供が拗らせるのは珍しくないが、ヒーローに興味がないところまで真似るのはどうかと思う。

 けれど洸汰(こうた)君の心情は、自分に憧れるという一点以外は何となくだが想像がついた。

 

「そういうわけだから言葉通りに受け取らず、それとなく気にかけておいて欲しいの」

「わかった」

 

 子供のお守りは慣れているし、気にかけるだけなら何とかなる。

 喋ってコミュニケーションを取るは苦手だが、見ているだけなら大丈夫だ。

 

「緑谷君もお願いね」

「わかりました!

 同じ人に憧れる者同士、洸汰(こうた)君を放ってはおけません!」

 

 緑谷君の口から、私があまり聞きたくない発言が出てきた。

 なので若干引きつった表情を浮かべ、彼に声をかける。

 

「オールマイトに憧れてたのでは?」

「憧れは一人じゃないから!」

 

 キラキラした瞳で見つめられながら返答された。こっちとしては、若干引いてしまう。

 

 確かに憧れの対象を複数持つ人もいる。

 それでもナンバーワンヒーローの平和の象徴と、一般女子高生を同列に並べないで欲しい。

 

 けれど、数少ない友人の趣味嗜好を諫めるのもはばかられる。

 

(夢と現実は違う)

 

 私に憧れる人たちも、いつかは夢ではなく現実を見るようになる。

 ただの一般人ではなく、本物のヒーローを目標にするのだ。

 

 自分は彼らの背中を、ほんの少しだけ押してあげたと思えばいい。

 なので私に憧れているのも今だけだと、気持ちを切り替えるのだった。

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