重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
林間合宿中に、ヴィランに襲撃された。
私は皆を助けるために別行動を取り、空高くから地上を見下ろしていた。
今のところは雄英高校の生徒が頑張っていて、怪我人は出ても何とか敵を撃退できている。
向こうが狙っていた爆豪君も、何とか危機を免れたようだ。
結果だけを見れば、私が表立って動かなくても何とかなったようだ。
けれど、被害が少ないに越したことはない。
寝覚めが悪いのも嫌である。
途中で脳無に襲われていた、
私は新しい装備である夜の闇でも目立たない黒いマントを被り、ジャージの下を着替える。
そして封印をかけ直して元のロリ体型に戻り、キラキラと輝く粒子の放出を止める。
用が済んだあとはお礼を言って、再び空に向かって落ちていくのだった。
しかし上空から監視していた気づいたのだが、緑谷君の成長は凄まじい。
凶悪なヴィランであるマスキュラーを、大きな怪我もなく撃破したのだ。
他の仲間の援護があったとはいえ、殆ど単独と言っても過言ではない奮闘ぶりである。
爆豪君も着実に力をつけていて、迫りくる危機に柔軟に対処して見せた。
私との戦闘訓練が生きてるかどうかはわからないが、彼も緑谷君とはタイプが違うが天才だ。
だがその最中に、マジシャンを気取ったヴィランの手により、爆豪君と常闇君は忽然と姿を消してしまう。
「はて、どんな個性?」
潜伏していた敵に、気づけない私も悪かった。
しかし、やはり距離が遠いと息を潜めて隠れている者を見つけにくい。
それでも耳を澄ませば、ある程度は向こうの声を拾えるので、私は少しでも状況把握に努める。
「我々はただ、凝り固まってしまった価値観に、それだけじゃないよと道を示したいだけだ。
今の子らは、価値観に道を選ばされている」
木の上から雄英高校の生徒たちに向けて語りかけるヴィランはとても目立ち、明らかに自分に酔っている。
だが上空に隠れて地上の様子に目を光らせている私にとって、今の状況は好都合だ。
「爆豪だけじゃない! 常闇もいないぞ!」
続けて
「わざわざ話しかけてくるとは、舐めてんなぁ!」
「元々エンターテイナーでさ。悪い癖さ。常闇君はアドリブで、もらっちゃったよ」
そう言ってマジシャンのヴィランは、輝く小さな二つの玉を見せびらかす。
彼がエンターテイナーと言うなら、きっとあれが二人が姿を変えた物だろう。
轟くんがとにかく取り返さなければと、最大出力で氷を放つ。
「悪いね! 俺は逃げ足と、欺くことだけが取り柄でよ!」
しかし、敵は巨大な氷柱による攻撃を予想していたようだ。
空を飛ぶように避けて、ひたすら逃げる。
「
予定通り! 五分以内に回収地点に向かえ!」
回収地点が何処かは、まだわからない。
それでもマジシャン風のヴィランを追っていけば、すぐにわかるだろう。
あの場に居たメンバーも、絶対に逃すまいと必死に追いかける。
その際に機転を利かせ、
あまりにも予想外の行動だったのか避けきれずにまともに当たり、地上に落下する。
だがそこには既に、敵の中で無事な者たちが集結していた。
さらには何処に隠れていたのか、
そこに一年A組まで混ざるので、何とも混沌としている。
だが向こうには、もはや交戦の意思はないようだ。
次々とゲートに入っては、何処かにある拠点に撤退していく。
しかし、マジシャンにぶつかった時に爆豪君と常闇君を取り返していたようで、奴らの目的は達成できていない。
私たちの勝利だと思われたが、ヴィランは何故かその様子を楽しそうに見つめていた。
「マジックの基本でね。物を見せびらかすときってのは、見せたくない物があるときだぜ」
そう言ってヴィランが口を開けると、舌の上には二つの玉が隠されていた。
三人がぶつかったときに奪っていたのは、轟君の氷だったのだ。
「「まっ、まさか!?」」
「右手に持ってる物が、右ポケットに入ってるのを発見したら!
そりゃ! 嬉しくて走り出すさ!」
奴はエンターテイナーを気取っているだけはある。
緑谷君たちが急いで追いかけたのに、ゲートに入ってお辞儀までする余裕があるのだ。
「待てえええ!!!」
「そんじゃ、お後がよろしいようで」
だが奴が完全な勝利を確信したそのとき、茂みに身を潜めていた
油断していたヴィランの横っ面に当たり、仮面が外れる。
それだけではなく、口から二つの玉が零れ落ちた。
ここで私はようやく監視を止めて、攻勢へと転じる。
「今っ!」
二段階の抑制解除を行うだけでなく、重力加速をかけて地上に向けて高速で落下する。
黒いマントやジャージが圧縮された空気により燃え出すが、どうせ髪や柔肌は無傷なので構いはしない。
光の粒子を放出しながら、すぐに個性の有効射程に入った。
なので奴が次の行動に移る前に、常闇君と爆豪君を重力操作でこっちに引き寄せる。
さらには耐熱袋から何枚ものコインを取り出し、黒い霧のゲートに向けて手当たり次第に乱射した。
「がはああっ!? にっ、二代目ぇ! おっ、俺のショーを台無しにしやがってええっ!」
マジシャンのヴィランに何発か当たって悶絶しても、手加減はしているので気絶することはない。
先程の余裕は何処へやらで、命からがら逃げるようにゲートの向こうへと消えていくのだった。
やがて地上が近づいてきたので重力を逆転させて、速度を落としていく。
勢いを殺しきれずに突風で砂埃が舞い上がったが、この場合は仕方ない。
とにかく私はゆっくりと地面に両足をつけて、青山君が隠れている茂みに顔を向けてお礼を言う。
「二人を取り戻すなら、ここしかなかった。
青山君、手伝ってくれてありがとう」
青山君はその場から動かずに、震えながらもガッツポーズをする。
この場に居る緑谷君、轟君、障子君は困惑しているようだ。
だが一から十まで説明するのが面倒なので、今は一旦置いておく。
取りあえず仕掛けを確認すると、服と違って燃えたり壊れたりせずにきちんと作動していた。
「うん、問題なし」
玩具のコインをワープゲートに向けて乱射したとき、
運が良ければヴィラン連合の足取りが追えるし、もし駄目でも何か手がかりが得られる可能性がある。
ジャージは完全に燃え尽きたが、幸い下着は無事だ。
今は早いところ先生に報告したほうが良いと判断した私は、再び幼児体型に戻る。
男子に服を借りることも考えたが宿舎に行けば予備があるだろうし、先に戻っていると皆に告げる。
そして、音もなく空に向かって落ちていくのだった。
少しだけ時が流れて、ヴィラン連合に林間合宿を襲撃されたことが全国ニュースで報道された。
雄英高校が完全敗北したと世論で騒がれ、各メディアは寄ってたかって叩き出す。
確かに、多くの怪我人が出てしまった。
ヒーローを目指す名門校が、何度も襲撃を許している。
お前の管理体制ガバガバじゃねえかと、憤る人も居るだろう。
けれど、私から見れば雄英高校は頑張って対策をしていた。
そもそもワープゲートと使っていつ何処に現れるかわからないヴィランを防ぐことなど、事実上不可能である。
しかし、林間合宿の場所を知る者が極僅かなのに襲撃された。
情報が何処からか漏れている可能性があり、非常に困った事態と言える。
私だったら責任追及の突き上げにキレ散らかし、やってられるかと匙を投げるだろう。
別にヒーローはやっていないが、もし就職していたら辞表の一つでも叩きつけて責任を放棄していた。
しかし雄英高校の先生たちは、正義感や責任感が強いようだ。
自分のように我が道を行くマイペースさや、無責任な行いはしなかった。
わざわざ記者会見を開いて、私たち生徒のために頭を下げてくれた。
大人として立派な対応だが、外から見ていてとても不快だ。
だからこそ普段なら断っていた出動要請を、二つ返事で引き受けた。
ヴィラン連合を潰せば、先生たちは二度と大衆の前で頭を下げずに済む。
それに友人や家族や知り合いも、怖い目に遭わなくなるのだ。
私はヒーローではないし、それになるつもりも毛頭ない。
強くなるために過酷な修業を続けているのは、全て自衛のためだ。
基本的に行き当たりばったりだし、いつもマイペースで難しいことは考えていない。
だからこそ一度決めたことは、一切躊躇わずに実行に移す。
さしずめ今は、打倒ヴィラン連合と気合を入れるのだった。