重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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斥流陰子vsムーンフィッシュ

 新聞配達が終わったあとは、いつもの公園で一戦交える。

 連勝記録を更新して二人と別れ、孤児院に帰って準備をしてから地元の中学に登校した。

 

 だがしかし、正直そこから先は地獄だった。

 

 日が昇って地域住民が起き始めたため、行く先々で声をかけられる。

 それだけではなく、声援を送られたり握手やサインを頼まれたりもした。

 

 もちろん自分は一般人でヒーローではないし、名声が欲しくてヴィランと戦ったわけではない。

 丁寧にお断りするか、聞いてもらえない場合はスルーして学校に向かったけれど、いざ到着すると周囲はさらに騒がしくなった。

 

 ちなみに良くされる質問は、どのヒーローが好きか、もしくは憧れているかだ。

 私は無難にオールマイトと答えておいたが、やっぱりナンバーワンヒーローは有名だと納得してくれるし、深く追求されずに済んでいる。

 実際には子供たちと一緒にテレビを見るときに画面に映る比率が高いので、何となく覚えた程度の情報しか持っていない。

 なので彼以外は殆ど知らないので、そこで会話が終わってくれると面倒がなくて助かる。

 

 けれど担任の先生が、雄英(ゆうえい)高校の合格は確実だとか言い出したのは、本当に困った。

 進路希望調査では地元の普通科高校を記入したのに、勝手に私の人生を決めないで欲しい。

 

 そういうわけで質問責めにされたり、動物園の客寄せパンダのように騒がれて、精神的に疲れきっていた。

 同じクラスの緑谷君と爆豪君も哀れに思ったようで、間に入って話題をそらしてくれたのは本当に助かった。

 そうでなければ無遅刻無欠席を諦めて、院長先生に迷惑をかけても孤児院に引き籠もっていただろう。

 

 それでも一ヶ月ほど過ぎた頃には、騒がれることも減り始めた。

 クラスメイトの緑谷君と爆豪君が防波堤になってくれたり、毎日のように世界中でヒーローが活躍しているので、そっちに話題が移ったのだろう。

 

 とにかく二人は私の数少ない友人に認定し、あまり喋らず関わらなくても、学校で唯一親しい生徒となったのだった。

 

 

 

 

 やがて時は流れて、私は中学二年生になった。

 相変わらず早朝の新聞配達や、一対二の戦闘訓練を殆ど休まず続けている。

 

 一年近く勝ち続けていると、わざと負けたほうが彼らのために良いのではと思い始めた。

 だが爆豪君に手加減して負けたらぶっ殺すと釘を刺されたし、緑谷君も口には出さないが正々堂々がご所望のようだ。

 なので仕方なく周辺被害を抑えめのガチ戦闘を行い、連勝記録を更新し続けていた。

 

 

 それはそれとして、またもや夏休み中に商店街の福引で温泉旅行を当てる。

 運が良くてラッキーだと喜ぶべきなのだが、前回がアレだったのでとても嫌な予感がした。

 心配であるが極めて低確率なヴィランの襲撃に、二度も巻き込まれはしないだろう。

 

 それにまたもや突っ返された育ての親の厚意を、無下にする訳にはいかない。

 なので私は少しだけ緊張しながら、電車に乗って他県の旅館に向かうのだった。

 

 

 

 外から見る限り、規模は小さいが悪くはない佇まいだ。

 商店街の予算の都合上だろうが、私的には豪華すぎると萎縮してしまうのでこのぐらいがちょうどいい。

 

 玄関の暖簾(のれん)をくぐって中に入ると、女将さんや他の従業員が熱心に仕事をしていた。

 そのまま受け付けに向かって歩いて行くと、来客の存在に気づいて驚きの声をあげる。

 

あらあらあら! お客様って斥流(せきりゅう)ちゃんだったのね!」

えっ!? 本当にあの斥流(せきりゅう)ちゃん!?」

 

 電話予約も斥流(せきりゅう)で取ったはずだが、その時は何の問題もなかった。

 なので直接会ったときに、何故そこまで驚かれるのかさっぱりわからない。

 

斥流(せきりゅう)ちゃんってアレでしょ! ほらっ! 一年ぐらい前に!

 

 きっと一年ほど前に、ヴィランと戦ったことを言いたいのだろう。

 

「ええ、まあ、多分

「やっぱりそうなのね!」

 

 静かに頷いたが、旅館の従業員は私のことを知っているらしい。

 だがあまり特別扱いされては、純粋に旅行を気軽に楽しめなくなるので正直困る。

 

「娘が斥流ちゃんの大ファンなのよ!」

「なあなあ、サインしてくれよ!」

「あっ! 私もサイン欲しいー!」

 

 ただの一般人なのにファンが居るのはおかしいし、何より私をヒーローとして扱わないでと思って、つい強い口調で返してしまう。

 

「私はヒーローじゃない!」

「でも、いつかはヒーローになるんだろう?」

「ならない!」

 

 旅館の人たちが悪い訳ではない。

 けれど旅行に来て早々に、他人からヒーローの話題を何度も振られたのだ。

 自分が好きではないモノを押し付けられたように感じて、少しだけ不機嫌になってしまう。

 

 私は女将さんに真っ直ぐ視線を向けて、荒々しく声をかける。

 

「私の部屋は!」

「えっ? あっ……その、お客様にとんだ失礼を!」

 

 機嫌が悪いのが、顔に出てしまったようだ。

 旅館の人たちは、何とも申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 そして各々の謝罪のあとに、気を取り直して真摯に対応してくれた。

 

「ただ今お部屋にご案内致します。どうぞこちらに」

 

 そのまま女将さんが個室に案内してくれて、私は小さな和室に入って荷物を下ろす。

 その間に、食事やチェックアウトの時間を教えてくれた。

 

「それでは、ごゆっくりお(くつろ)ぎください」

「どうも」

 

 女将さんが一礼して扉を閉めて足音が遠ざかる。

 取りあえず窓の外の景色を眺めながら、座布団に腰を下ろして一息つく。

 近くに置かれていたポットを使ってお茶を入れたあとは、テーブルの上にあった饅頭の包装を外していく。

 

「……はぁ、悪いことした」

 

 旅館の従業員の対応としては褒められたことではないが、感極まったと考えれば仕方ない。

 それにヒーローとして称賛させれば普通は嬉しいものだし、自分が世間一般の常識に当てはまらないのがおかしいと言える。

 

 けれど私は自らの性格を変えるつもりはないし、やはり苦手なものを無理に好きになりたくはない。

 

「私はヒーローじゃないし、アレが正解」

 

 この先も私の活躍を信じてデビューせずにガッカリするよりは、この件で幻滅してファンを辞めたほうが幸せだ。

 ヒーローは飽和状態で星の数ほど居るのだから、すぐに新しい推しを見つけられる。

 

 やがて饅頭を食べ終わって少しだけ気分が上向いた私は、よっこらしょと座布団から立ち上がる。

 

「よし、散歩に行こう」

 

 今は双方が顔を合わせ辛い雰囲気で、旅館に留まるよりは外で気晴らしをして時間を置いたほうがいい。

 なので出発前にお茶を飲んで乾いた喉を潤してから、財布などの貴重品を持って旅館の外に出かけるのだった。

 

 

 

 これといったあてもなく観光地を散歩していると、いつの間にか空には満月が輝いていた。

 街路灯や建物の光も合わさって、夜でも明るいので助かる。

 

 見知らぬ土地を適当にぶらつくのは良い気晴らしになり、おかげでかなり気持ちが楽になった。

 

「そろそろ帰ろうかな」

 

 今の私なら旅館の人たちに会っても、気まずくはならない。

 向こうも理解して、ヒーローについての話題を振られることもないだろう。

 景色を見ながら帰り道をのんびりと歩き始める。

 

 

 しかし一年ほど前にはヴィランとばったり遭遇してしまったが、そんな極めて低確率な厄介事が何度も起きるはずがない。

 重力操作の修行でこっそり遠出したときにも、あそこまで凶悪な敵とは出会わなかったのだ。

 

「ようやく旅行を楽しめる」

 

 今回は空を落ちるという手段ではなく、電車やバスに乗ってきた。

 地元とは別の市街を歩いていると、遠くに来たことを実感する。

 

 だがそのとき、またもや何処からか助けを求める悲鳴が聞こえた。

 

 そこから先は考えるよりも先に体が動き、殆ど条件反射で個性を発動させて、勢い良く空に落ちていっていた。

 

 周辺住民は誰も気づいていなかったことから、超感覚を持つ私だけが聞き取れたのかも知れない。

 

「何処?」

 

 自分でも何故こんなことをしているか、理由は良くわかっていない。

 けれど私は止まることなく、悲鳴が聞こえたと思われる地点を空を飛びながら探す。

 

「見つけた!」

 

 まだ遠くて、詳しいことはわからない。

 けれど大通りで男性らしき人影が、刃物のような何かを振り回している。

 周りの人たちは一目散に逃げるか必死に説得しているようだが、まるで聞く耳を持たない。

 

 おまけに彼は、恐怖で腰が抜けてその場から一歩も動けなくなっている少女たちを狙い、長い刃物で斬りつけようとしていた。

 

 衝撃的な瞬間を目撃した私は、自分が失敗したらあの子たちが殺されると内心で焦りながらも、それでも何処か冷静に対象を指定して個性を発動させる。

 

「落ちろ!」

 

 どうやら犯人の男は、刃を伸ばす個性らしい。

 腰が抜けて青い顔した少女たちの重力を操作して、遠くに落とすことで安全な場所に避難させる。

 

 支離滅裂なことを喋りながら暴れていた男性の刃物は、攻撃目標が突然移動したことで空振りする。

 地面に無数の刃が突き刺さった。

 

 だが不可思議な現象に驚いたのは彼だけでなく、助けた少女たちや逃げ惑っている人々も同じであった。

 

 ヒーローはまた来ていないようで、このままでは他の犠牲者が出てしまうと判断した私は、再び表舞台に立つ覚悟を決めた。

 

 なので彼女たちを庇うように、刃物男の前にアメコミヒーローのように勢い良く落下する。

 

「もう大丈夫! 何故なら! 私が来た!」

 

 怖がらせるのではなく少しでも安心させるために、ナンバーワンヒーローを真似て彼の台詞を口にする。

 とにかく私がやらないと、大勢の犠牲者が出てしまう。

 

 本当は矢面に立って戦いたくなくても、非常時ゆえに仕方ない。

 何とか気持ちを奮い立たせて、目の前のヴィランを睨みつける。

 

(どうか、訴えられませんように)

 

 しかし反射的に口にしたが、先程の言葉はオールマイトが良く使うもので私には似合っていないし、勝手にパクったことを訴えられたら、とても困る。

 

 けれど今は、そんなことを考えている余裕はない。

 自分の目の前に、刃物を操るヴィランが居るのだ。

 私から見れば特に脅威とは思えなかったが、危険なことには違いない。

 

「肉、ああ! 綺麗だ! 子供の肉! 見せて!」

 

 そう言ってヴィランは、攻撃対象を切り替えた。

 私をめがけて自らの歯を刃に変え、高速で伸ばしてきたのだ。

 

 ここで先程は意図せずスーパーヒーロー着地を決め、地面がえぐれて周囲に破片が飛び散っていることに気づく。

 なので私はそれを利用することを思いつき、右手を前にかざす。

 

「剣よ!」

 

 大声を出すと散乱している破片が一斉に舞い上がって寄り集まり、無骨な剣を形作る。

 

「肉! 見せてええええっ!!!」

「断固拒否!」

 

 そしてヴィランの刃と、私が振るう剣が激しくぶつかり合う。

 月夜の晩の大通りに、明るい火花を散らした。

 

 この形体は殺傷能力が高すぎるし、勝手に地面を掘り返して素材にするのは犯罪なので、滅多に使うことはない。

 さらに言えば視界を確保している前方しか振れず、攻撃範囲はとても狭い。

 

 しかしその代わりに密度が半端ではなく、重力操作で補助していることもあって簡単には破壊されない。

 

「これでっ!」

 

 そして見た目よりも遥かに重いため、やがてヴィランの刃物が耐えられずにへし折れた。

 まさか押し負けるとは思っていなかったのか、敵は思いっきり動揺している。

 

「今が好機!」

 

 私は一瞬とはいえ動きを止めたヴィランを、重力の檻で捕らえる。

 

「がひっ!?」

 

 体重が急に倍になったことでヴィランはバランスを崩して、前のめりに倒れる。

 増強系の個性ならこの状態でも動けるが、彼はそうではないようだ。

 

 しかし身動きが取れなくなったが、まだ諦めていない。

 再び歯を刃に変えて、私をめがけて高速で伸ばしてくる。

 

「せいっ!」

 

 刃物に怯むことなく無骨な剣を振るうと、先程と同じようにへし折れる。

 だが次から次へと伸ばしてくるので、正直キリがない。

 

「はぁ、面倒」

 

 しばらくの間、歯の刃が伸びるたびにペチペチ叩いて潰していた。

 けれど同じ作業の繰り返しなので、飽きたというか段々と面倒に感じてくる。

 

 そこで私は手に持っていた剣をポイッと投げ捨てて、それの形状をギロチンの刃に変化させた。

 続けてプレス機のように上下運動させることで、ヴィランの個性を片手間に切断し始める。

 

「止め! 止めで!」

「止めない」

 

 何やら必死に懇願しているが、止めて欲しければ抵抗せずに大人しく捕まればいい。

 諦め悪く歯の刃を伸ばしているから、こっちも切り落とし続けているのだ。

 

 しかし、まともな精神状態でないヴィランに愚痴っても仕方がない。

 

(私はヒーローじゃないし、ここは彼らに任せる)

 

 そして刃物を無尽蔵に生み出せるヴィランに、危険を冒して近づく必要はない。

 私は彼の心がバキバキに折れて無抵抗になり、要請したヒーローが駆けつけるまで、伸び続ける刃を片手間に処理し続けるのだった。

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