重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
何処に書いて良いのかわかりませんが、評価バーに色がついた記念に前書きで。
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僕が彼女と初めてまともに話したのは、中学一年生の夏休みのことだ。
それまで同じクラスであっても目立つことはなく、彼女も積極的に他人と関わろうとはしなかった。
いつも一人で本を読んでいて、大人しくて運動が苦手で物静かな女の子だ。
あとは顔立ちが整った美人ではあるが、身長は百二十センチしかない幼児体型である。
なお口下手だが喋る姿は可愛いし、胸も本来の体格よりも大きめだ。
あとは困っている人には迷わず手を差し伸べる優しいところもあって、実はこっそり狙っている男子もかなり多い。
それに斥流さんは他人と大きく違うところがあり、小学生低学年ほどの体格から変わらないのに、何故か体重と胸位だけは増え続け、今では百キロを越えている。
これは重力操作の個性が悪影響を及ばしているので、仕方のないことだった。
とにかく殆ど接点がないどころか、学校で会話をしたことすらなかった
けれど中学一年生の夏休みの公園で僕たちは出会い、今までの関係が大きく変化することになった。
そのときの自分は、幼馴染のかっちゃんたちに、ヒーローノートを取り上げられて困っていた。
そこで彼女は人前ではめったに使わない個性を使用して、僕を助けてくれたのだ。
理由は、騒がしくて勉強の邪魔になるからと聞いた。
確かに大声で騒げば近所迷惑になるだろうし、気が散るのもわかる。
結果的に彼女は重力を操り、かっちゃんは爆破を使うこともできずに完敗した。
地元の中学で最強は
けれど彼女はそれを、真正面から打ち破って見せたのだ。
何にせよ僕は斥流さんに助けられ、彼女に強く興味を惹かれた。
それは恋ではなく憧れなのだろうが、とにかくその場の勢いに流されるように、駄目で元々ではあるが無個性でもヒーローになれるかを聞いてしまう。
彼女の答えは、無個性でもヒーローになれるだ。
即答であったが、そのあとに個性はないよりあったほうが良いとも言われる。
けれど人を助けるのに個性のあるなしは関係ないし、僕は誰かにとっての英雄にはなれるらしい。
僕はオールマイトに憧れていて、彼のような立派なヒーローを目指していた。
今までは無個性だからと理由をつけて諦め、外から見ているだけで特にこれといった努力をしてこなかった。
だけど今は違う。
斥流さんは毎日新聞配達のアルバイトをしているらしい。
早朝ジョギングでばったり出会って、そこで始めて知った。
僕は付いていくのが精一杯どころか、情けないが途中で脱落してしまった。
今まで体を鍛えていなかったのもあるが、個性を使っていない女の子に負けるのはとても恥ずかしく思えた。
なので悩んだ末に当面の目標をオールマイトから変更し、クラスメイトの
夏休みが終わる前には新聞配達を途中で脱落せずに付いていくことができたが、色々あってかっちゃんと二人で協力して
けれど将来はオールマイトのような立派なヒーローを目指している僕には、とても良い訓練になる。
さらに彼女がかっちゃんの自尊心をへし折りまくったからか、ほんの少しだが他人のことを思いやるようになった気がした。
けれど相変わらず周囲に対する風当たりが強く、斥流さん以外にはかなりの喧嘩腰である。
おまけに二人がかりで作戦を練っても、斥流さんには一度も勝てていない。
とても高い壁となって立ち塞がっているが、ヒーローとは限界を超えて前に進むものだ。
僕たちが倒されるまでの時間も少しずつ伸びているし、体力も確実についている。自身の成長を実感できる。
最初はぎこちないどころか足を引っ張り合っていた連携も、一ヶ月もすれば互いの目線だけで何を狙っていつ仕掛けるかがわかるようになる。
僕に対するかっちゃんの態度、言葉遣いは相変わらず刺々しいけど、それでも昔と比べれば多少は優しくなったのだった。
少しだけ時が流れて中学一年生の秋になり、僕が自室でダンベルを持ち上げて筋トレをしていると、母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。
「ちょっと
「えっ? 友達? ……誰?」
自慢ではないが、僕は友達がとても少ない。
無個性だと友好関係を築くのもなかなか難しく、特に母さんに顔を知られている同学年の子は数えるほどしかいなかった。
とにかく僕は疑問に思いつつも居間に向かうと、母さんがテレビ画面から目を離さずに興奮気味に叫んでいた。
「ほら、この子よ! 怪我をした
「何で斥流さんが!?」
テレビの全国ニュースには、
そして確かに戦闘訓練による疲労と転倒による軽い怪我で、その場から動けなくなった僕を抱えて家まで送ってくれたことがある。
幸いなことに早朝だったので、見た目は小学生低学年の女子に担いで運ばれる恥ずかしい姿を、近隣住民に見られることはなかった。
だが今はそれはどうでも良いので頭の隅に置いておき、テレビの全国ニュースに集中する。
すると、どうやら彼女は傷ついたヒーローや大勢の市民を守るために、凶悪なヴィランに単身で戦いを挑んだらしい。
「
「うん、彼女はとても強いよ」
彼女はプロヒーローのウォーターホースが敵わなかったヴィランを、たった一人で倒してしまえるほどに強かった。
途中で何度か危ない場面もあったが、咄嗟に機転を利かせて器用に立ち回り逆転の一手に繋げるので、見た目こそ幼くてもプロ並みの戦闘能力を有している。
「
「あらあら、うふふ!」
何やら母が変に勘違いしているようなので、僕はすぐに訂正を口にする。
「言っておくけど、母さん! そういう意味じゃないからね!」
「ええ、
その顔はわかってないなと思いつつ、困った顔で溜息を吐いた。
しかし母は、最近になって良く笑うようになった。
理由は僕がオールマイトに憧れるのは変わらなくても、無個性だからと諦めたりせずに前向きに体を鍛え始めたからだ。
だがそんな凄い彼女だが、別にヒーローは目指していない。
それどころか興味もなく、警察と同じで極力関わりたくないと常々口にしていた。
なお彼女の行動はヒーローを体現した立派なものであるが、このことを伝えると絶対に不機嫌になるので見えている地雷を踏む趣味はなかった。
僕がそんなことを考えていると、母が斥流さんの華々しい活躍を見ながら、もっともな疑問を口にする。
「けど
「いや、彼女は重力操作だよ。ええと、そのはずなんだけどね」
凶悪なヴィランが拳を地面に叩きつければ、小さないながらもクレーターができた。
流石にオールマイトには及ばないが、それに近い実力があるのは明らかだ。
けれど
さらに筋骨隆々の両腕で掴まれ、握り潰されかけた。
必殺の飛び蹴りはあまりの速さで周囲の大気が圧縮され、高熱を発して靴や服が燃えてしまう。
どう考えても常人の身体能力では耐えきれずに大怪我どころか、どれか一つを受けるだけで致命傷である。
「でも、意外と元気そうね」
「うん、怪我がなくて良かったよ」
斥流さんは怪我一つなくピンピンしてるし、色々気になることはあるが無事で良かった。
しかし、彼女の活躍が全国ニュースになるとは思わなかった。
今まで全く注目されていなかった少女が、プロヒーローでも勝てなかった凶悪なヴィランを倒したのだ。
ウォーターホースが相当なダメージを与えていたとしても、ニュースの映像では斥流さんが一人で倒したように見えてしまう。
それにヴィランを真っ向から打ち倒した、赤熱した流星のような高速の飛び蹴りだ。
あれは敵の渾身の一撃をも、上回る破壊力を有していた。
もし斥流さんがプロヒーローになれば、あの速すぎる男の異名を持つホークスと同じように、デビューしたその年にトップテンに入るのも夢ではないだろう。
だが僕はここで大きく息を吐き、世の中はそう上手くはいかないと首を振る。
「でも
「あんなに強いのに?」
母さんの疑問に静かに頷く。
僕はテレビの向こうでマスコミの取材に対して、考える余地なしで逃げの一手を選ぶ
こういった取材にも、彼女はあまり良い感情を持っていなかった。
行動そのものはとてもヒーローらしいのに、それでも断固拒否するのが容易に想像できる。
「彼女はヒーローじゃなくて、自衛のために体を鍛えているだけだよ」
「護身術かしら?」
過酷なトレーニングを続けているようだが、内容については不明な点が多い。
それでも筋トレを頑張っているのは、今までの付き合いから容易に想像できる。
僕は現時点で大きく差をつけられていると言っても過言ではないが、諦める気はない。
最高のヒーローになるための歩みを止めるつもりもなかった。
「あれが斥流さん、僕の憧れる師匠なんだ」
「えっ? そっちなの!?」
驚いている母さんは置いておいて、具体的なイメージが固まってむしろやる気が湧いてきた。
あれ程の強さを持った人が僕の訓練相手で、さらにアドバイスも聞かせてくれるのだ。
これは意地でも追いついて、彼女を驚かせたいと思った。
きっと斥流さんは笑顔で拍手を送り、祝福の言葉をかけてくれるだろう。
そんな光景が容易に想像できてしまい、少しでも早く憧れの彼女に追いつきたい。
なので僕は自室に戻って、中断していた筋トレを再開するのだった。