ダンジョンに英雄が集うのは間違っているだろうか 作:へたくそ
ここは【オラリオ】。冒険者が夢を、富を、声明を、そして未知をダンジョンに求める都市。多くのファミリが存在する中に、あるファミリアが誕生した。
通常ファミリアとは、一柱の神の元に子供たちが集まり構成される。ファミリアの名前はその神の名前で表され、エンブレムもその神のシンボルとして知られているもので表されることが多い。
しかしこのファミリアは全くもって、根本から他のファミリとは異なっている。いや、ファミリアと呼んでいいのかすらも怪しい。
なにせこのファミリアには神が存在しない。
ここである疑問が生まれる。神が存在しないファミリアで、一体どうやってステータスを与えられているのか。答えは簡単。他の神の加護を得ているからだ。
このファミリアは神の元に集まっているのでは無い。ある冒険者、ある人物、ある人間の元に集まって構成されたファミリア。
人はそのファミリアをこう呼ぶ。
「ケイデス、今報告が入った。今ロキファミリアが59階層で精霊と戦闘中、だいぶ苦戦しているようだ。」
「精霊と?フィン達はいないの?」
「いや、ちゃんと幹部は全員いるぞ。ただ相手がただの精霊ではないようでな、これは…穢れている?」
「今すぐ向かう。皆んなは後から付いてきてくれ」
ケイデスは話し相手のアレックスから"穢れている"という言葉を聞いた瞬間、59階層に急行した。今いるのはセーフティーポイントの18階層。普通であれば今から向かったとしても時間的にも間に合わず、多力的問題で戦闘に参加することは絶対に不可能。しかしこの冒険者、ケイデスは違う。オラリオで第一級冒険者と言われているLevel 5。ここまでに上り詰めたケイデスは今までに4つの二つ名を贈られている。そしてその最たる最初の二つ名はあまりも有名であり、オラリオ最強と呼ばれる”猛者”オッタルでさえも認めた。
それが神々がケイデスに贈った二つ名。普段は悪ふざけで冒険者達の二つ名を考えているあの神々が、その時だけは一切の妥協もなく、愚別もなく、尊敬と敬意と畏怖を持ってこの名を贈った。フィンの勇者とは違い、自らが望んだ二つ名ではなく、神々が望んだ二つ名。
その実力はLevel 1の時から周囲から大きく逸脱していた。有名な話でいえば、インファイトドラゴン、ミノタウロスを単独で討伐したという。しかも冒険者になって一月という駆け出しもいい時にだ。
そしてLevel 5になったケイデスの実力はあのオッタルですら勝つのは難しいと言わせたほど。そう、あのオラリオ最強の男がライバルとさえ言わしめた。そんなケイデスが18階層から59階層に到達するのにそう苦労はかからない。
一部の階層で利用できるダンジョンに縦穴を開けてショートカットし、ものの1時間でフィン達のいる59階層に到達した。
「火ヨ、来タレー」
オラリオで最高峰の魔術師、ハイエルフであり、全てのエルフから崇められる存在、それがロキ・ファミリアの三首脳の一人リヴェリア・リヨス・アールヴ。魔術に最も精通している冒険者でありが故に、彼女は悟ってしまった。
(これは、絶対に勝てないな…)
超長文詠唱を行使した魔法。堕ちたとはいえ精霊の使うそれは天変地異とすら言ってもいいほどの奇跡。それを防ぐことができるのであれば、それはLevel 6であるリヴェリアの魔法ぐらいだろう。
「リヴェリア!結界を張れ!」
絶対に守り通さなければいけない。それは上に立つ者の責務であり、仲間としての義務だ。そしてそれは他の仲間も同じだ。フィンの命令で他のメンバーが魔剣などを使い詠唱の妨害に入る。だがそれがあの精霊に通じるわけもない。当然、詠唱は止まらない。
「我が名はアールヴ!【ヴィア・シルヘイム!!】」
紙一重でリヴェリアの魔法が間に合った。
だが次の瞬間、静かに響いた。精霊の声が。
【ファイアーストーム】
彼女は静かに、手のひらにある灯火に優しく息をかける。それはゆっくり、ゆっくりと下へ落ちていき消えてくかのように思えた。が、次の瞬間、59階層は炎に包まれた。それはただの炎ではない。リヴェリアの障壁魔法を容易く破り捨てるほどに。
(今の衝撃は、59階層か?だとしたら例の精霊の仕業か)
ケイデスがいるのは55階層。4階層下の衝撃が来るなんて余程のことがない限りありえない。思った以上にまずいことになっていると感じたケイデスは更に地面に穴を空け下の階層への道を作った。
(ここからは一直線だな)
「も、森が…。階層ごと地形を変えるなんて」
焼け野原。まさにこの言葉が相応しい。
天変地異。まさにこの言葉が相応しい。
絶体絶命。まさにこの言葉が相応しい。
地ヨ、唸レー
絶望。まさにその言葉が真に相応しい。
来タレ来タレ来タレ大地ノ殻ヨ 黒鉄ノ宝閃ヨ 星ノ鉄槌ヨ 開闢ノ契約ヲモッテ反転セヨ 空ヲ焼ケ 地ヲ砕ケ 橋ヲ架ケ天地ト為レ
「ラウル達を守れえええええ!!」
降リソソグ天空ノ斧 破壊ノ厄災 代行者ノ名ニオイテ命ジル 与エラレシ我ガ名ハ地精霊大地ノ化身 大地ノ女王──
メテオ・スウォーム
逃げ場などない。空に浮かんだ魔法陣から巨大な隕石が顔を覗かせている。先程のファイアーストームで既に限界だった。それでも立ち上がれたのはロキ・ファミリアであるが故に、自分たちの誇りがあるが故に。だがそれも此処までだ。なす術はない。どうしようもできない。悪あがきさえ許されない。
その魔法は大地を抉った。それでもなお、あの精霊は周囲の魔力を吸収していく。また次が来るのだ。もはや言葉はない。立ち上がるものなどいない。そしてついに、この場にいる全員が悟った。
絶対的な死を
「あのモンスターを討つ」
ただ一人、勇者を除いて
「君たちに勇気を問おう。その目には何が見えている?恐怖か?絶望か?破滅か?」
フィン・ディムナ。彼は小人族だ。だがそんな彼の背中は、今ここにいる誰よりも大きく見える。
「僕の目には倒すべき敵、そして勝機しか見えていない。退路はもとより不要だ。この槍をもって道を切り開く。フィアナの名に誓って君達に勝利を約束しよう」
それはフィン・ディムナの矜持だ。一番最初に立てた誓い、一族の復興を存在しない女神に誓った。
「ついて来い」
故に、彼は止まらない
「それとも」
故に、彼は倒れない
「ベル・クラネルの真似事は、君達には荷が重いかな」
故に、彼は問わなければいけない
「己りよ強大な敵を前に彼は臆したか?君はどうだ、ベート」
強者であろうとすることがどういうことなのかを。
「彼は全てを出し切って戦った。君は全力を出したか?ティオネ」
本能に宿るその暴力はいかなるために存在するのかを。
「彼は冒険をした。生と死の境に身を投じたよ、ティオナ」
夢にまで見た憧れの情景を夢のままで終わらせてしまうのかを。
「あ”ぁ!?聞くまでもねえ!」
「まだ、ぜんっぜんです!団長!」
「だね!あたし達だって負けてらないよ!」
「ベル・クラネル。アイズ、彼は限界を超えてみせた」
己が今、一体どうするべきなのかを
「…うん」
そう、例え本物でなくとも、造られた者だとしても、それでもフィン・ディムナは正真正銘の勇者なのだと彼らは確信した。