小豆沢こはねに結婚を前提でお付き合いをお願いする話 作:こはねかわいいよこはね
杏さんはこれまでに見たことないほどに微妙な、苦虫を噛み潰したような表情でその重たい口を開きました。
「紹介したくないけど紹介するよこはね。この変態は紺野洋次郎。ここの常連で私達と同い年の、私にとってはまぁ……ほんっとーに悲しいけど幼馴染みたいな感じかな?」
杏さんがそこまで言うと、あとは自分でやれと言わんばかりの眼力でこちらを睨んできたので今度は私が口を開きます。
「言葉の所々に棘を感じるんですがそれは……まあいいか。……んん、お初にお目にかかりますマイフィアンセ。ただいまご紹介に預かりました私、紺野洋次郎と申します。歳は16、貴女と同い年だと思うので敬語なしのタメ口でお願いします。そちらのほうが私の癖にあって―――なんでもないです。とにかくタメ口でお願いします。そこのバカ女と同じ高校に通っているのですが無論私のほうが頭いいです。なので結婚してください。不束者ですが、よろしくお願い致します」
私は一度そう締めくくり、視線はこはねさんから変えずに片膝を付きました。そのままこはねさんの右手を取りゆっくりと手の甲に口づけを―――
「あの……えっ……えぇ!?」
「ふんっ!」
「あだぁ!?」
出来ませんでした。私の脳天に杏さんの拳骨が投下され直撃。私は無事脳震盪を起こしました。おのれ白石杏、私のファーストキスを邪魔しやがって。初心なファーストキスがよくわからん女によって阻止される、私はこんなクソッタレな世の中に中指を立てたい。
それはそうと今のこはねさんヤバい可愛くないですか?急な出来事にまともな声も出せずにあたふたしてるの……ヴッ!(尊死)
「次こはねに変なことしようとしたらここ出禁ね。こはね大丈夫?アレルギー反応とか出てない?」
「あ、ありがとう杏ちゃん……でも、えっと、出禁はその……ちょっとやりすぎじゃないかな?私、まだ実際になにか危ないことされた訳じゃないし……」
はい皆さん注目、ここに女神が居ます。優しさの化身です。これが天使です。大天使コハネエルです。崇め奉れ貴様ら。
「え―――」
「あ、杏ちゃん!?」
こはねさんに言われたことが辛すぎたのか、杏さんがまたショック死しました。
「また死にましたね。でもどうせすぐ生き返りますよ」
「だから死んでないって」
「ほら生き返った」
「あっ、よかった……」
は?こはねさんに心配してもらえるとか杏さん羨ましすぎませんかね?許せない……!
◆
あれからまた杏さんとの言い合いが始まり、十分程の不毛な争いの後、ついさっきようやく決着がつきました。私の勝ちです。ふっ、雑魚が。論破王の私に勝とうなんざ3日ぐらい早いんですよ。
そこに転がる白石杏の死体(生きてる)を眺めながらコーヒーを啜っていると、先程から何故かソワソワとしていたこはねさんが覚悟を決めたような、緊張した面持ちでこちらを見てきました。え、かっっっっっわ!
「あのっ!……あ、小豆沢こはねです……高校生一年生です……えっと、よろしくお願いします……!」
「ア゜」
「えっ、だ、大丈夫ですか!?」
私に向かって自己紹介をし、おさげにした薄ベージュ色の艷やかな髪を揺らしながらペコリとお辞儀をするこはねさん。それを見た私は盛大にコーヒーを溢し椅子から転げ落ち、言うまでもなく死にました。
えんじ色と相性がいい色って言われて真っ先に出てきたのが紺色でした。まぁ単に私がその色合わせが好きってだけかもしれませんが。