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彼は裏に身を置いていた、という事もあって戦闘能力は高い方だ。
裏の世界では、良く言っても二流程度でしかないけれど、しかし彼女達からすれば超一流の実力者である。
それは、思いの外、多くの生徒に知れ渡っている。
彼が買い物の帰りに、風紀委員と、事件の発端である犯人との争いに巻き込まれた時の事である。
「ん…?」
飛び交う銃弾の嵐、吹き荒れる爆風。
そんな中、黒いヘルメットを被った犯人であろう女子生徒とその共犯者達が彼の方へと走って来ていた。
そして、そんな彼女達を追っている少女―――もとい、風紀委員の一人、銀鏡イオリが声を上げた。
「待て! 逃げるな!って、先生!? 先生、危な」
危ない―――そう、言おうとした。
だが、言い切れなかった。
何故なら、そう言い切る前には既に彼は買い物袋を地面に捨て置き、動き出していたのだから。
向かってくる犯人達に臆する事なく、駆け出していたのだ。
「ちょ、先生!? 何をして」
ドカッ!――と、犯人のヘルメットに彼の繰り出した蹴りが直撃し、衝撃の音が銃弾飛び交う空間に響き渡った。
その光景に、イオリが、蹴られた犯人が、それを真近で見た共犯者達が、通信でそれを見ていたアコが、誰もが、驚愕した。
だが、当の蹴った本人は―――無表情だった。
犯人が地面に倒れ伏し、彼は身柄を取り押さえ、懐からロープを取り出して両手を強く縛る。
そして流れるように、犯人が持っていた銃…アサルトライフルの類に当てはまる銃器を奪い取り、撃たれぬように走り出し、坊勢としている共犯者達の手足へと的確に弾丸を放った。
次々と倒れ伏す共犯者達。無表情で犯人達を蹂躙する『先生』。
誰もが疑った。
本当に、あれが先生なのか…?
そう疑わずには、いられなかった。
「…あ。やぁ、イオリ。風紀委員のお仕事、お疲れ様」
「あ、あぁ。ありがと…って、そうじゃなくて! 先生、何をしたの!?」
「何って…身柄拘束だけど?」
「それは、そうだが…なんで先生がそんな事出来るんだと聞いているんだ! 私達が知る限り、先生にそんな戦闘能力は無かった筈だ!」
「それは、イオリ達が“知る”私の事でしょ?」
イオリの言葉に、彼は微笑みを消して無表情で答えた。
纏っていた柔和な雰囲気も、消え失せて冷たく重いものへと変わる。
手に持つ銃器と冷たくなった目線に、恐怖を煽られる。
「せ、先生…?」
「私にだって、“本気”で隠したい事の一つや二つある。それが、“これ”というだけだよ…って、ごめんね! 怖かったよね」
だが、それも一瞬で消し飛ばされた。
彼はすぐに無表情を崩し、少し慌てて、困惑しているイオリに謝り始めた。
それが更に、イオリとアコを困惑させていると、知らずに。
…まぁ、閑話休題。
これが、彼が実は強い人であるという証明となった訳だ。
人は見掛けに依らずという言葉があるが、正しくその通りだったという事だ。
柔和な雰囲気を纏い、いつも優しい笑みを浮かべていて、それでいてジョークも嗜む『先生』が、実は戦える人間であるだなんて、恐らく殆どの生徒が驚く事実だろう。
…まぁ、一部の生徒を除いて、ではあるが。
「あ、先生ー。おはよー」
「おはよう、ホシノ。今日は珍しく外出?」
アドビス高等学校廃校対策委員会委員長、小鳥遊ホシノ。
彼女だけが、彼の本質を見抜いていた。
「珍しいって何さー。わたしもお出掛けくらいするよー」
「殆ど寝てる時が多くない?」
「あー…うん、それはその通りなんだけど」
「はは。でしょ?」
「むぅ…あ、それはそれとしてさ、先生」
「ん? なに?」
「先生、殺っちゃったでしょ?」
ホシノが、笑みを浮かべたまま見通したように言った。
だが、彼は特に驚かず、焦られず、「うん。殺っちゃった」と答える。
まるで、悪戯がバレた子供が笑うかのような感覚で、彼は答えた。
またバレちゃった