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小鳥遊ホシノ。アビドス対策委員会に所属する3年生であり、それでいてキヴォトスにおいて最も強い生徒の一人として候補の上がる実力者の一人である。
それでいて、『先生』としての彼ではなく『業者』としての彼の側面を知っている数少ない生徒の一人である。
「…誰を殺ったの?」
「ただの物さ。ヒフミを襲おうとしてたから、殺したよ。捕まえても、また別の子を襲う目をしてたから都合が良かったよ。」
ただ、あっさりと彼は答えた。
生徒の為に、殺したと。ただ一人の生徒が為に、此処キヴォトスにおいて、そう簡単に起きる事の無い『殺人』を犯した、と。
生徒の為。その一点においては、ホシノとしても理解が及んだ。
アビドスの為に、対策委員会の皆の為に自分を差し出した事があるホシノだからこそ、そこにのみは理解が及ぶ。
だが、それでも―――『殺し』だけは、殺人だけは、それだけは、どうしてもどうやっても理解する事が出来なかった。
「うへー…それでも、殺すのは、ダメだと思うなー。」
「…うん。それは、私も分かっているつもりなんだけどね。でも、どうしても手が出てしまうんだよ。」
手が出る。これは、決して殴るやら、蹴るやらの一般的な暴力などではない。そんな、生易しいものなどではない。
彼の言う『手が出る』というのは、自分の持つ武器で相手を殺す事を意味する言葉である。
拳銃でも、ナイフでも。もしくは、ガラスであろうとも。
殺し屋としての実力は良くて二流で、決して一流などではなかった。
それ故に、使えるものは何でも使うというやり方で戦ってきた。彼は、そうして殺し合ってきた。
彼としても、殺す事はしなくて良かったのではいなか? と思う事はあるし、例え屑であろうと殺す必要は無いと思えるようになった。
だが、それでも。眼の前で大切な生徒が襲われている場面を見ると、銃を使って戦っている所を見ると、彼はどうしても手を出してしまうのだ。
「悪癖だねー。」
「悪癖か…はは、確かにそうだね。本当、凶悪な癖が残ったものだよ。」
乾いた笑みを浮かべ、彼は言う。対して、ホシノは浮かべていた笑みを消して、悲しい表情を浮べた。
今でも脳裏に浮かぶのだ。
アビドス対策委員会よりも率先し、適確に指示を出しながら前線で戦っていた先生の姿が…。
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銃弾が飛び交う嵐の中を、拳銃一丁を持った一人の男が率先して颯爽と駆け抜ける。
男の後ろを、銃を持った少女達が何とか食い付かんと走っていた。
「ちょ、先生、速すぎ! なんでそんな速いワケ!?」
「ん…私でも追い付くのが精一杯…」
『風紀委員会襲撃の時といい、便利屋襲撃の時といい…先生の身体能力はどうなっているんでしょうか?』
「身体能力というか、妙に」戦い慣れているような…?
ノノミの疑問に、皆が頷く中。彼は、自身に向かっている弾丸の全てを見切り、掠ることなく容易に躱していた。
バァンッ! と、彼が握っている一丁の黒鉄から慟哭と共に一発の弾丸が放たれる。
たった一発の弾丸、されど一発の弾丸。一粒の鉄塊は、雨粒のように降り注ぐ弾丸へと直撃し、そして跳弾を引き起こしたのだ。
全員が驚愕する。勿論のこと、動きは止めていないが、かれを追い掛ける事を止めてはいないが、されど驚愕した。
「――」
だが、彼は止まらない。目標を定め、飛んでいく一発の弾丸が如く、彼は飛翔するように駆け抜ける。
跳弾によって、自分の狙いから逸れて壁へと撃ち込まれていく敵の弾丸。
敵が焦る。だが、彼は焦らず前へと進む。彼女を、小鳥遊ホシノを、自分の生徒を助ける為に。
疾走りながら、躱す。焦りながらも、しかし確実に彼を殺すという決意が込められ、顔面へと飛んでくる幾つもの弾丸を、彼は疾走しながらも僅かな動作で躱す。
構え、定める。右手でグリップを握り、左手で安定させ、右手の指をトリガーへと掛けて、一丁の黒鉄を、敵の頭に向ける。
確実に殺せるように。必ず仕留められるように―――その為に、正確に。
狙うは頭。人間であれ、機械であれ、皆等しく急所であるとされている部分。そこを突けば、そこを潰せば、大抵の生物は死ぬ。
パァン―――と、乾いた銃声が嫌に耳に残る。
オイルが鮮血のように跳ぶ。人ではない機械が崩れ落ち、屍と化して倒れる。
グシャッ! と、容赦なく屍を踏んで、更に加速する。
眼前に別のロボットが迫る。銃口が彼の方に向いている。
バキッ! と、銃を握ったまま振り抜いた拳が、敵の銃口を斜めに逸らす。
ザッ。その隙に、一閃。相手の顔面に、腰から抜いたナイフを撃ち込む。
押し退けるようにロボットを払い、彼は走る。彼女のもとへ、小鳥遊ホシノのもとへ、疾走する。
「やっぱり…先生の動きは、身体能力云々のものじゃない。」
もはや追う事が出来ず、彼の背を目で追うことしか出来なくなってしまった生徒の一人であるシロコが、屍だらけの地面を見ながら呟く。
身体能力が高いから、とか運動神経が抜群だから、という次元の話しではない。
彼の動きは、「先生」の身のこなしは―――
「明らかに、戦い慣れている動きでしたね。」
「ん。攻撃の正確性に最小限の動作での回避、敵の急所の把握、隙の突き方と順応の速さ、そのどれもが凄いものだった。」
『先生はキヴォトスの外からやってきた方らしいですから、外で経験を積んでいたのでしょうか…?』
「…あんな綺麗な殺人技術の経験を積むって、キヴォトスの外はどうなってるのよ」
至って普通。
ただ、彼が育った世界が闇であったというだけだ。