ライスシャワーはダークヒーローとなる   作:黒い平方四辺形

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今を変えたいなら

 

 

「トレーナーさん、よろしいですか」

 

マックイーンとテイオーが沖野に声をかける。

 

「おう、どうした二人とも。神妙な顔をして…真面目な話か?」

 

「ええ、単刀直入に言います。わたくしを次のレースで勝たせてください」

 

「! …珍しいな、マックイーンがそんなことを言うなんて」

真面目な話であることを認識し、こちらも真面目な表情になる沖野。

 

「でも次のレースって、まだ決めてないんじゃなかったか?」

 

「今、決めましたわ」

 

「へえ…。お前の実力は本物だし、最近は調子もいい。

このままいけば誰が相手でも十分に勝てると思ってる。

それにいつもそうだったが、レースでは自分の全力を出して、結果はそれについてくるだけ。

それがマックイーンのスタイルだろう?…でも、そういう話とは違うってことか?」

 

「はい」

 

「理由は?」

 

「次のレース…ライスシャワーに勝ちたいのです。必ず」

 

「ライスシャワーか。強いとは思っていたが…天皇賞ではしてやられちまったからな。

そのリベンジってわけか」

 

「まあ、そんなところです」

 

「勝ちたい気持ちは大切だ。しかしさっきも言ったが、

今の調子を続けて行けば十分勝ち目はある、というか勝つと思ってるぞ。

だが勿論100%勝てるわけではないから、勝つ確率を少しでも上げたいというなら、

今以上にハードなトレーニングになるだろう。それでいいのか?」

 

「覚悟はできてます」

 

マックイーンの確かな表情を前に、沖野からも迷いや疑問は消えた。

「…そうか。オレはトレーナーだ。お前がそういうのなら全力でサポートするよ。

だけどグッときつくなるぞ。気合い入れてけよ!」

 

「はい!よろしくお願いしますわ!」

 

「いい返事だ。じゃあまずはライスシャワーの対策を練ることにするか。

ここ最近はかなり調子がいいようだから、

レースの映像やラップタイムなんかのデータがあると思うし、

まずはそれを集めてから研究することにしよう。ちょっと探してくるわ」

 

「待ってよトレーナー。それに関しては、ボクにナイスなアイデアがあるんだ」

 

「アイデア?どんなだ?」

 

「ライスのトレーナーに直接貰いに行けばいいのさ!」

 

「はあっ!?いやいや、自分の担当ウマ娘のデータを、

ライバルにくれてやるトレーナーなんているわけがないだろ?」

 

「勿論タダとは言わないよ?こっちの、マックイーンのデータをあげちゃって、

その代りにライスのデータをもらえばいい。交換だったらアリなんじゃない?」

 

「うーん、そもそも受け入れてくれるかだって怪しいが、

仮に交換できてもマックイーンのデータがバレバレになっちまうぞ。

知ってると思うが、ライスシャワーは入念に研究してくるタイプ。

敵に塩を送るようなもんだ」

 

「塩を送ることに…?うーん、そっかー。いいアイデアだと思ったんだけどなー」

 

ナイスアイデアだったのにー、としょんぼりするテイオー。

 

「ん?…いや、待てよ…」

しかし沖野がつぶやきながら動きが止まる。何か考えているらしい。

 

「トレーナーさん?どうかしまして?」

 

「…………行けるかもしれんな」

 

と言い、マックイーンの方を向く。

 

「マックイーン、確認するが。お前は『ライスシャワーに勝ちたい』と言ったな。

それはお前の走りのスタイルに関して、

多少不本意なものであっても実行すると受け取っていいよな?」

 

「…ええ。必要とあらば」

 

「よし。それならいい。

だったらマックイーンのデータと交換で向こうのをもらえるのが一番いいな」

 

「え、どういうこと?」

 

「後で説明はするが、まずは交換が成立してからの話だ。正直けっこう難しいと思うぞ。

ライスシャワーのトレーナーか…オレは交流ないからなあ。どうやって説得するかな…」

 

すると、それならボクらに任せて、とテイオーがずいぶんと自信のある表情で言う。

 

「えっ、テイオーに?お前ライスシャワーのトレーナーと知り合いなのか?」

 

「うん、ちょっとね。それに交渉成立できそうな雰囲気あったからさ。ね、マックイーン?」

 

マックイーンもテイオーの意図を察する。

「なるほど。確かにテイオーの言うとおりですわ」

 

「ふーん?まあ二人がそんなに言うなら任せてみるか。頼むぞ!」

 

「任せてよ。今週の日曜、会いに行ってくる。他にやりたいこともあるし…ね。

それまでにマックイーンの渡していいデータ、まとめといてね」

 

「日曜か、了解だテイオー。それじゃあデータをもらうまでは研究は置いといて…

マックイーンのトレーニングはスタミナとスピードを重点的にあげていくことにしよう」

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

「ああ。頑張ろうな、マックイーン」

 

 

 

 

 

日曜日。

 

ライスシャワーのトレーナー室に再びやってきた二人。

当然、ライスが不在なのを知っているからこの日を選んだのであった。

 

道すがら、来る前に沖野とやりあった話を思い出す。

 

 

『これがマックイーンのデータだ。

かなりしっかり入れてあるから交渉材料としては悪くないはずだ。

本当にいいなマックイーン?お前のデータ渡しちまっても』

 

『必要な事なのでしょう?それなら問題ありませんわ』

 

『わかった。じゃあ二人とも頼むぞ。しかし交渉に自信ありのようだが、

どんな作戦なのか教えてくれないか?ちょっと不安になるんだが…』

 

『だめだめー。これはボクたちしか知らない重要機密があるからねー』

 

『そうですわ。トレーナーさんはただ待っていればいいのです』

 

『わ、わかったよ。信じてるから頼んだぞ』

 

『任せて!』

 

 

 

「まあ、うちのトレーナーにはあんまり内容言えないよね」

 

「ええ、ライスさんのあの話は私たちの胸の中だけにしまっておきませんと」

 

 

ライスシャワーのトレーナー室にノックをする二人。

中からトレーナーが出てくる。

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼します。トウカイテイオーです」

 

「失礼します。メジロマックイーンです」

 

「あら、お二人とも。今日もライスは…」

 

「ううん、今日来たのもトレーナーさんに用があったからなんだ」

 

「…私に?どんな?」

 

怪訝な顔をするトレーナーに対し、テイオーは堂々と宣言する。

 

「今日は、ライスシャワーに宣戦布告しに来たんだ!」

 

「ですわ」

 

「せ、宣戦布告!?」

 

「次にライスが出るレース、それにマックイーンも出る。

必ずマックイーンが勝ってみせるよ!勝負だ!」

 

「このメジロマックイーンが、ライスシャワーを倒して見せますわ」

 

想定外の内容に驚くトレーナー。だが二人の表情は真剣そのものだ。

トレーナーもそこで二人の意図を察した。ライスを負かすこと。

それはライスに取りついている勝利への妄執を取り払うためだと。

 

 

「トレーナーさん。

先週言ったことは忘れてと言ってたけど、ごめんね、あれを踏まえて言わせてもらうよ。

 

ボクはね、昔は勝つことしか頭になかった。

憧れのカイチョーのように、無敗の三冠ウマ娘になる。それが目標だった。

でも無敗も三冠も失って、何のために走ればいいかわからなくなった。

前も周りも見えなくなっちゃった。

だけどボクはまた新しい理由を見つけた。

見えてなかっただけで本当はすぐそばにあったんだけどね。

 

ボクが負けたのがマックイーンでよかった。

ボクから目標を奪ったマックイーンが、今度はボクの目標になった。

ブルボンも言ってたんだ。

ライスはブルボンの夢を奪った。だけど、それ以上の夢と希望を与えた。

だからライスはヒーローなんだ、ってね。

 

…負け方にも種類がある。負けて絶望することもあれば、むしろ希望をもらえることもある。

ボクたちは、ライスを倒すよ。目標を奪う。だけど、そしてそれ以上の希望を与えてみせる。

今日来たのは、それを宣言するためだ」

 

 

続けてマックイーンが言う。

 

「わたくしはライスさんという強いウマ娘と戦って、

ライスさんの強さ、そして自分の弱さを知りました。

 

だから感謝しています。わたくしも、負けて得たものの方が多かったのですから。

わたくしにはたくさんのライバルがいて、たくさんの道がある。

それを教えてくれたのは、ほかでもないライスさんなんです。

 

だから、わたくしもライスさんにお返ししたい。勝つことがすべてではないと。

大切なのは、自分が何をしたいのか、

自分がなすべきことがなんなのか、自分が何を持っているのかだと。

ですから、わたくしはライスさんを倒します。そして今度はわたくしが教えて差し上げます。

ライスさんに求められているのは勝利だけではない。

他にもたくさんのものを持っているということを」

 

 

「二人とも…」

 

私がしたかったこと、私ができなかったこと。

それを、まっすぐな目で言ってくる。

この子たちも、ライスのことを愛してくれているんだね…。

 

最初から分かっていたことだ。永遠に勝ち続けるなんてまず無理。

いつか、どこかで負けるに違いない。

それが…いつなのか選べるとしたら。負け方を選べるとしたら。

 

担当の負けを考えるなんて、トレーナー失格かな。

だけど、それでも。私の気持ちは…

 

 

「…お二人の気持ちはわかりました。ただ、私はライスのトレーナーです。

私はライスの勝利を願い、ライスの勝利に力を注ぎます。

だから言えることはこれだけです。……いい勝負をしましょう」

 

「…ええ!」

 

「…うん!いい勝負をしよう!」

 

 

それと、と言いながらマックイーンが言う。

 

「…あと一つだけ言っておきます。

ライスさんにとって一番気が許せて、頼りになり、安心できるのはトレーナーさんのはずです。

わたくしの経験ですが…人からの期待を重圧に感じ、枷にしてしまったことがあります。

 

しかしトレーナーならば、それを枷ではなく、力に変えてあげるべきもの。

わたくしは友人として、同じウマ娘として、

ターフの上でしか伝えられないことを伝えたいと思います。

 

ですがコースの外で伝えられることは、あなたがやるべきことです。

勝った時も、負けた時も、迷った時も、立ち止まった時も。

次の道を示すのがトレーナーの仕事です。

 

ライスさんのことをちゃんと導いてあげてくださいね。あなたにとってのライスさんも、

ライスさんにとってのあなたも、きっとかけがえのない人なんでしょうから…」

 

「はい…。私にとってのライスは…何よりも、誰よりも大切な人だもの。

きっと…いえ、必ず!ライスのトレーナーとして、あの子を導くわ!」

 

「ええ、お願いしますわ」

 

 

 

 

話が一区切り付き、テイオーはもう一つの目的について話しだした。

 

「それでね、ボクたちはトレーナーさんを交渉もしに来たんだ」

 

「交渉?」

 

「うん、マックイーンのデータをいっぱいあげるからさ、

代わりにライスのデータをもらいたいんだ。

最近のレースのデータはあんまり持ってないんだよね。

だからさ、『交換』するの、どうかな?対等でしょ?」

 

『交換』という形なら、担当のデータを渡しても担当を裏切るようなことにはならない。

きっとトレーナーも多少協力的になってくれるであろうことも見込み、

テイオーが考えていた作戦だった。

 

「なるほど、『交換』ですか。…なるほどね。

いいですよ、そちらのデータをもらえるのはこちらとしてもありがたいですし」

 

「やった、交渉成立!これがマックイーンのデータね」

 

「ありがとう。じゃあちょっと待っててね。ライスのデータをまとめてくるから」

 

 

データを受け取り、帰り支度をする二人。

 

「それじゃ、ボクたちはそろそろ帰るね。失礼しました」

 

「失礼しました」

 

帰ろうとする二人にトレーナーが声をかける。

 

「あ、二人とも…」

 

「ん?」

 

「何でしょうか?」

 

「二人とも、ライスの事を大切に思ってくれて、ありがとう。

私も頑張るから!」

 

二人はもう何も言わなかった。ただ、笑顔を向けて去って行った。

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

宣言していた通り、マックイーンの出走登録の発表がなされていた。

マックイーンの出走登録と共に、巷ではライスシャワーとの対決が行われると話題となった。

街を歩いているとそれを話す人々の声も聞こえてくる。

 

「ついに来たな、マックイーンとライスシャワーの決戦!スゲー楽しみだよ」

「マックイーンは天皇賞でやられちゃったもんな。リベンジできるといいけど」

「オレはライスシャワー推しだから。ライスシャワーの二連勝を見たいぜ」

「おいおい、天皇賞の時はマックイーンを応援してただろ?」

「あの時はな。人は変わるんだよ!ライスシャワーの強さに惚れ込んだんだ!」

「ま、気持ちはわかるぜ。名ステイヤー同士の全力の戦い、絶対面白いぞ」

 

 

 

(全力の戦いを…か)

 

街の会話を聞きながらトレーナーは思う。

 

マックイーンさんとテイオーさんからの宣戦布告。

二人の覚悟と優しさを感じ、私の覚悟も決まった。

 

(ライス…私、決めたよ。次のレースの結果がどうなったとしても…

必ずあなたを、前のように楽しく走るあなたに戻すために全力を捧げるよ)

 

そして同時にもう一つ覚悟を決めた。

 

私はライスのトレーナーだ。

マックイーンさんたちがどんなつもりだろうと、私の気持ちがどうであろうと関係ない。

勝負だというのなら、私はライスを勝たせるために全力を注ぐ。

求めるものがあるのなら実力で…、それがウマ娘の世界だ。

 

マックイーンさんがライスに負けるようならそれまでの話。

二人の事は応援しているけど、こちらの全力を越えて行ってね。

私も覚悟を決めたから、あなたたちだけに頼ったりはしない。

 

 

 

 

トレーナー室に着くとライスシャワーが待っていた。

 

「ライスお疲れ様。今度のレースにはマックイーンさんも出るって話題になってるね」

 

「うん、そうみたいだね。でも誰が出るかは別にどうでもいいよ。

敵が誰がだろうとライスが勝つ。次のレースだってね」

 

マックイーンさんとの対決。昔のライスだったら目を輝かせながら喜んだことだろう。

だが今はマックイーンさんというウマ娘ではなく、単なる対戦相手としか認識していないようだ。

でももうそれでいい。この勝負にも、その先のことにも、私も本気で立ち向かうから。

 

「ええ、誰が相手だろうと全力で行くまでよ。

とはいえ、きっと次のレースで一番強いのはマックイーンさん。

天皇賞ではライスが勝ったけど、あの時よりも強くなってるはずだからちゃんと研究しないとね。

データはもう手に入れてきたからさ、これでじっくりと研究しよう」

 

「わあ、お姉さまありがとう!ライス、絶対勝つからね」

 

「ええ。勝負だからね…勝つわよ、ライス」

 

 

 

 

 

 

 

テイオーとマックイーンも手に入れたライスシャワーのデータを持ち帰り、沖野に渡す。

 

「トレーナー、交渉うまくいったよ!」

 

「本当か!さすがだなテイオー!

こりゃあ何かあったときには交渉人としてまかせてもいいかもなあ」

 

「なんだってボクに任せなさい!リーダーはこのボクだッ!」

 

「テイオーったらまた調子に乗って。探偵の時は見事に失敗してたでしょう」

 

「え、探偵?」

 

「二度の失敗はない、それがテイオー様なのさ」

 

「…? ま、なんにせよこれで本格始動できるな」

 

データを並べながら沖野が言う。

 

「聞いている限り、ライスシャワーは芯の強いウマ娘だ。

前のこともあるし、メンタル自体はネガティブなところもあるようだが…

『自分が決めたこと』に向かって突き進む芯の強さは相当なもんだ。

それはウマ娘として素晴らしいことだが…だからこそ。

その『芯』をつかむことができれば相手がどう動くか予想しやすい。

まずはそれを見つけよう」

 

「おっけートレーナー!研究開始だね!」

 

「マックイーンはとりあえず予定通りのトレーニングをしててくれ。

もらったデータは俺とテイオーで研究してみる。

何かをつかめたらそれに対応するトレーニングに変えていこう」

 

「承知しました。それでは、そちらのほうはお二人に任せますわ」

 

「よし、やるぞテイオー!お前も気合入れてけよ!」

 

あの帽子をかぶり、テイオーも気合いを入れる。

「ハードボイルドな名探偵テイオーにお任せだよ!

対ライスシャワー用戦略特化特別作戦、始動!!」

 

 




行われるレースはたぶんアルゼンチン共和国杯だと思います。
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