誰も夢の途中
有マ記念から数日後。
年が明け、再開した学校の昼休み、
ライスシャワーが食事をしていると後ろから声をかけられた。
「あ、ライス!隣いーい?一緒にご飯食べよう?」
「テイオーさん。もちろんいいよ…!」
「マックイーンのことなんだけどさ、立ち直ってくれたよ。
必ず治してボクらと走るんだ、って頑張ってる。
一度折れたボクとキミが、立ち直って立派に走る姿を見せられたからね。
ありがとう、ライス」
「そんな…。ライスは助けてもらってばかりだし、テイオーさんが頑張ってたからだよ。
でも、少しでもマックイーンさんの力になれてたならうれしいな」
「もっと自信持ってよ。マックイーンにとって、長距離ではキミが一番のライバルなんだからさ」
マックイーンのライバル。その言葉は、ライスシャワーにとって何よりもうれしい言葉だった。
自分が憧れ、目標としていた相手とライバルとなること。
隣に並べたという嬉しさ。ミホノブルボンの時と同じだった。
「! そ、そうだね…!マックイーンさんと走るときにガッカリさせないように、頑張るよ!」
「にしし、その意気だよ!……そうだ、ライス」
「なあに?」
「有マの時言ってたね。『誰よりボクの想いが強かった』って」
「うん、言ったよ」
「それってつまりさあ…
『気持ち以外は、体の仕上がりは負けてないぞ。調子に乗んな!』
ってことだよね?」
「え?そ、そんなつもりじゃ…」
「いやいや、あれは心に眠る本音が漏れちゃった感じだね~。
これは宣戦布告と判断する…テイオーに迎撃の準備あり!
また勝負しようよ!有マ以来、体がうずうずして仕方ないんだ!
ボクの体が真っ赤に燃えて、走り続けろと轟き叫ぶんだ!」
熱く語るテイオー。一年間もの間押さえつけられていた走りへの思いが、全身から迸っていた。
「勝負…。いいよ!ライスもまた一緒に走りたい!」
「やったぁ!でも有マはボクの勝ちだったからなー。
ハンデでもあげちゃおっか?ライスの得意な長距離でキミに勝ってー、
ライスからマックイーンの長距離ライバルの座も奪っちゃうモンニ!」
瞬間、ライスの瞳に青い炎が灯る。
「ライスと…ハンデとして長距離で走る…?」
「ヒョ!?ラ、ライスさん!冗談だったんだけど面白くなかったかな!?目が笑ってナイヨー!?」
隠れていた右目にも漆黒の炎が灯る。
「ライスからマックイーンさんのライバルの座を奪う…?とっても素敵な目標だね…。
それじゃあ、この3600mのレースにしよっか…?」
「だから目が笑ってないってばー!ごめんなさい、中距離にしてください!!」
「ずいぶん賑やかですわね。ご一緒しても?」
「あ、マックイーンさん!」
「!? ライスさん、その瞳は!?」
「た、助けてよマックイーン!ライスがボクのこと虐めるんだ!」
「まあ、ライスさんが?…って、そんなわけありませんわ。
どうせテイオーがちょっかいかけたのでしょう?」
「酷い言い草だね!ボクってそんな信用無いの?……まあ、合ってるんだけどさ」
「ほら見なさい。ライスさん、テイオーの言うことなんて気にしなくていいですわ」
「あのね、ライスの事をマックイーンさんのライバルの座から引きずり下ろすって…」
マックイーンの瞳から電撃が走る。
「………そんなことを言ったのですか?面白いですわね。
テイオー、あなたがライスさんに勝てるかどうか、見物させていただきましょう。
わたくしの目標として恥じることのない立派な背中を見せてくれるんでしょう?
……この3600mのレースはどうですか?」
「ヤバい!マックイーンの目も笑ってない!」
三人が騒いでいるところにさらなる乱入者が。
「あー!テイオーだ!有マ見たぞ、さすがテイオーだな!ターボのライバルなだけはある!」
「わあっ、ツインターボ!また面倒なのが!」
「何だよ面倒なのって!失礼だぞ!ターボはね、テイオーに宣戦布告しに来たんだ!
今度こそターボと勝負してくれるよね!」
「ま、まあ、してもいいけどさ…」
「ふふ、モテモテですわねテイオーは」
マックイーンがそう呟くと、テイオーに夢中になっていたツインターボが、
マックイーンとライスシャワーの姿を認識してしまった。
「あっ!!マックイーンとライスもいる!!二人もターボと勝負してよ!
ターボの逃げで、三人まとめて置いてけぼりにしてやるんだ!」
「えっ!?わ、わたくしは今、療養中ですので…」
「じゃあ約束ね!!治ったらターボと勝負!勝負!」
「ええと…そのうち、ですわ」
「テイオーの言うとおり面倒な方ですわね…」
マックイーンがぼそりと呟いた。
「ガーン!マックイーンまでターボの事を!」
「あーあ、やっぱり面倒なことに…いや、これはチャンスかも!
ねえターボ、みんなで勝負するならさ、中距離レースがいいって言ってくれない?
二人とも長距離でやろうって言いだすんだよ、ボクらの得意なフィールドで戦おうよ!」
「長距離レース!いいよ、ターボは長距離でも超距離でも!
どんなレースだって逃げ切って勝ってやるもん!」
「…だってさ、テイオーさん」
「…だ、そうですわ」
「あ゙ーっ!ボクに味方はいないのか!!くそっ、テイオー様は一度退く!!
これは敗北じゃない、ボクはもう一度頂点に返り咲ける能力があるんだー!」
叫びながら逃走するテイオー。
「あーっなんで逃げるの!?まだターボと勝負の約束してないよー!」
「ふふっ、テイオーもたじたじとは。ターボさんもなかなかですわね」
「ふふ、そうだね。でも、本当にそのうちみんなでレースしたいね」
「ええ。待っててくださいね、ライスさん。
あなたのように、強いウマ娘になりますから」
「えへへ…。ライスも、一緒に走れる日を楽しみにしてる!」
「ターボも一緒にやりたい!」
「ターボさんもですわね。テイオーと同じように、
ターボさんの諦めない姿を見習って…必ずまたターフに戻って見せますわ」
「うん!!ターボの背中を追いかけてきてね!」
放課後、トレーナー室に行ったライスシャワー。
入るなり、興奮気味に昼間の話をし始める。
「ねえお姉さま!聞いて聞いて!
あのね、マックイーンさんが復帰に向けて頑張ってるんだって!
それでね、ライスのこと目標にしてくれてるって!」
「あら、そうなの!こんどはあなたが背中を見せてあげる番ね!
それじゃあ戻ってきたときに追い越されないようにしないとね!」
「うん!ライス、精一杯頑張るよ!」
「それとね、あなたに一ついいお知らせがあるわ」
トレーナーがそう言うと、奥の方にいたミホノブルボンが顔を出した。
「ライス、お疲れ様です」
「え、いいお知らせ?…あっ、ブルボンさん!」
「あなたには真っ先に知らせたいと思い、直接来ました。
私の復帰レースが決まったんです」
「わあ…!ブルボンさん、脚が治ったんだね…!」
「はい。復帰レースで問題なく走れれば、今後は本格的にレースに参加していきます。
そうしたらライス、あなたと勝負ができます。それをずっと楽しみにしていました…」
「ブルボンさんっ…!」
ライスシャワーはミホノブルボンに抱き着き、喜びの涙を流す。
「ライス…ありがとうございます。あなたが居たから、私はここまで頑張ってこられました。
いつまでも、あなたは私のヒーローですね」
「ライスも…!ライスも、ブルボンさんが居たから頑張ってこられたよ…!
おめでとう、ブルボンさん…!」
喜びを分かち合いながら抱き合う二人。
その姿を見るトレーナーも、目じりには涙を浮かべていた。
ミホノブルボンがトレーニングに行くと去っていくのを見届けた後、ライスシャワーが呟く。
「ブルボンさん、レースに出るんだね。これで、ライスと勝負できるんだね」
「ライスはブルボンさんの事をずっと待ってたもんね。
彼女も強い子だから、きっとテイオーさんみたいに強い姿を見せてくれるはずよ」
「うん!ブルボンさんも、マックイーンさんも、みんな頑張ってる!
ライスも負けていられない!お姉さま、早くトレーニングしよう!」
「そうね、あなたの強く美しい走りを見せてあげないとね!
よーし!それじゃあ今日のトレーニング、張り切って行くわよ!」
「おー!」
ウマ娘。彼女たちの歩む道は必ずしも順風満帆ではない。
前が見えなくなる時も、通り雨に凍える時も、道が泥濘むときもある。
しかしそれに負けることなく走り続け、夢を追い続ける姿は見ている者にも勇気を与えていく。
彼女たちは今日も走り続ける。自分の夢を、自分の道を、自分の未来を信じながら。