はじめてのレース
ライスシャワーとトレーナーが契約をして数週間。
「ライスちゃん!新しいトレーニングメニュー考えて来たよ!」
「わあ、ありがとう!」
トレーナーの指導を受けることで、トレーニングの効率が大幅に上がった。
ライスシャワー自身も成長の実感を覚え、トレーナーについてもらってよかった、と感じていた。
「いいよライスちゃん!フォームも綺麗になってきましたね!
これを崩さないように走れるようになれば、どんどん記録も上がっていきますよ!」
「えへへ、ありがとうトレーナーさん。ライス、頑張る!」
「ん~!よしよしよしよし…!」
抱きしめて頭をなでまくるトレーナー。
「あわわ、くすぐったいよ~!」
悶えながらも嬉しそうなライスシャワーだった。
トレーナーがライスシャワーと接するようになって、いくつかのことが分かった。
ライスシャワーは弱気である。
「ライスのせいだ」「ごめんなさい」「ライスはダメな子」「みんなを不幸にする」…
自分を卑下する言葉がずいぶんと多い。この時点で育成方針は決定していた。
「褒めて、誉めて、ほめまくる!そして自信を持ってもらおう作戦!」
その一方で、ライスシャワーはただ弱気なだけではなかった。
自分がやりたいトレーニング、トレーナーから指示されたトレーニング、それらをこなす彼女の目は真剣そのものだ。
しかも絶対に弱音を吐くことはなく、あきらめることも全くなかった。ネガティブな側面はあるが、彼女はとても強い心を持っている。
一緒にトレーニングしている子に何度負けようと、次こそは勝つという勝利への執念。
勝負をするうえで最も大切な心が、彼女の中には大きく大きく燃えているのだ。
ますます魅力的だと感じていた。この強い心があれば、きっとどこまでも成長できる。
これで自信も持ってもらえるようになれば、無敵のウマ娘になれる!
そう期待しながら、日々のトレーニングを行っていった。
「ライスちゃん、あなたのデビューが決まりました!」
「デ、デビュー…ライスが…?」
「うん!今度行われるジュニア級メイクデビュー戦2000m、それに出てもらいます」
「レース…。ライス、ちゃんと走れるかな…」
「大丈夫!!ライスちゃんは毎日毎日トレーニング頑張ってきたでしょ?絶対にいけます!」
「トレーナーさん…。わかった、ライス、頑張ります!」
そして迎えたレース当日。
「いい天気ですね。バ場状態は良好、ライスちゃんの得意なフィールドですよ」
「うー…大丈夫かな…」
まだ不安がぬぐえない様子のライスシャワーに声をかける。
「大丈夫。ライスちゃんは誰よりも頑張って来ました。
それに、勝ち負けはそれほど気にしなくていいですよ。
初挑戦ですからね、緊張する気持ちもわかります。
勝ちたい気持ちも、負けたくない気持ちもわかります。
でも、レースは一回だけじゃなくて、勝っても負けても次があるんですから。
今はただ、私はあなたの走りを見てみたい。
あなたに走ることを楽しんでほしい。それだけです。
どんな結果になったとしても、ゴールの先で必ず私が待っていますから」
「トレーナーさん…うん!それじゃあ…行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
ライスシャワーから、迷いが消えたようだ。
確かな足取りでターフへ向かっていった。
「ライス、頑張ってね」
『4番ライスシャワー、圧巻の走りだ!二番手を数バ身離し、完璧な勝利をつかみました!』
そして結果は、見事な勝利。
「や、やった!ライスちゃんが勝った!」
「ライス、勝ったんだ…!」
客席から手を振るトレーナーと、それに答えるライスシャワー。
お互いに喜びがあふれている。
興奮気味のライスシャワーが控室に戻ると、
それよりはるかに興奮しているトレーナが待ち構えていた。
「やったよトレーナーさん!ライス勝てた…ひゃぁ!」
「ラ゙イ゙ズ~!優勝お゙め゙で゙どお゙お゙お゙お゙~!」
「あわわわ…!と、トレーナーさん、落ち着いて…!」
「落ち着いていられますか!!私の愛しいライスちゃんが勝ったんですもの!!
嬉しくて嬉しくて、私まで走り出したいくらいです!」
「えへへ…ありがとうトレーナーさん。
ライスが勝てたのはトレーナーさんのおかげだよ」
「いいえ、ライスちゃんが頑張ったからです!
だからもっと自分のことを、私が大好きなライスちゃんのことを褒めてあげてね!」
「トレーナーさん…!」
初の勝利。二人は抱き合って大喜びをした。
少し時間がたって、多少は気分が落ち着いたころ。
ライスシャワーがおずおずと切り出した。
「ねえトレーナーさん。実は、お願いがあるんだ」
「お願い?なんでしょう?」
「あのね、ライスのことを『ライス』って、呼び捨てにしてほしいの。
それと、敬語じゃなくて、普通の言葉で話してほしいの。
そうすると、トレーナーさんとの絆が深まった気がして…」
「そっか、それなら…ライス。これからも一緒に頑張ろうね」
「うん!あと、それと…」
「?」
「トレーナーさんのこと、『お姉さま』って呼んでもいいかな…?」
「お、お姉さま?」
思いがけない呼び方だが、悪い気はしないな。
「お姉さま、か。私のこと、お姉ちゃんのように思ってくれてるの?」
「うん。ずっとライスに優しくて、そばにいてくれて、頼りになって。
ライスにお姉さまがいたらこんな風なのかな…って思ってたの」
「そっか、うれしいな。いいよ、これからはそう呼んでね」
「やったぁ!お姉さま、大好き!」
その言葉と共に抱き着いてくるライスシャワー。
「~~~~!!!」
あまりに破壊力のあるライスシャワーを全身に浴び、悶えながら倒れこむトレーナー。
「あっ!?お姉さまどうしたの!?ま、またライスのせいで…!」
また自分を責めている声が聞こえる。まあ今回は本当にライスのせいかもしれないが…。
薄れゆく意識の中、次からはそんなこと言わせないぞと決意を固めるトレーナーだった。