ライスシャワーはダークヒーローとなる   作:黒い平方四辺形

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しばらく時間があきましたが、精米しない蛇足パートやって行きます。
話としては10話の「三日月が迷う時」の続き、11話の位置からになります。
最初の方はあまり展開は変わりません。
ハッピーエンドにはなりませんが、後味悪くはならないようにします。


ANOTHER ROOT:光に灼かれるライスシャワー
駆り立てられるまま


 

話は少し前にさかのぼる。

 

ライスシャワーは現時点で重賞7連勝、順調に勝ち続けている。

しかしトレーナーはかなりハードなトレーニングを続けることに不安を抱いてもいた。

 

ライスが目指すものはなんなんだろう。いつも一緒だからある程度はわかる。

どうやら『ヒーロー』であることに固執していて、

それは勝つことでしか成り立たないと思っているらしい。

でも、私としてはライス自身に走りを楽しんでほしい。

ヒーローになるというのも悪い目標ではないけれど、

人のためと言いながら本心をごまかしているのではないのか。

それに何より、今のライスにはちゃんとした笑顔がない。

どうにか穏やかな姿に戻れないものか…。

 

 

そこでトレーナーは一計を案じた。

少しずつトレーニング量を減らしていき、長い時間をかけて普通の量にしていくこと。

急に減らしたらきっと反発が来るだろう。だが少しずつ、少しずつ減らしていけば、

普通の量までは難しくとも常識的な量に出来るのではなかろうか。

 

そうしてそれを実行していったところ、二週間ほどでライスシャワーから話があった。

 

 

「お姉さま。ちょっと聞きたいことがあるの…」

 

「え、なあに?」

 

「お姉さま。もしかして最近、ライスのこと…」

少し言いよどみ、ジトッとした目で見つめるライスシャワー。

「強くしようと…してないんじゃないかって」

 

 

その時のライスの目はトレーナーである私に対して、

初めて向けられた疑念の気持ちがこもった目だった。

早くも気づかれていた。徐々に緩和していき、普通の練習量に戻ろうとする気持ちが。

 

「ねえお姉さま。さっきの質問に答えてほしいな」

 

初めて見せたこの視線。背筋が寒くなり、脂汗が出る。

この返答を誤ったら…ライスは私から離れて行ってしまうかもしれない。

そんなの嫌だ。私は、私は…ライスのトレーナーなんだ。

ずっとずっと一緒にいたい…。

 

トレーナーだったら、担当ウマ娘の願いをかなえてやるのが筋なんじゃないのか?

だったら間違っていたのは私の方なんじゃないのか。

そうだよ。私はライスのサポートをするためにいるんだ。

ライスのことを否定しようとしていたのが間違いだったんだ。

ごめんねライス。私、もっと頑張るから。

 

「………ごめんなさいライス。そんなつもりはなかったんだけど…

もしかしたら、ちょっとトレーニングメニューが間違っていたのかも。

指摘してくれてありがとうね。修正しようか。ライスの意見もくれるかしら?」

 

トレーナーがそう言うと、ライスシャワーに笑顔が戻る。

 

「うん!ライスの方こそごめんね、ちょっと不安になっちゃって。

お姉さまがライスにウソをつくことなんてあるわけないのにね…。

二人で一緒に考えようね!」

 

「…ええ!」

 

そしてトレーニングメニューの焼き直しが始まった。

その量は過去よりも更に多くなってしまう。

だがもうトレーナもそれを止めることはない。

どこまでも、どこまでも突き進む。さながらブレーキの壊れた車のようだった。

 

 

 

 

そうして連勝を続けるライスの姿を見て、

テイオーとマックイーンがトレーナーのもとへと現れた。

 

「失礼します。メジロマックイーンです」

 

「失礼しまーす、トウカイテイオーでーす」

 

「あら、マックイーンさん、テイオーさん。

ライスに会いに来たの?ごめんね、今日はいないんだ」

 

「いえ、わたくしたちが会いに来たのはトレーナーさんにですの」

 

「え、私?えっと、どのようなご用件でしょう?」

 

「実は最近ライスと予定が合わなくて全然遊べてなくてさみしいんだよね。それでね…」

 

「今のライスさんのトレーニングメニューは、トレーナーさん、あなたのご指導なのですか?」

ズバッと本題を切り出すマックイーン。

 

トレーナーは表情を変えることもなく淡々と答えた。

「うん、私はライスのトレーナーだからね。トレーニングメニューを管理してるのも私だよ」

 

「少し調べましたが、かなりのハードスケジュールですわね。

この内容を続けて、オーバーワークにならないのですか?」

 

「ならないように最大限の注意をしてるよ。

体力がなくならないよういろいろ栄養も用意してるし、

休みの日も作って、マッサージや整体、リラクゼーションとかで体を休めてるから」

 

「本当ですか?それで本当に足りているのですか?無理させてはいないのですか?」

 

「問題ありません。ライスも今は波に乗っている時期です。成長できるだけさせるつもりです」

 

「最近のライスさんを見てると、とても楽しく走っているようには見えません。

いつも優しく微笑んでいた彼女が、今はどんな表情をしているか知っていますか?」

 

「……」

 

「ウマ娘が走る理由は様々。だからどのような考えでもそれはいいでしょう。

ですが、今の状況は本当にライスさんのためのものなのですか?

ライスさんの目的に合ったものなのですか?」

 

「……」

 

目つきが鋭くなり、ゆっくりと、そしてハッキリと答えるトレーナー。

「もちろん、そうだよ」

 

マックイーンが予想したのは、

トレーナーの理想を無理矢理押しつけられているというものだった。

自分が問い詰めればうろたえるか、怒り出すか。それとも冷静に対応するか?

それでも、きっと表情で考えがわかるだろう。

 

しかしトレーナーの顔には迷いが動揺もない。

仮に理想の押しつけだとしても後ろ暗い気持ちは全くないようだ。

 

 

「これはライスのやりたいことなんだ。ライスは目指す場所がある。

そこにたどり着くためなら、どれだけだって頑張れる。

私はそれについていく。ライスのトレーナーとして、全霊を注ぐ」

 

「本当にライスさんが…?それなら、いったい何を目標にしているのですか?」

 

「あなた方には関係ありません。これはライスと私の話です。

そろそろいいですか?私も仕事中ですので」

 

 

「………わかりました」

 

「し、失礼しました」

 

 

 

 

トレーナー室からの帰り道、テイオーが口を開く。

「さっきのどう思うマックイーン?」

 

「あのトレーナーさんの目、とても強い意志を感じました。

少なくとも軽い気持ちでやっているわけではなさそうですし、

理想の押し付けをして暴走している感じでもありません…」

 

「じゃあ本当にライスの意志なのかな…?」

 

「現状ではそう判断せざるをえませんわね。

しかし、暴走してるのがライスさんだというのなら、

それを諌めるのがトレーナーの仕事なのではないのでしょうか」

 

「担当の望みを叶える、って言うのもトレーナーの仕事だけどね。

とはいえこれは尋常じゃないし…やっぱりどうにかした方がいいよ」

 

「しかしトレーナーさんもこのまま続けるおつもりの様子。

ライスさんは毎日トレーニングをしているから、

時間を作って話をすることも難しそうですわね…」

 

「会話が無理なら…対話しかないね」

 

「対話…?」

 

「うん。ボクらウマ娘の対話と言えば、やることは一つだ」

テイオーはわかるでしょ、という表情をしながらガッツポーズをする。

 

「…なるほど。それならこちらを意識せざるをえませんわね」

 

「やるなら勝つしかないけどね。正しいのは勝った方なんだから…。

だけど、今のボクじゃ無理な事だ。マックイーン、キミに頼るしかない」

 

「ええ。あなたの思いも受け取って行きます。

ライスシャワーに…勝ちますわ。そして彼女に昔の姿に戻ってほしい…」

 

 

 

 

スピカの部屋に戻ったマックイーンとテイオーが沖野に声をかける。

「トレーナーさん、よろしいですか」

 

「おう、どうした二人とも。神妙な顔をして…真面目な話か?」

 

「ええ、単刀直入に言います。わたくしを次のレースで勝たせてください」

 

「! …珍しいな、マックイーンがそんなことを言うなんて」

真面目な話であることを認識し、こちらも真面目な表情になる沖野。

 

「でも次のレースって、まだ決めてないんじゃなかったか?」

 

「今、決めましたわ」

 

「へえ…。お前の実力は本物だし、最近は調子もいい。

このままいけば誰が相手でも十分に勝てると思ってる。

それにいつもそうだったが、レースでは自分の全力を出して、結果はそれについてくるだけ。

それがマックイーンのスタイルだろう?…でも、そういう話とは違うってことか?」

 

「はい」

 

「理由は?」

 

「次のレース…ライスシャワーに勝ちたいのです。必ず」

 

「ライスシャワーか。強いとは思っていたが…天皇賞ではしてやられちまったからな。

そのリベンジってわけか」

 

「まあ、そんなところです」

 

「勝ちたい気持ちは大切だ。しかしさっきも言ったが、

今の調子を続けて行けば十分勝ち目はある、というか勝つと思ってるぞ。

だが勿論100%勝てるわけではないから、勝つ確率を少しでも上げたいというなら、

今以上にハードなトレーニングになるだろう。それでいいのか?」

 

「覚悟はできてます」

 

マックイーンの確かな表情を前に、沖野からも迷いや疑問は消えた。

「…そうか。オレはトレーナーだ。お前がそういうのなら全力でサポートするよ。

だけどグッときつくなるぞ。気合い入れてけよ!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「ライスシャワーはかなりの強敵だ、対策しないといけないな。

まず俺はライスシャワーのデータを集めて研究してみるわ。

マックイーンはいつも通りのトレーニングを強度2割増しでやっててくれ。

もちろん、無理はするなよ?」

 

「わかりました」

 

「テイオーは俺と一緒に来てくれるか?データをあさるの結構大変でな。手伝ってくれ」

 

「おっけー!ボクに任せてよ!」

 

 

 

データを漁りながら、沖野とテイオーが会話をする。

「ライスシャワーもだいぶ活躍してくれてるおかげで、動画とかもある程度集められて助かるな。

だがマックイーンは前から大人気だから基本的なデータは全部あっちにも知られちまうだろう。

そういう意味では、こっちがライスシャワーの研究をしてやっと同じ土俵ってところだ」

 

「有名税ってやつだよねー。でもそんなのを撥ね退けて勝ってこそ一流のウマ娘ってもんさ!」

 

「まあな。天皇賞では負けたけどな…」

 

「ま、まあね。でも、今回リベンジすればチャラってことで!」

 

「そうだな。俺もマックイーンも…天皇賞の時は油断とはいかないまでも、

ライスシャワーを多少侮っていたところもある。まさかあれほどのウマ娘だとは…。

だが今回は、警戒するどころかこっちが標的にしている側だ。心構えが全く違う。

前回のようにプレッシャーにアテられることなく、自分の走りを貫ければきっと勝てるはずだ」

 

「さらにボクとトレーナーの頭脳が合わされば無敵だね!」

 

「ああ、絶対勝ってやろうな」

 

 

 

ライスシャワーに関して持っている範囲のデータを一通り見返した沖野。

「ライスシャワーはどのレースでも基本的に誰かの後方につくようだ。

俺が見た限りでその相手はライスシャワーの次に強いと思われる相手。

同じ流れで来てくれれば、天皇賞と同じでマックイーンの後方につくのは間違いなさそうだ」

 

「ついてくパワーが最強だもんね。でもどうするのさ?

後ろに付かれるとこっちからはどうしようもなくない。

あ、芝を蹴って土かけちゃう?」

 

「バ鹿野郎、わざとやったら失格になるぞ。…正直これはもう避けられない部分ではある。

大逃げでもすればさすがについてこないとは思うが、

マックイーンにやらせるにはさすがに無理があるな」

 

「じゃあ追い込みは?」

 

「追い込みは可能っちゃ可能だが…相手がどう動くかはっきりわからん以上、

無理に相手の追跡から逃げるよりは真っ向から戦った方がいいんじゃないかと思う。

前方でレースを引っ張ることを続けて来たマックイーンだ、プライドの走りを貫いていこう」

 

「まあそうだよね。結局は自分を信じるのが一番!ってのはボクもよーくわかる」

 

「さっきも言ったが、天皇賞ではライスシャワーのプレッシャーにアテられ冷静さを欠いていた。

しかし今回はマックイーン自ら勝負を希望するほどだから、

もうプレッシャーにやられることもないだろう。

そうすると自力勝負になる、基礎能力を高めていくのがいい」

 

「ライスって残り400mくらいから全力スパートかけてくる感じだよね。

マックイーンの後ろについてくるなら、

同じようなタイミングで仕掛ければリードを保ったまま行けるかな?

ライスはスタミナは凄いけどトップスピードはマックイーンより弱そうに見えるよ」

 

「うん…確かにスピードはライスシャワーより優れてると思う。

冷静に勝負を進められれば、有利なのはマックイーンのはずだ」

 

方針は決まったな、と沖野が立ち上がる。

 

「まずは基礎能力の上昇、次にメンタル面のトレーニング。

これをいつもより強度を高く続けていけば、十分勝てるだろう」

 

 

 

 

 

 

強化トレーニングを始めて数日経った折、マックイーンが言う。

 

「わたくしの出走登録が発表されたら、ライスさんたちも絶対に意識するでしょうね」

 

「まあ当然だね。今のメンバーだとマックイーンがいなかったらライスが勝利すると思うし」

 

「どうせ意識されてしまうのならこちらから出向いてみませんか?

私たちの意思をわかっていただきたいですから」

 

「出向くって…宣戦布告する感じ?いいねー、盛り上がるじゃん。

それに宣言通りボクらが勝てば「今のやり方じゃうまくいかない」

って二人もきっと考えを変えてくれるはず」

 

「ええ。ライスさんは直接言っても効果が薄そうですから、

またトレーナーさんだけにしましょう。

考えは間違っていますが、ライスさんのことを大切に思っているのは間違いありませんし」

 

「そうだね。負けた後のメンタルケアはトレーナーが一番重要だろうからね」

 

 

 

 

 

 

そうして日曜日。

テイオーとマックイーンは再びライスシャワーのトレーナーのもとへと向かった。

 

 

「失礼します。メジロマックイーンです」

 

「失礼しまーす、トウカイテイオーでーす」

 

「…テイオーさん、マックイーンさん。何の御用ですか?」

 

「うん…単刀直入に言うけどね」

 

「あなた方に宣戦布告しに来ました」

 

「宣戦布告…?ライスに?」

 

「この前の話、やっぱり納得いかないよ。ライスはもっと楽しそうに走るべきだ。

でも勝ちだけにこだわってる今の考えじゃずっとこのままだよ」

 

「ですから、私がライスさんに勝ち…考えを改めさせて差し上げます。

一度負けた後、自分の姿を見つめなおしていただきたいのです」

 

トレーナーが言う。

「…ずいぶんな言い草だね。間違ってるとか、考えを改めろとか。

あなたたちはなんでライスが間違ってるって言えるの?ライスのことをよく知らないくせに」

 

「知らなくなんてないよ。ライスはボクたちの大切な友達だし、同じウマ娘の仲間でライバルだ」

 

「それにわたくしは天皇賞の時に勝負をし、心の大切さを教えていただきました。

わたくしにとっての目標でもあるのです」

 

「ライスのことが大切だというのなら、ますます放っておいてほしいですね。

ライスはこんなに頑張っているのに、『あなたたちが勝ちたいから』ではなく

『ライスを負かしたいから』という理由で勝負するのはただの嫌がらせじゃありませんか?」

 

「嫌がらせなどではありません!今の生活を続けて、本当に未来があると思っているのですか?」

マックイーンは語気を荒げながら言う。

 

「ボクは無敗のウマ娘を目指してた。

でも負けちゃった時に、勝つことしか考えてなかったから自分の道がわからなくなった。

どれだけ強くたって、ずっと勝ち続けるなんてたぶん無理だよ。

ライスには、その時に道に迷ってほしくないんだ」

テイオーも心配そうな顔をしながら言った。

 

しかしトレーナーは苛立ちを募らせるだけだ。

「…前提が違うんですよ、テイオーさんとは。

あなたは負けたことで絶望したのですね。でもライスは違う。

ライスは『勝ったのに』絶望したからこうなっているんです。違いが判りますか?」

 

「ライスの気持ちもわかるよ、勝ってみんなに認められたいんでしょ?

でもさ、勝つこと以外にもできることがあるんじゃないかな」

 

その言葉はトレーナーにとっての地雷に近い言葉。

ライスの気持ちはわかる?勝つこと以外に出来ることもある?

あなたたちみたいな人が、ライスのことを語るの…?

 

「あなたたちに…」

トレーナーは机を叩き、声を荒げる。

 

「あなたたちにライスの何がわかるんですか!?

あの子の何がわかるっていうんですか!?」

 

「うわっ!さ、さっき言ったでしょ?ライスはボクたちの友達だ!

同じウマ娘としても、同じ学校の仲間としても、ある程度分かってるつもりだよ!」

 

「ならそれは自惚れです!わかった気にならないでください!

輝かしい道を歩んできたあなたたちにライスのことがわかるもんですか!!」

 

「さっきから聞いていれば勝手な事を!

あなたこそわたくしたちの事を分かっているのですか!?」

 

「もちろん深くは知りませんがある程度はわかってますよ!

あなたたちの道だって平坦なものではなかったことくらい!

今に至るまでにいろいろな苦難を乗り越え、様々な努力をしてきたことくらいわかります!」

 

「だったら今みたいなことを…!」

 

「それでも違うんですよ!!!あなたたちとは!!!

あなたたちも苦労はあったでしょう!

でも、努力と結果が認めてもらえる輝かしい道にたどり着いた!

勝てば喜ばれ、負ければ応援される!そんな素晴らしいウマ娘になった!でもライスは違う!

努力して、努力して、ようやく掴んだ栄光を全部否定されてしまったライスとは違うんです!

知らないとは言わせませんよ!?」

 

テイオーとマックイーンは菊花賞と天皇賞のことを、

ライスシャワーが二度にもわたって勝利を祝福してもらえなかったことを思い出す。

特に天皇賞は自分たちもその渦中にいた出来事だ。

これまで一度も悪く言われたことのない自分たちでは、

あの時のライスシャワーの気持ちを完全に理解することはできないだろう。

 

「そ、そこは…多少は違うかもしれませんが…」

 

「マックイーンさん、テイオーさん、あなたたちの天皇賞での勝負は私も見ました。

とても美しい勝負だったと思います…ですが、もしあの勝負でマックイーンさんが勝った時に、

『無敗のテイオーを見に来たんだ、空気読め!』とか

『テイオー次頑張れ!マックイーンなんかに負けるな!』

という言葉が会場中から上がっていたらどう思いますか!?」

 

「そっ…それは…」

マックイーンがそれを想像すると、想像だけでも不愉快な気分になる。

 

「テイオーさん!もしあなたが勝っていて、『マックイーンの連覇が見たかった』

『テイオーなんて負ければよかった』と会場中から声が上がっていたらどう思いますか!?」

 

「うっ…」

テイオーがそれを想像すると、

「どうしてボクを見てくれないんだ」と怒りたくなるだろうな、と思った。

 

「テイオーさんは何度も怪我をして、それでもまだ走り続けていますよね。

心身ともにさぞかし大変だったでしょう。

でもその苦労を私が『気持ちはわかる』と言ったとしてあなたは納得してくれるんですか?」

 

「むむむ…」

 

「気持ちの想像くらいはできますよ、私もあなたたちも。

でもあくまでその程度、理解には程遠い。

いつもライスと一緒にいる私でさえ、あの子のことを全部は理解してないんですからね」

 

テイオーは思う。

トレーナーさんの言うことはもっともだ。

自分がしてきた苦労を、軽々しくわかるなんて言ってもらいたくはない。

 

「あなたたちは勝っても負けても応援される素晴らしいウマ娘なんです。

そんな人にライスの気持ちを分かるなんて言って欲しくない。

ライスがああなってしまったのは、私たちのやり方が失敗した部分もあるかもしれない。

私やライス自身が何か別な事をしていればああはならなかったかもしれません。

でもあれが結果です。努力の果てにたどり着いた景色があんな醜悪なものになって…」

 

菊花賞と天皇賞。ライスが心から望んだ晴れ舞台で、

ブーイングばかリが飛び交う地獄となった光景を思い出す。

ライスに喜んでほしかった、ライスの笑顔が見たかった。

だけどライスにはあんな悲しい顔をさせてしまった。

一番うれしかったはずのライスが一番悲しそうだった。

だからライスは考えを変えた。自分を認めてもらうには勝利という結果が必要なんだと。

そしてそれはきっと正しい。だから私もそれについていく。その覚悟はもうしたんだ。

 

「あなたたちにはわからない。あの子がどれほどの苦痛と、悲しみと、絶望を味わったのかを。

お二人には感謝してます。

ライスを鼓舞してくれたテイオーさん、

ライスの目標になってくれたマックイーンさん。

お二人がいたからライスはここまで強くなれました。でも…」

 

今までも迷惑そうにはしていたものの、

あくまでそれだけだったトレーナーの目に明確な敵意がこもる。

「ライスの道を阻むというのなら…あなたたちはライスの敵です」

 

 

テイオーとマックイーンは迫力に気圧されながらも睨み返す。

 

「敵ですって…?望むところですわ。普段はお友達でも、レースでは敵同士。

そんなのは誰とでも同じことです」

 

「ボクたちの気持ちは変わらない。ライスが今のままの生活を続けるっていうのなら、

こっちもやりたいことをやらせてもらうからね」

 

「お好きになさってください。ですが今言ったとおり、あなた方にライスの道は止めさせない」

 

「わからずや。どっちが正しいのか、レースを見て思い知るといいよ」

 

「道には落とし穴が開いていることもあると教えて差し上げます」

 

「その言葉、そっくりお返しします」

 

「じゃあ、次会うのはレースでね」

 

「ですわね。結果が全てですわ」

 

「ええ。そちらこそ知るといいですよ、ライスの覚悟がどれほどのものかを…。」

 

 

 

 

 

帰路についたテイオーとマックイーン。

 

「反省ですわ…。あんな喧嘩のようなことになるつもりはありませんでしたのに…」

 

「売り言葉に買い言葉って感じだね…。つい感情的になっちゃったよ。

ちょっと軽率なこと言っちゃったかなあ」

 

「少し…。言われた通り、わたくしたちが恵まれてるのはそうかもしれません」

 

「そうだねえ。ボクがまだ頑張っていられるのは、周りのみんなが励ましてくれたからだ。

ボク自身を否定されたこと、考えると全然ないもんね」

 

「わたくしも名門メジロ家のウマ娘として生まれ、

それにふさわしい存在となるために誇りをもって走ってきたからか、

そういう経験はありませんでしたわ」

 

「歩んできた道が全然違うのは確かだね…。

でも、それでもボクは今のライスのことを認められないよ」

 

「わたくしもです。次のレースでわたくしが勝てば、自分の過ちに気づいてくれるでしょう」

 

「頼んだよマックイーン。絶対に勝ってね」

 

「ええ、必ずや。テイオーもわたくしのサポートお願いします。頼りにしてますわ」

 

 

 

 

テイオーとマックイーンが帰った後も、トレーナーの気持ちはなかなか収まらなかった。

 

マックイーンさんも、テイオーさんも、ライスの邪魔をする子だったなんてちょっと残念ね。

前の恩もあるし、彼女たちは普通のライバルとして戦って欲しかった…。

でももう仕方がない。ライスの敵に回るというのなら本気で打ち破らせてもらう。

二度とライスに立ち向かえなくなるほどにね…。

 

 

翌日、トレーナーはライスシャワーに前日のことを話す。

「ライス、昨日マックイーンさんとテイオーさんがここに来てたよ」

 

「えっ、そうなんだ。どうしてここに?」

 

「少しライスには言いづらいんだけど…」

 

「気になるよー。教えてお姉さま」

 

「そうね。今度あなたが出るレースにマックイーンさんも出るらしいの」

 

「へえ、マックイーンさんが出るんだ。でも、なんでそれが言いづらいことなの?」

 

「うん、実は…ライスが勝ってるのが気に入らないから、あなたを倒すって言ってたの」

 

「えっ…?なんでそんなこと…」

 

「わからない。でも、今のライスは美しくないとも言っていたわ」

 

「そんな…。ライスのこと嫌いなのかな…」

 

「それもわからないけど…でも、悲しかったわ。

マックイーンさんやテイオーさんはライスのことを認めてくれていると思ってたのに…」

 

認めてくれていない。それならやっぱり、ライスの力不足なんだろうな。

「だったら認めてもらえるようにしなくちゃね…。絶対に、絶対に勝たなくちゃ…」

 

「私からもお願いよ、ライス。

勝ってね。みんなにあなたの姿を見せつけてあげましょう」

 

「うん。ライスが勝てば、きっと認めてくれるよね」

 

かつて憧れたマックイーンが、自分を否定する敵に回ったらしい。

ライスシャワーの心に渦巻く黒い炎は、かつてないほどに激しく燃え上がる。

マックイーンさんがライスのことを否定するというのなら、

ライスもすべてを出してあなたを否定してあげる。

勝つのは、正しいのは、ライスなんだ。

 

 





話をハッピーエンドにしておいてわざわざハッピーじゃなくなる話を書くのはどうかとは思ったんですが、
本筋はハッピーエンドで終わってるので逆にこういう展開書いてもいいんじゃないかと思ったのでやっちゃいます。
自己満足の蛇足パートですがよければお付き合いください。
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