マックイーンとの再戦にも勝利し、さらなる連勝を続けるライスシャワー。
あの時とは違いマックイーンへの仲間意識も芽生えたころ、
そのマックイーンに繋靭帯炎が発症したとの報を聞いた。
「マックイーンさんが繋靭帯炎…!?」
「そうらしいわ。ライスを二度と否定できないように叩き潰してやれ、
なんてこの前のレースでは内心思ってたけど、本当にそんなことになっちゃうなんて。
ライスの目標になってくれた強い子だから、あの時のことは感謝してるし悲しいわ。
それに今後の成長のためにもまた勝負をしてほしかったかな」
「うん…。私も、また勝負したかったな。
お姉さま、ちょっとお見舞い行ってきてもいい?」
「ええ、いいわよ。今日のトレーニングはその後にしましょう」
マックイーンのもとへ赴いたライスシャワー。
先客としてテイオーもお見舞いに来ていたようだ。
「あ…ライス。来てくれたんだ」
「マックイーンさん。繋靭帯炎、だって…?」
「ええ…。
残念ですわ、心身を鍛えなおしてライスさんにリベンジしようと思っていたのですけれど」
「…すればいいよ。リベンジ、ライスは待ってるよ。もちろん負けるつもりはないけどね」
「いえ、もういいのです。走るのなんて、奇跡でも起こらない限り無理なのですから」
「そんなことないよ。繋靭帯炎になっても治してレースを走ったウマ娘もいるんだよ」
「そのようですわね。ですがとても低い確率です。私にはとても…」
ライスシャワーは消沈するマックイーンの姿を見て深い悲しみを覚えた。
まただ。ブルボンさんの時と同じで、また目標だった人がいなくなってしまった。
久しく考えていなかった、自分の不幸体質を責めていた過去を思い出す。
私はつくづくそういう星の下にいるんだね。やっぱり、人を不幸にしてしまう子なのかも。
でも、それでも私は歩みを止めないよ。
誰がどうなろうと、求めている場所に向かっていく決意をしたから。
もしも立ち上がってくれるのなら、ライスが目標となる存在になって導いて見せる。
もしも立ち上がれないのなら、ライスがあなたの思いを背負って見せる。
私に負けた人たちの思いに報いるためにも、
私はずっと勝ち続けていかなければならないのだから。
「マックイーンさん。確率が低くたってゼロじゃないよ。
だけどそれは立ち上がるための努力を続けたからこそ手に入れられたことで、奇跡じゃないんだ。
待ってるだけでは決して手に入らない。戦わなくちゃだめだよ」
「そうだよ、ボクだって諦めずリハビリを続けてるんだ。
それをマックイーンはずっと応援してくれてたじゃないか。
今度はキミの番だよ」
「わかっています。わかってはいるんです。ですが…」
「…もし、本当に立ち止まってしまうのならそうすればいいよ。
マックイーンさんはライスの目標だった。マックイーンさんがいたからここまで強くなれた。
マックイーンさんがいなくなっても、マックイーンさんの思いを貰って、
ライスは走り続けるから」
「ライスさん…」
「マックイーンさんは、ライスにとってのヒーローだったよ。
『最強のステイヤー』の称号は、ライスが貰っていくから。
もしそれを悔しく思うのなら奪いに来てね。ライスはその時を待ってるよ。
それじゃあね」
ライスシャワーは少し寂しそうな表情を残し、帰っていった。
「あっ、ライスさん…」
「ライスもマックイーンのこと待ってるみたいだよ。ボクと同じだね」
「……皆さんが励ましてくれるのはとても感謝しています。
しかしわたくしに出来るのでしょうか…」
「キミならできるよ。ちょっとライスと話したいから、ボクも今日は帰るね」
「ええ…。来てくれてありがとうございました。ライスさんにも伝えておいてください」
帰ろうとして歩いているライスシャワーの下にテイオーが追いついた。
「ライス、ちょっといいかな?」
「あれ、テイオーさん。どうかしたの?」
「ボクもちょうど帰ろうと思ってたころだったからさ。
マックイーンが、お見舞いに来てくれてありがとうって言ってたよ」
「そっか。でも、あんまり元気にさせてあげられなかったみたい」
「いますごく落ち込んでるからね…。
ボクも結構励ましてるんだけどさ、あんまり効果ないみたいだ」
「そうなんだね。なんとか元気出してくれるといいんだけど…」
「まあ、すぐにってのは難しいかもね。
ボクも骨折を精神的に乗り越えるのには結構時間かかったし」
「そうだね。ライスは故障が原因じゃなかったけど、
落ち込んじゃった時に立ち直るのは時間かかったっけ。
あの時はありがとう、テイオーさん」
「いいって。ボクたちはライバルだけど、仲間でしょ?」
「仲間…」
仲間。ライスシャワーはその言葉を反芻する。
この前マックイーンさんと勝負した後に考えたこと。
ウマ娘は敵じゃない。テイオーさんもマックイーンさんも、私の仲間なんだ。
「仲間…そうかもね。マックイーンさんも、ライスが立ち上がるための目標になってくれた。
それならライスもお返ししないとね。ライスはもっともっと強くなりたい。
マックイーンさんの目標に、憧れになれるように強くなりたい」
「ライス…。キミはいつも、どこまでもまっすぐなんだね…」
ライスシャワーの言葉に、テイオーはシンパシーを感じた。
マックイーンの目標になる、それはボクも考えていたことだから。
そしてそれを成すための機会は有マ記念、目の前のライスも出るレースだ。
ならボクはキミを乗り越えないといけないわけだ…。
「そうだ、ライス。ちょうどいい機会だから言っておくよ。
ボク、今度の有マ記念に出るんだ。久しぶりにキミと一緒に走れるんだ」
「えっ、テイオーさん、有マ記念に出るって…脚が治ったの?おめでとう!」
ライスシャワーはいつもより柔らかい表情で、微笑みながらそう言った。
テイオーはライスシャワーが祝福してくれる姿を見て安堵する。
やっぱりキミは優しいウマ娘なんだよね。
しかし同時に、テイオーの脳裏に不安がよぎる。
あのマックイーンが二度も負かされ、最強と言っていいほどに強くなったライスシャワー。
正直言うと今のボクどころか全盛期のボクでも勝てるかわからない相手。
ボクは相手がライスだろうが誰だろうが勝つ、それは心に決めていることだ。
でもそれなら、今はまだ侮ってもらった方が戦いが楽になるね。
戦略的に考えたらここは…
「うん、走れるくらいには治ったんだ。まあライスとかビワハヤヒデとか…
強いウマ娘ばっかりだから勝つのは無理そうだけどねー。
まあ、ビリにならない程度に頑張るからさ。アハハッ!」
飄々とした態度で答えるテイオー。
だがその言葉を聞いた途端、ライスシャワーの雰囲気が一変した。
顔からは笑みが消え、全身から黒いオーラが溢れだす。
「テイオーさん、そんな気持ちでレースに出るの?」
顔をしかめ、汚い物でも見るかのような表情をするライスシャワー。
「アハハ…えっ?」
「さっき『おめでとう』って言ったけど、取り消すね。勝つ気がないなら出ないでほしいな。
記念出場なんて軽い気持ちでいるなら、その枠を別な子に譲ってあげなよ」
とても冷たく言い放つライスシャワー。
「そっ…そういうわけじゃ…」
「有マに出られるのは選ばれた人だけ。みんな全力で頑張ってきたウマ娘ばっかりだよ。
たとえ負けたとしても、みんな勝利を目指して頑張ってる。
テイオーさんもそうだと思ってたのに…がっかりしたよ。じゃあね」
「あっ、ライス!」
テイオーは、振り向いて去って行くライスシャワーの背を見る。
ボクはライスに勝つ。そのためには侮ってもらっていた方が楽になる。
ライバルだと認識されたら全力を込めて対策してくるだろう。
ボクは勝ちたい。勝つための布石として、これは成功したみたいだね。
…でも。
いいの?
ボクが過ごしてきた日々を、全力で走ってきた今までを、ごまかしたままでいいの?
ボクを認めてくれていたライスに、失望されたままで勝負って言えるの?
いいや、いいわけがない!
ボクが有マに込める思いは、ボクの人生、ボクの誇り、みんなの期待、マックイーンへの思い、
ボクが過ごしてきた今までのすべてを込めて走るつもりなんだ!
それを軽い気持ちだと思われたままでいたくない!
勝負だったら、ボクの方を見てくれなくちゃダメじゃないか!!
テイオーが叫ぶ。
「ライス!!待って!!」
「…なあに?ライス、早くトレーニングに行きたいな」
立ち止まって振り向くライスシャワー。
「ごめん、さっき言った言葉ウソだったよ。
まだちょっと自分に不安があって、自分をごまかしてたんだ。
…でも今吹っ切れた」
テイオーは決意をこめた眼でライスシャワーを見つめる。
「ライス…ボクは、有マ記念に出る。自分の出せる全力で!
そしてライス、キミに打ち勝ってみせる!
だからボクと…勝負をしてほしいんだ」
ライスシャワーはその決意を受け取ったようだ。
優しく、だが力強い表情で答えてくる。
「勝負なら受けて立つよ。でもライスは誰にも負けない。
テイオーさんのことも本気で倒しに行くからね」
「ボクが病み上がりだからって舐めないでいてよね。
ボクだって有マに込める思いは誰にも負けないから。もちろんキミにもね」
「それならテイオーさんの走り、期待してるね。
ライスにとって、テイオーさんだってマックイーンさんと同じなんだ。
ライスを励ましてくれて、立ち上がらせてくれたテイオーさんに感謝してる。
お礼にライスの立派な『背中』を見せてあげるね」
「いーや、ライスが見るのはボクの背中さ。
勝負、楽しみにしてる」
「うん、ライスも」
そうして別れた二人。
お互いにお互いを強く意識し、有マ記念におけるライバルだと認識した。
テイオーは考える。
あのマックイーンがこれほど弱ってしまうなんて。
ボクでも、ライスでも、言葉じゃ励ますことができないみたいだね。
考えてみるとボクの時も同じだった。
チームのみんなの言葉も、キタちゃんの応援も、なにも響かなかった。
だけどターボの諦めない姿を見て、ようやく奮起できたんだっけ。
それならやっぱりボクらがやるべきことは一つだ。
ライスを説得しようと思ってマックイーンが走った時もまた同じ。(負けたけどね)
ボクらウマ娘には、走る姿が1000の言葉よりも思いを伝えることができるんだ!
そして、それはボクのやるべきことだ。
ライスが言っていた。『最強』の称号…それを持って、
マックイーンの先で待っているのはボクの仕事なんだ。
ライスも軽い気持ちで言っているわけじゃないのはわかってる。
だけどこの役目を譲ることはできない。
ボクはずっと、最強のウマ娘を目指して走り続けているんだから!
だからボクは勝つ。マックイーンのため、みんなのため、そして何より…ボク自身のために。
ライスに勝ち、ボクの存在をみんなに見せつけてやる。
ライスシャワーは考える。
テイオーさんがどれほどの走りをしようと関係ない。
私は誰よりも速く、誰よりも早く走る。
テイオーさんとマックイーンさんも含めて、いろんな人の力で立ち上がらせてくれたこの体。
お姉さまの、ブルボンさんの、マックイーンさんの、みんなの思いを背負って勝ち続ける。
それが私のヒーローとして果たすべき役割だから。
マックイーンさんに言葉では響かないなら、私の走りを見せてあげる。
それにきっとテイオーさんも頑張ってくれるはず。
マックイーンさんの『仲間』である私たちを、
諦めずに立ち上がった私たちの走る姿を見てね。
部屋に戻ったテイオーは沖野に決意を話す。
「何だって!?有マに出るだと!?」
「うん」
「タイムも伸びない、しかも一年ぶりでぶっつけのGI…それでもやるのか?」
「やれるかやれないかじゃない…ボクは勝つよ、必ず!」
「…本気なんだな?」
「うん」
「分かった。お前がその気なら、オレは全力でサポートするだけだ」
「私たちも、出来ることがあったら何でもサポートします!」
スペシャルウィークたちも笑顔で応援してくれた。
「うん、みんなありがとう!ボク、頑張るからね!」
テイオーの決意を受け、本気になったチームスピカ。
沖野もまたデータを見ながら、有マへの対策を話し始めた。
「有マは強敵ぞろいだが、その中でも特に強いのはやはりライスシャワーだろう。
この前の件といい、あのマックイーンですら勝てないほどの実力者。
しかも有マの2500mは中距離メインのテイオーにとっては少々長い距離だが、
ステイヤーとして活躍するあちらにとってはド本命の距離だ。
まずスタミナを同等レベルまで引き上げなければ勝ち目は薄いが…
そのためにもまず全盛期の走りを取り戻す必要がある」
「やってやるさ。そうだね…春天のライスを見習っていくよ。
この有マに、ボクのウマ娘人生すべてをかけて見せる」
ボクの最強を目指すウマ娘としての誇りをライスが呼び起こしてくれた。
お礼に敗北をプレゼントするよ。
ライス。マックイーンの仇討の意味も込めて、ここでキミを超えて見せる。
ターフの帝王の姿をその目に見せてやるからね。
一方のライスシャワーも、有マ記念に向けて準備を始める。
「お姉さま」
「あ、ライスお疲れ。そろそろ有マ記念の対策しなくちゃね。
今回では特に注意しないといけないのがビワハヤヒデさんだね。
せっかくあなたが取ったレコードを塗り替えるなんてね。余計なことを…。
ライス以外で一番強いのはきっと彼女だから、データ集めて来たわ」
「ありがとう。あともう一人気にしたい人がいるの。テイオーさんをね」
「え、テイオーさん?投票でランクインはしてたけど、まだ怪我が治ってないんじゃない?」
「ううん。有マに出るって言ってた。だから私と勝負するって約束したの」
「そんなのね。脚が治ったんだ…。
でもテイオーさんは前回の有マ以来一年ぶりの出走になるから、
さすがにそんないい結果を出せるとは思えないけど」
「テイオーさんの顔つきから、すごくすごく強い意志を感じたの。
きっと心もすっごく燃えてるんだね。だから油断できるような相手じゃないと思う」
「へえ…うん、わかった!じゃあ過去のデータしかないけどテイオーさんのも集めておくよ。
テイオーさんとビワハヤヒデさん、この二人を倒して最強はあなただと見せつけてやりましょう」
「うん!それでね、お姉さま。今度の作戦は『逃げ』でやりたいの」
「逃げ?いいと思うけど何か理由があるの?」
「私はヒーローを目指して走ってる。だから絶対に勝たないといけない。
でもヒーローなら『ただの勝利』じゃなくて、『強い勝利』じゃないといけないと思うんだ。
だから逃げをしたいの。先頭を走って、後ろの誰もがライスの背中を見て、
後ろの誰もがライスの背中を追って、そして後ろの誰もがライスに追いつけない。
そんな走りをしたいんだ」
「なるほど、いい考えね。有マはGIレースの中でも特に観客が多い。
ここであなたの存在を刻み付けてやれば、ファンもたくさん増えそうだわ」
「……そうだね。私、頑張るからね」
「ええ!それに戦略的なことを考えても、ビワハヤヒデさんはこちらと同じ研究者タイプ。
あちらもこちらの対策を考えてくるとすると、こちらも特定の策を練るのは難しい。
テイオーさんのこともあるし、逃げ一択に絞るのは悪くないわ」
「任せて、お姉さま。お姉さまも私のことちゃんと見ててね」
「もちろんよ。私の目には、あなたしか映っていないわ」
ライスシャワーにとっては対戦相手のウマ娘たちに自分の存在を叩き付けたかった。
ファンが増えることは間違いないだろうが、そちらへの興味は全くなかった。
自分たちを認めるファンは、自分たちの表面しか見ていない者が殆どだと思っているからだ。
本当の意味で認めてくれるのは、きっとお姉さま以外では自分と同じウマ娘だけだと考える。
だから対戦相手に自分を認めさせるような走りを目指そうと考えるようになった。
逆にトレーナーにとってはファンが増えるであろうことを重要視しており、
対戦相手のウマ娘がライスをどう思おうと与り知ったことではなかった。
対戦相手は単なる引き立て役やライスの道を阻む邪魔者という認識が強く、
かつてライスに教えた対戦相手への敬意というものをトレーナー自身が失いつつあった。
有マ記念当日。
『さあ、いよいよ今年もこの日がやってきました。暮れの中山レース場、
吹きすさぶ寒風をも跳ね返すほどの異様な熱気がターフと観客席を包んでいます。
GI、有マ記念です』
『そうですね。豪華メンバーがそろっていますし素晴らしいレースが期待できます』
『毎年ファン投票によって出走ウマ娘が決まるこのレース、
今年はGIタイトルを獲得したウマ娘が8人と並々ならぬウマ娘たちが集結しました。
間違いなく今年の総決算にふさわしいレースでしょう。
細江さんのイチオシはどのウマ娘でしょうか?』
『やはり重賞11連勝中のライスシャワーですね。
この一年間で凄まじい成長を遂げた彼女がどのような走りを見せてくれるのか楽しみです。
また、前回優勝者のメジロパーマーの逃亡劇にも注目しています』
『ありがとうございます、さあ今年はどのようなレースが繰り広げられるのか!
有マ記念、間もなく本バ場入場が始まります!』
「……」
控え室で待機するテイオー。どうしても考えてしまう。
凄まじい努力と圧倒的な執念で勝利してきたライスシャワー。
あのライスを、ボクは超えることができるだろうか。
するとそこに。
「テイオー、ちょっといいか?」
「ん、どうしたのトレーナー?…あっ、カイチョー!」
テイオーにとって永遠のあこがれである、シンボリルドルフが顔を見せた。
「その勝負服、ダービー以来だな」
「うん。今日はこれで走りたくって」
「そうか…」
ルドルフが見つめるテイオーの手。それはかすかに震えていた。
「ねえカイチョー、変な事聞いてもいい?」
「何だ?」
「カイチョーはさ、どうしてた?絶対に勝ちたい、そういう気持ちの時」
「…難しいな。レースに出る全員、勝ちたい気持ちは同じはずだ。
勝利のために己を練磨し、力を高め、集中し、勝負に挑んでいる。
にもかかわらず、たとえどんなに万全で最高潮だったとしても勝負の綾はある。
レースに絶対はない。
だが…自分の中にある信念、絶対に揺るがない気持ち、これは誰にも動かせない」
「自分の中にある…信念…!」
「少しは参考になっただろうか?」
「うん、ありがと、カイチョー」
(信念、揺るがない気持ち。それならボクの中にある)
『さあ、ウマ娘が続々とターフに姿を現しました。
こちらは去年の有マ記念の覇者、メジロパーマーです』
『逃げウマ娘としての素質は一級品です。
スタートまもなく先頭に立ってペースを作れば二連覇も夢ではありますん』
『長距離ならば他者に引けを取らないこのマチカネタンホイザも怖い存在です』
『ナイスネイチャもブロンズコレクターの名を返上し、有マの栄誉を手にしたいところ』
『ジャパンカップでは世界の名だたる強豪をねじ伏せ価値ある勝利を収めたレリックアース』
『その向こうに見えるのは次世代の担い手の一人、ウイニングチケット』
『なんといっても今年のダービーウマ娘ですからね。
ふさわしい走りをしてくれるのではないかと私も注目しています』
『あっ、そして一年ぶりにターフに姿を見せたトウカイテイオー、
休み明けもなんのその、四番人気で有マ記念に挑みます』
『彼女の復帰を多くの方が待っていましたからね。
応援する気持ちがこの人気の高さに表れているようです』
『おっと、二番人気のビワハヤヒデです!連対率は脅威の100パーセント!
菊花賞ではライスシャワーの出したレコードを塗り替えて優勝を果たしました』
『夏が過ぎてからさらに才能が開花しましたし、
なかなか彼女を負かすのは難しいのではないでしょうか』
ターフに出たテイオーが深呼吸をする。
「……戻ってきたんだ」
一年ぶりのターフ。芝のにおい、観客の歓声、ライバルたちの足音。
待ち焦がれた舞台へと自分が戻ってきたことを実感する。
「テイオー」
ターフの風を感じているテイオーのもとに、ナイスネイチャが現れた。
「ネイチャ…」
「あんたがどんな状態でどんな走りをしようと関係ない。
アタシはただアンタより、他の子たちより先にゴールするだけ」
「うん。ボクも誰にも負けないから」
「いいレースにしようね。それと…おかえり。テイオー」
「…ただいま」
ただいま、か。そうだよね、ボクはここに帰ってきたんだ。
観客席を見渡すテイオー。こんなボクを今でも応援してくれる人がたくさんいる。
なんて嬉しいんだろう。そして―――
「見ていてくれるよね、きっと」
そして最後のウマ娘がターフに姿を現した。
『さあ、最後に現れたのは一番人気のウマ娘!』
アナウンスが流れると同時に、ほとんどの観客の視線がそちらに向く。
そのウマ娘の姿、ゆっくり力強く歩く姿は神々しさを感じるほどだ。
一挙一動するたびに会場に歓声が上がる。
『春の天皇賞以来、無敗のまま重賞レースを11連勝!
一年を締めくくるこの有マ記念も手に入れに来た!』
一方で、ターフの空気は一瞬で緊張感に包まれた。
その場のウマ娘は全員が真剣な面持ちで彼女に視線を送る。
『漆黒の英雄、ライスシャワー!
引き締まった肉体と凄まじい気迫とともに登場しました!!』
『完全に仕上がっているようですね。ここで勝って驚異の12連勝達成なるでしょうか?
そうなれば歴史に名を刻むウマ娘といってもいいでしょうね』
テイオー、ナイスネイチャ、マチカネタンホイザ、ウイニングチケット、ビワハヤヒデ、
その他ライバル全員が彼女への闘志を剥き出しにする。
(ライス、必ずボクが勝つ。キミに勝って証明するんだ。
このボクが戻ってきたこと、このボクが最強であることを)
(ライス。ずっとテイオーをライバル視してきたけど、今一番強いのはきっとアンタね。
でもアタシは負けない!3着でも2着でもない、1着を取れるって証明して見せる!)
(ライスちゃん、また迫力が増してるね。私は何回勝負しても負けちゃって。
でも私もライスちゃんを見習って、何回負けたって挑んでいくから。
このレースこそ勝って見せる!)
「うお~!ライスだ!すっごい強そう!でも負けないからね!
今回勝つのはアタシだよ!全力の勝負、楽しみだぁ~!」
(ライスシャワー。もはや最強のステイヤーと言っていい最大の強敵。
レコードは塗り替えたが、このレースで勝たねば私は君を超えたことにはならない。勝負だ…!)
ライスシャワーは全身に突き刺さる闘志を受けながら、どこか心地よさを感じていた。
だってそれは私を認めてくれているという証でもあるのだから。
前は私に挑むことを考えられる時点でまだ未熟なんだと思っていたけど、
認めるから、憧れるから挑みたいという気持ちも私たちウマ娘にはあったんだ。
そしてそのすべてを真正面から跳ね返す姿こそ最強のヒーローの振舞いだよね。
みんな見ててね。ライスが走る姿を!