ライスシャワーはダークヒーローとなる   作:黒い平方四辺形

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素晴らしき未来へと

 

 

今日は正月。

日曜日ではなかったが、さすがのトレーナーもトレーニングは休みにしておいた。

 

「えー、今日のトレーニングはないの?」

ライスシャワーは不満そうだったが。

 

「多少の緩急をつけるのも大切よ。こういう節目の時期にはしっかり休んでおきましょう。

一年の計は元旦にありともいうし、体のトレーニングではなく精神面のトレーニングになるのよ。

一緒に神社にお参り行きましょ?」

 

「うーん、わかった」

 

ライスシャワーは少々不満気だが、お姉さまとお出かけできるならまあいいか、と思った。

 

「でも私は神社って好きじゃないなあ。

小さいころからこれまでにどれだけお参りしてきたかわかんないけど、

お祈りが叶ったことなんて全然ないよ」

 

「あー…。まあ、アレよ。お参りっていうのは決意や誓いを宣言する場所でもあるから。

叶えてもらいたいことではなく、叶えたいことを再確認するのがいいと思うわ」

 

「確かにそうかも。まあ、気分転換にもなるしね」

 

「うん、じゃあ行きましょ!」

 

 

二人は神社に向かい、お参りを済ませた。

 

(私はこのまま最強のヒーローになる。そして、お姉さまのすごさをみんなに知らしめる。

去年のような辛いことはもう味わいたくない。この一年のうちに、必ず成し遂げてみせるから)

 

(私はライスのトレーナーとして、ライスのサポートを続ける。

ライスが最強のウマ娘だとみんなに認められて、

勝てばみんなに喜ばれ、負けたらみんなが一緒に悔しがる、

そんな誰からも愛されるウマ娘になれるようにサポートしていく)

 

お互いがお互いのための決意を固める。

愛する者のためにならどれだけだって頑張れる気がした。

 

 

「さーて、お参りも済んだし屋台でも見ていきましょうか。

何でも買ってあげるわよー」

 

「わぁ、ほんと?それじゃあね、甘酒と、りんご飴と、焼きそばと、唐揚げと…」

 

(ふふ、はしゃいでる。

いつも真剣だからこういう無邪気な笑顔が見られる貴重な機会なのよね)

 

「これおいしい!お姉さまも食べる?」

 

「あら、いいの?それじゃ一口貰おうかしら」

 

「それじゃあ、あーんして♪」

 

「っ!!」

(なんという役得!!)

 

トレーナーは動揺しつつも差し出された唐揚げを食べた。

 

「お姉さま、おいしい?」

 

「ん…。とってもおいしいわ。とっても」

久しぶりに味わったライスの愛くるしい姿で、

やる気が4段階くらい上がるトレーナーだった。

 

 

その後二人はゆっくり散歩をしたり、たくさんおしゃべりをしたり、一緒にゲームをしたり、

のどかな休日を存分に楽しんだのであった。

 

 

 

 

年明けの学園で、ライスシャワーが食事をしているとテイオーが現れた。

 

「やあ、ライス」

 

「あ、テイオーさん、お疲れ様」

 

「有マは見事だったねえ…いやあこのボクに勝つとはねえ…

これはもう、ライスは世界サイキョーのウマ娘って感じかなぁ~?」

ちょっと嫌味を込めて話すテイオー。

 

「まだだけど、そうなりたいな…」

ライスシャワーは真剣な顔で答えた。

 

(うわ、微動だにしない。やっぱ本気で言ってるんだな…)

ちょっかいをかけたことを反省しつつテイオーが言う。

 

「突っかかるような言い方してごめん、まだ悔しさが残っててさ…。

用事はこれじゃなくてマックイーンのことなんだ。

ボクとキミの走りを見て元気が出たって、これからも頑張るって言ってたよ」

 

「え!本当!?よかった…。ライスも役に立てたんだね」

 

「やっぱり長距離といえばライスだもんね、マックイーンがキミを目標にしてるってさ。

そんで、中距離はボクの役目ってわけ」

 

「ふふ、そうなんだ。でもライスは中距離でも負ける気ないけどね」

 

「ライスならそう言うと思ってたよ。また今度は中距離で勝負してよ。次はボクが勝つからさ」

 

「勝負だったら何回でもいいよ。テイオーさんが勝つのは無理だけどね」

軽く笑みを浮かべながら答えるライス。その顔には絶対的な自信が見て取れる。

 

「いやあ、いい表情してるねライス~。キミが悔しがる姿を見るのが楽しみだよ…」

 

二人がバチバチと火花を散らしているところにマックイーンもやってきた。

「あらお二人とも。わたくしもご一緒していいですか?」

 

「あ、マックイーンさん」

 

「やあマックイーン」

 

「ずいぶん火花を散らしているようですが、また次のレースの話でもしていたのですか?」

 

「まあね。また勝負しようって話してたところ。

マックイーンが追いついてくるの、先で待ってるよ」

 

「むー、羨ましい話ですわ。こっちは急いだからって治るようなものではありませんのよ」

 

「マックイーンさん、また走れるように頑張ってるんだってね。ライスも応援してるからね」

 

「ありがとうございます。

ライスさん、あなたに負けた2戦分のリベンジ、必ず果たして見せますからね」

 

「楽しみにしてるよ。でも、次は3戦分に増えていっちゃうけどね」

 

「……ライスさんも煽るのがお上手ですわね。

2回勝ったくらいでわたくしのことを分かった気になっておられる?」

 

「そんなことないよ…?でも勝率100%っていう『結果』があるからね」

 

「あらあら、うふふ…わたくしが勝った時に何て言っていただけるのか楽しみですわ」

 

「今度はライスとマックイーンが火花を散らし始めた…」

 

マックイーンは、ライスシャワーの雰囲気が穏やかになっていることを確認出来て安堵した。

有マ記念の走りもそうだし、今の会話でも自分たちを敵のように思っているわけではなさそうだ。

自分との勝負からはそんなに経っていないが、何か大きな変化があったのだろうと推測する。

いつかその話もしたいものです、と思いながら談笑をしていると、

ツインターボもやってきてまた3人と火花を散らし始めるのであった。

 

 

 

放課後、トレーナー室に行ったライスシャワー。

昼間に聞いた話をトレーナーに報告する。

 

「ねえお姉さま、マックイーンさんが復帰に向けて頑張ってるんだって。

私が元気をあげられたって言ってたよ」

 

「あら、そうなの!さすが、あなたはヒーローだものね。

有マのライスは誰よりも美しかったからね」

 

「うん!ライス、またヒーローに一歩近づけたんだね」

 

「それとね、あなたに一ついいお知らせがあるわ」

 

トレーナーがそう言うと、奥の方にいたミホノブルボンが顔を出した。

「ライス、お疲れ様です」

 

「え、いいお知らせ?…あっ、ブルボンさん!」

 

「あなたには真っ先に知らせたいと思い、直接来ました。

私の復帰レースが決まったんです」

 

「わあ…!ブルボンさん、脚が治ったんだね…!」

 

「はい。復帰レースで問題なく走れれば、今後は本格的にレースに参加していきます。

そうしたらライス、あなたと勝負ができます。それをずっと楽しみにしていました…」

 

「ブルボンさん…!おめでとう…!」

 

ライスシャワーは瞳に涙を浮かべながらお祝いの言葉を投げかける。

いつまでたっても、ミホノブルボンはライスシャワーにとってかけがえのないウマ娘だった。

 

「ライス…ありがとうございます。あなたが居たから、私はここまで頑張ってこられました。

いつまでも、あなたは私のヒーローですね」

 

「ライスも、ここまで頑張ってこられたのはブルボンさんが居たからだよ…!

ありがとう、ブルボンさん…!一緒に走るの、楽しみにしてるね!」

 

仲良く喜びを分かち合う二人を見て、

その姿を見るトレーナーも、目じりには涙を浮かべていた。

ライスシャワーもトレーナーも、ミホノブルボンは今でも特別な存在であり、

彼女に対しては心から優しい気持ちだけが浮かぶのだった。

 

 

 

 

その後ミホノブルボンは復帰レースとして京都記念に出場し見事に勝利を飾った。

 

『ミホノブルボン、1着でゴール!有マ記念のトウカイテイオーに続き、

ミホノブルボンも故障からの完全復活を遂げたことを証明する見事な走りです!』

 

 

「やりましたマスター。私の完治を証明できました」

 

「よくやったブルボン。脚に異常はないか?」

 

「問題ありません、もっと走りたいくらいです」

 

「そうか、だが今日はこれで十分だ。クールダウンをしてライブの準備をするぞ」

 

「了解です、マスター」

 

黒沼は相変わらず不愛想だったが、どことなく嬉しそうにしていた。

最も、ミホノブルボンは全く気付いていなかったが。

 

(身体共に異常なし。これで準備は整いました。ライス、あなたと勝負し、そして勝つ。

更なる高みを目指してどこまでも昇っていくあなたに、必ず追いついて見せます)

 

ミホノブルボンは次なるレースへの熱意を込めて観客席に目を向ける。

それはライスシャワーが応援に来てくれていたためだ。

大きな怪我を乗り越えることができたのは彼女が目標となってくれたからだった。

ライスシャワーは随分と先に進んでしまっているが、

彼女と出会ったころ、自分が追いかけられていたころを思い返し、

今度は立場が逆になり、私が追いかけるのだと思うと少し楽しくなる。

相応しい舞台は春の天皇賞あたりでしょうか?今から楽しみですね。

 

 

ミホノブルボンを応援に来ていたライスシャワーとトレーナー。

二人もその完全復活を証明する走りに大喜びであった。

 

「やったぁ!ブルボンさん、勝ったよ!」

 

「すごいわね!ブルボンさんもちゃんと脚が治って…本当によかったわ。

ライスを目標にしてるって言ってたもんね、これで心置きなく戦えるわね」

 

「うん!ブルボンさんとなら中距離でも長距離でも大丈夫だね。

でも、もちろん勝つのは」

 

「うちのライスの方よ!」

 

「えへへ、ずっとブルボンさんの目標であり続けてみせるよ」

 

「信じてるわよ、ライス。せっかくだしブルボンさんに挨拶しに行こうか」

 

「そうだね、おめでとうって言いたいな!」

 

二人はその後ミホノブルボンたちに祝福を送り、

ウイニングライブを終えた後で黒沼たちと共にみんなで食事をした。

そして春の天皇賞で勝負することを約束し、期待を胸に目標へと歩みを進める。

 

 

 

 

ミホノブルボンの存在だけは特別だったが、

ヒーローとして振る舞う事、今のライスシャワーにあるのはただそれだけだった。

 

 

見る者が憧れを抱くような強い姿を。

『ライスシャワー1着!また連勝数を伸ばしました!

圧倒的な走り、主役はまさにこのウマ娘でした!』

 

「みんな見てくれた?ライスは、これからも勝ち続けるからね!」

 

 

見る者の目を引くような美しい姿を。

『ライスシャワー、艶めく黒髪を靡かせて走っております!』

『走行のフォームも素晴らしいですね。私も思わず目を奪われてしまいました』

 

 

聞く者が親しみを覚えるような優しい言葉を。

「みんな、応援ありがとう!みんなの応援があるからライスは頑張れるんだよ!

これからも応援してくれるとうれしいな!」

 

 

聞く者が喜ぶような耳触りのいい言葉を。

「ライスは強いって言われてうれしく思うけど、元々強かったわけじゃないの。

夢に、目標に向かっていっぱいいっぱい頑張ったからこうして強くなれた。

だからみんなも諦めちゃダメ!諦めずに頑張ればきっと夢はかなうんだから!」

 

 

誰もが知るような有名なウマ娘になるために。

 

「ライスシャワー、雑誌の取材を受けてくれるのか?

最近君あての申し込みが多くてね。対応してくれて助かるよ。

君も我が学園のスターウマ娘として十分誇れる存在になったようだな。

一雁高空に至った君はとても美しく感じる…。

トレセン学園の新たな顔として活躍することを期待しているよ。」

 

「はい、精一杯頑張ります、会長さん!」

 

 

 

近頃は「ライスシャワーごっこ」なるものが子供たちの中で流行っているらしい。

それを見かけると大抵は子供たちもライスシャワーに気付くので、

サインをあげたり握手をしてあげたり、優しくファンサービスをしてあげた。

しかし内心では今までの経験から、それすらも苦々しく感じてしまう。

かつてあれほど悪役だと言われていたことを忘れることはできなかった。

それを思うと、ヒーロー扱いされることも空虚に思えてしまう。

 

世の中の人たちは私の事なんてちゃんとは見ていない。

私がどんな気持ちでいるのかを理解している人なんて誰もいないだろう。

こうやってただそれらしい振る舞いをするだけで大喜びしてくれる。

私の表面だけを見て、私の想定通りに動いてくれる。

私の輝きに目を焼かれ、ろくに物が見えないまま絶賛を続ける無知蒙昧な人しかいない。

私がどんなつもりであろうとも彼らにとっては関係ないのだから。

仲間であるウマ娘たちに対しては憧れるような強き英雄として、

観客たちに対しては見ると幸福に感じる美しき偶像として、

私はそんなヒーローになるのだ。

 

 

 

 

ライスシャワーは有マ記念以降も連勝を続けた。

アメリカJCC、ダイヤモンドS、金鯱賞を勝利し、重賞連勝数を15まで伸ばした。

もはやライスシャワーの強さを疑うものなど誰もおらず、全てのレースで1番人気の1着を果たす。

 

レース運びも強気の逃げ、王道の先行を使いながら他を圧倒し、

レース前後では堂々と礼儀正しく振る舞うことで気高き強さを演出していった。

過去のような他者を威圧するような黒い迫力は消え、他者を導くような輝きを放っていた。

 

ライスシャワー自身も、自分の力に確たる自信を持つようになった。

そしてヒーローとなるための振る舞いを意識して過ごすようになった。

最強のヒーローとして認めてもらえるまであと少し。

今後またブルボンさんに勝って実力を見せつけ、

そして後々会長さんを、皇帝シンボリルドルフを倒す。そこがきっと私の道の終着点。

 

幼いころに抱いた、キラキラする星のようなウマ娘になりたいという夢。

それは様々な経験により形を変え、太陽のような絶対的に輝く存在になりたいという夢となった。

決して届かないと思っていた存在に指が触れた。

あともう少しだけスピードを上げて…必ず掴み取って見せる。

 

そしてゴールに辿り着いたら、私の旅はそれで終わりだ。

私にもわかる、永遠に勝ち続けるのは無理だと。

ここまで来ても敗北への怖れは無くならない。レースに絶対はないのだから。

だからゴールにたどり着いたらそこで引退をする。

綺麗なまま、強者のまま、勝ったまま、ターフから私自身の意思で去る。

そうすれば私のことを、そしてお姉さまのことを誰もが認めたまま物語を閉じることができる。

誰もがハッピーエンドの余韻に浸ったままでいられるんだ。

もう少し、もう少し。もう少しなんだ。

 

この先の勝利を固く固く決意するライスシャワー。その瞳には一点の曇りもない。

 

しかし太陽に近づけば近づくほどその熱は身を焦がし、

羽ばたく翼を溶かしてしまうことに、この時はまだ誰も気づいていなかった。

 

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