ライスシャワーはダークヒーローとなる   作:黒い平方四辺形

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同じ人が独り言のようなものをしばらく喋り続けるっていうのをどういう風に表現したらいいのかよくわからないので、短文を鍵括弧で区切って連打するという形にしました。
普通の小説だとどういう感じなのかな?


止まった時間

 

予定通り学園の近くに来てくれたため、またミホノブルボンがお見舞いに来た。

 

「ライス、どうやら順調に治療が進んでいるようですね。

前のようにいろいろな管が繋がっているのはなかなか疎ましかったでしょうから。よかったです」

 

ライスシャワーからの返答はない。

 

「外出許可を貰ってきましたから、少し私の散歩に付き合ってくれますか?

今年は寒かったから、開花が遅くまだ桜がほとんど散ってなくて綺麗ですよ」

 

ライスシャワーからの返答はない。

 

「移動用の車はマックイーンさんが用意してくださったので、

静かなところでゆっくり散歩しましょう」

 

ライスシャワーを車椅子に乗せ、外へ連れて行くミホノブルボン。

車のところではマックイーンも待っていた。

 

「ライスさん、お久しぶりですわ!怪我も治ってきてるようですわね。

このまましっかり治していきましょうね!」

 

ライスシャワーからの返答はない。

 

「…それでは、移動しましょう」

 

できるだけ人目に触れさせたくはないため、

他人が入ることのないメジロ家ご用達の花見場所へと移動した一行。

気温の低い日が多かったこの年は、4月中旬になっても桜が残っているところが多かった。

暖かな日差しに照らされながら、ちらちらと桜の降る道を歩く三人。

ライスシャワーの乗る車椅子を押しながら歩き、桜色の景色を楽しむ。

 

「綺麗な桜ですわね。散る前に来られてよかったですわ」

 

「そうですね。今年はお花見をしませんでしたから。

せっかくですから桜餅やお団子を用意すればよかったかもしれませんね」

 

食べ物の話をして様子をうかがうが、やはり反応はない。

 

「桜舞う季節、春は出会いの季節ですわね。今年も新しいウマ娘が入学してきましたね。

ここからわたくしたちのライバルが生まれるかもしれませんわ」

 

「春は出会いの季節、ですか。

思い出しますね、私がライスと出会ったスプリングステークスのころを。

あなたと出会えてよかったと思います」

 

「そういえばわたくしもそうですわ、わたくしは春の天皇賞でライスさんと出会ったのですよね。

あのころからライスさん本当に強くって、ずっとライスさんを目標として頑張ってるんですのよ」

 

思い出を語りながら歩く三人。

その時、ライスシャワーが初めて変化を見せた。

虚ろな表情をするだけだったライスシャワーの瞳から涙がこぼれたのだ。

 

「あっ!?ライスさん!?」

 

「どうしました!?どこか痛むのですか!?」

 

やはりライスシャワーは何も答えない。

だが口元もきゅっと結ばれ、今までとは明らかに違う表情を見せた。

 

ライスシャワーは現実の激しい苦しみから逃れるために、

意識を殆ど眠らせることで精神を守っている状態だった。

印象深い思い出話を聞いたとき、その希薄な意識の中で微かに記憶が巡る。

 

自分が過ごしてきた春の思い出。

ミホノブルボンとの出会いと戦い。

マックイーンとの出会いと戦い。

そして自分のトレーナーと出会ったあの頃を。

 

楽しいことばかりではなかったが、未来に希望を持ち、全力で駆け抜けた日々。

ライスシャワーにとって特別なあの日々は、彼女の心に強く刻まれていた。

その記憶が蘇り、彼女に涙を流させた。

 

マックイーンが言う。

「どうやら、どこかが痛むという感じではありませんわね。

涙とはいえ…あれ以降初めてライスさんが反応してくれましたわ」

 

「少しでも反応が合って良かったです。

体だけではなく、心の方も少しずつ回復してきているのかもしれませんね」

 

「そうですわね。お花見に来てよかったですわ」

 

 

 

 

 

ライスシャワーが学園付近に戻って来て以降、沢山の人がお見舞いに来た。

 

 

同室のゼンノロブロイ。

 

「ライスちゃん…」

ゼンノロブロイはライスシャワーの痛ましい姿、放心した顔を見て涙をにじませる。

 

「ライスちゃん、痛かったよね。頑張ったね…。」

「私、ライスちゃんの事ずっと心配してた。」

「すごくすごく頑張ってるけど、身体を壊しちゃうんじゃないかって心配してたの。」

「でも私は何も言わなかった。頑張ってるライスちゃんに水を差したくなくて。」

「私があの時声をかけていたら、何か変わったのかな…。」

「ごめんねライスちゃん…!ごめんね…!」

「私、ライスちゃんが元気になれる日をずっと待ってるから…!」

何も答えないライスシャワーを抱きしめながら、また笑いあえる日を夢見るのだった。

 

 

 

チームスピカの面々。

 

「ライスさん、差し入れ持ってきましたよ!

今はこれだけですけど、外出できるようになったらオグリさんも誘って、

また一緒に食事に行きましょうね!」

そう言って山盛りの果物籠を持ってきたスペシャルウィーク。

 

「スぺ先輩、いくらなんでも多すぎじゃないですか…?」

ウオッカは若干引き気味にそれを見つめる。

 

「あらウオッカ、知らないの?ライスさんはスぺ先輩に匹敵するくらい美味しい物が好きなのよ。

アタシもお見舞い持ってきたんだから」

そう言いつつ菓子折りを見せるスカーレット。

 

「二人とも準備いいな。アタシもゴルシちゃん特製の甘納豆、栃餅、ポン菓子、きんつば…

色々持ってきたぜ!」

ゴールドシップもタッパーを見せる。

 

「ゴルシ…やたらと渋いチョイスだね」

テイオーは消化のよさそうなゼリーなどを持ってきたようだ。

 

「わたくしは各国の有名なお菓子を持参しましたわ」

豪華な箱を取り出すマックイーン。

 

「うわあ、俺以外みんないっぱい持ってきてるじゃねーか!

俺、ちょっと売店行ってきます!」

そういって外に行こうとするウオッカを止める沖野。

「いやいや、これだけあれば十分すぎるだろ。オレも持って来てねえよ…」

 

「よっしゃライスあーんしろー。まずトマトの甘納豆から食わせてやるぜー」

 

「トマト…トマト!?トマトが甘納豆になるんですの!?」

 

「何だマックイーン知らねえのか?トマトってのは果菜だから果物ともいえるんだぜ。

果物と甘味…つまり相性抜群よ!」

そう言いながらライスシャワーに食べさせると、全く無表情のままもぐもぐと食べた。

 

「トマトが甘く…ごくり。わ、わたくしも一口貰っても…?」

 

「いいぜ、じゃああーんしな」

 

「えっ、あーんを!そ、それはその…」

 

「ゴールドシップさん!私ももらっていいですか?」

スペシャルウィークが割って入る。

 

「おう!じゃあスペ、あーん」

 

「あーん!もぐもぐ…あ、初めて食べましたけど結構おいしいですね!」

 

「おうよ、ゴルシちゃんの愛情がたっぷり詰まってるからな!

で、マックイーンはどうした?」

 

「う…うう…」

恥ずかしそうにするマックイーンだが、意を決して口を開けた。

 

「あ、あーん…!」

 

「いい表情だマックイーン…!」

その瞬間、ゴールドシップがカメラを取出しマックイーンのあーん姿を撮影した。

 

「何してるんですのあなたは!!!!」

怒ったマックイーンは、ゴールドシップにテキサスクローバーホールドを仕掛ける。

 

「ぐええええ!!ギブ、ギブ!!!」

 

「ちょっお前ら、病室で騒ぐな!」

 

その後、全員仲良く看護師に説教されることとなった。

 

 

 

 

皇帝シンボリルドルフ。

 

「ライスシャワー、失礼するよ。ご機嫌いかがかな?」

 

ライスシャワーの姿を見て悲しそうな顔をするシンボリルドルフ。

 

「すまなかった…。私は君が過酷なトレーニングをしているのを知っていた。」

「その上、学園に関係する仕事まで任せて負担を強いた。」

「私は君を止めるどころかむしろ悪化させてしまったんだ。」

「君にも目指すものがあっただろう。その道を邪魔したくないと思っていたのだけれど…」

「自主性を重んじると言えば聞こえはいいが、言い換えれば無責任ともいえる。」

「後悔噬臍。生徒会長として不甲斐無いことこの上ないよ…」

 

シンボリルドルフは窓の外を眺めながら呟く。

「私も君とは程度が全然違うが、オーバーワークで不調に陥ったことがある。」

「自分の力を過信し、人の気持ちを理解しないまま進んでしまい…」

「人に頼ろうとせずに何でも自分でやろうとした結果起きたことだった。」

「その時私は生徒会長として情けなく思い、引退も考えたほどさ。」

「しかし周りの人たちが私を支えてくれた。そんな情けない私でも思ってくれる人がいたんだ。」

「君も同じさ、ライスシャワー。君を思っている人はたくさんいる。」

「私もその一人…。みんな君のことを心配しているよ。元気になる日を待っている。」

「こんなことになったとはいえ…百尺竿頭、走り続ける君の姿はとても眩しかった。」

「ふ…すまないね、長々と話を聞いてもらって。また来るよ」

 

 

 

 

 

チームカノープス。

 

「ライスちゃん久しぶり。調子はどう?」

とマチカネタンホイザ。

 

「おいっす~。お見舞い持ってきたよ。

商店街のみんながこれ持ってけっていっぱいくれたんだよね。

いやぁライスは大人気だねえ。羨ましいですなあ」

そう言ってナイスネイチャが取り出したのは商店街のいろいろな店から貰ったお見舞いの品。

ライスシャワーの人気と、ナイスネイチャの人気が合わさった量である。

 

「流石商店街のみなさん、わかっていますね。体に良い栄養素の取れる果物類、

美しさで心を癒す花、入院の退屈さを紛らわせる本とゲーム類。

まずは果物を準備しましょう」

眼鏡をクイッとしてから、リンゴの皮をむき始めるイクノディクタス。

 

「みなさんとても心配していましたから、顔を見られてよかったです。

まだ…あまり調子はよろしくないようですね」

と南坂。

 

「……」

ツインターボはうつむいたまま何も言わない。

 

「どしたのターボ?静かだね」

 

「……」

 

「何か緊張してる?せっかくお見舞いに来たんだしさ…」

 

「…もう、ライスは走れないの?」

ツインターボが小さくつぶやいた。

 

「っ…。それは…」

 

「約束したんだ、ターボと勝負しようって。

テイオーもマックイーンも、ネイチャもイクノもマチタンも一緒にみんなで勝負しようって。

約束したのに…それなのに…うそつき…!」

 

「ターボさん…そんなことを言ってはいけません。

残念な気持ちはわかりますが、一番つらいのはライスさんなんですよ」

南坂がなだめる。

 

「何とかならないの!?テイオーだって治ったじゃん!諦めなければきっと…!」

 

「テイオーさんとは状況が違いますから…。怪我の度合いは比べるべくもありません」

イクノディクタスがライスシャワーの脚を見ながら言う。

 

「嫌だ、嫌だ…。ライスが走らないなんて嫌だ…!

ライスだってそんなの嫌でしょ!?」

ツインターボがライスシャワーの肩を掴み、ガタガタと揺らす。

しかしライスシャワーは何も答えない。

 

「あっ!ダメだってターボ!誰よりそう思ってるのがライスなんだよ。

優しくしてあげなきゃさ…」

ナイスネイチャはライスシャワーからツインターボを引き剥がし、抱きしめる。

 

「うえ~ん!!やだ、やだ…!」

ツインターボはナイスネイチャの胸に顔をうずめながら泣き続けた。

ナイスネイチャは慰めながら頭をなでる。

 

いつもだったら能天気に次の勝負の約束をしろだの言いだすであろうツインターボ。

しかし今回は最初は俯いたまま何も言おうとしなかった。

ツインターボも理解しているのだ。

この怪我は治ったら走れるようになるものではないということを。

分かっていても分かりたくない。分かりたくないのに分かってしまう。

いつも明るいツインターボがさめざめと泣くばかりだった。

 

 

 

 

BNWの三人。

 

「さて、これからライスシャワーの病室に向かうわけだが…

チケット、君は本当に大丈夫か?」

 

「すごい不安なんだけど。病院だから静かにしてよね、できる?」

ビワハヤヒデとナリタタイシンはウイニングチケットの方を向きながら不安そうに言う。

 

「ゔん゙…努力は…じでみ゙る゙…」

そこには既に涙で顔がぐしょぐしょのウイニングチケットがあった。

 

「騒いだらおそらく全員まとめて追い出されてしまう。本当に頼むぞ」

 

「だぶん゙…」

 

「口にガムテープ貼って、フルフェイスのヘルメットでも被せておこうか?」

 

「ぞれ゙は…や゙だ…」

 

「じゃあ静かにしててよね。お見舞いだってこと忘れないでよ」

 

 

三人が病室に到着すると。

 

「やあ、ライスシャワー。お見舞いに来たよ」

 

「大変だったね、少しでも早く良くなるよう頑張ってね。アタシたちも応援するからさ」

 

「ふっ…ふゔゔ…」

 

 

「ライスシャワー、髪が乱れているようだな、その体では仕方ないだろうが。

よし、私が手入れしてあげよう。いつか君の綺麗な髪を触ってみたいと思っていたんだ」

ビワハヤヒデがいそいそと毛並みの手入れ道具を取り出す。

元よりそのつもりだったらしい。

 

「ライスの髪はサラサラだよね。アタシも結構クセっ毛だから羨ましい」

ナリタタイシンもライスシャワーの髪を触りながら感想を零した。

 

「ぐずっ…えぐっ…ん゙ん゙ん゙…」

 

 

「よし、手入れが済んだぞ!美しい黒き英雄の出来上がりだ!

身だしなみを整えたらティータイムと行こうか。

君のお見舞いには美味しいものが喜ばれると聞いてね、三人で用意してきたんだ」

 

「これ、人気のケーキ屋のナンバーワンだってさ。

買いに行ったら人いっぱいでさ、これラス一だったんだ。

ライスは運がいいよ。ほら、食べさせてあげる」

 

「チケットはお茶の用意を頼む。茶葉はそのバッグに入っている」

 

「ゔん゙…ずびっ、ぐしゅ…」

 

 

「ごちそうさま。さすがは評判の店だけあって美味しかったな」

ライスシャワーの口元を拭いながら満足げなビワハヤヒデ。

 

「食べた分はトレーニングしないといけないけどね」

ごみを片付けるナリタタイシン。

 

「ひゅー…ひゅー…」

食器を片付けるウイニングチケット。

 

 

「ねえチケット、そろそろ落ち着いてくれない?気になって仕方ないんだけど」

 

「同感だな。大声を出さないようにという君の努力は評価するが…」

いまだに泣き続けているウイニングチケットに困惑する二人。

 

「ごめ゙ん゙…ごれ゙が精い゙っぱい゙…

だっでざ…あん゙なに頑張ってだライスが…ごんなごどに…ゔっ」

ウイニングチケットは思わず叫びそうになる口を両手で抑えた。

 

「まあな…。ライスシャワーの走り、私のあこがれとなっていた。

君を超えることも目標の一つだったんだがな…とても残念に思うよ」

 

「ライスも体小さいからねえ。頑張りすぎちゃったんだろうね、きっと」

 

「ふー…やっぱり゙さ、も゙うレースは無理だよね゙…?」

 

「…だろうな。我々がアスリートである以上時々聞く話とは言え、

身近な者がそうなるととても悲しいよ」

 

「そうだね。アタシたちも怪我しないように気を付けないと」

 

「バヤ゙ビデやダイ゙ジン゙がこうなっだらア゙ダジ泣ぎすぎて死ぬ゙がも゙…

み゙ん゙な゙、気をづげよゔね…」

 

「ああ、怪我は自分だけの問題では済まないのは理解していたが…

今日はそれを痛感したよ」

 

「アンタのそれは本当にそうなりそうで怖いよ」

見舞いに来てから数十分。

その間一度も止まることのなかったウイニングチケットの涙を見て、

今後のウイニングチケットが心配になる二人だった。

 

 

 

 

マンハッタンカフェとアグネスタキオン。

 

「こんにちはライスさん」

 

「やあやあライス君!お邪魔するよ!」

 

目は空いているが反応のないライスシャワーを見つめる二人。

 

「ライスさん…元気になってくれることを待ってますよ」

マンハッタンカフェがライスシャワーの頭を撫でる。

 

「ふぅン…話に聞いていた通り、心神喪失のようだねぇ。

精神が肉体にもたらす効果というのは侮れないものだよ」

 

「そうですね…。皆さんが励ましてくれているそうですが、どうにも効果が薄いようですね。

タキオンさんの薬に治せるようなものはないんですか?」

 

マンハッタンカフェがそういうと、アグネスタキオンは「待ってました」というような顔で、

「それが『ある』…と言ったら…どうするかい?」

と言ってニヤリと笑った。

 

「もちろん、怪しすぎるので帰ってください」

 

「はーっはっは!さすがはカフェ、容赦ないねえ!

安心したまえ、この手の薬は作ってないから持っていないよ。専門外なのでね。

第一、ライス君にも主治医がいるだろう?

投薬には組合せの問題もあるし私がしゃしゃり出るわけないじゃないか!」

 

「学園でもそうだったらよかったんですけどね…」

 

「それよりカフェ、君こそどうなんだい?

精神の問題であるというのなら、君の『お友達』こそいろいろできそうな気がするがねぇ。

私はあまり詳しくないが、人に憑依して影響を与えたりもできるんだろう?

それにほら、病院にはよく出るというしね」

 

「そんな便利な道具とは違いますよ…。

それができるのなら、あなたをまともにしてくれるように頼んでます」

 

「その通りだねぇ。影響力が少なくて命拾いしたよ、はっはっは!」

 

「私は残念ですけどね」

 

「まあ私が見舞いに来たのは精神面ではなく肉体面の話に興味があるからさ。

ライスシャワーはウマ娘の中でもひと際小柄だが、その実力は折り紙付き。

細い体のどこに力が入っているのか興味深い…!」

 

「研究とか言い出すならやっぱり帰ってもらえませんか?」

 

「そう言うなカフェ。私の研究は、ライス君の怪我を治すことには多少役に立つと思うよ?

私は自分の脚の強度に不安を抱えていたから、いろいろ研究していたからねえ」

 

「ああ…それはちょっと役に立つかもしれませんね」

 

「だろう!?では早速、体細胞を採取させてもらって…」

 

「当て身」

 

「ヒュッ…」

機嫌を悪くしたらしいお友達の一撃を食らい昏倒するアグネスタキオン。

 

「あっ!?あー…。まったく…。ライスさん、騒がしい人を連れてきてごめんなさい。

でもタキオンさんもこれでも一応真面目に心配しているんです。

できれば怒らないであげてください」

「ライスさん、元気になったらまた絵を見せてくださいね。

あなたの優しい絵、私はとても好きですよ。

またあの時のような穏やかな日が来ることを祈っています」

 

 

10分ほどして目が覚めたアグネスタキオンは「影響力、結構あるねぇ…」と呟き、

さすがに大人しくなった。

二人はライスシャワーに紅茶を飲ませたり、コーヒーを飲ませたり、

クッキーを食べさせたりして仲良く過ごしたようだ。

 

 

 

再び訪れたミホノブルボン。

 

「ライス、あなたとの勝負を約束していた春の天皇賞が先日ありました。」

「自慢になってしまいますが、見事に勝つことが出来ましたよ。」

「ライスもマックイーンさんもいなかったので少々物足りませんでしたが…」

「どちらかがいたらまた勝負は変わっていたかもしれません。」

「ふふ、とはいえ勿論負けるつもりはありませんけどね。」

「ステイヤーとしての私も十分完成に近づいてきたと実感しています。」

「次はどのレースを走るかまだ決めていませんが…」

「このまま長距離をメインにするのも楽しそうですね。」

「あなたがいてくれたから私もこうして再び走れるようになりました。」

「ありがとう、ライス。ずっと私の目標になってくれて…。」

 

ミホノブルボンが涙を流す。

「私はあなたの痛ましい姿を見るのが辛いです。」

「明るい笑顔を見せてくれた頃を思い出すと悲しくなってしまう。」

「せめて心だけでも元気になってくれればと思っていても…」

「私ではあなたを助けることはできないのですね。」

「やはりあなたを助けられるのはあの人しかいないのでしょう。」

「未だに居場所はわかっていませんが…」

「必ず見つけ出して連れてきてあげますから。」

 

 

 

ライスシャワーが事故を起こしたあの日以来、トレーナーは姿を晦ませたままだった。

一度も顔を見せることはなく、学園への連絡も一切ない。

彼女は今どこで何をやっているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

6月も中旬になるころ、とある農業会社の社屋で仕事をする女性がいた。

 

「社長、苗の準備終わりました!」

 

「おーお疲れ、明日は朝から植え付けに行くぞ。今日は上がっていいよ」

 

「わかりました、お先に失礼します!」

 

女性は明日の準備を終えると荷物をまとめて帰路につく。

 

(農業って結構大変ね。まだあんまり慣れないわ…)

そんなことを考えながら建物から出て歩きだすと、後ろから声をかけられる。

 

「お疲れ様です。随分と精が出ますわね」

 

「久しぶりだね。お米の農家をやってるんだ?」

 

「えっ…!」

女性が後ろを振り向くと、そこには見知った顔があった。

 

「テイオーさん、マックイーンさん…!」

 

 

「ようやく見つけましたわ。ちょっとお時間よろしいでしょうか?」

 

「やあトレーナーさん。ボクたちと『お話』…しよっか?」

 

 

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