ライスシャワーはダークヒーローとなる   作:黒い平方四辺形

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一歩踏み出す

 

話はひと月ほど前に遡る。

 

テイオー、マックイーン、ミホノブルボンが集まって話をしていた。

 

「先日ライスのところへ行って、私の天皇賞のことを話してみました。

しかし何の反応もありませんでした…。」

涙目でそう話すミホノブルボン。

 

「まあ、ブルボンさんのそれでも反応がなかったんですの?

いったいどうすればいいのでしょうか」

 

「ボクやマックイーンの話も反応ないからねえ。どうするったって…」

 

「やはりライスを助けられるのはトレーナーさんしかいないのではないでしょうか…?」

 

「だよねぇ~やっぱりぃ~!でもどこにいるんだよあの人!!!」

テイオーが頭を抱える。

 

「理事長は捜索願を出してあると言ってましたけど…

やはりそう簡単には見つかりませんわね…」

 

「私たちでは何も状況が好転しないようです。

トレーナーさんが見つからなかったらライスはずっとあのままになるのでしょうか?」

 

「そうなっちゃうかもしれないよね。どうしよう…」

 

「ううん…わたくしも動いてみましょうか…?

メジロ家のコネクションを使えば見つかるかもしれません」

 

「えっ、でも警察も見つけられてないんでしょ?さすがに無理なんじゃ?」

 

「いえ、警察の皆様は探すといってもそれをメインにするわけではありません、

他の仕事がありますからね。なのでメジロ家で捜索する人を雇って、

それに専念してもらおうかと」

 

「それはマックイーンさんに負担をかけてしまうのではないですか?」

 

「少しくらい構いません。おばあ様にお願いしてみます。

わたくしにとってもライスさんは大切な友人なのです。

ずっとこのままなんて絶対に嫌ですわ!」

 

 

 

帰宅しておばあ様に相談するマックイーン。

 

「おばあ様お願いします、トレーナーさんを探していただけませんか?」

 

「そのトレーナーさんはあなたのトレーナーさんではないのでしょう?

どうしてそこまでこだわるのですか?

はっきり言いますが、担当ウマ娘を放置して行方を晦ますトレーナーなど、

トレーナー以前に人間として失格ですよ。そんな方を探す必要があるのですか?」

険しい表情で答えるおばあ様。

 

「確かに問題のある方ですが…それでもライスシャワーにとって必要な方なんです。

わたくしではライスさんを救うことはできませんでした…

可能性があるのはそのトレーナーさんだけなのです」

 

「随分とライスシャワーさんに入れ込んでいるのですね。

彼女はもう走れないと聞いていますが、どうしてそう気にかけるのですか?」

 

「ライスさんは…ライスさんは、わたくしの大切な友人だからです」

 

「ほう…」

 

「費用のせめてもの補填として、わたくしのお小遣いは全部無くしてもらっても構いません。

どうかお願いできませんか?」

 

おばあ様の表情が緩む。

「大切な友人がまた増えたのですね。それはとてもいいことです。

いいでしょう、トレーナーさんを捜索してあげます。じいや、手筈は頼みますよ」

 

「承知いたしました」

一礼をするじいや。

 

「ああ、もちろんお小遣い没収なんてしませんから安心しなさい。

その代わりトレーナーさんが見つかるまでは、

定期的にライスシャワーさんのケアをしてあげるのですよ」

 

「おばあ様…!ありがとうございます!!」

 

 

かくして本格的な捜索が始まった。

トレーナーの失踪はあまりにも急で衝動的な行動であったため、

足取りを消すような行動はほとんどなかった。

そのためプロが本気で調べれば追跡することはそれほど難しくなく、

メジロ家のネットワーク、トレセン学園の協力もあり、

捜索開始からおよそ一か月後に居場所が判明したのだった。

 

 

 

そしてテイオー、マックイーン、ミホノブルボンの三人はトレーナーのもとへと向かった。

 

向かう途中、テイオーが言う。

「見つかってよかったよ。もしかすると、その…死んでるんじゃないかと思ってたからさ。

しかしまた、大分県とはずいぶんと遠くまで逃げたもんだねえ」

 

「学園から距離があって、競バ場もないような場所に行きたかったんでしょうね。

逆に、逃げるならそういう思考になるだろうということで調べてくれたそうですわ」

とマックイーン。

 

「トレーナーさん…元気ならばどうしてライスの元に来てくれないのでしょうか」

ミホノブルボンは寂しそうに言う。

 

「まあボクは大体想像つくけど…でも許せないね。

ライスがあんな大変な状態なのに一人で逃げて暮らしてるって!?」

 

「落ち着きなさいな。ひとまず居場所が分かっただけでも良しとしましょう」

 

「良くないよー!死んでるならともかく元気に生きてるなら腹立つよ!

トレーナーのくせに!トレーナーのくせに!!

あーもう、あの人の顔を見たらボクは蹴り飛ばしに行っちゃうかもしんない。

ボクがキレたら二人が止めてね?」

 

「まあそうなったら止めますが…できるだけ自制してくださいね?」

 

「努力はするけど約束はできないかな…」

 

「ライス…待っててくださいね。必ずトレーナーさんを連れて行ってあげますから」

 

 

 

 

そして現在。

ライスシャワーのトレーナーのもとにマックイーンたちがやってきたのだった。

 

「テイオーさん、マックイーンさん…!」

 

「こうして会うのは数か月ぶりですわね。元気そうで安心しましたわぁ」

「再開を祝して一緒にご飯でもどーお?」

テイオーとマックイーンは、凄まじい威圧感を出しながら声をかける。

 

「あっ…あっ…」

トレーナーは体を震わせながらじりじりと後ずさりをする。

 

「どうしました?顔色が優れないご様子ですわね?」

「具合悪いの?じゃあボクたちが病院に連れてってあげようか?」

テイオーとマックイーンもにじり寄る。

 

その時、建物から人が顔を出した。この会社の社長である。

「なんか声がすると思ったらまだ帰ってなかったのか。明日も早いからさっさと…

んっ!?あんたら、トウカイテイオーとメジロマックイーンじゃねえか!?」

 

テイオーらはもっと離れた場所で声かければよかった、と思いつつ営業スマイルをする。

「あら、こんばんは。知っててくださって嬉しいですわ!」

 

「ボクらの名前も知れ渡ったもんだね。

でもまだもっと活躍していくからこれからも応援よろしくね!」

 

「おうよ、ずっと応援していくぜ!しかし、そんな二人がうちの新人に何の用だい?」

 

「ああ、この人はね…」

テイオーが繕った説明くらいはしておこうとトレーナーの方に顔を向けると。

 

「あっ、いない!」

 

「あっちです、逃げてますわ!」

 

トレーナーは、テイオーらの注意が社長の方に向いた隙に逃げ出していた。

「はあっ、はあっ、はあっ…!」

 

社長が声をかける。

「ありゃー、すまんね。俺が邪魔しちまったかな。

あいつには社用電話渡してあるから呼んでみようか?」

 

テイオーがトレーナーの逃げる背中を見ながら、軽く屈伸をしつつ言う。

「いや、大丈夫だよ。フツーの人が走って逃げるなんてさあ…

このトウカイテイオー様に対して無謀すぎると思わない?」

 

「行ってらっしゃいませ、テイオー」

 

「よっし、レッツゴー!!!」

テイオーはそう言いトレーナーの後を追った。

砂埃を巻き上げながら駆けるその姿は、数秒で見えなくなってしまった。

 

「うへえ、さすがはトウカイテイオー。とんでもねえ速さだな…。

でもバ場と違ってあの辺は細くて入り組んでるから、

ただ脚が速くても追いつけないかもしんないぞ?」

 

「心配ご無用。実は、逃げることも地形の事も織り込み済みですわ」

マックイーンはそう言いながらスマホを操作する。

 

「こちらMM。オペレーション"proactively"始動します。E6地点へ急行願います」

 

『こちらMB、了解しました。起動シーケンス入ります』

 

 

 

「どこだー、トレーナーさーん!!」

テイオーが叫びながら追いかけるも、入り組んだ場所に逃げ込まれて姿が見えないようだ。

 

「はあ、はあ…テイオーさんと言えどもここで本領発揮は無理よね。

地の利を得ている私の方がずっと有利だわ…」

トレーナーは追跡を振り切るべく、何度も角を曲がりながら逃げていく。

そして完全に振り切って路地の外に出た瞬間、立っていた歩行者にぶつかってしまった。

 

「あぶっ!イタタ…す、すいません、よそ見をしていて…」

トレーナーが謝罪すると、相手は手を差し出してくれた。

 

「いえ、私も不注意でした。こちらに怪我はありませんが、あなたは大丈夫ですか?」

 

「ええ、私も大…丈……夫………」

トレーナーが手を取ったとき、それも聞き覚えのある声だったことに気付いた。

 

「お久しぶりです、トレーナーさん。お元気そうでよかったです」

ミホノブルボンがにっこりとほほ笑んだ。

 

「ぶっ…ブブブブルボンさん…!」

トレーナーは踵を返して逃げようとするも、

がっちりとミホノブルボンに握られた手はびくともしなかった。

 

そして他の二人も合流する。

「さすがブルボンさんですわ!知っていますか?

普通の人は、逃げシスからは逃げられないんですのよ?」

 

「追込漁大成功~!ふと閃いた、この経験はレースに役立つかもしれない!

ボクも今度のレースで追込やってみようかな!?」

 

「マックイーンさんの予想通り、こちら側に来てくれましたね。さすがです」

 

「ひっ…あ…あわわ…」

もはや逃げようのない状態に陥ってももがき続けるトレーナー。

 

「はあ…往生際が悪いですわね。テイオー、やっておしまいなさい!」

 

「はいよー、マックイーン!」

 

テイオーが取り出したのはあのアイテム。

そう、チームスピカ伝統の麻袋だ。

 

「えっ!?それで何する気…うっ、モゴモゴ…」

 

「確保!!よーし、人目がつかない所に行くよ!」

 

「そうしましょう。事前に調べておいたこの空き地がよろしいかと」

 

「全く、手間取らせてくれましたわね。行きましょう」

 

「「「えっほ、えっほ、えっほ」」」

 

「た、助けて~!」

 

トレーナーが入った麻袋を担いで移動する三人。

スピカアブダクションはトレセン学園内だけにとどまらず、

遥か遠い地でも起きることがあるらしい。

 

 

 

そして4人は人気のない空き地に移動した。

 

「さてトレーナーさん。いい加減観念してくれましたか?」

マックイーンが睨みながら声をかける。

 

「うう…。わ、私に何の用ですか…?」

流石に諦めたらしいトレーナーが、ようやく口を開いた。

 

「なんの用って?言わなくても分かってるでしょ?

でもまあ面倒くさいから言うよ。ライスのことさ」

 

ライス。その名前が出たとき、トレーナーが体をビクッと跳ねさせる。

 

「ライスは今大変な状態なんだよ。トレーナーさんに戻って来てほしいんだ」

 

「わ、わた、私は…私はもうトレーナーじゃありません…。

かっ、かか関係ないですから…ほっといてください…」

 

「莫迦な事を言わないでくださいませ。あなたはライスさんのトレーナーでしょう。

関係ないなどと、どの口が言うのですか?」

 

「私は…学園をやめると辞表を出しました…。

だからもうトレーナーではありません…」

 

テイオーのこめかみに青筋が立つ。

「はあ…?辞表出したからはい終わり。もう関係ありませーん、って?

キミのライスへの思いはそんな軽いもんだったの?

ボクは忘れてないよ、ボクとマックイーンがキミとライスに宣戦布告しに行ったとき…

キミの迸るライスへの思いを受けたことをね。まさかあれは全部ウソだったとでも言うつもり?」

 

「あれは間違いでした…。私は…私なんかライスと一緒にいる資格なんてないんです。

私があの子に大怪我をさせてしまった、選手生命を奪ってしまった…。

私がいたからあの子が不幸になったんです。だから私は近づかない方がいいんです」

 

「は…?」

テイオーが詰め寄りそうになるのをマックイーンがステイする。

 

「私が一緒にいてもライスを不幸にするだけです。

あの子のためを思ったら、私なんかより別な人がいてくれた方がいいんです。

ライスだって、こんな使えないトレーナーなんて顔も見たくないでしょうから」

 

「思えば私はあの子を苦しませることばかりしてきました。

最初の頃、勝ちを怖がってしまったとき。

菊花賞や天皇賞で、人々に罵られてしまったとき。

そして今、選手生命を絶たれた時。

私が余計な事ばかりしていたからこんなことになってしまった。

私なんかがライスのトレーナーにならなければ、

他の人がトレーナーになっていればこんなことにはならなかった」

 

「だから私はもうあの子には近づきません。

ライスを不幸にしたこの私があの子の側にいるだなんてあの子のためにならない。

私がいたらまた何かが起こるかもしれない。だからもういいんです」

 

とうとうと自虐的な説明を続けるトレーナー。

それを聞いてテイオーの堪忍袋の緒が切れた。

 

「さっきから聞いてれば勝手な事ばかり…」

マックイーンの力が緩んだので、蹴り飛ばしてやろうかと思って近づこうとしたその矢先。

自分よりも先にマックイーンがトレーナーに詰め寄っていた。

 

「たわけたことを!!!」

声と同時にマックイーンの平手が飛んだ。

 

「ブフッ!」

それを食らったトレーナーの身体は宙を浮き、数メートル吹っ飛んで転がって行く。

 

「あなたは何様のつもりですか…!?」

なおも詰め寄ろうとするマックイーンを止めるテイオーとミホノブルボン。

自分がキレた瞬間にもっとブチキレているマックイーンを見たテイオーは冷静さを取り戻した。

 

「ちょわっ!!?マックイーン落ち着いて!!!」

「マックイーンさん、暴力はいけません」

 

「ゲホッ…殴られても当然です、私のせいでこんなことになったんですから。

気が済むまで殴ってください…罰として甘んじて受け入れます」

口を切ったらしく、血を流しながら起き上がるトレーナー。

 

「罰!?わたくしが思っているのはそんな事ではありません!!

トレーナーさん、あなたの言っているのは全部自分のためでしょう!!

ライスさんのためにならないとか言いながら、自分が逃げているだけでしょう!!」

 

「…私が逃げてる?」

 

「本当にライスさんを思っているのなら、本当にライスさんのためになりたいのなら、

あなたがやるべきことは離れることではなく側で支えることだとわかるでしょう!!

それなのになぜ逃げているんですか!!あなたはトレーナーなのに!!」

 

「に、逃げてなんて…。私はライスのためを思って…」

 

「そんなわけないでしょう!ライスさんが…

今のライスさんがどうなっているか知っているのですか!?

知らないでしょうね!ライスさんと向き合うことから逃げ出したあなたは!!」

 

「どう…?どうって…?け、怪我の治療中では…?ニュースでも怪我の治療は順調だって…」

 

マックイーンを抑えつつテイオーも答える。

「そうだよ、順調だよ、怪我の治療はね!でもキミは逃げたから知らないんだね。

今のライスは精神的ショックで心を閉ざしてるんだ。

喋ることも、起き上がることもできないんだよ!

それでも自分の知ったことじゃないって見ぬふりをするの!?」

 

「えっ、喋れなく…!?」

 

「ほら、やっぱり知らないじゃん。離れたのはライスのためとか言ってたよね。

もう一回聞くけどさ、本気でそう思ってんの?

今も苦しんでるライスをほっとくことがライスのためだって思ってんの?」

 

「そんな…。でも…でも私がいてもきっと何もできなかったし…

もしも私がいなくなったせいなら…やっぱり私はトレーナー失格で…

ライスの側にいる資格なんてない…」

 

「いつまでもそうウジウジと自分の殻にこもっていて何になるの?

キミにとってのライスはそんな軽い存在なの?

キミにとってもライスは大切な人じゃなかったの!?」

 

「軽っ…軽いわけないですよ…。

私にとってライスは一番大切な人で…」

 

「ボクらはキミを助けるために来たわけじゃない、ライスのために来たんだ。

キミもライスが大切だというんなら、やるべきことはわかるんじゃないの?」

 

「わ、私みたいな無能な人間は…戻ってもまたよくないことをするだけです…。

だからもう私は近づかない方があの子のために…」

 

「まだそんなことを言うの?

だったらさっきの質問に答えてよ。本気で、本っ気でライスのためだと思ってるの?

ライスにとって何がいいかを本気で考えた結果なの?

キミはトレーナーなんだよ?一番優先するのは誰なの?

キミの言ってることは、キミがやってることは、全部自分のためなんじゃないの!?」

 

「わた…わたしは…わたしが…私の…ため…?」

トレーナーが頭を掻き毟りながら呟く。

 

「私…私…わたし…わたし…」

 

「そう…だね…。私がやったこと…全部…私のためだね…」

頭を抱え、うずくまったまま続ける。

 

「私…私は…怖かった…。ライスが怪我をしたのは…私のせいだから…

ライスは私を嫌ってるんじゃないかって…恨んでるんじゃないかって…

ライスにお前のせいだと言われるんじゃないかって…怖くて怖くてたまらなかった…」

 

「私自身も自分を恨んでた…私がもっとまともなトレーナーなら…

きっとこんなことにならなかったから…私の責任だから…

だから私がまだライスの傍にいても…またライスを傷つけてしまうんじゃないかって怖かった…

でもそれはきっとライスへの申し訳なさではなくて…

自分が辛くなるからそう思っただけだよね…」

 

「ライスの全てを奪ってしまったのが怖かった…私が壊したライスの姿を見るのが怖かった…

どんな人もみんな私を責めるだろうね…

しかもそれは正しいことで…誹謗中傷とは話が違くて…

正しいからこそ受け流せなくて…受け入れなくちゃいけなくて…

私はどんなことを言われても仕方ない人間なのに…それを言われるのが怖かった…」

 

「本当はわかってた…。これはただの逃げだってこと…。

でも逃げずに立ち向かうことは怖くて…でも逃げたことを認めるのも怖くて…

自分は逃げたわけじゃないって、ライスのためなんだって、

自分にウソをついてごまかしていたんだ…

そうすれば罪悪感が薄くなるから…」

 

「私は最低の人間だ…ライスの体はボロボロでとても辛かっただろうに…

元気な私が勝手に逃げ出して…あの子を一人にしてしまった…

ライスは体だけじゃない…心だってボロボロなのはわかってたはずなのに…

私はそれを見捨ててしまった…」

 

「ライスが喋ることもできなくなったって話…

もし本当なら…それはやっぱり私のせいだよね…

どうしてそうなったのかは知らないけど…

お医者さんは心のケアをしてあげてと言っていたのに私はそれをやらなかった…」

 

「私は弱い人間だ…ライスの傍を離れた後…

私は死ぬことも考えていた…本当はね…私がライスにできることなんて何もないと思って…

償えるとしてら私の命だって…そんなことを考えてた…

そんなことをしたって誰にもいいことがないのにね…」

 

「だけど私は弱虫で…それすらも怖くてできなかった…

何もかもが怖くて…何もかもから逃げ出して…何もしなくて…」

 

「私のせいなのに…私が悪いのに…それなのにこんな…

こんな弱虫で、卑怯で、情けなくて、自分勝手で、最低で、

何もかもが全部…!全部ダメな人間なんだ…!

私が!私が!!私が!!!」

叫びながら地面に頭を叩きつけるトレーナーを止めに入るテイオーたち。

 

「ちょい!やめ、やめてって!少し落ち着いて!!」

 

「あなたたちの言うとおりです…!私はずっと自分勝手で、

ライスのためと言いながら自分のことしか考えていないクズなんだ!

こんな最低の私がライスのところに戻る資格なんてないよ…!

ごめんなさいライス!私みたいなのがトレーナーで!うあああ…!」

 

泣き喚くトレーナーの姿を見て、マックイーンが言う。

「あなたの気持ち…少しは理解しましたわ。

あなたにも辛いものがあったのでしょうね。でも…。

でも、一番辛いのはあなたではなくてライスさんです。

ライスさんのためを思うなら、戻って来て一緒に支えてあげませんか?」

 

「私にそんな資格ないよ…!あの子を見捨ててしまった私なんかに…!

あの子を見捨てたくせにおめおめと戻ってもきっと恨まれるだけだよ…!」

 

「また逃げるのですか?さっき自分の過ちを認めて下さったんじゃ…」

 

「認めるよ…。でも、認めたらやっぱり無理だよ…

こんな私がどの面を下げてあの子の前に顔を出せるの…?

ライスを見捨てた私が今更戻って、ライスが喜んだりするの…?

もっと苦しくさせてしまうんじゃないの…?それなら…」

 

「わたくしたちでは…っ!わたくしたちではライスさんを助けることができませんでした!

だからあなたを呼びに来たんですのよ!?

あなたの言うようなこともあり得なくはないでしょうが…

一番可能性が高いのはあなたなんです!」

顔をゆがませながら叫ぶマックイーン。しかしすぐに冷静さを取り戻して言った。

「ライスさんの事を大切に思っているのなら、戻ってきてくれませんか?

それに過ちを犯したとお思いならば、それの償いにもなるでしょう?」

 

「ライスのために…。うっ…うう…。

ごめんなさい…やっぱり私嘘つきだ…

資格とかじゃない…私が怖いんだ…もし拒絶されちゃったらどうしようって…

既にこんな最低な事をしてるくせに、まだそんなこと考えちゃうんだ…

私のせいでボロボロになっているライスを見るのも怖い…

ライスのためを思うなら戻ったほうがいいってわかってるのに…

勇気が…勇気が出ないの…」

 

「あなたはずっとそうやって…」

マックイーンが何かを言おうとしたとき、ずっと静観していたミホノブルボンが口を開いた。

 

「トレーナーさん、あなたはライスのことが嫌いになったわけではないのですね?」

 

「ええ…もちろん…」

 

「あなたは今もライスのことを大切に思っているのですね?」

 

「う…うん…。だけど…」

 

「それなら、ライスを助けてあげてくれませんか?どうかお願いします」

深々と頭を下げるミホノブルボン。

 

「ブ、ブルボンさん…?」

 

「私では…私ではダメなんです。私ではライスを助けてあげられないんです。

あなたの力が必要なんです。どうかお願いします。

ライスを…ライスを助けてあげてください」

 

頭を下げたまま懇願するミホノブルボン。

その瞳からは大粒の雫が滴っていた。

 

「ブルボン…さん…」

 

「ボクからもお願いします!ライスを助けてあげてよ!

ライスを助けられるのはきっとトレーナーさんだけなんだ!」

そう言いテイオーも頭を下げた。

 

「わたくしからもお願いいたします。ライスさんはあなたを必要としています。

今もあなたの事を待ち望んでいるはずです。どうか…!」

マックイーンも続けて頭を下げた。

 

「み…みなさん…」

 

トレーナーはこんなクズな自分に頭を下げてまで、

ライスを助けようとしてくれる三人の姿を見て涙が流れる。

それなのに自分だけが逃げ続けている、一番大人なのに。

でも私は…私は…。

 

数十秒の沈黙の後、トレーナーが口を開く。

「私…戻っても…許されるんでしょうか…」

 

「わかりません。でも、きっとライスさんはあなたを待っていますわ」

 

「私…私が本当に役に立つんでしょうか…」

 

「トレーナーであるキミじゃないとダメなんだと思うよ」

 

「私…私はまだトレーナーでいていいんでしょうか…?」

 

「私はあなたをライスのトレーナーだと認識しています。

ですが今の問いの答えがNOであるならば、あなたはライスを助けないというのですか…?」

 

ミホノブルボンの回答に口を紡ぐトレーナー。

 

「それもそうですわ。トレーナーさん、あなたはどうしたいのですか?

あなた自身の意思を聞かせてくださいませんか?」

 

「私…私は…」

 

怖い。何もかもが怖い。

そして何もかもが苦しい。

自分のやらかしたことの罪悪感で押しつぶされそうになる。

怖くて怖くて仕方ない。だけど…

ライスはそんなに苦しんでいる。私よりよっぽど苦しいはずだ。

拒絶されるかもしれない。罵倒されるかもしれない。殴られるかもしれない。

それでも…少しでもライスのためになる可能性があるのなら…

私にとって一番大切な人のために…勇気を出さなくちゃ…。

 

 

私を認めてくれて一緒に歩んできたライス。

 

「私…もう一度頑張ってみます…。怖いって気持ちは沢山あるけど…」

 

 

 

私のせいで全てを失ってしまったライス。

 

「ライスが苦しんでいるのなら…助けてあげたい…。だから…」

 

 

 

そんな資格があるのかはわからない。けれど、何か出来ることがあるのなら。

 

「私…ライスのところに戻りたいです…!」

 

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