放課後になり、黒沼のチームに来たトレーナーとライスシャワー。
黒沼と、ミホノブルボンをはじめとしたチームのウマ娘らが迎え入れてくれた。
「話した通り、今日からうちのチームの一員となった二人だ。
サブトレーナーとサポーターとして、これから一緒にやっていくぞ」
黒沼に促され挨拶をする二人。
「今日からよろしくお願いします!黒沼さんのご指導の下、
立派なトレーナーとして頼れる存在になれるように頑張ります!」
「ライスシャワーです、よろしくお願いします…!サポートなら任せてね…!」
チームメンバーからは拍手が上がった。
「ライス、今日から同じチームですね。よろしくお願いします」
ミホノブルボンも嬉しそうにしている。
「うん、ブルボンさんのこと精一杯サポートするからね…!」
「ライス先輩!私いろいろ教えてほしいことがあって…!」
「これからよろしくお願いします!」
他のメンバーからも人気の厚いライスシャワー。
「うん!何でも聞いて!」
「サブトレーナーさんにも聞きたいことたくさんあるのでよろしくお願いします!」
「ええ、何でもどうぞ!でも黒沼さんの方が私よりよく知ってるんじゃないかしら?」
そういうと小さく耳打ちされた。
「うちのトレーナーって威圧感あるから気軽に聞けないんですよね…。
サブトレーナーさんは話しやすくて嬉しいです!」
「あー、そうなんだ…」
昨日の面談の際に聞いた話を思い出したトレーナーだった。
同じチームとして過ごすことになったライスシャワーたち。
しかしミホノブルボンは早くもライスシャワーの異変を感じ取っていた。
「トレーナーさん、トレーニングの準備出来ました…!」
「ご苦労、ライスシャワー。あいつらに10分後に開始すると伝えておいてくれ」
「おねっ…サブトレーナーさん!ここ手伝ってくれませんか?」
「ええ、わかったわ」
ミホノブルボンがライスシャワーに声をかける。
「ライス、どうしてサブトレーナーさんのことをサブトレーナーさんと呼んでいるのですか?」
「えっ、サブトレーナーさんだからだよ?」
「でも今までは『お姉さま』と呼んでいたではありませんか」
「うっ…」
「何か問題があるのですか?私に相談していただければ案が出せるかもしれません」
「う、うーん…大したことじゃないんだけどね…
今までみたいに『お姉さま』って呼ぶと、トレーナーさんと差があって悪いかなって思って…」
「マスターに…?特に問題は感じませんが、
それならばマスターのことも別な呼び方をすればいいのでは?」
「いいのかな、そんなことしても」
「大丈夫だと思いますよ。それにそれを聞いて気づきましたが、
私も呼び名がマスターとサブトレーナーでは内容が統一されていませんね」
「それこそあまり気にしなくてもいいと思うけど…」
「ですがサブトレーナーを観察すると、
ライスに『サブトレーナー』と呼ばれるとやる気が少々下がっているようです。
したがって呼び名には重要な意味があると推察されます」
「えっ、そうなの!?」
ライスシャワーがトレーナーの方を向くと、さっと目をそらされた。
「そっかあ…それじゃあやっぱり『お姉さま』の方がいいよね。
そうするとトレーナーさんは…『お兄さま』かな?」
話を聞いていた周囲のメンバーは少し笑いそうになる。
ただしミホノブルボンは真顔である。
「統一感が取れてよろしいかと思います」
「うん、でもそう呼んでいいか確認してみるね。トレーナーさん!」
「なんだ」
少し離れた位置にいた黒沼がこちらに来た。
「あのね、トレーナーさんのこと、『お兄さま』って呼んでもいいですか?」
「お兄さま…?」
黒沼の額から一筋の汗が流れる。
「……まあ、呼び方など好きにすればいい。ただ公の場ではトレーナーと呼んでくれ」
「はい!よろしくお願いします、お兄さま!」
「……ああ」
若干困惑している黒沼だった。
そして周りはというと…
(黒沼さんがお兄さま…グラサンかけて半裸のお兄さま…!)
(サブトレーナーさんがお姉さまはわかるけども…!)
(トレーナーはお兄さまってガラじゃない…!)
(お兄さまっていうよりは…『黒沼の兄貴』とか『黒沼の兄さん』って感じ…!)
皆、笑いをこらえるのに精いっぱいの状態である。
「そんなことより時間だ。トレーニングを始めるぞ」
話を切り替えるように黒沼が言うと、ミホノブルボンがそれに答えた。
「了解しました、お兄さま」
我慢していた全員が噴き出した。
夜になり、黒沼のチームとスピカの皆が集まってパーティーが始まった。
ミホノブルボンとテイオーが音頭を取り、パーティー開始の挨拶をする。
「それではライスシャワーとサブトレーナーさんの歓迎会と」
「ライスシャワーの退院と学園復帰を祝して…カンパーイ!」
「「「乾杯!!」」」
「乾杯…!えへへ、みんなありがとう…!」
「ありがとうございます!」
照れくさそうにするライスシャワーとトレーナー。
「テイオーやマックイーンはともかく、アタシたちまで参加してよかったんですか?」
ダイワスカーレットが食事を取り分けながら言った。
「いいのいいの、スピカにはいろいろお世話になってるからね。
お祝いしてくれてうれしいわ!」
トレーナーは食事を受け取りながら答える。
「それにほら、思ったよりいっぱい料理があるから」
そう言ったトレーナーの視線の先には、まさしく『山』というべきにんじんの量があった。
「ライスさんのお祝いにって、お母ちゃんがにんじんをいっぱい送ってくれました!
好きなだけ食べてくださいね!」
このパーティーのために用意されたにんじんはスペシャルウィークが用意してくれたものだ。
そしてその量は「スペシャルウィーク判定によるいっぱい」である。
「さすがはスペシャルウィークさんのご実家です。
このにんじんの量、何日分あるのか判定不能です」
あまりの量に、ミホノブルボンは考えるのをやめていた。
「あはは、お祝いだからってお母ちゃん気合い入れちゃって。
余ったのは食べきるのに1週間はかかっちゃいそうですよね」
「「1週間…!?」」
その言葉に戦慄が走る一同。
「こ、これで1週間だってよ…!」
「これが、これがスペシャルウィーク先輩…!」
「オグリ先輩と渡り合える存在…!」
黒沼チームのメンバーは、初めて目にしたスペシャルウィークの腹力を言葉でなく心で理解した。
「学園に戻ってこられて本当によかったですわ。
今後はサポート課でやっていくんですって?」
ライスシャワーに話しかけながら、さっそくデザート関連をほおばるマックイーン。
「うん、これからサポート課で勉強して、
おにっ…黒沼トレーナーさんとお姉さまと一緒にみんなのサポートをするんだ。
ゆくゆくは私もトレーナーになろうと思ってるの」
「ライス先輩、カッケェっす!今まではその見事な走りで、
今度からは指導でウマ娘を導いていくんすね!」
ウオッカも嬉しそうにしている。
「はいよー安いよ安いよ!ゴルシちゃん印の焼きそば、
開店祝いで無料ご奉仕だ!もってけドロボー!」
ゴールドシップは鉄板で焼きそばを焼いている。
出来るだけ広い面積に麺を広げて焼くことで、均一に火が通り美味しくなるそうだ。
「ゴルシ、ボクのは麺硬めにんじん多め味濃いめでお願いね」
「ご注文はいりましたー!」
注文を受け、勢いよく焼きそばを焼くゴールドシップ。
「あれがゴールドシップ先輩…!」
「チーム練習中にスイカ割りをしたり…」
「根性トレーニングで囲碁を始める存在…!」
「スピカの皆さんは自然に受け入れていてすごいです…!」
黒沼チームのメンバーは、
初めて目にしたゴールドシップのハジケ具合を言葉でなく心で理解した。
「いえ、受け入れてるというより何言っても無駄という感じですわよ?」
「ライスのその足、骨延長手術っていうの?それどういう感じなの?やっぱ不便?」
テイオーが焼きそばを食べながらライスシャワーに尋ねた。
ライスシャワーの脚には創外固定器という、
一見すると拷問器具のような装置が取り付けられている。
「えっとね、骨延長手術は骨をわざと切断して、
骨がくっつこうとして作った新しい骨をいっぱい作らせて骨を伸ばしていくんだ。
これは創外固定器って言って、術部を支えながら、
決まった時間にこれを伸ばして骨を引っ張るの。
そうして少しずつ骨を伸ばしていくんだよ。1日1ミリくらいずつ伸ばせるんだよ」
「へえ、毎日1ミリか。骨を切って、それを引っ張る…痛くはないの?」
「うん、ほとんど痛くないよ。ちょっと違和感はあるけど…。
まだ骨を切ったばかりだから車椅子に乗ってるけど、
もうちょっとしたらこのまま歩いても大丈夫なんだ。
だから2週間後くらいからは、ある程度はこのまま歩くような生活になると思う。
固定されてるから、負荷をかけないと筋肉や筋が変になっちゃうんだってさ」
「そうなんだ、割と普通に動けるんだね。それってずっとつけっぱなしってことだよね?
そういえばお風呂とかはどうするの?まだ普通には歩けないんでしょ?」
「お風呂はね、ロブロイさんやヒシアマさんやバクシンオーさんが手伝ってくれるんだ。
自分でも杖とか下駄みたいなのを使えば歩けないわけじゃないんだけど、
危ないからって言ってくれてね。みんな優しいね」
「そういえばライアンも美浦寮ですし、彼女にも補助を頼んでみますわね。
ライアンはきっと『力の入れどころだ!』って喜びますわ」
「マックイーンさん、ありがとう。ライアンさん力持ちだもんね」
「確かライスの脚は5センチメートルほど短くなったと聞きました。
1日1ミリメートル伸びるということは、50日間で元に戻るのですか?」
ミホノブルボンがライスシャワーの分まで料理を運びながらやってきた。
「あ、料理ありがとう。伸ばした骨はまだ仮骨って言って、固まってないの。
それがしっかり固まるまでにはその3倍くらいはかかるんだって」
「では150日ほどでしょうか、5か月はそのままというわけですか。
思ってたよりは短いですが、脚の治療は時間がかかるものですね」
「しょうがないね。みんなも脚の故障を治すのにはそのくらいかかってたもんね」
「まあね、治療自体はもっと短かったけどリハビリがねえ…」
そのせいでまだTM対決は一度しかできていないのだ、とテイオーとマックイーンが振り返る。
「わたくしの繋靭帯炎もいつ治るかよくわかりませんし。
まあ、焦らずじっくりが治療の近道ですわ」
ミホノブルボン、テイオー、マックイーン、この場にはいないがサイレンススズカ。
身近なところで数々の故障者を目にしてきた一同はうんうんとうなずいた。
「テイオーさん、ちょっと中距離レースについて聞きたいことがあるんですけど!」
「ウオッカさん、マイルの動きについてちょっと相談乗ってくれませんか?」
「スカーレットさん、私もティアラ路線目指してるんです!」
黒沼チームのメンバーは、チームスピカと話す機会ができて興奮気味らしい。
活躍しているメンバーの多いスピカに比べ、黒沼のチームはデビュー前の子も多いのだ。
「おっ、いいよ!テイオー様に何でも聞いておくれ!」
「俺にか?いいぜ、何でも言ってくれよ!」
「ふふ、いいわね。アドバイスならある程度できると思うわ」
テイオーたちもまんざらではないようで、ワイワイと話しながら交流が広がっていく。
「黒沼ん所も賑やかになったなあ。結構な大所帯じゃねえの」
沖野はそれを眺めながらドリンクを飲む。
ここは学園内なので酒ではなくジュースを飲んでいるようだ。
「指導者の人数が増えた分、これからはトレーニングの効率が上がる。
ブルボンだけでなく他の奴らもどんどん伸びて行ってもらうつもりだ」
黒沼もチビチビと料理をつまんでいる。
「ふーむ、トレーナーちゃんもライスシャワーも実力あるもんな。
もしかしたらお前よりすごかったりしてな?」
「それならそれでいい。それだけあいつらの実力が上がるからな」
「ちえ、嫌味の通じないやつだな」
沖野は不満そうに言った。
パーティーが始まって30分ほどたったころ、テイオーが不意に言い出した。
「それでは宴もたけなわですが、ここらでライスシャワーに一言挨拶をいただきましょー!」
「おー!」「いいぞ!」「なになに?」「もぐもぐ」「ライス先ぱーい!」
オーディエンスが沸き立つ中、
「えっ、挨拶!?き、聞いてないよ…!?」
何の話も聞いてなかったため困惑するライスシャワー。
「いいからいいから!主役の挨拶くらいあるもんでしょ!」
「そ、そういうのって最初にやるものじゃ…」
「いーや、逆に言うと最初にやらなかったから今なんだよ。
さあさあどうぞ!みんな期待してるよ?」
「じゃ、じゃあお姉さまも一緒に…」
「うーん、ほら、私はライスのおまけみたいなもんだし。
みんなが期待してるのは…あなたの美しい声よ」
ウインクをしながらライスシャワーにスピーチを押し付けていくトレーナー。
「えっ、えー!もう…。えっと…こほん。」
ヒーローを目指していたころは、挨拶など何度もやったものだ。
そう思いライスシャワーが覚悟を決める。
一礼をしてから挨拶を始めた。
「みんな、今日は私の復帰のお祝いパーティーを開いてくれてありがとう。」
「体も心も弱ってた時に、いっぱい励ましてくれたみんな」
「リハビリをする私を支えてくれたみんな」
「復帰する私を受け入れてくれた黒沼さんとチームのみんな」
「みんな、本当にありがとう。」
「そして、ずっと私のそばにいてくれたお姉さま」
「私が元気になれたのはお姉さまのおかげです。」
「本当に、本当にありがとう。」
「私は走ることはできなくなっちゃったけど、新しい夢ができたんだ。」
「それはトレーナーになること。お姉さまや黒沼さん、沖野さんみたいに」
「立派なトレーナーになって、ウマ娘の夢を支える一端を担いたい。」
「私がレース人生を走り始めた理由は、見ている人を幸せにしたいというものでした。」
「私が頑張って走る姿を見せて、見ている人に元気をあげたいと思っていました。」
「途中、その気持ちが迷子になっちゃった時もあったけど…」
「この怪我をしてしまったあの時まで、ある程度叶えられたと思う。」
「もう私自身はレースに出ることはないけど…」
「その代わり、他の子のことを支えていきたい。」
「理想通りの夢じゃなくても、私の願いを形にしたいから」
「人を幸せにしたいって目標のために、何度だって手を伸ばすよ。」
「前までの私は競技者としてみんなと競い合ってきたけど」
「これからはこのチームのサポーターとして、そしていつかは指導者になって」
「みんなとまた競い合っていきたいと思っています。」
「だからみんなも頑張ってね。」
「でも体も心も健康に、無茶はしないで自分の夢を追いかけてください。」
「私もできることならサポートするよ。」
「これからも、私ライスシャワーのことを、よろしくお願いします」
挨拶を終え一礼をするライスシャワー。
会場からは割れんばかりの拍手と声援が飛んだ。
「こちらこそよろしくお願いします!」「頑張ってね!」「応援してます!」
「ライスは真面目ちゃんだな、ギャグが足りてねえぜ~」
「あなたとライスさんを一緒にしないでください」
「さて、せっかくの機会だ。スピカの連中が来てるし、話しておこう」
ライスシャワーのあいさつの後、黒沼が動き出した。
「おっ、なんだ黒沼?スピカに何か?」
「俺のチームは今まで特に名前がなかった。必要だと思わなかったからだ。
単純にチーム黒沼とか呼ばれていたわけだが…」
「そういやお前のところはそうだったな」
黒沼だけじゃなくブルボンも含めてそういうのに無頓着だしな、と沖野はうなずいた。
「メンバーも増え、ライスシャワーたちも参加し…これから入ってくる者もいる。
大所帯になったから名前を決めることにした。その名は…」
「チーム<ポラリス>。」
「うちのメンバーたちが考えてくれた。これから俺たちはチームポラリスとしてやっていく」
「ポラリス…たしか北極星だったか。どういう意味を込めているんだ?」
チームのメンバーが出てきて、説明を始める。
「ポラリス、それは天の北極に位置する星!
水平線で目印もない遥かな海を渡るとき、その姿は人々の道標となってきました!」
「これからうちのチームはもっと強くなります!
でもただ強いだけじゃなく、ブルボン先輩、ライス先輩のように…
多くの人が憧れるような、多くの人の目標になるような、そんなウマ娘になりたい!」
「ただ強いだけじゃなく、人々の道標になれるような。
そんなチームになるという願いを込めてこの名前にしました!」
「なるほど、いい名前だな。
これからはポラリスがスピカのライバルってわけだ」
沖野が楽しそうな笑みを浮かべた。
「チームポラリス…カッケェっす!でも、俺たちだって負けないですよ?
スピカだって乙女座に輝く一等星、
ウマ娘界に輝く一等星になるって思いが込められてるんですから!」
「形は違うけど、これからもライスたちと勝負していくってわけだね!
負けないよー!」
「ポラリスだろうが、リギルだろうが、カノープスだろうが…
アタシたちの輝きの前にひれ伏させてやるんだから!」
ウオッカ、テイオー、ダイワスカーレットもこれからの勝負に意欲的のようだ。
「ポラリスには優秀な人材がそろっています。さらにライスたちの後援まで得ました…
我々が頂点に立つ日もそう遠くないでしょう」
ミホノブルボンは手を前に掲げ、チームメイトに号令をかけるようなポーズをとった。
「ブルボンさんもまだまだ伸びてますもんね!最強目指していきましょう!
私もどこまでだってお供しますよ!」
「ブルボン先輩だけじゃなくて、私たちだってこれから躍進していきますから見ててくださいね!
ターフで会うことがあったら勝負です!」
ミホノブルボンたち黒沼チームもスピカチームと同じ気持ちだ。
そしてまたワイワイと談笑しながら食事を楽しむウマ娘たち。
「ふ、こうしてみんなが笑顔でいられるようになってよかったよ」
沖野が感慨深そうに言った。
「本当ですね。あの子たちはみんなそれぞれ苦難がありましたからね」
トレーナーも沖野に同調する。
「俺が言ってるのはあいつらだけじゃない、君のこともさ。
ああ、俺はあの事について今はとやかく言うつもりはない。
一番大切なのは担当のためになるか、ライスシャワーが幸せかどうかだからな。
それがどうなのかは、顔を見ればわかる」
「沖野さんもありがとうございました。あの件についても、それまでのライスについても、
マックイーンさんさんたちがいなかったら今みたいに笑っていられなかったと思います。
本当に感謝してます」
「俺はその辺は何もしてないよ、マックイーンたちが自分の意志でしてきたことだ。
だからお礼ならあいつらに言っておいてくれ。
…本当に立派なやつらだよ。俺にはもったいないくらいだ」
「ふふ、わかりました。それでは、これからもライバルとして宜しくお願いします」
「こっちこそよろしくな。あと黒沼も」
「ああ」
宴は夜遅くまで続き、全員の絆が大きく深まった。
これからも仲間でライバルとして、切磋琢磨していくことだろう。
それからライスシャワーはチームのサポート業を真面目に務める傍ら、
広報や取材対応、トレーニングの環境改善やグランドライブへの運営協力など、
トレーニング外についても積極的に手を入れた。
ライスシャワーは夢を見る。
どのウマ娘も笑って過ごせる日々が来ることを。
だけどそれが理想論に過ぎない、まさしく『夢』であることもわかっている。
レースが勝負である以上勝つのは一人だけ。負けて泣く子が出るのは必然だ。
それは仕方ないことなのはわかっている。
だからせめて、それ以外のことでは苦しんでほしくない。
レースで勝てない子にも少しでも楽しく過ごしてもらえるようにしてあげたい。
環境の悪さ、誹謗中傷、突然の故障など…自分も味わった数々の理不尽や失敗を、
少しでも減らすようにしてあげたい。
それがライスシャワーがトレーナーを志した一番の理由だった。
ライスシャワーは思い出す。
自分が歩んできた道程を。
『ライスシャワーは祝福の名前。みんなを幸せにしてあげたい!』
幼い時、自分の名前の意味を知ったころ。
『ライス…人を不幸にしちゃうダメな子なんだ』
自分に自信を持てなかったころ。
『か、変われるように…がんばります!』
そんな自分を変えたかったころ。
『ライスが走るところ、見ててね!』
何の悩みもなく、ただ純粋に走りを楽しんでいたころ。
『ファンのために、相手の人のために、全力で…!』
観客や対戦相手を敬愛していたころ。
『ブルボンさんに勝ちたい!』
憧れの人を見つけて、追いつくために走り抜けたころ。
『ライスはヒールじゃない…ヒーローだ…!』
みんなのことを信じられなくなっていたころ。
『私はライスシャワー、皆の望むヒーローになるんだ…!』
お姉さまのため、他のウマ娘のために強くなることを決意したころ。
『私は走るべきじゃなかったんだ』
全てを失い、自分の何もかもが無意味だと感じたころ。
そして今。
「どうなっても私は私、また新しい自分の道を目指すよ」
今の私が目指すこと…
少しでもみんなが悲しまず、笑顔で過ごせる世界になりますように。
それが私の、ささやかな祈りだから。
これでストーリーはおしまいです。
読んでくれてありがとうございました。
ちょっとだけおまけの話が続きます。