ライスシャワーはダークヒーローとなる   作:黒い平方四辺形

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凍えた心

 

 

それから数日後。

 

「はい、ゴール!お疲れ様、頑張ったね!

タイムは…うーん、前より何秒か遅れちゃってるね」

 

「う、うん…ごめんなさい」

 

ああ…またごめんなさいモードになってしまった。

 

ミホノブルボンを超えるという目標を達成し、通常のトレーニングを再開したライスシャワー。

しかし、状態は過去にないほどの絶不調だった。

目標を追っているときが最も強い子ではあったが、

目標を達成してしまった分を踏まえてもあまりの急落である。

 

理由は考えるまでもない。菊花賞の件が尾を引いているのだ。

身体について一応調べてもらったが、幸いにして異常は全くなかった。

ということはメンタル面が原因の全てであることが明白である。

トレーナーの私が今やるべきことは、ライスを励ましてやることだ。

一番最初に立てた「褒めまくる作戦」を更にパワーアップさせ、事あるごとに褒めまくった。

 

しかしライスのことを甘く見ていた。どれだけ励ましてもまるで効果が見えないのだ。

ライスの心の強さは、いい意味でも、悪い意味でもいかんなく発揮されている。

これはどうしたものか…。

 

トレーニングは一通りこなしてくれるので、能力を後退させないためにも続けてもらっている。

しかし停滞した日々は続いていた。

 

 

そんな折に届いた一つの知らせ。

お、これはライスを立ち直らせるのに役立つかもしれない!

 

 

「ライス、いいお知らせよ!」

 

「どんなの?」

 

「今度の有マ記念、ライスも出られることになったわ!人気投票で何と2位!

トウカイテイオーさんに次いで2位よ!すごいじゃない!」

 

「ライスが2位なんだ…!」

 

久しぶりに明るい顔を見せるライスシャワー。

これはいけるかも、とトレーナーが手ごたえを感じる。

 

「きっとブルボンさんに勝ったことが認めて貰えたんだね。

ブルボンさんは故障しちゃったから有マに出られなくて残念だけど、

もし大丈夫だったらライスとワンツーフィニッシュしてたかもね!」

 

「ふふ、そうかもね…!」

 

「どうライス?有マ記念、出る方向で大丈夫かしら?」

 

「うん!ライス、頑張るよ!」

 

久しぶりに前向きになったライスを見ることができ、内心大喜びのトレーナー。

これで立ち直ってくれればいいのだが、前にイップスもどきを起こした時を思い出す。

 

今は、トレーニング中はいい。重要なのは本番で走れるかどうかなのだ。

まだ安心できる状態じゃないぞ、と気持ちの帯を締め直した。

 

 

 

 

 

そして迎えた有マ記念。

 

元気を出してくれた日から、それなりの熱意でトレーニングをこなしてくれた。

有マへのやる気をだし、菊花賞の時よりも幾らかは成長したと思う。

そして当日の今も、ライスシャワーの様子は特別変なところはない。

表情にも問題はなく、自然な笑顔を見せてくれる。

 

「ライス、調子はどう?」

 

「大丈夫、行けるよ!」

 

「よし、ライス頑張ってね!私が見守ってるからね!」

 

「はーい!ありがとうお姉さま、行ってきます!」

 

力強く送り出したものの不安はぬぐえない。そしてその不安は現実のものとなった。

 

 

『メジロパーマーとダイタクヘリオス、大逃げであります!

3番手以下にはまだ10バ身以上の差がある!

さあ早く追いかけなければいけないが、

一番人気トウカイテイオーと二番人気ライスシャワー。

二人はあの位置で大丈夫なのでしょうか』

 

 

(どうして…!もっと前に行かないといけないのに脚が動かない!

今日のためにトレーニングしたのに、期待してくれる人がいるのに…!)

 

勝利することへの恐怖。一度乗り越えた苦しみが、またライスシャワーを襲っていた。

 

周りのウマ娘たちもみんな頑張っている。

自分だって頑張らないといけないのに、頑張ってるはずなのに。

脚が、動かない…。

 

 

『さあ第4コーナーを抜けた、メジロパーマー逃げた!直線は310m、中山の直線は短い!

リリックアースが来ている、外からナイスネイチャ!

メジロパーマーとリリックアースが並んでゴールイン!

結果は…メジロパーマー!メジロパーマー優勝です!』

 

『一番人気のトウカイテイオーは11着、二番人気のライスシャワーは8着。

どうやら二人とも調子が良くなかったようですね』

 

 

 

「はあ…はあ…」

 

負けちゃった。全然ダメだった。でも、全然悔しくない。

このレースを走ってわかっちゃったよ。ライスは、ライスはもう…。

 

 

 

 

 

 

やはり力を発揮できなかったライスシャワー。

トレーナーは危惧していたことが起こってしまったと思い、ライスを元気付けようとする。

 

「お疲れ様、ライス。頑張ったね!結果は振るわなかったけど、次頑張ればよし!

年末だし、今日はお疲れ様会しよっか!」

 

「お姉さま、ごめんなさい。ライス、みんなの期待に応えられなかったよ」

 

「…謝らないで。ライスが頑張ってたのは、みんな見てたよ」

 

「ううん、違うよ。ライスは全然頑張れなかったよ。

2500mなら前の方がもっといい記録出せたもん。

みんな見てたはずだよ。ライスが頑張れてないところを」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「いいの。お姉さまは優しいからライスのことを励ましてくれるんだろうけど、

ライス分かっちゃったの。ライスは…ライスはもう、走るのが嫌なんだよ」

 

「えっ…!!」

 

「なんで頑張れなかったのか考えてみたの。

走ることが好きだった時は、勝っても負けても楽しかった。

負けたら悔しかったけど、次は勝ちたいって精一杯頑張れた。

それなのに今は全然頑張れなくて、負けたのに悔しくもなくて。

それって、走るのが好きじゃなくなっちゃったんだなってわかったの」

 

「そんな…!そんなこと言わないで!

ライスの走ってる姿はいろんな人が応援してるんだよ!

今回だって人気投票で2位だったじゃない!」

 

「だからだよ。ライスのことを応援してくれる人がいたのに、

期待してくれた人がいたのに、ライスはこんな姿を見せちゃったんだ。

みんなガッカリしたと思う。

ライスはやる気のない子なんだって、みんなわかっちゃったね」

 

「ライス!自分を卑下しちゃダメだって、前に…」

 

「卑下じゃないよ、これは本当の事だもん。それにね、この前の菊花賞のこと憶えてる?

ライスのことなんて、誰も応援してくれてなかったよね」

 

「あれは!あれはブルボンさんの事が好きな人が多かったからだよ!

ライスだって人気があるって言ってるでしょ!」

 

「その人気も今回のレースで無くなっちゃった。

もうライスには何も残ってないんだ」

 

「違う」

 

「ライスはやっぱりいらない子だったんだよ。

ライスがブルボンさんに勝ったら、みんなを悲しませちゃったね。

みんなは勝ったライスじゃなくて、ブルボンさんやタンホイザさんを応援してた。

誰もライスが勝つことなんて望んで無かった」

 

「違う…」

 

「今回の二番人気。投票してくれた人はブルボンさんに勝った実力を見たかっただけだよ。

ライスのことを好きな人なんて誰もいないもん。

それなのにこんな全然ダメなレースを見てがっかりしたよね。

もう次は投票なんてしてくれない」

 

「違う……」

 

「ライスはライスの走りでみんなを幸せにしたかった。

それなのに、みんなを不幸にしただけなんだ。

菊花賞の記事、幾つも見たよ。ライスはヒールだって。悪役だって。

いない方が喜ばれる悪い子なんだよ」

 

「違うよ!!ライスはヒールなんかじゃない!!」

 

「お姉さまがそう思ってくれるのはうれしいよ。

でも、ライスがヒールかどうかを決めるのはライスでもお姉さまでもなくて、見てる人たち。

見てる人がライスをヒールだって言うんだから、ライスはヒールなんだよ」

 

「……」

 

「それにね、怖いの。

もしライスがまたレースを走って勝ったとしても、またみんなに悪口を言われるでしょ。

誰も褒めてなんてくれないよ、ヒールのことなんか。

菊花賞で、ライスへの悪口もいっぱい見かけたよ。あんなの、もう嫌なんだ。

今回のレースも『勝てなくてよかった』って気持ちだってあるの。

こんなことを考えてる時点でウマ娘失格だよ」

 

「そんな…」

 

「お姉さま、前に言ってたよね。

『全力で走ることが相手への敬意になる。相手のためになる』って」

 

「ええ…。言ったけど…」

 

「お姉さまにそう言われて、ライスもそうだって思った。

だから今まではライスも精いっぱい頑張って走ってきた。

 

でも…あの時は全然気づかなかった。

全力で走ったことは『相手』のためにしかならないんだね。

『相手を応援してくれる人たち』、その人たちのためには全然ならないんだ。

応援してる人たちは応援することしかできないから、負けて悔しくても成長することなんてない。

 

だから、応援してる子の負けた姿を見ても悲しくなるか、

勝った子のことを、それか…負けた子のことを嫌いになる。

そういう人たちに対しては、勝った方が頑張ってることなんてなんにもならないんだね。

 

だからライスは嫌われちゃったんだ。菊花賞では勝ったからで、今回は負けたから。

勝っても嫌われる、負けても嫌われる、何しても嫌われる。

ライスにはもう、走る意味なんてないよ」

 

トレーナーは何も言えなかった。

悲しそうな顔をしながら、自分の気持ちをつらつらと述べるライスシャワー。

かつて炎のように燃え上がっていた心は、今や冷たい氷の塊のようになっていた。

 

「だから…ね。今までありがとうお姉さま。ライスのこと育ててくれて。

ごめんなさいお姉さま。期待に応えられなくて」

 

立ち上がりドアの方へ向かうライスシャワー。

 

「やだ…!ライス…!」

 

トレーナーが涙をこぼしながらライスシャワーの手を掴もうとする。

それに対し、ライスシャワーはその手を避けてしまった。

 

「お姉さまの事、優しくて大好きでした。きっと他の子とも頑張っていけるよ。

ごめんなさい、お姉さま。さようなら、お姉さま」

 

「ライス!待って!!!」

 

振り返りもせずに部屋を出ていくライスシャワー。

残されたトレーナーは、ただ涙を流すだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

それから、トレーナーはライスシャワーに何度も電話をかけたが出てくれなかった。

仕方ないのでメッセージを何度も送る。

 

『もう一度お話がしたい』

 

何度も何度も送る。

そしてそのうち、一件だけ返してくれた。

 

『わかりました』

 

もう一度話をしよう。それでどうにか元気づけたい。

ライスが走るのをやめるなんて、そんなの絶対嫌だ!

 

 

 

 

 

 

翌日、トレーナー室。

 

「お姉さま…」

 

「ライス、お疲れ様。来てくれてありがとう」

 

「…お姉さまには悪いけど、ライスの気持ちは変わらないよ」

 

「うん。もう走りたくないんだよね。…私もそれでいいと思う。

走りたくないのを無理に走らせても、ライスは幸せになれないでしょ?

だったら無理をしないで、辞めるのもありだなって思ってるわ」

 

「え…。それなら、なんでライスを呼んだの?」

 

「ライスはもう引退しちゃうつもりなんでしょ?

だけど、ここに残っていっしょにいてほしいの」

 

「ここに残る…?」

 

「今後、私が別な子と契約した時にはその子を育てていくわけだけど、

ライスにもトレーナー業のお手伝いをしてほしいの。

サポート科ってあるでしょう?あれと似たような事かな」

 

「それ、ライスいるの?お姉さまだけで十分なんじゃ」

 

「私はトレーナーだけど、普通の人だからね。

実際に走ってるウマ娘にしかわからないようなこともあると思うし、

そんなときにライスがいてくれたらとっても心強いの」

 

「ライスが…」

 

「それに今ライスに引退されちゃうと、私の担当がいなくなっちゃって評価爆下がり。

来年度は私が契約破棄されて私も引退になっちゃうかもしれない…」ヨヨヨ…

 

「えっ、そ、それはダメだよ…!お姉さまはトレーナーさんとしてもっと活躍できるよ…!」

 

「ありがとうライス、そう言ってくれるとうれしいわ。ならお願い!力を貸して!」

 

ライスシャワーは考える。もう走るのは嫌だけど、お姉さまのサポートならいいかも。

お姉さまの事は今だって大好きだ。感謝してるし、恩返しもしたい。

ライスがお姉さまの力になれるなら、やってみようかな。

 

「わかった。ライス、引退の届けは出さないでおくね。

来年度になったら新しい子と一緒に頑張って行こうね」

 

「ありがとう!これからもよろしくね!」

 

「うん!」

 

 

トレーナーのした話はライスシャワーを引き留めるための方便だった。

 

ライスシャワーはウマ娘、本当は走りたい気持ちがあるはずだ。

だが今の凍りついた心を溶かすのは容易ではない。時間をかけなければなるまい。

 

しかしライスはやると決めたらやってしまう性格、

ほっとけば明日にでも引退届を出すに違いない。

それはとても困る。そこでトレーナーの手伝いとして引き止める作戦を取ったのだ。

これで時間を稼ぎ、ゆっくり時間をかけて説得していく。そういう作戦だ。

 

 

 

ひとまずは引き止めることに成功したので、穏やかに過ごすトレーナーとライスシャワー。

今は肉体的なトレーニングはせず、レースの戦略、精神論、効率のいいトレーニング方法など、

走りに役立つ座学を行っていった。

こうしておけばそのうち走ってくれるようになった時、

それまでの時間が完全に無駄になることはない。

それに…本当に引退してしまったら、この知識がサポート科に移籍する際に役立つだろう。

 

それにしてもライスは頑なだ。おだててもすかしても全然効果がない。

先の長さを感じながら、日々を過ごしていた。

 

 

「やっぱり外からの言葉だとなかなか厳しいなあ。

そうするとブルボンさんを目指したときのように、

ライス自身に目標を見つけてもらわないといけないか…」

 

ライスの持つ鋼の意志は、外側から何かをしてもなかなか効果が薄いようだ。

それならば内側から行くようなアプローチしてみよう。

 

そう思いトレーナーはまた一芝居打つことにした。

 

 

 

 

「え?ライスが春の天皇賞に?」

 

出るわけないでしょ、と言いたげな顔で見つめてくるライスシャワー。

 

「あ、出走しろって言ってるわけじゃないよ?でも、今のライスは引退してない扱いだから、

故障してるわけでもないしある程度のペースで出走登録しないといけないの」

 

「だったらもっと、G3とかOPのレースでいいんじゃ…」

 

「ところがね、菊花賞をとってるライスだと、

あんまり下位のレースは実績として受け付けてもらえないの。

そうすると春の天皇賞しかないのよね。

間際になったら具合が悪いってことで出走取り消しすればいいだけだからさ。

ほら、体調が悪い…気分が悪いのはまあ間違いではないでしょ?だからお願い!」

 

「うーん…それならしょうがないね」

 

言ったことは勿論、出走登録をしてもらうための嘘である。

そして、出走取り消しにするつもりもなかった。

春の天皇賞、そこに出走するのは史上最強のステイヤー、メジロマックイーンさん。

あのトウカイテイオーさんを破り、天皇賞の連覇を果たした強い子だ。

 

調べたところ、この子はライスの目標とするに値する相手。

前のブルボンさんと同じ、確固たる意志と確かな実力で成績を上げていく、

誰もが憧れるようなウマ娘だ。

だから無理矢理でも同じレースに出させて、マックイーンさんの輝きを目の当たりにすれば、

また走ることへの情熱が出てくれるかもしれない。

 

近頃はろくにトレーニングもしていないライス。出れば確実に負けるだろう。

だがその負けが彼女の魂をよみがえらせてくれるかもしれない。

もしやる気のないまま負けても、状況は今と何も変わらない。

好転もしないが悪化もしない、それならやって損はないはずだ。

 

 

 

 

 

出走申し込みをした数日後、『ライスシャワー、春の天皇賞に出走』の報は各方面に流れた。

 

これも予想していたことである。

ライスシャワーのことを嫌っている人は多くても、それはあくまで一般人の話だ。

走ることに情熱をかける生き物であるウマ娘は、

戦う同じウマ娘の事を嫌う者は(嫉妬以外では)ほぼいない。

 

ライスシャワーに対してもそうだった。

学外では散々だが、学内ではライスシャワーを認めるものがほとんどだ。

だから学内にいる限り、ライスのことを応援してくれる人に囲まれていられるはず。

その応援も、ライスを元気付けてくれることに期待していた。

 

ただ予定外の出来事が。

 

「えー…。記者会見しないといけないの…?」

 

「そうなのよ。私も気は進まないんだけどね。理事長が

『面倒!取材がいっぱい来てるから、一度記者会見してまとめて処理してくれ!』

って」

 

「ううー、ほんとにやらなきゃダメ?ライス本当は出ないんだよ?」

 

「時間は短くていいし、応対は大体私がやるから!お願い!理事長に怒られちゃう!」

 

「わかった。やるね…。」

 

あからさまに不満そうな顔だが承諾してくれた。

記者会見は正直予想してなかったが、せっかくならこれも利用したいところ。

ライスには悪いけど、後には引けないところまで行っちゃうよ。

 

 

そして行われた記者会見では。

 

 

『天皇賞への意気込みは?』

 

「えっと…」

 

「とても気合を入れて取り組んでおります」

 

 

『ライバル視している相手はいるでしょうか?』

 

「あの…」

 

「勿論メジロマックイーンさんです。彼女はとても強いですね」

 

 

『勝算はありますか?』

 

「その…」

 

「良バ場なら、ライスシャワーはメジロマックイーンさんにも負けません!

当然、優勝するつもりです!」

 

 

言っていた通り、ほとんどはトレーナーが返答してくれた。

しかしトレーナーが答えるたびに、

ライスシャワーは『勝手になんてことを言ってくれるんだ』という表情をしていた。

 

 

 

 

 

メジロマックイーン。天皇賞に出走することを宣言していた彼女だが、現時点では休養中。

天皇賞の前に行われる大阪杯が復帰戦なのだ。

 

「ライス、メジロマックイーンさんの復帰戦が今度あるよ。一緒に見に行かない?」

 

「マックイーンさんの。うーん…そうだね。

マックイーンさんの走りは、色々参考にかもしれないね」

 

「それじゃ行ってみようか」

 

トレーナーの思惑としては、単純にマックイーンさんの姿を見て、

ブルボンさんの時のように憧れてほしいという思いだった。

 

ライスシャワーも、単純にトレーナー業の参考になるかもしれないというだけの気持ちだった。

 

しかし、しばらくレース会場から離れていたライスシャワーにとある異変が起こる。

 

 

『復帰戦のマックイーン、周囲の不安をかき消すほどの圧勝!

調整不足が不安視されていたメジロマックイーン、文句なしのレコードタイム2分3秒3!

終始苦しむことなく本当に完璧なレース展開でしたね!』

 

『そうですね。前人未到の春の天皇賞三連覇、期待せずにはいられません』

 

レコードを出し、余裕の勝利を達成したメジロマックイーンの姿を見つめるライスシャワー。

彼女の中にはまだ憧れは生まれていないようだった。

 

(マックイーンさん、バ場状態も悪いのにとてもきれいな走りだった。

安定したフォーム、安定したペース、参考になるよ。それに…)

 

【なんでライスシャワーなんだよ】

 

「っ…!?」

 

声が聞こえた。

 

誰かはわからないが、声が聞こえた。

でも、ライスシャワーの名前が今出るわけがない。気のせいか?

 

【余計なことしやがって】

 

「ヒッ…」

 

また聞こえてきた。気のせいではない。確かに聞こえる。

 

【ブルボンの三冠が見たかったのに。あーあ、ガッカリ】

 

まただ。どうしてこんな声が聞こえるの?聞きたくない。聞きたくない…!

フードを深くかぶり、うつむくライスシャワー。

 

「どしたのライス?大丈夫?」

 

「…うん、なんでもないよお姉さま…」

 

当然ながら今聞こえた声は本物ではない。彼女に聞こえたのは幻聴だ。

レースを終え、観客が声をあげるこの場所。

自分がそこから貰えたのは、冷たい言葉だけだった。

あの時の恐怖と悲しみが彼女に幻聴をもたらしていた。

 




ここからアニメの7、8話につながっていきます。
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