話もそれを主軸に組み立てました。
なので今回の話とレースのあたりはアニメの内容とだいたい同じ流れになっているのですが、
自分としてはとても重要な部分なのであまり省略はしないことにしました。
このサイトを使うのは初めてなのでどのくらいまでいいのかよくわからないのですが、
もしこれが何らかの問題になるようでしたら何とか対応しようとは思います。
数日後、ストリートビジョンでは天皇賞の話題について放送されていた。
通りがかったライスシャワーもそちらに目を向ける。
『それでは春の天皇賞、注目のウマ娘たちを紹介します。
最も多くの注目を集めるのは、三連覇達成の期待がかかるメジロマックイーン!』
『現役最強と言っても過言ではないでしょうね』
『続いて菊花賞でミホノブルボンの三冠を阻止したライスシャワー!』
『またも偉業達成を阻止するのでしょうか?』
それを見ながら通行人たちの会話が聞こえる。
「ライスシャワーも出るのか…」
「せっかくのマックイーンの三連覇、邪魔しないでほしいよな」
「それな」
それはライスシャワーに対する冷たい言葉。
これまでに幾度となく聞こえてきたそれは、
もう本物なのか幻聴なのかも区別がつかないほどだ。
まただ。こんなの聞きたくない…。ライスは出ないんだから、ほっといて!
逃げるようにしてその場を立ち去るライスシャワーだった。
やっぱりそうだよね。ライスに勝ってほしい人なんていないんだ。
ライスは出なくて正解なんだ…。
そんなことを考えながら歩いていると、メジロパーマーから声をかけられた。
「あ、ライス!次のレースよろしく!って、あれ?」
ライスシャワーは無反応のまま歩いて行ってしまった。
先ほどの言葉が耳に残り、他の声が聞こえなくなっていたのだ。
「どしたんだろ?」
「さあ…?」
ダイタクヘリオスも心配そうに見つめていた。
夕方。
ライスシャワーは、学校の掲示板に貼られている記事を見ていた。
どれも春の天皇賞の記事。
『バク逃げ宣言!メジロパーマー!』
『マチカネタンホイザ、メジロパーマーも本調子!』
『マックイーン、三連覇への意思堅固』
そしてその中に、自分の記事も貼られていた。
『黒い刺客、またしても大記録を阻むのか!?』
内容を読み、唇をかむライスシャワー。
黒い刺客。みんな、ライスのことを敵だと思ってるんだね。邪魔者だと思ってるんだね。
でも安心してよ、ライスは出ないから。マックイーンさんに頑張ってもらおうね。
その時、後ろから声をかけられた。
「ライスシャワーさん。お会いしたかったわ」
後ろを振り向くと、そこにいたのはメジロマックイーン。
「ヒ、ヒィッ!」
思わず悲鳴を上げるライスシャワー。
「記事、読みましたわ。わたくしに勝つ気でいらっしゃるようですね。
受けて立ちますわ。お互い、よいレースにしましょう」
そういって手を差し出すマックイーン、健闘を誓って握手を、ということだろう。
「あ…あ…」
しかしライスシャワーは動かない。
勝つつもりなんてない。走るつもりなんてない。
こんなライスが握手なんてできないよ…。
「…? どうしました?」
動かないライスシャワーを見て不思議そうな表情をするマックイーン。
ただ逃げるだけじゃ失礼すぎる、と思いライスシャワーが言葉を出した。
「…天皇賞は出ません」
「え?」
突然の内容に驚くマックイーン。
「ライス、もう走るのは嫌なの!」
ライスシャワーはそれだけを言い、逃げ出してしまった。
「あっ!?ちょっと、待って…」
静止の言葉を無視して走り去るライスシャワーに、困惑するマックイーンだった。
ライスシャワーの逃げ出した先で、話し声が聞こえる。生徒が話をしているようだ。
「やっぱりマックイーンさん、カッコいいよね」
「三連覇、見たいよねぇ!」
「見たい見た~い!」
「楽しみ~!」
その声を聴きながら思う。
マックイーンさんはいいなあ。勝つことを、みんなに願われてる。
誰にも願われてなかったライスとは大違いだ。
菊花賞のことがフラッシュバックする。
『え~何?そんなことある?』
『ホントに残念なんだけど』
『次頑張ってね、ブルボン、タンホイザ!』
あの時を思いだし、また涙が流れた。
(やっぱりライスなんて、いらない子なんだ…)
「えっ、ライスは天皇賞に出ないって?」
マックイーンからの報告を聞き、驚くトウカイテイオー。
「ええ。もう走りたくないらしくて」
「何か事情があるんでしょうか?」
スペシャルウィークも心配そうに言う。
「出走取り消しにはなっていないな。ライス自身の問題じゃないか?」
沖野がデータを確認しながらそう言った。
「まあライバルが減る分にはいいじゃねえか。優勝待ったなしだ」
と、ゴールドシップ。
「少し残念ですわ。力をつけたと聞いてましたのに」
「他人を気にしても仕方ない、今はトレーニングに集中しよう」
「そうですわね…」
沖野とマックイーンが話しているところに、テイオーが割り込んできた。
「ボク、訳を聞いてくる!」
「え?」
「そんなにモヤモヤしたままじゃトレーニングどころじゃないよ。
ここは…リーダーのボクに任せて!」
自信満々に胸を叩くテイオーであった。
「私たちも行きます!ね?」
「ええ」
「おう」
「だな」
スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ゴールドシップ、ウオッカも乗り気のようだ。
「ふふ、ありがとうございます、みなさん。それではお願いしますわ!」
ライスシャワーが廊下を歩いていると。
(今日の授業、難しかったな…忘れないように復習しないと…)
「ライス、見ーっけ!!」
「ヒイッ!」
背後から現れたのはテイオーだった。
「いやあ、いい天気だねえ。こんな天気は思いっきり走りたくなるよねー」
「そっ、そうだね…」
ライスなんかに何の用だろう?テイオーさんはマックイーンさんのチームメイト。
まさか天皇賞の話をしに来たんじゃ…
「でもあんまり走りすぎると芝の手入れが大変になっちゃうかもね!アハハッ!」
(あれ…?天皇賞のことじゃない…?それなら…)
「ところで天皇賞のことで話があるんだけどさ、」
「さようなら!!」
天皇賞、という単語が出た瞬間に逃げ出したライスシャワー。
「アッ!?マッテヨ~!」
体育の授業で柔軟を行うライスシャワー。
「んっ、んん…もっと柔らかくなりたいな」
「見て見て!ボク、前屈得意なんだよね!春天出てみない?
とっても楽しいと思うよ、春天!前屈と同じくらい楽しいと思うからさ!」
またもテイオーがやってきた。うるさいな…。出ないと言ってるのに。
ライスシャワーはひと睨みをしてから、テイオーを放置して外へ出てしまった。
「実はボク、前屈の記録持ってるんだよね!…あれ、いない」
休み時間、ベンチで本を読むライスシャワー。
(ふふ、この本楽しいな)
そこに3人のウマ娘が姿を現した。スカーレット、ゴールドシップ、ウオッカの3人だ。
「あ、ライス!」
「今度の春天のさ~」
その瞬間、後ろに振り向いてダッシュするライスシャワー。
「「え?ちょっ!」」
もうほっといてくれ、そんな気持ちが丸わかりである。
「ああ~、行っちゃった」
「しょうがないですね。ここは私の出番でしょう…!」
自信満々に言うスペシャルウィーク。彼女は何かいい作戦を思いついたのか?
夜。
ライスシャワーが帰宅しようとすると、校門にスペシャルウィークが待っていた。
茂みにはテイオーも待機している。
(頼んだよ、スぺちゃん!)
(任せてください!)
しつこく迫ってくるチームスピカを思い、対応を思案するライスシャワー。
(スピカさん、しつこく付いてくるなあ)
<ライスシャワー、いい響きですね…
(どうしてほっといてくれないんだろう)
<大好きです、特にライスのあたりが…
(出るってウソをついてたライスも悪いんだけど…)
(お姉さまに頼んで、早めに出走取り消ししてもらおうかな…)
スペシャルウィークの事を完全に無視して帰っていくライスシャワーだった。
「ダメでした~…」
「スぺちゃん、ワケワカンナイヨー!」
全員が失敗した結果を受けて、テイオーが覚悟を決めたようだ。
「こうなったら…強硬手段に出るしかない!」
翌日。
帰ろうとして道を歩いてるライスシャワーがいた。
(はあ…今日もみんな天皇賞の事話題にしてるなあ。ライスは出ないのに。
早く出走取り消しにしてほしいな…)
うつむきながら歩いていると、何かにぶつかる。もしかして人かな?
「あっ、ごめんなさ…」
顔をあげると、そこにはサングラスとマスクで顔を隠した、謎のウマ娘が4人いた。
「え、だっ、誰ですか…?」
ライスシャワーが尋ねると、相手の一人が号令をかける。
「スカーレット、ウオッカ、スぺ!やーっておしまい!」
「はい、ゴールドシップさん」
「スピカさんだ!!うっ、モゴモゴ…!」
ライスシャワーが気付いた時にはもう遅かった。体を縄で縛られ、頭から麻袋をかぶせられる。
そのまま体を掲げられ、誘拐されてしまうライスシャワー。
「「「えっほ、えっほ、えっほ、えっほ」」」
「ふえええ…!」
これがトレセン学園七不思議のひとつ、「スピカアブダクション」である。
しばらく運搬されたライスシャワー。
ようやく麻袋を外されると、どこかのチームの部屋にいることが分かった。
そして目の前には、スピカのメンバーたちだ。
「あああ、あの、なっ、何?」
「ライス、ごめんね」
「ヒッ」
部屋に鍵をかけるテイオー。
「マックイーンから聞いたんだ。ライスが天皇賞に出ないって」
「ヒイッ」
窓にカーテンをかけるテイオー。
「ボクたちに理由、聞かせてくれないかな?」
「ヒイィッ」
卓上ライトをつけ、カツ丼をテーブルに置くテイオー。
もう、どうしようもなさそうだ。逃げることも封じられてしまった。仕方ないな…。
「…話したら、返してくれる?」
「「「うん」」」
スピカメンバーが一斉に答える。
それなら、とライスシャワーは静かに話しだした。
「意味、無いからだよ」
「ん?どういうこと?」
「ライス、いらない子だから…」
今までのことを思い返す。自分の名前の意味を知った日のこと、
初めて走った時、初めてレースに出たとき、そしてその後のことを。
「小さいころからずっとキラキラしたものに憧れてた。
初めてのレースで勝てて、すごくうれしくて。みんなも笑顔になってくれて。
走ることが楽しくなって。こんなライスでも、キラキラできるかもって…。
そんな時、朝日杯でブルボンさんを見かけたの。
あの時のブルボンさん、とってもキラキラしてた。
だから、ライスもいつかブルボンさんみたいになりたい。憧れの背中に届きたい。
レースに勝って、ブルボンさんみたいにって…。
何回もレースで一緒に走って、何回も負けちゃった。
だけど次こそは、次こそはって頑張って。
それで、やっと菊花賞でブルボンさんに勝てた。
ライスもブルボンさんみたいになれたのかなって、喜んだ。
それなのに、誰もライスが勝つことなんて望んでなかった。
ライスがブルボンさんたちの夢を壊して、みんな悲しんで。
ライスがレースに出ても誰も喜ばない。勝ってもみんなを不幸にする。
『ライスシャワー』という幸せな名前の自分が…。」
(((重い…)))
想像を超える重たい独白に、ゴールドシップですら何も言えなかった。
「だからライスはもう走らないの。お願いだから放っておいて…」
話は終わった、と立ち上がりドアを開けて出ていくライスシャワー。
スピカのメンバーたちも、かける言葉が思いつかない。誰も追いかけようとはしなかった。
(ふう、今日はトラブルもなく平和な一日だったな)
シンボリルドルフが歩いていると、縄で縛られたライスシャワーが歩いているのが見えた。
「!?」
うつむいたまま歩くライスシャワーは、
シンボリルドルフに気付かないまま立ち去って行く。
「な、なんだあれは…?」
シンボリルドルフは謎を抱えたまま帰宅することとなり、
翌日は駄洒落の調子が下がってしまったらしい。
夜、ライスシャワーの話をマックイーンに伝えるテイオー。
「そうだったんですの…」
「気持ちはわからなくもないよ?
今まで頑張って走ってきたのに認められないなんて悔しいもん!」
「確かにライスさんの菊花賞は祝福されるべきだと思います。
でも…だからと言ってレースから逃げるのはウマ娘として間違っていますわ」
寂しそうな顔をしながら言うマックイーン。
やはり、ライスシャワーと勝負することを楽しみにしていたようだ。
その姿を見てテイオーが言う。
「マックイーン。わかったよ」
「え?」
「やっぱりボク、ライスが出走するように説得してみる!い~い?後悔しないでね!」
「あら、後悔んてしませんわ。それにライスさんに無礼られっぱなしでは面白くありませんから」
「どういうこと?」
「『自分が勝ったら誰も喜ばない』?ずいぶんな物言いですわね。
走る前から勝つつもりだなんて」
「アハッ、確かに」
「ライスさんの事、頼みますわ。リーダー」
「うん!」
「うーん、とは言ったもののどうしようかな…」
ゴルシちゃん号に乗りながら思案するテイオー。
ライスシャワーの意志は固そうだ。簡単にはいかなさそうだな。
何かいい方法ないかなあ。そう考えながら走っていると、ミホノブルボンの姿が見えた。
「あっ、ブルボンだ」
「あ…テイオーさん」
ミホノブルボンは現在、脚の故障で療養中だ。
故障した者としても、無敗の三冠を目指した者としても、親近感を感じる。
「テイオーさんは順調に回復されてるみたいですね」
「うん、だいぶ走れるようになったよ。ブルボンは?」
「復帰はまだ先になりそうです」
「そっか…。その怪我って菊花賞のあとだっけ?」
「ええ。ジャパンカップに向けて調整しているところでした」
「そうなんだ…」
「菊花賞に負けて、三冠というマスターの期待に応えられなかった。
だから次こそは、と焦っていたのかもしれません」
「期待…か」
その言葉で、テイオーは自身の過去を思い出す。
『目標はカイチョーと同じ、無敗の三冠ウマ娘!ぜーったい、勝つからね!』
そしてその目標は敗れた。無敗も、三冠もとることができなかった。
「ボクも同じだ。もし怪我なんてしなくて三冠取ったら、カイチョーが笑ってくれたかもしれないのに」
「私もです。かつて見たことがないマスターの笑顔が見られたかもしれませんでした」
「…ブルボン。三冠、惜しかったね」
「テイオーさんこそ」
しんみりとした空気が流れる。夢やぶれた悲しみは、なかなか癒えてくれないものだ。
「しかし、三冠の夢がかなえられなかったからこそ新たな走る理由が生まれました。
ライスシャワーです」
「えっ、ライス?」
「ええ、唯一私が負けたウマ娘。私の夢を阻んだ相手。
初めてライバルと呼べるのは彼女なのかもしれません」
ブルボンは、自分を負かしたライスをライバルとして尊敬してるんだ。
ふふ、こんなところもボクと同じなんだな。
ほとんど初対面みたいなものだけど、似た者同士だ。
なんだかわかりあえたような気がするね。
そう考えるテイオーに、あるひらめきが生まれた。
これはライスシャワーの説得に役立つかもしれない!
「ねえブルボン!ちょっと聞いて。ライスのことなんだけど…」
ライスシャワーはトレーニングコースを見つめていた。
元気にトレーニングをするウマ娘たち。彼女たちは明日への希望でいっぱいなのだろう。
自分も前はあんなふうに、楽しく走っていられたのにな。今はもう…。
走っているウマ娘を見るたびにそんなことを考える。
もう走らないと決めたはずなんだから、そんなこと考えちゃだめだ。
そう思っていてもどうしても断ち切れない思いがあった。
「はあ…」
ため息をついていると、背後からセグウェイの音が聞こえる。
そちらを向くと、乗っていたのはテイオーだった。
「あっ、テッ、テイオーさん!?何の用ですか!?」
あからさまに警戒態勢になるライスシャワー。
「そんなに怖がらないでよ。何もしないから」
先日誘拐した犯人が言うこととは思えないセリフである。
そこで、テイオーの後ろから別な人物が現れた。そう、ミホノブルボンだ。
「ライス」
「ブ、ブルボンさん!?」
「天皇賞に出たくないそうですね?」
「ヒイ――――ッ!!」
ミホノブルボン。自分が心から憧れていたウマ娘。それが急に話しかけてきた。
しかもなんだか顔が怖いよ。絶対怒ってる。
それに天皇賞の話だ、出ろって言うに決まってる。怖いよお。
(何かうまく天皇賞に出走するように言ってよ、ブルボン。
キミの言葉なら、きっとライスに届くはずだから)
耳打ちをするテイオーに、
(任せてください。私にはマスター直伝の教えがあります)
と答えるミホノブルボン。
「ライス」
「はっ…はい…」
何を言われるんだろう。怒ってるよね!?
そしてミホノブルボンの言葉は。
「四の五の言わずに走りなさい!!!」
「ヒイーッ!」
(ボクたち、何もわかりあえていない!!!??)
叱られたと思い、逃げ出すライスシャワー。
「ほ、放っておいてくださ~い!」
「ああっ!待ってよライス~!」
「おかしいです。いつもマスターにはああして檄を…」
「いいから追いかけるよ!このゴルシちゃん号使って!」
ここから、テイオーとブルボンによるライスシャワー追跡作戦が始動した。
「待ちなさい、ライス!」
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…」
あのセグウェイはそれほど速くない。
これなら逃げ切れる、と思ったライスシャワーの正面にテイオーが現れた。
「ライス、ここは通さないよ!」
(うっ、捕まるわけにはいかない!)
こちらも正面から向かっていき、テイオーと対峙する。
テイオーがこちらを捕まえようとする瞬間。一瞬だけ動きを止めてテイオーの攻撃をすかす。
そしてすぐさま走り出し、うまくテイオーを回避した。
「くっ、すばしっこいなあ!」
ライスを追跡するテイオーの声が校内にこだまする。
「マテ~!」 累計800m
「マテ~!」 累計1200m
「マテ~!」 累計1600m
「マテ~!」 累計2000m
「マテ~!」 累計2500m
「マテ~!ハア、ハア…ハア…」
「あっ!バッテリーが…!」
逃走距離は累計3200mを超えていた。
疲労困憊のテイオーと、疲労困憊のゴルシちゃん号に比べ、
ライスシャワーにはまだまだ余裕がある。
それはこれまで行ってきた多くのトレーニングで身についた、彼女の力の証明だった。
「マテー、ライスー!」
(あっちはバッテリー切れみたい。何とか逃げられそう…!)
そうしてライスシャワーは無人の部屋に隠れた。
だが油断はできない。近くを二人がうろついているようだ。
「クッ、見失った!ねえパーマー、ライスシャワー見なかった?」
「ライス?いや?ヘリオスは見た?」
「見てなーい」
「捜しています。見つけたら教えて下さい」
「「りょ!」」
そうして二人は去って行ったようだ。
「ふう…逃げ切れた…」
ようやく一息つけたライスシャワーに声が聞こえる。
先ほどのメジロパーマーとダイタクヘリオスだ。
「ライスねえ…」
「そういや朝も声かけてたね。何かあるん?」
「……!」
自分のことを話している。またなんか言われちゃうんだ、聞きたくないよ…!
しかしその内容は。
「ほら、この前の菊花賞」
「あー、ブルボンに勝っちゃうなんてマジヤバ!」
「強いウマ娘同士のガチンコレース。ああいう勝負、私、超憧れって言うか!」
「おっ?ウチともやる?やっとく?」
「やるやる!とりま、逃げるだけだけどね~」
「あ、それな~!アハハ!」
(ライスの悪口じゃない。憧れだなんて、言ってくれる人もいるんだ…)
ライスシャワーがテイオーらを警戒しつつ帰ろうと歩いていると、
まだ諦めていないテイオーとミホノブルボンの姿が見え、とっさに隠れた。
テイオーたちが捜索を要請していたのはイクノディクタスとマチカネタンホイザだ。
こちらに気付いていないようで、話をしながら歩いてくる。
「走りたくないだなんて、ライスさんは勝つ自信がなくなったのでしょうか」
「絶対そんなことないよ!ライスちゃん、とっても芯の強いウマ娘だもん。
ターゲットを決めたら一点集中!カッコいいよねぇ。
…まあ、菊花賞の時はブルボンちゃんしか見えてなかったみたいだけど」
「ああ、タンホイザさんはライスさんと何度か走っていましたね」
「うん!次で7度目!私ね、実はライスちゃんのこと事結構意識してるんだ」
「それなら私もです。彼女の強さはデータを見ているだけでもひしひしと伝わってきますから。
あのブルボンさんをも超えた実力、次の天皇賞で勝負するのが楽しみです」
(また、ライスの悪口じゃない。ライスのことを、強い子だって言ってくれてる…)
帰ろうと思っていたライスシャワーだが、無意識にトレーニングコースの方へと足が向かっていた。
聞こえてくるトレーニング中のウマ娘の声。
本当だったら自分もやっているはずのことだ。
もう走らない、そう決めた。走るのが嫌になった。だけど本当は、本当は。
やっぱり、心の中では走りたいと思っていた。
「走っても…いいのかな…」
幾つか聞いた自分への評価。学内のウマ娘たちは、みんな自分を認めてくれていた。
お姉さま以外、誰も自分の事なんて認めてくれないと思ってた。
でも違った。認めてくれる人もいるんだ。
そこに聞こえてきた話し声。
「私、三冠目指すんだ!」
「させないよ~!私がなるんだもん!」
「邪魔しないでよ~!」
「そうよそうよ!」
トレーニング中のウマ娘たちの、他愛もない会話。
しかしそれでライスシャワーは思い出す。
ウイニングライブで、誰も自分の事をほめてくれなかったこと。
ブルボンの邪魔をするなと言われたこと。
自分の勝利にガッカリしていた人のこと。
他の人にばかり声援が飛んでいたこと。
あの悲しみを思い出し、頭を抱えてしゃがみこむ。
また自分を責める幻聴が聞こえてきた気がした。
「うう…やっぱりライスはもう…」
「ライス!!」
「はあはあ、やっと見つけた!」
またテイオーとミホノブルボンがやってきた。
こんなに嫌がってるのに、いつまで追いかけてくるの!
「しつこいです…もう放っておいて…」
「しつこいのはライスです!あの菊花賞、凄まじいしつこさだったじゃないですか!」
「菊花賞の話なんてしないで!!!!!」
悲痛さを込めた声で叫ぶライスシャワー。
「ライスはみんなに認めてほしかった!ライスが頑張るのを期待してる人がいるって思ってた!
ブルボンさんに勝つ事が出来れば…きっと喜んでくれると思ってた!
だから一生懸命頑張った!でもライスの勝利なんて誰も求めてなかった!
ライスが勝ったのに…みんなライスを責めて、認めてくれなかった…。
ライスはブルボンさんやテイオーさんとは違う。
ライスはヒールなんだよ。みんなから嫌われて、ブーイングされて、みんな不幸にしちゃう。
祝福の名前をもらったのに、ライスシャワーなのに…
だからもう…ライスは走らないんだ」
「ライス…」
ライスシャワーの悲壮な独白に言葉が続かないテイオー。
それに対し、ミホノブルボンは大きな声を飛ばした。
「四の五の言わずに走りなさい!」
「どうしてそんな事言うの!?」
「あなたに走ってほしいからです」
「わかんない!走りたくないって言ってるのに…そんな…。
ライスが走っても誰も喜ばない!勝ってもがっかりするだけ!
走る意味なんてどこにもない!それなのになんで!!」
彼女には似合わない大声で叫ぶ。それに対して、ミホノブルボンは穏やかに答えた。
「あなたが私のヒーローだからです」
「っ…!?」
思いがけない言葉に顔をあげるライス。そこには優しく微笑むミホノブルボンの顔があった。
「私は怪我をしました。大きな怪我です。
いつまた走れるようになるのか、そもそも本当に治るのか、
そんな不安に押しつぶされそうになった時もありました。
マスターの期待に応えることができず、もう走るのをやめようかと考えたこともありました。
それでも折れずにいられたのは、ライス…あなたがいたからです。
初めて会ったときのあなたは、私にとってはどうということはないウマ娘でした。
しかし何度も勝負をしていくうちにあなたの存在が大きくなっていき、
今は私にとって『勝ちたい相手』となりました。
あなたを目標にして来たから、私はこれまで頑張れたんです。
確かにあなたは私から夢を奪いました。けれど、それ以上の夢と希望を与えたのです」
「ブルボンさん…」
「あなたはヒールじゃない…ヒーローなんです」
「ライスが…ヒーロー…?」
そんなことを言われたのは初めてだった。
みんなが自分の事を責めていた。ライスはヒールだと怒ってた。
そんな自分を、あの憧れのブルボンさんが、ヒーローだと言ってくれた。
(ブルボン…!)
ミホノブルボンの励ましに安堵するテイオー。
なんだいブルボン、キミも優しい言葉が言えるんじゃないか。
と、そこで。
「それなのになんですか、あの有マ記念8着は!!!」
「!!!!」
思いがけない流れ弾で胴体を貫かれる有マ記念11着だった。
「あなたは私のヒーローなんです!強いウマ娘なんです!!
天皇賞に出てそれを証明しなさいっ!!!」
一転して、ミホノブルボンも彼女に似合わぬ大声で気持ちを吐き出した。
一瞬の静寂が訪れ、風が吹き渡る。
はたしてライスシャワーの答えは。
「…勝手な事ばかり言わないで」
「っ…。すみません…」
「そんなこと言われても迷惑だよ」
「……」
黙りこくるテイオーとミホノブルボン。
自分たちの言葉はライスシャワーに届かないのか…
「でも…ブルボンさんの気持ち、受け取ったよ」
「「……!」」
憧れの人が、自分を認めてくれていた。
「ライス、もう一度頑張ってみる。怖いって気持ちはまだあるけど…。」
憧れの人が、自分を目標だと言ってくれた。
「ライスもブルボンさんと一緒に走りたい。だから…」
二人の想いは届いていた。
ライスシャワーの目から恐怖の色はなくなり、瞳はまっすぐ前を見つめていた。
「ライス出るね。天皇賞!」
「お姉さま…」
ミホノブルボンとテイオーと別れ、トレーナーのもとへと戻ったライスシャワー。
もう走らない。そう宣言してから、トレーニングも一切行わなかった。
トレーナーは何度も励ましてくれていたが、自分が頑なに拒んだからだ。
そんな自分を見ても嫌そうな顔をせず、
無理はしなくていいと言ってくれたトレーナーだから。
散々逃げ出した後でも、申し訳ない気持ちがいっぱいでも、
このトレーナーになら言い出すことができた。
「あら、ライス。どうしたの?」
「あのね…その…ライス、天皇賞…走りたくて…」
「え!!!!! ほ、ほんと?」
ずっと走ることを拒絶していたライスシャワーだ。その突然の発言に驚いてしまうトレーナー。
「うん…だからね、もう走らないって言っちゃったけど…
もう一度、お姉さまに指導してほしいの…」
驚きつつも、トレーナーの気持ちは決まっていた。
「もちろんだよ!私はライスのトレーナーなんだから!…おかえり、ライス」
「…うん!ただいま…!」
「ねえライス。戻ってきてくれたのはうれしいけど、もし無理してるんだったら嫌だよ。
私はライスが一番大切なんだから。本当に大丈夫?」
「うん…!あのね…」
ライスシャワーは話した。
ミホノブルボンとテイオーが自分を励ましてくれたことを。
「そっか、ブルボンさんとテイオーさんが」
「ブルボンさんがね、ライスの事をヒーローだって言ってくれたの。
ライスが目標になってるって、だから強いってことを証明してほしいって」
「それじゃ負けられないね。カッコいいところ見せなくちゃ」
「うん!…ライス、走りたくないって逃げ出して…
みんなにカッコ悪いところ見せちゃったから。
迷惑かけちゃった分頑張りたいの!」
「…ライスはカッコ悪くなんてないよ。迷惑でもない。
私はライスの頑張りは他の誰よりも知ってる。
それに、私もブルボンさんと同じ気持ちだよ。
私はあなたが強いこと、優しいこと、キラキラしてる事、全然全部知ってるの。
ライスは…私にとってもヒーローなんだよ」
「お姉さま…!ありがとう!」
トレーナーの言葉に涙を流すライスシャワー。
嬉しい。やっぱりお姉さまはライスを受け入れてくれた。
もう一度頑張るよ。天皇賞で勝って、ブルボンさんの期待に応えたい。
そして、ライスをここまで育ててくれたお姉さまは凄いんだよって、みんなに褒めてもらいたい。
(ライス、戻ってきてくれてありがとう。でも…)
トレーナーにとって一番大切なのはライスシャワーが笑顔でいてくれる事だった。
しかし菊花賞以降、ライスシャワーから楽しそうな笑顔は消え、
見せてくれるのは繕った上辺だけの笑顔になってしまった。
自分の頑張りを認めてもらえず、喜んでもらうどころか逆に悲しまれ否定されるという状況。
誰だって耐え難くなるほどの苦しみに違いない。
もう走らないと言われてからは、何度励ましても全然心に響いてくれず、何も変わらなかった。
そんなライスが再び走る決意をしてくれた。それ自体は喜ばしいことだけど…
今回の天皇賞へ出走させるのは勝たせるつもりではなかったので、
勝つつもりで出走してくれる今となっては想定外の事態になったようだ。
なぜならブルボンさんの時とほとんど同じようなレースだからだ。
今度出る天皇賞はマックイーンさんの三連覇がかかる大舞台。
これで勝ったとしてほぼ間違いなく菊花賞と同じ状況になるだろう。
そうなったらどうなるだろう。
深い傷から奮起して立ち上がっても、また深く傷つくだけなのでは?
ライスのことは励ましつつも、これ以上苦しんでほしくないとも考えていた。
走ることでライスが傷つくなら、苦しむなら、
それならいっそ走るのをやめてしまうのも道の一つだとも考えていた。
ブルボンさんとテイオーさんの励まし…
ライスは立ち上がってくれたけど、この先訪れるであろう事に大きな不安がよぎる。
私ができるのは精一杯サポートすることだけ。
トレーナーとしてライスの走りをサポートをしてきたけど、
それだけしかできなかったために菊花賞ではあんなことになってしまった。
私がもっとしっかりしていればよかったのに…。
今のライスには強い決意と目標がある。走らせてあげた方がいいに違いない。
だけどこのままだと、また同じことになる確率が高い。でも今度は、今度こそは。
今度こそはトレーナーとしてもっとライスに寄り添って、心のサポートをしてあげなければ。
固く心に誓ったトレーナーであった。
※この世界ではライスがサボっていたので日経賞でのイクディスとの対決は行われておりません。