文体ふざけてますが内容は真面目のつも(り)
夜の繁華街―――――――
むすっとした顔で歩いているのは山崎竜二。
今現在一人。
保護監察中でなんとか微かな自由の身…
大人しくしてろったって、身体が勝手にこう言う所に向いている。山崎にとってはこういった場所がシャバであり、生活圏だったからだ。
ギラめくネオンを横目に、行きつけの飲み屋に行こうと、新興宗教の建造物の裏手に回る。その建物の横路に滑り込もうと暗がりへ―――。あの店は俺の好きなズブロッカとBRAVODが置いてある。ウオッカだけでなく、「男の酒・赤城山」本醸造辛口のボトルもキープしてある。
取り敢えず酒だ酒――――。煙草と酒とちょっとしたアレがなきゃ始まんねェ。と、横ぐわえしていた黄キャメルを入り口の灰皿に押し付けもせず投げ込む。
酒じゃ酒じゃ、なんでもかんでも解決させんのは酒と暴力しかねぇ。優しさは二の次だ。
ふ、と、後ろの通りの気配を確かめようと…目線だけで背後をチラと見た。「確認」はクセのようなものだ。
このクセがなければ、もしかしたら免れたのかもしれない。
□□□
??「おじさん~」
後ろから聞こえてくる声を無視して歩く。
後ろにいるのはガキとしか言い様のないガキ。
山崎の年齢とはどう見てもつりあわない。
つりあうとしたら援助交際と言ったところか…?
ダメよ山崎君そんなことしちゃ。
ただでさえリュウジとか悪そうな名前なんだから。
??「おじさ~~ん」
甘い声。
くるりと振り返って、睨み付けてやる。
ニコニコと笑顔を返される。
その連続…
向き直って、やれやれ酒はコイツを撒いてからにすっか…と歩き出す。
??「おじさん遊ぼうよぅ」
山崎「他の男当たりな」
??「アタシ、ユキ!よろしく!」
山崎「他行けってんだろぉ!」
ユキ「おじさん声裏返ってるよぉ~」
ユキは女子高生もどきの女の子だった。
細身すぎる身体に紺色のブレザー、ステッチの入ったミニスカート、長すぎる黒髪。
いまどきにしては腰まである黒髪と言うあたりが珍しい。が、山崎にはそんなJKなど興味の範疇になかった。
山崎「離せ」
右腕に絡みつかれて、解こうとしてちょっとだけ突き放す。
殴っちゃってそのまま行っちゃえばイイのにねー。案外優しい山崎君。
って、ここで傷害事件なんか起こしたら、まだブタバコいきだもんね。
片腕にガキをぶら下げたまま、むっすりと浮かない顔。
ユキ「おじさんお金持ってそうなんだもん。」
山崎「んじゃ俺が金持ってないって言ったら離れるのか」
ユキ「離れるかも~?」
山崎「俺は無一文だ」
ユキ「ねぇねぇ、どっか行こうよー」
がっくし…気が抜けて毛まで抜けそうになる気分をぐっと堪えた。
あ~、もう帰るか。今日はついてねぇや。繁華街の女は狡猾なまでに絡み付いてくるし、さっき吸っていた黄色のキャメルはブタバコから出るときに受け取ったものだからか、シケてなかなか不味かったしな。
更に妙なガキに絡まれるし。あのとき捕まってなかったらこんな事には…
いや、いやいや。
余計なことを考えるのはよそう…腹が立ってくる。
ユキ「おじさぁん」
山崎「うるせぇ」
こんな会話がずっと続く。
会話にならない会話。それでもユキは嬉しそうに山崎にくっついている。
どんなに威嚇しても、どんなに低い声を出そうとも、ユキは離れなかった。
あきれ果て、イヤになって繁華街を出る。
そのまま、暗い人気のない方へ進む山崎ついてくるユキ暗がりに、二人きり。
な、なに?!ここから18禁の世界ですか?
カチャリ。
車のキーの音。
なんだ駐車場か~って、誰だ期待してたのは。
山崎「俺ァ帰る。テメェ離れろ」
ユキ「…」
山崎「離れろってんだよ。」
ユキ「連れてって」
山崎「ああ?」
ユキ「アタシ行くトコないんだ…」
そう言って、淋しそうに笑う。
濡れた様に黒い髪が、さらりと落ちる。
それを無視して左手でエンジンをかけ、ポケットに突っ込んだままの右手から女を離そうとした。
する…り。
簡単に離れて、ユキが俯く。
山崎「面倒な女は嫌いだ、邪魔するなら轢くぞ」
ユキ「連れてってよ…お願いします」
山崎「身体売ってホテル入りゃ、寝るトコも金もコトかかねぇだろうが」
ふ、とユキの姿が消える。
諦めたのか、と車に乗りこむと…
パタム。
山崎「おい…」
ユキ「いい車だねー!おじさんお金持ってんじゃん!」
山崎「降りろ、さもないとマジで…」
助手席にユキの姿。
ス、素早い…つぅか強引だよユキちゃん。
ユキの目を見ると、まるで初恋のようにキラキラと。
山崎に今にも抱きつきそうな勢いのユキ。
山崎「どっかに売っちまうぞ、あぁ゛?」
ユキ「アタシを買ってよ、"山崎"さん」
山崎は無言で車を走らせ始めた。
ユキは始終外を見ては、きゃあきゃあとはしゃいでいる。
そのまま家…自宅兼セイフハウスに向かう。
どっかの組に放り込んで、始末させてもよかった。
しかし、この女は。
この女は…――――「俺の名を呼んだ」。
明かしていない俺の名を。
何物なのか。下手に捨てるわけにも行かない。
監察官に何か知られてまずいことなのかもしれない。
ユキが山崎を見て笑った。
ユキ「家に行くの?」
山崎「直接来れば良かったんじゃねェのか」
ユキ「なんで?アタシおじさんの家知らないよ」
そう言って笑う。
疑問を抱いたまま、走る。
ユキの正体を掴まなくてはならない…
■
■■
マンションに帰ると、それを待っていたかのように雨が降り始めた。
気温で冷やされた冷たい雨。
部屋の中に、ユキを入れる。
躊躇なく。
そして、扉を閉める。確実に。キーをかけて。
ユキ「イイ部屋だねー」
山崎「……」
ユキ「おじさんやっぱり金もちなんだァ」
山崎「ユキっつったな」
ユキ「うん。」
山崎「なんのツモリだ?」
出入り口に背を向けて、ユキに向かって言い放つ。
ユキが困ったように小首をかしげる。
ユキ「どうしたのおじさん、怖いよ?」
山崎「俺が、山崎って名だと…何故知っている?テメェ何モンだ」
ユキ「…おじさん…」
ユキが俯いた。
立ったまま動けない山崎。
ユキの反応を見る。待つ。
だが、対峙するユキも俯いたまま動かない。
山崎「オイ…」
ユキ「聞いたの…」
山崎「誰にだ」
ユキ「お父さんに」
山崎「あ?」
ユキ「お父さんに言われたの、お父さんが死んだら山崎って人のせいだよって。」
そう言って顔を上げたユキがにっこりと笑った。
ユキ「だからね、ユキは山崎さんを殺すの。」
バシン。
軽い音が鳴り響く。
ユキが仰向けに転がる。
小さな悲鳴が聞こえた。
山崎「くだらねぇモン持ち歩いてんじゃねぇか、ガキのクセによ」
到底届かないと思えた山崎とユキの距離。
ユキの手にちらりと見えた黒い光を、山崎の手は一瞬で掠め取っていた。蛇使いを応用しただけだが、ユキには信じられない動作に思えたようだった。強張った顔がくしゃくしゃになり、金切り声が響いた。
ユキ「アンタがお父さん殺したんだ!そうなんでしょ!?」
山崎「確かにムショには入ってたぜェ。」
ユキ「人殺し!アンタのせいなんだ、アンタが…」
山崎「よく鳴くガキだ」
カチャリ。
掠め取ったのは小型の拳銃。
見たことのない模様。外国製のものらしかった。
それをユキに向けてやる。
山崎「そんなトコだろうと思ったぜ。死ぬか?テメェも追ってみるか」
ユキ「最低!死んじゃえ!死んじゃえッ!」
山崎に向かって近くにあるものを投げつける。
それを右手で埃の如く振り払う。
ユキに向けた拳銃の引き金は引かなかった。
音がするから?殺すならもっと手段がある?
…そんな理由じゃねぇ。
山崎「ハン…親がなんだってんだよ、たまたま近くにいた大人ってだけだろうが。お前がそれから何を学んだってんだ?アア?!人殺しの手段か?身体を売る手段か。イイ親だなァ、エエ?」
ユキ「あんたに言われる筋合いなんかない!お前みたいなやつは死んじゃえ!」
山崎「どうやって殺すよ?」
ユキ「……」
山崎「オラ、どうすんだよ」
ユキ「アタシを、殺さないの」
山崎「どうして」
ユキ「拳銃取ったじゃない、それであたし殺すんでしょ、撃てばいいじゃない」
山崎「暴発して手元で爆発するように改造した拳銃でか?」
ユキの動きが止まる。
じっと山崎を睨み付ける。
成程な。と山崎はすっと腑に落ちた。コイツは一筋縄じゃいかねぇらしい。
だがこれでプロか?プロにしちゃ手口が幼稚だ。改造拳銃なんざ金さえ積めばいくらでも手に入る。
そのままユキを放置して、ベッドに寝っ転がり、相部屋だった住人が残していった葉巻を咥えた。
ユキ「アンタ…山崎…アンタなんなんだよ」
山崎「山崎竜二。ただのオッサンだよ」
ユキ「そんなわけがない、アタシの手口を見破った。なんなんだアンタ」
山崎「テメェこそなんなんだ」
ユキ「アタシはユキだって…」
山崎「偽名だろ」
ユキ「うん」
山崎「素直だな」
ユキ「アンタじゃないね」
山崎「ああ?」
ユキ「お父さん殺したのアンタじゃないね」
山崎「どうしてそう思う」
ユキはそれ以降ずっと押し黙ったままだった。
コイツに危険はない。
そう感じて…不意に眠気が襲う。
スッと翳りそうになった意識の外に、声が聞こえた。
ユキ「んじゃおじさん!どっか行こうよ!!」
意識が別の意味でぶっ飛びそうになる。
なんなんだこのガキは!!!!!
ピルルルルルル。
ユキの何度も誘う声に重なって、電子音が鳴り響く。
ユキ「おじさん電話」
山崎「山崎だ」
ユキ「山崎電話」
呼び捨てかよ…
ぶつぶつ呟きながら、枕元にある携帯に手を伸ばす。
乱雑に着信すると、スピーカーにもしていないのに、『おい山崎!』とぶっきらぼうな女の声が電話の向こうで澄んで響いた。
山崎「誰だよ」
マリー『あたしの声忘れんなオオボケ野郎』
チ、と舌打ちをする。
シツコイからサツは嫌いだ。
ユキが興味津々と言った顔で、俺の携帯に耳を近づける。
それから遠ざかりながら、マリーの声を聞く。
山崎「…なんの用だ、大人しくしてるだろうが」
マリー『あんたまだ死んでなかったのね』
山崎「ああ?なんで」
マリー『その女の子をアタシ達に引き渡しなさい。その子は殺し屋よ』
ユキを見ると、また困ったように俺を見て小首をかしげた。
ユキ「…どっか、行こうよ…山崎。」
■
■■
マリー「ったくもう、こんな場所しか歩かないんだから!」
通称ブルーマリー。女性警察官。
山崎竜二の保護監察役を引き受けさせられて愚痴愚痴歩く。
山崎が歩いているのは無論、ネオンちかちかギラッギラ!!!の、夜の繁華街。
自分が逮捕された地域を歩こうッてんだから、イイ度胸だと思う。
とばっちりを食らって、そりゃーもう機嫌悪そうにマリーは歩いていた。
声をかけるホストの顔に、ギっと一瞥をくれて、さっさと歩く。
マリー「ちょっと、あんまりくっついて歩かないでよ」
社「俺だってくっつきたかねェけどな!アベックのフリしねぇと妙だろうが」
なんつー組み合わせ。
基本刑事警察は二人一組で行動するのが主だ。だからといってなんでコイツと組まされなきゃならんのさ!とやたら背の高い白髪ヤングを見上げ、顎を小突いてやる。
マリーと社は互いにドツキあいながら仲がよさそうなフリをして歩いているが…。
十分妙ですぜあんた等。
社「アイツが家に帰るまで、ずっとつけるのかよ?」
マリー「家に帰ってからも、よ」
社「えええー!!面倒クセェ!」
七枷 社は、刑事一年生。
遊んでばっかりの息子に嫌気が指したお父様が無理やり押しこんだのが警察学校。
外面だけは良かった学生時代。
そのおかげか、妙な位置に就職させられる羽目に。
たまたま悪徳宗教の教祖と飲み屋で殴り合い、別件で検挙してのし上がる。
イイのか人生そんなんで。
イイのか設定こんなんで。
マリー「あれ…なんだとおもう?」
マリーが指差した先を社が見遣る。そして短髪をぽりぽりと指で掻きながら、のんべんだらりとした声で
社「山崎だと思う~」
マリー「当たり前でしょ!って、そうじゃないわよ!その後ろ!」
社「ああ?」
ずっと山崎のあとをつける女が一人。
女って言うか、いまどきの女子高生?
いや、女子高生にしては、ちょっと大人びている。
ミニスカートがぎりぎりまで短くって、細い足が白く伸び、裸足に靴を履いているように見えるのは、ココピタとやらでも履いているのだろうか…と、社の目がそっち…ふとももに行くのをマリーの拳がゴツンと制した。
社「見ねぇ顔だな、繁華街の住人じゃねぇぞ」
マリー「あんたが知らないなら、そうなんでしょうね。」
社「ちょっと、どー言う意味よ」
マリー「そう言う意味よ」
本当に仲のイイカップルだこと。
当の女子高生もどきは、山崎に何度か話しかけているようだった。
そのたびに、山崎が牙をむいて睨みつけ、返答されるたびに疲れた顔をして向き直る。
山崎がこっちを向く度に、つい、どきりとする。
別につけてるのがバレて悪いわけでもないんだけど…職業の性質上ってヤツか。
社「なんだアレ、山崎のカノジョ?」
マリー「娘かも」
社「いや、案外孫かも」
マリー「山崎って何歳だっけ」
社「30前半」
マリー「幼稚園の頃に子供作って、その子供が小学生のうちに孫作れば可能かもね」
社「んじゃ、なんだありゃ」
マリー「彼女にしても若いわよ…ロリコンだって話は聞いてないんだけどなぁ…」
言いたい放題だねあんた達。
そうこうするうちに、山崎の腕に女子高生もどきが絡みついた。
あんぐりと社の口が開く。
マリー「みっともないわよ」
社「勿体ねぇ~結構後ろ姿、可愛い子なのに」
マリー「んじゃ分捕ってきなさいよ」
マリーの指が社の後ろ髪を引っ張ってアベックらしい雰囲気を壊さないようにポコポコと殴った。
社が頭をさすりながら、山崎を確認する。
女子高生もどきがちらりとこっちを見たような気がした。
社「…オイ…マリー…」
マリー「なに?」
社「今チラッと見えたよな、女の顔」
マリー「目がイイのね。横顔がチラッと見えたけど、よくわからなかったわ」
社「俺、帰ってイイ?署に行く」
マリー「え?なんでよ?」
社「あの顔…見たことがあるような気がすんだ」
社の顔が曇る。
思い出せない。どっかに引っかかるあの顔。
どこかで見たような気がする…
マリーが真面目な顔をして覗きこむ。
なにかで見た…なんだろう…有名人?…犯罪者?うーん…
その後、少ししてマリーと社は離れた。
山崎の帰る場所はわかっている。
そこであとで落ち合う事に決めて。
疑問を抱えたまま、夜がふける。
■
■■
ドッカイコウヨヤマザキ…
ユキの声は小さかった。
電話の向こうに聞き取られないようにしたツモリなのか。
山崎「マリー」
マリー『何?』
山崎「本当か?」
マリー『嘘ついてなんになるのよ』
山崎「そうか、ちょっと待て、今とりこみ中だ。5分後にまた電話しろ」
マリー『ちょ、ちょっと待ちなさいよ!取り込み中ってアンタまさかその子と猥褻な…』
ブツ。
一方的に電話を切って、ユキに向き直る。
ニコニコ。
笑ってる場合じゃないんだよユキちゃぁん。
山崎「マジかよ…嘘だろ、こんなガキが」
ユキ「ガキじゃないよ、ユキだってば」
スネた顔をして見せるユキは、気になるのか、そーっと山崎の携帯に手をかけようとした。
其の手を引っ張り、制して山崎はユキの顔を覗きこんで聞く。
山崎「…隙ができンの狙ってんのか?」
ユキ「え?なんでぇ?」
山崎「殺し屋だってな、テメェ。今サツからそう言われたよ、引き渡せってな」
ガタン。
ユキが立ちあがって窓の外を見ようとカーテンに手をかけた。
その腕を掴んで再度引き寄せる。
携帯がすぐに鳴り出した。マリーも何かあったら困ると慌てているんだろう。出なければ、そのうちこの部屋にも上がってくる。
ユキの腕を掴んだまま、携帯をベッドの上に投げ出した。
掴まれた腕をひねったのだろう、ユキがか細い声で啼いた。
ユキ「い、痛いよ…」
山崎「狙いはなんだ?」
ユキ「山崎…どこか連れてって!」
ギュウ。
山崎の首に手を回して強く抱きつく。
刃物で首でもかかれたらコトだ、と山崎は慌てた。ドスも持っていない今、それに、俺は至近距離に弱い。
蛇使いで中距離を保ち、自分に触れさせる間もなく、ブチギレ突っ込み、引きずり倒しボロックソにしてやるのが山崎の格闘スタイルだからだ。
山崎「コラ離れろ!なんでよりによって俺に当たるんだよこういうのが!」
ユキ「なんでって?え?どうして?ユキ何か悪いコト…」
山崎「あー、オメーなぁ…俺は今保護監察中なんだ、今妙なコト起こしたら逆戻りだろうが!」
ユキ「…っ…ごめんなさい…ユキ邪魔なんだね。」
山崎の首から手を離して、ユキがそっと離れた。
それでもやわらかく、にっこりと笑う。
なんでこいつは笑ってるんだ?
邪魔な余計な女は、余計なものは、嫌いだ。
だから俺はこういう女が邪魔だ、だから引き渡して当然さ。
携帯の電子音が鳴りつづける。
ユキが笑う。
大丈夫。ごめんね。
小さくそう呟くのが聞こえた。
山崎の横をすり抜けて、ドアに向かう。
山崎「…勝手にしろ…」
ユキ「ウン、ご免ね。…山崎…」
山崎「なんだよ、さっさと…」
さっさと、なんだ?
さっさと…。
さっさと逃げろ。
引き渡すんじゃなかったのか、俺は。
ユキが笑っていた。
なんでこのガキは笑っていた?
終わるツモリがない、このガキは。
山崎「ユキ」
ユキ「え?」
山崎「狙いは俺じゃないのか?」
ユキ「うん、違うの、なんだかわかったの。山崎じゃない。山崎はアタシを殺さない…―――だから山崎じゃない。分かったの。」
何がわかったってんだよ。
なんで俺は殺さねぇって思うンだよ。
俺の手はこんなだぜ、血まみれでゆがんでて、オメェみたいな餓鬼イッピキ殺すのなんか簡単だしよ。
携帯の電子音が不意にフツリと止まった。同時に、
ドン!
大きな音がドアを叩く。
山崎「チ…っ!」
ユキ「だ、誰?」
山崎「サツのヤツだ、せっかちな野郎だからな、行動も早ぇ」
ユキ「ど、どうしよう…。アタシコレで終われない…終わりたくない…!」
山崎「…ったく…余計な手間かけさせやがって」
ユキ「イヤ、お願い、警察にあたしを渡さないで!だめなの、終わりにしたらダメなの!」
山崎「馬鹿野郎、全く面倒だ、手間だ、だから女は嫌いなんだ。」
グイ、とユキを引き寄せる。
ベッドルームに「黙ってな」と押し込んで、ドアに向かった。
カチャン。
鍵が開く。
勝手にあけて入ってくるツモリらしい。
大きく開いた扉から、案の定の女が飛び込んできたのを、ひらりと躱すと、山崎を叱りつけた心算なのか、その声が部屋にこだました。
マリー「山崎!ふざけんなよ!その子を渡しなさ…」
山崎「うるせえ。近所迷惑だ」
マリー「あの子はどこ?」
山崎「もういねぇよ」
マリー「嘘をつくな。」
山崎「オメェには見えねぇところに行っちまったよ。」
マリー「なに?」
山崎「見えなくなるのはコレからだがな」
マリーの拳銃を叩き落して、鳩尾に一発。
距離があって油断していたのか、マリーは簡単にくず折れた。
マリー「の…野郎…」
おきあがろうとする首筋にもう一発。
まずいな。頭を一瞬そう言う考えがかすめた。
山崎「…バァカ。気が向いたんだ。暇つぶしに旅行でもさせろや」
自嘲が勝手にもれる。
自分で自分追いこんでどうするんだ俺は――――。
成り行きだとは言え、殴っちまった。そんでコイツは気絶してる。
ってことはもう俺は逆戻り決定か…。
どうもイケネェ。
どうも俺は、サツは逆らってナンボのもんだと思ってる節がある。
山崎「ユキ」
呼ぶと、ユキがそっとベッドルームから顔を出した。
小さなユキ。
別に守ろうと思ったわけじゃネェ。
何もかもが邪魔になってぶち切れただけだ。
ユキ「山崎…いいの?こんなことしたら…」
山崎「うるせぇ。勝手にどこへでも行け」
ユキ「逃げよう!」
山崎「はぁ?!」
ユキ「山崎声が裏返ってる」
山崎「逃げるって、テメェ俺についてくるツモリか!?」
ユキ「あたしが守る!山崎、一緒に来て!」
守る?俺を?ユキが?
なんで。
なんでこいつが俺を守る?
気がつくと、車の中だった。
必要なものすべて持ってきた。本当に俺は逃げる気か。
ユキと一緒に?
ユキ「山崎!行けー!」
山崎「阿呆!テメェになんで俺が付き合わなきゃならネェんだよ!」
ユキ「付き合ってるのはアタシ!大丈夫!山崎は大丈夫だから!」
山崎「なんなんだオメェはよぉ!」
ガリガリガリガリ。
音を立てて歯軋りをするが、自分の足は勝手にアクセルを踏んでるし、
手は勝手にステアリングを切っている。
アア、馬鹿馬鹿しい!
なんでこんな目にあわなきゃならネェんだ。
ユキ「山崎。」
山崎「ああン?」
ユキ「駆け落ちみたいだねー!」
山崎「もうしゃべんなテメェは!」
牙をむくと、嬉しそうにユキが笑う。
行くところなんかねぇのによ。
逃げ場なんてねぇのによ。
どっか行かなきゃならねぇ、それでも俺は、俺達は。
逃げてるんじゃない、必要だから動いてるんだよ。
ユキがそう言って笑った。
マリーのヤツは、自分のベッドの上に放り出してきた。
どうせすぐに気がついて包囲網を張られるだろう。
山崎「ユキ。どこ行くツモリで、何するツモリだ」
ユキ「どっか行ってぇ、おなかすいた!ね、マック食べよう!
ハッピーセット4つと、シェイクはバニラ!ポテトに合うんだよぉ、ね?山崎。」
山崎「あんなぁ…俺が言うのもナンだがよ、もうちょっと緊張感をだなァ…」
ユキ「大丈夫!アタシ殺し屋だもん!
仕事がアレば山崎くらい養えるよ!」
そう言う意味じゃねぇっての…
ハンドルに力の抜けた頭を乗せて、まさに力尽きそうになる。
ユキが笑う。
養われるのはどっちだよ。
そう思ってふと気がついた。
俺はこいつを養うツモリかよ。
今の考えから言うとどう見てもそう言うツモリが俺にあるとしか思えない。
ユキ「なに考えてるの?」
山崎「どこにお前を捨てようかと思ってな」
ユキ「あたしまた捨てられるの?」
山崎「また?」
ユキを見る。
ユキの顔から笑顔が消えた。
不意に、自分の気持ちまでが翳る。
なんで俺はこいつを拾ったんだろう。
誰かに似てたから。
いつかの…誰かに似てたから?
山崎「…恩返しだ…そのつもりになってやるよ」
ユキ「え?」
山崎「当てがある。そこまで行ったら飯食えるからな、マクドはお預けになるがな、まぁ待ってろ」
捨て猫。
そう言う言葉が頭にかすめた。
行き場所のない捨て猫。
責任じゃねぇ、いつか俺を拾ったあの人への恩返しだ…
そう言い聞かせて、アクセルを目いっぱい踏みこんだ。
■
■■
社はすぐに署に戻ったらしい。
マリーは一人繁華街を歩いて行く。
山崎のあとをつけて。
山崎は面倒くさそうに女を連れて、繁華街から遠ざかる。
マリー「いかがわしー…」
だから男ってイヤよ。すぐにそっちの方に女を持っていきたがるんだから。
このあとどうせ自分のマンションでいちゃつくんでしょ。
わかってんのよ白状しなさい!
独りぶつぶつと呟きながら、山崎のあとを追った。
先に見えたのが駐車場と知るやいなや、マリーは走り出した。
このまま車に乗る気だわ。社はいないし、自分で車とりに戻らなきゃじゃない!
アア、もう!腹が立つ!
みんな何もかも山崎のせいよ!
パトカーの置いてある繁華街の逆側に向かって疾風のように走る。
まったくもう、気に入らないわ。何もかもが気に入らないわ。
ヤクの売人だった山崎を、現場で逮捕して、やーっと街が静かになると思ったのに!
何が保護監察処分よ!なんで山崎が優良なのよ!
絶対ネコかぶってたに違いないわ。
なんで二年で出てくるのよ。
ずっと入ってれば良かったのに――――。
マリー「あーもう!面倒くさい!」
道行く人が振り返る。
マリーの呟きは相当大きな声だったようだ。
ちょっと照れながら、何事も無かったかのように走り抜ける。
5分程度でパトカーまで戻れた。
山崎の後をつけるのに、充分だったろうか…
車に乗るなら、アタシに一言「帰る」と言いなさいよ。
ぶつぶつ。くさくさ。
マリー…最近小言が増えました。そろそろ歳感じちゃうね。
ピルルルルルル。
車のエンジンをかけたと同時に、携帯の音が鳴り響く。
マリー「はい、マリーです」
社「おう!今署についた。今から調べる」
マリー「調べてから電話しなさい!」
ゴン。
携帯に向かって一発パンチを入れると、
そのまま助手席に放り出して車を走らせる。
携帯の向こうでは、社が耳をさすっていた。
社「いつもこまめに連絡よこせってウルセェから、
連絡すりゃ…これだよ」
どうも登場人物にぶつくさ言うヤツが多いね。
社はパソコンに向かってキーを打ち始める。
署内のデータベース。それを立ち上げて…
社「……さて…。どうやって何をどこから調べたもんかね」
阿呆。
社「最近見たんだあの顔…どこでだっけな…」
パソコンの前で目を閉じる。
記憶を探る。なにか一つでもイイ、何か思い出せるものがあれば。
なにか。
山崎にくっついていた女。
山崎は二年前に鑑別所送りになったはず。
2年前にあった人間関係?
その頃、2年前にあった事件。その内容を全部表示させてみる。
社「ぐぁ~、目がチカチカする…もうイヤだ…」
あんたギブアップ早すぎ。
だらだらとした調子で、それでも精一杯の早さで画面を流して行く。
カタリ。
一つの事件に目が止まる。
社「ちょうど山崎が捕まる一週間前の殺人事件か。
この犯人、上がってねぇんだよなぁ」
またもや、ぶつくさ。
面度臭そうに、ページを進めようとして…目に掠めた。
社「あ?」
殺されたのは一人の男。
麻薬の摂取のし過ぎで自殺か、事故か問題になった殺人事件。
殺人だとわかったのは、針の入った方向からの推定だった。
麻薬を打つときに、自分で打てない入り方で針がさしこまれていた。
誰かに致死量の麻薬を打たれて、殺された。
そう言う見方の殺人事件だった。
犯人は不特定。山崎の名も上がっていたが、
犯人として特定できる材料が皆無だった。
それよりももっと気になるのが一つの写真だった。
社「娘?…この子が娘?どっかで見たはずだ…被害者の娘じゃねぇか」
そこに残されていた一枚の写真。被害者の娘、
名前は早乙女有紀。21歳。
そして、殺された男の職業。
早乙女探偵事務所。探偵業。いまどきマトモに稼げないだろう探偵業。
社の頭にいろいろな考えが回る。
復讐?山崎が犯人だとこの娘が特定したのか?
だから山崎を狙ってる?
いや、そう言う考えは飛びすぎか。
一般人がそんな大それたことを。そもそもこの娘はまだ子供じゃないか。
そんなことがありえる筈が無い。
おそらく。
たぶん。
もしかしたら…。
ありえない話じゃない。
携帯の音が鳴り響く。何度も何度も。
周囲はもう真っ暗。電灯一つ無い住宅街のマンションの前で、
マリーが舌打ちをした。
マリー「しつこいってんだよ!」
携帯に向かって突然の罵倒。
イライラは身体に毒だよおばあちゃん。
電話の向こうでもう1度耳を押さえる社。そろそろ耳鼻科行き?
社「いちいち怒鳴るなよ!あの女の子、ちょっとヤバイかもだぜ」
マリー「どういうこと?」
社「2年前あった、早乙女って男の殺人事件。あの娘だ」
マリー「早乙女?職業は?死因は?」
社「探偵で、死因は麻薬の致死量摂取によるものだ」
マリー「……その娘?」
社「その娘。」
マリー「それがなんで山崎と…」
社「調べたらな、その犯人の一人として山崎が上がってたんだ。
しかし、あまりにも接点がねぇんで流れたらしい」
携帯を見つめて、首をかしげる。
って、それじゃなんなのよ。
まさか、
マリー「殺された父親の敵討ち~なんて言うんじゃないでしょうね」
社「言う」
マリー「そんなこと…」
社「ありえない話じゃなければ可能性があるなら
それは事件に繋がるんだろうが」
マリー「あんたに難しいこと言われたくないわよ!
ちょっと待ってなさい、山崎もう死んでるかも!」
死んでるかも、って、その言いぐさって…
携帯をブツリと勝手にめちゃくちゃ一方的に切ると、
車から出てマンションを見上げる。
幸い、ギャーともキャーともウンともすんとも聞こえてこない。
切ったばかりの携帯の短縮を押して、耳に当てる。
少しして、眠そうな声が聞こえてきた。
山崎『なんの用だ、大人しくしてるだろうが』
相変わらずの低い声。
アタシをどうあっても歓迎していない声。
気に入らない声。
マリー「あんたまだ死んでなかったのね」
少し安心して、皮肉を言ってやる。
しかし、あの女の子が近くにいる可能性がある今、油断できない。
山崎『ああ?なんで』
皮肉を皮肉と受け取ったのか、受け取らなかったのか。
無表情な声が返ってくる。
山崎という男はわからない。理解出来ない。
アタシにごまもすらない。女だと思って舐めてやがる。
なんとかアタシの力を見せてやりたい。
なんとかアタシがあんたよりも強い立場なんだって、思いしらせてやりたい。
馬鹿にするな、アタシを。
女だてらに頑張ってんだ。
別に、女扱いして欲しい…ワケじゃない。
ちょっとはビビりなさい。脅えなさい。あたしに助けを求めなさい。
マリー「その女の子をアタシ達に引き渡しなさい。その子は殺し屋よ」
口から勝手にそう言う言葉が出た。
殺し屋だなんて、嘘だ。
ただの、敵討ちをするかもしれないただの被害者の娘だ。
わかってる。
でも驚きなさい。
その子は殺し屋よ。あんたを狙ってる殺し屋で、
アタシがいないとあんたは死ぬのよ。
ややあって、山崎のさらに低くなった声が聞こえた。
近くに女の子がいることを、それから察することが出来た。
山崎『マリー』
マリー「何?」
山崎『本当か?』
ギクリ。
一瞬嘘をついているのがバレたのかと思った。
しかし、山崎の声の調子は、ただの質問なだけで
疑っているような声ではない。ただの確認だ。ただの、時間稼ぎだ。
鼻で笑う。
マリ「「嘘ついてなんになるのよ」
山崎『そうか、ちょっと待て、今とりこみ中だ。5分後にまた電話しろ』
え?!
さすがにマリーも驚いた。
ちょ、ちょっとは驚きなさいよ!あんた狙われてるのよ?!
なんでそんな大物みたいに構えてるのよ!
確かに、相手は小さな女の子だし、
山崎くらいの男だったら別段怖いものじゃないのかもしれない。
残念がる自分に、さらに腹が立つ。
マリー「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!
取り込み中ってアンタまさかその子と猥褻な…」
邪推。マリーは自分が山崎に振りまわされている、そう感じていた。
山崎が言動や行いを慎もうとしない。
しかし、逆戻りしそうなヤバイことまではしない。
頭の言いヤツ、いや、悪知恵の働くヤツ。
ヤクザ業界、いまどきそれくらいのヤツじゃなきゃ渡って行けない。
マリー「もう頭に来た!山崎の野郎、強制猥褻罪で逮捕してやる!」
勝手に罪状を決めつけて、車の扉をばたんと閉じる。
マンションに向かって歩こうとして、
自分の身体が上手く動かない事に気づく。
扉に挟んだコートのスソ。
ガン!と扉を一発けると、そっとドアをあけて、閉めなおす。
マリー「キズついててもアタシのせいじゃないもん。山崎のせいだわ」
パトカーの内部に置いたままの携帯が鳴り始めたことに
マリーは気がつかなかった。
そのまま遠ざかる。
受話器を耳に当てたまま、社がいぶかる。
信号待ちの単車の上。
署を出てから、もう結構時間がたつ。
社「マリー動くなよ…相手は手配されてる殺人鬼だぜ…」
社の呟きは、マリーに届かない。
■
■■
県内を抜けて、すでに車はマリーの属する所轄内から離れていた。
山崎「所轄出ちまえば、対応が遅れるからな」
ユキ「そーだね。」
山崎「分かって返事してるのかオメェ」
ユキ「ショカツ出ると対応が遅れるんでしょ?」
山崎「ショカツって字書いてみろ、ホレ、窓によ」
ユキ「まっかせて」
ショカツ。
ユキがカタカナで大きくフロントガラスに指で書いた。
山崎「前に書くな前に!ってそれカタカナだろうが!」
ユキ「ほらほら、ショカツ!」
山崎「わーったよ…マヌケ」
ユキ「マヌケ」
フロントガラスに、間抜け。漢字で大きく指で書くユキ。
山崎の手がユキの頭をゴツンと叩く。
ユキ「痛いー!何すんだよぅ山崎!」
山崎「阿呆」
ユキ「阿呆」
フロントガラスに指で書こうとした文字を、頭をもう1度小突くことで止める。
ユキが頭をさすりながら、山崎の頭を逆に小突いた。
山崎「イテェだろうが!」
ユキ「山崎~」
山崎「ああ?」
ユキ「空綺麗だね。」
山崎「ああ。」
空が高くて、星が満タンに散らばっていた。
郊外の街灯がちらほらと見える程度の住宅地。
明かりが少ないせいか、空が高く見える。
その一角に車を止めて空を見上げる。
ユキが、じっと山崎を見ていた。
気がつかないフリをして、歩き出そうと…。
ピルルルルルル。
聞いた事のある、いや、聞きなれた電子音。
山崎「あ?」
ユキ「山崎電話」
山崎「俺の携帯は置いてきたぞ?」
ユキ「あたしが持ってきた~!まずかった?」
山崎「ま、まずいもなにも使えねぇだろうが!」
ユキが持っている携帯を分捕って、着信を見る。
この携帯の着信履歴を調べられたら、追われやすくなる。
自分の足跡になるようなものは、すべておいてきたツモリだった。
携帯の着信を見ると、マリーからの着信の表示が出ていた。
山崎「つけられねぇように、置いてきたんだ、出るんじゃねぇぞ」
ユキ「……ご、ご免アタシ…物凄く馬鹿だ…ご免…」
山崎「お前本当に殺し屋か?随分間の抜けた…」
ユキ「お父さんにも同じこと言われたよ。山崎お父さんみたいだ。」
ユキがそう言ってにっこり笑った。
何がお父さんだよ。
そんで俺は何で照れてんだよ。
俺になつくなよ…。どうせどこかで捨てるんだから。
ユキ「携帯、どうしよう」
ユキが携帯を持ったまま困りはてる。
携帯の着信音は、すぐに止まった。
その携帯をユキから受け取ると、着信履歴を調べる。
山崎「ゲッ!何でコイツが」
ユキ「何?何?」
山崎「い、いや、なんでもない。ただのイタズラ電話だ」
ユキ「????」
着信履歴の中に、一つの名前があった。
着信時間は、ちょうど家を出る前。
マリーからの2度目の電話だと思っていた電話。
それは違う人間からの。
俺が出所したとどこかで聞いて、かけてきたのだろう。
もう会うこともないと思っていたが。
女からの電話だった。名前はバイス。飲み屋で知り合った、ただの大人の女だ。
会う必要もないし、会う理由もない。
ユキに言う必要もないし、バイスは俺のことを良く知っているわけではない。
着信履歴を調べられて、俺の足跡を追う手だてにはならないだろう。
携帯の画面を覗き込んできたユキに気づいて、着信履歴を消す。
ユキが物足りなそうな顔をしたので舌を出して馬鹿にしてやると、
アカンベーを返された。子供相手に俺はなにやってんだか。むかつくガキ。
さっさと済ませて、楽になろう。
山崎「ついて来い、すぐに済ませる」
ユキ「はーい」
ユキは素直について来た。
うるさい携帯の電源はすぐに切った。
それをポケットに押し込みながら、すぐ近くのマンションに入る。
高級マンションの入り口で、部屋のボタンとキー番号を押す。
無論、指紋がつかないように、布を通して。
ややあって、一つの部屋のインターフォンから応答があった。
??『どこからだ?』
山崎「リリーは元気か?」
??『阿呆…上がって来い』
山崎「おう」
玄関の扉が、音を立てて開く。
入居者、または管理人の許可なくしては入れない高級マンション。
山崎とユキが入って、扉を閉じるとまた鍵がかかる。
そのまま階段を使って3階まで。
ユキ「どこに行くの?」
山崎「さぁな」
ユキ「教えてよぅ」
山崎「うるせぇな、いてこますぞ」
ユキ「イテコマ?」
首をひねるユキをほおっておいて。3階の一室の前に立つ。
扉の下を靴先で何度か蹴ると、扉が開いた。
山崎「よう、相変わらず暇人かよ、ビリー」
ビリー「アノな山崎。俺がせっかく暗号をだな」
山崎「んなもんいらねぇよ、面倒クセェ。入らせろ客だ客。」
ビリー「ったく、お前が来るとロクなことがない」
山崎「今回もロクなことじゃねぇよ、喜びな」
ビリーカーン、俺の昔の仕事仲間。
って言ってもこいつはヤバイ仕事はあんまりしない。
俺は麻薬、こいつはただの用心棒。
ちょっと手荒い用心棒ではあるが、用心棒自体は法律に触れない。
しかしそのせいかあまり需要もない。
海外だったらギャンブル場で引っ張りダコなんだろうけどな。
たまたま、縄張りにしている区域が一緒だった。それだけの仲だ。
ユキがビリーの顔をじろじろと見る。
ビリー「山崎」
山崎「ああ?」
ビリー「この子は?」
山崎「知らないガキだ」
ビリー「な、なに!?」
山崎「ううっそ。」
ビリー「おちょくるな」
山崎「外人をおちょくると面白いからな。
日本人の言うことを馬鹿みたいに信じやがる」
ビリー「普通日本人ってのは、信用出来るモンなんだ!」
山崎「ヘェへェ、どうせ俺は信用できないよ、で、どっかに部屋ないか」
ビリー「なにかしたのか」
山崎「サツの女殴った。ちょっとうるさかったんでな。」
ビリーが肩をすくめてユキを見る。
ユキが肩をすくめて笑い返した。
その様子を見て、ビリーが噴出す。
ビリー「その子も一緒にか?」
山崎「……」
ビリー「待ってろ、幾つかあるはずだ」
ビリーにうながされて、ユキがソファに座る。
山崎は立ったまま、ビリーの動きを見ていた。
山崎「その辺の物触るんじゃねぇぞ」
ユキ「うん」
ユキは大人しく、両手をそろえて待っている。
病院で順番を待つ患者のように。
ビリーが持ってきたのは、いくつかの鍵だった。
ビリー「どれがいい?」
山崎「……全部信用出来るんだろうな。」
ビリー「危ないところ提供したら、俺がお前に殺されるだろう」
山崎「分かってるじゃねぇか。んじゃ、ユキ一つ選べ」
ユキ「あたし選んでイイの!?やったー!んじゃね、えーっとぉ」
楽しそうに、ユキが鍵を見る。
ビリーの手元で揺れる鍵。5、6種類はあるだろうか。
どれもが隠れ家として信用出来る場所の信用出来る鍵だ。
ビリーの稼ぎは、用心棒代だけではない。
ほとぼりが冷めるまでの、場所提供。
そう言う事を売りにしている人間もいる。
ユキ「これがイイ!」
ビリー「え?」
山崎「なんだよ」
ユキ「なんで、え?」
ビリー「…いや…別に…俺はいいけど」
山崎「なんだよ、信用出来るって言ったのはお前だろうが」
ビリーが首をかしげて、山崎を見る。
ビリー「いやね、別にいいんだけどね、俺の部屋でもね。」
山崎「ああ?って…」
ビリー「その鍵は俺の部屋。どうする?選びなおすか?」
山崎「阿呆かテメェは!なんで自分の部屋の鍵を一緒に入れとくんだ!!」
ビリー「ここが一番安全だからだ」
山崎「……。」
ち、足元見やがる。
何気なくユキに取りやすい位置に、
その鍵を持っていっていたのは見えてたんだよ。
しかしそう言うハッタリには俺も手が出る。
博打を打ってみたくなるのは性格上だ。
多分、ユキが自分の妹とダブって見えて、
「心配だ~」とかその程度のレベルの話だろう。
いっそこいつに預けるか。
……それはそれで心配だ。
いや、ユキが、じゃねぇぞ、俺のこと知ってる奴を
野放しにするのが心配なんだぞ!
……多分。
山崎「金は」
ビリー「先払いだ」
山崎「だろうな」
とことん足元見やがる。
現金でいつもより少ない金額を提示してやると、ユキをちらりと見て、
札束で自分の頭をペシンと叩く。
ため息をついて、奥の部屋へ消える。金をしまいに行ったんだろう。
ユキも案外役に立つな。
ビリーの同情心を煽る結果で金が安く済む。
その夜。提供された一つの部屋で、ソファに寝転がる。
ユキは別の部屋で大人しくしているようだ。
久々に、一人になった気がする。
ユキと一緒にいたのは少しの間だけなのに、
ものすごく長い時間を過ごしていた気がした。
ユキは、なんで俺について来たんだろう。
ずっとそれが気になっていた。
俺を親のカタキだと言っていたはず。
無論、俺に人殺しの覚えはない。
麻薬使って人殺すなんて、そんな足のつくような馬鹿なまねはしない。
ユキは俺を信じた。
そしてサツを殴った俺を助けると言った。
俺はなんでこんな、くだらねぇ気持ちになってる?
なんでユキを助けようとしてる?
……
はじめて気がついた。
俺はユキを助ける、いつのまにか自分にそう決めていた。
息が詰って……眠れなかった。
何度も寝返りを打つ。
置き上がって、ソファに腰掛けなおす。
何度も打ち消そうとした。俺が人を助けるなんてありえない。
でも今、現に俺はユキの逃げ場を作ろうとしている。
俺が逃げるためだ、そうだ、そう言う理由を使って俺はユキを。
ユキが、なんだってんだ!
気持ちに理解が、頭がついていかない。
髪をかきむしっても整理がつかない。
ひときわ大きなため息をついた時、部屋の扉にノックの音が響いた。
■
■■
■■
■ ■始まり
いや実際驚いた。
まさか山崎が俺のところに女を連れて転がり込んでくるとは。
しかも、女って言ってもまだリリーと同じ位の年齢の子供。
ちなみにリリーは俺の妹。清楚で可愛くて大人しくて活発で控えめで…
矛盾してるな。コレ以上リリーのことに触れるのはやめておこう。
インターホンがなって、来客を知らせる。
俺は丁度外出する寸前だった。
人づてに頼まれて仕事を請け負ったからだ。
そのクライアントのところへ顔合わせに行くつもりだった。
まぁ、時間はある。
インターホンのボタンを押して、一言だけ言う。
俺がココにすんでいることは誰も知らない。
つけてくるような変態的な野郎もいないから、のんびりと暮らせる。
まぁワケがあるんだけども。
ビリー「どこからだ?」
俺が作った合言葉。
コレにイギリスからだと答えれば、俺の部屋には通される。
仕事の客は「ある店」からしか取らないし、
ココに来る奴は俺の仕事上関連が深い奴ばかりだ。
??『リリーは元気か?』
がっくり。
声に聞き覚えはあるものの、暗号を言わない。
この声は山崎竜二だ。俺の昔の仕事仲間。
こいつが麻薬を扱っていた関連でちょっと知り合っただけの。
言うなりゃ俺が客だったんだけどな。
おっと、いまはヤッてねぇぜ?リリーにしこたま怒られたからな…
ま、まぁそんなことは置いといて。
ビリー「阿呆…上がって来い」
それだけインターホンに言い返して、
マンションに入るための玄関の扉を開けてやる。
このマンションはセキュリティが強い。
マンション自体に入るのさえも、住人か管理人の許可が要る。
このマンションの持ち主が、俺の今回のクライアント。
って、そんなことは今関係ないな。
インターホンの向こうから、了解と受け取れる返事を山崎が返す。
日本語ってのは厄介だ。いろんな「OK」がある。
「はい」だの、「了解」だの、「へい」とか山崎みたいに「おう」とか。
どれか一つにしてくれ、英会話よりも難しいと思うぞ俺は。
ぶつぶつと文句を言っていると、ごんごん、と低い音が聞こえてきた。
なんだ?この辺工事してたッけ?
きょろきょろとみまわして、部屋の扉がうなっていることに気づく。
山崎の野郎、ノックもしらねぇのか…
今日は文句が多いな。
山崎が悪いんだ山崎が。
ドアに向かって舌を出し、何食わぬ顔で扉を開けた瞬間。
山崎よりも先に、女の子の顔が視界に飛びこんできた。
それが、山崎の連れてきたユキとか言う子供だった。
山崎「よう、相変わらず暇人かよ、ビリー」
ビリー「アノな山崎。俺がせっかく暗号をだな」
山崎「んなもんいらねぇよ、面倒クセェ。入らせろ客だ客。」
相変わらず馬鹿にしたような顔で、俺にそう言いやがる。
あのなぁ。俺はだな、お前を客と認めた覚えは…
山崎が俺に視線を送る。
意図を察する。
こいつは客だ。
そう認識して、部屋に通す。
蹴られた扉をみると、かすかに靴のあとがついていた。
アアもう…泣きてぇ…
ビリー「ったく、お前が来るとロクなことがない」
山崎「今回もロクなことじゃねぇよ、喜びな」
へいへい、分かってるよ。
お前が来る時ってのはヤバイ時だけだ。
この女の子が多分曲者なんだ。
何があったのか、駆け落ちか?山崎はこの年齢が好みだったッけ。
いやいや、女は面倒だからとか言っていたような記憶もあるし。
でも他の誰かだったかもしれない。
あんまり人のコトを覚えるのは得意じゃない。
そもそも日本語が厄介なんだ。…あ~…どうどう巡りだな。
女の子が俺を珍しそうに見ている。
イギリス人が珍しいのか、それとも単にこう言う性格なのか。
ビリー「山崎」
山崎「ああ?」
ビリー「この子は?」
山崎「知らないガキだ」
ビリー「な、なに!?」
山崎「ううっそ。」
ぐあ。殴りそうになった腕を精神力で止める。
こいつの挑発に乗るとキリがない。冷静に、冷静に行こうじゃないか、俺。
ビリー「おちょくるな」
山崎「外人をおちょくると面白いからな。
日本人の言うことを馬鹿みたいに信じやがる」
ビリー「普通日本人ってのは、信用出来るモンなんだ!」
山崎「ヘェへェ、どうせ俺は信用できないよ、で、どっかに部屋ないか」
ホレ来た。
やっぱり客だったんだこいつは。
俺はこう言うやばい状態の奴をかくまう、おっとこれだと法律に触れる、
そんな人だなんて知らなかった~って言うフリをして
安全な場所を提供する事もやっている。
そのためにいくつかの部屋を持っている。
案外稼ぎになるので、部屋の維持費には事欠かない。
ビリー「なにかしたのか」
山崎「サツの女殴った。ちょっとうるさかったんでな。」
んじゃ其処の子は何よ、ちょっとそう思ったがそれは聞かないのが仕事。
女の子に向かって肩をすくめて見せると、真似をされた。
可愛いなぁ。歳はリリーと一緒くらいか。
そんな子がまたなんで山崎なんかの毒牙に。
悪い事はいわないから、帰ったほうがイイよ。心でそう言ってにっこり笑う。
声には出さない。
仕事だからな。
ビリー「その子も一緒にか?」
山崎「……」
無言ってのは、肯定なんだよな。
日本語ってのは本当に難しい。
やっと覚えた日本人の妙な沈黙。
黙ったら、それは了解だと思え。返事無しでも了解なのな。
不思議な国だ。面倒だがソコが面白い。
ビリー「待ってろ、幾つかあるはずだ」
女の子をソファに座らせて、山崎はほおっておく。
山崎は座ろうとしないだろうからな。
何かあったときのコイツは特にそうだ。
奥の部屋に入って、金庫の鍵を開ける。
その金庫の中に、また鍵がある。
用心にこした事はない。
でも日本ってのは本当に安全だ。人間が離れてやがる。
リリーはイギリスで苦労してんのにさ。
日本人は楽でイイよな。
俺はなんとかリリーみたいに苦労しようと思っている。
リリーにだけ、淋しい思いをさせるわけには行かない。
だったら本国に帰れ?
……俺にはこの国にいなければならない理由があるんだよ。
金庫を閉めて、取り出した鍵を確認する。
6つ。OK.
それを山崎に提示する。
ビリー「どれがいい?」
山崎「……全部信用出来るんだろうな。」
ビリー「危ないところ提供したら、俺がお前に殺されるだろう」
山崎「分かってるじゃねぇか。んじゃ、ユキ一つ選べ」
ユキ「あたし選んでイイの!?やったー!んじゃね、えーっとぉ」
ユキって言うのか、この子。
楽しそうに、俺の持っている鍵を見ている。
リリーみたいだ。
楽しそうに。いつでも楽しそうに。
笑っている。
俺はその笑顔を守ってやれているんだろうか。
ユキ「これがイイ!」
ビリー「え?」
賭けだった。
別に他意はない。本当に、多分。
この子をほうっておきたくない、そうは思ったけど。
鍵の束の中に一緒に入れた。
山崎「なんだよ」
ユキ「なんで、え?」
ビリー「…いや…別に…俺はいいけど」
山崎「なんだよ、信用出来るって言ったのはお前だろうが」
まぁな、信用出来るとは言ったよ、それは間違いない。
だってその鍵は…
ビリー「いやね、別にいいんだけどね、俺の部屋でもね。」
その鍵は、俺の部屋の鍵だ。
その笑顔を俺は守ってやれるのだろうか。
俺はなんにも出来ていないんじゃないだろうか。
ユキと名乗った女の子に、リリーがダブる。
この子は山崎といて幸せなのだろうか。
山崎「ああ?って…」
ビリー「その鍵は俺の部屋。どうする?選びなおすか?」
山崎「阿呆かテメェは!なんで自分の部屋の鍵を一緒に入れとくんだ!!」
ビリー「ここが一番安全だからだ」
わざとらしくそう言ってやる。
しかし、事実でもある。
一番俺が信頼している場所に自分で住んでいる。
当然だ。自分が一番大切だ。
山崎「……。金は」
ビリー「先払いだ」
山崎「だろうな」
山崎が折れた。
コレで、俺はこの子を助けられる…
俺は…何を考えてるんだろう。
山崎が提示した金額を見て、舌打ちする。
足元見やがって。いや、俺の真意はこいつは気づいてないはずだ。
山崎らしい提示だ。いつもの金額より数枚少ない。
俺の顔を見て、にやりと笑う。
ユキちゃんが俺を見る。
俺がユキちゃんを見る。
やっぱ、ほっておきたくない。
自分の頭をその札束で殴って、俺は立ち上がった。
そのまま、金庫の方へ行く。
奥の部屋に入って、携帯を取り上げる。
番号を押して少々待つと、すぐに相手はその声を響かせた。
???『ビリー?待たせるじゃないか』」
ビリー「すまない、今日はすぐに行けそうにないんだ」
???『打ち合わせするって言ったじゃないか。
場所と時間を指定したのはそっちだぞ?』
ビリー「こっちも面倒な事で立て込んじまってな、
行けるのは朝になりそうなんだ。時間は空いているか?」
???『面倒な事と言うのは?』
ビリー「いや、客がな…すまない、その分は金額の方でまけさせてもらうから」
???『仕方ないな。アタシもこの店から動く事はないからな、朝までは、いる』
ビリー「すまないな、んじゃ4時くらいまでにはそっちに行く。
待っててくれ、バイス。」
実はすっかり忘れていた。
バイス…ここのマンションのオーナーでもある彼女と
待ち合わせしていた時刻を30分ほどまわっている。
待ち合わせ場所は彼女の経営するバーだから、
待たせていると言う感覚は少ない。
居間に戻ると、ユキちゃんが眠そうな目をして俺に顔をむけた。
隣の使っていない部屋を簡単に片付けて、そこのベッドへ案内する。
山崎は、「俺は居間でイイ」と言い張った。
確かに、俺と同じ部屋で枕並べて眠る気にはならない。
居間のソファはかなり大きいものだったから、そこで寝るという。
俺は部屋に戻ると、簡単に用意をした。
4時までは時間がある。
煙草を吸いながら、天井を見上げる。
ユキの素性が知りたい。
何故山崎といるのか、それが知りたい。
でも、コレはビジネスだ。干渉する事は…
ビジネスだ。
……。
リリーは…俺の仕事がなんなのか、知らない。
■
■■
居間の扉は、廊下でどの部屋からも通じている。
ユキか、ビリーなのは間違いなかった。
どちらにせよ、あまり会いたくない相手ではあるが。
山崎「誰だよ」
ビリー「色気がなくて悪いな。俺だ。」
舌打ちをして立ちあがる。
何が悲しくて男とこんな夜中に顔つき合わせなきゃならんのだ。
山崎「なんの用だよ」
ビリー「入るぞ」
山崎「勝手にしな」
ビリーは居間の扉をあけて入ってきた。
自分の部屋の自分の所持する居間にノックするってのも妙な話だな。
煙草をくわえたまま、俺の近くによってくる。
ビリー「山崎。聞きたいコトがある」
山崎「ユキのコトだろ?なんだ気に入ったかこのロリコンがぁ」
にたりと笑って見せるが、ビリーの面持ちは変わらない。
なんだよ、ノリの悪い奴だな。
外人ってのは何があっても意味なく笑ってるもんかと思ってたよ。
山崎「言っとくが俺はユキについて何もしらねぇぞ、
勝手について来たんだからな。
どっかの誰かさんと違ってもててしょうがねぇや」
皮肉を言ってやっても、眉一つ動かさない。
なんなんだよ。
何が言いてぇんだよ俺に。
山崎「なんとか言ったらどうだ?用があると入って来たのはオメェだろが」
ビリー「あの子をどうするツモリなんだ?」
来た。
やっぱな。心配してたんだ。ユキのコトを。
俺なんかの近くにいたら汚れる、とかそんなコト思ってんだろう。
山崎「言ったろ、勝手について来たんだ。俺はどうするつもりもネェよあんなガキ」
ビリー「やはりな、それが問題なんだお前の。
どうするツモリもないなら、自由にしてやれ」
山崎「ああ?何だテメェ。俺に説教食らわそうってのか?百万年早ぇ」
別にどうするツモリもないさ。どうも出来ねえよ。
バカみたいに犬みたいに俺にくっついて来やがった挙句に、
俺を守るとか抜かしやがってあのガキは。
うざってぇよ。
ビリー「お前といるってコトがどう言うことなのか分かっていてやっているのか」
山崎「どう言う意味だ…」
喧嘩売ってやがる。コイツは。
一体俺に何が言いたい…いや、分かっている。
俺が…。邪魔なんだろう…どこへ行っても俺はそうさ。
どこにいても歓迎されない。役立たずさ。
ただ…ユキは俺を求めた、だから…
別に…嬉しかったわけじゃないさ…
ビリー「あの子は普通の子だろ?」
山崎「……」
さすがに言葉に詰まる。
俺を殺しに来た女だなんて言ってもしょうがねぇ。
しかも俺自身、ユキを探っている状態なのに。
山崎「本当にわからねぇんだアイツは。本名もしらねぇ。
お前が介入するコトじゃないだろう。
あんまりシツコイと、俺もキレるぜ」
ビリー「逃げているのはお前なのか、あの子なのか…。それが…知りたい」
山崎「両方さ」
それだけ言って背を向ける。
コイツは俺の目を探ってやがる。
いちいち俺の目をうかがう。俺を邪魔にしやがる。
居場所がねぇのは…慣れている…どこに行っても安息なんかねぇんだ。
求められることのない人間。
生きているコトに不安は無い、けど人間でいられることに自信はない。
ビリー「……出過ぎたコトを言っているとは思う…しかし…」
山崎「安心しな。」
ビリーが硬直するのが分かった。
俺が立ちあがり、ビリーの目の前に顔を突き出したからだ。
そして、笑ってやる。
そうさ、いつもそうだ。
居場所なんかねぇ。だから俺はとどまれねぇ。
山崎「ユキは預けたからな。やっと羽根が伸ばせるぜ。」
ビリー「あの子をほうって行くのか!?」
驚いたフリなんかしやがって。
俺に出て行って欲しいと全身で言ってるくせに。
俺が邪魔だと全身で俺を否定しているくせに。
俺は、いつも譲歩する。
ほら見ろ、今回もそうだ。俺はまた譲歩する。
嫌われるのは慣れている。
俺を見ない目を俺を見なかったとする目に向って
いつも卑下した笑いを向けてやる。そうして俺は自分を保ってきた。
山崎「邪魔なものは切り捨てる。」
ビリー「それがお前のやリかたか!」
山崎「俺に期待してたのか?バーカ、甘いんだよ」
それだけ言って、扉に手をかける。
後ろに風を切る音がする。
振り向きざまに俺の頭上に振りあがる棒を片手でとらえる。
ビリーの持った攻守に優れる赤い昆が俺の手元で震える。
山崎「喧嘩売ろうってのかぁ。俺にか?」
ビリー「お前は…最低だっ!」
山崎「なんとでも言いな、しかしな、
その言葉そのままお前にも返してやるぜ。情に熱いロリコン男が」
演出する。
俺は出来るだけ邪魔でいなければならない。
ユキは。
ユキはもう、俺といちゃいけないんだろ?
お前は、俺にそう言ったも同じなんだろう。
だから出て行ってやるさ。
どこかに。
……一体、どこへ…。
ビリーの罵倒を背に、部屋を出る。
冷たい夜風。コートを羽織って歩き出す。
一つだけ小さな居場所を見つける。
車に乗り込んで、煙草に火をともす。
煙が、立ち昇って消えて行く。
どこへ行くんだ、どこへ行くんだ消えそうな煙。
消えるってのは、楽だな…俺に匂いを残して。
一人になったと感じる。ロクな感情じゃねぇ。
車を走らせる。どこへでもイイ。どこかへ。どこか遠くへ。
ユキの匂いは……消してしまおう。
■
■■
山崎「誰だよ」
山崎の低い声が聞こえた。
俺が居間の扉をノックした、それに対する返事だ。
すぐに返事をしたところを見ると、起きていたのか…?
俺には関係ないな。
そう、こいつが何故起きたままだったのか、考える必要はない。
ビリー「色気がなくて悪いな。俺だ。」
そう返事をすると、山崎が動くのが分かった。
山崎「なんの用だよ」
ビリー「入るぞ」
山崎「勝手にしな」
ハイハイ、勝手にするよ。
そもそもなんで自分の居間をノックしなきゃならないんだ。
いや、貸したのは俺か。
扉をあけると、山崎は立っていた。
俺に対するときで座っている事などほとんどない。
信用されていないのか、されているのかわかりゃしない。
面倒くさそうに俺を見下ろす。
アノな、面倒なのはこっちなんだぜ。
本当に面倒なんだ。なんで俺がお前に説教しなきゃならないんだ。
そもそもユキちゃんをどうすんだ。責任もてるのかこのやろう。
心の中ではそう罵倒しておいて、
もっとファジーな言い方に置き換えて口から吐き出す。
ビリー「山崎。聞きたいコトがある」
山崎「ユキのコトだろ?なんだ気に入ったかこのロリコンがぁ」
ぐ。
ちょっとだけ詰まったが、山崎に対する表情は変えない。
そんな遊びに付き合ってる余裕は俺の心にはない。
リリー…ユキちゃんがな。
ユキちゃんはな。
お前はな…。
山崎「言っとくが俺はユキについて何もしらねぇぞ、
勝手について来たんだからな。
どっかの誰かさんと違ってもててしょうがねぇや」
山崎の言葉は聞き流す。
俺の言葉が胸の内でうずを巻く。
俺はなんでこんな事。
そうだ、山崎が悪いんだ。
コイツが信用置けないヤツだから。
山崎「なんとか言ったらどうだ?用があると入って来たのはオメェだろが」
俺を睨み付ける目の中には、いつもある自分本位の生きかた。
これにユキちゃんが惑わされていい物なのか。
ユキちゃんはもっと自由であるべきじゃないのか?
縛っちゃいけない、期待されちゃいけない、
期待されて裏切る人間である自分を卑下せねばならない。
ゴメンな、リリー。
ビリー「あの子をどうするツモリなんだ?」
まかせて置けない、まだ俺のほうがなんとか出来る。
コイツには愛がない、俺には愛がある。
ユキちゃんがぼろくずになる前になんとか、引き剥がさないとならない。
俺の使命感だった。
俺は…なんでコイツをこんなに邪魔に思うんだろう。
山崎の返答は思った通り冷たかった。
山崎「言ったろ、勝手について来たんだ。俺はどうするつもりもネェよあんなガキ」
ビリー「やはりな、それが問題なんだお前の。
どうするツモリもないなら、自由にしてやれ」
山崎「ああ?何だテメェ。俺に説教食らわそうってのか?百万年早ぇ」
どうするツモリもない、要するに責任取るツモリがないってんだろう?
縛っちゃいけないんだ、そうなんだ。
俺のツマラナイ理由で人を傷つけたらいけない、人に頼ってはいけない。
ユキちゃんは傷つけてはいけない。
なら、山崎を傷つけるならイイのか?
コイツは、傷なんか付かないさ。多分…
俺は傷ついてなんかいないさ、多分。
ビリー「お前といるってコトがどう言うことなのか分かっていてやっているのか」
離れろ。
山崎、お前はもう違う場所の人間なんだよ。
自覚してくれ。
自覚して、ユキちゃんを引きこむのはやめろ。
俺だってリリーを引きこまないためにこうやって苦しい思いをしているんだ。
お前だって苦しんで…
同じように苦しんで、俺の気持ちを分かってくれないか。
山崎「どう言う意味だ…」
ビリー「あの子は普通の子だろ?」
山崎「……本当にわからねぇんだアイツは。本名もしらねぇ。
お前が介入するコトじゃないだろう。
あんまりシツコイと、俺もキレるぜ」
違うんだ、ダメなんだお前じゃダメなんだ。
俺もお前も生きてる場所が違うんだよ、あの子とは。
守らなければならないものが出来ると人は弱くなると言う。
皆は守るものが出来ると人間は強くなると言うが…弱みが出来る。
ビリー「逃げているのはお前なのか、あの子なのか…。それが…知りたい」
山崎「両方さ」
ビリー「……出過ぎたコトを言っているとは思う…しかし…」
俯いた俺の目の前に、不意に山崎のあざ笑う顔が見えた。
覗きこまれて、笑われる。
山崎「安心しな。」
すべてを見透かしたように笑う。
やっぱりこいつは一人で生きるべきなんだ。
こいつは一人で生きているんだ。
そう、感じてしまった瞬間、俺は突き放されたような感覚に襲われた。
何故、だ?
困惑する俺に、山崎が一言、言った。
山崎「ユキは預けたからな。やっと羽根が伸ばせるぜ。」
言葉の意味を何度も考え直す。
それはどう言う意味だ?
捨てていくってのか?ユキちゃんを!?
ビリー「あの子をほうって行くのか!?」
山崎「邪魔なものは切り捨てる。」
ビリー「それがお前のやリかたか!」
山崎「俺に期待してたのか?バーカ、甘いんだよ」
頭に血が上る。
ユキちゃんはこれで自由なはずだ。
俺は何故怒っている?
なにかをコイツに期待してたのか。俺は、そんな甘ちゃんだったか?
気持ちを押さえきれずに、切れそうな神経に従うと
俺の腕が勝手に三節昆を振り上げた。
振り向きざまに受けとめられたその攻撃に気持ちがさらに高ぶる。
嫌いだ、お前なんか!
山崎「喧嘩売ろうってのかぁ。俺にか?」
山崎はまだ笑っている。
俺を、笑うな。
ビリー「お前は…最低だっ!」
罵倒する。何度も罵倒したい。
コイツを何度も否定したい。
ユキちゃん捨てるのか!ダメだ、なんでだ、
なんで俺はこんなわけのわからないことを…!?
山崎「なんとでも言いな、しかしな、
その言葉そのままお前にも返してやるぜ。情に熱いロリコン男が」
山崎が部屋を出て行く。
取り残される。何もかも。
俺の心も。
山崎が憎い。
ユキちゃんを守りたい俺を、許せるのは、お前だけなのに。
その権利を放棄して俺を捨てて行くのか。
誰もかれも一人ぼっちで…
ユキちゃんも…リリーさえも一人ぼっちなのだろうか…。
■
■■
もう何時間走りつづけただろうか。
窓の外を過ぎるネオンももう数えるほどになってきた。
通りすぎるのは風と、
逃げる俺を容赦なく照らし出す街灯と
謎を秘めて振り向かない人だけ。
煙草も尽きた。
ガソリンももう少ない。
もう、行く所もないような気になって。
どこへ行ってイイのか分からなくなる。
帰る場所が、ない?
ユキがいた時はあんなに居場所が確定していたのに。
ココにいてイイんだ、と思えたのに。
どこへ、行く、俺。
どこへ、逃げる、俺。
そんなに見つめるな、月よ。
せめて見ないフリをしていてくれないか。
少しの間だけでいい、楽になりたい。
走り疲れて。道路脇に車を止める。
分かってる、俺がいつも逃げてくる場所はココ。ココなら恐らく少しは…
居心地が、いい…かも、しれないから。
誰もいないことを願って、止めた車のエンジンを切る。
温まっていた身体も、突然の静寂に冷え込むようだ。
寂しくはない。
居場所が、欲しいと、そう願ってしまっただけ、
それは俺の単なる弱さだ、柔い心だ。
アスファルトにつけた足元から、冷気がまきあがって身体にまとわりつく。
振り払ってしまおう。
気がつかなかったフリをして、その冷気は振り払ってしまおう。
逃げて誤魔化さなければ、寂しくなってしまうから。
誤魔化して、笑ってしまおう。
だから俺は、ココに来た。
バーの扉を軽く押す。
ネオンの消えた閉店後のバー。
アシがつくかもしれない、そうは思った。
けれども、ちょっとの間だけ、少しだけ酒を煽りたい。
カラン。
音と共に、声がする。
???「すみません、もう閉店…アラ…」
山崎「ちょっとだけ付き合えよバイス…」
そう言って笑った俺の顔に意味深な笑みを返して。
これが罠でも構わない、ふいにそう思った。
とにかく俺を誤魔化してくれ、お前のその接待用の笑顔で、さ。
バイス「珍しいじゃないか、最近顔出さなかったでしょ?ダブルでいい?」
山崎「いや、ストレートでいい、悪いな」
バイス「ジンでイイかな」
山崎「もっと焼けるようなやつを…そうだな、
ウオッカで声が出なくなるくらいのヤツにしてくれ」
そう言った俺の前に無言で差し出されたのは恐らくスピリタス。
90度を誇る、酒と言いがたいアルコール。これは茶化されてるのか。
バイスの顔を見て、その笑顔に溜め息をついて、グラスに手をかける。
バイス「たまには死ぬほど酔って行きなよ」
そう言って笑ったバイスの後ろに空になったスピリタスの瓶を見つける。
店内を見まわすと、暗がりの中に人がいるようだった。
邪魔、しちまったか。
山崎「邪魔したか…用があるなら言えばいい物を…」
バイス「別に、対した用じゃないさ。言っとくけどね、アタシの男じゃないよ」
ふん、と鼻を鳴らして男を見る。
暗がりでよくはわからないが、相当な大男だ、体つきもたくましい。
だが、別にどうってことはない。
争うツモリもないし、そもそも俺は骨抜きみたいになってるしな。
そうか、喧嘩になって殴られて、
意識がとんじまえばそれも楽かもしれんな…と。そうは思う。
バイスはその男のコトを、ヴィクトルと呼んだ
ああ、アメリカ人か。だったら図体がデカイのも理解出来る。
昔行ったニューヨークを思い出して。
其処から俺の人生が始まったようなもんさ、
其処でアレにめぐり合わなければ
恐らく俺はサツの御用になんかならなかっただろう。
別に後悔しているわけじゃない。
それ意外の人生が歩みたかったなんて酔狂な事など言う物か。
自分の人生を恥じることが人間の一番の恥だ。
俺は、そう確信している。
男が立ち上がった。
バイスがその男を呼んで俺に紹介しようとする。
なにか、企んでいやがるな。
面倒なことはもう御免…
イヤ、使われると言うコトはココに居場所が出来ると言うことでもある。
甘んじて、みようか。
バイス「山崎、こちらヴィクトル…アメリカ人だ。アンタを探してたらしい
連絡しようとして携帯にかけてみても
出ないから困っていたところだったんだぞ」
バイスの低い声がそう言う。
くだらねぇ、俺を探すヤツなんているものか。
暗がりの中に目を凝らすと、カチリと小さな音と共に、店内が照らし出された。
強い照明が俺を照らす。
あまり、俺の隠れ家を暴くようなことをして欲しくない。
暗いままで、よかったのに。
目線が捕らえた先にいた男。
不精ヒゲとはもう既に言いがたい白く頬から顎を覆う髭と
スーツの上からも見て取れる固い筋肉の鎧。
俺を見る対の目が酷く鋭く光る。
唇が、楽しそうに歪んでいた。
???「ヤマザキ。探したぜ」
まさか、こいつがココにいるなんて…!
喧嘩仲間でも久しぶりに会えば懐かしさに喜びが発生するもんだ。
それだから、俺が笑ってしまったのは、当然のこと、だろ?
■
■■
その暗がりに照らし出されたその男。
山崎:「……久しぶりだな…っと…どの名前で呼んだらイイ?」
??:「クリードで頼むぜ、今回は個人で来てるからな」
そう、クリードと言う男。
本当はもっといくつかの名前もってるやばいヤツ。
ニューヨークでなんたらとか言う、あの俺の過去に一番関わってた野郎がコイツ。
その時はコードネームみたいな言いにくい名前で呼ばされてたっけなぁ。
あまり呼びずらかったんで、俺は「オイ」とか「オマエ」とか
名前のついてない猫を呼ぶのと同じ感じで呼んでた。
だから、実の所言うと、その時の名前はよくおぼえてない。
…たしか、プ…プリー…あ?舌噛みそうだ、やめとこ。
本名は恐らくビクター・クリード。
仕事上ではセイバートゥースだのさっきのプリーなんとかだの、色々。
山崎:「バイス、テメェも意地がワリイな、さっさと紹介すりゃ良いものをよぉ」
バイス:「オマエの驚く顔ってのが一度見てみたくてな」
山崎:「俺はいつもそんなに表情ねぇか?」
バイス:「さぁな、笑い顔と怒り顔だけは良く見るよ」
クリード:「本人はいろんな顔してるつもりなんじゃねぇのか?」
…その通り。
んじゃ、俺はどんな表情してても笑ってるか怒ってるかどっちかにしか見えねぇってことかよ。
…あー、そうかも…って、自分で納得してどうする。
そう言っているセイバー、いや、なんだ、クリードだって
いつも怒ってるようにしか見えねぇ性質なんだけどな。
笑ってたってどっかこう、威嚇してるような顔でよ。
コエーのなんの。
山崎:「んで、なんだ?俺に会いたいってことは、なんかあったな?」
クリード:「おう、あの仕事での仲間覚えてるか。俺と、オマエと、あと4人居たんだが」
山崎:「つるむンはガラじゃなかったんだがな。まあ総勢六名居たわな…あー…」
実のトコロ、やたらと目立ったこのクリードくらいしか、明確に覚えてねェ。
あとは、えーと、メガネかけてたヤツがいたかな、とか、
神経質そうなヤツがいたかな、とか。
あ、メガネかけてたヤツと神経質そうなヤツは同じかも…
クリード:「その様子だと覚えてねェな?」
山崎:「ねぇなァ」
クリード:「はっきり言うな」
山崎:「メガネと…日系と、神経質と、ああ、あと、オヤジ」
クリード:「オヤジ?」
山崎:「オマエのこった」
ゴン。
今のは、俺の後頭部に炸裂した音な。
クリード:「阿呆かテメェは。メガネと神経質と日系は同一人物だ」
…今のツッコミはそっちだったのか。
山崎:「で、なによ?」
クリード:「死んだ。いや、殺された、だな。」
山崎:「ハァ?!」
バイスが、俺達のほうをちらりと見て…
クリードに軽く会釈をする。
バイス:「ああ、すまない、ちょっと煙草を買いに行って来たいんだが、店を任せてもいいかな?」
クリード:「ああ」
様子に気づいたのだろう。
まぁ、殺されただなんて言葉、そうそう簡単に真実として目の当たりにすることは出来ない。
バイスが出ていった扉の音が聞こえ、
店内には俺達二人だけ。
クリードが、おもむろにスーツのポケットに手を突っ込んだ。
つい、身構えるが、クリードは苦笑いしながら、幾枚かの紙切れのようなものを取り出しただけだった。
目の前に差し出されたそれを覗きこむ…
山崎:「!」
その紙切れは写真で。
その写真には男が写っており。
全部で3枚ある写真に写っている男は全て別人。
そして、どこかで見た顔。
そして。
そして、全員、血にまみれて床に転がっていた。
山崎:「…こいつ等は…」
クリード:「思い出したか?俺達以外の4人のうち、3人が殺されてる」
山崎:「あの時のメンバー狙った殺人ってことか?」
クリード:「その可能性がある、と言うことだがな。幸いなのか俺達はまだ生きている」
山崎:「あと。日系な」
クリード:「そうだ、メガネが生きている。」
ちょっと妙な会話ではあるが、本人達は大真面目。
写真の1枚をフイ、と取り上げて。
裏側をめくってみる。
クリード:「気にするな」
山崎:「ンだよ、気になるに決まってんだろ。このプリントの系式、普通の写真じゃねェよな?」
クリード:「自分で暗室使って焼いた…」
山崎:「へー?信用するとでも?」
クリード:「…チ、警察内部から持ち出したものだ。ちょっと使える若造がいてな」
山崎:「ふん、そんなことだろうと思ったぜ。で、どうすんだよ。」
クリード:「メガネを探すしかないだろう」
山崎:「名前覚えてるか?」
クリード:「苗字だけなら…御堂、とか言った」
ふーん、とそれだけ言って。
もう一度、写真を1枚1枚見なおす。
山崎:「死因は?」
クリード:「出血多量、もしくは大量出血によるショック死、だとよ」
山崎:「うげー、へー残虐非道は俺の専売特許なんに、勝手に持ってかれちゃ困ンな…」
クリード:「特許なら申請しとくべきだったな山崎」
山崎:「っせ。ふーん?…頚動脈に一発、か、かなり慣れた仕事ぶりじゃねぇか。」
クリード:「使用された銃は判明していない…おそらく経歴のない銃なんだろうな」
そう言えば、ユキのもっていた銃、珍しいカタチしてたな。
殺し屋だっけな。
…まさかな。
女に出来る仕事じゃねェ。
考え事をしている俺の目の前…天井見てたから、顔に落ちてきたかと思った…に、写真がもう1枚差し出される。それをつまんで受けとって見る。
クリード:「それが御堂。」
山崎:「こいつなら覚えてる、何言ってもちいせぇ声でしか喋らねぇの」
クリード:「そいつを探すのを手伝って欲しい、
自分の身の問題だ、手伝わない筈が無いよな?」
山崎:「ったりめーだろ」
そうして。
勿体つけてもう1枚の写真。
そこには、歩道橋の背景に写る繁華街らしきネオンの渦と、数人の遊び人。
普通動物は、孔雀やクチワシの様に、着飾ンのはオスが相場だが…人間はメスが着飾る習性がある。
オスが求愛するのが当然の生態系で、あえてメスが求愛、誘惑を計るのが人間。
その妙な輩が、そう、メスどもが着飾って写っている。
山崎:「……」
クリード:「どうした?」
山崎:「コレは、なんの写真だ」
クリード:「御堂の娘、そこから御堂の足取りが追えるかと思ってな」
山崎:「娘ってのは、コレか?」
クリード:「…そう、その真ん中の…」
山崎:「本気か?!冗談じゃねぇだろうな?!マジかよ、ウソだったら殺すぞ!」
俺の剣幕に、クリードが身体を引いた。
そして、うなずく。
真ん中に写っていたのは、さっきまで、
さっきまで、俺を茶化して笑っていた
………ユキの姿だった。
■
■■
うかない気分で台所に入り、ただの水を呷る。
俺はこれからどうしたいんだろう。
そうふと考えて、行かなきゃいけない場所があったのを
やっと思い出した。
ビリー「そうだ、バイス…」
時計を見ると約束の時間をとうにすぎている。
待たせてもイイ相手とはいえ、いくらなんでも待たせすぎだ。
舌打ちをして、とにかく遅れたのも山崎のせいにするとして、身を翻した。
そして、目を疑う。
居間の扉が開いていた。
山崎はバタンとデカイ音をさせて出ていったはずだ。
入って来たのは…誰だ?ユキちゃんだったら俺に声をかけてもいいはずだ。
―――――誰だ?
身体を構えて、居間の中を見渡す。
???「アンタ誰だ」
ビリー「!?」
???「誰だって聞いてんだ。答えな。」
ソファの後ろから声がする。
聞き覚えのある声…
ビリー「?ユ、ユキちゃん?一体なにを…」
???「アンタユキに会ったのか?」
そう言って顔を出したのはユキちゃん…いや、ユキちゃんそっくりの女の子。
混乱する。
その手に構えられているのは小型の銃―――――。
震えもせずにそれを構える姿は、どう見ても先ほどの彼女からは想像出来ない。
ビリー「……お、俺は…ビリー…あんたは…ユキちゃんじゃァないのか」
???「ココはどこなんだ?」
ビリー「俺の家だ。一体君は…。」
???「アキラって呼んでおきな。呼び名があれば名前なんてどうでもイイだろ」
ビリー「アキラ?」
アキラと言ったその女の子は本当にユキちゃんとそっくりだった。
だが、完全に眼の雰囲気がユキちゃんのソレとは違う。
どことなく…
え?
ビリー「アンタ…アキラ?本当か?」
アキラ「うぜぇな。なんなんだよテメェ」
ビリー「なんで…」
なんで俺がユキちゃんに貸した服を着てるんだよ。
なんで…?
ちょっと待て俺。どうしたんだ俺。
なんだかわからないがコノ子はユキちゃんだろう?
本人は否定してる。しかもおっかない顔で。
ビリー「…あー…と…」
アキラ「男のクセにはっきりしねぇヤツだな。ユキってのに会ったんだろ?」
ビリー「ああ。会ったと言うか…」
アキラ「会ったんじゃねぇのかよ」
ビリー「あ、会いました」
アキラ「ユキの知り合いか?」
ビリー「ん、まぁ…と言うか、かくまっていると言うか。」
アキラ「はぁ?んじゃ味方じゃん?バァカ、はじめからそう言えっちゅーの!」
ユキ…じゃない、アキラちゃんはそう言うと、
やっと俺に向けていた銃を下ろした。
どうやら俺がユキちゃんの味方だと言うことで、安心したらしい。
そっと動く。
ユキちゃんに貸した部屋が気になる。
アキラ「おい」
ビリー「な、なに?」
アキラ「山崎って男知らねぇか?ユキの知り合いならその話聞いてんだろ」
ビリー「ヤマザキ?」
ユキちゃんもアキラちゃんも揃いも揃って山崎かよ。
アキラの下げた銃の引き金に指がかかったままなのに気づく。
この子はプロか?
味方でも信用しないってのか。
なんなんだ、俺の頭は混乱しっぱなしだぞ?
ユキちゃんが、なにか寝惚けているのか?
いや待て俺。こんな寝惚け方って聞いたコトがないぞ。
いやいやいや、実は俺が知らないだけでこう言うことがあるのかも?
いやいやいやいやいやいや、ネェだろ…
こんがらがりつつも、ふと時計見ると、――――いい加減な時間だ。
ビリー「ああっ!!!」
アキラ「なんだテメェ!」
ビリー「時間!ヤベェもう俺行くから、とにかく今日は寝てて!」
アキラ「はぁ?」
ビリー「ちょっと人待たせてんだ、だから寝てて」
アキラ「何でアタシが寝るんだよ」
ビリー「ん?あ、そうか、君はユキちゃんじゃないんだっけ」
アキラ「どこ行くんだ」
ビリー「いや、人に会いに…」
アキラ「アタシの質問に答えてから行きなよ」
アキラちゃんが俺を見た。
ユキちゃんの顔で。ユキちゃんの身体で、ユキちゃんの服を着て…怖い顔をして。
とにかく混乱している俺はとにかくココから離れたい。
ユキちゃんの部屋も見たい。
ユキちゃんがあそこに寝ていればオッケーなんだ。
寝てなかったら…
ビリー「山崎は、出ていったよ」
アキラ「なに!?」
ビリー「え、なに?」
アキラ「いたのか!?ココに!?」
ビリー「だってさっき君と一緒…いや、ユキちゃんと一緒にココに来て…」
アキラ「なんだってぇぇ!?ゲロ最悪、マ?!その話!?山崎逃がしたのか!」
ビリー「逃がした?」
アキラ「山崎どこ行った!?教えろ!教えないと殺す!」
もうなにがなんだか。
俺に銃口を向けて今にも引き金を引かんとするアキラちゃん。
ちょっと待ってどういうことよ、逃がしちゃいけなかった?
ビリー「ど、どこ行ったかは知らないよ、多分もう戻ってこない」
アキラ「信じられねー!最悪!やっと見つけたんに!
近くにいるな?まだ近くにいるよな?オイ!」
ビリー「いや、車で出ていったから…わかんない…」
アキラ「アアーッ!もう飛びてぇェ!」
俺には理解できない日本語を連発するアキラちゃんは、
散々俺に文句を言ったあとにこう言った。
アキラ「どこか行くんなら連れてけよな」
しぶしぶ承知して家を出る玄関先で
ちらりと見た奥の部屋には…
ユキちゃんの部屋には…
誰も――――いないようだった。
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続き書いてます