メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】   作:宇宮 祐樹

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トレーナーが普通にクソ野郎なので苦手な人はブラウザバックでオナシャス
あとよく考えたらタイトルがマジで終わってるので怒られたらいい感じのに変えときます


01

 

 ()()()だな、と思った。

 

「……メジロアルダン?」

 

 思えば、その名前を口にしたのがそもそもの間違いだった。

 禁煙のために通院していた病院の廊下に落ちてた、学生証。拾い上げたそれに乗っていた写真の()が、すぐ近くの病室に入っていったから、その後を追いかけて。病室のドアをノックすると、声が返ってきたんだよ。

 

「どうぞ」

 

 綺麗な声だった。よく、鈴を転がすような声、なんて表現があるけど、あいつの声はホントにそんな感じでさ。気品を感じるっていうか、なんつーか……ここだけの話だけど、俺、あいつの声は好きなんだよ。本人の前で言ったことないし、言ったら言ったでまた揶揄われるから、言うつもりも全くないけど。

 それから、病室に入って……はじめに向けられたのは、こっちを警戒するような視線だった。まあ、仕方のないことではあった。ほら、俺ってこんな見た目だからさ。金髪だし髪長ぇし……ピアスの穴も開いてるし。たぶんあのお嬢様からしたら、俺みたいなのは一生縁がないような人間だったんだよ。

 それで、聞かれたんだけど。

 

「……どちら様ですか?」

 

 なんて、警戒心丸出しの声で。

 でも、こっちも怖がられるのには慣れてるからさ。すぐに答えたわけ。

 

「ああいや、俺、トレーナー。ほら、コレ」

 

 ポケットにしまっておいたバッジ見せながら、そんな感じで。

 でも、やっぱり納得してくれなかった。まあ……さっきも言ったけど、俺、見た目が見た目だからさ。ホントにこんなチャラいヤツがトレーナー? みたいな感じで、俺のことジロジロ見てくんの。いや、仕方のないことではあるんだけど。

 

「学園のトレーナーさんが、ここにどのような用事でいらっしゃったんですか?」

 

 そしたらあいつ、俺のこと睨んだままそんなこと聞いてきて。

 ……今思えば、第一印象最悪だよな。こう思うと、ホントなんで俺があいつの担当になったのかマジで意味不明……ああ、いや、今はいっか。

 それで……何だ。その、納得してくれるのはもう諦めたから、もう話だけさっさと済ませちゃおうって、学生証を渡したのよ。

 

「これ、落としてたから、渡しに来ただけだよ」

「あら……」

 

 そしたらあいつ、少し驚いたように目を丸くしてから、すぐに礼を言ってきた。

 

「ありがとうございます。わざわざ届けに来てくださって」

「いやいや、いーのよ。すぐ近くだったしさ」

 

 もう警戒はされてなかった。……いやまあ、チョロい娘だなとは思った。でも、育ちのいい娘って基本みんなそうじゃん? 疑うことを知らないってか。それにほら、トレセン(ウチ)にもそういう娘っていっぱいいるし、珍しいとは思わなかった。

 まあ、そんな感じでちょっと余裕もできたみたいだからさ。すぐに帰るのもやめて、ちょっと世間話でもしようとしたわけ。まあ、学園で会ったらよろしく的な? そんな感じの。

 

「えーっと……メジロアルダンちゃん、だったっけ? もうデビューはしてんの?」

「いえ、まだです」

「あ、そーなの? ってことは、担当トレーナーもまだいない感じなんだ?」

「……そう、ですね。探してはいるんですが、まだ恵まれていなくて」

 

 今思えば、とんでもなく下心丸出しの会話だったよ。

 いや、でもさあ! しょーがないじゃん! だって、あのメジロ家のウマ娘なんだぜ? そりゃ顔でも覚えてもらおう、って思うでしょ。ここだけの話だけど、トレーナー業って成果主義だからさ。そりゃ俺らの指導も大事だけど……その娘が元々持ってる素質とかも当然、めちゃくちゃ大事なわけで。

 そういう点からすると、ここでこの娘と知り合いになっとくのが一番いいっって思っちゃったんだよな。正直なコト言うと、ここの時点ではアタリだと思ってた。キター! って。内心ウッキウキだったんだよね。

 

「あ、そうなの? それなら、お試しで俺と契約してみる?」

 

 ……だから俺、あんなこと言っちゃったんだよな、多分。

 ちょうどその頃の俺、サブトレの研修もひと段落したから自分の担当を見つけないとって感じの時期だったからさ。ちょっとだけ急いでた、ってこともあると思う。それで、まあ……舞い上がってたのと、焦ってたってこともあって。

 

「……お試し?」

「そうそう。一回契約してみて、そっから考えるのもアリだと思うんだよね。相性よかったらそのままでいいし、合わなくても俺がトレーナーの紹介とかもしたげるからさ。どうよ?」

 

 めちゃくちゃガンガンいってたね。合コンとかで居たら引くレベルだった。

 こうやって思い返してみても、結構ヤバめなトレーナーだったと思うよ、俺。マトモな娘だったら丁重にお断りされてた。だって、そりゃそうでしょ。こんな軽いノリで契約の話してくる奴、信用できるわけないじゃん。

 でもさー、ほら。

 あいつ、マトモじゃないから。

 

「少しだけ考えさせてください」

 

 そうやって答えられて、内心ガッツポーズだったね。

 俺の経験上、こういうタイプの娘って押せ押せで行けば、なんだかんだ流れでヤれ……いけるからさ。とにかく勢いで押し切ろうって頭の中で舵切っちゃって。

 

「え、ホントに!? ウソじゃないよね!? 後でやっぱナシとかやめてよ? じゃ、これ連絡先ね。なんかあったら電話でもメッセでもいいから、いつでも連絡してね!」

「あ……ありがとうございます」

「それじゃ、お先に! 何の病気かは聞かないけど、お大事にね~!」

 

 結局その日は、それで終わったなあ。

 あの時の俺からすれば、担当候補をゲット! しかもメジロ家のお墨付き! って感じでもう最高だったんだよね。いや、ついに俺にもツキが回ってきたか~、日頃の行いが出たなこれ、って。もう大満足で帰ったのよ。

 そんでその日に連絡は来なかったけど、まあそれは流石にね。明日明後日にでも来れば万々歳、遅くてもあの様子なら一週間以内には来るっしょ、って思った。いや、断られるとかマジで一切考えてなかったね。

 そんで、翌日。朝イチに連絡がきたわけよ。

 

『お疲れ様です、駿川です』

 

 ……理事長秘書のたづなさんから。

 え、何かやらかしたかな? って最初は思った。あの人から連絡来るときって大体、事務連絡かお叱りのどっちかだったからさ。うわどーしよこれ、って焦ったねマジで。でも俺、最近は真面目に仕事してるし、叱られるにしても心当たりなかったのよ。

 だから、どーしたんだろって思ってるうちに、たづなさんが教えてくれたの。

 

『先日、メジロアルダンさんとお話しされましたよね?』

 

 あ、来たわこれって。

 そりゃそーだわ。契約の連絡するなら、たづなさん介してだよねって。

 いやー、ビビったよマジで。怒られるかとヒヤヒヤしてたからさ。

 

「あのメジロの娘っすよね? はい、病院で偶然会って、少し」

『……契約について話された、とのことですが』

「あー、はい。しましたよ。まあ、もしよかったら程度のつもりっしたけど」

『あら、そうだったんですね……』

 

 今考えれば当然だったんだけど、その時のたづなさん、なんか妙に歯切れが悪くて。

 でも当時の俺はマジで浮かれてたから、全然気が付かなかったの。もうマジでアホだよね。このたづなさんからの電話も、内心キター! って感じでウキウキで聞いてたんだもん。断られる可能性とかなんも考えてなかった。

 

『でしたら、直接お話しされる方が早いかもしれませんね』

「え? 何がですか? ってか誰とですか?」

 

 質問はしたけど、その答えは大体予想ついてた。

 たぶんこのままアルダン本人とお話しして、そのまま契約完了! って流れだと完っ全に思ってた。やっぱこの世の中、勢いって大事だなー、とかあっさい人生論まで考えてた。その勢いのせいで地獄を見ることになるなんて、この時の俺は一切思ってなかったもん。

 それから、たづなさんの答えが返ってきたの。

 

『本日、お時間ありますか?』

「あ、はい。ありますよ。めちゃくちゃ暇です!」

『でしたら午後の一時に、メジロ家の方に向かっていただきたいのですが……』

「メジロ家? あー、あのでっかいお屋敷っスね? 了解です!」

『そうですか? それでは、よろしくお願いしますね』

「はい! たづなさんも、お疲れ様で……」

 

 ………………。

 

「……ん? いや、あれ? ちょっと待ってください、今日って平日っすよね?」

『はい、平日ですよ?』

「アルダンちゃん、学校にいるのになんでお屋敷でお話しするんですか?」

『どうしてアルダンさんとお話しするおつもりなんですか?』

「は?」

『え?』

 

 ぽかーん、ってしたままの俺に、電話の向こうのたづなさんが、こう言ってきたの。

 

『あなたがお話しするのは、メジロ家の当主ですよ』

 

 ……いやあ。

 なんつーかさ、アレだよね。

 目先の利益に釣られて、勢いだけで動くのってホントやめといた方がいいよ、マジで。

 俺みたいになっから。

 

 

 それでその日の午後、メジロ家の屋敷に向かうことにしたわけ。

 そん時の俺、マジで死んだ目してたと思う。だって確実に怒られると思ってたもん。これ、アレでしょ? いいとこのお嬢様に軽率に手ぇ出したら、コンクリ詰めにされて海に沈められるヤツ。流石にそこまではされないと思うけど……トレーナーの資格はく奪までは全然覚悟してたね。

 とりあえず駅まで向かうために学園出たら、なんか車が待機してて。もしかして、と思ったらやっぱり、その中からいかにもお仕えの雰囲気したおばあちゃんが出てきてさ。

 

「アルダン様のトレーナーに立候補されたお方ですね?」

 

 とか聞かれたの。

 

「あー……はい、まあ、そんな感じで」

「では、お乗りください」

 

 なんて言われてドア開けられたから、もう乗るしかなくてさ。

 そっから着くまでもう無言だよね。おばあちゃんも何も話さないし、俺からも何の話すればいいか分かんないし。とりあえず車内にいる間は転職サイトで次の仕事探してたよ。友人にもメッセ飛ばしたわ。仕事なくなるかもしれん、って。ウケるって返ってきた。酷くね? こっちは本気だってのによ!

 それで、だいたい四十分くらいかな。メジロ家の屋敷に到着して、門のデカさとか敷地の広さに驚く間もなく、屋敷の中に通されてさ。なっがい廊下をしばらく歩かされたあと、おばあちゃんが止まったのがでっかい扉の前で。

 

「この先で、大奥様がお待ちです」

 

 いや紹介の仕方ラスボスかよ、って。

 でもまあ、ここまで来たら腹括るしかないし、まあ入るしかなかったのよ。

 

「失礼しまーす……」

 

 中は書斎っぽかった。本棚がたくさん並んでて、それと同じくらいトロフィーとか楯とかが飾られててさ。なんか、自分で言うのも何だけど……ラスボスってのも強ち間違いじゃなかったかも。ここがそういう部屋だっていうのも、まあそうなんだけどさ。

 それに何より、そこに座っていたお婆さま? のオーラがそりゃもう、エグかったから。

 

「本日はお忙しいところ、よく来てくださいました」

「ああ、いや別に……大丈夫っす」

 

 礼儀正しいのが逆にめちゃくちゃ怖かった。その……経験上の話だけど、こういう時の礼儀正しさって、これからお前のことシメますよ、の助走なことが多いからさ。あーコレ終わったってなったよね。

 とにかく謝んないとな、って思ってたんだけど、それよりも先にお婆さまの方が話を始めちゃってさ。

 

「お互い時間も限られているでしょうし、手短にいきましょうか」

 

 助走、短くない?

 

「あなたが、アルダンのトレーナーに立候補した方ですね?」

 

 ……そう、これ。

 思ってたんだよな。送迎される前、おばあちゃんから聞かれた時に。

 まず、そんな前向きな話はしてなかったのよ、俺。そりゃ、内心はそうだったけど、結局は向こうが決めることだからさ。立候補、みたいな言葉は少なくとも違うな、って思ったの。

 それなのに、お前ウチの娘に手ェ出したな? みたいな雰囲気になってるから、どうもおかしいと思ってさ。誤解を解くならここしかない、って考えたワケ。てか、謝るチャンスは後にも先にもここしかない気がして。

 だから、ハッキリ言ってやったんだよ。

 

「はい、そうです」

 

 ……いや。

 まあ、その。

 ホント違うんだって!

 そりゃ、本心は断りたいよ? 「立候補とかしたつもりないです」って言いたかったよ。でもさあ、せっかくお招きいただいたのに、はじめっからそんなこと言うのもなんか……アレじゃん?

 

「そうですか」

 

 たぶん、"今"じゃない。もっとなんか、アレ? なんかお互い誤解してない? って気づいてから話すのが正解だと思ったのよ。

 だからこう、ちゃんとお話をして、その上で丁重にお断りするのが……

 

「どうしてアルダンを選んだのですか?」

 

 ほら来た! お話チャンス!

 いや、でもこれ……キツいな。なんか、下振れ引いた感じがする。

 そもそも俺、あの娘と知り合ったのなんてマジで成り行きだし。

 でも、それっぽい理由をつけないと多分この場で東京湾だしなあ。

 ……あれ? これ、詰んでない? もしかしてどう答えても怒られる?

 し、強いて言うなら……

 

「……声です」

 

 うーっわ、キッショ! マジでやらかしてるわこれ!

 あーあ、もう終わりでーす。なんで当主の前でお宅の娘さんの声めっちゃいいですね! とか言っちゃったんだろうね、マジで。オタクかよ。でもそれ以外理由ないもん、しょーがないじゃん! 理由とかねえって! ナンパと同じ! ヤれそうだったから声かけただけ!

 

「声……」

 

 ほらもう、ドン引きしてるじゃんお婆さま。

 もうどうでもいいや。どうせ東京湾コースなんだし。

 こっから先は適当に答えて……。

 

「あの子が心の内に秘めた声を、聴いたのですか?」

 

 え?

 

「そうっすね」

 

 何のことかはマジで知らんけど、ここは頷いておくのが良い気がする。

 いや……これ、まだ"ある"な。

 確変来てるかも。

 

「……あの子が本音を打ち明けることなんて、ないと思ってました」

「そうなんですね」

「ですが、あなたがその声を聞いたということは……きっと、そういうことなのでしょう」

 

 わからん。

 そういうことって、何? ハッキリ言ってくれないとこっちも分かんないんだけど。

 でも……まあ、なんかいい雰囲気にはなってる気がする。

 これなら、東京湾コースは何とか回避して……

 

「あの子の身体が弱いということは、もうご存知のはずです」

 

 ………………。

 何それ。

 身体が弱いって……あ、病院ってもしかして、それ?

 いや、知らなかったけど……え? ホントに言ってるの?

 

「あの子の脚は、レースに耐えうる脚ではない。常に、怪我や故障と隣り合わせになるでしょう」

 

 は……え?

 レースに耐えうる脚じゃないって、それ……マトモに走れないってこと?

 いやでも、メジロ家の素質……え? レース走れないの?

 それじゃあ……どうすんの? 担当しても、勝てるかどうか分かんなくない?

 な……何だよ、それ。

 

「それでも、あの子を担当するおつもりなのですか?」

 

 いや、そんな話を今されても困るって、普通に。

 こっちはメジロ家のウマ娘を目当てに来てるんだから。

 レースで勝てないどころか、そもそもマトモに走れないって……話にならねーじゃん。

 詐欺だろ、これ。普通に騙されてるよ、俺。

 ……いやもう、いいわ。東京湾でもどこでも沈めてくれて、いい。

 そんな()()()のウマ娘を担当するくらいなら、俺は……。

 

「承知の上です」

 

 …………あれ?

 俺、今なんつった?

 

「……いい面構えですね。期待できそうです」

 

 え、なんか俺、今……了承しなかった?

 いや、そんなつもりもう、一切ないんだけど。

 

「あの子はもう、次に出る選抜レースを決めているようです」

「次?」

「ええ。これが最後のチャンスだから、と」

 

 ああ、なんかもう……引き返せないところまで、来てるっぽい。

 

「それまで、あの子の仮トレーナーとして契約してください」

「……仮、っすか?」

「ええ。そして、その選抜レースであの子を一着にすることができたら……あなたを、メジロアルダンの正式なトレーナーとして認めましょう」

 

 え?

 

「話は以上です」

 

 そんな感じで、一方的に話は終わり。

 俺もよく分かってないまま部屋を追い出されてさ。来るときに案内をしてくれたおばあちゃんも、いなくなってるし。いや、流石に玄関までの道のりは分かるけど。

 ……それにしたって、さあ。

 

「とんでもねえハズレ引いたな、これ……」

 

 みたいに、階段の踊り場で愚痴ってたのよ。

 だって、レースをマトモに走れないとか、終わってるだろ。

 メジロ家の名前に釣られたのが間違いだった。素質どうこうの話じゃねーよ、これ。

 半ば詐欺みたいなモンだよ。それ知ってたら声なんてかけてねーよ。

 結局、今でも振り回されてるのは変わんねーんだろうけどさ。

 ……そんで、まあ一人で愚痴ってたんだけど。

 そしたら。

 

「あら」

「……あれ? アルダンちゃん?」

「昨日ぶりですね、トレーナーさん」

 

 メジロアルダン本人が、急に現れてさ。

 

「え、ちょ……どーしたの? 学校は? まだ授業あるっしょ?」

「それが、体調を崩してしまって……早退しました。それで、こちらで主治医の方に体調を診てもらうことになって」

「あ、そーなの。そりゃ……お大事にね」

 

 あ、だからおばあちゃんもいなかったんだ。なるほどなるほど。

 ……いや、それよりもさ。

 まさか今の愚痴、聞いてないよね?

 なんて内心ビクビクしてたのよ。

 

「どうかなさいました? 何か、考え事をされているようなお顔ですが」

「いや……別に、なんでもない、けど」

「……もしかして、お婆さまに何か言われましたか?」

「あー、まあ……うん。ちょっとね。多分、アルダンちゃんにも色々と話が行くと思うから……俺よか、あのお婆さまから聞いた方がいいっしょ。てか、その方が絶対いい」

「そうなんですか? 私は別に、あなたの口からでも構いませんが……」

「いや、うん……俺は、ちょっと。今日はこのまま帰らないと、仕事が残っててさ」

 

 ごめんねー、なんて立ち上がったけど、その時の俺、めっちゃフラついてたと思う。だってとにかく、この屋敷から出たかった……いや、違う。この子の顔を見たくなかった。それくらいショックだったんだよ。

 

「それじゃ、またね……」

「はい。また、学園で」

 

 そんな挨拶を交わして……それからあとのことは、あんまり覚えてない。気づいたら夜になってて、俺は家に帰ってて……禁煙中なのに、煙草吸ってた。また先生に怒られるな、とか思ったところで、ようやく現実に戻ってきた感じ。あー、俺とんでもないことに首突っ込んじゃったな、って。

 でも、お婆さまの話を聞いた感じ「やっぱナシで!」とは言いづらいし……っていうか、それやったら俺の今後の人生が終わる可能性もあるし。

 ……ほんと、どうしてこんなことに。

 

「あのハズレウマ娘が……」

 

 昇っていく煙と共にそんな愚痴を垂れ流して、その日は終わり。

 ……これで禁煙は三回目の失敗。

 でも、そん時の煙草はいつもよりも遥かに美味かったよ。

 

 

 

「ただいま戻りました、お婆さま」

「あら、おかえりなさい、アルダン」

「……あの方とのお話は、もう終わったのですか?」

「ええ。次の選抜レースで勝てば、あなたの担当になってもらう、と」

「それは……納得なさったのですか?」

「してないでしょうね。だって、レースの内容も聴かないまま出て行ってしまったもの」

「そんな……」

「ですが、あなたの力になると思いますよ。あれは、そういう類の人間です」

「……さっき」

「はい」

「さっき、あのお方が独り言を呟いていました」

「それは、どんな?」

「私のことを、()()()だと」

「いい度胸をしていますね」

「はじめて言われてしまいました、あんなこと」

「……失望しましたか?」

「いいえ。むしろ、気に入りました」

「その意気です、アルダン。あなたがメジロ家のウマ娘であることを分からせてあげなさい」

「はい、お婆さま」

「……そういえばあの方が、言っていましたよ」

「何をですか?」

「あなたの声が、気に入ったと」

「まあ! それは……いいことを聞きました」

「これからが楽しみですね」

「ええ!」

 

 




Q.続きますか?
A.メジロアルダンが引けたら続きます
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