メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】   作:宇宮 祐樹

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 そんなこともあって、夏合宿の日になったんだけど。

 

(菊花賞……三〇〇〇メートル、なあ)

 

 合宿場まで移動してる間、バスの中でずーっと考え事してたの。

 

(……そもそも、アルダン(あいつ)にとって芝三〇〇〇メートルなんて未知の領域だ。デビュー前の資料を見た感じ、過去に何度か長距離は走ったことがあるみたいだけど……全部、三〇〇〇メートル以下の距離か。まあ、あいつの体質のことも考えると仕方ないだろうけど……やっぱり、一つ二つはデータが欲しかったってのが本音だな)

 

 まあ、こればっかりは今更どうしようもない話なんだけどさ。

 あいつ、三〇〇〇メートル以上の距離、走ったことなかったのね。

 ……そう。普通は走るんだよ。自分の適性見極めるために、お試しって感じで。でも、あいつはそのお試しすらできなかったの。体が弱かった、ってこともあるんだろうけど……一番は周りのヤツが良くない顔したからだろうな。

 だからあいつは、夏合宿の間までに長距離に向けた調整をしないといけないんだけど。

 

(別に、時間が足りてないワケじゃない。今まで中距離メインで走ってたけど、夏合宿でスタミナつけて長距離レースに勝てるようになりました、みたいなヤツはいくらでもいる。悲観的になるような話じゃない。充分、現実的なラインだ。ローテを組んだ時点でそれは分かってる。問題は……あいつの脚が、まだ完治してないことか)

 

 確かその時点で、リハビリはほとんど済んでたのかな。日常生活も無理なく過ごせるようにはなってた。

 ただ……トレーニングはやっぱり難しくてさ。いや、しちゃいけないってワケじゃなかったんだよ。負荷を減らしながらだったら、全然やってもよかった。だけど……再発の可能性とか考えると、どうしてもビビっちゃって。

 

(……たぶん、出走を回避するのが普通なんだろうな。それこそ、後輩(アイツ)や先生なら絶対にそうする。生徒に無理はさせられないし……何より、このままじゃ勝ちの目が薄い。だからこの夏は治療に専念して、どんだけ早くても冬にレースへ復帰する、ってのがあいつのトレーナーとして取るべき選択なんだろうけど……)

 

 それでも、なあ。

 

「……ここまで来て、諦められるかよ」

 

 やっとの思いでかき集めた、皐月賞とダービーなんだもん。

 最後の王冠も、取りに行くに決まってるでしょ。

 そりゃあ、勝てるかどうかなんて分かんないし、寧ろ負ける可能性の方が高かったよ。でも、さ。それでじゃあ菊花賞は出るのやめときます、なんて……そんなの、出来るわけねーだろ。

 それに、さ。ちょっとだけ、思っちゃったんだよ。

 あいつならやってくれる。三冠ウマ娘になってくれる。

 そうして……見えそうだった何かを、俺に見せてくれるんじゃねえか、ってさ。

 だから。

 

(まず三〇〇〇メートルに慣れるところからだろうな。ペース配分やらスパートのタイミング、何から何まで調整しないと……それに、トレーニングも毎日見直しだろうな。あいつの脚の調子と相談して……できるだけギリギリを責めつつ、最大効率で仕上げていく。それが前提になる……その上で、菊花賞に耐えられるスタミナを……)

 

 なんて考えながら、資料とずーっとにらめっこしてたらさ。

 

「……アルダンさんの、トレーニングメニューですか?」

 

 ヤエノがそうやって声かけてきたの。

 

「あ……? ああ、ヤエノか。……いや、何してんだよお前」

「申し訳ありません。盗み見をするつもりはなかったのですが……」

「いや、それもそうだけどさ。そもそもバス走ってんだからまだ座ってろって。危ねーだろ」

「……到着しています」

「……え?」

「ですから、バスはもう停まっています」

 

 言われてから、慌てて窓の外に目ぇやったんだけどさ。

 見えちゃってんのよ、海が。

 

「うわ、マジ? 全然気づかなかったんだけど」

「残っているのは貴方だけですよ。……随分と、集中されていたようですね」

「あー……悪ぃな、わざわざ声かけてくれて。すぐ降りるわ」

「荷物はお持ちしました」

「……よく分かったな、俺のって」

「私のものと、もう一つしか鞄が残っていなかったので」

「ああ、そう……」

 

 そんな感じのやり取りして、バスから降りてさ。

 合宿場までの道……短い道のりではあるんだけど、ヤエノと二人で歩いて行って。

 ……ああ、そうだ。そういや、なんだかんだヤエノと一対一になるのはそこが初めてだった。

 だからだろうな。めちゃめちゃ気まずくなっちゃって。何とか話題とか引き出そうと思ったんだけど、どーにも出てこないっていうか……そもそも俺、その時点ではヤエノに嫌われてると思ってたし、俺もコイツとはソリが合わないと思ってたからさ。どーしたモンかなってなって。

 うんうん考えてたんだけど結局、レースのこと話すのが一番いいかな、って思ってさ。

 そこで、気づいたんだよ。

 

「……マトモに生き残ったのは、お前だけか」

「菊花賞のことですか?」

 

 ヤエノも自覚ってか……あの三人がいつものメンツ、って認識はあったんだろうな。

 だけど、チヨちゃんは出走回避。アルダンも場合によっちゃ回避せざるを得ない……そうなると、残ってるのはヤエノだけだったからさ。()()()()、ってのはそういう意味で。

 

「残念です。皆さんと一緒に、最後まで走り切りたかったのですが」

「でも、お前からしたらラッキーなんじゃねーの? ライバルが勝手にいなくなったんだから」

「友人の不幸や葛藤を自分の得と思えるほど、腐り切ってはいません。それに……」

「……それに?」

「強敵を倒してこそ、真の勝利と呼べるのではないでしょうか」

 

 まあ、ヤエノらしいっつーか。

 元々あいつ、結構な悪ガキだったらしくて。ヤンチャしてたのを、実家の道場で叩き直されてたみたいなのよ。だから、なのかな。勝負事になると、結構ヤンチャなところが出るっつーか……きっと、それが素なんだろうな。乱暴になる、ってワケじゃないけど……強引ってか、無茶になることがその頃から多くて。

 だから、ちょっとだけ思っちゃったのよ。

 

「頼むから、お前だけでも最後まで走り切ってくれよ」

「……それは、どういった意味で?」

「別に、変な意味はねえって。ただ、一人のトレーナーとして、生徒にはケガとかせず、ちゃんとレースを走り切ってほしい、ってだけ。お前からしたら余計な世話かもしれねーけど……まあ、周りがこんな状況だしな。心配くらいさせてくれよ」

 

 みたいなことを伝えたらさ。

 ヤエノが目ぇ真ん丸にしながら、俺のこと見てきて。

 

「……時々、貴方が分からなくなります」

「何が」

「私の知る限り、あなたはそんな繊細な事を仰る人ではありませんでしたから。もっと粗雑で乱暴で……女性にもすぐに手を出す、軽薄で不誠実な方だとばかり」

「……それさ、誰から聞いたの?」

「トレーナー殿からですが」

「園田、俺のことそんな風に思ってんのかよ……」

 

 ひでー話だよな、ホント。俺だって別に誰でも、ってワケじゃねーの。あ、この子は大丈夫そうだな、ってちゃんと選んでるからね? マジで。それに、イケそうな時とダメな時の見分けくらいついて……。

 え? いや……それはだってさあ。そのー……ま、味見っていうか……つまみ食い、みたいな?

 ……はい。合ってます。あの……ですね。ホントすいませんでした。

 

「とにかくだ。怪我とか病気とかせずに、ちゃんと走り切ってくれよ」

「元よりそのつもりですよ。貴方とアルダンさんを、菊花賞の舞台でお待ちしてます」

「……あっそ」

 

 そんな感じで、合宿場にも着いたから話は終わってさ。

 

「それでは、私はこれで」

「おう」

 

 ヤエノと別れた後に、改めて思ったのよね。

 やっぱり菊花賞、諦めきれねーな、って。

 周りからの期待もある。勝負を待ってる友人もいる。

 それに、何より……三冠まで、あと一歩ってところなんだ。

 辿り着くまでの道はずっと遠いし、険しいんだろうけど。

 ……それでも、進まないとってなって。

 

「やるしか、ねぇよなぁ……」

 

 でも、まあ。

 現実はそう上手くいくワケなくてさ。

 

 

「……タイム、伸びねえな」

 

 夏合宿が始まってから、一週間とちょっと経ったくらいかな。

 メニューとかも調整して、長距離に向けたトレーニングをしてたんだけど。

 やっぱり、どうにも上手くいかなくって。

 

「申し訳ありません」

「謝んなよ。マイナスじゃないだけまだマシだ」

 

 そう。別に全然ダメってワケじゃなかったのが、すげー微妙だったんだよな。

 むしろ総合的に考えれば順調だった。病み上がりだってのにあいつ、弱音の一つも吐かずにトレーニングしてくれてさ。その時にはもう、そこそこ戦えるまで仕上がってたんだよ。

 普通だったら、喜んでたんだろうな。いいじゃん、これならいける、って。

 それこそ、この後のレースが天皇賞秋とか、中距離のレースだったらよかった。

 でも……控えてるのが菊花賞(芝三〇〇〇)って考えると、やっぱり素直に喜べなくて。

 色々とまあ、考えることも多くなっちゃってさ。

 だから。

 

「トレーニングの内容は問題ない……負荷とかを考えたとしても、無理のない範囲のはずだ。となると、やっぱり……慣れの問題なんだろうな。こればっかりは時間をかけるしかない、か……」

「トレーナーさん?」

「だとしても、間に合うのか? いや……間に合わせるしかないんだ。だから……別の方法を考えないと。でも、今のメニューに合うようなやり方なんて……それに、時間も分単位で合わせてるんだ。差し込むヒマはほとんど……」

「トレーナーさん……」

「いや、弱気になってどーすんだよ……何が何でもやんないと、いけないんだ。だから、えっと……まずは」

「……トレーナーさん!」

「え? あ……ああ、悪い」

 

 みたいな感じで、あいつの前でも考え事しちゃうようになってたの。

 元々俺、考え事は声に出しちゃうタイプなのよ。俺が頭悪ぃってのもあるし……そっちの方が、なんだかんだで合ってるからさ。でも、いちいちブツブツ言ってたら気味悪いじゃん? だから、普段は出来るだけ抑えてたんだけど。

 その時は、そんな余裕もなくってさ。

 

「な、何だったっけ?」

「走り込みが終わったので、菊花賞についてのミーティングです。トレーニングの合間に休憩を挟みながら、その間にレースへ向けた作戦会議を進めていく、という話でしたよね?」

「あー……ああ、そうだった。うん。それで、えっと……あ、あれ?」

「……どうされたんですか?」

「いや、資料がどこにも……え、ウソ? 外に出るとき、ちゃんと持ってきたはず……あ、え? なんで? ウソでしょ? だって……宿出たあと喫煙所に寄って、それから……あ」

「置いてきてしまった、と」

「最ッ悪……そこ以外ないわ。マジかよ……」

 

 今思えば、パンク寸前だったんだろうな。

 考えることも多いし、不安もいっぱいだったし……限界だったんだよ、多分。何って当時の俺、毎日三時間くらいしか寝れてなかったからさ。普段通りのことも、ままならなくなってたの。

 だから。

 

「……少しお休みになられてはいかがですか?」

 

 心配されちゃったんだよな、あいつに。

 

「何言ってんだよ。そんな時間なんてねーだろ」

「ですが、顔色も悪いですし……クマもひどいですよ?」

「知らねーよ。お前の気のせいだって」

「心なしか、お体もふらついているように見えるのですが……」

「……あのさ。俺のこと心配するヒマあったら、自分のこと考えてろよ」

 

 その時は体調あんま良くなかったから、機嫌も悪くなってて。あいつも本気で心配してくれてたんだろうけど、そういう風に返しちゃってさ。ケンカ一歩手前、みたいにギスギスしちゃうことが多くて。

 ホントはよくないって分かってたんだけどなー……でも、そこで休んでたらそれこそ、時間も足りなくなる、絶対に後悔する、って思ってたから。退くに退けなくて。

 

「資料は私が取りに行きます。ですから、トレーナーさんはここで休んでいてください」

「だから、いいっつってんじゃん。話聞いてたの?」

「なら、せめて一緒に行きましょう? もし倒れてしまったら、大変ですから」

「っ……うるせえなあ! お前、マジでいい加減に……!」

 

 みたいな感じで、あいつのこと怒鳴りつける寸前だったよ。

 

「萩野君」

 

 聞き覚えのある、ちょっと怒ったような声が後ろから聞こえてきてさ。

 振り返ったら、いたの。

 眉間に深いシワ寄せて、ホントにちょっと怒ってる先生と。

 その隣で、申し訳なさそうな顔して立ってるクリークが。

 

「先生……それに、クリーク……」

「……こんにちは」

 

 そこで俺、もう何も言えなくなっちゃって。

 だってその時はまだ、クリークと和解っていうか、仲直りとかできてなかったもん。なのに急に目の前に現れたモンだから……多分、そこで頭も一気に冷えたんだろうな。ハッとしたっていうか……あと少しで俺、自分の担当のこと怒鳴りつけるような、最低なトレーナーになってたんだ、って気づいて。すげえ冷や汗かいたよ。

 そうやって、目ぇ泳いでる俺に先生が口開いてさ。

 

「落ち着きましたか?」

「……すいません」

「詰め込み過ぎた挙句、カッとなってしまうのは昔から変わりませんね」

 

 みたいなこと、呆れながら言われちゃって。

 

「それで……なんか俺に用っすか? 先生に怒られるような事、最近はしてないハズっすけど」

「……この資料を見ても、同じことが言えますか?」

「あ」

「喫煙所に資料を持ち込むのは感心できないと、何度も言っているはずですが」

「いや……その、ここ来る時に持ってて、それで忘れて……ああいや、違う。えっと……その、ありがとうございます。ほんと、いっつも迷惑ばっかかけて……すいません。気を付けます……」

「……相当やられてますね、これは」

 

 今思えば、先生もマジで心配してくれてたんだろうな。でも、その時はそれに気づく余裕すらなかったからさ。ああ、またやらかしたな、何回も言われたことできないのヤバいよなあ、とか後ろ向きなこと考えちゃって。

 

「トレーナーのあなたがそんな調子では、アルダンさんも満足にトレーニングできないでしょう。焦る気持ちは分かりますが、そういう時こそ落ち着くべきだと私は思いますよ」

「……そう、ですね」

 

 多分、そこで先生も俺が意固地になってたことに気づいてたんだよ。

 

「気分転換に、模擬レースでもしてみましょうか?」

 

 そうじゃなきゃ、そんな提案してこないもん。

 

「アルダンとクリークで、ですか?」

「ええ。二人とも菊花賞を控えていますし、丁度いいと思いまして」

「……え」

 

 あのさ。

 これ話すとお前マジかよ、って感じに言われると思うんだけどさ。

 

「クリーク……菊花賞に出すんですか?」

 

 当時の俺、菊花賞の出走表とかあんまり確認してなかったんだよね。

 だって、あいつの脚のこととか、メニュー考えるとかで当時は精一杯だったから……時間、ほとんど取れなくてさ。たぶん、他のヤツだったら要領よくやってたんだと思う。でも、まあ……ほら。やっぱり、俺だからさ。仕方ないっていうか。

 だから、クリークが菊花賞に出ることもそこで初めて知ったの。

 

「あら? てっきり、もうご存知かと思ったのですが……」

「……他のヤツのこと気にしてる余裕、なかったからさ。でも、そっか……そうだよな。お前、昔っから長距離レース得意だもんな。考えてみりゃ、当たり前か……そっか、そっか」

「それで、どうします? そちらのスケジュールに無理がなければ、私からもぜひお願いしたいのですが」

 

 ……多分さ。

 ()()だったんだよ。

 分岐点っつーか……まあ、もし今後の結果が大きく変わるとしたら、みたいな。

 考えてみりゃ、得しかなかった。長距離に慣れるトレーニングにもなるし、それこそクリークの走りを見てれば何か分かることがあったのかもしれない。絶対に受けるべきだったんだよ、先生の誘いに。

 でも、なあ。

 

「……いや、やめときます」

 

 クリークのことはよく知ってる。

 さっきも話したと思うけど、俺が研修してた時からトレーニングとか見てやってた生徒だから。得意な距離や脚質、走り方まで……それこそ、仮に先生からクリークの担当引継ぎを頼まれたとしても、二つ返事で引き受けられる、って。それくらい、クリークについては自信があった。

 だからこそ、分かっちまったんだよ。

 今のあいつじゃ、絶対にクリークには勝てないって。

 別に、クリークや先生に勝ちたかったわけじゃない。仮に負けたとしても、長距離を走った経験になるし、どこが悪かったのか、次はどんな作戦で行けばいいのか、って参考になるし。あいつのことを考えれば、負けるって前提でも走るべきだった。

 

 ……だけど、さ。

 その時の俺が、あいつの負ける姿を見たら。

 きっと、()()()んだろうな、って。

 そう、思っちゃったからさ。

 

「今、こいつのクールダウン中なんで。誘ってくれるのは嬉しいんすけどね。……すいません」

「そういうことでしたら、別の機会にしますか? スケジュールの調整なら、私も手伝いますよ」

「いや……その、本番まであんま脚の負荷になるようなことは避けたいんです。だから……」

「……そうですか。それは……残念です」

 

 そうやって、子供みたいな言い訳してさ。

 先生も納得……は、してなかったけど。それ以上は、何も言わないでいてくれて。

 

「では、私たちはこれで。行きましょう、クリーク」

「……はい」

 

 俺に資料だけ渡して、一言二言挨拶だけしてから戻ってったんだけど。

 先生を見送った後、あいつが急に話しかけてきてさあ。

 

「……本当に、よろしかったのですか?」

「何が」

「クリークさんとの模擬レースです。私たちが得られるものも多かったはずなのに、なぜ……」

「それくらい俺だって分かってんだよ。でも、お前の脚が危険な状態なのも事実だろ」

「ですが……」

「……何だよ。トレーナーの指示に逆らうつもりか?」

 

 まあ、そんな最低なこと口にしちゃってさ。

 そこで俺も、ようやく気付いたんだよ。本当に休んだほうがいいんだな、って。だって、自分の担当にそんなセリフ吐くヤツなんて、トレーナーとしてもそうだし……何より、大人として失格だろ。そんなヤツに、俺はあと少しでなろうとしてて……それに気づいたらもう、すげー怖くなっちゃってさ。

 

「ああいや、ちが……違うんだよ。今のはそういう意味、じゃ……」

「……分かっていますよ。大丈夫ですから」

「そうだ、今日はもうオフにする……か。ああ、そうだ。急で悪いけど、そうしようぜ。ゆっくり休んでくれよ。俺も……なるべく休むようにするからさ。だから……」

「………………」

「な、なら解散で。それでいいよな? じゃあまた、明日……」

 

 みたいな感じで、あいつの顔マトモに見もせず、逃げるように宿へ帰ったんだよ。

 そっからはほとんど記憶ねえなあ。自分がやらかしそうになったこととか、クリークが菊花賞に出てくること、先生に叱られたこと……そういうので頭がいっぱいでさ。気づいたら布団の中にいたよ。

 ……でも、やっぱり眠れなくって。

 

「クリーク……あいつ、出てくんのかよ……」

 

 結局、それが一番ショックだったんだよなあ。

 その時にマークしてた生徒は、ヤエノくらいだった。でも、あいつも長距離はあんまり得意じゃなかったからさ。まだ勝機はあると思ってた。だけど、長距離を主戦場にしてるクリークが出てくるってなると……話が変わってくるんだよ。それこそ、それまで考えてた作戦とか全部練り直しだもん。

 いやほんと、マジで後悔したよ。ちゃんと菊花賞のメンツ確認しときゃよかったな、って。確かに、そのことも考えてたらいよいよ俺は知恵熱とか出して、ぶっ倒れてたかもしれない。でも、その時の俺のことを考えたら、その方がマシなのかな、って思うんだよな。

 だって、クリーク出るって聞いたときの俺さ。

 

「……三冠、諦めた方がいいのかもな」

 

 本気でそう考えてたんだもん。

 

 

 それから確か、起きたのが……夜の八時半だったかな?

 

「……マジかよ」

 

 電気も点けっぱなしで寝てたから、寝覚めもすげえ悪くて。そのまま二度寝する気力もなかったし、とりあえず適当になんか腹入れようつって食堂まで行ったんだけど、宿飯の時間もとっくに過ぎてたから誰もいなくてさ。ああ、じゃあ仕方ねーし近所のコンビニでも行くか、ってなって。

 そんで財布と携帯だけ準備して、外に出ようとしたときに、ちょうど。

 

「トレーナーさん……?」

 

 あいつに見つかってさ。

 

「……何してんだよ、こんな時間に」

「少し、夜風に当たろうと思って……トレーナーさんの方こそ、こんな時間にどちらへ?」

「飯。食いそびれたから、コンビニで適当に買って来る」

「……お体の方は、もうよろしいのですか?」

「お前じゃねーんだから、大丈夫だって」

 

 そうやって軽くあしらおうとしたんだけど、あいつまだ何か言いたそうな顔してて。

 

「……分かったよ。お前も来い。また俺、ぶっ倒れるかもしれねーしな」

「ふふっ、そうですね。では、ご一緒させていただきます」

 

 コンビニまではそう遠くなかったよ。海岸沿いの道を歩いて十五分くらい。でも、その間お互いに無言でさ。俺はまあ、寝起きだったのもあったし……何より、午前中にあんなことがあったからさ。話す気力もあんまりなくて。あいつはなんか考え事してたんじゃねーかな。この後のこと考えると。

 そんで、コンビニ着いたから適当に飯も買っい終わったんだけどさ。

 なんかあいつも丁度、買いたいもんあったらしくって。

 それだから俺も、先に外でタバコ吸ってて待ってたんだけど。

 しばらくしたら、あいつも出てきて。

 

「お待たせしました」

「おう。何買ったんだよ?」

「まだ秘密です」

「……あっそ」

 

 まあ別に、どうせ俺に関係ねーだろって思ってその場は流してさ。

 他にやることもなかったから、そのまま帰路に就いたんだけど。

 

「懐かしいですね」

 

 夜の海岸が見えるところで、あいつがいきなりそうやって話し始めて。

 

「え、何? ここ来た事あんの?」

「いえ、そうではなく……去年の夏、トレーナーさんと花火で勝負したことを思い出しまして。確か、その時もこんな夜でした。今みたく、トレーナーさんと二人っきりでお出かけして……」

「あー……そういや、そんなことやったな。ダダこねてるお前に、言うこと聞かせるために」

「私のためを思って、ということですよね?」

「……いいよ、それで。もう」

「ふふっ」

 

 そうやって言われるのにも、もうほとんど慣れ切ってたころだったからさ。

 立ち止まって、二人で夜の海を見渡しながら適当に話してて。

 

「でも、やっぱりちょっと悔しかったです」

「……仕方ねえだろ。だってお前、外でああやって花火したの、あの時が初めてなんだろ? 俺が言うのも何だけど……出来レースのつもりだったよ。そもそも、俺がお前を説得させるためにやったことなんだし」

「ええ、それは分かっています。ですが、それでも……いいえ、だからこそ、なのかもしれません。私はトレーナーさんに頂いてばっかりで、何も返せていない……あの夜を思い出すたび、そんなことを考えてしまうんです」

子供(ガキ)がそんなこと考えんなよ………」

「子供だから、なのかもしれませんよ? 子供だから悔しくなって、意地を張って……トレーナーさんに、何かお返しをしたいと思ってしまう。……きっと、今度は私の番なんです。たとえこの選択が、子供な私のワガママだとしても……私はあなたを救うと、約束したんですから」

 

 それがどういう意味なのか、聞き返す前に。

 あいつ、ビニール袋から出して見せてきたの。

 

「……ねえ、トレーナーさん」

 

 そう。

 

「去年のリベンジを、させていただけませんか?」

 

 ……線香花火。

 

 

「勝負は一度きり。線香花火をより長く保たせた方が勝ち。もし、負けてしまったら……」

「……勝った方の言うことを、何でも一つだけ聞く」

「はい。去年と全く同じルールです」

 

 なんて、俺の言葉に笑顔で答えてから、あいつが線香花火を渡してきてさ。

 二人して誰もいない砂浜にしゃがみこんだまま、ライターで花火に火ぃ点けて。

 

「どういうつもりだよ……」

 

 丸まってく火種を眺めながら、そうやって呟いたんだけど。

 あいつは何も言わず、黙ってじーっと花火を見つめてたのよ。

 だから、ああこれ何言っても無駄なんだなって思って、俺も自分のヤツを見つめることにしてさ。そんで時間が経ったら、次第に火花も散り始めて。お互い、ずっと無言でその様子を眺めてたんだけど。

 火花が少しずつ散り始めたってタイミングで、あいつが。

 

「今朝、どうして模擬レースのお誘いを断られたんですか?」

 

 急にそんなこと聞いてきてさ。

 

「言っただろ。お前の脚に負担をかけさせたくないから、って」

「はい、確かに聞きました。ですが、本当にそれが理由ですか?」

 

 そうやって詰められたら、俺も何も答えられなくなっちゃって。

 ぱちぱち弾けてる線香花火も、なんか俺に圧をかけてるみたく見えてきてさ。

 

「おそらく、今の私ではクリークさんに勝てないのでしょう。それは私自身も自覚していますし……クリークさんのこともご存じのトレーナーさんが、一番理解しているはずです。ですが……普段のトレーナーさんであれば、()()()()()あのレースに応じたと思います。総合的に考えて、メリットの方が大きいですし……何より、それがクリークさんを突破する唯一の手掛かりになるからです。いつものトレーナーさんなら、そんな機会を逃すはずがありません」

「………………」

「ですが、そうはなりませんでした。きっと、そのレースを走っても私がクリークさんに勝てると信じられなかったから、ですよね? ぼろぼろに負けた私を見て、クリークさんに勝てないという事実を目の前で見せつけられて……心が折れてしまうと思った。だから、あの誘いを断った。違いますか?」

 

 何も言えなかった。あいつの言う通りだったから。

 それに何よりも、こいつ自身にこんなことを言わせる自分がすげえ情けなかった。

 ただ、それ以上に驚きもしたんだよ。

 いつの間にかこいつに、ここまで見透かされるようになったのか、って。

 自分で言うのも何だけど……俺さ、本音はマジで結構隠し通せるタイプじゃん。キャラ付け、ってわけじゃないけど、普段からフザけてるっつーか、まあ自分もその方が楽だから、そんな感じでやってるんだけど。

 そりゃ、あいつに何度も本音は打ち明けたことあるよ。でも……それは、全部自分からだもん。向こうから、しかもあんなにズバッと言い当てられるとは、マジで思ってなかったからさ。

 

「もう、私のことは信じられませんか?」

「………………」

「……そうですか」

 

 それから、あいつもしばらく喋るのをやめて。

 いつの間にか、お互いが持ってる線香花火もほぼ落ちかけててさ。

 もう、どっちが勝っても負けてもおかしくない、それくらいの時に。

 あいつが。

 

「もう、菊花賞は諦めてしまいましょうか」

 

 そんなこと言いだしてさ。

 

「……え?」

「このまま出走しても、結果は変わらないと思うんです。私はクリークさんに敗れて、二冠ウマ娘として終わり……悔しい思いをすることになるのでしょう。もしかしたら、泣き出してしまうのかもしれません。そして、それはきっと……トレーナーさんも同じなんだと思います。三冠に届かなかったことを二人で悔やみながら、ここまで頑張った、よくやった方だ、なんて傷を舐めあって……そんな惨めな思いをするくらいなら、はじめから諦めてしまった方がいいと思いませんか?」

「いや、お前……何言って……」

「それに、トレーナーさんも言ってくださったじゃありませんか。私はもう充分頑張った、少しだけ休もう、って。だから……また、来年から頑張りましょう? 私たちには、まだ次があるんです。ですから……」

 

 なんて、続けようとしたあいつの言葉も待たずに。

 

「……嫌、だ」

 

 気づいたら、そうやって話し始めててさ。

 

「ここまで来て諦めるなんて、嫌だ……嫌だよ、俺。だって……だって、さあ! やっとここまで来れたんだぜ!? レースもマトモに走れないって言われてたお前が、あと一歩で三冠ウマ娘になれるってところまで来たんだ! (ラモーヌ)の後追いなんかじゃなく、一人のメジロアルダンってウマ娘として! それなのに、こんなところで諦めるなんて……できるわけ、ねえだろ……!」

「トレーナーさん……」

「ああ、そうだよ。本当は、お前が勝てるなんてこれっぽっちも思ってねえよ。お前の脚のことも考えれば、諦めた方がいいってことも分かってる。それでも……諦めきれねえんだよ、俺。だって、もう少しでお前は三冠ウマ娘になってくれるんだ。そうしたら、俺は……俺、は……!」

 

 喋ってるうちに、自分でもわけわかんなくなってて。これまで我慢してたこと、言いたくても言えなかったこと、それでもやっぱり伝えたかったこと……そんなぐちゃぐちゃで纏まってない考えを、そのままあいつに吐き出してたよ。

 ……まあ。

 これは、今だからそうなんだろうな、って言えることなんだけど。

 多分、背中を押してほしかったんだろうな。あの時の俺は。

 諦めるのが正しい判断だと思った。でも、ここまで来て諦められるわけがなかった。……どっちでも、よかったんだと思う。諦めるでも、諦めないでも、その判断に踏み切るだけの理由が欲しかっただけで。

 だけど、当時の俺はそんなことに気づく余裕もなくて。

 ああ、またやっちまったな、ほんと情けねえ大人だよな俺は、って自己嫌悪に陥ってさ。

 あいつの顔もマトモに見れなくなって、そのまま俯いてたんだけど。

 

「……あ」

 

 そこで、ようやく気付いたんだよ。

 俺の線香花火が、いつの間にか地面に落ちてることに。

 

「私の勝ち、ですね?」

 

 言われて顔を上げたときに、あいつの笑ってる顔がはじめに見えてさ。

 あいつの持ってる線香花火が落ちたのが、それと同時。

 ……そう。負けたんだよ、俺。

 

「いや……いやいやいや! お前ズルっ! 何だよそれ、そんなんアリかよ!」

「ですが何も話してはいけない、というルールはありませんでしたよね?」

「うわ(きったね)ぇ! あのクソババアにやり方似てきてるぞお前!」

「まあ、私もおばあ様の血は引いていますから。それに……」

 

 そうやってあいつが、俺の顔を覗き込んできてさ。

 

「こうでもしないと、トレーナーさんは私の言うことを聞いてくれないでしょう?」

 

 なんて、微笑みながら言ってきて。

 ぐうの音も出なかったよ。図星だったから。それこそ、あの時の俺はああでもしないと止まれなかった。……あいつの言ってた救うってのは、多分そういうことなんだ。考えてみれば簡単なことだった。でも、その時の俺はそんなことにすら気づけなかったんだ。……あの時のあいつみたいに、焦ってたから。

 それからあいつ、ずっと座りっぱなしで疲れたのか、立ち上がってからんっ、って伸びてさ。

 

「この勝負、勝ったのは私です。ですので、トレーナーさんには私が今から言うことを聞いてもらいますね」

 

 何を言われるかは、もう分かりきってた。

 だけどそれは、あいつが言うことに意味があったんだよ。

 だから、俺は何も言わなかった。ただ黙って、あいつの言葉を待ってたんだ。

 それから少しだけの間があったあと、あいつは俺の方に振り返って。

 

「これからもずっと、私のことを信じ続けてください」

 

 ……なんてさ。

 よくある少女漫画の、薄っぺらい告白シーンみたいに。

 俺の目をまっすぐ見つめながら、言ってきたんだよ。

 

「これが最後ではありません。むしろ、()()()()なのでしょうね。私はこの先、多くの苦難に立ち向かうことになるのでしょう。無惨に敗れると分かっていても、挑まなければならない。それがたとえ、散りゆく運命だとしても……私は、走り続けなければならないんです。私が、メジロアルダンというウマ娘であるために。それはきっと、一人では耐えきれないほどに辛く……苦しい道のりになるのだと思います」

「………………」

「ですが、トレーナーさんが私のことを信じ続けてくれるのなら、私はどんな苦境に立たされようとも、その道のりを進み続けることができる……そんな気がするんです。傲慢で、軽薄な願いであることは分かっています。トレーナーさんを地獄へ道連れにするような、そんな誘いであることも。ですが、それでも……私は、あなたとこれからも一緒に走り続けたい。共に栄光を掴み取りたいと、そう願っているんです」

 

 ほんと、勝手なこと言ってくれるよな。

 だって要は、どれだけ不利なレースでも、お前を無理やり引きずって出てやるから覚悟しとけよ、って言ってるのと同じじゃん。ほとんど脅迫みてーなモンだよ。マトモなヤツが考えることじゃない。

 それこそ、前までの俺だったら素直に頷けなかったんだろうな。どっかで怖気づいて、諦めてたのかもしれない。こいつは俺の手に負えねえ、ってほかの誰かに担当を押し付けてたのかも。

 でも、あいつなあ。

 今の俺がそうやって断ったり、逃げだしたりすることなんて、一切考えてない顔してたんだよ。

 絶対に譲る気はない、どれだけボロボロになっても最後まで引き連れてやる、って。別に、言葉にしてるわけじゃない……いや、違うな。言葉にする必要すらない、って思ってたんだよ、あいつ。そんなことしなくても俺には伝わるって、何の根拠もなしにそう信じてくれてた。信じて、くれてたんだ。

 

「どうか、お願いします。トレーナーさん……」

 

 そうやってあいつが、俺のことを信じてくれるのなら。

 俺もあいつのことを信じてやらねえとな、って。

 腹を括る……いや、そうじゃない。そんな後ろ向きな気持ちじゃない。

 ああ、そうだ。覚悟を決めねえといけねえんだな、って。

 そう思ったんだよ。

 だから。

 

「……ほんっと、ワガママしか言わねえよなお前は」

「あら。そういった娘はお嫌いですか?」

「大っ嫌いだよ。自分勝手に他人をさんざん振り回した挙句、無茶苦茶なこと言い出すんだから。そんなお前に、どれだけ迷惑かけられたか……ここだけの話、マジでイラついたことも何度かあるもんな」

「ふふっ……では、改めないといけませんね」

「別に。そうやってイラついた数よりも遥かに、助けてもらったことの方が多いし。それに今更態度変えても、気持ち悪いだけだしな。だから、お前はお前のままでいい。今みたいに無茶苦茶で、ワガママで……自分のやりたいことを、意地でも貫き通す。それが俺の知ってる、メジロアルダンってウマ娘だ」

 

 それで俺は、メジロアルダンの担当トレーナーなんだ。

 だったら、あいつがやりたいようにやらせるのが、俺の仕事だって。

 気づかされたんだ。

 

「お前にはやっぱり、ティアラじゃなくて王冠の方が似合ってるよ」

「トレーナーさん……」

「最後の王冠、取りに行くんだろ?」

「……はい!」

 

 そうやって答えたあいつの顔は、今でも思い出せる。

 これから負けに行くってのに、清々しいほどに綺麗な笑顔浮かべててさ。その笑顔に絆された、ってわけじゃないけど……こいつのためなら、って思えた。担当トレーナーとして、ってのもそうだし……一人の、人間として。ちゃんとした、って言うには色々と足りないかもしれないけど……大人として傍にいてやろう、って。

 そう、思えたんだ。

 

 ……そりゃ、今でも迷惑はかけられまくってるよ。

 あいつの実家に呼ばれて、味の違いなんて分かんねえお茶とか飲まされたり。

 行きたいだなんて一言も言ってねえのに、流行りの映画に無理やり連れて行かれたり。

 この前なんか、俺がいないとつまんないから、なんて理由で旅行に付き合わされたんだぜ?

 あのワガママ癖はたぶん、一生治らねえんだろうな、きっと。

 

 でも、まあ。

 そういうところも全部ひっくるめて、あいつらしいな、って思えるようになったんだ。

 もちろん普通に迷惑だし、時間も取られるからふざけんな、ってところはあるけど。

 子供のころから入院続きで、好きなことができなかったんだと思うと。

 好きにやらせてやるのも、それに嫌々だけど付き合ってやるのも。

 ……そこまで、悪くはねーかな、って。

 これ……あいつには絶対、内緒だからな?

 

 

 そんで、夏合宿も終わってからしばらくして、菊花賞当日になって。

 

「調子は?」

「問題ありません。絶好調です」

 

 ゲートに向かう直前の地下バ道で、あいつと話してたんだよ。

 

「しっかし、まあ……雨とはなあ」

「てるてる坊主、ダメでしたね。せっかく一緒に作ったのに……」

「やっぱ量が足りなかったんだよ。お前はいちいち凝りすぎなんだって」

「それを言うなら、トレーナーさんは雑すぎます。てるてる坊主のお顔、どれもぐちゃぐちゃだったじゃないですか」

「愛嬌があるって言いな」

「……ふふっ」

「……はは」

 

 なんて、これから負けるかもしれないってのにテキトーな会話しててさ。でもまあ、その方があいつっぽい……いや、俺たちっぽいじゃん? だから多分……これでよかったんだよ。けらけら笑い合ったまま、地獄で一緒に……みたいな。変な言い方になっちゃったけどさ、そうやってるのが俺たちだったんだ。

 そうしてるうちに、時間になって。

 

「信じてるからな」

「はい」

 

 嬉しそうに頷いてるあいつを、見送ったんだ。

 

 まあ……そうだな。

 この先はお前もよく知ってるから、先に言っとくんだけど。 

 その時の俺は、もしかしたら、って思ってた。あいつならやってくれる、って信じてた。

 でも。

 やっぱり、現実はそう簡単にはいかなかった。

 

 ……ああ、そうだ。

 負けたんだよ、俺たちは。

 

 




諸事情により匿名解除しました
マジで別に更新休むとか、内容がどうとかそういうんじゃないんでそこらへんは大丈夫です
詳しくは活動報告にて

Q.続きますか?
A.今月はちょっと忙しいから一本だけかも
 がんばります
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