メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】   作:宇宮 祐樹

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 おじゃましまーす……っと。

 いや、え? (きったね)ぇ! 何これ!? 足の踏み場ねーじゃん!

 この前、俺が掃除したばっかりだよな? なんで? もしかしてあれ、夢?

 ホントもう、どうしてまたこんな汚部屋になってんだよ……?

 ……え? あっ! あ~あ! あのさあ! なんか今踏んだんだけど!?

 うわ、ちょっと……これ、ビールの空き缶? ゴミぐらいちゃんと捨てろよ……!

 ったく……よくこの部屋の惨状で人を呼べたな。終わってるよ? お前。

 とりあえず机の周りだけ片付けるか……。

 

 ……ま、とりあえずはこんなモンか。

 何買ったんだっけ? ビールと、缶チューハイと……いや、やっぱ買いすぎだって。

 え? ああ……なら、レモンサワー貰うわ。あとそのポテチも。

 それじゃ、かんぱ~い。

 

 それで、えーっと……何だっけ。ああ、その後の話?

 つっても、そのあたりはは殆どお前と一緒にいたしなあ。

 お前だって覚えてるだろうし、別に話す必要も……。

 ……あーもう、分かった! 話してやるから!

 

 それで……そうだな。

 とりあえず学園を出てからすぐ、お前の家に向かったんだけど。

 

 

 最初に俺の顔を見た時、お前自分で何て言ったか覚えてる?

 

「うわっ、インターネットで見たことある顔だ」

「…………………………」

 

 酷くない?

 いや、そりゃテレビとかSNSで晒しモンになったのは、俺の責任だけどさ。

 にしたってお前……もっと他にかける言葉あっただろ。

 

「それで? 何しに来たのさ、有名人?」

「……匿ってくれ」

「ほーぉ、そう来たか」

 

 それにあのニヨニヨした顔! 今思い出してもマジで腹立ってくるんだよ!

 

「んー、とりあえずザマァみろバ~カって感じなんだけど……」

「おい……」

「でも、なるほどなるほど……へぇ? わざわざアタシの家まで来たってことは、マジでもう他に頼れる人もいないって感じでしょ? ふぅ~ん……そっかぁ、そっかぁ。……へへっ」

 

 まあ、その時点でロクでもないこと考えてるな、とは思ったよ。

 

「いーよ。アンタのこと、ほとぼりが冷めるまで匿ってあげる」

「……助かる」

「でも、タダでってのはなあ~? アンタを匿うってことは、アタシも少なからずリスクを負うワケだし。だから、それ相応の見返りってモンがあってもいいと思うんだけどな~? ん~?」

 

 それについてはもう、言われるつもりだったっつーか。

 どうせお前のことだし、なんかせびってくるだろうと思って用意しといたんだよ。

 

「やるよ」

「え、何コレ……通帳?」

「ああ。腐っても二冠ウマ娘のトレーナーだったヤツの通帳だ」

 

 その時点であの口座、いくらぐらい入ってたんだっけ?

 少なくとも八〇〇万はあったよな、確か。

 

「中に入ってる金は全部お前にやる。これで満足だろ?」

「んー……」

 

 でも。

 

「70点」

「は?」

「この通帳にプラスで、朝昼晩の食事と洗濯、部屋の掃除、それに買い物ん時の荷物持ちと……ああ、あと朝のゴミ出しも追加ね。それと、アタシが呑むときの相手もよろしく」

 

 お前マジで容赦なかったよな。

 いやさあ、確かに匿ってくれたのはありがたいんだけど……にしたって、もうちょっと手加減してくれよ。メンタルぶっ壊れてどうしようもなくなって逃げだした人間にさせていい仕事量じゃねーだろ、アレは。

 ほんとクソ野郎だよ、お前って。

 

「お前なあ……」

「別に嫌ならいーんだよ? アンタのこと速攻でマスコミに売りつけるけど」

 

 そんな感じで、ほとんど脅迫みたいなことしてくるしさ。

 いや、そりゃ後悔してるよ。もっとマトモなヤツのところ逃げ込めばよかった、って。

 でも……そんな都合のいい知り合いなんて、俺にいるわけねーし。

 

「ほらほら、もう頼れるのはアタシしかいないんでしょ~? だったらアタシの言うこと素直に聞いといた方が賢いと思うけどなあ~? それとも、高校中退するような頭の出来じゃそんなことも分かんないのかな~?」

「……分かったよ。やりゃいいんだろ?」

「うん、うん。そうこなくっちゃ。じゃ、これからヨロシクね、奴隷クン?」

 

 だから、嫌でもお前の言う通りにするしかなかったんだよ。

 そしたらお前、まず最初にどんなこと要求してきたか覚えてる?

 

「そしたら、さっそく行こっか」

「どこにだよ」

「んなもん決まってんでしょ」

 

 マジでさあ。

 

「呑みだよ、呑み」

 

 あの状況で酒吞みに行くの、ホントに頭おかしいからな? 

 

 

 それで、お前がいつも通ってる飲み屋に連れて行かれたんだけど。

 

「え、なに? つまり、その記者のことブン殴って謹慎喰らったの!? アハハ!! バカバカ!! マジでバカじゃん!! いや、いくらなんでも面白すぎでしょ!! 一生ネタにできるじゃん、その話!」

「うるっせーな……」

「しかも、担当の子を置いてきた上にアタシ(元カノ)んトコに逃げてきたんでしょ? マジでやってること最ッ低だよね! いつかその子に刺されんじゃない? あ、もしそうなったら葬式には呼んでね? アンタの死に顔眺めながら一杯やるからさ! アハハハハ!!」

 

 絶好調だったよな、お前。

 酒が入るたびに笑い転げて、店の迷惑なんて考えずに大声で騒ぎ始めて。

 正直、外に飲みに行くとか身バレが怖かったから嫌だったんだけど。

 お前が永遠に叫んで目立ってるせいで、逆に気づかれなかったことだけが救いだわ。

 え? 記憶ない? いや、お前……ああでも、そうか。その時のお前、意味わかんないくらい飲んでたもんな。俺の話が面白いからって。いくらお前が酒に強いつっても、八杯とか九杯も吞んでりゃ記憶も飛ぶか。

 ……まあ、そうやって思いっきり笑った後に。

 

「で? これからアンタ、どーするつもりなのよ?」

 

 お前にそう聞かれたんだよ。

 

「戻りたいの?」

「……戻れるわけねーだろ」

「まあ、できるかどうかはいったん置いといてさ。また、その……誰だっけ。アンタの担当してた、アルダンちゃん? のところに戻りたいか、って話。そこんとこ、どーなのよ」

 

 なんてお前は、言ってきたけど。

 

「どう、だろうな」

「あれ? 何としてでも戻りたい、ってワケじゃないの?」

「そりゃ俺のやったことが全部許されて、また今まで通り担当として指導します、だったらいいよ。でも……そんな都合のいい話、あるわけねーし。それに今、俺が戻ったとしても……あいつの足枷になるだけかもしれない。今まで以下になる可能性だってある。それくらいなら、いっそのこと戻らない方があいつのためだと、思う」

 

 結局、その時の俺は迷ってたんだよ。

 本音で言えば、あいつのところに何としてでも戻りたかった。また一緒に頑張りたい、って思ってたよ。だけど、世間の目やマスコミのことも考えると、そうもいかなかったし。

 それに仮に戻ったとしても、またあいつに迷惑をかけるかもしれない。もうこれ以上、あいつの邪魔はしたくないから……諦めるしかない。それこそ諦めるには、丁度いいタイミングなのかもしれない、って。

 そういった説明も兼ねての答えだったんだけど。

 

「んー……アンタの言いたいことは、分かんなくもないけど」

「けど、何だよ」

「いや相変わらずヒクツすぎて鬱陶しいなー、って」

 

 お前からしたら、そんな気にするようなことでもなかったんだろうな。

 そうやって、気持ちいいくらいバッサリ切り捨てられたよ。

 

「戻りたいなら戻りたいって言えば? その子の迷惑とか考える前に、自分のやりたいことを優先しなよ。それに迷惑かけたとしても、ごめんなさい、次からは気を付けます、って言えば済む話じゃん?」

「そんな簡単に言うなよ……」

「アンタが勝手に難しく考えてるだけでしょ。そんなに賢くもないくせに」

 

 その時は、逆にお前が楽観主義すぎる、って思ってたけど。

 今になってみると、そうすりゃもっと早く解決してた気がするわ。

 あんな屁理屈ってか、暴論が通るんなら、俺もさっさとワガママ言っとけばよかった。そしたらあいつは、もっと早くレースに復帰してたかもしれないし。そこだけは唯一、お前の言う通りにすればよかった、って思ったよ。

 もしかすると、俺とお前の二人を足して割ったら、丁度いい人間ができるのかもな。

 

「そんで、結局どーすんの? もうここで諦める? それともまだ足掻いてみる?」

 

 なんて話をした後に、改めてお前はそうやって聞いてきたけど。

 

「……分からない。まだ、もう少しだけ悩んでみたい」

 

 やっぱり、その時の俺はまだハッキリ答えられなくてさ。

 

「ふーん? ま、それでもいーんじゃない?」

 

 でも、お前はそんな感じで、適当に返してきたよな。

 

「時間は無限にあるんだし。アタシの奴隷として働いてる間に、勝手にダラダラ悩んでなよ。もしそれで手遅れになったとしても、またアタシが笑ってやるからさ」

「……ごめん」

「アタシに謝ってどーすんのよ。もっと違う言葉を、アタシじゃない誰かに言うべきでしょーが」

 

 まあ。

 お前なりの優しさなんだろうな、あれは。

 見捨ててるっつーか、どうでもいいって言ったら多分、そういうことなんだろうけど。

 でも……なんだかんだ、お前にそう言われてちょっと気分は楽になったよ。

 

「とりあえず、明日から適当にバイト探してみるか……」

「……え、働くの? あんだけ金あるし、しばらくニートでいいんじゃない?」

「確かに金はあるけど、別に無限ってわけじゃねーしな。それにお前のことだから、あの金マジで全部酒に突っ込みそうで怖いんだよ」

「でもさ、今のアンタを雇ってくれるトコなんかあんの? アンタ、ネットの晒しモンなのに」

「それなんだよなー……」

 

 正直、マトモに探して見つかるとは思ってなかったよ。

 だから上京してる友達とかに相談して何とか、って考えてたんだけど。

 

「そういえば」

「うん?」

「アタシが今働いてるライブハウス、最近バイトくんが一人辞めちゃったんだよねー」

「……マジで?」

「店長にメッセだけ送っとこうか?」

 

 なんて、その場でお前が連絡してから、すぐ次の日に面接することになって。

 店長もノリのいい人だから、俺のこと面白半分ですぐ採用したよな。

 いやー……まあ、助かったよ。お前もそうだし、何より店長が良い人すぎたわ。事情とか説明したら、ちゃんと理解して納得してくれたし。マジであの人いなかったら、俺そこで詰んでたかもな。

 ホント、感謝してもしきれねーよ。今度ライブ見に行くから、よろしくって言っといてくれよ。

 え? あいつ? あー……まあ、一応聞いてみるわ。来るか分かんねーけどな。

 

 それで……あー、結局どれくらいそこで働いてたんだっけ?

 確かお前んトコに行ったのが、菊花賞の一週間後で……十一月の第一週でしょ?

 そっから、あの日までってなると……ああ、そっか。

 ほぼ二ヵ月も、お前ん家で過ごしてたことになるのか。

 

 

 でも正直、あんまり長くは感じなかったよ。

 え? 何でかって?

 ……お前の面倒見るので忙しかったからだよ、このクソ野郎!

 マジでさあ、よく人のことあんだけコキ使えるよなお前。ここまでくるともう才能だよ? 俺のこと本気で奴隷か何かだと思ってただろ。そりゃ俺が居候させて貰ってる身ではあったけど、限度があるだろ流石に!

 おい……なんだその不満そうな目は! 言っとくけど、お前がそんな目ぇする資格ねぇーからな!?

 家事全般俺に押し付けといて、自分は寝るか食うか呑むかしかしてなかったくせに! 風呂も毎日掃除して、湯船に浸かれるようにしてやっただろうが! 寝る時もお前がベッドで俺は雑魚寝だったからな!? 毛布くらいくれたってよかっただろ、なあ!

 それにお前、一回マジで最悪なことしたの覚えてる?

 確かなんか予定あったか何かで、お前の帰りが遅くなった時あっただろ。

 その時にさ。

 

「今日、カレーの気分だわ。ヨロシクね」

 

 だから、ちゃんとカレー作って待ってたんだよ。結構手間かけてさ。

 そしたらお前、帰ってきて初めに何て言ったと思う?

 

「ごめーん、ラーメン食べてきちゃった」

 

 バカが!

 しかも最寄り駅の構内にあるラーメン屋だろあれ!

 もうちょっと我慢できなかったのかよ!

 

 ……は?

 おまっ……お前、よく文句言えたな!? おい!

 めちゃくちゃ良くしてやっただろ! ワガママも聞いて、酒も飲まされて!

 何なら()()にも何度か付き合ってやっただろーが!

 それなのに、お前……マジでいい加減にしとけよ!

 

 まあ……そんな感じで過ごしてたんだけどさ。

 ここだけの話、このままお前と過ごしててもいいな、とは思ってたよ。

 いや別にお前のヒモになりたいとかじゃないけど……でも、トレーナーやってる時よりはずっと楽だったのは事実だよ。だって、責任とか義務とか何もなかったし。辛いこともお前のワガママ聞いてやるくらいだったし。

 言い方がアレだけど……俺は()()()側の人間なんだな、って。もしかしたら、俺がトレーナーになったのは何かの間違いだったんじゃないか、って一瞬だけ考えた時もあった。

 居心地がよかったんだよ、ハッキリ言って。

 ……お前さえよけりゃ、このまま適当に結婚してやるのもアリだった。

 その証拠に、ってワケじゃないけど……ああ、そうだ。

 

「ちょっとギター貸してくれよ。使ってないヤツでいいから」

「え? 別にいーけど……やけに急じゃん。どーしたの」

「いや、お前らが楽しそうにやってるの見て、久しぶりに弾いてみようかな、って」

「ふーん?」

 

 そん時はまあ、軽い気持ちだったけど。

 

「……おー、まだ全然イケんじゃん」

「そうか?」

「いや、充分弾けてる方っしょ。ワンチャン簡単な曲だったらヘルプできんじゃない?」

「流石に言いすぎだろ……」

「このアタシが褒めてんだから自信持ちなって。あ、そうだ。何なら流行りの曲いくつかやってみる? アタシも付き合ったげるからさ。ね、いいっしょ? ほら、ほら」

 

 そっから二人で何曲か練習してさ。一度だけ、お前の言う通りバンドのヘルプもやって。

 楽しかったんだよ。やっぱり俺にはこういう方が向いてるんだな、って思った。

 だって今までずーっと、責任とか成績とかで雁字搦めの仕事してたからさ。こうやって軽い……って言ったらいけないかもしれないけど。何の気もなしに、好きなことやってる生活がすごく心地よかったの。

 だから……正直、もう悩んではいなかった。

 もうずっとこのままでもいいかな、とか考えながらお前と過ごしてたわけ。

 ……そんな時だよ。

 偶然、あの子と出会ったのは。

 

 

 そういえばあの時、お前はシフト入ってなかったんだっけ。

 確か十二月に入ってからすぐだったかな? そこそこ大き目のライブがあったじゃん。なんか、今ちょっと有名になってるバンドが来るとかで……ああそう、それそれ。やっぱりお前も知ってたんだ。

 いや、めちゃくちゃ客いたよ。だからお前もシフト入れなかったんだと思うんだけど。土日ってこともあったから、学生もちらほら来ててさ。すげー盛り上がってたよ。

 そんでその日、俺はドリンク担当だったんだけど。

 

「あの二人、もしかしてトレセンの子じゃない?」

 

 店長が客席の方を見ながら、そんなこと言っててさ。

 

「あー……まあ、そうなんじゃないっすか?」

「萩野くん、反応うっすいねえ」

「だって元トレーナーっすよ、俺」

 

 俺としては、別に何とも思わなかったからテキトーに答えてたんだけど。

 実際まあ、珍しかったのかな。トレセンの生徒がこういうところ来るってのは。俺は働いてた身だからそうも感じなかったんだけど、外から見たら割とあそこって上澄みっつーか、お嬢様学校みたいな感じなんでしょ?

 でも結局、俺からしたら興味も何もなかったし。

 一般人からしたらそんなモンか、みたいな感じで流してたの。

 そんでライブも中盤になってきて、いろいろ注文受けてたんだけど。

 やってるうちに、店長が言ってたトレセンの子が注文しに来たらしくて。

 まあさっきも言った通り忙しかったから、顔はよく見てなかったんだけど。

 

「すいませーん、オレンジジュース二つお願いしてもいいですか?」

 

 その時点で、なんか聞き覚えのある声だとは思ったんだよな。

 毎日聞いてる声じゃない。一度だけ、どっかで聞いたことあるかもってくらいの声でさ。正直、だからって気にもしてなかったし、あったとしても学園でちょっと話したことある子かな、とか考えてたの。

 でも、別にそれで何かあるってわけでもないし。

 ちょっとした勘違いかなー、くらいで済ませようとしたんだけど。

 

「はいよ、オレンジジュース二つね」

「ありがとうございま――」

 

 ドリンク渡そうとしたときに、そこでお互い固まっちゃったの。

 だって。

 

「パーマー……?」

「……えっ?」

 

 その生徒ってのが、めちゃくちゃ俺の知り合いだったんだもん。

 

 

「いやー、まさかこんなところで会うなんて。ビックリしちゃった」

「……そうだな」

 

 それから、パーマーが「少しだけ話がしたい」みたいなこと言い出してさ。

 いやどう見ても業務中だろって思ったんだけど、店長が気ぃ利かせてくれて休憩時間ってことにしてくれたのよ。そんでまあ、店の中で話すのもアレだから外で、じゃあ友達に飲み物だけ持ってくから先行ってて、みたいなやり取りした後に、二人で話すことになったんだけど。

 

「今はここで働いてるの?」

「バイトだけどな」

「ふーん……ってことは、この辺りに住んでる感じだ?」

「……ああ」

 

 まあ、探りを入れられるだろうな、とは思ったよ。

 そもそもあいつ、友達の相談相手になることが多いらしいのよ。だから……まあ、職業病? みたいなモンなのかな。それこそああいう状況だと、色々自分で聞いとかないと落ち着かないみたいでさ。

 

「それって知り合いのお家?」

「知り合いっつーか……まあ、元カノの家。どうせ他に男も作ってねーだろうし、隠れるのに丁度いいからそこ住んでる。代わりに家事とか買い出しとか、色々とコキ使われてるけどな」

「え……ああ、そうなんだ」

 

 なんて、誤魔化す必要も正直なかったから適当に答えてたんだけど。

 

「お前こそライブとか来るんだな」

「ああ、私はヘリオス……その、友達の付き合いでちょっとね」

「つーか門限大丈夫なのか? そろそろ時間だろ」

「今日はメジロ家の屋敷に泊まるから門限は大丈夫。外泊届も出してるしね」

「……なら、いいけどさ」

 

 そこでもう、お互いに無言になっちゃってさ。

 まあ、ぶっちゃけ俺もパーマーも話題にするのを避けてたんだよ。俺は勿論、自分から話したくなかったし、パーマーもそんな度胸ってか……あの子は、ほら。ちょっと思い切りっつーか、踏み込むまでの助走が割と要るタイプだから。良くも悪くも他人の目を気にしすぎる性格だし、仕方のないことではあるんだよ。

 そんなんだから、俺もパーマーも適当な雑談で間を保たせようとしたんだけど。

 ……結局、パーマーの方が耐えられなかったみたいで。

 

「アルダンさんのこと、気にならないの?」

「…………………………」

 

 そりゃあ、まあ。

 

「気にならない、って言ったらウソになるけど」

「だったら……」

「でも、今更気にしたって何にもならないだろ」

 

 俺とあいつの関係は、とっくに終わったと思ってたから。

 そりゃ、頭の隅でずっと考えてたよ。今頃、あいつはどうしてるかな、って。上手くやってるかな、引継ぎの資料に抜け落ちとかねーよな、って気になってたんだよ。だけど、それ以上は考えないようにしてた。だって考えたらきっと俺はまた、バカみたいなことをやらかして……あいつに迷惑をかけるかもしれないし。

 だから、我慢するしかなかった。もう俺にできることは、あいつのことを遠くから応援することだけ。それ以上のことはしちゃいけない。そのために……お前のギターも借りて。俺はもう、向こう側の人間じゃない、って自分に言い聞かせたんだよ。

 でも。

 

「……そっか」

 

 悲しそうな顔してるパーマーに、絆されたって言えばそうかもしれないけど。

 

「あいつ、有には出走すんのか?」

 

 気づいたら、そんな感じで聞いててさ。

 

「しないよ」

「……は? 投票、ちゃんと集まったんだろ? ニュースでやってんの見たぞ。それにあの会見でも出走するって言ってたし。なのに、どういうつもりで……」

「あなたと一緒じゃなきゃ、意味がないんだよ」

 

 あいつの言いそうなワガママだな、とは思った。

 

「それに今のアルダンさん、新しいトレーナーも見つけてないんだよ?」

「……なんで」

「そんなの、あなたを待ってるからに決まってるでしょ。……本気だよ、アルダンさんは。あなたが戻ってくるまで、レースに出ないつもりなんだ。下手すると、このまま……卒業するまで、ずっと」

「…………………………」

「お願いだから、戻ってあげてよ。あんな辛そうなアルダンさん……もう、見てられない」

 

 そうは言っても、結局。

 

「……戻りたくても、戻れねーんだよ」

 

 俺一人の力じゃ、どうにもならないって思ってたからさ。

 

「物分かりのいいお前なら、俺の言いたいことも理解できるだろ? ……もう、どうにもならねーんだよ。だってこれは、俺が間違ったことをして、その間違いが取り返しのつかないモンだった、ってだけの話なんだから」

「……そんな簡単に諦められるわけ、ないじゃん」

「だろうな。仮に俺がお前の立場だったら、同じこと思ってるよ。だから……お前もあいつも、好きなだけ俺のことを恨んでくれればいい。……悪いのは俺なんだから」

 

 そこでパーマーも、何も言えなくなっちゃって。

 きっと、これ以上話を続けてもどうしようもないことなんだ、ってそこで分かったんだろうな。そこからまた、お互いに無言になっちゃったんだけど……俺もそろそろ戻らないといけない時間だったからさ。

 

「じゃ、俺もう戻るわ」

「……うん」

「その……何だ。別にココ来るなって言ってるわけじゃないんだ。またなんか、興味あったり気が向いたら来てくれていいから。そしたら……飲み物とかサービスしてやるよ。知り合いだしな」

「ありがとね」

「それと……あいつに、よろしくな」

「……わかった」

 

 今更何をよろしくするんだろうな、なんて思いながら仕事に戻ろうとしたわけ。

 そしたら。

 

「うわ~~ん!! パマちん、どこ~~~!?」

 

 裏口のドアから勢いよく出てきたんだよ。

 ……そう。

 

「へ、ヘリオス……?」

「……あれ? パマちんいるじゃん!」

 

 ダイタクヘリオス。

 あの子に関してはお前の方が知ってんじゃないの? 確か連絡先も交換してるし、何度かメシとか付き合ったりしてるんでしょ? よくお前んとこのライブハウス行く~、みたいな話してるの聞いたし。

 俺はその時点だと、何度か名前は聞いたことあったくらいの認識だったな。パーマーとよく仲良くしてる生徒、くらいの印象で……話したことは一度もなかった。ぶっちゃけ知り合いの知り合い、くらいの距離感だったし。

 つまり、ヘリオスと話したのはそこが初めてになるんだけど。

 

「も~、どこ行ってたのパマちん! すぐ戻るって言ってたから待ってたら、ライブも終わっちゃったし! パマちんいないと全然アガんなくてマジ萎えぽよだったんですけど~!」

「ご、ごめんねヘリオス。ちょっとこの人と話があって……」

「……てか、なんかパマちんテンサゲな感じ? え? どしたん? なんか悲しいことでもあった? もしかして……泣かされた? あん人に泣かされたっしょ!? ゼッタイそうじゃん!」

「え? いや、そういう訳じゃ……」

「もー、ウチのズッ友泣かせるとかマジ許せんし! ボコボコにするから覚悟しとけよー☆」

「違う違う違う違う!」

「ヘリオス、違うから!」

 

 だいぶ人の話を聞かないヤツだってのは、もうそこで分かったよ。

 多分パーマーが止めてなかったら、普通にグーで顔面いかれてたんじゃねーかな。

 とにかく、そんな感じでいきなり来てわちゃわちゃしてたんだけど。

 

「あれ? もしかしてアルダン先パイのトレーナーじゃね?」

 

 流石にあいつも俺の顔見てたら気づいたらしくて。

 

「こんなトコで何してんの? てか、アルダン先パイほったらかしにして大丈夫なん?」

「……また、一から説明しないとダメか? ニュース見てなかったのかよ」

「うん、それはウチも見たよ? だから今だけ仕事ブッチしてここでバイトしてんでしょ? そしたら、アルダン先パイのところにはいつ戻んの? もーちょい先?」

「その話、さっきパーマーとしたばっかりなんだけどな」

「……トレーナーさん、もうアルダンさんのところには戻らないんだって」

「は!? なんでなん!?」

 

 パーマーから言われた瞬間、めちゃくちゃ詰めてきてさ。

 

「戻らんの!? なんで!? え、イミわからんくない!?」

「……あんなことした手前、戻れるわけねーだろ」

「そしたら、アルダン先パイはどーすんの!?」

「どうするって、そりゃ……他のトレーナーでも適当に見つければいい。それこそ、俺よりもっと上手くやれる奴なんてあそこには無限にいるんだし。そいつらに任せれば、あいつも満足に走れる。だろ?」

 

 今思えば、それも自分を我慢させるための言い訳だったのかもな。

 そしたらさ。

 

「なんその言い訳、ダサっ!」

 

 気持ちいいくらいハッキリ言われたよ。

 

「ダ……は? お前、いきなり何て……」

「あのさ、アルダン先パイがトレーナーのことめちゃ好きなの知らんの? もう見るからにベタ惚れの超ラブじゃん? なのに、急にそんな言い訳してバイバイするとかイミわからんでしょ! ヒドすぎてマジありえんし!」

「いや……だって、その方があいつのためだと思って」

「そしたらトレーナーは? トレーナーはアルダン先パイのこと好きなん?」

「さっきから何の話してんだよお前は!」

「いいから答えろし!」

 

 そっからはもう、ほとんど向こうのペースでさ。

 パーマーもそりゃ当たり前だけど、ヘリオス側だったから助けてくれなかったし。

 だから、結局。

 

「……別に、嫌いなワケじゃねーよ。これからもあいつのことは応援してる。どっかで成功してほしいとも思ってるし、もっと上に行ってほしいとも思ってるよ。つまり……まあ、その。何だ」

「好きじゃんね」

「ちげーよ」

「好きじゃんね!?」

「ちげえって!」

 

 グイグイ来るもんだから、その勢いに無理やり流されちゃって。

 

「こんなん両想い確定じゃん! そしたらヘンな言い訳とかマジいらんから、さっさとアルダン先パイのとこ戻れし! いっそのこと、そのまま告って付き合っちゃえばいーじゃんね!?」

「だから、戻りたくても戻れねーって言ってんだろ……」

「うるせー! 好きピのためなら死ぬ気でガチれ! アルダン先パイに寂しい思いさせんなし!」

 

 終いには、そんな無茶苦茶なこと言い始めたよ。

 でも、まあ。

 

「……悪いな」

「っ……!」

「お前らに言われて躍起になれるくらい、俺が子供(ガキ)だったらよかったんだけど」

 

 結局、俺は大人だから。大人に、なっちまったからさ。

 あの時の俺には、そうとしか言えなかったんだよ。

 

「……やっぱり、考えは変わんない?」

「ああ。……何度も言うけど、仕方ねーんだって。ごめんな」

 

 パーマーがそうやって聞いてきたけど、俺にはそうやって謝ることしかできなくて。

 そしたら。

 

「……アルダンさんが自分で、トレーナーさんを迎えに来たとしても?」

 

 まあ、ヘリオスの友達ってだけあるよな。

 パーマーもそんな無茶苦茶言い始めて。

 

「だとしても、他の連中が許すわけねーだろ」

「それなら、そういう大人たちを全員、納得させればいいんだよね?」

「……本気で言ってんのか?」

「うん。ま、こういう言い方を私がするのもちょっとアレだけど……私たちは、メジロ家だから」

 

 他の連中が言うなら、まあ脅しだなくらいに思ってたんだけど。あのメジロパーマーって生徒が、わざわざ口にしたってことはたぶん、マジなんだろうなって。少しだけビビったっていうか、驚いたところではあったよ。

 だから、乗せられた、って言うのが一番正しいのかな。

 

「……どうしてもって言うなら、URAの代表と学園の理事長、メジロ家の婆さん全員に話つけた上で、あいつ自身の脚で連れ戻しに来な。そしたら俺、あいつが引退するまでずっと面倒見てやるよ」

 

 自分で思い返してみると、すげー滅茶苦茶なこと言ってるよな、俺。

 子供一人でどうにかできる話じゃない。それこそ、大人の俺だって無理だったんだもん。まあ、だからこそっつーか……それくらいのことだ、っていう意味も含めた警告みたいなモンだったんだけど。

 

「言ったかんね!? そしたら絶対だから! やっぱダメとかマジでナシだからね!」

「なんでお前がそんな意気込んでんだよ……」

「……でも、ヘリオスの言う通り。そうすれば、あなたも戻ってくるんだよね?」

「ああ。何なら、レース引退したあとも一生、あいつに付き合ってやってもいいぜ」

 

 いや。

 だって。

 本気じゃなかったからさ。

 どうせ無理だと思ってたもん、俺。

 

「……行こう、ヘリオス」

「おけまる! お屋敷までダッシュで帰ろ!」

 

 その二人との話は、そこで終わり。

 大人げなかったかなー、とは思ったよ。自分から逃げ出しておいて、戻ってきてほしいならこれくらいやれ、って。もし俺が逆の立場だったら、ふざけんな、って思う。でも、それくらいじゃないと向こうも諦めてくれないとも思ったからさ。

 

 ……ああ、そう。

 そっからあの時の話に繋がるんだよ。

 

 

 確かその日、偶然俺たちのシフトが被ってたんだっけ。

 仕事終わる時間も同じだったから、二人で一緒に帰るかー、ってなってさ。

 

「うわ、雪降ってんじゃん」

「家出る時に言っただろ」

 

 あれだけ言ったのにお前が傘忘れたから、仕方なく俺の傘に入れてやって。

 

「そういえば明日、クリスマスじゃね?」

「そうだな」

「ってことはアタシ、クリスマスイヴに元カレと二人で過ごすことになんの?」

「……まあ、そうなる」

「ははっ、何ソレ。……ウケるわー、マジで」

 

 そんな感じで、ライブハウス出てから駅まで歩いてる最中、テキトーに話してさ。

 

「そしたら、クリスマスだし呑むしかねーっしょ」

「いつも呑んでるじゃねーか……」

「いーじゃんいーじゃん、どうせアンタもアタシもヒマなんだから」

「……分かったよ。どうせ俺に拒否権なんてねーんだし、いいよ別に」

「うん、うん。アンタにも奴隷としての自覚がちゃんと芽生えてて何よりだよ」

 

 お前のそのうざったい言い方にも、そろそろ慣れてきた頃で。

 

「それで? 空いてる店の目途、ついてんのかよ」

「え?」

「だから、クリスマスイヴだろ? 店、どこも埋まってんじゃねーの?」

「あー……」

「……何だよ」

 

 その時のお前、珍しくなんか言葉に詰まってたからさ。

 変だな、って思って聞いてみたら。

 

「今日は(ウチ)でいいよ」

「え?」

「だから、アタシん家でさ。二人だけでいいから、呑もうよ」

 

 なんて言い始めたんだっけ。

 

「いいのかよ? この前、なんか穴場みたいなところ見つけたから、そこ行こうって……」

「まー……たまには宅呑みってのもアリでしょ? それに、ただでさえクリスマスに元カレと一緒っていう終わってる状況なんだからさ。ここまできたら、とことん逆張りしてみよーよ」

「……お前がいいなら、いいけど」

「よっしゃ決まり! じゃあさ、今日はアレ開けちゃおうよ。この前買った高いやつ」

「なら、適当に食いモン買ってくか……」

 

 そんな感じで駅に行く途中のコンビニ寄って、まあ色々と適当に買ってってさ。

 

「……ふふっ」

「なんだよ」

「いや、マジで終わってるなー、って。だって……アンタともう一度、こんな風にクリスマス過ごすとか思ってもなかったし。ホント……あーあ、バカみたいだよね」

「うるせーな……いいだろ、別に。不満かよ、今の生活」

「全然? 何なら、ずーっとアタシの奴隷クンとして働いてくれてもいーよ?」

「……あっそ」

 

 なんて、駅に到着してから、そんな話してる時だったよな。

 

「トレーナーさん」

 

 ……ああ、そうだ。思い出した。

 ヘリオスに言ったときも、そうだったけど。

 俺、別にあいつのことは嫌いじゃねーんだよ。

 そりゃ、性格は終わってるし、見た目もそこまでタイプってわけでもねーし。

 そもそもお高く止まってる女がどうにも気に食わねーんだよ。

 だから……あいつのことも、気に入らなかった。

 でも。

 

「トレーナーさん……!」

 

 俺、さ。

 あいつの声は、好きなんだよ。

 

 




Q.続きますか?
A.今月はもう無理かも……
 来月頭にワンチャンいきます
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