メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】 作:宇宮 祐樹
次はもうちょい早く更新したい~いつも言ってる気がするけど
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「……なんでここにいるんだよ、お前」
思い返してみれば、かなり突き放した言い方だった。
だってあいつはもう、二度と俺の前に現れないと思ってたから。
……期待なんて、これっぽっちもしてなかった。
とっくに俺のことなんか見限って、俺の知らないヤツとよろしくやってると思った。
それでいつか、あいつがデカいレースに勝って、その功績が俺の耳に届いてくれれば……それだけでよかった。あいつが頑張ってるんだ、って……ちょっとだけ安心できれば、充分だった。
諦めたつもりだったんだよ。あいつと俺の関係はもう終わり、この先の人生で関わることは一切ない、って納得したつもりだった。だから、あんな無茶な要求もしたんだ。俺なんかのことは見捨てて、さっさと前に進んでくれればよかった。今更、俺のところに戻ってくる必要なんてなかったのに。
ああ……そうだ。
会いに来てほしくなんか、なかった。
顔も見たくなかった。声も聴きたくなかった。
……トレーナーなんて、二度と呼んでほしくなかった。
それなのに。
「いけませんか?」
あいつ、今にも泣きだしそうな声でさ。
雪も降ってるっていうのに、傘も差さないまま、俺のことじっと見つめながら。
そうやって、言ってきたんだよ。
「パーマーから聞かなかったのか? 俺に会いに来るなら、メジロ家の婆さんと学園の理事長、URAの代表に話つけて納得させてこい、って伝えたはずだぞ」
「はい、そのように聞きました」
「……だったら、猶更お前がここにいる意味がわかんねーよ。まさかとは思うけど、俺の言ったこと無視して会いに来たんじゃねーだろうな。お前が顔を見せれば、俺の考えも変わるとでも思ったか? ……だとしたら、今すぐ帰れ。お前のそのワガママにはもう……うんざりなんだよ」
まあ、正直さ。
その時の俺からしたら、あいつが言いつけ通りにして会いに来たなんて、思えるわけなかったのよ。
あいつの性格上、っつーのもあるし……何より、俺の出した条件はそんな簡単に解決できるモンじゃない。それこそ、一人の生徒がどうにかできるわけないって思ってたからさ。
だから、あいつは俺の言うことなんて無視して、無理やり俺に会いに来たと思った。
顔でも見せれば考えも変わるだろう、なんて甘い考えで来たんだろうな、って。
それが分かってたから、ああやって突き放すような言い方になった。あいつのそういう態度にイラついたってのもあるし……何より、そうすればあいつも諦めてくれるって思ったから。
でも。
「…………………………」
あいつは引かなかった。
ただじーっと、何も言わずに俺のことを見つめてきてさ。
……最初は、どうしようもなくなって、意地でも張ってるのかと思った。
だけど、あいつの目を見てるうちに気づいたんだよ。
「……まさかお前、マジで言ってんのか?」
「はい」
あいつは、本気なんだって。
「話は全て、終わらせてきました」
信じられるわけなかった。
だって……無理だろ、普通に考えたら。あいつがメジロ家の一員だってことを加味しても、一人の生徒がどうこうできる話じゃない。仮に何かしらの納得させる手段があったとしても、こんなに早く話が纏まるわけがないだろ。だから……あいつの言うことなんて信じられるハズがなかった。
「おばあ様はあなたを迎え入れることに賛成しました。理事長と代表ははじめ、反対していましたが……おばあ様のお考えになった案を提示したら、お二人とも納得していただけました」
「……その、案ってのは何だよ?」
「それについては、おばあ様から直々にお話があるとのことです」
その時点で、どうせロクな考えではないと思ってたけど。
「トレーナーさんの仰っていたことは、全て終わらせてきました。ですから、こうして会いに来たんです。私自身の脚で、トレーナーさんをお迎えに来たんです。……いけませんか?」
そんなこと言われたら、こっちも何も言えなくなっちゃって。
……いや、言うべきことはあったんだろうな。
でも、そうやって言い切るだけの準備っていうか……勇気が、なかった。そうだよ。だって俺は、あいつのことを諦めきった直後なんだから。もう一度、あいつと一緒にやってけるなんて……思えなかった。
だから、何とか間を持たせようと思ってさ。
「つーか……俺がこの駅使ってるってのは、誰から聞いたんだよ?」
まず気になったのは、そこだった。
俺のバイト先はパーマーから聞いたとしても、俺がどこに住んでるかってのは話してないはずだ。それに、あのライブハウスの近くにはもう一つ駅があるし、別んとこには地下鉄も通ってる。むしろ利用者が多いのはそっちの二つだろ? なのにわざわざこの駅で俺に会ったってのは……言っちゃえば不自然ってか、おかしかったから。
そしたら、あいつ。
「……昨日は、こことは反対側にある駅でした」
「え?」
「一昨日は地下鉄。その前の日はまた、この駅で。……毎日ずっと、終電まで待ってました」
「……まさか、俺に会うまでずっと続けるつもりだったのか?」
「はい。だって、トレーナーさんが言ったことですから。私自身の脚で会いに来い、と」
呆れてモノも言えなかったよ、その時は。
つまりあいつは、どこに住んでるかも分からない俺に会うために毎日、別々の駅を巡りながら俺のことを待ってたんだよ。そうすればいつかは俺に会えるかもしれない、って思って。……ほんと、バカじゃねーの。
それで、俺がシフト入ってる日と、あいつがこの駅で待ってる日がちょうど、重なったわけで。
……もっと他に、やり方はあったはずだ。
それこそ、俺の言ったことなんか全部無視して、バイト先に乗り込んでくるくらいのことはすると思った。それで、俺のことを無理やり学園に連れ戻して……そのまま俺をトレーナーに戻すことも、できたと思う。
でも、あいつはそうしなかった。多分、それじゃ意味ないって思ったんだろうな。俺を連れ戻して元通りにするんじゃなくて、逃げ出した俺を迎え入れて……その上で、また俺と一緒にやり直すつもりでさ。
「トレーナーさん」
結局あいつは俺の言いつけ通り、メジロ家の婆さんと理事長、協会の代表を納得させて。
その上、ちゃんと自分の脚で俺のことを迎えに来て。
そこまでされたら、断るための言い訳なんて見つかるはずねーじゃん。
「どうかもう一度、私の隣で……同じ道を、共に歩んではくれませんか?」
なんて、俺のことをまっすぐ見つめながら言ってきて。
……お前が口を挟んできたのは、丁度それくらいだったっけ。
「ちょっとー、アタシのこと無視して勝手に話進めないでくれる?」
あの時のお前が何考えてたのかは、正直よく分かんねーよ。
でも、少なくとも俺を手放したくないってのは何となく伝わってきた。俺がお前にとって都合のいいヤツだったからなのか……それとも、もっと別の理由があったのかは知らねーけど。それだけは理解できた。
「あなたは……トレーナーさんとは、どういった?」
「んー、分かりやすく言えばコイツのご主人様、ってとこかな? 今んとこ一緒に住んでるんだけど、色々とアタシの世話させてんだよね。ま、ぶっちゃけ奴隷みたいなモン。気持ちよく過ごさせてもらってるよ」
「……まあ、そうだったんですね」
だってそうでもなきゃ、あんな風にあいつにつっかかってねーだろ。
「それで、君が例のアルダンちゃん? ふーん……」
「……どうか、されましたか?」
「いや、意外だなーって。だってアンタみたいな子、コイツが一番毛嫌いするタイプだからさ。どういう経緯で二人が知り合ったのか気になっただけ」
「それは……」
「あ、いいよいいよ。そういう話は後でコイツから聞き出すから。それより……」
そこで一度だけ、俺の方を見てから、お前はあいつに聞いたんだよ。
「どうしてアルダンちゃんは、そんなコイツに執着してんの?」
「え?」
「だってさ? 自分のとこから勝手に逃げてった男だよ? 普通、追いかけたりしなくない? 寧ろアタシだったら、二度とそのツラ見せんじゃねーぞクソボケ野郎! って感じでさ、自分から会いに行くなんて絶対しないけどね。だって……そんなヤツのことなんて、きれいさっぱり忘れた方が自分のためになるよ、きっと」
「……そうですね。確かに、あなたの言う通りかもしれません。トレーナーさんのことはもう諦めて、私たちはそれぞれ別の道を進んでいく……もしかすると、それが一番正しい選択だったのかも」
「でも、アルダンちゃんはそうしなかったじゃん。それこそ、わざわざこんな学園から離れたところまで、このクソ野郎を追いかけてきちゃった。……どうして? どんな理由が、アルダンちゃんをここに立たせてるの?」
相手はまだ、十六とか七とかの子供だってのにさ。
遠慮も手加減も無しに、ずんずん詰めていって。
「顔がタイプだったから? ちょっとチャラついたお兄さんが好みだった?」
「……違います」
「じゃあ、自分にとってどうしても必要だったから? コイツがトレーナーじゃないとレースに勝てない、とか、なんかの手続きでどうしてもコイツの名前が必要だとか、そういう話?」
「そういった訳、では……」
「だったら何なのさ? 早く教えてよ。どうしてアルダンちゃんは、コイツをまた自分のトレーナーに戻そうとしてるの? どうして……アタシからコイツを奪って、自分のモノにしようとしてるの?」
「おい……!」
そこまでいったら、流石に俺も見てられなくって。
「何も、そんな言い方しなくたっていいだろ……」
「でも、この子がやろうとしてるのはそういうことだよ。確かにアンタに会いにここまで来たのは、ちゃんと手順を踏んだ行動だったのかもしれない。だけどこっから先は、この子がどれだけ自分のワガママをアタシに突き通せるかの話だ」
「だからって……向こうは
「あのね、言っとくけどアンタが思ってるほどこの子は子供じゃないよ。今から自分のやることがどういう意味を持ってるかなんて、ちゃんと分かってる。その上で、この子はアタシの前に立ってるんだ。だから、アンタが余計な心配する必要なんかないの。寧ろこの子の邪魔になるだけ」
「……じゃあ、何だ。俺はお前らの話に口出すなってことか?」
「そーだよ。男は黙って引っ込んでな。これは
そうやって言ってる時のお前、今まで見た中で一番真面目な顔してたよ。
普段の酒呑んでる姿がウソみたいに思えるほど、すげーちゃんとした目ぇしててさ。
……こう言っちゃ何だけど、ああ、お前ってこんな
「それで? どうしてコイツじゃなきゃダメなの?」
だから黙って聞いてたんだよ。
あいつの言葉を。
「……約束、したんです」
「約束?」
「はい。私がトレーナーさんを必ず、救ってみせると」
「救うって……何から、どうやって?」
「それは私にも分かりません。トレーナーさんが何に追い立てられているのか、何を恐れているのか……どうすれば救われるのか。それはきっと、トレーナーさん自身に訊ねても分からないものなのでしょうね」
「曖昧だね。そんなことのために、アタシからコイツを奪うつもり?」
「ええ。確かにあなたの言う通り、この約束はとても曖昧で不確かなものです。そしてあなたから見た私は、トレーナーさんを預けるに値しない、世間知らずで向こう見ずなお嬢様なのかもしれませんね。でも……一つだけ、はっきりと分かっていることがあるんです」
「……それって?」
「トレーナーさんを救うことができるのは、きっと私だけなんです。だから、私はここにいます。また、トレーナーさんを救うために」
……ああ、そうだ。
ずっと勘違いしてたんだ。
俺が逃げ出したあの日に言ったみたいに、俺にはあいつしかいない、だけどあいつには俺じゃなくてもいい、って……そう思ってた。悔しいけど、それが現実なんだって無理やり自分を納得させてた。
でも、違ったんだよ。
俺と同じで……あいつにも、俺しかいなかったんだ。
「コイツを救えるのは私だけ、ねえ? ……ふーん」
そこでお前が、ちょっとだけ何か考えた後に。
「またすぐに逃げ出すかもしれないよ? 今回よりも、もっとずっと遠くに」
「そうなったら、私もまた追いかけるだけです」
「今度は拒絶されたら? アルダンちゃんのところなんかに戻りたくない、顔なんか二度と見たくもない、今の俺はここがいいんだ、なんて言われたら……どーすんのさ?」
「その時は……トレーナーさんが納得するまで、何度も説得します。どれだけ長い時間がかかったとしても、諦めるつもりはありません。私はずっと、トレーナーさんが戻ってくるのを待ち続けます」
「……そっか」
お前、笑ってたよ。
いつもみたいなバカ笑いじゃなくて、ちょっと寂しそうな感じで。
ああ……そうだ。思い出した。
初めてお前と二人きりになった、あの時に見た笑顔と一緒だった。
「……ちょっと」
「何だよ」
「いいから一回こっち来な」
そんで、急にお前がそうやって手招きしてきたからさ。
ああ、ようやく俺にも発言権が与えられたのかー、って思って、言う通りにしたわけ。
そしたら。
「オラァ!」
腹パンしてきたんだよな、お前。
「痛ッ……はぁ!? お前、マジでいきなり何して……!」
「うるっさい! アンタほんっとにクズだよね! こんな素直でいい子ほったらかしにして、何ノコノコ
「なんでお前がそんなキレてんだよ!」
「この子の代わりにアタシがアンタのことボコしてやってんだよ! あのね、この子が今までどんな気持ちでアンタのこと待ってたか分かってんの?! この、このっ! いっぺん死んで詫びろ、クソ野郎!」
これ、前々から疑問に思ってたんだけどさ。
なんでお前って、あんな力強ぇの?
あの時の俺、一切お前に抵抗できなかったんだけど。
どこでそんな鍛えたんだよ。筋トレとかしてんの?
…………え? ベース弾いてるから?
ベーシストってみんなお前みたいな感じなの?
あの楽器、そんな弾くのに筋肉いるの?
「……うむ、スッキリ!」
そんな感じで、一通りボコボコにされた俺は地面に這いつくばってたの。
雪降ってるから地面も冷たかったし、もう最悪だったって。
だから俺が持ってた傘も当然、地面に転がってたんだけどさ。
そしたらお前が、その転がってた傘を拾い上げて。
「はい。この傘、アルダンちゃんにあげる」
「え……」
「女の子が体冷やしちゃダメだよー。……この雪の中、ずっと待ってたんでしょ? ほんと、あんなクソ野郎のためによくそこまでやれるよね。お姉さん、感激しちゃったよ」
「……ありがとうございます」
「それと、そこで寝っ転がってる
「人のことコレとか言うな……つーか俺、お前のモンになったつもりはねーよ……」
「黙れ! アンタみたいなゴミはコレとかソレとかで充分なんだよ!」
そこでまた、お前が俺の顔面蹴り上げてから。
「アルダンちゃんはもう分かってると思うけど、コイツはとびっきりのクソ野郎だから。付き合ってくのは大変だと思うけど……でも、アルダンちゃんなら大丈夫そうだね。応援してる」
「……はい。必ず、トレーナーさんとの約束を果たしてみせます」
「うん、いい意気込み。そんなアルダンちゃんに、いくつかアドバイス。多分コイツ、また今回みたいに逃げ出すかもしれないから……そうならないように、首輪でもつけとくといいよ。それと、まあ……うん。もうアタシはコイツで散々楽しませてもらったからさ。アルダンちゃんがしたいなら、
「っ……そ、それって」
「あはは、冗談冗談。なんでもないよ」
……そういえば!
アレ、元を辿ればお前の入れ知恵だったんだな!?
首輪だのなんだのって、ふざけたこと言いやがって……!
そのせいでこっちは今現在でも大変なことになってんだよ!
ほんと、余計なこと吹き込みやがって……。
「ま、お前……傘はどーすんだよ」
「自分のあるからいらねーよ」
「……は?」
「アタシはもう、アンタに傘なんて差してもらう必要なんかないの」
あの時のお前、カバンの中に折り畳み傘持ってたんだよな。
それも、自分の身だけ何とか守れるくらいの、一人用のちっちゃいヤツ。
「それと、この通帳も。アンタに返しとく」
「これ……中身ほとんど減ってねーじゃねーか」
「アンタねえ、あんまりアタシのこと舐めんなよ? 他の女が稼いだ金を使うほど、こっちは生活に困ってねーんだよ。使ったのはアンタの分の生活費だけ、だから、貸しも借りもナシってこと。いい?」
「……お前」
「変な勘違いすんなよ。じゃあ、アタシはもう行くから」
そうやって俺が何か言う前に、お前はもう後ろを向いて。
「あばよ、クソ野郎。せいぜいお幸せに」
なんて吐き捨ててから、一人でさっさと駅のホームに消えていってさ。
「痛っ……あの暴力女、本気で殴ってきやがった……」
「大丈夫ですか?」
「平気平気。いつだったっけ、お前が俺から無理やり携帯取り上げたときよりかはマシだよ」
「……ふふっ、そうですね。そんなこともありました」
「さては反省してねーな、このクソガキ……」
そこで久しぶりに、そんな感じであいつと話したんだけど。
何も変わってなかったよ。いつも通りのあいつだった。
……本当は文句の一つでも言いたかったはずなのに、あいつはそうしなかった。でも、そうだな。無理してるわけじゃなかった。こんなことを俺から言うのも何だけどさ。そうやって感情をぶつけるより、俺と話してること自体を喜んでるみたいで……まあ、そういうことだったんだよ、きっと。
「にしてもお前、マジであのバアさんたちに話つけてきたのかよ?」
「あら、まだ信じていただけないのですか?」
「そりゃな。まだ証拠も何も見せてもらってねーし。お前が俺のことどうにか丸め込もうと企んでる可能性も、あのクソババアがお前ごと俺を誤魔化してる可能性もある。もし本当にそんな感じだったら、今度はマジで地元まで帰ってやるからな」
「では、トレーナーさんがこうして今、私と話を続けてくれているのはどうしてですか?」
それは……。
「……あんな無茶苦茶な条件、普通のヤツなら無理だって諦めるはずだ。来るな、って言ってるようなモンだし……実際、俺もそのつもりで言ったんだ。お前だって、そういった意図が分からないほどバカじゃないだろ? だけど、それを理解した上でお前はここに来た。何としてでも、俺のことを連れ戻すために。そのためには相応の覚悟と決意が必要だったはずだ。……それに応えられないほど、まだ俺は腐ってないって思いたい」
「トレーナーさん……」
「それに、お前ならもしかしたら、ってどっかで思ってる自分がいるんだよ。目の前にどんな分厚い壁があっても、それをぶち壊して自分を貫き通す……俺の知ってるメジロアルダンってウマ娘はそういうヤツだった。だから……それに賭けることにした。俺の今後の人生、全部お前に突っ込んだ大博打だ」
「……大丈夫です。後悔はさせませんよ、絶対に」
「そーかよ。だったら、今のところは降参だ。俺のこと、煮るなり焼くなり好きにしな」
言った通り、こっから先は本当に博打だった。
何が起こるか分からない。あいつの手のひらで転がされてるだけなのかもしれないし、仮にあいつの言うことが本当だったとしても……また、失敗するかもしれない。それこそ次やらかしたらいよいよ、俺の人生が終わる可能性だって全然ある。
そんな俺のこれからを、まだ二十歳にもなってない
……でも。
「戻りましょう、トレーナーさん」
「……ああ」
あんな嬉しそうな笑顔見せられたら、なあ?
もう、あいつに俺の全部を任せるのも悪くないかもな、って。
そう思ったんだよ。
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そんで、とりあえず電車に二人で乗ったんだけどさ。
正直、時間的にかなり微妙なところだったのね。
「……メジロ家の保養所ってまだ空いてるっけ?」
「トレーナーさんがお戻りになられたと伝えれば、皆さんすぐに出迎えてくれますよ」
「でも、こっからって考えると……いや、流石に遠いな。それに、あの人たちをこんな時間に振り回すのはちょっと気が引けるし。かといって学園の寮も門限過ぎてっから、色々バタバタさせちゃうだろうし。……今まで勝手なことしてたのに、帰ってきた途端にまた騒がしくさせんのもなあ」
「それでしたら、屋敷の方はどうでしょう?」
「あー……確かにこっから距離も離れてないし、時間的にもまだ大丈夫そうだけど……」
「けど?」
「どうせあのクソババアを筆頭に色々言われるだろうからヤダ。一応俺、今日フルタイムで入ってたから疲れててさ……せめて、説教だの何だのは明日以降にしてほしいんだよなー」
まあ、そんな感じであっちもダメ、こっちもダメみたいに話してたのよ。
いやでも、実際そうなるじゃん。確かに戻るならさっさと戻った方が俺も向こうも楽だとは思うけど、にしたってもうちょっと時間が欲しかったっつーか……何より、戻って早々あのクソババアに色々言われるとか地獄だろ。少なくともそれだけは絶対に避けたかったから、こっちも色々と考えてたわけ。
その上。
「ん…………」
「……眠いんなら寝てていいぞ」
「でしたら……少しだけ、肩を貸してください」
「ああ」
「……ありがとうございます」
思えばあいつは、終電ギリギリまで毎日俺のことを待ってたんだ。しかも、十二月っていう真冬の時期に。……疲れが溜まってないわけがない。一刻も早くゆっくり休ませて、安心させてやりたかった。
そういうことも含めて行き先を考えた結果、アテが一つだけ見つかって。
「……そろそろ降りるぞ」
「え? ……あ」
「眠いかもしれないけど、もう少しだから頑張れよ」
保養所と学園の寮はこの時間じゃ空いてないし、屋敷も遠いからダメ。最悪、そこら辺のホテルでってのも考えたけど……ほら、あの日はクリスマスだったから。
「ほら、改札出て五分もかからないから」
「……どこに、行かれるのですか?」
だから、まあ……うん。
「俺ん家だよ」
仕方なくない?
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Q.続きますか?
A.今月中にできたらもう一回!