メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】   作:宇宮 祐樹

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おれ「はい……」



02

 

 それでまあ、次の日も同じように学園に出勤したんだけどさ。

 

「おはようございます」

 

 ()()んだよね、もう。俺の部屋に。朝イチで。

 いやまあ、俺の部屋がどこかくらい、たづなさんとかに聞けば分かる話ではあるんだけどさ。だからって、朝っぱらから来るか普通? どんだけやる気あるんだよ、って話だよね。そりゃ、ないよりはマシだけど……。

 

「あ……おはよー」

「いつもこの時間に来られるんですか?」

「え? あー、うん。朝は弱くてね」

 

 ウソだ。本当はもっと早い時間に出勤してるけど……正直、今日はあんまり出勤したくなかった。昨日のことを引きずってるのもそうだし、何より今日顔を出したら絶対、こいつと顔を合わせることになるから。

 でも、出勤しないと怒られるからなあ。それに、途中でこいつをほっぽったら、メジロ家に何されるかわかんねーし。この時の俺はもう、こいつの面倒を見ることしか道は残されてなかったんだよ。

 

「……ま、今日からよろしくね。アルダンちゃん」

「ええ。よろしくお願いします、トレーナーさん」

 

 ……トレーナーさん、って。

 自分の担当する()にそうやって呼ばれるの、ぶっちゃけ憧れだったんだけどさ。

 その時だけはもう、やめてくれ、って感じだったよね。

 

「つーか、朝練とかよかったの? 他のみんなはしてるけど」

 

 まず気になったのは、そこだった。こんだけやる気があるなら、俺の到着とか待たずに普通に練習してくれりゃよかったもん。俺の指導がどんな感じなのか確認したい、ってなら話は分かんなくもないけど……別にそれ、午後でもいいし。わざわざ俺のこと待たなくても、よかったんじゃないの、って思ってさ。

 そしたらこの子、答えたのよ。

 

「朝は……あまり、身体の調子が良くなくて。朝練は控えてるんです」

「……あ、そう」

 

 どんな顔すりゃいーんだよ、って話だよね。

 もう、嫌気っつーか……あっそ! はいはいそーですか! ケッ! って感じ。いや、もちろん顔には出してないけど……朝からそんなこと聞かしてくんなよ、って思ったよね、そりゃ。

 幸先不安だな、とか思いながら、とにかく今朝は契約の書類と手続きの説明しようかな、って思って書類を渡したのよ。これとこれに名前を書いて、あとは事務室まで持っていけば向こうで何とかしてくれるから、って。それでまあ、書類は受け取ってもらって、じゃあまた午後ね、ってつもりだったんだけど。

 

「………………」

「………………」

 

 帰んないの、こいつ。何なの?

 ……今思えば、この頃からこいつのからかい癖は健在だったんだ。いや、もう……マジでいい根性してるわ、こいつ。ほぼ初対面でコレだぜ? 肝が据わってるっつーか、なんつーか……やってるわ、ホント。

 でも、その時の俺はこいつのからかい癖とか知ってるワケねーから、対応の仕方とか分かんなくて。

 

「……えーっと」

「…………」

「その、授業とか始まるだろうし行かなくていいの?」

「まだ時間がありますから。もう少し、ここでゆっくりしていこうかな、と」

「あ、そう……」

 

 何考えてんのかわかんねー、ってのがその時の俺の感想だった。

 まあ……住んでる世界が違うっていうかさ。向こうは名門のお嬢様で、俺はどうにかこうにかでトレーナーになれた出来損ない予備軍って感じだし。そもそも、釣り合いが取れてねーよって話で。

 

「そういや、二週間後の選抜レース出るんだって?」

 

 とにかく会話を続けることにした。だってそうしないと、沈黙に耐えられなかったから。……いや、違うわ。これ以上沈黙が続くと、こいつと俺との差を感じざるを得ないから。それが、嫌だった。

 あとレースの話、本当は午後練の時に聞くつもりだったけど、時間がある今のうちに聞いとくのもアリかな、って思ったし。

 

「はい。私に残された時間は、限られていますから」

「そーなん? ……大変だね、ホント」

「ですが、悔やんでも仕方のないことですから」

 

 いやまあ、その心持ちっていうか、信念は立派だとは思うけどさ。

 こっちからすればやっぱり、あーはいはいって感じで流したのね。

 それで、早速聞いたのよ。

 

「どのコースに出るつもりなの?」

 

 そしたらそいつ、なんて言ったと思う?

 

「ダートの一二〇〇メートルに挑戦しようと思っています」

 

 アホじゃないの?

 あのさ、こいつの適正さ、芝の中距離なんだよ。短距離はおろか、ダートコースとか走ったことないの。なのにそんなこと言いやがってさ。いや、何考えてんの? って話だよね。マジで意味不明だったわ。

 ただヤバいことに、世の中にはもっとアホがいてさ。

 

「あ、そーなの? じゃあ頑張らないとね」

 

 まあ俺のことなんだけど。

 いや、実は当時の俺、こいつの適正とか脚質とか一切知らなかったの。もうなんつーかさ、終わってるよねホンキで。あの場にたづなさんがいたら泡吹いてぶっ倒れてたと思う。バリバリ適正外のコースに挑戦しようとするアホと、自分の担当になるウマ娘の適正把握してないアホがいるもん。

 

「……止めないのですか?」

 

 今考えるとこの質問の意味、かなりマトモだったんだよね。え、お前マジ? みたいな感じで、まさかあいつもゴーサイン出すとは思ってなかったみたいでさ。めっちゃびっくりしてた。

 でも当時の俺からしたら、そんな質問の意図なんて分かるわけないじゃん?

 

「ま、何とかなるっしょ。やれるだけやってみようよ」

 

 だから軽いノリでそんなこと言っちゃったの、俺。

 いや、やれるだけってのは……その、ほら。俺まだ経験は浅いけど、まあ全力は尽くしてみますよって意味でさ。まさかそんなアホみたいな挑戦するとか思ってなかったもん。まーイケるっしょ的な雰囲気だったの。

 でも向こうはそれ以上の意味を感じ取っていたみたいでさ。

 

「……わかりました。あなたが、そう仰るのなら」

 

 覚悟キメてた。いや、そりゃそうだよね。アホみたいな挑戦するのにノってくる奴がいたらさ。そりゃもう行くに決まってるっしょ。問題は、そのノってくる奴がマジで何も考えてないアホってだけで。

 

「トレーニングメニューについては、個人的に纏めておいた資料が残っているのでそちらをご確認ください」

「あ、自分でメニュー作ってんの? めっちゃ偉いね、アルダンちゃん」

「たづなさんにも話は通してあります。もしよければ……」

「あー、はいはい。分かんなかったら聞いとくわ」

 

 いやもう……ほんと何も考えてないね、この時の俺。自分で思い返してみても、担当に最悪な態度取ってるもん。トレーナーとして終わってるよ。

 でも、当時のあいつもとやかく言わなくてさ。

 

「それでは、私は授業があるのでこれで失礼しますね」

「はいよ。勉強がんばってね~」

 

 あいつの資料を確認したのは、それから一服してからだった。

 とにかくまあ、丁寧に纏められててさ。トレーニングする時のテンポとか、回数とか呼吸量とか……いちいち記録してあんの。そこに関しては俺、めっちゃ感動したんだよね。偉いどころの話じゃなかった。

 

「……エグ、何これ」

 

 だってさ、自分の身体が弱いから、って何もしないんじゃなくて、その身体でギリギリ攻めてるんだよ? 普通できないでしょ。他の娘でもやれない……ほんと、その諦めの悪さっつーか、意地があいつの武器なんだ、って思ったね。これもハズいから本人の前で絶対言わないけど。

 まあ、見直したっていうか……一瞬だけ、あ、もしかしてイケるんじゃねって思ったんだよ。

 

「得意なのが、芝の中距離……しっ、芝の中距離!?」

 

 脚質と適正のデータ見るまでは。

 

 

 それから、あいつに言われた通りたづなさんのところに行って。

 

「俺にどうしろっつーんですかこんなの」

「私のセリフですよ、それ」

 

 一連の話を聞いてから答えたら、そんな言葉を返された。

 たづなさんもあいつのことは個人的に気にかけてたらしくて、ダート短距離に挑戦することは知ってたらしくて。ただまあ、あの人の立場上レースに出るな、とか言いづらいみたいでさ。

 

「私としては、あなたが止めてくれると思ったんですが」

「無理っすよそんなの。だって当主のお婆さまから言われてるっすもん、俺」

「……言われてる、って?」

「え? いや、ダート短距離で勝たせないと担当にさせない、って……アレ? たづなさんに話、通ってないんですか? 俺はてっきり、もう知ってるモンかと」

「いえ……私はただ、しばらくアルダンさんの面倒をあなたに見させる、とだけ」

 

 あのおばあちゃん、マジでやってんな。

 つーかこれ、アレだろ。向こうも向こうで、あいつがハズレなこと知ってて俺に押し付けるつもりだろ。これであいつがマトモなウマ娘だったら、願ったり叶ったりだったんだけど……やってることはハズレの押し付け合いだからなあ。マジで不毛だし、何とかして担当から外れるような方法ねーのかな。

 

「とにかく、頑張ってくださいね。私もできる限りで協力しますから」

「いや、ほんとありがとうございます、マジで……」

 

 とりあえず、たづなさんとはそこで別れて。

 そのあと午後練が始まるまで俺は、なんとかしてあいつの担当候補から降りる方法を考えてたわけ。

 まず、シンプルに練習見ない、ってのは勿論アウトでしょ? そんなの問答無用で東京湾コースだし。んで、お婆さまにやっぱ担当やめます、って直接言うのもアウト。東京湾。

 だからって、マトモにやっても勝てるかどうか分かんねーし。つーかほぼ無理だろ。芝中距離に適正あるヤツが、ダート短距離走って勝てるわけねーもん。

 ……でもその時の俺、気づいたのよ。

 

「そもそも、勝たせなきゃいいのか?」

 

 ギリギリ入着とかで済ませれば、事足りるんじゃねーの、って。

 そりゃ、お前ダメだったじゃん、とか、その程度で担当に立候補したのか、とか色々言われるとは思うけどさ。でも、流石にそれで東京湾に沈められるとか、トレーナー資格の剥奪とかはない気がするんだよ。

 せいぜい、あいつは不出来なトレーナーだ、とか、メジロ家に手を出した身の程知らず、とか言われるだけで。いや、そりゃキツいし今後のキャリアにも関わるだろうけどさ。海の底に沈むよかマシだと思ったの。

 それに何って、テキトーに指導してりゃあいつ、勝手に負けてくれるだろうし。

 

「……決めた。意地でも真面目に指導してやんねえ」

 

 そのあと、その日の午後練の時間になってさ。

 向こうからメッセが来たの。トレーニングルームにいる、って。いやまずミーティングしろよ、って思ったけど、まあ初日だしそれは仕方ないかなってなって。だから、ここは黙って向こうのいうこと聞いたのよ。

 それで、トレーニングルームに行ったら、いた。

 

「お疲れさまです、トレーナーさん」

「あい、お疲れさん」

 

 服もちゃんと着替えて、やる気満々で。尻尾もまー元気そうに振っててさ。どーしよっかなって思ったよね。温度差エグ、ってなって。

 

「資料は確認してくれましたか?」

「え? あー、うん。したした。いや、正直ビビったわ。一人であそこまでやってんのホントすげーよ、アルダンちゃん」

「ありがとうございます。でも……今の私には、そうすることしかできませんから。当然といえば、当然のことですよ」

「あ、そう? そんな謙遜しなくていーのに」

 

 これは、まあ……今だから言えるけど、マジ。

 ちゃんと正しい努力してるんだから、もっと誇ってもいいのに。

 

「そんじゃま、いつも通りのウォームアップから始めよっか。そんで俺、とりあえず今日は見とくだけにするわ。細かい指示は追々って感じでいい?」

 

 まあそれとこれとは別だから、テキトーに指導しようとはしてさ。とりあえず普段通りにやらせようとしたのよ。

 

「分かりました。では、お願いしますね」

 

 向こうもそこは納得してくれたみたいでさ。普段通りに……言っちゃえば、俺が午前中に目ぇ通した資料通りにやってたわけ。その、身体にかかる負担を最小限に抑えつつ、やれるだけやってく、みたいな感じで。文句も言わずにあいつは黙々とトレーニングしてたんだけどさ。

 それ見て、ちょっと思ったんだよね。

 

「……俺、いらねーじゃん」

 

 いや、だってそりゃそーでしょ。

 資料見た時から思ってたけど、一人でこんだけのメニュー組める娘、そうそういないもん。そりゃ、もっといいメニュー組むためには、いいトレーナーが必要だと思うよ。ただ、少なくとも、サブトレ研修終わった直後の俺とか、居ても居なくても変わんねーの。

 悔しいっつーか、なんつーか……やるせなくなっちゃって、さ。

 でもまあ、いいことではあった。だってそのお陰でテキトーに指導してる、ってことがバレないもん。真面目にやっても俺の実力じゃなんも変わんないだろうし。情けねーけど、仕方ないって。

 なんてこと考えてるうちに、そいつは普段のメニューを済ませてさ。

 一息ついてるところに、声かけたわけ。

 

「はい、お疲れさん。体調はどう?」

「大丈夫です。今日はなんだか、調子がよくて……」

「あ、そーなの? なら、もうちょいやっとく?」

「……いいんですか?」

「無理しない程度なら、まあ大丈夫なんじゃない? つーか俺、アルダンちゃんの身体のことまだよく分かんねーしさ。だからそこんとこ、全部任せるわ。……明らかに無理してたら、流石に止めるけど」

 

 これはまあ、本音。

 今じゃあいつの身体の調子とか全然分かるんだけど、当時はマジで知らなかったもん。

 

「……ありがとうございます。では、もう少しだけ……」

 

 あいつ、その時から調子いいときにできるメニューとか、色々と考えてたみたいでさ。俺がそう言ったら、すぐにまたトレーニング始めてんの。よく一人でそこまでやるよね、ホント。偉いっつーか、執念深いっつーか。

 それから結構すぐ……十分くらい経ってからかな。トレーニングルームに色んな人が出入りし始めるようになったのよ。まあ、よくあるっちゃあることなんだよね。各々のスケジュールとかの関係で。

 でも、なんかその日だけは妙に人の集まりが多くてさ。

 

「あれ? アルダン先輩、まだいるの? ってか隣の人、もしかしてトレーナー?」

「ねー。なんか私が来る前からずっと、二人でトレーニングしてたよ?」

「そうなの? いつもならすぐ上がっちゃうのに、今日は身体の調子いいのかな?」

「でもどーしよ、アルダン先輩、普段はこの時間に上がるから譲ってくれると思ったんだけど……」

 

 みたいな感じで、誰かがひそひそ話してる声も、ずーっと後ろの方から聞こえてきたわけ。

 そん時の俺は知らなかったけど、あいつ、ぶっちゃけ後輩からナメられてたんだよね。まあ……仕方ないっちゃ仕方ないよ。だって他の娘と比べて、マトモにレース走れないし、トレーニングも少ししかできねーもん。当然っつーか……うん。変な話、俺があいつの後輩だったら、確実にナメ腐ってたと思う。

 まあ、それは正直いいのよ。トレセン学園(ウチ)って結局、実力主義なとこあるし。レース走れなかったら、そうやって矢面に立たされるのは、たぶん当時のあいつも理解っつーか、覚悟してたと思う。ここってさ、そういう場所だから。

 それよりも、問題だったのはさ。

 

「メジロアルダン……あの娘、今日はまだいるんですね」

「みたいね。でも、大丈夫かしら。もし負担になったら……」

「……本当、レースに向かない身体してますよ。ハンデにしては重すぎる」

「ちょっとかわいそうよね……」

 

 俺たちのこと遠巻きに見ながら、そんな話してるトレーナーがいたことなんだよ。

 

「うっせーなぁ……」

 

 いや、だってさあ。

 俺たち(トレーナー)がそんなこと言ったら、もうお終いじゃん。

 生徒から生徒に言うのは、まだ許せるわ。性格悪いけど、そこは勝負の世界なんだし。

 でも、俺たち(トレーナー)がそんなこと口にするのは違うだろ、普通に。必死こいて努力してるヤツにさ、かわいそう、なんて言っちゃうのありえねーよ、マジ。そんな憐れむくらいだったら、自分から何とかしてやれ、って思ったよね。胸についてるソレ(バッジ)は何のためにあんだよ、って。

 あのさ。もう、この際だからハッキリ言うけどさ。

 必死こいて努力して、何とか自分の夢叶えようって思ってる子供(ガキ)に、大人としての手助けをしてやるのが俺たちの仕事なんだよ。

 それなのに、子供に対してあんなこと言ってるの見てたら……マジ、ぶん殴りそうになったし。

 何より、あいつに大人のそんな情けない恰好、見せてやりたくなかったのね。

 

「ねえアルダンちゃん、まだ体調って大丈夫?」

「え? ……はい。あと少しだけなら」

「そっか。じゃ、今からコース練とかしてみようよ」

 

 まあ、ぶっちゃけここにいると気分悪くなったから、ほとんど俺の都合なんだけどさ。

 

「ほら、行こ行こ。アルダンちゃんも正直、基礎トレだけで退屈してたっしょ?」

「い、いえ……そんなことは……」

「そーなの? じゃ、気分転換ってことでさ。それに今の時間なら、ダートコースだいぶ空いてるだろうし」

 

 そっからはもう、なんか強引に、片付けとかも面倒だし、あいつの手ぇ引いて連れ出したわけよ。

 んで、ダートコースに着いたんだけど、予想通りガラガラで。まあしょーもない噂話するやつもいないし、快適快適ってことで。一息ついてると、今度は向こうから声かけてきてさ。

 

「トレーナーさん、その……申し訳ございません」

「え? いや、何で謝ってんの?」

「私のことを気遣ってくださったんですよね?」

 

 まあ、当然っちゃ当然なんだけど、バレちゃってて。

 でもさー、マジな話、五割くらい俺のためでもあるんだよな。フツーに気分悪かったから場所変えたかったし。それに、ダートコース今のうちに走っとくのも、アリっちゃアリだったからさ。頷くのは何か違う気がして。

 それに何より、こいつに心の内を読まれてるのが癪だったのよ。

 だから、思わず言っちゃったの。

 

「アルダンちゃんさー」

「はい」

「謝るくらいなら、その時間トレーニングに割こうよ。時間、そんなにないんでしょ?」

 

 いや、我ながらあの時の俺、マジでだせーよな。

 普通になんか、もうちょっと言うことあったと思うんだけどさ。でも俺、ああいう時ってどう返せばいいのか知らねーから。なんか、そんな変な意地張っちゃったの。

 でもあいつ、俺にそんなこと言われても、普通に笑ってて。

 

「そうですね。では、もう少しだけ付き合ってくれますか?」

「あいよ」

 

 それから、適当に準備済ませて、少しだけダートコース走らせたの。感覚掴ませるために、二、三周。それで思ったんだけど、あいつ、予想よりはやれてたのね。あー……何だろ。下の上だと思ったら、中の下くらいな? そんな感じ。

 そりゃ、メジロ家のウマ娘として見たらその程度かよ、って感じだったけどさ。ちゃんとトレーニングして、経験詰ませれば、次のレースくらいは頑張れば一着取れるかもな、って思って。

 まあ、マジで思っただけなんだけど。

 

「はい、お疲れー」

 

 とりあえず俺も早く帰りたいから、走り終えたあいつにそうやって声かけてさ。

 

「感覚はどうよ?」

「……そう、ですね。少しだけですが……掴めた、かも」

「ならよかったわ。次からそれ忘れずにやってけたらいいね」

 

 その日に言ったのはそれくらいかな。

 マジで中身ないことだけ言ったのは覚えてるわ。だって、テキトーに指導するって決めたもん。

 ……いや、まあ、言ってること矛盾してる感じはするわ、確かに。

 あんだけトレーナーの仕事だの云々抜かしてる俺が、あいつにこんな適当な指導するのは違和感あるよな。いや、合ってる合ってる。おかしいって思うよ、普通は。

 でもさ、それはそれ、これはこれ、って話なんだよ。

 確かに俺もトレーナーとしてのプライドっつーか、そういうのはちょびっとだけあるけどさ。

 今回に限っては俺、あいつってかメジロ家に騙されてるみたいなモンだからね?

 だからテキトーっつーか……そうなってるわけで。

 ……多分、俺にプライドとかなかったら、そもそも練習とか見てやってねーよ。

 だから、そういう話。テキトーに指導するのが、俺のプライドとの妥協点だったわけ。

 それでまあ、解散して俺もさっさと帰ろうとしたんだけどさ。

 

「その、トレーナーさん」

「……何、どしたの?」

「少し、お耳を貸してもらってもよろしいですか?」

 

 なんか急にあいつ、そんなこと言い出して。他人に聞かれたくないことでもあったのかな? でも周りにそんな人いないし、わざわざしなくてもいいだろ、とか色々思ったけど、とにかく早く用事済ませたかったから、とりあえず言う通りにしてさ。

 そしたらあいつ、俺の耳元でこう言ってきたの。 

 

「助けてくださって、ありがとうございました。かっこよかったですよ、トレーナーさん……」

 

 いやー…………。

 あいつ、声だけはマジでいいんだよな。

 その、何だったっけ。ASMR? あのエッチなやつ。いやエッチなのかは知らないけど。

 そんなことやられちゃって。そしたらもう俺、子供(ガキ)相手にドキドキしちゃってさあ。

 

「また、明日もよろしくお願いしますね」

「あ……うん。またね……」

 

 とにかく、やられっぱなしでその日は終わって。

 そのまま(ウチ)に帰ってから、タバコ吸って思ったの。

 

「……声好きなの、バレてる?」

 

 いや、流石にないとは思うけどさ。でも普通ああいうこと、する?

 でもまあ、多分バレてない。だって今でもよく耳元でこしょこしょ、ってしてくるからさ。多分あいつの癖なんだよ、きっと。いや、絶対そうだって。あいつマトモじゃないから、そういう癖あってもおかしくないでしょ。

 だから、まあ……うん。癖だって、今でも思ってる。

 つーか自分の担当の声に興奮してるとか、トレーナーとして終わってるでしょ。

 もしバレてたら、即行あいつの担当降ろされてるって。

 だからバレてないって。大丈夫。

 …………。

 

 バレてない……よな?

 

 




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