メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】   作:宇宮 祐樹

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なんか二ヵ月も更新空いてた ごめんなさい
プリステの原稿したり、資格の勉強したり、燃え残った全てに火を点けたりしてたらいつの間にかこんなことになってました
ホンマにすいませんでした


23

 

 

「じゃ、最後にもう一度だけ確認するぞ」

 

 大阪杯は……まあ、特に話すこともないな。普通のレースだった。

 

「芝二〇〇〇メートル右回り、ついさっきの発表で天候は晴、バ場は稍重……完璧ってワケじゃないけど、お前にとっては充分、有利な状況だ。だから、変に気負わずいつも通り走れば勝てる」

 

 レースに復帰してから久しぶりのG1ってこともあったから、少し不安はあったけど……やっぱり、その前の愛知杯での勝ちがデカかったんだろうな。だから俺もあいつも、そこまで緊張はしなかったよ。

 

「で、今回のメンツの話になるんだけど……」

「特に注意するべきはヤエノさんでしょうか?」

「だな」

 

 チヨちゃんはあの時期だと、確か安田記念へ向けて色々と準備してたんだっけ?

 いや正直、そのまま中距離路線でガンガン進んでくると思ったから、意外ではあったんだけどね。

 クリークは春の天皇賞のために調整してたから、そのために大阪杯はスルー。

 まあ、距離的にも主戦場じゃないしな。そこはまあ、クリークってより先生の判断だと思う。

 オグリキャップも同じ。大阪杯よりは、春の天皇賞の方を重視したんだろうな。

 そのために長距離の調整も必要だったから、大阪杯を回避するのは妥当だ。

 ……そんな感じで、最終的に残ったのがヤエノだけ。

 菊花賞の時にもヤエノのことを生き残り、って言ったけど、今回もそんな感じで。

 

「なんだか寂しいですね」

「寂しい?」

「はい。もちろん、他の出走者の方々を軽視しているわけではありませんが……やはり、チヨノオーさんやクリークさんのような知り合いがいないのは、どこか寂しい気がします」

「あー……確かにお前ら、クラシックの夏までほとんど出るレース一緒だったしなあ」

 

 改めてシニア級に入ると、やっぱりそれぞれ進む路線も違うわけでさ。

 それにあいつが、子供の頃に体が弱くてマトモに走れなかった、って話は何度もしてると思うけど……だから、その反動っていうかなんて言うか、友達と一緒にレースするのも、楽しみの一つだったみたいだし。

 

「まあ、仕方ないだろ。時期が時期だしな。春の天皇賞が控えてるって考えると、大阪杯(こっち)に出てるヒマなんてないし。マークする相手が少なくて楽になった、って考えとけばいいさ」

「それは、そうですが……」

「……このままいけば、どうせ秋の天皇賞で全員集まる。そこでまた一緒に走れるだろ。それに、あいつらもそれまでには今までよりずっと強くなってるはずだ。寂しいとか言ってるヒマねーぞ」

「ふふっ、確かにその通りですね。私が弱気になっていては、皆さんに置いていかれてしまいます」

 

 まあ、あいつのご機嫌取りはそのくらいにして。

 

「それで、ヤエノについてだが……」

 

 今回の大阪杯、前からヤエノには目ぇつけてたんだよ。

 そもそも距離適性が一番近いしな。長距離は専門外だし、マイルも走れはするけど別にそこまでって感じだし。ってなると今後ぶつかることも多いだろうから、事前にあいつのデータとか色々見て対策とかしてたの。

 みたいな感じで、ヤエノのこと事前に調べて気づいたんだけど。

 

「改めて思うけどさあ、あいつって意外と勝ちのレース少ねえよな」

 

 G1の勝利レースはジュニア級に獲ったホープフルステークスだけ。

 皐月賞は二着、ダービーと菊花賞はそれぞれ三着。有は距離適性もあって見送り。

 G2、3の勝利レースは菊花賞直前にあった京都新聞杯と、その年の十二月にあった鳴尾記念。

 それ以外にも結構色んなレースに出て、入着こそしてるんだけど勝ちはないって感じでさ。

 

「総合力で考えりゃ、お前やチヨちゃんよりも一回り上のはずなんだけど……なんかパっとしねーんだよな。完全に外野の意見だけど、勝ちに繋げるためにはあと一つだけ何かが足りてない、みたいな?」

「それは私も感じていました。ですが、ヤエノさん本人はそこまで気にされていないようでしたよ」

「ま、ヤエノも負けが込んでるからって焦るような性格じゃないだろうしなあ。むしろ今みたいにギリギリ勝ち逃してる方が、逆に燃えるタイプな気もするが……その辺りは、あいつ自身と園田くらいにしか分かんねーか」

 

 その時は何考えても憶測でしかなかったから、それ以上は何も言えなかったんだけど。

 

「ただ、依然としてマークした方がいい相手ってのは頭に入れときな。それこそ、さっき言った勝ちに繋げるための『何か』を、今回のレースの前にどっかで拾ってきてるかもしれない。そう考えればいつ爆発してもおかしくない、厄介な相手だ。油断するなよ」

「分かりました」

「……じゃ、そろそろ行ってきな」

 

 良くも悪くも、大阪杯の意気込みはそれだけだったかな。

 つーかあの時期だとオグリキャップの人気がスゴくて、たとえG1でもあいつの出ないレースは正直そこまで、みたいな雰囲気あったんだよ。ってよりは、普段レース見ない人がオグリキャップの出るレースに行くから、自然とその他とのレースで差が生まれちゃうっていうか、そんな感じで。

 まあ、仕方ないことではあるんだけどさ。むしろ業界目線だと新規の客も増えるから、歓迎するべきことではあるし。でもまあ、なんかなー……お前だってさ、急に出てきた名前も知らないバンドが一強で、他のバンドが売れなくなって、それこそ好きなバンドが下に見られたら面白くないだろ?

 

「……オグリキャップ、なあ」

 

 対抗心、ってほどじゃないけどさ。

 そんな気持ちが出てきたのは、もしかしたらそれくらいだったかな。

 

 

「おーっす、お疲れ」

「あ、萩野くん……お、おーっす」

 

 そんで観客席行ったら、先に園田がいてさ。

 

「どうよ、そっちの調子は」

「そこそこ、かな。菊花賞ぶりのG1だし、少しだけ緊張してるみたい」

「そう? さっき見た感じ、そんな風には見えなかったけど」

「や、ヤエノはそういうの表に出さない子だから。……えっと、アルダンちゃんの方は?」

「いつも通り。ま、調子は良さそうだな。愛知杯で勝てたからだろうけど。距離的にも適正ど真ん中だから、よっぽどのヘマでもしない限り、問題ないだろ。そっちには悪いけど、今回は貰ったかもな」

 

 なんて話しながら、そういや園田とサシで話すのも久しぶりだなー、とか思ってたのよ。

 皐月賞もダービーも菊花賞も、みんなで担当のこと見守って、みたいな感じだったし。それこそ、俺がお前んトコに逃げ込んでからは園田と顔なんて合わせることもなかったし。何だかんだ、こうして二人で話す機会なんてなかったな、とか考えてたわけ。

 そしたらさ。

 

「……ふふ」

「何だよ。変なこと言ったか?」

「ち、違うよ。ただちょっと安心しただけ」

「安心?」

「うん。だって萩野くん、急にいなくなっちゃったんだもん……。みんな、心配してたんだよ? 特に桐谷くんなんて、自分がもっとあの人をちゃんと見ておけば、ってずっと悩んでたんだから」

「心配させたのは申し訳ないけど、それはそれとして後輩にそう言われるのは癪だな……」

「でも、変わってないみたいで安心した。ううん、むしろ変わったのかな。前までの萩野くん、アルダンちゃんの悪口ばっかり言ってたもん。でも、今の萩野くんはそうじゃなかった。……何か、あったんだよね?」

「……まあ、な。話せば長くなるけど、色々と」

「そっか」

 

 今思えばあの時のあいつ、かなり饒舌だったんだよ。

 

「……みんな、すごいなあ」

 

 だからその時点で、園田が色々と考えてることは、何となく分かったのね。

 

「萩野くんとアルダンちゃんは言わずもがなだし、桐谷くんとチヨちゃんだって、この間の秋の天皇賞でオグリちゃんに勝ってたし。それに比べて、私は……まだ、ヤエノのことを何も分かってあげられてないんだもん。あの子のトレーナーなのに、こんなの情けないよね」

「……園田?」

「ご、ごめんね。いきなり変な話しちゃって。でも、こういう話ができる人って、同期の萩野くんしかいないし……それに、萩野くんなら聞いてくれるのかな、ってちょっと思っちゃって。あ、そっか。萩野くんが女の子にたくさんモテるのって、もしかしてそういうところなのかな?」

 

 最後の言葉もそうだし、それ以上に色々言いたいことあったんだけど。

 俺が何かいいかける前に、ファンファーレが鳴っちゃってさ。

 

「あ、ほら。もうすぐ始まるよ。見てあげないと」

「……そうだな」

 

 でも、そこで確信したよ。大阪杯はあいつが勝つって。

 正確には、ヤエノがそこで台頭してくることは絶対にないだろ、って思ったの。

 だってあいつが勝てない理由がすぐ隣にいるんだもん。

 

『各ウマ娘、一斉にスタートしました!』

 

 そんで、本題のレースなんだけど……。

 

「……逃げを打った生徒が二人、その後ろで先行の生徒が詰まってんな」

「いつも通りだね。やっぱり私たちの世代って、先行の子が多い気がするなあ」

「まあ、うちの代で二冠取ったアルダンや、そのアルダンに菊花賞で勝ったクリークがそうだし。それこそオグリキャップだって今のところは先行策を取る割合の方が多い。流行り、って言うと少し安っぽいが……トレーナーも生徒も、色々と共有できるところがあるのは事実かもな」

 

 そもそも先行っていう作戦自体が割とシンプルな走り方だから、流行り以前に自然とそういう流れにはなるんだよね。とはいえ、データ見た感じ世代的に流行ってるっていうか、例年より多いのもその通りなんだけど。

 とにかく、そういうこともあるからレース的には先行集団がかなり膨らんでって。

 

『第二コーナーを越えて向こう正面、依然として睨み合いが続きます!』

 

 展開はアルダンが先頭で、その後ろを引っ張ってたな。ヤエノはその引っ張られてるうちの一人、って感じ。この時点でほぼ勝負は見えてたんだよね。あいつのいつものパターンだったってのもあるけど……それ以上に、ヤエノが埋もれてる、ってのがデカかった。

 

「や、ヤエノ……! がんばって……!」

 

 そうやって園田も応援してたけど、流石に厳しいってことは本人も分かってたんじゃないかな。

 

『最終コーナーを越えて最後の直線! 上がってきたのはメジロアルダン!』

 

 後はいつも通り、あいつが他の連中ぶっちぎってゴール。

 G1とはいえ春の天皇賞が控えてるから出走する連中も限られてるし、何よりあいつの適正ど真ん中の距離でパフォーマンスも最高だったしなあ。あの距離のあいつに勝てるヤツなんて、うちの世代にはいない。

 

『メジロアルダン、今一着でゴール! 二着にはヤエノムテキ!』

 

 だから、当然っちゃ当然の結果だったよ。

 ……ただ、園田の方はというと。

 

「ヤエノ、また負けちゃった……」

 

 失望してた、ってよりはもう諦めてた、って感じなのかな。

 仕方ないよね、みたいなさ。悔しいのは確かにそうなんだけど、それでも納得できちゃったっていうか。確かに園田って大人しい性格だし、感情がそこまで前面に出ることは無いんだろうけど……それでも、落ち着きすぎっていうか。見方によっちゃ、期待すらしてなかったのかもしれない。

 だから、まあ。

 

「なあ」

「な、なに?」

「園田ってさ、どうやってヤエノの担当トレーナーになったんだ?」

 

 レースの感想とか次の話とかすっ飛ばして、聞いちゃったのね。

 

「別に、普通だよ……? ヤエノからトレーナーを探してる、って聞いたから担当になったの。しょ、消去法みたいなだけどね。もし合わなかったら、いつでも変えていいから、って。……今も有効だけど」

「……そもそも知り合いだったってことか?」

「う、うん。たまたま私が早めに出勤した日に、朝練してるヤエノとばったり会って、それから」

「仲良くなった感じか」

「そう。何度か顔を合わせてるうちに、修行とか武道とかの話も聞かせてくれたんだけど、私には何が何やらさっぱりで……。私とは真反対の子だな、って思った。でも、そういう話してる時のヤエノ、す、すごく楽しそうだったんだ。だから、この子の担当になってみたいな、って思って。トレーナーに立候補したのも、実はそれが理由」

「へー……」

 

 そこで分かったんだよ。多分、ズレてるんだろうな、って。

 改めて考えりゃ、園田とヤエノって本人が言った通り、真反対の性格してるしなあ。確かに全く真逆の性格同士が噛み合う、みたいな話は往々にしてあるけど……そういうヤツら全員そんな上手いこと行くわけもねーじゃん。

 モチベーションとか、そもそもレースに対する姿勢とか、お互いの認識とか。なまじ二年間と少しの積み重ねがあるから、日に日にそういうズレが大きくなってたんだろうな。

 

「ところで、なんで急にそんなこと聞いてきたの?」

「いや、そういえば園田からそういう話とか聞いたことなかったなー、って」

「……タイミング、もっと他になかった?」

「ごめんごめん」

 

 園田とヤエノの間で、ズレがあることは分かった。そのせいで勝ちに繋がらないことも。

 でも、それについて俺が口出ししたところで、ってこともあるし、何よりまだヤエノが園田のことをどう思ってるのかも知らなかったワケだしな。敵に塩を送るわけには、みたいなことは考えてないし、むしろ同期として力になりたいとは思ってたけど……とはいえ、現状何か策があるわけでもないしなあ、みたいなことも思って。

 とりあえず、その話はそこで切り上げてさ。

 

「ほら、そろそろあいつら迎えに行ってやろうぜ」

「……う、うん。そうだね」

 

 大阪杯であったことはそれくらいかな。結構あっさり終わったよ。

 ってよりは、レースよりも園田とヤエノの関係性が気になっちゃってさ。

 だからインタビューで話した内容も正直、あんまり覚えてないわ。春の天皇賞はさすがに見送りで、次走は宝塚を狙いたいです、くらいは言ったっけな。あとはまあ、適当に流してた気がする。

 

 そんで次のレースが、宝塚だったんだけど……。

 ……いや、その前に一個あったな。

 宝塚に出る前、オグリキャップと一度だけ会ったんだよ。

 その話……えーっと、どっから話せばいいんだ?

 あいつにお好み焼き作って、その前に春の天皇賞を観に行って、ってなると……。

 

 ああ、そっか。ファン感謝祭の話になるのか。

 

 

 流石にお前も知ってると思うけど、トレセンって春と秋にファン感謝祭やるのよ。

 それぞれ生徒主催で出し物して、春の方が体育系メインで、秋の方が文化系メインで……まあぶっちゃけ体育祭と文化祭みたいなモンだよ。んで、その最中にファンとの交流もしてー、みたいな感じで。

 それでまあ、当日は俺も予定があったから、学園に行くことになったんだけど。

 

「やばいやばいやばい遅刻遅刻遅刻……!」

 

 土曜日だったのよ、その日。

 だからアラームかけ忘れちゃってさあ。

 

「終わった……! どうやってもこっからじゃ間に合わねえ……!」

 

 前日にメジロ家の屋敷に泊まってたのもよくなかったな。

 俺ん家だったら最悪ギリ間に合ったけど、あそこからじゃどうあがいても無理だったんだよ。

 だって駅まで歩いて二十分はかかるんだもん。遠すぎなんだってあそこ。

 だから急いではいたけど内心、もうこれどうにもならねーだろって諦めてて。

 とりあえず屋敷を出て、そのまま最寄り駅まで歩いていくしかなかったんだけど。

 

「おや、萩野さま」

 

 ちょうど屋敷の前の道路に車が止まってて。

 その中から、メジロ家のメイドのお婆さんが声かけてくれたのよ。 

 

「おはようございます。これからご出勤ですか?」

「そうっす。寝坊しちゃって実はヤバいんですけどね」

「でしたら学園までお送りいたしましょうか? 私たちもちょうど、学園に向かうところでしたので」

 

 もう神かと思ったよね。

 

「え、マジすか!? だとしたらめっちゃ助かるんですけど!」

「ええ、問題ありませんよ。どうぞ、後ろへ」

「ありがとうございます! いや、マジで終わったかと思いましたよ!」

 

 そんな感じでもう、ウキウキで車のドア開けたらさ。

 

「ごきげんよう」

「うわっ」

 

 ばたん。

 

「……すいません。やっぱ俺、歩いて行くっすわ」

「よろしいのですか?」

「はい。なんか邪魔になりそうですし」

「構わないわ。乗りなさい。今すぐ」

「…………………………」

 

 一気に地獄になっちゃって。

 いやおかしいと思ったんだよな。学園に生徒を送るって考えたら遅すぎる時間だし。

 だから後部座席なんてスッカラカンだと思ってたんだけど。

 普通に乗ってたんだよね。

 

「改めて、こうして顔を合わせるのは始めてかしらね」

 

 メジロラモーヌ。

 

「アルダンから何度もあなたのことは聞かされたわ。私の王子様、なんてあの子が話すものだから、もう少し立派な人を想像していたのに……思ったよりも普通なのね、あなた。私、あの子に嘘でもつかれたのかしら」

「さあな。あいつの目が腐ってるだけだろ」

「あら、厳しいのね。でも、アルダンはあなたのことずいぶん気に入ってるみたいよ? 私からしたら、こんな乱暴な男のどこに惹かれたのか理解に苦しむけれど」

「知らねーよ。あいつの男の趣味が悪いだけじゃねーのか?」

「ふふっ、そうね。そうかもしれないわ」

 

 ラモーヌと顔を合わせたのはそこが初めてだった。

 でも、俺も向こうもアルダン越しに話は聞いてたからさ。お互いに相手がどんなヤツなのかは大体分かってたんだよ。その上で、少なくとも俺の方は絶対ソリ合わねえ相手だと思ってたから……緊張、ってわけじゃないけど、居心地が悪くって。

 

「とはいえ、あなたも満更ではないみたいだけれど」

「……だったら何なんだよ」

「素直じゃないのね、あなた。こんな男に振り回されるアルダンが可哀そうだわ」

「勝手に言ってろ。つーか、振り回されてるのは俺の方だ」

「ああ、そういえばそうだったわね。だってあなたの首には、こんなに分かりやすい首輪がついてるもの。そのリードを引いてるのは、あの子……ふふっ。本当にお似合いね、あなたたち」

「バカにしてるだろ」

「まさか。アルダンの王子様に、そんな無粋なことしないわよ」

 

 向こうはなんか、そんな感じで俺のことからかってきてさ。

 その時点で俺も少しイラっと来てて。あー、前々から話は聞いてたけど絶対こいつとはソリ合わねえだろうな、って思ったわけ。こいつかアルダンだったら、まだアルダンの方が百億倍はマシだわ、って。

 でも向こうはなんか、面白がって聞いてくるわけ。 

 

「それで、アルダンとはどこまで行ったのかしら?」

「大阪杯で勝ちは取れたから、次は宝塚だな。より中距離に主軸を置いたトレーニングを……」

「キスはもうしたの?」

「……あのな、俺とあいつはそういう関係じゃ」

「でも、あの子を自分の家に連れ込んだ上で、一緒にベッドで寝たんでしょう?」

「……………………」

「けだもの」

「いやだってアレは不可抗力だろ! 他にどうしろっつーんだよ!」

 

 とにかくそんな感じで、俺としてはツラも見たくねーんだけど、あっちはどんどん調子に乗ってきてさ。聞いても無いのにべらべら余計なこと喋ってくんの。

 

「アルダンのどこに惚れたのかしら?」

「なんで俺があいつに惚れたことになってんだ」

「でも、そういう理由が無いとここまで担当を続けていないでしょう?」

「あのクソババアに押し付けられたんだよ。ほとんど詐欺と恐喝みたいな手口でな」

「だったら、途中で契約を破棄する気にならなかったのは、どうして?」

「……あいつから言い出したら、喜んでそうしたよ。だけど、あいつはそうしなかった。俺からそういう話を切り出すこともできたけど……そしたら、メジロ家に目ぇつけられて面倒なことになるだろ。だから、あいつから契約破棄の話を切り出さない限り、俺は担当を続けなきゃいけないんだよ」

 

 だから俺もムキになっちゃって、色々言い返したんだけど。

 

「ふぅん」

「……何だよ」

「随分と言い訳が得意なのね、あなた」

「言い訳って、別にそういうわけじゃ……」

「ところで、この携帯にトレセンに入学する前のあの子の写真が入っているのだけれど」

 

 ………………………………。

 

「ちょっと見せてみ?」

「はい、どうぞ」

 

 いやだって、気になるじゃん! それはそれとして見たいじゃん!

 それにあいつ、俺の実家泊まった時さ、勝手にアルバム見てたんだぜ?

 だからその仕返しっていうか、なんていうか……。

 

「……あいつ、この頃から今みたいにお嬢様してたんだな」

「昔から礼儀正しくて、気遣いの出来る子だったわ。自慢の妹よ」

「その割には、次の写真で泥んこのままピースしてるけど」

「やんちゃなところもあったわね。あの子、意外とお転婆なの」

「意外だとは思ったことねーけど……それで、こっちは運動会の時の写真か? なんだ、てっきり体が弱いから、そういう行事には参加してないと思ってたけど……普通に楽しそうじゃねーか」

「その年は偶然、あの子の体の調子が良かったから。でも、次の年にはまた体調を崩して……だから、あの子が参加できたのは、後にも先にもその年だけね」

「……ふーん」

 

 担当してる手前、あいつのことを他人に話す機会なんて無限にあるけど、逆にあいつのことを他人から聞く機会とかあんまりなかったし。その上、生徒としての評判とかならまだあるけど、そういう身内のエピソードってなると、ほぼ初めてくらいだったのよ。

 だから新鮮な気分になっちゃって、つい真面目にあいつの話を聴いてたわけ。

 

「はい、ここまで」

 

 そしたら、なんか急にあいつが携帯取り上げてきてさ。

 

「あ、何すんだよ」

「残念だけど、これ以上は見せられないわ」

「いや、まだ写真結構あるだろ。見せてくれよ」

「ダメよ。だってこれは、私とあの子の思い出だもの。あなたに見せてあげたのは、ちょっとした気まぐれ。小さい頃のあの子を私が独り占めしていたら、あなたが可哀そうだと思っただけよ」

「……へえ?」

 

 向こうは挑発のつもりだったんだろうけど、俺はもうそこで分かったね。

 ああ、こいつアルダンにゲロ甘なんだな、って。

 いやまあ、正直ラモーヌの話なんてほとんどあいつからしか聞かなかったから、ってのもあるんだけどさ。あの二人って正直そこまで仲良いいとは思ってなかったんだよ。ってよりは……別にそこまで険悪ってわけじゃないけど、アルダンは負い目を感じるところもあるし、ラモーヌはラモーヌで何考えてるか分かんないし、結果としてギクシャクしてるみたいな?

 でも、あの時にハッキリしたね。あいつ相当アルダンのこと好きだよ。

 つーか好きじゃなきゃわざわざあいつが小さい頃の写真見せて自慢してこないだろ。

 ……本人の自覚はかなり薄いみたいだけど。

 とにかく、あいつがアルダン大好きだってことにはその時点で気づいたから。

 

「そういえばこの前、あいつと一緒に演劇観に行ったぜ」

 

 出来心でちょっと反撃してみたの。

 

「……ふぅん?」

「正直、演劇なんてこれっぽっちも興味なかったんだけどさ。いざ観てみたら意外と面白いんだな、あれ。何って分かんないとこあったらさ、こっそり教えてくれるんだよ。いや、あいつと一緒に行ってホントよかったわ。何ならまた何か観に行こうぜ、つって予定も一緒に立ててるところだよ、今」

「あの子からそんな話、聞いていないけれど」

「じゃあ良かったな。俺もお前に内緒であいつを独り占めするのも可哀そうだと思ったからさ。お前に話してやったわけ。これでお互い様ってわけだ。な?」

 

 そしたらあいつ、露骨に不機嫌な顔になってきてさ。

 

「あなた、随分あの子に好かれてるみたいね」

「嫉妬か?」

「別に。でも、勘違いしないようにね。あの子が一番好きなのは私よ。あの子がターフに焦がれたきっかけを与えたのは、他でもない私。私がいなければ、今のあの子はないの。それだけは覚えておきなさい」

「いいぜ、あいつが好きな奴の一番は譲ってやる。でもな、あいつのことを一番理解してるのは俺だ。皐月賞とダービーを勝たせて、王冠を二つも被らせてやったんだ。あいつのことを、世界で誰よりもよく知ってるのは他でもない俺だ。何言われたってそこは譲らねえよ」

「私はあの子の好きなものなら、何から何まで全部知ってるけど」

「俺はあいつが今まで知らないようなモンに触れさせてやった」

「……あの子が生まれてからは、私と一緒にいる時間の方が多いわよ?」

「……一日単位で見たら、今は俺と一緒にいる時間の方が多いだろ」

「……………………」

「……………………」

 

 ……………………。

 

 

 その年の出し物、あいつのクラスはメイド喫茶だったんだけど。

 

「おかえりなさいま……ら、ラモーヌ姉さま!? それにトレーナーさんまで……!」

 

 多分あいつ、本気でビビってたよ。

 だって自分の姉と担当トレーナーが同時にやって来たんだもん。しかもお互い、さっきのやり取りの直後だったからバチバチの状態だったし。普通にメイド喫茶入るような空気じゃなかったよアレは。

 でもまあ、俺もあいつもそこまで来たら譲れなかったからさ。

 

「お二人とも、どうしてご一緒に……?」

「別にお前を目当てに客として来ただけだけど。なんか文句あんのか?」

「いや、そんなことはありませんけど……」

「席はどこに座ればいいのかしら。アルダン、案内してくれる?」

「え、えっと……では、あちらの窓側の席が空いているので、ご案内しますね」

「よろしく。ほら、あなたも来なさい」

 

 みたいな感じで、とりあえず席に通されたんだけど。

 その時の俺とラモーヌ、たぶんすげーマジな顔してたと思うわ。

 いやだってお互い負けたくなかったもん。つーかそもそも負ける気なんてなかったけどな。でも、そこが勝負所には違いないじゃん。だからなんかもう、レース前かよってくらいの雰囲気になっててさ。

 

「では、こちらのメニューを……」

「メニューはいい。代わりに看板にもあった『メイドさんの手作りふわとろオムライス』を一つ」

「私も同じものを頂こうかしら。飲み物は水でいいわ」

「か、かしこまりました! では、すぐにお持ちしますので……」

「ちょっと待て」

「待ちなさい、アルダン」

 

 そしたらあいつ、注文だけ聞いてすぐにどっか行こうとしたからさ。

 俺もラモーヌもそりゃ話が違うだろって引き留めたのよ。

 

「ど、どうかしましたか?」

「聞いた話だと、オムライス頼んだら『萌え萌えキュン』やってくれるらしいな」

「看板にも書いてあったわね。愛情たっぷりのサービスをいたします、なんて」

「…………そうですね」

 

 もう冷や汗ダラダラで、目も泳ぎに泳ぎまくっててさ。

 今思えば、あんなに焦ってるあいつの姿なんて、後にも先にも初めて見たかもな。

 

「オムライスを頼んだのだから、当然サービスはしてくれるのよね?」

「も、もちろんです……」

「確か指名制だったよな? なら注文聞いた時点で、誰を指名するかも聞くべきだろ」

「……そ、そうでしたね。申し訳ございません」

 

 最後に一応、足掻いてきたんだけど。

 

「では、ご指名はどなたになさいますか?」

「アルダン」

「お前で」

「はい…………」

 

 あいつも観念したみたいで、すごすごって感じで下がってって。

 それからラモーヌと二人して、互いのこと睨み合いながら無言で待ってたのよ。何が何でもこいつに負けるわけにはいかない、って気持ちだった。もうそこが一世一代の大勝負だったんだよね。

 そしたら他の客とかホール担当の生徒とかも何かすげー重たい雰囲気になっちゃってさ。いや、悪いことしたとは思うけど……それこそ、そういう配慮とかプライドとか気にしてる余裕なかったんだもん。

 そんで、十分くらい経った頃かな。

 

「お待たせしました、こちら『メイドさんの手作りふわとろオムライス』です」

 

 ようやくアルダンがオムライス運んできたからさ。

 

「それで、サービスは? もちろん私が先よね?」

「そ、それは……」

「何言ってんだ。当然俺が先だよな?」

「ええっと……」

「私はアルダンの姉よ? 生まれた時からずっとこの子と一緒なの」

「俺はこいつの担当トレーナーだ。ここまでこいつの面倒見てきたんだよ」

「……アルダン?」

「……アルダン!」

「う、うぅぅ…………!」

 

 なんて、耐えられなくなったあいつが聞いたことない声で呻きだしたくらいだったかな。

 

「ちょっとお二人とも! なにアルダンさんを困らせてるんですか!」

 

 ものすごい勢いでメイド服のチヨちゃんがこっちの席に迫ってきてさ。

 

「あら、アルダンとよく一緒にいる仔イヌじゃない」

「仔イヌじゃありません! サクラチヨノオーです!」

「ごめんねチヨちゃん。今ちょっと大事なところだから邪魔しないで」

「二人してアルダンさんをイジメてるようにしか見えませんけど!」

「……そんなことないわよ」

「気のせいだって。なあ、アルダン?」

「……助けてください、チヨノオーさん」

「ほらやっぱり!」

 

 そっからはもう、完全にチヨちゃんのペース。

 ああいう時のあの子は、もう誰にも止められないからさ。

 

「サービスですか!? サービスですね!? 分かりました! ただいま行いますので!」

「チヨちゃん?」

「仔イヌ?」

「はい萌え萌えキュン! こっちも萌え萌えキュン!」

 

 ちょっ。

 

「チヨちゃん、話が違う……」

「サービスは以上になります!」

「……私はアルダンを指名したのだけれど」

「サービスはっ! 以上にっ!! なりますっっ!!!」

 

 結局、ラモーヌとの勝負はそんな感じでお流れになって。

 あとはチヨちゃん監視の元で二人で浮かない顔でオムライス食って終わりだよ。

 

 ……ラモーヌと初めて会った時の話は、そんな感じかな。

 いやぶっちゃけ、聞いてた話よりずっとマシなヤツだったよ。

 確かに態度も気にくわねーし、あいつのこと何でも知ってるようなツラしてるも腹立つけど……なんだかんだ、アルダンのことが大好きなのは分かるし。ああ、今思うとそれかもな。俺も妹のこと大好きだから、どこか似てるところあるな、とはその時から薄々感じてたんだよ。

 でも、絶対にソリは合わないね。それは間違いない。

 ファン感謝祭以降も、たびたびどこかしらでケンカだったり小競り合いしてたし。

 何よりどっちがアルダンの一番か、って勝負もまだついてねーからな。

 ……ま、どうせ勝つのは俺だろうけど。

 

「これ、もう一個頼んだら追加でサービスしてくれるのかしら?」

「それやるか。チヨちゃん、オムライスおかわりで」

「おかえりくださいませ!!」

 

 




おしらせ

活動報告でもお話したんですけど、10/29のプリステ32Rに出ることになりました
10/29に横浜のマリネリアってところにいます スペース番号は確かス41だった気がします お品書き等々詳しくはXの方を確認していただけると嬉しいです
内容はこの小説のチヨちゃんルートみたいな味付けの本になります 75000文字で200ページあるイミがわからん本になってしまいました
もし行くよ~って人がいたらその時は遊びに来てね~~
でもそんなこと急に言われても行けねえよ! って人の方が多いと思います
なのでここではイベント終わった後のチヨちゃん本の取り扱いについてお話するんですけど
チヨちゃん本は今まで通り在庫がなくなったらこっちにアップするので、それまでお待ちください
何かの間違いで完売したらたぶん一週間以内にはウッピーします たぶん完売しないけど
そんな感じで、こう、なんかいいタイミングを見計らってウッピーしていきたいですね
たぶんというか絶対この小説内で言っといたほうがいいので言っておきました
以上 長々としたおしらせでした

Q.続きますか?
A.もう見栄は張りません 学習しました
 来月に一回の更新を目標にします
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