メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】   作:宇宮 祐樹

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内容がちょい薄いかも~ごめんなさい
次の話はキャラクターもたくさん出てくるから助走って感じでお願いします


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 その年の天皇賞・春は、すげー盛り上がってたよ。

 何せ、あのオグリキャップが出るってなってたからさ。

 チケットも当然完売。転売云々が言われ始めたのも、そのレースからじゃなかったっけ? とにかくまあ、観客席も大賑わいでさ。天皇賞ってことを抜きにしても、アレはヤバかったね。もしかしたら、俺の人生で一番盛り上がってたかもしれないレベルだった。

 だからまあ、意外っちゃ意外だったんだよ。

 

「喫煙所、空いててラッキーでしたね」

「ええ、全くですね。やはり吸う時はゆっくりするに限ります」

 

 出走までは時間があった上に、なんかスケジュールも少し押してたみたいだったからさ。

 レース始まるまでだいぶヒマになっちゃって、先生と二人で吸ってたのよ。

 

「にしても、すげー人気じゃないっすか、オグリキャップ。こんなに観客が集まるなんて正直、思ってなかったっす。こうやって見ると、今はもうオグリキャップの時代って感じしますね」

「ええ。ですが、驚きはありません。笠松で出会った時から、彼女には素質を感じていましたから」

「……あ、一昨年まで笠松(むこう)行ってたのって、そういうことっすか」

 

 居酒屋で話した時にも言ったけどさ、先生ってしばらく地方に出張してたのよ。

 何しにそんなとこまで? って聞く機会も無かったから、俺もそこで初めて理解したの。

 ……先生は、オグリキャップに首輪を嵌めに行ってたんだ。

 

「地方のレースを下げるつもりはありませんが……彼女をあのまま放し飼いにしておくのは、あまりにも惜しい。あの子を中央のレースで走らせてみたい。どこまで通用するか、この目で確かめてみたい。そう思ってしまったんです」

「先生、たまにワガママになりますよね」

「私の悪い癖ですね。どうやらあなたを専門学校に推薦した時から、私は何も変わっていないようです。……見てみたいんですよ、私は。あなたたちのような可能性を秘めた若者たちが、どこまで羽ばたいていけるのか。思えば私がこの仕事に転職したのも、それがきっかけだったのかもしれません」

 

 え? ああ、そうそう。先生、中途採用でトレーナーになったんだよ。

 トレーナーやる前はなんだったかな、確か中学か高校の教員やってたんじゃなかったっけ。そんで子供相手するのには慣れてたから、こっちでも色々と上手くやっていけた、みたいな話されたよ。

 でも、普通に考えて先生っておかしいんだよな。いや、確かに俺もよく言われるよ? その学歴でよくトレーナー試験受かったな、って。実際、自分でもそう思うし。先生の教え方が良かったのもあるけど、ほぼ運で合格したようなモンだよ。

 だけど先生は、普通に教員で働きながらトレーナー資格の勉強して、その上で合格してるからね。

 そんでもって今では、ドのつくほどのベテラントレーナーやってるんだぜ?

 先生はよく俺のこと天才肌っていうか、才能あるって褒めて可愛がってくれるけどさ。

 あの人も大概だよ、マジで。

 

「そういえば、あなた達は今回のレースを見送ったんですね。確かにアルダンさんの適正からは外れていますし、出走するメンバーも実力者揃いですが……私としては、あなたならもしかして、と期待していたんですよ?」

「いや、流石にっすよ。もう長距離は勘弁してください」

「怖気づいているんですか?」

「どうでしょうね。どちらにしろ、俺たちは中距離でやってくって決めたんです。だって生徒の強みを伸ばすことがトレーナーの第一にするべきこと、って教えてくれたのは先生じゃないっすか」

「……確かに」

「だから、中距離にクリークやオグリが来たら泣かせてやりますよ。覚悟しといてくださいね」

「ええ。楽しみにしていますよ。あなたのその調子の良さがどこまで続くか」

 

 先生なあ、物腰柔らかいし、基本的に誰でも敬語だから勘違いしやすいんだけど。

 あの人の中身って、結構バチバチだからね。

 

「でも、俺からしたらオグリが春の天皇賞出る方が意外でしたけどね」

「そうですか?」

「だってあいつ、笠松にいた頃はマイルから中距離のレースばっかりだったじゃないですか。こっち来てからも、長距離は有記念……二五〇〇メートルしか出てないっすよね? いやまあ、確かに長距離も走れるとは思います。でも、思うだけなんですよ。シンプルに有記念も走れたから長距離にも適正がある、って判断してるのか、あるいはあのオグリキャップなら、っていう希望的観測なのか……仮に自分だったらそこら辺が曖昧だから、見送るかな、って」

「確かに際どいところですね。今のところ、私もあなたと全く同じ考えです」

「じゃあ、どうしてあいつを出走させたんですか?」

「……年甲斐にもなく、冒険してみたくなったんですよ」

 

 そこでまあ、なんとなく先生の考えも分かったのよ。

 ああ、ホントにオグリキャップを最強のウマ娘にしたいんだな、って。

 そう考えたら観客がやけに多いのにも納得がいく。だってあのレースに勝ってたら、オグリキャップはマイルと中距離、長距離――言っちゃえば有も長距離だけど、天皇賞・春で勝った方が説得力もあるだろ? ――の三階級制覇だ。誰がなんと言おうと、紛れもない最強のウマ娘になってたと思う。

 そんなウマ娘が誕生する瞬間なんて、誰でも見たくなるに決まってるもんな。

 

「そろそろ戻りましょうか」

「……そうっすね」

 

 お互いに煙草も吸い終わってたから、先生との話もそんなところで終わり。

 先に言っとくけど、オグリは勝てなかったよ。それでも充分バケモノだったけど。

 というより、あんな結果になるなんて俺も先生もぜんぜん予想してなかったんだよ。

 だって、さあ。

 あのオグリとクリークを負かすヤツが出てくるなんて思わなかったもん。

 

 

「戻った」

「お疲れ様です」

 

 それから観客席に戻ったところで、アルダンと合流したんだけど。

 

「遅いわよ」

「何しに来たんだよお前……」

 

 なんかいたんだよね。

 

「ラモーヌ姉さまも、今回のレースは現地で観戦されたいとのことでしたので」

「オグリキャップ、だったかしら? あの子、中々いいレースをするそうじゃない」

「……中々、ってレベルじゃねーだろ。お前アレとやり合って勝つ自信あんのかよ?」

「どうでしょうね。でも、負けるつもりはないわ」

「あっそ」

 

 自分で質問しといて何だけど、ラモーヌがそうやって答えてくるのは分かってたよ。

 だってあいつトリプルティアラ持ちだもん。少なくとも、今のラモーヌにマイルと中距離で勝てるヤツなんて、それこそオグリキャップくらいしかいないだろうし。もしかしたら自分のライバルとして今後つっかかってくるんじゃないか、って意識は少しだけあったんだろうな、多分。

 そうやって考えると、オグリキャップのレースをわざわざ現地まで見に来るのも、なんだかんだ納得はできた。それこそ、自分のライバル候補が春の天皇賞なんてガッツリ長距離のレース出ることになったら、気になって仕方ないだろ。個人的な感情もそうだけど、今後の進退とかも含めて。

 

「他のメンツもまあまあ気になるところではあるが……とりあえず、今回はオグリキャップの動きだけ追っときな。どうせ連中もオグリキャップに合わせて今後の調整とかしてくるだろうし。少なくとも向こう一年、あいつをどう対処するかってのがレース出走者全員の軸になるはずだ。それだけ頭に入れときな」

「分かりました」

「……自分で言っててイライラしてきたな。なんでたった一人に全体が合わせなきゃいけねーんだよ」

「それだけの強さをオグリさんが持っているということだと思います。それに、向こう側に立っていたのは、もしかすると私たちだったかもしれませんから。私も、そこに立ってみたいものです」

 

 まあ、あいつも弱気じゃないだけマシだったな。むしろ真っ向勝負って感じだったから、俺としても乗っかりやすかったし、そこは良かったんだけど。

 

「……アルダン。あなた、言うようになったわね」

「ふふっ。これも、トレーナーさんの影響かもしれません」

「みたいね。こんな野蛮な男と一緒にいたら、影響されるのも当然かしら」

「……お前らの都合で箱入り娘にさせてるよりマシだったろ」

「ええ、そうね。けれど、もう少しマトモな人だったら、と今でも思うわ」

「…………………………」

「…………………………」

 

 …………………………。

 

「大ッ体オメーの家が悪いんだろうが! こんなクソガキ押し付けてきやがって! 俺だって選べるならこんな面倒なヤツじゃなくて、もっとマトモな生徒選んでたわ! 今更ウダウダ文句言ってんじゃねーようるせえなあ!」

「別に担当していることに関して文句はないわ。でも、あなたの乱暴な言葉遣いには少し問題があるんじゃないかしら? 私の大事な妹にあることないこと吹き込んで、これ以上の悪影響があったらどうするつもりなの?」

「ふ、二人とも落ち着いてください! もうすぐレースも始まりますよ!」

「………………」

「………………」

「もうっ! からかっていますよね、私のことっ!」

 

 そんで、当日のレースの映像が……ああ、あったあった。流石にオグリキャップの出たレースってこともあるし、動画もめちゃくちゃあるな。とりあえず公式から出してる奴でいいか。

 ほら、これ。

 

『京都レース場、芝三二〇〇。一八人のウマ娘たちが挑みます』

 

 確か一番人気がオグリキャップ、そんで次が僅差でクリークだったかな? オグリキャップが死ぬほど人気だったのは当然なんだけど、一応長距離での勝ちが多いからもしかしたらクリークが、みたいな人もそこそこ居てさ。実質、その二人の頂上決戦みたいに見てた人が大半だったと思う。

 

『各ウマ娘、そろって綺麗なスタートを切りました!』

 

 そんでまあ、レースが始まったんだけど。

 

「オグリさんとクリークさん、並びましたね」

「……ま、流石に先行策か。もしかしたら差し、ワンチャン追込で来ると思ったけど、先生はそういうところ外さないしな。でも、そうなるとクリークと真っ向からのスタミナ勝負になる……あいつ、長距離レースでクリークとタメ張るってマジかよ?」

 

 それこそ芝の三二〇〇なんてクリークの適正ど真ん中の距離だ。完全にあいつの土俵。なのにオグリキャップはそこに真正面から突っ込もうとしてんの。いやまあ、そうやって考えるオグリキャップもおかしいんだけどさ。実はそれを止めなかった先生もなかなかやってるよ。

 

『先頭から後方まで、間延びするような展開から始まりました。中団の先頭はオグリキャップ、そのすぐ後ろにスーパークリーク……』

「詰まってるわね。あの二人が壁かしら」

「ええ。もちろんコース取りの巧さやペース配分というのもあるのでしょうが……やはり一番は、本人たちの放つプレッシャーでしょうか。私もクリークさんと対峙した際は、気圧されてしまいましたから」

「あー……逃げの生徒たちも後々キツくなってくるぞ、あれ。オグリもクリークも簡単には逃がさないだろうしなあ。今は野放しにしてるだけで、レース後半で完全に潰すつもりか」

 

 前半はほとんどオグリキャップとクリークの独壇場。全体的なペースはクリークが作ってるんだけど、そこにオグリキャップが介入してるから、いつもより激しめになってたかな。とにかく、レースに出てる生徒の大半があの二人にビビって上手く動けないみたいな、そんな感じ。窮屈そうなイメージだった。

 そんで三二〇〇って長丁場なこともあって、しばらくそんな展開が続いてたんだけど。

 

『一個目のホームストレッチを越えて、第二コーナーへ進んでいきます。展開は依然として変わらず、順位の変動も静かなものになっています。先頭は変わらず二番……』

「こういう時のクリークさんは強いですね」

「だな。こうなると、オグリキャップがどれだけクリークについて行けるかってところが勝負だな。クリークのやり方的には、スパート直前までオグリキャップを泳がせて、バテたところを差し切るってパターンが一番あり得る。ただ、それにタダで乗っかってくるほど向こうも素直じゃないと思うけど、どうだろうな。このレースに出走してる時点で、だいぶ素直な気もするし」

「経験上、ああいう子はまっすぐ突っ込んでくるわよ。たとえそれが相手の持ち場だとしても関係ないわ。どれだけ自分が不利だとしても、有無を言わさず相手をねじ伏せる……そんな姿に惹かれたからこそ、これだけの人が集まったのではなくて?」

「……案外マトモなこと言うんだな、お前」

「あなた、私のことを何だと思ってるの?」

 

 まあでも、伊達にトリプルティアラ持ちじゃねーな、とは思ったよ。

 経験則もなかなか冴えてるし、何より場の雰囲気も含めたレースの展開も読めてるしな。今でもラモーヌのことはよく分かんねーけど、多分あいつは自分の中に何らかの軸があるタイプだな、ってのはそこで何となく分かった。他の奴を見る時は、自分の中にあるその軸に当てはめて、自分なりの感覚でそいつを捉える……まあ、その、なんだ。何が言いたいって言うと、三冠達成してるやつは見てる景色が違うんだよ、きっと。

 そんであいつの言う通り、オグリキャップはクリークと真正面からかち合うつもりだった。

 だからこそ、なんだろうな。

 

「……ペース、いつもより早くないかしら?」

「だよな。タイムいくつだ? ……直前のラップが十二.五、ペースがここまでだとだいたい一二〇秒越えたくらいか? 例年だとだいたい一三〇秒届くって考えると、なかなか早い……けど」

「珍しいですね。クリークさんなら、もう少し落ち着いたレース運びをするものだと思っていましたけど」

 

 気づいたのが大体、二回目の向こう正面……ああそう、春の天皇賞ってレース場一週半すんの。だからスタートに戻った時かな。そこまでのタイムが、例年だとだいたい一三〇行くか行かないか、ってところだったんだけど……その年だけは、少し早かったんだよ。その時間にすると大体五秒とかで、雰囲気だけで分かったラモーヌも結構おかしいんだけど。

 そんな感じで早いペースのレースになってたんだけど、少なくともそういうハイペースなレースってクリークのやり方じゃなかったから、違和感があって。

 

「後方脚質の連中から押されてんのか?」

「そうみたいね。中心は後ろの方にいるあの子かしら」

「……イナリさんのことですか?」

 

 イナリワン。確か大井の方だったっけ、そこから中央に来た生徒。

 その時点で見たときは、背の低い子だなって印象だった。周りで走ってる生徒と比べても、頭一つ分くらい小さかったし。もしかするとバ群に埋もれるんじゃねえか、みたいなそんな子。

 だからホントにあんな子がクリークとかオグリを押してんのか? みたいには思ってたけど、ラモーヌの言ってることに間違いはない、ってその時点である程度の信頼はあったからさ。

 

『向こう正面を抜けて第三コーナーへ。……っと、オグリキャップとスーパークリーク! ほとんど同じタイミングで上がってきた! 後続との差をじわじわと離していきます!』

 

 その時点でレースも終盤になってきたんだけど、そこでようやく二人もスパート。

 オグリキャップ以外の連中は軒並みクリークにすり潰されてて、逃げの子たちもスタミナ切れで失速してたから、そこから実質この二人の頂上決戦みたいな感じだったんだけど。

 

「へえ?」

「これは……!」

「……マジか」

 

 意味分かんないんだけど、オグリキャップが優勢だったんだよな。

 

『内からスーパークリーク! 外はオグリキャップ! オグリキャップが少しリードか! スーパークリークも詰め寄るが差は詰まらない! そのまま第四コーナーを抜けて最終直線へ!』

「……芝の三二〇〇(G1最長距離)だぞ? なんでここから加速してんだよアイツ……!」

 

 違いは少なかったけど、はっきりしてた。加速がクリークよりも少しだけ上回ってたんだ。最高速度はクリークよりもトントンな気もする……それこそ、去年の秋、チヨちゃんに負けてたし。でも、あいつは三二〇〇を走った上で、クリークを上回る加速を出せてた。周りが言ってる通り、あいつバケモンだよ。

 だから俺もあいつも、オグリキャップとクリークしか見てなかったんだけど。

 

「クリークは保たないか……? いや、それはオグリキャップの方か。あんな意味不明な加速しておいて、最後まで保つワケがない……ハズだけど。あのバケモン、マジでやるつもりか?」

「そのつもりみたいよ? クリークの方も、あの子もね」

「え?」

 

 多分あの会場で、一番最初にラモーヌが気づいたんじゃねーのかな。

 

『ここで大外からイナリワンが上がってくる! 速い! 驚異的な加速で競り合うオグリキャップとスーパークリークに並んだ! オグリキャップは依然先頭、そのままスーパークリークとイナリワンが追いすがる!』

「本気で言ってんのかよ……」

「……こんなこと、有り得るんですね」

 

 他の連中がクリークとオグリキャップにほとんど気圧されてて、後方脚質にとっての盤面が噛み合った、ってのはあるだろうけど……それでも、あそこからの巻き上げは冗談みたいなペースだった。フィクションでもやりすぎてコキ下ろされるくらいの展開じゃねーの、ありゃ。

 

『イナリワン、イナリワンがスーパークリークを越した! オグリキャップ、このまま逃げ切れるか! 距離はだんだん詰まっている! 距離は残り二〇〇! イナリワンとオグリキャップの一騎打ちだ!』

「……イナリワンね」

「みたいだな」

 

 その時点でもう、結果は決まってたよ。

 

『イナリワン、一着で今ゴールイン! 見事三二〇〇の栄光を勝ち取りました! オグリキャップはわずかにハナ差で届かず二着! それに続いてスーパークリーク!』

 

 一着がイナリワン。二着がオグリキャップ、三着がクリーク。

 まあ……客層から見たら、大荒れのレースって感じかな。

 

「流石のオグリさんでも、二人から追われるとなると厳しいでしょうね……」

「一応の勝ち筋は掴めたな。問題は、そんな談合じみたことしたら出走停止喰らうってことと、仮に偶然そんな状況になったとしてこっちにも被害が来るってことだな。つまり現実的じゃない。……はあ」

「ちょっと、弱気にならないで頂戴。あなたがそんな態度じゃ、アルダンに影響が出るでしょう」

「いやだってあんなんどうすりゃいいんだよ? 今見た通り、二人がかりでようやく勝てるバケモンなんだぞ? アルダン一人でどうやったら勝てるんだよ」

「それを考えるのがあなたの仕事よ。ねえ、アルダン?」

「……期待しています、トレーナーさん」

「お前もお前でプレッシャーかけてくんなよ……!」

 

 まあ、そんな感じでレース終わった後は、三人で話してたの。

 周りの客もほとんどオグリキャップ目当てだったみたいで、レースも終わったからちらほら解散して。

 じゃあまあ俺達もそろそろ帰るかって流れになった時に、ちょうど来たんだよ。

 

「おや、これから帰るところですか?」

「あ、先生……と」

 

 たぶんレースも見終わって、俺たちの様子を見に来た先生と。

 

「……か、橿淵(かしぶち)先輩?」

「あ、萩野クン。見に来てくれてたんだ!」

「あはは……はい。そーっすね……」

 

 橿淵先輩……そう、イナリワンとタマモクロスのトレーナー。

 分かりやすく言うと、先生の元一番弟子みたいな、そんな感じの人。

 確か去年まで大井にいて、それこそ先生みたいにイナリワンの引き抜きしてたんじゃないかな。

 そんでもって俺の上司。まあ、直接ってワケじゃないけど。

 

「先生も先輩も、お疲れ様です……」

「ありがとうございます。勝利は橿淵くんに譲ることになってしまいましたが……」

「えへへ、どーもですっ。イナリちゃんが頑張ってくれたおかげですよ!」

「……みたいですね。あの展開、流石に予想できませんでした」

「むっ」

 

 先輩は苦手っつーか……いや、そうだな。苦手だよ。あんまり会いたくない。

 別に先輩が悪いわけじゃないんだよ。むしろあの人って、学園のトレーナー全体で見た中でもかなり良い人だと思う。そこは間違いないわ。生徒からの人気もすげー高いし。

 ただ、その……まあ、なんだ。

 

「ねえねえ、萩野クン。あたし先生に勝ったんだよ?」

「……はい、そうですね」

「ソウデスネー、じゃないでしょ? ほら、もっと褒めて褒めて~」

「その、生徒が見てますので……」

「むしろだからこそでしょ! 頑張った時には褒めてもらうのが大事、って生徒のみんなにも知ってもらわないと! だからほら、先輩だからって遠慮せずに褒めていいんだよ? 特別に頭を撫でることも許可します!」

「それは流石に……」

 

 アルダンに助けを求めても、あいつ面食らって動けないみたいだったし。

 ラモーヌはずっと俺と先輩のこと冷めた目で見てるだけだったし。

 先生はもう完全無視。いつも通りって感じ。一番よくないことしてる。

 そんなだから、先輩のこと避けきれなくて。

 

「あ~あ、萩野クンも大人になっちゃったんだあ」

「元から大人です」

「私のことを口説いてきた、かわいい萩野くんはもういないのかな~」

「……えっ?」

「ちょっ」

 

 ……そう。

 トレセンに就職した時、ふっかけちゃったんだよな。

 

「昔のことを掘り返すのは止めてくださいって言いましたよね……?」

「でも事実でしょ? ほら、お酒で酔わせてあたしのことお持ち帰りしようと……」

「生徒の前です! そういう話は控えてください!」

「萩野クンがそんなこと言ってもぜんぜん説得力ありませ~ん」

「くっ……!」

「あはは、言い返せないんだ!」

 

 だから苦手。

 ………………………………。

 いや……まあ、その、俺が悪いんだけどさ。

 でもあの人もあの人だぜ!? 俺が先輩に対して後ろめたいこと分かってる上でちょっかい出してくるんだもん! フツーに性格悪いよあの人! あの性格知ってたら手ぇなんか出さねーっての!

 

「あ、キミが噂のアルダンちゃんだ? ごめんね、こっちで勝手に盛り上がっちゃって」

「それは構わないのですが……その。トレーナーさんとはどういったご関係で……?」

「関係、関係……んーと、手を出される寸前ってところ? 危なかったよね~」

「先輩はバカ正直に答えないでください! アルダンも余計なこと聞くな!」

「面白い人ね」

「ええ。この二人は見ていて飽きません」

「エンタメとして消費するのやめてもらっていいですか……?」

 

 ……嫌いではないんだよ。

 先生と同じで俺によくしてくれるし。それに考えが柔軟だからさ。こうするのはどう? みたいな提案とかしてくれて、実際にそれで助かったことあるし。言動からは想像つかないほど、頼りになる先輩なのは認める。

 でも、それとこれとは話が別ってこと。

 

「あれ? 何コレ、チョーカー? え、ってかトレーナーバッジ……」

「……先生から聞いてないんですか? 菊花賞周りのことで色々あって、今はメジロ家の専属トレーナーとして仮採用されてるんです」

「あ、だからこんな首輪みたいになってるんだ! あはは、おもしろ~い! つまり今の萩野クンって、メジロ家が飼ってるワンちゃんみたいな感じなんだ! あ、そうだお手! ほら、お手してみてよ!」

「しません! あとイヌ扱いはやめてください!」

「……トレーナーさん」

「何だよ……」

「飼い主以外にお手はしちゃいけませんよ」

「おいお前まで吞まれんな! 自分をしっかり持て!」

 

 もうめちゃくちゃ。

 

「え~、なんだか色々聞きたくなってきちゃったなあ」

「気持ちは分かりますが、そろそろ時間ですよ。彼女たちを迎えてあげないと」

「それもそうですねっ。私、先にイナリちゃんのこと迎えにいってきます!」

「そのまま二度と戻ってくんな……」

「聞こえてるからね~!」

 

 そんな感じで、先輩は嵐みたいに暴れてから、またどっか行って。

 先生もそれに続いて行こうとしたんだけど。

 

「そういえば萩野君、それに……ラモーヌさんと、アルダンさん。少しだけお話があるのですが」

「トレーナーさんと私たち、にですか?」

「つまり、メジロ家に関することでいいのかしら?」

「そうなります。といっても、全く重たい話ではありませんから安心してください」

「何すか……」

 

 俺としてはもう、その時点で疲れ切ってたから早く終わらせたかったんだよね。

 

「今晩、空いているのであれば少しだけ屋敷の一室をお借りしたいのですが」

「いいわよ。部屋なら余っているくらいだもの。適当に使ってちょうだい」

「それと、できればキッチンもお願いしたいですね。食材についてはこちらで用意しますので」

「分かりました。では、そのように伝えておきますね」

 

 なんかもう、その時点で何となく嫌な予感が伝わってきたの。

 ってか飯関係の話だと絶対、俺になんか話振られるだろうし。

 そしたら案の定、先生が聞いてきてさ。

 

「萩野君」

「はい」

「あなたは確か、料理が得意でしたよね」

「一応、定食屋の息子なんで、まあ」

「……粉ものも、いけたりしますか?」

「いけたり……? いや、人並みには作れるっすけど」

「あなたの言う人並みなら、安心ですね」

「はあ……」

「では、後ほど連絡します」

 

 それだけ言ってから、先生もそのまま行っちゃって。

 何だったんだよ結局って話にもならずに、とりあえず予定だけ開けとくか、じゃあ部屋とキッチンも開けておくよう連絡しておきますね、面白そうだから私も見学しようかしら、みたいに各々で動いてたんだけど。

 そしたら夕方くらいに、連絡きたんだよね。

 ……ああいや、先生じゃなくて。

 

「お好み焼き、死ぬほど作るで!」

 

 タマモクロスから。

 

 




なんか番外編みたいなの欲しくなっちゃって いうてタキオンの薬でちっちゃくなっちゃったトレーナー云々みたいなのしか考えてないんですけど 多分他にもできるかも
もし深夜のテンションで筆乗って、その上で描き上がったら最新話にぶん投げてもいいすか
あとでアンケート置いときます

Q.続きますか?
A.次の話、ちょっとだけ進んでる
 ワンチャン月末滑り込みのルート、アリ

番外編みたいなの、ここにウッピーしてもいい?

  • イイヨ
  • チラ裏とかで上げた方がよくね?
  • ナシで
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