メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】   作:宇宮 祐樹

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 …………。

 ん……?

 ……………………?

 …………あー。

 

 おい、起きろ……。

 起きろって……嘉穂……。……嘉穂!

 ……呼び鈴、鳴ってる……。

 だから……呼び鈴……。

 誰か来てるから、起きろって……。

 

 ……俺? はあ? なんで俺が……?

 意味分かんねーだろ……てかお前んちなんだからお前が出ろよ……。

 無理ってお前……呑んでる時はつえーのに翌日死ぬの、いい加減治せって……。

 つーかこんな時間に……って時間でもねえな。そろそろ一時じゃねーか。

 なんか宅配でも頼んだのか? 違う? じゃあ誰だよ……。

 ……まさか、男じゃねーだろうな? 俺、面倒事は……。

 いや、とにかくも何もねーだろ……お前が出た方が穏便に……。

 ……あーはいはい分かったよ、出てくればいいんだろ?

 どうせ宗教勧誘か何かだろ。何かあったらまた戻ってくるから。

 はい。……俺が帰ってくるまでに生き返っとけよ。

 

 ってか、まだ玄関前いんのか? 結構時間たったから、ワンチャンどっか……。

 ……いってねーな。相当粘着されてるんじゃねーかアイツ……。

 寝起きの一服もできてねーってのにさあ。

 

 はいはい、今出ますよー。

 つっても家主、いま死んでるんで伝言あるなら俺に……。

 

「おはようございます、トレーナーさん」

 

 …………………………………………。

 

 は?

 …………え? ……あ、えっ? あ、アルダン?

 いや、ちょ……は? え? ここ嘉穂の家……。 

 ……な……なんで……。

 

 

「なんでお前、ここにいんの……?」

 

 混乱した頭のまま、なんとか絞り出した声でそう問いかけると。

 アルダンはいつも通りの調子のまま、にっこりと笑ってから。

 

「お迎えに参りました」

 

 なんて。

 

「はい?」

「ですから、トレーナーさんをお迎えに参りました」

「? …………? ん? え、どういうこと?」

「……トレーナーさん、まだ少し寝ぼけていらっしゃいますね?」

「いや……お前がここにいること自体、夢だと思ってるけど……?」

 

 そもそもこいつが嘉穂の住んでるアパート知ってるのも謎だし。

 大体、迎えに来たってこれからどこに行くつもりで……。

 

「とりあえず目覚めの一服、されますか?」

「ああ……じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 そんな風に、半ば流されるようにポケットに入っていた煙草を取り出して。

 いつも通り煙を吸って吐いてを繰り返したところで、ようやく意識がはっきりしてくる。

 ……………………………………。

 なるほど。

 

「夢じゃないな?」

「そうですね。現実ですよ」

 

 できれば夢であってほしかったんだけど。

 

「それで? 迎えに来たって言ったけど……。お前、また急に俺のこと連れ出して、どっか旅行するつもりじゃねーだろうな? ……あのなあ。この前も言ったと思うけどさあ。そういう事は事前に話してくれれば、ちゃんと予定は空けといてやるって言って……」

「今回は違いますよ。ただ、役所の方までご一緒してほしいだけです」

「……役所? え、今日なんか公的な用事あったっけ? あれ? 俺が忘れてるだけ?」

「そういう訳ではありませんから、安心してください。昨日の深夜、急に決まったことなので」

「あ、そう? ……ちなみに、どんな用事?」

「こちらの書類を提出しに行こうと思いまして」

 

 そうやって言いながら、アルダンが鞄の中から取り出した紙を見せてくる。

 ざっと目を通してみて分かったのは、俺とアルダンの個人情報が乗っているということだけ。

 不審に思って書類の右上の方へ視線を送ると、そこにはデカデカとした文字で、

 

「婚姻届?」

「そうですね」

「……誰と、誰の?」

「私と、トレーナーさんの」

 

 そりゃそうか。

 だって俺とアルダンのことがガッツリ書いてあるんだもん。

 聞くまでもなかったわ。当たり前だよな。

 ……いや。

 そうじゃなくて。

 

「俺とお前の婚姻届……? そんなおぞましいモノが、どうしてここに……?」

「……おぞましいモノ、という評価については、今後数十年かけながらゆっくり訂正していただくとして。

 必要だからご用意したまでですよ。こちらを本日、役所の方に提出しに行こうかと思います。同意もやっとのことで取れたことですし。善は急げ、ですね」

「同意? いやバカ言うなお前。いつ俺がお前なんかと結婚するっつったよ?」

「こちらをご覧になっても、まだそんなことが言えますか?」

 

 どうして機嫌がいいのか分からないけど、ニコニコ笑ったままアルダンが携帯を見せてくる。

 そこには何故か、本当に意味不明なことに、昨晩のベロベロに酔った俺の姿が映っていて。

 

『……でも、そうだな。

 結婚した上で、メジロ家のトレーナーとして食いっぱぐれないようにして。

 そんでもってこれからのメジロ家のウマ娘の指導させてくれるなら考えてやってもいいな。

 だってそうすれば優秀な生徒ばっかり担当できるし、失業する心配も無くなるしな。

 いや、それくらいのメリットないとあいつと結婚なんてしねーよバカ。

 むしろそんだけの条件あってギリギリってレベルだよ。

 ははは……』

 

 ……………………………………。

 

「は!? な…………は、はあ!? おい、なんだよコレ!? どっから聞いてたお前!?」

「私が直接聞いたわけではありませんよ。嘉穂さんから昨晩送られてきたものです」

「あ……あの野郎、最初っからコレが目的だったのか!? やりやがったなマジで!」

 

 道理で急な話だったし、やけにアルダンとの話を聞かせろってしつこいとは思ったけど!

 

「やっと気づいたのかこのマヌケ」

 

 なんて俺の背後から声をかけてきたのは、水の入ったペットボトルを片手に握った嘉穂で。

 

「おはよ、アルダンちゃん」

「おはようございます、嘉穂さん。体調は大丈夫ですか?」

「ダメ。たぶん一生分のゲロ吐くかも。見られると恥ずかしいから早く出てって」

「それはいけませんね。ではトレーナーさん、早くお暇してしまいましょう」

「いや行くわけねーだろうがアホ! 俺、コイツに言いたいことが山ほど……」

「あ、こちら報酬のお酒の一覧表です。好きな物を好きなだけ頼んでいただいて構いませんよ」

「ありがと。あとでゆっくり見せてもらおうかな。……へへっ、いいの揃ってんじゃん」

「そんなチンケなモンで買収されてんじゃねーよ酒カス!!」

「うるせえ! とっととアタシの部屋から出ていきな、このヤニカス!!」

 

 そんな売り言葉に買い言葉で返されながら、そのまま嘉穂に蹴り飛ばされる。

 ……暴力女が。そんなだから一生俺以外に男がつかねーんだよ、カス。

 なんて言葉を投げようとする前に、扉を強く閉じられて、鍵も閉められた。

 

「クソ女が……」

「トレーナーさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけねーだろ……ったく、あいつ事あるごとに俺のこと蹴りやがって……」

「ほら、お手をどうぞ」

「ああ、ありがと」

 

 ぐちぐち不満を漏らしながら、差し出されたアルダンの手を握る。

 そのまま立ち上がると、アルダンは俺と手を繋いだまますたすたと歩き出して。

 

「それでは行きましょうか」

「待て待て待て待て待て待て待て待て」

 

 しくじった!

 

「離せッ、こ、お前……ああダメだ全ッ然離れねえ! お前ガチで握ってるだろこれ!」

「もちろんです。提出がきちんと済むまでこのままですからね」

「お前役所ん中で手ぇ繋いだまま手続きとか諸々やるつもりか!?」

「そのつもりですよ。それに、ほら。この方が向こうも何をしに来たか分かりやすいでしょうし」

「おめでてー頭してんのは三年前から変わんねーなマジで!」

 

 出来る限りの抵抗を試みても、結局はズルズルと引きずられて行く。

 ウマ娘に人間は勝てない、なんて与太話が今になってしっかりとした輪郭を帯びていくのを感じた。

 それにしたって、こいつ……! こんなに力強かったか!? 

 少なくとも三年前はこんなんじゃなかったぞ! この三年でどれだけ成長して……!

 まさか、俺が組んだトレーニングのせいで? 病弱だったあいつが、こんな成人男性を引きずれるくらいに、筋力も体幹も強くなった? 俺が組んでやったトレーニング、そんなに効率よかったのか? 

 ……それで、結果的に自分で自分の首絞めてると。

 クソが!

 

「え? ウソ、本気でこのまま誘拐しようとしてる? いやいや……」

「さすがにこのまま向かいませんよ。車はきちんと用意してあります。すぐに着きますよ」

「そういう問題じゃねーよ!」

 

 ……ってか、大体!

 

「お前、俺と結婚するって……どういう意味か分かってんのかよ?」

 

 そりゃまあ、トレーナーとしては満点レベルだよ。それは自信を持って言える。

 俺だってこいつのことは、担当ウマ娘としてこれ以上ないくらい、最高の奴だとは思ってるし。

 でも。

 

「これから先の人生、ずっと俺と二人っきりなんだぞ? こんな俺と墓ん中入るまで一緒にいなきゃいけないんだぞ? ……自分で言ってて悲しいけどさ、俺はマトモな家庭が築けるとは思ってないし、いい夫になれるとも思ってない。ましてや、父親なんて……考えるだけで笑えてくるな。それくらい、冗談みたいな話なんだよ。

 だからつまり、お前がやってることは、自分の未来をドブに捨てるみたいなことなんだよ。分かるだろ? お前には色々と言ってきたけど……でも、お前の未来はいいものであってほしいし、将来はちゃんとした家庭を築いて、子供と幸せにやってほしいって思ってるよ」

 

 何だかんだ言い合ったりぶつかったりしながら、ここまで付き合ってきたんだ。

 その相手の未来くらい、いいモンであってほしいって思ってるし。

 だからこそ、隣に立つのは俺じゃない方がいいってのは、俺自身が一番よく分かってる。

 

「……今ならまだ、いつもの冗談で済ませてやる。考え直せって」

「………………………………」

 

 話の途中で脚を止めてたアルダンは、何も答えないままだった。

 ……突き放すようで悪いけど、こうでもしないとマトモに言うこと聞かないからな、こいつ。

 でも、言いたいことはなんとか伝えられたと思う。俺の気持ちさえ伝わってれば、それでいい。

 だから、この話はこれで終わり。

 ……終わりなんだ。

 …………。

 ……。

 終わり……。

 お、わッ……おッッ! 終わりッ!

 ちょ、こいつ……! 終わりだって言ってんのに!

 

「いつまで手ぇ繋いでるつもりだよお前はさあ!」

「ああ、申し訳ありません。トレーナーさんの()()()()が始まったので、それが済むまで少し考え事を」

「い、いつものって……お前、俺がどんだけお前のためを思って言ってやったと……!」

「言いたいことは全て言い終わりましたね? では、引き続き参りましょうか」

「お前まさか俺の話全部スルーしたのか……?」

 

 ありえねーだろ普通に。

 俺があんだけマジな話してやったのに、全無視するか普通?

 やっぱりダメだ。マトモに俺の話なんか聞いちゃくれねえよ、こいつ。

 

「だーかーら! 俺と一緒にいるとロクなこと無ぇんだって! お前だってこの三年間で実感しただろ!?」

 

 ぴくり、と。

 俺がそう叫んだ瞬間、アルダンの耳がそんな風に動いた気がした。

 ……ヤバい。冗談抜きでマズい。

 コレ、こいつがブチギレる直前の動きだ。

 

「……メジロアルダン。通算戦績、十一戦七勝。直近の勝利レースはジャパンカップと有記念」

「あ、ああ。……それが、どうした?」

「病室に閉じこもってばかりだった私が、これだけ素晴らしい戦績を上げるウマ娘になれたんです。あなたと出会えたから、今の私が……メジロアルダンがあるんです。あなたと一緒に過ごしたこの三年間は、私にとってかけがえのない時間でした。……それをあなたは今、ロクなことじゃない、と仰いましたか?」

「いや……別に、お前のことを貶したつもりじゃ……」

「ここまで言っても、まだ分かりませんか?」

 

 するとアルダンは握ったままの俺の手を、両手で優しく包み込みながら。

 

「私はこれからも、あなたと一緒に同じ時間を過ごしていきたいんです」

 

 そんな言葉を照れもせずに、まっすぐ俺に送ってきて。

 

「大変だということは分かってます。きっと、何度も困難に立ち会うのでしょうね。それでも、あなたとなら乗り越えられるって信じてますから。だって……今までもずっとそうだったでしょう? だけど、私とあなたはここまで来れた。それなら……これから先もずっと、二人で一緒に歩んでいけるはずです」

「……また、逃げ出すかもしれないぞ。お前のことを突き放すかもしれない」

「その時はもう一度迎えに行きます。雨の日でも、雪の日でも、あなたを探し出して見つけますから。……今度は、あなたの分の傘もきちんと持って。傷ついてしまったあなたの隣に、寄り添うと誓います」

 

 強く握られた痛みが和らぐほどに、あいつの手は暖かかった。

 力もほとんど込められていなかった。今ならあいつの手なんて簡単に振りほどける気がした。

 でも、そうしなかった。できなかった、じゃない。……したく、なかった。

 ……ああ、そうか。

 俺がこいつのことを、離したくないからか。

 

「私は信じています。あなたとならこの先もずっと、幸せでいられるって」

 

 俺の瞳を覗くアルダンの視線に応えるために、あいつの手を握り返す。

 それから。

 

「どうしようもないよな、俺たち。お互い、他にいい未来が見られる相手がいないなんて」

「ふふっ、そうですね。ですが、これからはもっと別の、素敵な言い方にしませんか?」

「素敵な言い方、って……何かあるのかよ?」

「はい。運命、というのはどうでしょう?」

「……悪くないかもな」

 

 いつもなら気恥ずかしくて、小言の三つ四つはぶつけてるんだろうけど。

 なんだかその言葉の響きが心地よくて、そんな気にはならなかった。

 それに、こいつがこんなに気に入ってるなら、なあ。

 

「……改めて、これからもよろしく。アルダン」

「はい。よろしくお願いしますね、あなた」

 

 あなた、って。

 気が早すぎるし、コテコテすぎるけど。

 ……それでもまあ、悪くないな。

 

「気になるのは、あのババアがどんな顔するかだな」

「お婆さまはもう承諾してくださいましたよ。メジロ家における専属トレーナー試用の件も、本格的に実施するとのことです。トレーナーさんも繰り上がる形で、メジロ家の専属トレーナーという肩書になるかと」

「ああ、それなあ。結局さ、俺の雇用ってお前が担当すんの?」

「さすがに現役中はまだ難しいと思いますが……将来的には」

 

 なんてテキトーな話をしていると、いつもアルダンが送迎で使う車が見えてくる。

 アルダンが手招きすると、その車はゆっくりとこちらに向かってきて。

 

「新婚旅行は中国にしましょうね」

「いや俺パスポート持ってねえんだけど」

「大丈夫です。トレーナーさんの分は、こちらでご用意しましたので」

「……プライバシーどうなってんだ」

「結婚を承諾した時点で、トレーナーさんはもうメジロ家の一員ですので」

「ははっ、何だそりゃ……」

 

 …………………………。

 

「ちょっと待て何だそりゃ!!?!?」

「ばあや、トレーナーさんを連れてきましたよ」

「おはようございます、智哉さま。さ、どうぞお乗りください」

「萩野ですよ! 萩野! まだギリッギリ萩野です、俺! お願いだから苗字で呼んでください!!」

「今すぐ車を出してください、ばあや。トレーナーさんが混乱しているうちに。早く!」

「かしこまりました」

 

 お前……ッッ!!

 

「そ~~~いや一番大事なところ全ッ然話してなかったよなあ!? 誰がメジロ家の一員だって!? 俺にあのクソババアの直系の親族になれって言ってんのか!? ぜってーヤダからな!?」

「……その件について、お婆さまから言伝が一つだけ」

「何」

「『あなたのような優秀な人材を、メジロ家がそうやすやすと手放すとでもお思いですか?』」

「やっぱあのバアさん頭イカれてんだろ!!」

「ちなみにお婆さまは婚姻証明人として、役所の方でお待ちになっていますよ」

「すいません。目的地、東京駅に変えてくれますか? 愛知まで新幹線で飛んでそっちの役所で手続きの諸々済ませるんで。あ、そこ右すっすよ。右、右。右……まっすぐじゃなくて右って言ってるでしょお婆ちゃん!」

「? 申し訳ありません、ここのところ歳なのか難聴で……」

「もうこのまま病院行けアンタ!」

「屋敷の方にトレーナーさんのお部屋も既に用意してあります。というより……私の自室ですが」

「ドーベルお嬢様の反対を押し切ってまでご用意しましたものね」

「これからは二人で一緒に暮らしましょうね、あなた」

「ふざけんな!!」

 

 

 やっぱりメジロアルダン(こいつ)、ハズレだよ! ハズレ!!

 

 

 

 メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ! 結

 




なんと、エンドカードがあります

【挿絵表示】

(@moya_44444)

Q.続きますか?
A.続きません これにて完結!

一年半近くもご愛読いただき、ありがとうございました
もしよろしければ感想や評価の方 読了ツイートとかもね あったらね うれしい できればでいいからね、お待ちしております 報われます
完結、乙! くらい適当なヤツでも貰えるとアガる

より詳細なあとがきは後日、活動報告の方で
普通に間に合いませんでした ごめんね
他にタイミングないだろうしオリトレの設定とか多分書いてあります
完結のご褒美の自分語りということでね
また思い出した時にでも見に来てください

それでは。

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