メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】 作:宇宮 祐樹
おれ「ふーん まあ引かないけど笑 そもそも石ないし悪いけど無理や爆笑」
フォロワー「配布サポカで来るから嫌でもお前のところにやって来るぞ 世話してやれ」
おれ「はい……」
■
そんな感じで、メジロ家のプライベートビーチに誘拐されてから、二週間くらい経った頃かな?
「次のレース、弥生賞にすっか」
その日はトレーニング休んで、近くの屋敷で今後の予定立ててたのよ。
「弥生賞というと……来年の三月ですか?」
「そう。それまでは基礎トレ詰めてく感じだな」
ホントは体調のこと考えると、青葉賞くらいまで安静にするべきだったんだろうけど……三冠目指すってなら、そうも言ってらんないし。距離適性が合ってたのは不幸中の幸いかもなあ。二〇〇〇メートルの根幹なら、寧ろ
でもまあ、あいつからしたらそれがちょっと不満だったらしくてさ。
「……本当に、今年はレースに出ないんですね」
「前々からそう言ってんだろ。……一応、お前の体調のこと考えてやってんの」
「それは、理解していますけど」
ウソだったね、アレは。いや、ウソってのも少し違うか。なんか……理解はしてるけど、全然納得してないってか。あいつ、ああいう時だけ年相応の
「チヨノオーさんは、朝日杯FSを目標にされているそうです」
「そーなんだ。確かにチヨちゃん、マイルも走れるしね」
「ヤエノさんの目標は、ホープフルSだと」
「へー。ま、あの娘なら狙える素質はあるでしょ。何もおかしくないと思うけど」
「そうですね。何も、おかしなことはないと思います」
「……一回レース出れたからって調子乗ってんじゃねーぞ」
「そんなことは……」
まあ、あいつにもプライドはあったんだろうな。ホントは自分もレースに出せ、って言いたかったんだろうけど、何も言わずに我慢したままでさ。その日からしばらくはずっと、そんな感じになって。
……でも、分かるんだよな、正直。だって、ダチはみんなレースに挑戦して、ターフの上で戦ってんのに、自分だけ何もできないって……相当悔しかったと思うよ。いや、考えてみろよ。例えば部活とかでさ、同期は全員大会とか出場してんのに、自分だけベンチでボケーって座ったままなんて……めちゃくちゃ嫌だろ。
でもあいつ、その悔しさとか表に出さずにずーっと我慢しててさ。
「今日のトレーニングは、これで終わりですか?」
「おう」
「……私、今日はとっても身体の調子がいいんです。だから、少しだけ自主練を……」
「ダメで~す」
日が経つにつれて、そんなこと言い始めたの。
最初は適当にあしらってたけど、あいつ、毎日のようにそんなこと言い始めるモンだから、段々しつこくなってきて。俺の方も面倒くさくなっちゃって……どーにかしないとな、って考えたワケ。
でも、あいつのワガママ聞いて、自主練させたり、それこそレースに出したりとかできるわけないじゃん? そんなんで体調崩されたりしても、困るのはこっちだし。ワンチャン怒られるかもしれないし。
それだから……まあ、なんつーか。
押してダメなら引いてみろ、ってことで。
「お疲れさまでした」
「はい、お疲れ」
「今日も自主練は……」
「ダメに決まってんだろ」
もう、八月も終わりの週に入ったころかな。
その日のトレーニングが終わった後、不満そーな顔してるあいつに声かけてさ。
「なあ」
「……はい、なんでしょう」
「自主練するつもりだったってことは、お前このあと時間あるよな?」
「えっと……そうですね。今夜の予定も、特になかったので……」
「それならさー」
流石に自分でも安直っつーか、子供っぽい手だなとは思ったけど。
「近くで夏祭りやってるみたいだから、後で行くか」
それくらいしか、考えつかなかったのよ。
■
メジロ家のプライベートビーチつっても、元々は海水浴場だったからさ。ちょっと離れたところに普通に人が住んでて、んで小さいけど神社で夏祭りやってるところがあったの。
まー……規模で言ったらマジでショボいよ。多分、一周するのに三十分も要らないんじゃないかな。屋台も両手で数えられるくらいしかなくて……ホンっトにちっちゃいヤツ。少なくとも俺は祭り行こうぜ、って言われてそこ連れられたらガン萎えするくらいのところだった。
それでも、あいつからしたら産まれて初めての祭りだったみたいでさ。
「ごめんなさい、お待たせしてしまって……」
あいつ、めちゃくちゃ気合い入れた浴衣着て、待ち合わせてた場所やってきたの。
なんかああいう子供の着る浴衣って普通、白い生地に朝顔の模様でー、みたいな感じじゃん? でもあの時のあいつ……藍色っつーの? そういう濃い感じの色に、確か模様は赤い花の……菖蒲だったかな。とにかく、そういう……すげー大人びたヤツ着てきちゃってさ。
髪飾りも金色のめちゃくちゃ高そうなヤツで、挙句の果てにうすーく化粧までしちゃってて。
……だから、なんつーか俺も、固まっちゃってさ。
「それにしても……ふふっ。浴衣なんて初めて着ました」
「………………」
「ばあやが見繕ってくれたんですよ。その……トレーナーさんにお祭りへ誘われた、と伝えたんです。そうしたらばあや、とっても慌ててしまって。急いで浴衣と……そうそう、この綺麗な髪飾りも」
「………………」
「浴衣は、お婆さまが昔に着ていたものを借りたんです。……どうでしょう? 似合っていますか? 私には少し大人すぎるかな、と思ったんですが……でも、トレーナーさんの隣に立つなら、少しだけ背伸びしてみようかな、なんて……ふふっ」
「………………」
「……えっと、トレーナーさん?」
そこでようやく俺も、我に返ってさ。
ぺちゃくちゃ一人で喋ってるあいつに、言ったのよ。
「いくら何でも気合い入れすぎだろお前……」
「…………えっ?」
そりゃ、なんかデカいところの祭りとかだったら、百歩譲って分かるけどさ。
言っちゃ悪いけど、こんな小っさいところの祭りでしてくる恰好じゃなかったわけ。それこそもう、トレーニングに使ってるジャージとかでよかったのに……いやー、世間知らずのお嬢様ってホンっト怖いわ。
だからまあ、あいつ、明らかに浮いちゃっててさあ。あー……念のため言っとくけど、いい意味でね。他と比べて、頭一つ抜けてるってっつーか。周りの人たちも、なんであんなお嬢様がこんなところにいんの? みたいな感じで。そりゃもう、バッチリ目立ってちゃってたワケ。
「もっとラフな格好でいいんだよ、こんなトコの祭りなんて」
「……もしかして、いけませんでしたか?」
「いや、そういうワケじゃねーけどさあ……」
なんつーか……うーん。
こう言ったらアイツに負けた気がするから、イヤなんだけど。
多分俺、めちゃくちゃ照れちゃってたのよね。
いや……だってそりゃ、あいつウマ娘だから当然なんだけど、
だから、あのー……アレだ。高校とかの女友達とさ、プライベートで付き合いあったときに私服姿だと、普段と違うからおっ? ってなるじゃん? それに似た感じで、ほんっと不覚なんだけど照れちゃって。
……あー、確かに。
今思い返してみると、あいつとプライベートで出かけたの、アレが初めてだったかなあ。
「どうされたんですか、トレーナーさん?」
「いや……」
「……お顔が少し、赤いですよ?」
多分、あいつもそこで俺が変に意識してること、気づいたんだろうな。
いつもみたいに俺の顔覗き込んでくるから、たまらず目ぇ逸らしたのよ。
そしたらあいつ、何してきたと思う?
「……えいっ」
いきなり俺の手、握ってきたの。
しかも恋人繋ぎで。
マジでどこで覚えてくんだろうな、ああいうの。
「お前、何して……」
「すみません、こうした人混みにはまだ慣れていなくて……もしかしたら、トレーナーさんとはぐれてしまうかもしれません。ですから、こうして手を握っていれば、トレーナーさんと一緒にいられるかと」
「いや、人混みっつーほど人いねえだろココ」
「それに、ばあやが教えてくれましたから」
「……何て?」
「今夜が勝負の時ですよ、と」
……今更だけどさあ。
あのバアさん、マジで色ボケしてんじゃねーの?
てか、自分の家の
いやまあ……そもそもあの家が意味わかんないって言えば、それはそうなんだけどさ。
「……嫌でしたか?」
「歩く邪魔になるだろ、お互い」
「でも、トレーナーさんと離れ離れになってしまったら私、どこでケガをするか分かりません」
「……お前さあ、ほんっといい性格してるよな」
「ふふっ」
それ言われたら、もう何も言い返せないからさ。結局、そのまま祭りに行くことにしたわけ。
……え? あー、何したっけなあ。正直、あんまし覚えてねーんだよな。出てる屋台とかがほんっとに少なくってさあ……でも、最低限のヤツはあったかなあ。えーっと、何だったっけなあ……。
ああそうそう、射的! 一番初めにせがまれたの、射的だったわ!
「トレーナーさん、トレーナーさん」
「え? あー、射的……何お前、銃ぶっ放したいの?」
「はい。以前に見た演劇で、そういう場面がありまして……少しだけ、興味が」
「……あ、そう」
え? うん。あいつの趣味、演劇鑑賞。
すげーよなあ。趣味までちゃんとお嬢様してんの。
「おっちゃん、一回。こいつにやらせてやってよ」
「あいよー……ってなんだ、えらい別嬪さんじゃねえか。
「ちげーよ、生徒と教師。中央から来てんの」
「ああなるほど、トレセンの生徒さんね。ってことは……アレか。向こうのメジロ家の娘さん?」
「はい。普段よりお世話になっております」
「お、こりゃどうも……」
「……いいから、とりあえず銃くれよおっちゃん」
この先もこんな感じで言われんのダルいなー、とか思いながらさ。とりあえず銃とその玉を三発くらいもらって、あいつに渡したの。やり方とかも適当に教えてね。まあー……ウキウキしてたよ、あいつ。そもそもこういうところで遊ぶの、初めてみたいだったし。そういうところは年相応なんだけどなあ。
んでまあ、やり方も分かったから、景品も……あー、てか、コレコレ。そう、今この携帯についてる、ちゃっちい安物のストラップ。これ狙って撃ったんだけど。
「……あ、あら?」
「あー」
「あー」
まあ、そりゃ一発目から景品取るのとか無理なワケでさ。
おっちゃんも俺も同じような反応しちゃって。
「真ん中に当てるんじゃダメ。もっと上の方狙って、バランス崩れるの狙わないと」
「まあ、そうなんですね」
「そもそも姿勢がもうちょい……つーか、体もっと出していいぞ。前のめりになって、ほら。そんで、銃口できるだけ景品……アレだよな? あのストラップ。アレにもう全力で近づけて、上の方狙ってもっかい撃ってみ」
「ええっと……?」
「……分かった。俺が支えといてやるから、その状態でもう一回やってみな」
みたいな感じで、もう半分俺があいつのこと後ろから抱いてるみたいな姿勢で、ほとんど俺も照準合わせてやってさ。いや……だってしょーがねえじゃん! 箱入り娘でやり方わかんねえっつーんだから!
「お! 兄ちゃん、見せつけてくれるねえ!」
「うるせー」
そんで、結局。
「取れました……!」
「おー」
「おー」
まあ、俺が支えてやってるから当たり前なんだけど。
そもそもストラップ自体も軽くて、難なく取れちゃってさ。
「ありがとうございます、トレーナーさん」
「どーも。それで? あと一発残ってるけど、どーすんの?」
「……次は自分で狙ってみます」
なんて言いだしたから、好きにやらせてみたの。
そしたらあいつ、次に何狙ったと思う? ……あいつ、俺のつけてるコレと色違いのヤツ狙ったのよ。普通さあ、こういう時ってもっとデカい景品狙うと思うんだけど……ほんっと変なヤツだよなあ、あいつ。
でもまあ、俺がどうこう言うようなことでもないから、やらせてみたんだけど。
「……えいっ」
「おー」
「おー」
当然、取ってたよ。だってほとんど同じヤツだもん。
「お嬢ちゃん、はじめてにしちゃ上手だねえ」
「ありがとうございます」
「モノ覚えはいいんだよなー、お前。トレーニングの時もそうだけどさ」
まあ、そんな感じで射的は終わったんだけどさ。
借りてた銃もおっちゃんに返して、まあ屋台巡り戻るかー、って時にあいつ、景品のストラップじっと見つめててさ。何してんの、って声かけようとしたら、あいつがそのうちの一つ、俺の方に差し出してきて。
「どうぞ」
「いや……別にいらないんだけど」
「トレーナーさんのために取ったものですから……なんて言ったら、どうでしょう?」
「……あっそ。貰えばいいんだろ、貰えば」
だから、俺もコレつけることになったのよ。
てかそのストラップ、今もあいつの携帯についてるよ。え? いや、お揃いって……中学生カップルじゃねーんだからさ。俺はまあ、他に着けるモンもないし……たまたまだよ、たまたま。つーか、それ言うなら向こうも同じだろ。だって数年は同じストラップ携帯つけてるって……女子高生なんだから、もっとこう、あるくない?
……まあ、その話はいっか。どうせすぐあいつも替えるだろうし。
そんで、えーっと……他はなんかあったかなあ。
言っても、りんご飴とか……
「お、りんご飴。どうする? お前も食う?」
「よろしいのですか? この時間の間食は、体重管理が……」
「そんな面倒くせーこと言うなら、俺だけ買ってくるけど」
「……では、お言葉に甘えてもよろしいですか?」
「はい。おばちゃん、二つちょーだい。なるべくデカいやつね」
「トレーナーさんは甘いものがお好きなんですか?」
「え? まあ……めっちゃ好きってワケじゃねーけど、それなりに。意外?」
「喫煙者の方は、どちらかというと苦手なものだと思っていましたから」
「まあ、人それぞれじゃない? 俺は甘いモンっつーか、味濃いモン食った後のタバコが一番美味いと思ってる」
金魚すくいとか……
「……あっ」
「え、もしかして全滅? お前……いや、初めてならそんなモンか。ほら、俺の一本貸してやるから」
「ありがとうございます」
「コツは枠に引っかけて……後は余裕ぶっこいてそうなヤツ狙うことだな。ほら、あの黒いアイツとか。別に急がなくてもいいから、ゆっくり追って……そうそう。出来るだけ水面に近いところ狙って……」
「えいっ……!」
「……もういいよ。俺の持ってるポイ全部やるから、好きなだけやってみな」
それくらいのモンしかなかったな。
ああ、金魚? 一匹だけ取れて……そいつ、今でも生きてるよ。なんかメジロ家の別荘で飼ってるらしい。確か、携帯に写真が……そうそう、これ。ヤバいっしょ。ほぼ鯉くらいデカくなってんの。あいつが自分でちゃんと餌とかやってるらしくてさ。いやー……家の人に任せりゃいいのにな。ああいうところ、変に律儀なんだよ。
みたいな感じで屋台回ってたら、時間もいい感じになってきてさ。
そろそろ帰ろうと思ったから、俺もここにきた目的を果たそうと思って。
「おっちゃん、これいくら?」
「四百円」
「あー……まあ、いっか。払うわ」
かなりボってる値段だったけど、とりあえず手には入ったからさ。
それから、帰る準備もできてるあいつに向かって言ったのよ。
「花火、するか」
「……えっ?」
今さっき買った線香花火、見せながら。
■
そんで、祭りの会場から少し離れた海岸に行ってさ。
遠くには他のヤツもちらほらいたな。家族連れで、花火やってる連中。……そうそう、あのスーパーとかで売ってる、大詰めの手持ち花火ね。いろんな色で、綺麗に光るヤツ……まあ、それはいいや。
とにかく、他にも人がいたから、ここなら花火してもいいか、って思って。
未だに不思議そうな顔してるあいつに、とりあえず袋から線香花火を一本、渡してみたわけ。
「ほら」
「……えっと、トレーナーさん?」
「何」
「これは、一体……どういう」
「どういう、って、線香花火だって。あ、何? もしかしてお前、花火したことない?」
「いえ、これがどういうものかは分かっております。確かにトレーナーさんの言う通り、自分でしたことはありませんが……そういうことではなく。どうして、私にこれを?」
「あー……まあ、一番
まあ、向こうもピンと来てないみたいだったからさ。
もう言葉で説明するより、見せた方が早いなって思って。
「勝負しようぜ」
「……勝負、ですか?」
「そう。コレに火ぃ点けて、先に落とした方が負けの一発勝負。どう?」
聞いてみたらあいつ、少しだけ考えてから。
「負けてしまったら、どうなるのでしょうか」
「勝ったヤツの言う事を、何でも一つだけ聴く。……何でも、な」
「……分かりました。受けて立ちましょう」
そんなこんなで、持ってるライターで火ぃ点けてさ。
海岸で二人しゃがみこんで、線香花火が燃えるのじっと見つめてたわけ。
でも……まあ、あいつ言ってたじゃん? 花火を見たこと自体はあるけど、するのは初めて、って。だから、勘違いしてたんだろうな。線香花火とかも、他の手持ち花火と同じで、綺麗に光るモンだと思ってたみたいでさ。
あいつ、いくら経っても光らない花火のこと、不思議そうに見つめてたの。たびたび向こうの家族連れがやってる花火の方見たり、俺の顔とか見たりさ。もう、明らかにソワソワしてて。
つまりこんな勝負、俺の勝ち確だったワケで。
……まあ、それが分かってたから、俺もわざわざ勝負って言葉使って、あいつに線香花火させたんだけどさ。
「トレーナーさん……」
そうやって、耐えきれなくなったあいつが俺に声かけた瞬間、花火が落ちたの。
「あっ……」
「はい、俺の勝ち」
地面に落ちて、もうあっけなく消えちゃってさ。あーあ、って感じで。
対してこっちのはまだ光ってたから、あいつも俺の持ってる花火、眺めててさ。
「トレーナーさんは、お上手ですね」
「そりゃな。子供のころからやってたから」
「……そうだったんですね」
「つーか、逆だ。お前がヘタなだけ」
「それは……なにぶん、初めてのことでしたから。勝手が分からず……」
「そういうことじゃなくてさ」
花火の勢いもだんだん強くなって、パチパチはじけ始めて。
「焦りすぎなんだよ、お前は」
「……焦りすぎ、ですか?」
「そう。だから花火も、綺麗に光らせる前に落とした。……他のヤツ気にしてキョロキョロしたり、我慢できずにソワソワしたりせずに、黙ってじっーと待ってりゃ、もっと光ってたよ。こんな風にな」
まあ、その時のあいつがそうだったわけ。
少なくとも、今のあいつが焦ってもいいことなんて、何もないの。そりゃ、気持ちは分かる。他の奴らがどんどんレースに挑戦したり、勝負したりする中で、自分だけ、なんて……焦りたくもなるわ。そこは理解できる。
でも、だからって無理に焦っても仕方ないし。つーか、無理に焦って故障しました、ってなる方がヤバいじゃん。だから、落ち着くべきだ、って。伝えたかったのは、それだったわけ。
「例えば、向こうの派手な花火が、チヨちゃんとかヤエノとか、他のヤツらだとするじゃん」
「……はい」
「だけど俺たちはこっち。地味に光ってる、ただの線香花火。派手でもないし、色もついてない。火を点けてもすぐに綺麗に光ってくれない。その上、焦って落としたらそこで終わり……まあ、ハズレだよな。線香花火なんて」
みたいな感じで喋ってる間に、俺の持ってる花火もようやく綺麗に光り出してさ。
「それでも……じっと待ってりゃ、線香花火だってこうやって綺麗に光ってくれる。面倒だし、長い時間がかかることではある。他の花火に比べたら、見劣りはするかもしれない。でも……それでいいと思うんだよな、俺は」
「………………」
「じーっと待って、だんだん勢いをつけて、最後に綺麗に咲いてくれる。……いいじゃん。少なくとも、焦って地面に落として、はいおしまい、よりは百倍マシだ。だから、まあ……」
結局、何が言いたかったってさ。
「今のお前に必要なのは、時間と余裕だよ」
「時間と、余裕……」
「
それなんだよな。
あいつ、この前から何度言っても納得できなかったみたいだから、もうこうやって分かりやすい形で伝えるしかないと思って……押してダメなら引いてみろ、ってのはそういうこと。強く言うより、こうやって説明ってか、説得した方が、あいつも納得してくれると思ったからさ。
「線香、花火……」
「あくまで例え話な。説教するつもりじゃねーけど……俺が言いたいのは、そういうこと」
「はい。トレーナーさんのお気持ち、確かに理解しました」
「そーかよ。じゃあ、改めて勝ったから、俺の言う事聞いてもらうけどさ」
「ええ。なんでも一つ、仰ってくださいな」
負けたのに、やけにやる気まんまんで答えたから、俺も言ってやったの。
「弥生賞まで、焦らずしっかりトレーニングしろ。いいな?」
「……分かりました」
俺の持ってた線香花火も、もう限界まで綺麗に光ってから、地面に落ちて。
最後はあっけなかったけど……でも、まあ、そういうモンじゃん? 綺麗に光って、楽しませてくれて……それでいいよ。それくらいが、丁度いい。あいつにとっても……俺に、とってもな。
そんで、線香花火も残ってたけど、時間も時間だったからさ。
「……んじゃ、帰るか」
「はい、そうしましょう」
みたいな感じで、結局その日はそれで終わって。
後日からは、あいつもちゃんと俺の言う事に納得してくれたみたいでさ。自主練させろ、とか言わなくなってくれたよ。チヨちゃんとヤエノについて言ってくることも無くなって。とりあえず、目標に集中してくれた。
だから、伝えてよかったのかなー、って。そう思いながら、合宿も最後までやったな。
まあ、その……何だ。
あいつのことを言ってるワケでは、ない。ないんだけど……。
……俺は好きだよ、線香花火。
■
そんな感じで、俺たちの夏合宿もどきも終了してさ。
学園に戻って、普段通りのトレーニングも進めてたわけ。チヨちゃんは朝日杯FS、ヤエノはホープフルS、あいつは弥生賞ってそれぞれの目標に向けて。個々人でメニュー組んで、いつもみたくやってたワケよ。
だから、このあたりはあんまり話すことないな……まあ、俺たちからすりゃオフシーズンみたいなモンだしな。前の二人みたく目標レースがあったり、シニア級とかクラシック級の娘だったら、有馬とかで話は変わって来るけど。こっちはジュニア級だもん。
あー……でも、そうだ。話のネタなら一個だけあるな。
えっと何だったっけ……ああ、そうそう。確か……
「トレーナーさん、アルダンさんと夏祭りデートしたって本当ですか!?」
急にトレーナー室に入ってきたチヨちゃんが、そんなトンチキなこと言い始めたのが始まりだったっけ。
「チヨちゃん?」
「はい! サクラチヨノオーです!」
「そのー……まず、その話は誰に聞いたの?」
「アルダンさんから聞きました!」
あ、の、クソガキが……!
言いふらしてんじゃねえよ! そもそもデートじゃねえよ! 誰が高校生相手にデートするかっつーの! 自意識過剰も大概にしろよあのマセガキが! せめて
……みたいな乱暴なセリフ、チヨちゃんの前で言えるわけもなかったからさ。
「えーっとね……まず、デートじゃないから。そこだけ勘違いしないで欲しいんだけど」
「でも、二人っきりでお出かけしたんですよね」
「……うん」
「私たちのこと、誘ってくれても良かったのに。そうしなかったんですよね?」
「そりゃまあ……だって、ねえ? 忙しそうだったし」
「……また、言い訳するんですか?」
「い、言い訳って……」
「それに、アルダンさんも言ってました」
「……なんて?」
「『私のことを線香花火のように綺麗だと、褒めてくださったんです』って」
あいつやっぱり耳腐ってんじゃねえの?
「やっぱり、私とは遊びだったんですね……」
「……チヨちゃん? どこでそんな言葉覚えてきたの?」
「契約してくれるって言ったのに、してくれなくって……それに、アルダンさんと二人っきりでデートなんて! ずるいです! 私も行きたかったのに! トレーナーさんだけアルダンさんのこと、独り占めだなんて!」
「いや……ちょっと、落ち着いて……」
もうなんかチヨちゃん、泣き出しそうになってて。とりあえず違うよー、あんなクソガキに靡くわけないよー、って説明してたんだけど、聞く耳持たずでさあ。どうしようかな、って困ってたの。
そしたら、チヨちゃんが聞いてきてさ。
「結局トレーナーさんはおっぱい大きい娘の方が好きなんですか?」
「………………」
「………………」
………………。
「うわーん!」
「ちょ、違うって! チヨちゃん! 行かないで、待って! おーい!」
いや、だってさあ!
そこ否定したら男じゃねえじゃん!
話が違うのは理解してるけどさ! プライドってモンがあるだろ! プライドでメシは食えねえって言うけどさ、プライド無くしたらそいつはもう人間として終わりなんだって! 譲れないモンあるだろ、人間全員!
……まあ、そんな感じで、チヨちゃんに泣かれちゃったわけでさ。
だから、とにかく何とかしようと思って。
とりあえず携帯取りだして、あいつにメッセ送ったの。
『お前、今どこにいる?』
その時の俺は、本人の口から否定させる、って考えてたからさ。話付けるっつーか……なんかもう、一発くらいブン殴った方がいいんじゃねーかくらいに思ってたんだけどね? とにかく、変な事言いふらすなって注意したくて。
時間も時間だったから、そうやって聞いたらすぐに返信が来てさ。
『トレーニングコース前のベンチにいます』
なんでそんなところにいるのかは不思議だったけど、とりあえず向かったわけ。
そしたら、いたの。
「こんにちは、トレーナーさん」
こっちに向かって、いつも通りお辞儀してくるあいつ。
「………………」
なんでか知らないけど、目ぇ閉じたままじっと動かないヤエノ。
それと、あと一人。やけに見覚えのあるやつがいてさ。
「あら? あなたは、確か……」
スーパークリーク……そうそう、あのスタイルいい娘。お前も知ってるっしょ。
その娘がいて……え? ああ、別にそこが初ってわけじゃないよ。何度か顔は合わせたことあるし。でも、そこまで面識があるってわけじゃなくて……そん時はお互い、そんな感じだったと思う。
なんでって……それについては、色々とあるんだけど。
一言で表すなら、まあ……。
……一夜限りの関係、とか?
■
Q.続きますか?
A.未だに冬コミの原稿が忙しいので長くはなりますが、続きます