メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】 作:宇宮 祐樹
おれ「当たりめえだろ持ってねえんだから 何トボけたこと言ってんだ」
結
■
確か、真冬にしてはそれなりに暖かかった日の夜だったと思う。
なんでかって言うと、俺がバカみたいに呑んでたから。
何って……その時、研修で色々と面倒なことがあってさ。まあ、ガス抜きっていうか……言っちゃえばヤケ酒だよ、ヤケ酒。吞まないとやってらんねー! ってなっちゃって、一人で居酒屋数件、回ったわけ。
そんで、まあ当然ベロンベロンになりながら帰り道についてたんだけど。
まずそもそも、飲んでたところが俺の住んでるトレーナー寮から、学園挟んだ向こうだったのね。だから、帰り道の途中で学園の前を通りかかることになるの。でも、夜中だからいいか、って思って。そもそもその時間、普通に門限越えてたしさ。生徒にも見られないだろうなー、って。酔った頭で考えてたのよ。
……そしたら、声かけられて。
「トレーナーさん?」
振り向いたら、ジャージ姿のスーパークリークが、そこに立ってたの。
……ああ、あいつとはそもそも知り合いだよ。なんでって……俺の研修を視てくれた先輩の、担当ウマ娘だったから。そこそこ話す機会もあったし、まあ……仲は悪くなかった。普通の、生徒と教師の関係だったよ。
「……クリーク、か?」
「はい、そうですよ」
「もう門限、とっくに過ぎてるだろ。なんで……こんな、時間に……」
「それが、少しだけ学園に用事があって……というよりトレーナーさん、大丈夫ですか?」
「うるせーよ……生徒に心配されるほど、ヤワな体じゃ……」
「っ、トレーナーさん!」
まあ勿論、大丈夫じゃなくてさ。
そうやって答えてるうちに、バランス崩しちゃって、倒れそうになったのよ。でも、地面にぶつかる前にあいつに抱きかかえられてさ。ぐわんぐわんしてる頭の俺に、あいつが心配そうな顔で聞いてきたの。
「大丈夫じゃないですね?」
「あー……あ? え? いや……ああ、えっと……すまん」
「……一人で帰れそうですか?」
「むり……」
そっから何て話したかは正直、全く覚えてないんだけど。
気づいたら俺、自分の家のベッドに座ってたの。
服もいつの間にか着替えてて、荷物もいつものところに置かれてて。
あれ? 俺、何してたんだっけ? って考えてるうちに、クリークがコップ持って俺の前に現れてさ。
「お水、飲みますか?」
「……ん」
そうやって水飲んだところでようやく、クリークに家まで送ってもらったことに気づいたの。
「……悪いな」
「大丈夫ですよ。それよりも、トレーナーさんの方が心配です。あそこまでお酒を呑まれるなんて……どうか、されたんですか?」
「別に、何も……無いわけじゃない、けど。わざわざ生徒に話すようなことでもねーよ。だから、まあ……気にすんな」
「……そうですか」
そうは言ったけど、まあ向こうも納得できなかったみたいで。けど、あいつ気遣いはできる方だからさ。心配そうな顔はしてたけど、それ以上はなんも聞かないでくれたの。
「寮長には連絡したの?」
「はい。先程、外泊許可を頂きましたので」
「あ、そう……それなら、いいか……」
よくねーよ。
いや、確かに生徒をこんな時間に一人で出歩かせるよりかは、トレーナーの家に泊める方がいくらか健全だけどさあ……だからって、こんなに酔ってる男の家に女の子を一人で泊めるの、結構ヤバいと思うよ。
でもまあ、それ以外できることもなかったんだろうな。特に寮長の生徒とか、それまで起きてなきゃいけないだろうし。一応俺もトレーナー免許持ってる身だし、ある程度の信頼に基づいた判断だったんだと思うけど。
だから……仕方なかったんだ。
ああ、そうだ。仕方がなかった。
……仕方がなかったんだよ。
「……もう、寝るわ」
「分かりました」
その時の俺、もう眠気も限界でさ。半分くらい目蓋閉じてて、意識も朦朧としてたワケ。
だから、正常な判断ってか……ツッコミする気力っていうの?
そういうこと、一切考えられなくて。
「トレーナーさん」
「……なに?」
「どうぞ。眠れるまでお膝、お貸ししますよ」
ほら、あいつって世話焼くのが趣味みたいなところあるじゃん? なんか、家の事情で子供とかの面倒見ることが多かったみたいで、同期の生徒からも頼れるお母さんっていうか、そういう立場にいることが多いらしくてさ。
そんで、自分で言うのもすげー恥ずかしいんだけど……俺、あいつに弟みたく扱われてたの。その……頭撫でて来たり、飲み物とか事あるごとに注いでくれたり。まあ……甘やかされてたっつーか、そんな感じで。
もちろん、いつもは止めろっつって拒否してるんだけど。
その時の俺、酔ってる上に意識も朦朧としてたからさ。
「……あったけー」
ノータイムで俺、あいつの太ももにダイブしちゃって。
「あらあら……こんなに素直に甘えてくださるなんて、本当にお疲れみたいですね?」
「……いいだろ、たまには。嫌っつーなら、すぐ止めるけど」
「いえ、いいんですよ。存分に甘えてくださいね」
まあ、あいつも満足そうにしてたよ。少なくとも嫌そうではなかった。……気分、良かったんだろうな。だって、いつも邪険にしてくる奴が、素直に甘えてくるんだから。俺がこう言うのも、ホントにアレなんだけど。
……だから、なんだろうな。
「今だけは私のこと、お母さんだと思って存分に甘えてくださいね?」
みたいなこと、あいつが言い出して。
「……母、さん?」
「はい、あなたのお母さんですよ~」
俺もつい、乗っかっちゃったのよね。
「母さん……」
「どうしました?」
「……母さん! うわああん! 母さん!」
何度も言うけど、その時の俺ってかなり酔ってたからさ。もう、クリークが実の母親にしか思えなかったのね。いや、ほんとはおかしいことなんだけど……その、メンタル的にも、弱ってた時期だし。その上、当時は上京して結構経ってたから、実家も恋しくなってて。
色々、溜まってたモンもあったっていうか。
……気づいたら俺、泣いてたのよ。
「もう帰りてぇよ、俺……東京、こえーもん! 人多いし! 駅の乗り換え意味分かんねぇし! 嫌だよ俺! 名古屋に帰りてえ! 近鉄! 近鉄のあの無駄にフカフカな椅子が恋しいよぉ俺!」
「そうですねえ。乗り換え間違えたら、どこに行くか分かりませんもんねえ」
「物価高ぇし、料理も自分で作んねえといけねえし! ……オムライス。母さんのオムライス、また食べてえよぉ! 学園の料理、味付け薄ぃんだもん! 中学の時みたいに、ケチャップ好きなだけかけてえよ俺!」
そっからもう、止まんなくて。
「……ごめん」
色々と、あいつにぶつけちゃったの。
「……トレーナーさん?」
「高校、まともに卒業できなくてごめん……ごめん、よ……もっと、真面目にやりゃあよかった……遊んでばっかりで、家のこと何一つ手伝わなくて……ケンカと女遊びばっかり、してさ……借金も、まだ残ってる。専門学校の学費も、二人に出してもらったのに……俺、こんなままで、さぁ……! ごめん……ごめんよ……」
「……………………」
「親父にも妹にも、迷惑ばっかりかけて……ああ、そうだ。俺、素直に実家を継げば、よかったんだ……そうすれば、みんなに迷惑もかけずに済んだのに……一人だけ東京に行って、家族のことなんて、ほったらかしで……ごめん……ごめん、なさい……!」
……まあ、なんつーか。
クリークには、ほんと悪いことしたよ。
だってこんな大人の愚痴、まだ十八にもなってない
そこでまあ、体力の限界が来たんだろうな。
「……ごめん、母さん」
気づいたら俺、眠ってて。
翌朝、起きた時にはもうクリークもいなかったの。朝練の時間だったから……ってのが建前なんだろうな。本音は……俺と、どう顔合わせていいか分かんなかったんだと思う。だって、逆の立場になって考えてみろよ。教師のあんな情けない愚痴聞いた次の日、どんな顔して会えばいいと思う? 俺には……分かんねえよ。
だからまあ、仕方ないっていうか、悪いことしたな、って思って。
そんで、携帯確認したら、メッセージが一件だけ残ってたの。
『昨日のことは、誰にも話しませんから』
『二人だけの秘密ということにしましょうね』
『きっとその方が、お互いのためですから』
……そっから、クリークとは距離が空いちゃって。
みんながいる時は普段通りに振る舞ってたけど……二人きりになることは、極力避けてた。うん、お互いに。俺もクリークも、どんな顔すればいいか、分かんなかったし。……もう、前みたいに仲良くはできないんだな、って。
できることなら、謝りたかったよ。だけど、向こうは俺の顔なんて見たくもなかっただろうし。……仮に謝ったとしても、元の関係にはならないんだろうな、って。情けねーけど……そう、思っちゃったから。
……一夜限りの関係ってのは、そういうこと。
■
だから、クリークと顔を合わせたのは、それ以来だったわけ。
「クリーク……」
「……こんにちは」
向こうもドギマギしてたけど、俺はそれ以上にドギマギしてたと思う。不意な顔合わせだったのもあるんだろうけど……やっぱり、負い目とか色々と感じちゃって。何の話すればいいのか、分かんなくてさ。
でも、会って一番に伝えたかったことは、決まってたから。
「……その、あの時は悪かった。俺も色々と……溜まってて、さ」
「いえ、あなたは何も悪くありませんよ。ですから、気にしないでください」
「でも……」
「それに、あの夜のことは二人だけの秘密、って言ったじゃありませんか」
そう言われて俺、その場にはあいつとヤエノがいること思い出してさ。
「えっと……今は何してたんだ?」
「ヤエノさんの特訓に協力していたんです。その……集中力を高めるために、近くで雑談していてください、と頼まれたので。アルダンさんと、少しだけお話ししていたんですよ」
「あ、ああ……そう……」
正直意味は分かんなかったけど、まあその時の俺にはどうでも良くて。
「そういえば、お前もデビューしたんだってな」
「はい。ようやく目途が立ったので」
「そっか……本当は、もう少しかかると思ってた」
「それを言うなら、あなたもですよ。アルダンさんのトレーナーになったんですよね?」
「ああ、そうだけど……そいつから聞いたのか?」
「はい。先程、アルダンさんとお話しして……あなたのことですから、担当する娘は見つからないものかと」
「……うるせー」
みたいな、ほんっとに中身のない会話しかできなくって。
でも、会話ができただけ充分だと思った。だって……話すことを避けられるよりは、マシだったからさ。安心はしたけど……でも、距離はやっぱり空いたままなんだな、って。……本当に、仕方のないことではあるんだけどさ。
そんな感じで、何話しても気まずい雰囲気になっちゃってさあ。
「では、私はそろそろ行きますね」
「……もう?」
「だって、そろそろトレーニングの時間ですから」
「え? あ、そっか……そう、だよな。……頑張って」
「ふふっ、ありがとうございます」
そんな感じで、クリークも練習に行っちゃって。一回だけ、引き留めようとしたけど……そうしたところで、俺にできることなんて、何もなかったからさ。そうやって見送ることしか、やってやれなくて。
そこで改めて、とんでもないことしちゃったなー、って実感したわけ。あーあ、どうしようかな、って。……本当は、俺の思い込みだって信じたかった。俺が重く受け止め過ぎで、向こうからしたら何でもないことだった、って。でも……現実ってさ、そう上手くいくわけないじゃん。だから……自分でもびっくりするほど、ショック受けてて。
……みたいな感じで、ナーバスになってる俺に。
「どういうことですか? トレーナーさん」
そのままあいつ、俺の手首に尻尾、巻き付けてきて。
「……何だよ」
「とぼけないでください。お二人の関係についてです。一体、何があったんですか?」
「別に、ここで話すようなことじゃねーよ。つーか、お前には関係ないだろ」
「……こちらの、お顔が真っ赤になってしまったヤエノさんを見ても、同じことが言えますか?」
「え? うわっ……」
みたいなこと言うもんだから、思わず振り返ったら、ヤエノがプルプル震えてて。
「どーしたんだよ、お前……熱でもあるんじゃねーの?」
「そ、そういう訳では……」
「どうしたも何も、トレーナーさんのせいですよ? 心がピュアなヤエノさんの目の前で、あんなお話をされたんですもの。もう、ヤエノさんも気になって特訓どころのお話じゃありませんよ」
「……アルダンさん?」
「そもそも、ヤエノさんはとっても純粋なお方なんですから。そんなお昼のドラマみたいなお話をされたら、お顔も真っ赤になりますよ。ヤエノさん、少女漫画を少し読んだだけでも、照れちゃうようなお方なのに」
「アルダンさん! その、アルダンさん!」
なんかその時のあいつ、若干暴走気味で。
ヤエノがそう呼びかけても、あいつ全然聞く耳持たずだったの。
その上、なんだかあいつ、とんでもない勘違いしてたみたいでさあ。
「……手、出したんですか?」
「はぁ? お前、何言って……」
「出しちゃったんですか?」
「いや、違うって……」
「出しちゃったんですよね?」
「だから、違うっつってんだろ! お前、一回落ち着けって!」
いやー……。
思春期ってこえーな、ほんと。
少しでもそういう雰囲気あったら、すぐに飛びつくってか……ああでも、後々から考えてみると、ちょっと意外だったな。あいつも年相応に、そういうことに対する興味もあったんだなー、って。
まあ、その時は焦りっていうか、半ば命の危険すら感じてたから、そんなこと考える暇もなくて。
「話してください。一から十まで、しっかり」
「その前に……この尻尾はどういうつもりなんだよ」
「途中でトレーナーさんが逃げてしまわないためにです。それと……」
「……それと?」
「所有権の主張です」
「意味分かんねーよ……」
そうやって言っても、あいつ、頑なに離してくれそうになかったからさ。
もう、全部あいつに話すことにしたわけ。その日の夜にあったこと、全部。
……え? ああ、そうだよ。俺が酔ってたことも、クリークに介抱されてたことも……俺のやらかしたことも、全部。だって、そうしないとあいつ、納得しそうになかったもん。ウソ吐く必要もなかったし……ってか、吐いたら吐いたで、また面倒なことになりそうだったしな。
そんで、一通りの話をしたんだけど。
「高校……?」
あいつよりも先に、ヤエノからそう聞かれてさ。
「いや、だから卒業してねえって。中退だよ、中退。……一年ん時に、ちょっとやらかしてさ。停学になって……面倒になったから、そのまま辞めた。そっからは……まあ、色々やってたんだけど。ってか、聞くところそこかよ。しかも、
「いえ、その……少し、意外でしたので」
「あー……まあ、確かにそうか。
みたいなことを話してたら、ようやくあいつが口開いてさ。
「申し訳ありません。まさか、そんな事情があったとは知らず……」
「別に気にしてねーよ。俺から言ってないだけで、聞かれたら普通に答えるしな」
「ですが……」
「つーか、謝るより先にまず
俺の話聞いて、あいつもだいぶ落ち着いたんだろうな。
言ったら、すぐに尻尾も離してくれてさ。
「お前さー……その尻尾癖、ちゃんと治した方がいいぞ。せっかく、俺なんかよりよっぽどいい
「……そう、ですね。次からは気を付けます」
「はい。それじゃ、俺達もそろそろトレーニング行くか」
そんな感じで、ヤエノとも解散してから、俺達でいつも通りトレーニングしてたんだけど。
その日のそいつ、妙に素直でさ。いや、トレーニングの指示はいつも聞いてくれるし、不満も言わねーんだけど……なんつーか、さあ。妙に俺のこと気遣ってるっていうか……その日は、なんか違ったのよ。
でもまあ、当然っちゃ当然だったんだよ。俺は
「それじゃあ、今日はこれくらいにしとくか。メニューも調整しておくから、明日も頼んだ」
「……はい。お疲れさまでした」
「お疲れー……」
だから俺、そういう時ってどうすればいいのか分かんなくて。
「幻滅したか?」
直接、あいつにそう聞いちゃったのね。
「……トレーナーさん?」
「聞くべきじゃないことだし、自分から言うようなことでもないってのは分かってんだけど……でも、さあ。今日のお前を見てたら、その……こんなロクでもないヤツが担当トレーナーだと、やっぱり思うところあるのかな、って」
「そんなことは……」
「ああ、違う……別に、幻滅するなとか、そういうことを言いたいわけじゃないんだよ。ただ……あ、あれ? いや……悪い、その……こういうことって、初めてで。なんて言えばいいのか……えっと……」
「大丈夫ですよ、トレーナーさん。ですから……」
「あ……そ、そうだ。俺さあ、お前のこと散々、ハズレだの何だの言ってたけど……その、俺も同じなんだ。
うーん。
これ、今だから言えることなんだけどさ。
そん時の俺、めちゃくちゃ不安だったんだと思う。
正直な話、そこであいつ幻滅されても、別に良かった。つーか、それが普通だと思ってた。今はもうそんなことないけど……実際、当時の俺ってそこそこ浮いてたしさ。トレーナーとして実力的にもあんまりだし、学歴もちょっと他とは違うし……まあ、言っちゃえばそういうのには慣れてたんだよ。
でも……なんか、そういう話をした時に、改めて思っちゃったの。
……俺みたいなヤツが、トレーナーやってもいいのかな、って。
そりゃ、試験に通ったし免許も持ってるから、やってもいいのは当たり前なんだけどさ。……変な話、高校もロクに卒業してないヤツが、女子高校生の面倒をちゃんと見られるか? ってことじゃん。
そう考えたら、止まんなくて。
「……ごめんな、こんなトレーナーで」
俯いたまんま、あいつの顔もマトモに見られなくてさあ。
それ以上、何て言えばいいのかも分かんなくて。じーっと黙ることしかできなくって。
……それから、数分くらいそのままだったんだけど。
「トレーナーさん」
急にあいつが、そうやって俺の両手を握ってきて。
「……あ?」
「まずは、深呼吸をしましょうか」
「な、なんで……」
「大丈夫ですから。私の言う通りにしてください。ほら、息を大きく吸って」
みたいなこと言われたから、とりあえず従ったの。
そうしたら、そこで初めて気づいたんだけど、俺、めっちゃ息上がっててさ。一度、咳き込みそうになったけど、何とか抑えて。そんで、あいつの言う通りに深呼吸してきたら、だんだん調子もいつも通りに戻ってきたの。
「落ち着きましたか?」
「…………うん」
「なら、次は顔を上げてください。そうして、私の目を見て……」
なんて言われた通りに、顔上げたらさ。
あいつ、俺のことじーっと、真っ直ぐに見つめてて。
「私に選抜レースを走らせてくれたのは、誰ですか?」
「お前だ。お前が一人で走って、一人で勝ったんだ」
「違います。トレーナーさんがいてくれたから、私は走れたんです」
「……でも」
「それでは、私に三冠という目標を示してくれたのは誰ですか?」
「それは……仕事だったから。それに、選んだのはお前だよ。……お前が全部、一人でやった。俺は必要、なかった……」
「……でしたら、病室で寝たきりの私を見つけて、声をかけてくれたのは? 私が真っ当にレースを走れない身体だと知っても尚、担当になると仰ってくださったのは誰ですか?」
「…………」
こんなこと、年下の……しかも、自分が担当してる
その時のあいつ、すげえ姉っぽく見えたんだよな。
でも実際、あいつってメジロの妹どもの世話してるからさ。そういう気質は若干あったんだと思う。面倒見がいいっつーか、話聞くのが上手いっつーか。……今でも思うけど、あいつって人の話を聞くのが上手くてさ。
……ああ、そうだ。
俺、姉ちゃんが欲しかったんだよ。
「過去に何があったのか、私は知りません。ですが」
「………………」
「私と今お話している方は、一人のウマ娘に親身になって寄り添ってくださる、立派なトレーナーさんですよ」
みたいなこと、はっきり言われちゃって。
すげー癪なんだけど……めちゃくちゃ安心しちゃったんだよね。
ああ、一応俺もトレーナーに見えるんだな、って。他のヤツからはどうか知らねーけど……少なくとも、俺が担当してるあいつは、俺のことをそう見てくれてるんだな、って。そう思ってさ。
「明日もよろしくお願いしますね、トレーナーさん」
「……うん」
そんな感じで一応、その日は終わったんだけど。
……まあ、なんつーか。
その時の言葉でちょっとだけ、救われたのかもなあ。
何って俺、担当する生徒を持つのが初めてのことだったし、自分でも気づかないうちに不安になってたんだと思う。当時は色んな事がありすぎて、そうやって考える時間がなかっただけで。
もしかしたら、爆発してたのかもしれない。また、何かやらかしてたかもなあ。
だから、あいつがああやって言ってくれたことには、感謝してるよ。
……まあ、菊花賞終わった後に、ガチでやらかしちゃったんだけどさ。
え?
メンタル弱すぎ? あー、俺が?
……あのさあ。
本当に言っちゃいけないこと言うなよ……。
■
Q.続きますか?
A.まだま冬コミの原稿が忙しいので長くはなりますが、続きます
12月に入ったら落ち着くかも~