メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】   作:宇宮 祐樹

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フォロワー「別の人が言ってたけど、アルダンの口調が違うらしいぞ」
おれ「当たりめえだろ持ってねえんだから 何トボけたこと言ってんだ」





08

 

 確か、真冬にしてはそれなりに暖かかった日の夜だったと思う。

 なんでかって言うと、俺がバカみたいに呑んでたから。

 何って……その時、研修で色々と面倒なことがあってさ。まあ、ガス抜きっていうか……言っちゃえばヤケ酒だよ、ヤケ酒。吞まないとやってらんねー! ってなっちゃって、一人で居酒屋数件、回ったわけ。

 そんで、まあ当然ベロンベロンになりながら帰り道についてたんだけど。

 まずそもそも、飲んでたところが俺の住んでるトレーナー寮から、学園挟んだ向こうだったのね。だから、帰り道の途中で学園の前を通りかかることになるの。でも、夜中だからいいか、って思って。そもそもその時間、普通に門限越えてたしさ。生徒にも見られないだろうなー、って。酔った頭で考えてたのよ。

 ……そしたら、声かけられて。

 

「トレーナーさん?」

 

 振り向いたら、ジャージ姿のスーパークリークが、そこに立ってたの。

 ……ああ、あいつとはそもそも知り合いだよ。なんでって……俺の研修を視てくれた先輩の、担当ウマ娘だったから。そこそこ話す機会もあったし、まあ……仲は悪くなかった。普通の、生徒と教師の関係だったよ。

 

「……クリーク、か?」

「はい、そうですよ」

「もう門限、とっくに過ぎてるだろ。なんで……こんな、時間に……」

「それが、少しだけ学園に用事があって……というよりトレーナーさん、大丈夫ですか?」

「うるせーよ……生徒に心配されるほど、ヤワな体じゃ……」

「っ、トレーナーさん!」

 

 まあ勿論、大丈夫じゃなくてさ。

 そうやって答えてるうちに、バランス崩しちゃって、倒れそうになったのよ。でも、地面にぶつかる前にあいつに抱きかかえられてさ。ぐわんぐわんしてる頭の俺に、あいつが心配そうな顔で聞いてきたの。

 

「大丈夫じゃないですね?」

「あー……あ? え? いや……ああ、えっと……すまん」

「……一人で帰れそうですか?」

「むり……」

 

 そっから何て話したかは正直、全く覚えてないんだけど。

 気づいたら俺、自分の家のベッドに座ってたの。

 服もいつの間にか着替えてて、荷物もいつものところに置かれてて。

 あれ? 俺、何してたんだっけ? って考えてるうちに、クリークがコップ持って俺の前に現れてさ。

 

「お水、飲みますか?」

「……ん」

 

 そうやって水飲んだところでようやく、クリークに家まで送ってもらったことに気づいたの。

 

「……悪いな」

「大丈夫ですよ。それよりも、トレーナーさんの方が心配です。あそこまでお酒を呑まれるなんて……どうか、されたんですか?」

「別に、何も……無いわけじゃない、けど。わざわざ生徒に話すようなことでもねーよ。だから、まあ……気にすんな」

「……そうですか」

 

 そうは言ったけど、まあ向こうも納得できなかったみたいで。けど、あいつ気遣いはできる方だからさ。心配そうな顔はしてたけど、それ以上はなんも聞かないでくれたの。

 

「寮長には連絡したの?」

「はい。先程、外泊許可を頂きましたので」

「あ、そう……それなら、いいか……」

 

 よくねーよ。

 いや、確かに生徒をこんな時間に一人で出歩かせるよりかは、トレーナーの家に泊める方がいくらか健全だけどさあ……だからって、こんなに酔ってる男の家に女の子を一人で泊めるの、結構ヤバいと思うよ。

 でもまあ、それ以外できることもなかったんだろうな。特に寮長の生徒とか、それまで起きてなきゃいけないだろうし。一応俺もトレーナー免許持ってる身だし、ある程度の信頼に基づいた判断だったんだと思うけど。

 

 だから……仕方なかったんだ。

 ああ、そうだ。仕方がなかった。

 ……仕方がなかったんだよ。

 

「……もう、寝るわ」

「分かりました」

 

 その時の俺、もう眠気も限界でさ。半分くらい目蓋閉じてて、意識も朦朧としてたワケ。

 だから、正常な判断ってか……ツッコミする気力っていうの?

 そういうこと、一切考えられなくて。

 

「トレーナーさん」

「……なに?」

「どうぞ。眠れるまでお膝、お貸ししますよ」

 

 ほら、あいつって世話焼くのが趣味みたいなところあるじゃん? なんか、家の事情で子供とかの面倒見ることが多かったみたいで、同期の生徒からも頼れるお母さんっていうか、そういう立場にいることが多いらしくてさ。

 そんで、自分で言うのもすげー恥ずかしいんだけど……俺、あいつに弟みたく扱われてたの。その……頭撫でて来たり、飲み物とか事あるごとに注いでくれたり。まあ……甘やかされてたっつーか、そんな感じで。

 もちろん、いつもは止めろっつって拒否してるんだけど。

 その時の俺、酔ってる上に意識も朦朧としてたからさ。

 

「……あったけー」

 

 ノータイムで俺、あいつの太ももにダイブしちゃって。

 

「あらあら……こんなに素直に甘えてくださるなんて、本当にお疲れみたいですね?」

「……いいだろ、たまには。嫌っつーなら、すぐ止めるけど」

「いえ、いいんですよ。存分に甘えてくださいね」

 

 まあ、あいつも満足そうにしてたよ。少なくとも嫌そうではなかった。……気分、良かったんだろうな。だって、いつも邪険にしてくる奴が、素直に甘えてくるんだから。俺がこう言うのも、ホントにアレなんだけど。

 ……だから、なんだろうな。

 

「今だけは私のこと、お母さんだと思って存分に甘えてくださいね?」

 

 みたいなこと、あいつが言い出して。

 

「……母、さん?」

「はい、あなたのお母さんですよ~」

 

 俺もつい、乗っかっちゃったのよね。

 

「母さん……」

「どうしました?」

「……母さん! うわああん! 母さん!」

 

 何度も言うけど、その時の俺ってかなり酔ってたからさ。もう、クリークが実の母親にしか思えなかったのね。いや、ほんとはおかしいことなんだけど……その、メンタル的にも、弱ってた時期だし。その上、当時は上京して結構経ってたから、実家も恋しくなってて。

 色々、溜まってたモンもあったっていうか。

 ……気づいたら俺、泣いてたのよ。

 

「もう帰りてぇよ、俺……東京、こえーもん! 人多いし! 駅の乗り換え意味分かんねぇし! 嫌だよ俺! 名古屋に帰りてえ! 近鉄! 近鉄のあの無駄にフカフカな椅子が恋しいよぉ俺!」

「そうですねえ。乗り換え間違えたら、どこに行くか分かりませんもんねえ」

「物価高ぇし、料理も自分で作んねえといけねえし! ……オムライス。母さんのオムライス、また食べてえよぉ! 学園の料理、味付け薄ぃんだもん! 中学の時みたいに、ケチャップ好きなだけかけてえよ俺!」

 

 そっからもう、止まんなくて。

 

「……ごめん」

 

 色々と、あいつにぶつけちゃったの。

 

「……トレーナーさん?」

「高校、まともに卒業できなくてごめん……ごめん、よ……もっと、真面目にやりゃあよかった……遊んでばっかりで、家のこと何一つ手伝わなくて……ケンカと女遊びばっかり、してさ……借金も、まだ残ってる。専門学校の学費も、二人に出してもらったのに……俺、こんなままで、さぁ……! ごめん……ごめんよ……」

「……………………」

「親父にも妹にも、迷惑ばっかりかけて……ああ、そうだ。俺、素直に実家を継げば、よかったんだ……そうすれば、みんなに迷惑もかけずに済んだのに……一人だけ東京に行って、家族のことなんて、ほったらかしで……ごめん……ごめん、なさい……!」

 

 ……まあ、なんつーか。

 クリークには、ほんと悪いことしたよ。

 だってこんな大人の愚痴、まだ十八にもなってない子供(ガキ)に聞かせていい内容じゃないしな。向こうも、どう受け止めればいいのか分かんなかったみたいで。途中からもう、何も言わなくなっちまってさ。

 そこでまあ、体力の限界が来たんだろうな。

 

「……ごめん、母さん」

 

 気づいたら俺、眠ってて。

 翌朝、起きた時にはもうクリークもいなかったの。朝練の時間だったから……ってのが建前なんだろうな。本音は……俺と、どう顔合わせていいか分かんなかったんだと思う。だって、逆の立場になって考えてみろよ。教師のあんな情けない愚痴聞いた次の日、どんな顔して会えばいいと思う? 俺には……分かんねえよ。

 だからまあ、仕方ないっていうか、悪いことしたな、って思って。

 そんで、携帯確認したら、メッセージが一件だけ残ってたの。

 

『昨日のことは、誰にも話しませんから』

『二人だけの秘密ということにしましょうね』

『きっとその方が、お互いのためですから』

 

 ……そっから、クリークとは距離が空いちゃって。

 みんながいる時は普段通りに振る舞ってたけど……二人きりになることは、極力避けてた。うん、お互いに。俺もクリークも、どんな顔すればいいか、分かんなかったし。……もう、前みたいに仲良くはできないんだな、って。

 できることなら、謝りたかったよ。だけど、向こうは俺の顔なんて見たくもなかっただろうし。……仮に謝ったとしても、元の関係にはならないんだろうな、って。情けねーけど……そう、思っちゃったから。

 

 ……一夜限りの関係ってのは、そういうこと。

 

 

 だから、クリークと顔を合わせたのは、それ以来だったわけ。

 

「クリーク……」

「……こんにちは」

 

 向こうもドギマギしてたけど、俺はそれ以上にドギマギしてたと思う。不意な顔合わせだったのもあるんだろうけど……やっぱり、負い目とか色々と感じちゃって。何の話すればいいのか、分かんなくてさ。

 でも、会って一番に伝えたかったことは、決まってたから。

 

「……その、あの時は悪かった。俺も色々と……溜まってて、さ」

「いえ、あなたは何も悪くありませんよ。ですから、気にしないでください」

「でも……」

「それに、あの夜のことは二人だけの秘密、って言ったじゃありませんか」

 

 そう言われて俺、その場にはあいつとヤエノがいること思い出してさ。

 

「えっと……今は何してたんだ?」

「ヤエノさんの特訓に協力していたんです。その……集中力を高めるために、近くで雑談していてください、と頼まれたので。アルダンさんと、少しだけお話ししていたんですよ」

「あ、ああ……そう……」

 

 正直意味は分かんなかったけど、まあその時の俺にはどうでも良くて。

 

「そういえば、お前もデビューしたんだってな」

「はい。ようやく目途が立ったので」

「そっか……本当は、もう少しかかると思ってた」

「それを言うなら、あなたもですよ。アルダンさんのトレーナーになったんですよね?」

「ああ、そうだけど……そいつから聞いたのか?」

「はい。先程、アルダンさんとお話しして……あなたのことですから、担当する娘は見つからないものかと」

「……うるせー」

 

 みたいな、ほんっとに中身のない会話しかできなくって。

 でも、会話ができただけ充分だと思った。だって……話すことを避けられるよりは、マシだったからさ。安心はしたけど……でも、距離はやっぱり空いたままなんだな、って。……本当に、仕方のないことではあるんだけどさ。

 そんな感じで、何話しても気まずい雰囲気になっちゃってさあ。

 

「では、私はそろそろ行きますね」

「……もう?」

「だって、そろそろトレーニングの時間ですから」

「え? あ、そっか……そう、だよな。……頑張って」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 そんな感じで、クリークも練習に行っちゃって。一回だけ、引き留めようとしたけど……そうしたところで、俺にできることなんて、何もなかったからさ。そうやって見送ることしか、やってやれなくて。

 そこで改めて、とんでもないことしちゃったなー、って実感したわけ。あーあ、どうしようかな、って。……本当は、俺の思い込みだって信じたかった。俺が重く受け止め過ぎで、向こうからしたら何でもないことだった、って。でも……現実ってさ、そう上手くいくわけないじゃん。だから……自分でもびっくりするほど、ショック受けてて。

 ……みたいな感じで、ナーバスになってる俺に。

 

「どういうことですか? トレーナーさん」

 

 あいつ(アルダン)がさあ、妙にキレ気味で聞いてきたのよ。

 そのままあいつ、俺の手首に尻尾、巻き付けてきて。

 

「……何だよ」

「とぼけないでください。お二人の関係についてです。一体、何があったんですか?」

「別に、ここで話すようなことじゃねーよ。つーか、お前には関係ないだろ」

「……こちらの、お顔が真っ赤になってしまったヤエノさんを見ても、同じことが言えますか?」

「え? うわっ……」

 

 みたいなこと言うもんだから、思わず振り返ったら、ヤエノがプルプル震えてて。

 

「どーしたんだよ、お前……熱でもあるんじゃねーの?」

「そ、そういう訳では……」

「どうしたも何も、トレーナーさんのせいですよ? 心がピュアなヤエノさんの目の前で、あんなお話をされたんですもの。もう、ヤエノさんも気になって特訓どころのお話じゃありませんよ」

「……アルダンさん?」

「そもそも、ヤエノさんはとっても純粋なお方なんですから。そんなお昼のドラマみたいなお話をされたら、お顔も真っ赤になりますよ。ヤエノさん、少女漫画を少し読んだだけでも、照れちゃうようなお方なのに」

「アルダンさん! その、アルダンさん!」

 

 なんかその時のあいつ、若干暴走気味で。

 ヤエノがそう呼びかけても、あいつ全然聞く耳持たずだったの。

 その上、なんだかあいつ、とんでもない勘違いしてたみたいでさあ。

 

「……手、出したんですか?」

「はぁ? お前、何言って……」

「出しちゃったんですか?」

「いや、違うって……」

「出しちゃったんですよね?」

「だから、違うっつってんだろ! お前、一回落ち着けって!」

 

 いやー……。

 思春期ってこえーな、ほんと。

 少しでもそういう雰囲気あったら、すぐに飛びつくってか……ああでも、後々から考えてみると、ちょっと意外だったな。あいつも年相応に、そういうことに対する興味もあったんだなー、って。

 まあ、その時は焦りっていうか、半ば命の危険すら感じてたから、そんなこと考える暇もなくて。

 

「話してください。一から十まで、しっかり」

「その前に……この尻尾はどういうつもりなんだよ」

「途中でトレーナーさんが逃げてしまわないためにです。それと……」

「……それと?」

「所有権の主張です」

「意味分かんねーよ……」

 

 そうやって言っても、あいつ、頑なに離してくれそうになかったからさ。

 もう、全部あいつに話すことにしたわけ。その日の夜にあったこと、全部。

 ……え? ああ、そうだよ。俺が酔ってたことも、クリークに介抱されてたことも……俺のやらかしたことも、全部。だって、そうしないとあいつ、納得しそうになかったもん。ウソ吐く必要もなかったし……ってか、吐いたら吐いたで、また面倒なことになりそうだったしな。

 そんで、一通りの話をしたんだけど。

 

「高校……?」

 

 あいつよりも先に、ヤエノからそう聞かれてさ。

 

「いや、だから卒業してねえって。中退だよ、中退。……一年ん時に、ちょっとやらかしてさ。停学になって……面倒になったから、そのまま辞めた。そっからは……まあ、色々やってたんだけど。ってか、聞くところそこかよ。しかも、お前(ヤエノ)が」

「いえ、その……少し、意外でしたので」

「あー……まあ、確かにそうか。学園(ウチ)に来る生徒って、基本そういうのに無縁のヤツばっかりだからなあ。珍しいっちゃ珍しいのか。でも……まあ、その、何だ。世の中にはそういうヤツもいるのよ、俺みたいに」

 

 トレセン学園(ウチ)にも実際、レースの成績とか学業不振で退学する娘って、すげーたまにいるんだけど……そういう娘たちって大体、他の普通科高校とかの()()()があるんだよ。だから、中退して学校に行かない、っていう選択肢が、ヤエノたちにはそもそも想像できなかったんじゃねーのかな。

 みたいなことを話してたら、ようやくあいつが口開いてさ。

 

「申し訳ありません。まさか、そんな事情があったとは知らず……」

「別に気にしてねーよ。俺から言ってないだけで、聞かれたら普通に答えるしな」

「ですが……」

「つーか、謝るより先にまず尻尾(コレ)離せ。ちゃんと話してやったんだから」

 

 俺の話聞いて、あいつもだいぶ落ち着いたんだろうな。

 言ったら、すぐに尻尾も離してくれてさ。

 

「お前さー……その尻尾癖、ちゃんと治した方がいいぞ。せっかく、俺なんかよりよっぽどいい(トコ)の出なんだからさ。そりゃ、常日頃から気ぃ引き締めろっては言わねーけど……いつ、どこで誰が見てるか分かんねーんだし。……まあ、周りの人間から散々言われてることだろうけどさ」

「……そう、ですね。次からは気を付けます」

「はい。それじゃ、俺達もそろそろトレーニング行くか」

 

 そんな感じで、ヤエノとも解散してから、俺達でいつも通りトレーニングしてたんだけど。

 その日のそいつ、妙に素直でさ。いや、トレーニングの指示はいつも聞いてくれるし、不満も言わねーんだけど……なんつーか、さあ。妙に俺のこと気遣ってるっていうか……その日は、なんか違ったのよ。

 でもまあ、当然っちゃ当然だったんだよ。俺は()()()()だったから、全然気にしてなかったんだけど……自分のトレーナーが高校中退してるような奴でした、とか言われたらさ。普通はそうなるんだって、その時はじめて気づいてさあ。

 

「それじゃあ、今日はこれくらいにしとくか。メニューも調整しておくから、明日も頼んだ」

「……はい。お疲れさまでした」

「お疲れー……」

 

 だから俺、そういう時ってどうすればいいのか分かんなくて。

 

「幻滅したか?」

 

 直接、あいつにそう聞いちゃったのね。

 

「……トレーナーさん?」

「聞くべきじゃないことだし、自分から言うようなことでもないってのは分かってんだけど……でも、さあ。今日のお前を見てたら、その……こんなロクでもないヤツが担当トレーナーだと、やっぱり思うところあるのかな、って」

「そんなことは……」

「ああ、違う……別に、幻滅するなとか、そういうことを言いたいわけじゃないんだよ。ただ……あ、あれ? いや……悪い、その……こういうことって、初めてで。なんて言えばいいのか……えっと……」

「大丈夫ですよ、トレーナーさん。ですから……」

「あ……そ、そうだ。俺さあ、お前のこと散々、ハズレだの何だの言ってたけど……その、俺も同じなんだ。()()()だったんだよ。そうそう、お前の仲間。いや……お前よりも、もっと下の方かも。はは……あはは……」

 

 うーん。

 これ、今だから言えることなんだけどさ。

 そん時の俺、めちゃくちゃ不安だったんだと思う。

 正直な話、そこであいつ幻滅されても、別に良かった。つーか、それが普通だと思ってた。今はもうそんなことないけど……実際、当時の俺ってそこそこ浮いてたしさ。トレーナーとして実力的にもあんまりだし、学歴もちょっと他とは違うし……まあ、言っちゃえばそういうのには慣れてたんだよ。

 でも……なんか、そういう話をした時に、改めて思っちゃったの。

 ……俺みたいなヤツが、トレーナーやってもいいのかな、って。

 そりゃ、試験に通ったし免許も持ってるから、やってもいいのは当たり前なんだけどさ。……変な話、高校もロクに卒業してないヤツが、女子高校生の面倒をちゃんと見られるか? ってことじゃん。

 そう考えたら、止まんなくて。

 

「……ごめんな、こんなトレーナーで」

 

 俯いたまんま、あいつの顔もマトモに見られなくてさあ。

 それ以上、何て言えばいいのかも分かんなくて。じーっと黙ることしかできなくって。

 ……それから、数分くらいそのままだったんだけど。

 

「トレーナーさん」

 

 急にあいつが、そうやって俺の両手を握ってきて。

 

「……あ?」

「まずは、深呼吸をしましょうか」

「な、なんで……」

「大丈夫ですから。私の言う通りにしてください。ほら、息を大きく吸って」

 

 みたいなこと言われたから、とりあえず従ったの。

 そうしたら、そこで初めて気づいたんだけど、俺、めっちゃ息上がっててさ。一度、咳き込みそうになったけど、何とか抑えて。そんで、あいつの言う通りに深呼吸してきたら、だんだん調子もいつも通りに戻ってきたの。

 

「落ち着きましたか?」

「…………うん」

「なら、次は顔を上げてください。そうして、私の目を見て……」

 

 なんて言われた通りに、顔上げたらさ。

 あいつ、俺のことじーっと、真っ直ぐに見つめてて。

 

「私に選抜レースを走らせてくれたのは、誰ですか?」

「お前だ。お前が一人で走って、一人で勝ったんだ」

「違います。トレーナーさんがいてくれたから、私は走れたんです」

「……でも」

「それでは、私に三冠という目標を示してくれたのは誰ですか?」

「それは……仕事だったから。それに、選んだのはお前だよ。……お前が全部、一人でやった。俺は必要、なかった……」

「……でしたら、病室で寝たきりの私を見つけて、声をかけてくれたのは? 私が真っ当にレースを走れない身体だと知っても尚、担当になると仰ってくださったのは誰ですか?」

「…………」

 

 こんなこと、年下の……しかも、自分が担当してる子供(ガキ)に言うのはおかしな話だけどさ。

 その時のあいつ、すげえ姉っぽく見えたんだよな。

 でも実際、あいつってメジロの妹どもの世話してるからさ。そういう気質は若干あったんだと思う。面倒見がいいっつーか、話聞くのが上手いっつーか。……今でも思うけど、あいつって人の話を聞くのが上手くてさ。

 ……ああ、そうだ。

 俺、姉ちゃんが欲しかったんだよ。

 

「過去に何があったのか、私は知りません。ですが」

「………………」

「私と今お話している方は、一人のウマ娘に親身になって寄り添ってくださる、立派なトレーナーさんですよ」

 

 みたいなこと、はっきり言われちゃって。

 すげー癪なんだけど……めちゃくちゃ安心しちゃったんだよね。

 ああ、一応俺もトレーナーに見えるんだな、って。他のヤツからはどうか知らねーけど……少なくとも、俺が担当してるあいつは、俺のことをそう見てくれてるんだな、って。そう思ってさ。

 

「明日もよろしくお願いしますね、トレーナーさん」

「……うん」

 

 そんな感じで一応、その日は終わったんだけど。

 ……まあ、なんつーか。

 その時の言葉でちょっとだけ、救われたのかもなあ。

 何って俺、担当する生徒を持つのが初めてのことだったし、自分でも気づかないうちに不安になってたんだと思う。当時は色んな事がありすぎて、そうやって考える時間がなかっただけで。

 もしかしたら、爆発してたのかもしれない。また、何かやらかしてたかもなあ。

 だから、あいつがああやって言ってくれたことには、感謝してるよ。

 ……まあ、菊花賞終わった後に、ガチでやらかしちゃったんだけどさ。

 

 え?

 メンタル弱すぎ? あー、俺が?

 ……あのさあ。

 本当に言っちゃいけないこと言うなよ……。

 




Q.続きますか?
A.まだま冬コミの原稿が忙しいので長くはなりますが、続きます
 12月に入ったら落ち着くかも~
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