メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】 作:宇宮 祐樹
フォロワー「毎回ガチャ分の石溜まったらドブに捨てるみたいに単発回して常時2ケタしか石がないからじゃない?」
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ま、ジュニア級にあった出来事はそれくらいかなあ。
いやー……今になって思うけど、よく一年間も続いたわ。そりゃ、担当する生徒を持つのが初めてだった、ってことはあるけど……それ以上に、あいつの面倒見るので忙しかったからなあ。結局、振り回されてた一年だったよ。
レースもなあ。チヨちゃんはめでたく朝日杯FS勝ったし、ヤエノもホープフルは出られなかったけど、出走した数は三人の中で一番多かったから、経験は積んでるし。それに比べると、まあ退屈ではあったなあ。
でも、元々そうやって決めてたことだし、仕方ないってあいつも割り切ってたよ。そこは、まあ……信頼されてたのかもな。知らねーけど。
……つーか、俺ばっかり話してていいのかよ?
そっちも色々と、話したいこととかあるんじゃねーの?
……え? ない? あ、そう……。それなら、別にいいんだけどさ。
そんで……ああ、そうか。クラシック級の時の話か。
あー……いや、そうだよなあ。話さなきゃいけないよなあ。
特に菊花賞のあと、お前にはさんざん世話になったし。そこはほんと、感謝してるよ。
それで、えーっと……。
ああ、そうそう。
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まず、年明けてから間もないうちに、
「来週の土曜日に、メジロ家の主催するパーティーがあるんですよ」
まあ、それ自体は別に変なこと言ってるわけじゃなかったの。
メジロ家ってウチの業界の中でも、色々とデカいっていうか、幅利かせてるところだからさ。そういう、交流会みたいな感じのパーティーは、事あるごとにやっててたのよ。
もちろん、ジュニア級のうちにも何回かそういう話はあったし。あいつからそんなことがある、って言われたのも、別に初めてのことじゃなかった。
だから、まあ。
「……あ、そう。行ってらっしゃい」
いつも通り、俺もそう返したのよ。
……は? そりゃお前、当たり前だろ。
俺みたいな庶民が、そんなお上品なパーティーなんかに顔出せるわけねーじゃん。
そもそも、呼ばれてるわけでもねーんだし……いや、呼ばれたとしても行くつもりなんて全然なかったよ。どうせ俺が出席しても、恥かいて終わりなんだもん。作法とか、ドレスコードとかも全然知らねーし。場違いにも程があるって。
いや、担当だからとか言うけどさあ。それはそれ、これはこれ、って話じゃん? だってお前、例えば部活の顧問とかの結婚式とか、わざわざ行くか? 普通は行かねーだろ。つーか、そもそもよっぽど仲良くないと誘われすらしねーだろうし。つまり、そういうことなんだって。
だから、まあ……そんな感じで、いつも通り流してさ。
俺としてはそこで話も終わりだと思ってたんだけど。
なんかその時のあいつ、妙に引き下がんなくて。
「メジロ家の主催するパーティーがあるんですよ」
「え? いや……分かったって。勝手に行って来いよ」
「……メジロ家の主催するパーティーがあるんですよ?」
「だから……ああ、もしかしてお前のスケジュール? いいよ、大丈夫だから。来週の土曜な? 空けとく空けとく。じゃあ、その日は丸一日オフってことで……」
「……………………」
「……………………」
……………………。
「ところでトレーナーさん」
「おう」
「こちらに、このような封筒があるのですが」
まあ、その時点でかなり嫌な予感はしてたんだけどさ。
とりあえず、あいつが差し出してきた封筒、受け取ったの。
紙の質感もめちゃくちゃ良くて、封もシールとかじゃなくてちゃんと、封蝋で綴じてて。
よくもまあ、細かいところまで金使ってんなー、とか思ってたのよ。
そんでよく見たら、下の方にさあ。
「萩野様へ、って書いてあるな」
「はい」
「……俺の苗字も、萩野なんだけど」
「そうですね」
「……………………」
「……………………」
そんで、やけにニコニコしてるあいつを置いて、中にあった手紙に目ぇ通したんだけど。
内容はまあ……掻い摘んで言えば、招待してやったんだからお前、絶対来いよ? こっちのメンツも考えろよ? ってことで。一応、言葉は丁寧になってるんだけど、内容の端々から強要してる雰囲気が滲んでて、半ば脅迫文みたいな感じになっててさあ。
「ひっでえ内容だな……」
「そうでしょうか」
普通ならこんな胡散臭い手紙、無視して破り捨てるところなんだけど。
「……一応聞いとくけど、差出人は?」
「お婆さまからです」
「あのクソババアーーッッ!!」
まあ、つまりはそういうことでさあ。
「当主本人から招待状なんか出されたら断れるわけねーだろうが! いちいちやり方が汚ぇんだよお前ん
「ちなみにですが、お婆さまはこの度、直々にこの文をしたためられたとのことですよ」
「確信犯じゃねーか!」
わざわざ直筆って……そんなことされたらさあ、もう行くしかねーじゃん。
だって、もしその誘いを断りでもしたら、俺ってメジロ家当主から渡された直々の誘いを断ったクソ失礼な野郎になるワケで……そんなんになったら、もうこの業界でやっていけなくなるに決まってんだろ。
だから何度も言ってるけど、ほんとやり方が狡いんだよ、あの家は。
「それと、お婆さまからの伝言も預かっていますよ」
「……どんな?」
「『いい加減、顔くらい見せにきたらどうですか』と」
「……………………」
そんな感じで、気づいた時には逃げ道とかも塞がれてて。
……結局さ。
「あーもう、分かったよ! 行けばいいんだろ、行けば!」
俺は、そう返事することしかできなかったのよ。
■
さっきも言ったけど、メジロ家って事あるごとにパーティー開いててさ。
俺はよく知らないんだけど、話とか聞いてる限り、基本は……その、懇親会っていうの? マジで分かんないけど、お偉いさん同士で名刺の交換したり、メディア関係の人間とか、スポンサーしてる人間も色々来てて……まあ、大体はそんな感じの場みたいなんだよね。
でも、そういうのって表立った理由にするわけにはいかないじゃん? ほら、世間体やメンツとか、そういうのもあるしさ。……面倒な話だけど、業界での立ち位置とかを考えると、そうしないといけないみたいで。
だから大体、そういうパーティーを開く時って、何かしらの
たとえば、メジロ家のウマ娘がG1レースに勝ちましたー、とか。契約してる会社の新商品開発に出資しましたー、とか。この前も開いてたんだけど、そん時は確か、新しいスポンサーと契約したから、って理由だったかな。
それで、今回の建前になったのが……。
「どうでしょうか、この衣装」
あいつの勝負服のお披露目だったのね。
……そう。勝負服。G1レースとかに出る時に着る、ちゃんとした衣装。まあ……言っちゃえばドレスみたいなモンよ。ちゃんとした場所に出るときの衣装っていうの? そういう意味もある、大事な服なのよ。
だから、パーティーを開く建前にするには、ちょうどいい理由でさ。
あのババアが直々に俺を呼んだのは、そういう意味もあったみたいなのね。
「……まあ、悪くないんじゃねーの?」
「ありがとうございます」
「でもアレだ、思ってたより色合いは地味だった」
「あら。もっと派手な方がお好みでしたか?」
「どーだろ。お前、髪色はかなり明るいからさ。服を派手にし過ぎても、色同士でケンカしちゃうだろうし。……そうだな、そう考えるとこれくらい落ち着いてた方が、お前には似合ってるかもな」
「……ふふっ」
「何だよ」
「いえ、トレーナーさんから似合ってる、なんて言葉を頂ける日が来るとは、思ってもいませんでしたから」
「……あっそ」
控え室みたいなところで、勝負服に着替えたあいつとそんな会話してて。
その時に、ちょっとだけ思っちゃったんだよな。
贅沢すぎるよなあ、って。
だって、メジロ家ってだけで勝負服、用意してもらえるんだから。そりゃ一応、実績はちゃんとあるし、不相応ってわけでもないとは思うけどさあ……やっぱり、優遇されてるよ。ズルいって言われても仕方ないって。
お前はレースもあんまり見ないし、見たとしてもG1しかないから、よく分かんないと思うけどさ。
レースに出てる娘の半分以上は、勝負服なんて着る機会なんて滅多になくて。
引退するまでずーっと、体操服のまま走ってる娘なんてザラにいるわけ。
だから、まあ。
「……今夜限りの衣装にならねーといいけどな」
思わず、そんな感じのこと言っちゃったのよ。
本当は自分の担当に、そんなこと言うべきじゃないって分かってたんだけどさ。……やっぱり、生まれが違うっていうか、身分の差っつーか……ほんと情けないんだけど、その時だけそういうのを、めっちゃ感じちゃって。
言った直後に、やっちまったな、って思っちゃったのね。
そしたらあいつ、俺の目ぇまっすぐ見つめながら、
「させませんよ。絶対に」
はっきり、そう答えてきて。
「この衣装は、私の意志の表れ……決意の証なのですから。私は絶対に、トレーナーさんが示してくださった道を突き進みます。この先にどんな苦難が待ち受けようと、この覚悟は変わることはありません。それに……」
「……それに?」
「せっかく、トレーナーさんが似合うと仰ってくれたんですもの。今夜だけなんて、そんな寂しいものにしたくありません。何度だって、トレーナーさんにこの姿をお見せいたします」
……あいつさあ。
今でもそうなんだけど、すげえ俺の言葉を重く受け止めてるところあるんだよね。
いや、そりゃ軽く受け取られるよりはマシなんだけど……この前なんか、適当に蟹喰いてえ、みたいなこと言ったら、わざわざ実家のコネ使って高いところから取り寄せてきたことがあってさ。
なんつーか……あいつの前で下手なこと言えねえのよ、ホント。全部マジだと捉えちゃうから。
……今思えば、この頃からそういう片鱗はあったんだよな、多分。
まあ当時の俺は、そんなの一切気づかなくて。
「……そーかよ」
そんな風に、適当に流しちゃって。
「つーか、勝負服のお披露目って話なら、最初からそう言えよな」
「……そういった理由でしたら、トレーナーさんは来てくださったんですか?」
「当たり前だろ。仕事なんだから」
いや、だってそーだろ。
懇親会とか、お偉いさんとコネ作ることには興味ねーけどさ。
担当してる生徒の勝負服見せるっつーんなら、トレーナーの俺が居ないと意味ねーじゃん。
そりゃもちろん、そういう場に出るのは面倒だし普通に嫌だけど……でも、トレーナーとしては名誉なことっていうか、ぶっちゃけ憧れてたことだし。それが叶うんだったら、面倒だけど顔は出すよ。
みたいな意味も込めて、そう答えたんだけど。
そしたらあいつ、なんて言ったと思う?
「仕事でないと、私には付き合ってくれないんですか?」
……ほんと、毎回不思議に思うんだけどさ。
女の子ってどこでそういう聞き方とか覚えてくんの?
「……今度、駅前のラーメン屋くらいなら奢ってやるよ」
「まあ! 本当ですか?」
「お前の舌に合うかは分かんねーけど」
その時から俺、あいつに根気負けしてるっつーか、なんつーか。
結局、俺ってあいつに振り回されてばっかりなんだよなあ。
事あるごとに旅行とか買い物とか、色々付き合わされてさ。まあ、別に最悪……ってわけでもないんだよ。俺にも多少の旨味はあるし、一人じゃ絶対行かないようなところ行くから、経験にはなるし。
でも、普通そういうのって、同学年の友達とか……それこそ、彼氏とかと行くモンじゃん? あいつに今、そういう相手がいるかどうかは知らねーし、興味もねーけど……だからこそ、俺なんかと行ってて楽しいのかな、って。そういうことも、ちょっとだけ思っちゃうワケ。
まあ、そんなこと考えてもキリないから、意味ないんだけどさ。
……いや、その話は別にいいか。
それで……ああ、そうそう。
控え室で色々とスケジュールとか、会場での進行とか確認を一通りして。
それじゃあ準備も万全、あとは開場を待つだけ、ってなったところで。
「そろそろ時間ですね」
「あー……え? もうそんな時間だっけ?」
「ほんの少し早い気もしますが、遅れてしまうよりは」
「そーだよな……うん。それじゃあ……」
まあ、俺の様子であいつも気づいたっていうか。
さっきも話したけど、その時点で把握されてたからさ。
「一服されますか?」
「……………………はい」
「ふふっ、どうぞ」
ほんと、情けない話だとは思うよ。
まだ成人すらしてない
でも、なあ。
止められねーんだわ、コレが。
■
それで、時間になったからパーティーが始まったんだけど。
俺は正直、あいつの付き添いってか、保護者みたいな立ち位置だったからさ。
お偉いさんとかスポンサーとかに挨拶回りするあいつの隣に立ってるくらいしか、やることなかったわけ。まあ……楽っちゃ楽だったよ。ぶっちゃけ、話をするのはあいつだけ……ってより、俺があいつが話してることの内容とか、一切理解できなかったんだよね。適当について回ってるだけの、そんな役回りしかできなかった、ってのが正しいのかな。
ああでも、一応俺にも声かけてくるやつは何人かいたよ。
「……もしかして、アルダンお嬢様のトレーナーですか?」
「え? あー……はい。一応、そうなってるっす」
「………………」
「……何すか。なんか聞きたいことあんなら、聞きますけど」
「いえ、特にそういうわけでは……」
「あー、そっすか。じゃあ悪いけど、もう行っていいっすか?」
まあ、当然っつーか、なんつーか。
なんでこんなのがトレーナーやってんの? みたいな顔してる奴ばっかりだったよ。
そりゃ、少なからずそんな反応はされると思ってたけどさ……にしたって、声かけてくる奴が全員そんなんだから、びっくりしちゃって。ちょっとだけイラッと来たんだよね。
しょーもねーよな、マジで。別にいいだろ、正式な手順踏んでるんだし、トレーニングもちゃんと見てやってんだから。最悪、思うのはそっちの勝手だけど、せめて顔には出すなって。
……でも、それはまだマシな方だったのよ。そもそも俺が場違いなところにいる、ってだけで、結局俺の問題だしな。腹は立つけど、慣れてるっちゃ慣れてるし。俺もマナーとかまだ、よく分かんなかったしさ。
問題はレースの関係者っつーか、そっち側のお偉いさんどもで。
「ティアラ路線ではなく、三冠路線に進まれたのですね」
まあ、本人にそういうことズバズバ聞いてくるわけ。
「はい。トレーナーさんがそう仰ってくださったので」
「そうなんですか。今年もラモーヌお嬢様と同じような、トリプルティアラ達成の瞬間が見られると思ったのですが……」
「ご期待に添えず、申し訳ありません」
「いえいえ、そんなことは。ご活躍、楽しみにしていますね」
一応体裁っつーか、社交辞令みたいな感じでさ。
本心は知らねーけど、大半の連中はそうやってあいつのこと応援してくれてたのよ。
でも、一人だけなんか、やけに食いついてくるやつがいてさ。
「……ティアラ路線ではないのですね」
ああ、そうそう。あの記者。後で知ったんだけど、そいつ、ラモーヌが走ってた時も取材とか色々としてたらしくて。そもそもメジロ家と関係が深いっていうか、そんな感じのヤツでさあ。
だから、アルダンにも同じようにっつーか、ラモーヌと同じような事してくれるんじゃないか、っていっそう期待してたみたいなんだよ。本気であいつらのこと応援してんのか、自分の仕事のためかは分かんねーけど。
「三冠路線はアルダンお嬢様の脚質では不安が残るでしょう。特に菊花賞は厳しいレースになると思いますが」
「ええ、覚悟の上ですよ」
「……どうでしょう。今からでも、ティアラ路線に乗り換えるというのは? 遅くはありますが、まだ間に合う選択のはずだ。そちらの方が、あなたにとっても……メジロ家にとっても、有益なはずです」
そんな感じで、強引にあいつをティアラ路線に進めようとしてくんのよ。
あいつ自体はまあ、気にしてない感じだった。いや、そりゃちょっとは思うことあったんだろうけど……慣れてるだろうしな。普通にっつーか、他の連中と同じ様な対応で流してたよ。
でもその時の俺、慣れない場ってこともあったし、そういうウダウダ言ってくる連中とかに嫌気が差してきてて。そもそもあいつに付き合ってるせいで、メシもロクに食えてないし、一服するタイミングもなくて。
言っちゃえば、若干……いや、かなりイライラしててさあ。
「……ちょっと、いいすか?」
話聞いてるうちに、気づいたらそいつの肩掴んでて。
「その、レース関係の指示とかは全部俺がやってるんで。そっちについての質問とか意見なら、そいつじゃなくて俺の方にしてもらっていいっすか? 好き放題、言ってもらっていいんで」
「……申し訳ありません、あなたは?」
「トレーナーです。そいつの」
そしたらそいつ、めちゃくちゃびっくりした顔になってて。
でもまあ、それはもう慣れてたからさ。何とも思わなかったワケ。
「え? あ、ああ……アルダンお嬢様のトレーナー様でしたか。これは……」
「それで、何でしたっけ? こいつがティアラ路線に行かないのに納得してないんでしたっけ? アレすか、ラモーヌと同じ路線行かないのが気に食わないんすか? それなら、そうやってハッキリ言ってくれた方がいいんすけど」
正直ヤニ切れてしばらく経ってたから、我慢の限界でさあ。
かなりケンカ腰……学生の頃みたいな態度になっちゃってたのよね、俺。
周りの連中もちょっとざわついてたんだけど、その時の俺にそんなこと気にする余裕とかなくて。つーか、アレだわ。たぶんそいつが変な回答してたら、一発くらいブン殴ってたと思う。それくらい気が立ってて。
でも、そいつもまあ、肝据わってるっつーか、ちゃんと答えてきたのよ。
「……そうですね。気に食わない、というよりは不安が残る、と言うべきでしょうか。確かに皐月賞、日本ダービーは問題はないと思います。ただ……アルダンお嬢様は、菊花賞のような長距離を走るのに向いていないのも事実でしょう」
「分かってますよ、そりゃ。でも、あいつもちゃんと覚悟してるって言ったじゃないっすか」
「ええ、私も聞きました。もちろん、トレーナー様もアルダンお嬢様も、これからそれに向けたトレーニングを進めるとは思いますが……そちらに舵を切るよりも、マイル・中距離が中心のティアラ路線に進んだ方が、よりよい成果を残せるように思ってしまって」
「そりゃ、まあ……そうっすね。こいつの戦績とか見たら、その方がマトモっすよ」
俺も、そんな真正面から言われるとか思ってなかったからさ。逆にビビったっていうか……あ、思ったよりマトモな考えしてんだな、って思って。いや、そりゃこんな場に出てくるようなヤツだから、当たり前なんだけどさ。
「ということは……トレーナー様も、それを承知の上で三冠路線に進むと決められたんですか?」
「はい」
「……もしよろしければ、三冠路線へ進まれる……いえ、ティアラ路線を進まない、という決断に至った経緯をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「経緯も何も、こいつが三冠行きたいって言ったからっすよ。ティアラ路線に進んだって、どうせラモーヌの後追いって呼ばれるのがオチっすからね。こいつはラモーヌの妹じゃなくて、メジロアルダンです。だから、メジロアルダンとして走りたいレース走らせてやるのが、俺の仕事っす。それに……」
「……それに?」
「こいつには、ティアラより王冠の方がよっぽど似合ってますよ。何せ、とびっきりのワガママなんで」
そうやって言った直後だよ。
あいつに背中、思いっきり尻尾ではたかれたの。
「痛っ……なんだよ!? なんか気に食わねえこと言ったか!?」
「いえ、そういうことではありませんよ? むしろ、私の言いたいことをきちんと言ってくださって、ありがとうございます。お蔭で、私から説明する手間も省けました」
「それなら……」
「ですが、少しだけ言葉遣いが乱暴すぎたかもしれませんね」
んなもん知らねーよ、なんて答える前にさ。
あいつ、俺の腕に尻尾巻き付けたかと思ったら、そのまま強引に引っ張ってきて。
「ちょ、おい……! どこ連れてく気だよ! まだ回るところあんだろ!?」
「その前に、トレーナーさんの言葉遣いを正す方が先ですよ」
「今更んなこと言うなよ! ってかどんだけ時間かけるつもりだお前!」
みたいな感じで、ずるずる引っ張られて。
結局、その日はもうパーティー会場に戻ることはなくてさ。今になって思うけど、イラついてたとはいえ結構ヤバいことしてたなー、って。お偉いさんにつっかかってんの、ほんと……ガキの頃から、何も変わってねーよ。
……まあ。
菊花賞のあとのことに比べれば、かわいいモンだけどさ。
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Q.続きますか?
A.ワンチャン近いうちに続きます