七武海ですが麦わらの一味に入れますか?   作:赤坂緑

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最近のワンピース熱に押されて漫画を読み返していたら創作熱が湧いてきました。モチベが続く限り頑張ります。


王下七武海加入編
天竜人に嫌われたけど生きられますか?


 憧れであるワンピースの世界に転生したと気が付いたのは、父が「天竜人」に殺されたという一報を受けた瞬間のことだった。

 それまでなんかぼんやりしていた頭がはっきりと覚醒し、「えっ、ここワンピ?」なんて間抜けな感想を呟いたことを覚えている。

 

 この世界の父はごく普通の会計士であり、ごく普通の人格者だった。

 母も普通の人で、父が巨大カンパニーの会計士ということもあってか専業主婦をしており、それなりに裕福な家庭だったと思う。

 

 間もなく弟も生まれようかという平和な一般家庭。

 

 だが、そんな平和は一瞬でぶち壊された。

 

 先程も言ったように父が天竜人に殺されたのだ。

 詳細は俺も知らないが、父はあろうことか天竜人の機嫌をえらく損ねてしまったらしく、その場で処刑を言い渡されて銃で頭を撃ちぬかれたそうだ。

 そこまではいい。いや、全然良くないが、この世界では父の方が悪いことになるのだから、天災に巻き込まれたとして割り切ることもできた。

 

 だが、よほどヤバいことをしてしまったのか、父を殺したにも関わらず天竜人の機嫌は一向に治らず、その場で宣言してしまったのだ。

 

 一族郎党皆殺しを。

 

 そこからは正に地獄だった。俺たちは何も悪いことをしていないのに、適当な罪状で海軍に命を狙われ続ける日々。

 中には「こんな理不尽がまかり通るなんて許せない!」って言ってこっそり逃がしてくれる人の良い海兵もいたが、大多数の海兵は上からの命令に従うだけの兵士だ。

 

 まず、祖父母が速攻で殺された。

 親戚も全員殺された。まだ十歳にもなっていない従妹も殺された。

 一緒に逃げていた母もあっさりと殺された。

 もちろん、お腹の中にいた俺の弟もこの世に生を受けることは叶わなかった。

 

 俺はその当時8歳。

 何も知らない餓鬼だったらそのまま捕まって殺されていただろうが、生憎と中身は世界こそ違うもののそれなりに人生経験を積んでいた青年だ。

 幸運が味方してくれたこともあり、何とかギリギリで逃げ回ることが出来ていた。

 

 ある時は海賊団の下っ端として働き、またある時は父から教わっていた会計術と前世の数学知識を利用して幼いながらマフィアの金庫番をやり、またある時は今にも死に掛けで無害そうな物乞いのふりをした。

 

 俺は定期的に自分の容姿を変装で誤魔化し、喋り方も変え、性格も変え、あの手この手であちこちに潜り込んでは短期間だけ居座ってすぐに姿を消し、海軍の目を欺き続けた。

 

 ニコ・ロビンではないが、何でもやった。

 

 そうして10年ほど経過したが、まだ海軍は諦めない。

 上司(天竜人)の突き上げが激しいのだろう。実際に働いている本人たちはどうでもいいと思っていて、もう他の仕事に労力を割きたいと思っていても、上方のつまらないプライドがそれを許してくれない。

 前世がサラリーマンだった身の上だから必死の形相で探し回る海兵諸君の気持ちはよくわかる。

 まぁ、追われる身として敵に同情したところでどうにもならないのだが。

 

 そうやって根無し草の生活を送っていたある日のこと。

 

 俺は滞在先にしていたとあるマフィア組織の中でこの世界恒例のアレと出会うことになる。

 

「へ、へへへ()()()()っすか?」

 

 俺は卑屈さ最優先の笑顔を浮かべながら目の前の気持ち悪い模様の果実をガン見していた。男はニヤニヤと笑いながらそれを手でもてあそぶ。

 

「あぁ。クソ馬鹿なお前も聞いたことくらいはあるだろ? 食ったら悪魔みたいな力を手に入れられるかわりに海に嫌われるっていう実さ」

「まぁ、聞いたことはあるっすけど……そんな大物がどうしてうちに? それ、滅茶苦茶高いんですよね?」

「今度の裏オークションに掛けられるんだとよ。だが、勿体ねぇよなぁ~悪魔の力が手に入るなら俺様が食ってやりたいところだぜ」

 

 食ったら殺す

 

「で、でも勝手に食ったら親分が怒るんじゃないすかね……?」

「バカが! わかってるつの!」

 

 痛てて……急に殴るな馬鹿が。

 

「うちの大事な資産だからよ、しっかり管理を頼むぜ金庫番。まぁ、テメェみたいな雑魚に限ってないとは思うが、なくしたり盗んだりしたら――分かってるな?」

「了解っす」

 

 その日の晩、俺はありったけの金と悪魔の実を盗んでから組織を抜けた。

 

 あくどい人身売買と薬物で儲けていたしょうもない組織だ。

 罪悪感は一切ない。ついでにこれまでの悪行の全てを丁寧に記載したノートを海軍に提出しておいたから、明日から楽しい楽しい組織解体作業が始まることだろう。

 

 この日の為にこっそり購入しておいた小型の船に乗り込み、すっかり慣れた手順で夜の航海を始めながら俺は手元に転がり込んで(盗んで)きた実を天に掲げ、まじまじと眺めた。

 

 悪魔の実は食ったら最後、他の能力と交換は出来ないし、黒ひげのように特殊な事情がない限りは能力を併用することもできない。

 黒ひげと同じことが出来るなら問答無用で食うのだが、本編で明らかにされる前に向こうの世界をお陀仏してしまったため、再現性がなく他の実を食うことができないのが現状だ。

 

 「悪魔」の実というだけあって、とんでも能力が手に入るメリットは既に確約されているが……代わりにデメリットもかなり大きい。

 

「泳げなくなるのはヤバいよな……俺、逃走中の身の上だし」

 

 これまでも気づかれそうになったところを咄嗟に海に飛び込んでやり過ごした経験があるため、逃走手段が一つ消えるのは非常に痛い。

 

「でも、これを食えば“戦う”っていう選択肢が増えるかもなんだよな……」

 

 何度でも言うが、悪魔の実の力は絶大だ。

 例えそれが外れ能力だとしても、ないよりはマシ、という能力の方が多いことを俺は原作知識で知っている。

 これを金に換えて新たなる逃亡資金にする手もあるが……これを逃せば一生出会えない気もしている。

 

「うーん、良し。明日、晴れてたら食おう」

 

 考えるのが面倒になったので思考放棄し、夢の世界へと旅立った。

 

 そして次の日。

 空はこれでもかというくらいに晴れていて――

 

「ええい、ままよ!」

 

 俺は勢いのままに悪魔の実をかっ食らったのだった。

 もちろんクソ不味かった。

 

 能力? そりゃあ、もちろん――

 




原作まで少々時間が掛かります。

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