◆◆海軍本部 マリンフォード◆◆
「ふざけるなッ! なんだこの通達は!」
その日、仏のセンゴクはぶち切れた。
「おー、どうしたんじゃあ? ついにハゲてきたか?」
「ガープ! 私の頭髪は見ての通りまだまだ現役だ! 見て分からんのか!」
あまりの大声に海兵たちが何事かと動揺する中、呑気に煎餅をかじりながら登場したのは海軍の英雄、ガープ。
センゴクと長い付き合いの彼は、尋常ではない盟友の様子から何か大事が起きたことを察していたが、敢えて普段通りのノリで接することを選んだ。
「がっはっは! まだまだ鬱陶しいくらい生えているのぉ! 育毛剤が必要になったらわしに言え!
――で、髪じゃないなら何があったんじゃ?」
「これを見ろ」
そう言ってセンゴクが手渡した書面には次の文言があった。
【怪物キリア 王下七武海登録の連絡】
「あの世間を騒がせておる小僧が七武海入りか。上の連中、よほどコイツが怖くなったのかのぉ……この煎餅美味いな」
「呑気に煎餅をかじっている場合か! 私は聞いていないぞ! 世界政府は何を考えている……!」
「温かい茶はないか?」
「話を聞けっ‼」
「こちらに!」
「お前も渡すな!」
怒りが収まらない様子のセンゴクに対し、ガープはいつも通り大口を開いて笑った。
「そう騒ぐな。奴が一般市民に被害を出した話はないと聞く。下手に放置して暴れさせるよりも、首輪をつけて飼いならせるならそう悪い話でもないじゃろう」
「だが!」
「それに」
ガープは強靭な顎で煎餅をまとめて3枚砕いてから笑った。
「――奴が何かやらかしたのなら、
「ガープ……」
「奴の能力は青雉たちから聞いておる。確かに強力だが、わしなら相性は良さそうだ。ようは、耐性を付けられる前に仕留めればいいんじゃろう?」
数多の海賊を沈めてきた老兵の拳に血管が浮かび上がる。
初撃以降の攻撃に対する圧倒的な適応能力。
確かに強力だが、攻略方法がないわけではない。
1つは適応能力を超える手数の多さで圧倒すること。
そしてもう1つは、強烈な初撃による1発決着。
「……分かった。少し動揺しすぎていたようだ。皆、すまなかった」
センゴクはその場にいた皆に謝罪をした。
「ん~、センゴクさん。ちょっといいですかい~?」
「黄猿……どうした?」
最も長く怪物と戦ってきた海軍大将黄猿は相変わらず感情の読めない、いつも通りの態度で尋ねた。
「今七武海の席は7人で埋まっていますが、その点はどうするつもりなんで?」
「なんでも、特例事項として8人目の七武海として認めるらしい。正式名称も王下七武海ではなく、【王下特務 番外七武海】だそうだ。……まぁ、中身は8人目の七武海ということで変わりないから、どうでもいい話だがな」
「ん~、そうですかぁ~」
「……すまんな、黄猿。お前も思うところはあるだろうが、この決定は私の力では覆せそうもない……」
「あ~、いえいえ、わっしのことはお気になさらず。元はと言えば、奴を仕留めきれなかったあっしの責任ですから~」
「黄猿……」
「しかし、我々が迂闊に手を出せない立場まで逃げられてしまった以上、今後さらに面倒なことになりそうですねぇ~」
「というと?」
黄猿はサングラスの向こうに感情を隠しながら呟いた。
「本人に暴虐を働く意思があるようには見えませんが、アレはただ息をしているだけで災害をばら撒くタイプの人間です」
そして、未来を予知するかのようにそっと呟いた。
「荒れるでしょうなぁ~この海は」
◆◆ドフラミンゴの屋敷◆◆
海軍が慌ただしくなっている中、巧みな情報操作と豊富なコネクションで前代未聞の七武海入りを達成した二人組はというと――
「おいテメェ……覚悟はできてんだろうな?」
絶賛喧嘩中だった。
電撃加入が決定した新たな七武海怪物キリアは、同じく七武海であるはずの同僚、ドフラミンゴによって胸元を掴まれて脅されていた。
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ先輩~、約束はちゃんと守ったじゃないですか~」
「ふざけるなッ! プルトンはワノ国のどっかにあって、しかも封印されていて、すぐに使えるかどうかも分からねぇだァ~? 古代兵器を渡すっていう条件に反しているんじゃねェのか、おい!」
「俺は渡すなんて一言も言ってないっすよ! ただ、場所を教えるって言っただけで…」
「クソッタレが! この俺が尽力してお前を七武海にしてやったってのにこの仕打ちか! 仁義はどうした⁉」
「仁義がどうこう語るのはパイセンのキャラ的にどうかと思うんですが」
「否定はできん」
掴んでいた俺の服を離し、パイセンは深いため息をついてからソファーに腰を下ろした。
「クソ……腹が立つ……何が一番腹立つって、俺がこのクソアホにまんまと嵌められたという事実が一番腹立つ……!」
「とりあえず、俺の七武海加入祝いにBBQしません?」
「ちょっと黙ってろ! それから俺はBBQが嫌いだ!」
「肉とか買いに行かなきゃなぁ……」
「話を聞けッ‼」
パイセンには悪いけど、今俺の口は肉のモードに切り替わってしまった。
とてもではないが相談ごとに乗れるような状況ではない。
「クソ……どうする……」
あーでもない、こーでもないと悩んでいる先輩は放置しておくとして、俺は取り敢えず肉の調達を優先することにした。
数十分後。
「……あれ? まだ悩んでたんすか?」
俺が買い物に出かけてから帰ると、パイセンはまだプルトンに頭を悩ませているらしく、テーブルの上に色んな資料をぶちまけて考え事に耽っていた。
「あぁ……テメェの寄越したクソ情報のせいでな。せめて正確な隠し場所ぐらいは把握しておけよ」
「まぁ、この広い海の中で隠し場所が分かっただけでも良かったじゃないすか。――カイドウの縄張りだけど」
「それが問題なんだ馬鹿がッ‼」
おーおー、荒れてますなぁ。
そんなにカイドウが怖いなら諦めればいいのに。
「戦うのが嫌ならカイドウにお願いしたらどうです? 古代兵器がここに埋まっているはずなんで調査させてくださいって。仲いいんでしょ?」
「バカかテメェは。そんなこと言った日には、カイドウが自ら手に入れようとするに決まっている。……いや、
そこら辺は最後までよくわからなかったんすよねぇ。
ま、どっちにしろカイドウが邪魔ってことになるんだろうけど。
「クソッタレめ……どうしてよりにもよってワノ国なんだ……おい、念のためにもう一度だけ聞いておくがワノ国ってのは間違いないんだな?」
「それだけは誓って間違いないっすよ。なんなら、五老星にでも鎌かけてみたらどうです?」
「……まぁ、そこまで言うからにはマジなんだろうな。クソ……ワノ国か」
「あっ、肉焼けましたよパイセン。食べます?」
「あぁ……って、テメェは何ナチュラルに俺の目の前でBBQしてやがるんだ⁉」
あんまりにも長く一人で悩んでいたので勝手に庭で始めてしまった。
前世からの習慣で、お祝い事は肉焼いて食うって決めているんだ。
これだけは絶対に譲れない。
「パイセン……好き嫌いは良くないっすよ」
「トラウマがあるんだよ! ギャグで流せねぇレベルのな!」
「ふーん、かわいそうに(棒)。じゃあ、この肉は俺がもらいますね」
「でもそれは俺に寄越せッ‼」
めんどくさいなぁ、この先輩……。
結局、やけになったように網の上で焼いていた肉を片っ端から食い始めたパイセン。
ちょ、ちょっと! それだと俺の分まで……クソ! ならこっちだって負けじと肉を拾ってやるもんね! あれ、肉が網から取れない……コイツ! イトイトの力を使って――
閑話休題。
「……で、結局どうするつもりなんすか先輩」
「……どうするか……」
山ほど買ってきた肉を二人で死ぬほどかっ食らい、もう動けなくなった俺たちはソファーの上に寝そべっていた。
うえぇ……食いすぎた。マジで気持ち悪い……。
ていうか、なーにがBBQ苦手だ。俺より食ってたじゃん。
「カイドウ……カイドウか……」
「まだ悩んでるんすか? もう諦めたらどうです? どーでもいいじゃないすか。古代兵器なんて」
「ふざけるな。俺が苦労して提供した七武海の地位に対してテメェからの対価がこれじゃあ、納得がいかねェ」
「今食った焼肉で良くないすか?」
「テメェの肉でBBQするぞゴラァ」
BBQに抵抗はなくなったんだ。
「おい、言っておくがもうちょっと手伝えよ。流石にこれは対価としては納得いかん」
「えー……まぁ、始まるまでは暇だから別に良いですけど……俺に出来ることあります?」
「カイドウを殺してこい」
「無茶ぶりにも程があるでしょ」
アンタ、俺のことなんだと思ってんだ?
「俺戦ったことないすけど、どれくらい強いんすか? 四皇って」
「少なくとも、海軍大将よりは強いんじゃねぇか?」
「史上最強じゃないすかそんなの」
「お前の海軍大将に対する厚い信頼は一体何なんだ?」
「そんな言うならパイセンも戦ってみたらどうです? マジで引くぐらい強いっすよ」
「結構だ」
まぁ、原作でもビビッて青雉から逃げてたし、パイセンじゃあ、勝てないでしょうね。
「あー、クソッタレめ……中途半端な情報与えやがって……これじゃあ、今後の取引も面倒になるだろうが……カイドウの軍団強化なんて馬鹿らしくてやってられねェぞ……」
「何をブツブツ言ってるんです?」
「どうする? 本当にヤルならアレの生産計画は寧ろ俺にとって邪魔になる。だが、こんな訳の分からない奴が言った古代兵器の情報の為だけにこれまでの努力を棒に振るのか……?」
「あー、ドフラミンゴ先輩?」
あまりにも情緒不安な様子から心配になって声を掛ける。
先輩はギロリと俺を睨みつけてから言った。
「おいキリア! テメェ、プルトンの情報は本当に間違いないんだろうな‼ 本当にワノ国に現物があるんだろうな‼」
「だから! 何度もそう言ってるじゃないすか!」
「
「はい?」
急に何を……。
ソファーから立ち上がったドフラミンゴ先輩は真剣な表情で俺を見つめながら言った。
「お前の一番大事なものに誓えるか?」
「……誓えますよ」
「何に誓う?」
目覚める前の――いや、目が覚めてからもキリアという人間が一番大事だったもの。
「亡くなった俺の母と、生まれてくることが出来なかった俺の弟に」
「――――」
ドフラミンゴ先輩は暫くの間立ち尽くしていた。
やがてゆっくりとソファーに座り直し、額に手を当てながら絞り出すような声で言った。
「……分かった。お前の言葉を信じよう」
「……」
俺は急に酒が飲みたくなった。
無言でラム酒を取り出してきてグラスに注ぎ――ついでに先輩の分も注いでから一気に飲み干した。
先輩も同じように向かいで飲み干した。
気を取り直して再びソファーに座りなおした先輩はまたブツブツ言い始めた。
「ワノ国……ワノ国か……海楼石の産地、政府も手出ししない鎖国の地……侍とかいう戦力……悪くない」
「だが……カイドウには勝てねェ……いや、勝てねェって考えが間違ってるんじゃないのか?」
「この馬鹿も使って……俺の力の全てを使っても……五分か……?」
「いや、五分じゃねェ。分が悪いのは明らかに俺たちだ。だが……このアホがいればあるいは……」
なんか時々アホとか馬鹿とか聞こえるが、多分俺のことではないだろう。
「ふわぁ……眠っ」
あー、ダメだ。
満腹になった上にアルコールを入れたせいで眠くなってきた。
お風呂も入りたいけど、もう明日の朝でいいかなぁ……
「おいキリア!」
「う、うっす」
「お前、コイン持ってるか?」
「まぁ……ありますけど……」
「寄越せ」
何だ急に?
取り敢えず、懐から取り出したコインをパイセンに投げて渡した。
「……表だ」
「じゃあ、俺は裏でお願いしやす」
「テメェは関係ねェよ。答えは殆ど決まっているが、偶には最後の一押しを天に聞いてみるのも悪くないかと思ってな」
そう言ってパイセンはコインを親指で宙に弾き飛ばした。
キィーン、
クルクルと宙でコインが回る。
何故か、
黄金の金貨は程なく重力に引かれて落ちてくる。
先輩は落ちてきたコインを手で蓋をするように左手の甲に叩きつけた。
そして、ゆっくりと被せた右手を左手の甲からどかしていく。
……なんか、俺関係ないはずなのにやたらとドキドキするな。
「――――」
「……どうだったんです? 表でした? 裏でした?」
「……返すぞ」
「おっとっと」
ノールックで弾き飛ばされてきたコインをキャッチする。
そしてドフラミンゴ先輩は再びソファーに横になった。
「先輩?」
「……取るか」
「何をです?」
ドンキホーテ・ドフラミンゴはソファーに横になりながら言った。
「カイドウの首を」
「あぁ、カイドウの首っすか。いいんじゃないすか? 別にカイドウを倒したところで俺には何の関係も――今なんて?」
「だから、カイドウの首を取るつったんだよ。長期的な商売相手として見据えていたが、もう止めだ。面倒だ。プルトンがそこにあるなら、ワノ国ごと手に入れてやる」
「いや、流石にそれはちょっと――」
「アイツを殺して」
王下七武海 天夜叉ドンキホーテ・ドフラミンゴは宣言した。
「俺が四皇になる」
「……」
いや、いやいやいやいや。
何を言ってるんですこの人は?
カイドウを殺す? パイセンが?
無理でしょ。勝てるわきゃない。
それに第一、原作はどうなる?
ドレスローザ編は? パンクハザード編は? 何よりワノ国編は?
俺が一味の皆と一緒に冒険するはずの旅はどうなるんだ。
「おい、キリア」
「……なんです?」
「フッフッフッフ、俺ァ、久々に“野心”ってやつを思い出したよ。小難しいことを考えず、ただ成り上がることだけを考えていたあの時をな。あぁ、若い頃に戻ったみてェだ……」
「…………」
あっ、ダメだ。
パイセンの発言がアレすぎて、脳のキャパシティーを超えたみたい。
さっきのコイントスで目が覚めたと思ったけど、また眠くなってきた。
うん。さっきのパイセンの発言は、一端忘れよう。
どうせ一時の気の迷いだろう。
風呂もどーでもいいや。
もう寝よう。
「ドフラミンゴ先輩」
「あん?」
「俺、もう寝ますね」
「あぁ、分かった」
あっ、そうだ。最後に一つだけ忘れていたことを伝えておかないと。
「ドフラミンゴ先輩」
「あん?」
「七武海入りの件、色々とありがとうございました。感謝してます」
「……おう」
あー、眠い。色々と考えることはあるけれど、一先ず今は眠るとしよう。
俺はようやく手に入れた安寧を享受しながらゆっくりと目を閉じたのだった。
【超余談】
二人で馬鹿ほど肉を食っている最中のことだった。
「あっ、そういえばドフラミンゴ先輩。ちょっといいすか」
「なんだ? ……おい、それは俺が育てていた肉だ。触るんじゃねぇ」
「いやいや、パイセンのは隣のやつでしょ。勝手にすり替えないでください」
「いーや、絶対にそっちが俺のだ。糸を引っかけているから間違いない」
「もうその反則やめてくださいよ」
だが、羨ましくもある。
俺の能力はこういう日常で役立つような利便性がないからなぁ……。
「おっと、話が逸れた。肉じゃなくて、聞きたいことがあるんすよ」
「なんだ?」
「先輩、歳は幾つなんです?」
「なんだ急に?」
「いいから教えてくださいよ。41歳っすか?」
「……38だが」
2年後の新世界編でのパイセンが41歳だから……原作開始時は39歳のはず。
つまり今は原作開始1年前ってことか。
「ありがとうパイセン。参考になったっす」
「?????」
「誕生日になったら教えてくださいっす。派手に誕生日パーティーを開きましょう」
「お、おう……????」
「楽しみっすね……先輩が41歳になる日が」
「?????」
王下七武海加入編 完
お世話になっている先輩を時系列把握に利用していくスタイル。
これにて【王下七武海加入編】は終了となります。
これまでたくさんの感想をいただきましてありがとうございました。
もちろん感想は全部見させてもらって、モチベーションにしております。
(なかなか返信できてないですが……)
次回は軽く主人公の設定とかを記載して、幾つか番外編を挟んでから新章に突入する予定です。
また暫くお付き合いいただければと思います。