七武海ですが麦わらの一味に入れますか?   作:赤坂緑

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今回はキリア成分少なめです。
真面目なナンパ回ですね。

――いや、真面目なナンパ回ってなんだ......?(困惑


モネの恋【後編】

 

断ることもできた誘いだが、気が付けばモネは自分を助けてくれた男と一緒にカフェのテラスに座っていた。

覇王色を持つ彼はレオンとだけ名乗った。

 

「モネさんと言うんですか。素敵なお名前ですね」

「あ、ありがとうございます」

 

落ち着いた雰囲気の彼は手慣れた様子で注文を頼み、華麗な話術でモネのことを楽しませてくれる。

これまで海賊や王族など様々な相手と接してきたモネの人物観察眼はかなりのものではあるが、正直彼の正体が全く見えてこない。

どこかの王族? 貴族? 覇王色を持つくらいだから人の上に立つ存在だとは思うのだが……

楽しさと警戒心の両方でグラグラ揺れる心を内側に仕舞いこみながらモネは尋ねた。

 

「レオンさんはどういった目的でこの国に?」

「本当は来る予定はなかったんですが……まぁ、運命の導きってやつですかね。暫くは観光目的で滞在していますが、今は貴女と仲良くなることが最大の目的です」

「……結構グイグイ来られるんですね。普段からそうやって色んな女性を口説いているんでしょう?」

「まさか! モネさんがあまりにも素敵な人だから声を掛けたんです」

「どうだか……」

「グイグイ来られるのはお嫌いですか?」

「嫌い、と答えたらどうします?」

 

挑発するようなモネの言葉に対し、レオンは真剣な瞳で彼女を見つめてから言った。

 

「逃げたら1つ。進めば2つ手に入る」

「?」

「私が好きな(他作品の)言葉です。今ここで撤退すればこれ以上貴女に嫌われることなく親切な人で終われるかもしれない。でも、嫌われることも覚悟して前に進めば――」

「進めば?」

「愛と幸福が手に入るかも」

「ッ‼」

 

あまりにも気障な台詞にモネの顔が真っ赤に染まる。

 

「失礼。ちょっとカッコつけすぎたかな?」

「い、いえ……素敵な考え方だと思います」

「それは良かった。では今度、ヘタレ中二破滅願望者の知り合いにも同じこと言っておきますね!」

「????」

 

 

 

◆◆同時刻 ドレスローザ王宮◆◆

 

 

「ハ――クションッ‼」

「どうしたドフィ? 風邪か?」

「いや……どこぞの誰かが俺の噂話でもしているんだろう。……だが、妙にイライラしてくるのは何故だ?」

「最近お前の言う客人とやらに振り回されているせいじゃないか?」

「そうかもしれないな……だが、それさえ済めば俺たちは巨大な力を手に入れることができる。待っていろよ、ディアマンテ。もうすぐだ。もうすぐで直接世界をぶっ壊すことができる――! 俺たちの新時代がやってくるのさ! フッフッフッフ!」

 

若がクソ情報のせいでカイドウ討伐を決意することになるまで後5日。

 

 

◆◆ドレスローザ カフェ◆◆

 

 

場所は移り、再び若い男女2人。

 

「しかしモネさん、私が褒めたたえただけで面白いくらい動揺してくれるんですね」

「……そういうのに耐性がないんです。笑うなら好きに笑ってもらって結構よ」

「笑うなんてとんでもない。とても可愛いらしいですよ」

「ッ! そうやってすぐにからかう!」

「からかってないですって!」

 

ここは愛と情熱と玩具の国、ドレスローザ。

愛が故に男が女に刺されることもしばしば。

修羅場が原因で人が死ぬなんて日常茶飯事。

 

だが、そんな国にあってどこかピュアなやり取りをする2人の男女は周りから見てもかなり好意的に受け入れられていた。

 

「でも本当に不思議ですね。モネさんくらい素敵な女性だったらこういった口説きには慣れていると思ったんですが……ドレスローザの男性は見る目がないのかな?」

「……自慢じゃないですが、口説かれたことは何回かありますよ? でも、私は任務の関係でドレスローザの外に行く機会が多くてあまり1つの場所に留まる機会が少ないですし、それに――」

「それに?」

 

少し言うことに躊躇はあったが、モネは心の内を打ち明けた。

 

「私、今の仕事がとても大事なんです。それこそ、私の命なんかよりもずっとずっと大事なんです。だって、私を救ってくれた人が私を信じて任せてくれたものだから……」

「……」

「だから、例えば男性とそういう関係になったとしても、私はきっと仕事の方を優先すると思うんです。そんなの、男性側からしたら耐えられないことですよね? だから私、そういう機会があってもいつも自分で台無しにしていて……」

「素敵じゃないですか!」

「えっ……」

 

てっきり嫌な顔をされるかと思っていたモネは面食らった。

レオンは彼女の予想に反して目をキラキラさせながら言った。

 

「モネさんは律儀で一途な方なんですね。女性として――いや、人としてこんなに素晴らしいことはない」

「――――」

「そして何より、モネさんを救ってくれた人が素敵な方なんでしょうね。貴女、その人に恩を返せることが楽しくて仕方ないって顔をしてる」

「……」

 

彼女たちが彼によって救われなければ、今頃どこかで野垂れ死んでいたことだろう。

モネは嬉しかった。

自分の価値観に家族ではない他者から共感してもらえることが本当に嬉しかった。

 

「レオンさんにもそういう人いるんですか?」

「えぇ、いますよ。直接会ったことはないですが」

「?」

 

直接会ったことがないのに救われたとはどういうことだろうか。

モネは不思議に思ったが、彼にも大事なものがあると分かって何故か嬉しかった。

 

「ところでレオンさん」

「なんでしょう?」

 

話しているうちに距離が近づいたように感じたモネは思い切って尋ねることにした。

 

「違っていたら申し訳ないんですが……もしかしてレオンさんは、若――ドンキホーテ・ドフラミンゴ様の関係者の方だったりしませんか?」

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ? あぁ、彼ですか。一応、関係者ということになるんですかね?」

 

やっぱりそうか!

妹が言っていた不思議な様子の若様、そして自分の前に現れた覇王色の覇気を操る謎の青年。

 

「では、もしかして若様の客人とは――」

「えぇ、私のことだと思いますよ。彼にはお世話になっています」

「やっぱりそうだったんですね!」

 

モネは予想が的中したことと、若の客人が彼であるという事実の両方が嬉しくて笑った。

 

「若様ということから察するに、貴女の主はまさか……」

「えぇ。ドンキホーテ・ドフラミンゴ様です」

「おぉ! これはすごい偶然ですね! では、貴女のことを救ってくれた人と言うのも……」

「はい……若様です」

「そうでしたか。彼には俺もお世話になっています。――聞かせてくれませんか? モネさんが尊敬する彼のこと」

「……いいんですか? 話長くなっちゃいますよ?」

「モネさんの話なら三日三晩聞いていられますよ」

「もう! 調子の良いことばかり……」

 

だが、尊敬する若様について語っていいと言われてモネが我慢できるはずもなく、結局彼女は長々と彼の魅力について初対面の男性に語ってしまったのだった。

 

後から振り返れば自分を口説いている男性の前で別の男性の話をするのはどうかと思ったが、それでもレオンは嫌な顔一つすることなく絶妙なタイミングで合いの手を入れて彼女に楽しく話をさせてくれた。

 

「――というわけで若様は……ごめんなさい。私ばかり長々と話しすぎですよね……?」

「いえいえ、とんでもない。俺もお世話になっている人のことが知れて嬉しいですよ。それに、楽しそうに話しているモネさんを見ているとこっちも楽しくなってきますから」

「レオンさん……ありがとうございます」

 

ニッコリとモネは微笑んだ。

その笑みは彼女の献身性を表す慈愛と幸福に満ちた笑みで、レオン改めキリアをして一瞬本気で見惚れるほどに可憐だった。

 

「……好きだな」

「えっ⁉」

「モネさんのその笑顔」

「……レオンさん、よく女たらしって言われません?」

「今日初めて言われたよ」

「嘘つき」

 

嘘じゃないと言いながらレオンは笑う。

 

「モネさんの方こそ男たらしって言われるんじゃないですか?」

「えぇ、よく言われます」

「嘘つき」

「ちょっと! それどういう意味ですか!」

「冗談ですって」

 

2人は笑った。

楽しいな。2人は思った。

 

だが、残念ながら時間というものは有限である。

レオン改めキリアは若様に七武海入りの件で作戦会議があるため、日が落ちたら帰ってくるように言われていたことを思い出した。

クソッタレめ。やっぱり若ってクソだわ。デートの邪魔しやがって。

いいところ一つもねぇじゃねぇか。

 

「おっと、もう日が落ちてきましたね。そろそろ帰らないと」

「えっ……」

 

“もう帰らないといけないの?”

 

モネは驚いた。そんな時間になるまでずっと話続けていた事実もそうだが、何よりもう帰らなければならないことを残念がっている自分自身に心底驚いていた。

 

「……」

「モネさん」

 

そんな彼女の本心を見抜いたのか。

 

「ちょっと歩きませんか? 良ければ家まで送っていきますよ」

 

レオンは穏やかな顔でそんな提案をした。

 

 

 

並んで2人で夕暮れのドレスローザを歩く。

くっつきすぎず、離れすぎずの距離を保って歩く2人の間でポツポツとあてもない会話が繰り返される。

このまま別れて終わりなのか。

 

「ねぇ、レオンさん」

 

気が付けば、モネの口は勝手に動いていた。

 

「ん?」

「……レオンさんは、何者なんですか?」

 

彼に出会ってからずっと気になっていて、ついぞ聞けなかったこと。

 

覇王色の覇気――それも、モネだけ気絶させない技量の高さ。

しかし覇気に見合わぬ穏やかな人格。

若様が客人として気を遣っているという事実。

明らかに、モネよりも格が幾つか上の人間だ。

そんな人間がこのドレスローザで何をしているのか。

 

もし――もしも、彼が――

 

「敵」

「えっ?」

「俺が君の慕う若の“敵”と答えたらどうする?」

「ッ‼」

 

想像していた最悪の事態にモネの顔色が悪くなる。

だが、自分の信念に嘘をつくことは出来ない。

モネは琥珀色の瞳で隣の男を睨みつけ、絞り出すような声で言った。

 

「……殺します。若様の為なら」

「そうか」

 

レオンは穏やかな顔で微笑んだ。

 

「安心したよ。君に殺されるなら悪くない」

「――――」

「でも、君も安心していいよ。俺は若様の敵じゃない。今はね」

「今は、ですか」

「あぁ。未来は誰にも分からない。今は仲良しでも、ずっと先の未来では殺し合いをしているかもしれない。この海じゃ不思議なことではないでしょ?」

「……えぇ、そうね」

 

でも、今は敵じゃない。

モネはその事実に酷く安心して、嬉しく思っている自分がいることに気が付いた。

やっぱり今日の自分は少し、変だ。

 

「――で、はぐらかされたけど、結局あなたは何者なの? レオンさん」

 

「知りたい?」

「そりゃあ、もちろん――」

 

隣を歩いていたレオンの腕がモネの右肩を掴み、グッと彼の方へ抱き寄せられる。

鼻と鼻がくっつきそうな距離感で彼は言った。

 

「俺のこと、知りたい?」

 

本物より価値がありそうな黄金の瞳がモネを貫く。

 

「……えぇ」

 

モネは熱に浮かされたような顔でうなずいた。

 

「――よし。じゃあ、明日のお昼に今日と同じカフェに集合しよう」

「え、えぇ……」

 

急に元のレオンに戻ったことに驚きつつ、モネは頷く。

 

「じゃあね、モネちゃん。今日は楽しかった」

「えぇ。私も凄く楽しかったわ」

「おっと、忘れてた」

「えっ――」

 

グイっとレオンの顔が近づいてきた。

一瞬だけ色々とあって、気持ちの整理がつかないモネは愛用している眼鏡みたいに目をぐるぐる回しながら去っていく男の背中を見送った。

 

「……愛と情熱の国、か」

 

モネはそっと呟く。

雪を司り、冷酷に、一途に主に従うのみだった女の胸には、何か暖かいものが生まれていた。

 

 




コイツナンパ慣れすぎやろ……(困惑
生き残るために女性の庇護も必要な場面があって、死ぬ気で覚えたという設定でどうか1つ、うちの馬鹿を許してやってください。でもモネはこいつを刺してもいい。

番外編はこれで一端終了です。
次回より新章開始となります。
最近ちょっと忙しくて更新速度落ちるかもですが、気長にお待ちいただけるとありがたいです。

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