新章【ワノ国編】開幕です。
にしても、新章第1話のタイトルがこれってコイツほんまに……(呆れ)
お酒が全部悪いですよね?
前回までのあらすじ。
色々あって天竜人を殺しちまった俺はドフラミンゴパイセンのお陰で七武海になることができたのだった。ちゃんちゃん。
さて、七武海入りしたことによって政府と海軍大将から追われることがなくなった俺はモネちゃんとデートしたり、浮気がバレて能力全開で襲い掛かられたり、キリアってことがバレて大騒ぎになったり、なんやかんやありつつもドレスローザで平和に過ごしていたはずなのだが――
「……うっ……うん……? どこだ、ここ……?」
目が覚めると全く知らないところにいた。
記憶が飛ぶくらい飲んで翌日ゴミ箱の中だったことは偶にあるが、どうやらここはゴミ箱ではないらしい。
ドレスローザに来てからは滅多に羽目を外していないので実に久しぶりな感じだが、さて誰と飲んでいたんだったか。
何にせよ、酷く喉が渇いている。
「――って、痛ッ! あー! クソ! 頭痛ェ! なんだよこれ⁉ 痛ェ! 痛すぎるッ‼」
こうなった経緯を思い出そうと頭を回転し始めたその瞬間、地獄のような頭痛が襲ってきた。
文字通り頭が割れるほど痛い。
能力者になってこの方、ほとんどのダメージが軽減されているのでここまでの痛みは久しぶりだ。
初めて黄猿師匠の全力蹴りを側頭部に受けた時くらい痛ェ!
いや、下手したらその時以上かも。
「ぐっ……誰だ? 俺にここまでのダメージを通したのは……! 酒か⁉」
ガンガン五月蠅い頭を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
辺りを見渡すが、本当に全然知らない場所だ。
どこかの建物だということは分かるが……それ以上はさっぱり。
おいおい、どこで酒飲んでたんだ俺。
ていうか、なんか日本酒臭いな。俺、ラム酒が好きなのに。
「…………あ~、クソ頭痛ェ…………」
悪態をつきながらゆっくりと壁に手をつきながら明るい出口を目指す。
目の前の壁に大きな穴が開いているので、多分あそこから突っ込んできたんだと思う。
それか、思いっきり吹っ飛ばされてきたか。
「やべぇ、なんも思い出せねェな……いったい何だってんだ……痛ッ! なんだ今の?」
ぼやきながら自慢の金髪を整えるために触っていると不意に手に静電気が走った。
ただの静電気ならもはや痛みを感じることすらないと思うが、なんか妙に痛い。
「……なんだ、この悪寒は。俺、相当ヤバいことやらかしたんじゃ……」
背筋が嫌な汗をかいているのが分かる。
生まれてこの方俺を裏切ることはなかった生存本能がレッドアラートを脳内で鳴らし、鍛え上げた見聞色が急いでこの場を離れろと訴えてくる。
ヤバい。これ、ほんとにヤバい時の奴。
具体例を出すと、運悪く天竜人を殺っちゃったと気が付いた時と同じくらいのヤバさを全身で感じているナウ。
おいおい、海軍大将でも飛んでくるのか? 笑えねェぞ、それ。
「……こういう時はあれだ。本能に逆らっちゃいけないんだ」
逃げれば一つ、進めば二つ手に入る。
でも多分、逃げないと命を失うので、俺は逃げます。
そうと決まれば話は早い。
俺は背中に竜の翼を展開し、天井をぶち破って自由な大空に飛び立とうと――
「あれ、もう動けるのか。凄いな君は! あの
耳に心地よい凛とした美声が飛んできた。
ゆっくりと顔を上げるとそこには、可憐な鬼が一匹。
あぁ――なるほど。理解した。俺が
銀、エメラルド、水色のグラデーションを描く美しい髪。
こめかみ辺りから生える2本の赤い角。
好奇心旺盛な瞳。
幼さと色気と勝気が同居した美しい顔立ち。
この世の存在とは思えない絶世の美女が男勝りな笑みを浮かべてこちらに近付いてくる。
……生存本能君、すまんな。いったん待機モードでよろしく。
「えーと、君は誰だ?」
俺は知らないふりをしながら尋ねる。
白い和服に嵌められた手錠を鳴らし、金棒を手に彼/彼女は堂々と名乗った。
「僕の名前は光月おでん! 君と同じく、カイドウを倒すべく戦っている者だ!」
いや、俺はカイドウ倒すつもりなんてないから違うけどね……多分。
記憶が飛んでるから何とも言えないけど。
さて、目の前にいるのは皆大好き、鬼娘のボクッ娘で男装の麗人の箱入り息子のお嬢様にして敵のボスの「息子」。(by pixiv)
カイドウの実の息子(娘)ヤマトさんである。
でも、ご本人は大の光月おでんファンにつき、そちらの名前を名乗っておられる。
ここは慎重に対応しないとな。
「
「――――」
「……どうしたの?」
何やら固まってしまったヤマト坊ちゃん改め――光月おでんに尋ねる。
彼女は何やらプルプルと震えた後、金棒を放り出して俺の右手を両手で掴み、感極まったような表情で言った。
「僕のことを、光月おでんと認めてくれるのか⁉」
「認めるも何も、自分で言ったんじゃないか……」
聞いてもないのにヤマト呼びするわけにもいかないし。
「くぅ~! そうか、そうか。外の世界から来た人だから疑うってことを知らないんだな! いや、でも疑う必要もないんだ。僕は――僕こそが光月おでんなんだから!」
そう言って大きなおっぱ――胸筋を張るおでんさん。
今まで自分の憧れを肯定されたことがなかったから嬉しくて仕方ないんだろう。
大丈夫。俺はそういうの否定しないタイプだから。
憧れは大事だよね? 止まれないよね? 分かる分かる。
「あ~、話を進めてもいいかい? おでんさん」
「おでんさん⁉ ……ゴホン。あぁ、もちろんだキリア君」
咳ばらいをしてから低い声で話し始めたヤマト坊ちゃん改め光月おでん。
可愛いな。
「えーと、まず初めに、ここはどこ?」
「どこって……それも思い出せないのか?」
正直、彼女に爆発する錠が付いている時点で場所は一つしかないんだが、ここは敢えてとぼけておくことにする。
「あぁ。正直、なんでここにいるかも思い出せない。すぐに思い出すとは思うけど」
「表面上は平気でもやっぱりクソ親父のが効いていたのか……良し! じゃあ、教えるよ。ここは
「……ですよねー」
「?」
信じたくはなかったが……まぁ、それしかないだろうとも思っていた。
俺の頭が割れそうになるほど強烈な攻撃。
髪の毛に残っていた痛みを感じるほどの電気。
日本酒。
そして、止めにヤマト。
さて――問題は、だ。
「えぇと、おでんさんはさっき言っていたよね。“クソ親父”って。で、俺はそいつに吹っ飛ばされたと……つまりおでんさんのお父さんって」
「――あぁ。認めたくはないが、カイドウだ」
「そうか。で、あんまり聞きたくはないんだけどさ、俺とカイドウの間で何があったのか知ってる?」
俺が何をやらかしたかだ。
「なにって――そりゃあもう、傑作だったよ! 思わずお腹抱えて大爆笑しちゃったからね! キリアは面白い人なんだな」
「えぇ……?」
楽しそうに笑うおでんは魅力的だが、俺は現在生きた心地がしない。
おいおい、マジで何をやらかしたんだ、俺。
「……本当に何も覚えていないんだね」
「残念ながら。……今はもう、思い出さない方が幸せな気がする……」
知らない方が幸せなこともある。
多分、俺は今回もやらかしてしまったのだろう。
よりによって、あのカイドウ相手に。
クソが。だから来たくなかったんだ鬼ヶ島なんて。パイセンめ……
「あっ――」
「? どうしたのキリア君」
「ちょっと思い出したかもしれない。そうだ。俺はこの島にパイセンに誘われて――」
「パイセン?」
「ねぇ、おでんさん」
「さんはいらないよ。僕も君のことはキリアと呼ぶことにするから」
ではお言葉に甘えて。
「じゃあ、おでん。金髪にクソダサいサングラスをしていて、目を疑うようなピンク色の羽毛ジャケットを羽織ったファッションセンスが死んでる38歳のフッフッフッフおじさん知らない?」
「あぁ、そういえばそんな感じの人が君と一緒にいたような気がする。僕が宴会会場を覗きに行ったのは騒ぎになってからだから良く分からないけど」
「死んでる?」
「いや、生きてるとは思うけど……」
「それは良かった。復讐の機会がなくなるところだったから」
「????」
これで俺がカイドウに殺されたら化けてでてやる。
覚えていろよ。多分、悪いのは俺なんだろうけど。
「何のことだかよく分からないけれど、とにかく今はここを早く脱出して人目がないところに移動しよう、キリア」
「そういえばここはどこだ……?」
「鬼ヶ島の中にある宴会場とは別館の建物だよ。凄い勢いでクソ親父に殴り飛ばされてここまで飛んできたんだ」
「マジかよ……よく生きてたな俺」
「僕も不思議でならないよ。目立った傷があるようにも見えないし。君の身体、何でできているんだ? ――って、そんなこと言ってる場合じゃなかった! 早く移動しよう! クソ親父の部下たちがやってくる!」
「お、おう」
先行して走りだしたおでんの背中を追いかける。
そういえば彼女、どうして俺に対してこんなに好意的なんだろう。
いずれ来るエースの弟、ルフィのことを待ちわびていたんじゃないのか?
「ねぇ、おでん」
「なんだい?」
「どうして俺を助けてくれるんだ?」
「どうしてって――」
彼女は走りながら俺に満面の笑みを見せて言った。
「あんな啖呵を切られちゃあ、助けないわけにはいかないじゃないか!」
「????」
「一緒にカイドウをぶっ飛ばそうじゃないか! キリア!」
「……マジで何したんだ、俺」
拝啓過去の自分へ。
未来の私です。あなたのことが怖くて仕方ないです。
一体何をやらかしたんです?
「そこだ! そこの裏口から外に出られる! カイドウの攻撃に耐えられる君の身体は素晴らしいけれど、今は戦力を整えるのが先だろう? 悔しいかもしれないが、今は逃げに徹しよう!」
「言われなくても!」
カイドウなんて逃げの一択である。
頼りになるおでんの背中を追いかけて、俺たちは一先ず建物を出て海岸沿いに出てきた。
「よし。港までもうちょっと走るよ! 体力は大丈夫かい?」
「あぁ。(逃げるための体力なら)有り余っているくらいさ」
「それは頼もしいな! 僕に付いてきてくれ」
ここの地形を完璧に把握しているおでんは敵が探しに来そうな場所を回避しながら俺を幾つかの船が泊まっている港の近くまで連れてきてくれた。
二人で岩場に身を隠しながらそーっと港を覗き込む。
「さてキリア、君は一体どの船で来たんだ?」
「なんか、異常に趣味が悪いピンク色の船が泊まっていないか?」
「いや……ここからは見当たらないな」
「じゃあ、あのスーパーハイパークソダサヌマンシア・フラミンゴ号に乗ることは避けられたのか……」
「外の海にはそんな変わった名前の船があるのか……」
「あぁ。本当にダサいんだ」
しかし、参ったな。
「適当な船を盗んで逃亡するしか……いや、飛んでいくのが早いか。最初からこうすれば良かったんだ」
俺は再び竜の翼を展開させた。
「わぁ! 凄い! 最初に会った時も広げていたよね! その翼カッコいいな~!」
「えっ、そう? 照れるなぁ~」
「これで飛べるの?」
「もちろん! 飾りじゃないよ。ほれ」
「凄い! めっちゃ動いてる!」
なんて二人で遊んでいたのが良くなかった。
「――しまった! これはクソ親父の気配!」
おでんが振り向いた先を見る。
そこには巨大な青龍が空へと昇っていく強烈な光景が広がっていた。
うわぁ……強そう……勝てんでしょ、あんなの。
あんなのに挑む奴の気が知れないぜ。
「カイドウ!」
あっ、なんか唐突に記憶の一部が蘇って――
「テメェ、女々しく泣いてんじゃねェぞ自殺願望のクソ迷惑野郎がァ! いい歳したおっさんが……キモいんだよ‼」
……なるほど。
「すまない、おでん」
「?」
「俺の墓にはカイドウと勇敢に戦い、散ったと書いておいてくれ」
「どうした急に⁉」
多分、死んだなこれ。
俺はゴロゴロという雷鳴と共に天気が変わり始めた曇天の空を眺めながら辞世の句を考え始めていた。
ちなみにキリアとヤマトは死ぬほど相性抜群です。
似た者同士だからね。仕方ないね。