今回はいつもよりちょっと長めです。
あと、今まで一番ヤバい回です(白目
時はキリアとヤマトが出会う数日前まで遡る――
「おい、キリア。出かけるぞ」
「だからパイセン、部屋に入る時はノックを……もう、いいや」
パイセンのお陰で俺が七武海になってから約1か月ほど時間が経過した。
ここ最近は……まぁ、色々あったが、モネちゃんには告白して無事にOK貰ったし、ドレスローザのご飯は美味しいしで概ね幸せ
……まぁ、過去形からも分かってもらえると思うが、色々あったんだ。
「出かけるってどこへ行くんです?」
「鬼ヶ島だ」
「絶対に行きませんからね」
死んでもお断りだ。
「ていうか、どうして俺が一緒に行かなきゃいけないんです?」
「カイドウがお前に会いたいんだとよ」
「はぁ⁉ どうして俺に……」
「この間、電伝虫で俺が面倒見ていることを伝えたら、是非会いたいから連れてこいだとよ」
「つまりアンタのせいじゃねぇか⁉」
「そうかもな」
そうかもな……じゃねぇわアホンダラ!
俺は絶対に行かないぞ。
「……おい、何を警戒しているのは知らねェが、俺は別にカイドウと戦いに行くわけじゃねェぞ」
「えっ、そうなんすか?」
『俺が四皇になる』とか訳の分からないことを言っていたのに?
「当たり前だろう。今回はあくまでも商談で、久々に会うからってことで宴をするらしい。そこにお前も招待されているだけだ」
「宴かぁ……」
ここ最近のやらかしのせいでちょっとした軟禁状態にあるので、久々に宴会に行くのは悪くないのかもしれない。
でもカイドウかぁ……。
「一応言っておくが、テメェに拒否権はないからな」
「はぁ? なんでです?」
「――おいテメェ、もう忘れたのか? うちのモネを泣かせたことをよ」
「……」
「テメェの頭の中はどうなってるんだクソ色猿め。おまけに喧嘩でドレスローザの街中を破壊しやがって……お前、本来ならうちのファミリーに土下座で謝罪すべきなんじゃないのか? あぁん?」
「……」
こればっかりはマジで俺が悪いので何も言い返すことが出来ない。
(まったく、恨むぜ
俺が彼女を見つけたのは偶然だった。
なんか、凄い可愛い子がナンパされてるなぁ、なんて思いながら近づいてみたら驚くことに革命軍の魚人空手お嬢さんじゃないですか。
えっ、なんで革命軍⁉
確かにモンキー・D・ドラゴンとはドンキホーテ・ドフラミンゴの武器密輸ルートの調査に手を貸す契約を交わしたが、こんなに早く動き出すとは聞いていない。
俺、時期が来たら連絡するって言ったよね⁉
ただ思い返せば俺の方にも落ち度はあって、ちょっと事細かにドレスローザの内情を話しすぎたかもしれない。あまりにも悲惨な状況に居ても立っても居られなくなったというところか。
ドラゴンめ……3年後に俺たち麦わらの一味が綺麗に解決するんだから、余計な手出しをするなっての。
コアラちゃんはまだ革命軍としての活動歴が浅いのか、その可憐な容姿を上手く隠せず男たちにナンパされており、さらに魚人空手を繰り出す寸前ときた。
こんなところで騒ぎを起こしたらとんでもないことになる。
仕方がないので俺の十八番である「品がないな」というクソカッコいい台詞から助けに入ったのだが――
「――何をしているんですか? レオンさん」
その場面を運悪くモネちゃんに見られており、現場は地獄の修羅場と化した。
何とかコアラちゃんには小声でお説教をしたうえでドラゴンの元へ帰るよう伝えておいたが、その後が大変のなんのって……。
モネちゃんには能力は発動されたうえにナイフでめった刺しにされるし、姉を泣かされたと言ってシュガーちゃんも出動するし、護衛役のトレーボルも笑いながら襲ってくるし、コロシアムの休業日で暇だったディアマンテも理由分かってないくせに殺しに来るし。
仕方がなく俺も応戦し、街中大パニック。
パイセンが急いで駆けつけた時には大号泣のモネ、俺を玩具にしようと鬼の形相で追いかけてくるシュガー、能力発動させて襲い掛かってくるトレーボル&ディアマンテ、そして腹部から大量出血する俺というカオス極まりない状態だった。
まぁ、混乱に乗じてコアラちゃんがバレずに逃げられただけでもOKとしよう。
例によって暗い路地裏で帽子被っていたから顔も見られていないはずだし。
その後、なし崩し的に俺が新しく王下七武海となったキリアとして皆に紹介され、客人として手を出さないようパイセン直々のお達しが下った。
だがパイセンのフォローが入ろうとも既に手遅れで、俺はドンキホーテファミリーの中で「モネを口説いておきながら秒で浮気した最低最悪のクズ野郎」ということになっている。
おまけにパイセンの客人と言うこともバレたので「若様に多大な迷惑を掛けている王下七武海の我がまま新入り」という目でも見られている。
評価は最底辺にいると言ってもいいだろう。
まぁ、誤解や理不尽で嫌われて追い回されることには慣れているので特に問題はない。
それよりも、革命軍がドレスローザに潜入しているという事実がバレなかったことのほうが重要だ。
俺が革命軍と繋がりがあることはくま先輩のこともあってパイセンも承知の上だが、流石に未来でドレスローザをひっくり返すつもりとは思っていないだろう。
コアラちゃんはドラゴンから俺のことなんて聞いていないだろうが、念には念を入れておく必要がある。
シュガーの能力に掛かれば、秒でゲロっちまうからな。
まぁ、そんなこんなで今後もコアラちゃんのことは浮気ってことで言い訳はしないつもりだ。
俺の評判より、3年後のドレスローザの未来の方が大事なのは麦わらの一味として分かっているつもりだ。
◆◆閑話休題◆◆
だが、それはそれとして現状居候としてお世話になっている俺としては流石にパイセンの頼みを無下にするわけにもいかない状況なわけでして。
「――で、どうするんだキリア?」
普通だったら何の迷いもなく断っているが、流石にパイセンに迷惑を掛け過ぎた。
絶対に行きたくないが、今回ばかりは仕方がないだろう。
「はぁ……わかりました。行きますよ。でも、本当に戦いだけはなしですからね!」
「当たり前だ。奴とはまだお互いに商売相手だからな。いずれ縁を切る予定ではあるが、今はこの関係を利用して奴の戦力を測るつもりだ。――お前から吹っ掛けない限りは安全だろう」
「何を言ってるんですかパイセン――」
俺は意味の分からない世迷い言を口にするパイセンに呆れながら言った。
「俺がカイドウに喧嘩を売るはずないでしょ」
◆◆ワノ国――鬼ヶ島◆◆
数日後、俺とパイセンは鬼ヶ島に到着していた。
途中の島まではパイセンのスーパーハイパークソダサヌマンシア・フラミンゴ号で移動していたんだが、流石に公に四皇と七武海が合うのはまずいらしく、立ち寄った島で地味な船に乗り換えを実施。
迎えに来ていたカイドウの手下の案内の元、正規のルートで大して苦労することもなく鬼ヶ島へ入港を果たした。
そして驚くことに、到着した港にはわざわざ四皇が迎えに来ていた。
「ウオロロロ! 良く来たな、ジョーカー! 随分と久しぶりじゃねェか! ちょっと雰囲気変わったか? 堅っ苦しい恰好してよ」
「よぉ、カイドウ。ちょっとした心境の変化だ。景気はどうだい?」
「お前の話次第だな。百獣海賊団の財布を握ってるのはお前なんだぜ?」
「よく言うぜ。ワノ国の武器でしこたま儲けているんだろう?」
「ウオロロロ! 否定はしねェ! ――で、隣のそいつが噂の新人か」
「あぁ。おい、キリア。挨拶しろ」
「キリアです。どうぞよろしく」
俺は前世のことを思い出しながら、極力人の記憶に残らなさそうな無難な挨拶をした。
カイドウはジロジロと俺を遠慮なく眺めた後、つまらなそうな顔で感想を口にした。
「……天竜人を殺ったっていうわりには随分とまともそうな奴じゃねぇか。つまらねぇなぁ」
「ハハハハハ、よく言われます」
どいつもこいつも俺に幻想を押し付けやがって。
だが、ここは印象に残らない方が大事なのでカイドウの反応は俺的には正解だ。
「……ちッ、まぁいいか」
さて、初対面のカイドウだが――ヤバいなコイツ。
正直、マジで勝てる気がしない。
負けない戦いが得意な俺でも余裕で力負けするだろう。
それくらいの威圧感と底知れない生命力を感じる。
パイセン、いつ決行するのか知らないけどコイツに喧嘩売るのだけは止めておいた方がいいと思うよ?
ていうか、カイドウさん既に酒臭いんですが……絶対待ちきれなくて先に飲んでいたろ……。
「さーて、こっちへ来い。もう大看板や飛び六胞の連中は呼び寄せている。一緒に楽しく飲もうじゃねェか! ヒック……」
大看板に飛び六胞ね。
名前を聞くのは3年後になるかと……ってちょっと待て!
「あぁ。行くぞ、キリア」
「ちょっ! ちょっとパイセン……!」
「あん? なんだ急に小声で」
「どうして敵幹部が勢ぞろいなんです⁉ これ、もしかして邪魔なパイセンを嬲り殺しにするための罠なんじゃ……」
「馬鹿。どうせ、俺たちをダシに使って気持ちよく飲みたいだけだろ? いいからシャンとしてろ」
「……」
そう言って颯爽と身に纏ったスーツにピンクジャケットを翻し、先に進んでいくパイセン。
……おいおい、パイセン、どうちまったんだよ。アンタ、もっと小物臭のするどうしようもないクソ野郎じゃなかったのか?
俺は困惑しながらもパイセンの背中を追いかけ、鬼ヶ島内の城に用意された宴会会場へと足を踏み入れるのだった。
◆◆鬼ヶ島――宴会会場◆◆
「ウオロロロ! 俺たちの大事な商人ジョーカーと、
「「「「「乾杯――ッ!」」」」」
大看板や飛び六胞たちとの挨拶もそこそこに(何故かキングは凄い目で睨みつけてきたが……)目の前の酒を前に待ちきれなかったのか、カイドウの一声ですぐに宴会が始まった。
今回は幹部連中が中心に集められているらしく、そこまでモブ兵士の姿はなかった。
だからといって目の前で十何億の賞金首たちが酒を飲んでいるので全く油断できるような状況ではない。
「ウオロロロ! 飲め飲め! 今日は無礼講だ!」
カイドウとパイセンは近くの席で一緒に飲んでおり、俺はその隣でチビチビと周りの様子を伺いながら出された酒を無言で飲んでいる。
用意されたステージではクイーンとその部下たちがライブで会場を盛り上げており、宴会場はなかなかいい雰囲気だ。
「おいどうだ七武海の新入り! うちの酒は!」
「うん。美味しいですよ」
上機嫌なカイドウに同意しながらワノ国の酒――前世で言うところの日本酒を飲む。
前世からおっさんが飲むもんだって苦手意識があって避けていたけど、スイスイ飲めるし美味しいし、意外といけるかも……。
「ウオロロロ! そいつは結構! ――で、ジョーカーよ。例のあれの開発状況はどうだ?」
「あぁ、実はその件で大事な話があるんだ」
しっかし、隣の隣とはいえ、やっぱりカイドウの威圧感は尋常じゃないな……。
パイセンもよくもまぁ、こんな化け物相手に商売できるもんだ。
「実は――開発に失敗したと連絡があってな」
「失敗?」
「理論に致命的な欠陥があったとか何とかで……悪いが結論だけ言うと人造悪魔の実は作れないことが分かった」
「なにッ⁉」
普段は(自分で言うのもなんだが)結構コミュニケーション能力が高い俺だが、流石にこの鬼ヶ島ではアウェーが過ぎる。
ただ、元から百獣海賊団とは仲良くするつもりもないので、このまま大人しく酒を飲んで大した印象に残らない奴としてここを去るとするか。
にしても、本当にこのお酒美味しいなぁ~~
「ふざけるなッ!」
「おい、落ち着けよカイドウ」
何やら急にカイドウが怒りだしたが、どうせ酔っ払っただけだろう。
現に周りの奴らも大して気にしてないし。
じゃあ、俺はもっと飲もう。「そこのお姉さん。お酒のおかわりくださーい。ヒック」
「これが落ち着いていられるかッ! テメェ、どう落とし前を付けてくれるんだ! あぁん?」
「落とし前も何も、俺は作れる可能性があると言っただけで、アンタからこの件で金を貰った記憶はねぇぞカイドウ。――ビジネスの世界にゃ、こういうこともつきものだ。アンタだってよく知っているだろう?」
「ぐう……畜生めッ!」
あっ、その酒も美味そう――って、カイドウが一気に飲み干した⁉
「うお――――ん! クソッタレめ~~~」
うわっ、びっくりした。急に泣き出すなよ、もう。
先程まで怒っていたカイドウは急に大粒の涙をこぼしながら大号泣をし始めた。
「どうしてだよォ~、ジョーカーァァァ! 一緒に誓いあったじゃねぇか! 暴力の世界を実現し、最高の戦争を始めるってよォォォォォ!」
「本当にすまねぇな、カイドウ」
「うお――――ん! どうにもならねぇのかよそれぇ!」
「世界屈指の科学者である俺のパートナーが無理だと言ったんだ。悪いが、どうしようもねぇ」
カイドウは泣いている。世界最強の生物と讃えられる四皇の一人が泣いている。
……なんか、苛立つなぁ……酒飲みてェ……
「おい、そこのやつ、もっと酒をくれ。それだ! お前が今運んでいる酒がいいな」
「あぁ? おいおい、馬鹿言ってんじゃねぇよ酔っ払い。これはカイドウ様のお気に入りだ。これから持っていくところなんだからお前には渡せねぇよ」
「五月蠅い」
「ガッ―――」
その瞬間、ソレを感知できたのは絶賛酔っ払い中のカイドウや宴会を盛り上げるのに忙しいクイーンではなく、一歩引いた場所で宴会を眺めていたキングだけだった。
(今のは……覇王色の覇気。気が抜けた男のふりをして、こんなものを隠し持っていたか。流石は天竜人殺し。腐っても七武海というところか)
天竜人を殺した男。カイドウに絶対の忠誠を誓っているキングではあるが、それでも世界のルールなどお構いなしに大暴れする新人には期待を寄せていたのだ。
だというのに、鬼ヶ島に現れたのはどこか気の弱そうな優男。
内心の失望を隠せなかったキングではあるが、今の覇気は評価を改めるに十分なものだった。
(一人だけを狙い撃ちにする精度も悪くなかった。うちの精鋭が勢揃いしている中で暴れ出すとは思えないが、これは警戒しておいた方がいいかもしれないな)
もう見慣れた光景として皆スルーしているが、カイドウの泣き上戸は続く。
「俺ァよ、ジョーカー。ず――――っと楽しみにしてたんだぜ? テメェが提案してきた人造悪魔の実の力で俺の軍勢を強化するその日をよォ!」
「あぁ、知ってるよ。だから謝ってるんだ、すまねぇ」
「うぅ……クソ! なんでだよ! なんでこう上手くいかねェんだよ! なんで俺ばっかりこんな目に遭うんだよぉ!」
……
「あぁ、クソ! これだから生きるってのは面倒なんだ畜生め! やってられねぇぜ。もう死にてぇなぁ」
死にてぇだぁ?
「――五月蠅い」
何を言ってるんだ。この馬鹿は。
「うん? どうしたキリア?」
嫌な予感がしたドフラミンゴがキリアに声を掛けるが、
「テメェ、女々しく泣いてんじゃねェぞ自殺願望のクソ迷惑野郎がァ! いい歳したおっさんが……キモいんだよ‼」
楽しく盛り上がっていた宴会会場の空気が凍り付いた。
さーっとドフラミンゴの顔から血の気が引いていく。
真っ青な表情でぎこちなく動かした視線の先には、顔を真っ赤にして目の焦点があっていないクソ馬鹿の姿があった。
不意に以前の酒盛りで馬鹿と交わした会話が脳裏に過る。
『なんだ、もう飲まねぇのか? キリア』
『いやー、自覚はないんですが、俺ってかなり酒癖が悪いらしくて、悪酔いする前に止めることにしているんですよ』
『確かにこの間フラフラと外に出歩いてゴミ箱に顔突っ込んだ時は何事かと思ったが……』
『あぁ……あれも驚きですが、あれは寝ぼけているだけです。酔ったら本当に厄介らしくて、二度と飲むなって知り合いに怒鳴られたんすよ』
『どんだけだよ』
その場は笑って流していたが……
(クソッタレ! ワノ国の酒が飲みやすいからって度数が高いのも知らずに飲み過ぎたなあのアホッ! 確かにスマイルの件でカイドウを怒らせてこのアホをぶつけるつもりではいたが、これはまずいだろ!)
「お、おいキリア……お前ちょっと飲み過ぎたな。ほら、あっちで休もう。こっちへ来い」
「あぁん? 俺は酔ってねぇよ馬鹿野郎! いいからあっち行ってろ41歳」
「おい、だから俺は38――ぶげらッ⁉」
「うい~~~知るか」
(((((ドフラミンゴを裏拳で殴り飛ばしたぁ~~~⁉)))))
「うお――――ん! ジョーカー! 殴り飛ばされて可哀そうに! ひとえにテメェが弱いせいだが……それでも不憫だ!」
「あれ……これ、もう空になっちまった……おい、その酒美味そうだな。俺に寄越せ」
「それは俺の酒だぞぉ! スマイルだけじゃなくて酒も俺から奪うのかよぉ! 勘弁してくれよぉ~~」
「あぁん?」
キリアは竜の翼を生やし、カイドウの頭の位置まで飛ぶと、彼の立派な牛のような角を掴み、大声で怒鳴った。
「馬鹿が!
「……」
無言で俯くカイドウ。
百獣海賊団の部下たちはあまりの暴挙に震えつつも内心で笑っていた。
あのキリアとかいう馬鹿な野郎、“死んだな”と。
「うお――――ん! すまねぇ! 俺ァ……馬鹿なんだァァ!」
(((((まだ泣き上戸だった――――⁉)))))
カイドウ、泣き上戸継続。
貴重なストッパー(ドフラミンゴ)を自分で殴り飛ばしたキリアは止まらない。
グイっとカイドウから無理やり奪った酒を流し込み、キリアは吠える。
「そうだ! お前は馬鹿だクソッタレ! 馬鹿カイドウがよぉ、暴力の世界? 最高の戦争? 思春期の男子みたいに恥ずかしいこと言ってんじゃねェぞ馬鹿たれが!」
「うぅぅぅ……恥ずかしいなんて言うなよぉぉぉぉ……」
「いいや、恥ずかしいね! 俺ァ、誰の憧れも否定するつもりはねェが、テメェみたいに自暴自棄の反動を憧れや目標にすり替える奴は大っ嫌いなんだッ!」
「そんなこと言ってもよぉ……俺にはもうこれしか残ってねェんだよぉ!」
「あぁ、もう鬱陶しい奴だな!
「うぅ……グスっ、いただきます」
カイドウに無理やり自分の(カイドウから奪った)酒を飲ませるキリア。
アルハラも真っ青な光景にカイドウの部下たちが軒並み思考停止に陥る中――
「おい――」
唐突にキリアの怒りが弾けた。
「何勝手に俺の酒を飲んでんだテメェ! 殺すぞゴラァ!」
キリアはカイドウに無理やり飲ませていた酒の器を引っぺがし、思いっきりカイドウの頭に叩きつけた。
(((((えぇ~~~~⁉ 理不尽ッ‼)))))
もう滅茶苦茶だった。
余りの無茶苦茶さにクイーンはサングラスを割って目ん玉が飛び出し、飛び六胞たちは唖然とし、キングでさえも白目を剥いている。
「うお――――ん! 酷いことするなよぉ! 酒が勿体ないじゃねェか!」
「うるせぇ!」
カイドウの胸ぐらを掴み、黄金の瞳で四皇を睨みつけながら言った。
「泣くな! 泣いて同情してもらって、それで満足か⁉ 泣いたら亡くしたものが帰ってくるのか⁉ いちいち腹立つ野郎だなァ……テメェを肯定できるのはテメェだけだろうが!」
「あ、兄貴……」
眼をトロンとさせ、うるうると泣きそうな表情になるカイドウ。
(((((今度は甘え上戸だぁ――――‼)))))
「フフフ……馬鹿な奴だ。だが、それでも愛そう」
その子供のように純粋な瞳に絆されたのか、キリアは少しだけ優しい表情になった後
「――って、誰が兄貴だ! キモいんだよおっさん‼」
「ぶげらっ‼」
容赦なくカイドウの顔面を巨大な竜頭に変化した右腕で殴り飛ばした。
(((((やっぱり理不尽――――‼)))))
もう本当に滅茶苦茶だった。
長らくカイドウの酒癖の悪さと付き合ってきた部下たちだが、それでもこれまでの記録を全て抜き去るような暴挙に唖然とするほかない。
「うぅ……もう放っておいてくれよ! どっか行ってくれよぉぉぉおおお!」
(ま、まずい! 泣き上戸のカイドウさんが金棒を持ち出してきたぞ!)
殴り倒されたカイドウが立ち上がった時、その手には自慢の金棒が握られていた。
しかし、まだ酔いが醒めないキリアは真っ赤な顔で挑発を続ける。
「なんだ! 困ったらまた暴力か? 本当にどうしようもねェ奴だなお前は!」
「うお――――ん! もう黙ってくれよおおおおおお――――!」
「黙るのはテメェだ! いいからさっさと泣き止め餓鬼がッ!」
カイドウが金棒を振りかぶる。
キリアが竜頭の右腕を振りかぶる。
「雷鳴――――」
「竜王――」
尋常ならざる覇気が込められた金棒と拳に部下たちが急いで避難を始める中、容赦なく両者の一撃が炸裂した。
「――八卦!」
「――鉄槌!」
カイドウの金棒がキリアの顔面にのめりこむ。
キリアの竜頭拳もまたカイドウの顔面にのめりこむ。
威力の差は歴然。
キリアはカイドウの圧倒的な力によって吹き飛ばされた。
しかし――
「カイドウさんが……殴り倒された⁉」
カイドウもまた、キリアの一撃によって床に伏せていた。
騒然とする宴会会場。
皆が怒涛の展開についていけず固まっている中、どさくさに紛れて宴会会場から脱出していたドフラミンゴは吹き飛んでいったキリアを見ながら内心こう思っていた。
あの馬鹿、このまま死んでくれねェかな? と。
これは酷い(白目
すまんな、若。
そいつ生きてます。